ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
右手を握っていたマビノギオンの手を解き、魔石ダイヤを握りしめる。もし、もしも、あの時のような状況に陥れば、即座に『
「怯え過ぎじゃないかしら。私たちは、あの時よりも強くなっているのよ? それに──」
クスクスと笑ってグラムが言う。台詞の最後を聞く前に、通路の奥にぼんやりとした光が見えた。
「···どうやら、冥獣じゃなかったみたいだね。」
「そうですね···でも、あんな娘、居たかしら?」
通路の奥には赤い魔力を垂れ流す、暴走した魔剣少女が佇んでいた。だがマビノギオンの言葉通り、その風貌に見覚えはない。新しい魔剣なのだろうか。
「ねぇ君、名前は?」
「···?」
彼女がこてん、と、首を傾げる。僕の言葉は届いているが、理解が出来ないのだろうか。
「それにしても、僕の知らない魔剣か···。」
油断せず、何時でもグラムを顕現してマビノギオンとイノケンティウスの三人で攻撃できるように構えながら思考を巡らせる。
「新しく造られた魔剣なのかな?」
「誰がそんな事をする? ···いや、誰が、そんな事を可能とする? ブキダスでも持っていると言うのか?」
イノケンティウスの言う通りだ。魔界ならばさておき、ここはオラリオだ。魔剣少女を造るなんて、そんな超技術はないだろう。
「···。」
絢爛豪華、と言い表すのが相応しいドレスを纏った暴走魔剣は、その赤い魔力を纏った両手をゆっくりと持ち上げ、此方を指した。そこには、二挺の拳銃が握られている。
「!?」
「避けろ、マスター!!」
「ばーん。」
発射音を口で言う意味は分からないが、起こった現象は洒落になっていなかった。
ぐい、と、イノケンティウスに腕を引かれ、5メートル近くを移動する。僕が今さっきまで立っていた場所には、巨大なクレーターが出来上がっていた。
「?」
彼女は僕がまだ生きている事を不思議がるかのように首を傾げ、銃の照準を合わせ直す。
「完全に魔剣じゃないか!」
「誰も『魔剣じゃない』なんて言ってないだろう!」
仰る通りで。
に、しても。
「正規の魔剣っぽいから、殺さないようにしよう。いいね? 皆。」
「確約はしかねるが、まぁ善処はしてやろう。」
「マスターの、御心のままに。」
「私に並ぶ魔剣なら、本気で行っても死なないでしょうに。」
三者三様の返事を受けて、イノケンティウスを振るうに最適化されたスピード型の速度で以て、マビノギオンの強化を受けた、グラムを使うに相応しい火力特化に最適化された体で以て攻撃する。そこに内包された魔力は、マビノギオンを操るに足る膨大さ。
『
「はぁっ!!」
一撃入れて即座に離脱。グラム単体では成し得なかった動きが可能になっている。···さらに。
「え···?」
暴走した魔剣が困惑の声を上げる。恐らく、今の彼女の脳内には「何故、自分の魔力変換効率が低下しているのか」とか、「何故、思った通りの速度で動けないのか」という疑問が吹き荒れているのだろう。まさか、グラムの攻撃にマビノギオンの魔術が内包されているとは思わないだろうから。
「うぉぉ···流石に魔力を喰うなぁ···。」
とは言え、単純に三人同時に使う以上の魔力消費はある。乱用はできないし、そもそも、使い勝手が良いわけでもない。意表は突けるが、特化させ切ったソウルに勝てる適性が出る訳じゃない。あくまで、パワー型にスピードを与え、代償としてパワーを下げる、平均化としての手段に過ぎない。
「私の魔術も弱体化されていますし···やっぱり、そう上手くは行きませんね。」
「致し方ないことだ。気にするな。」
「とりあえず、そこの新参者をなんとかするべきよ。」
三者三様の慰め。いや、別に、落ち込んでいる訳じゃない。···本当だ。
「やっぱり、順当に行こうか。マビノギオン?」
「はーい。分かりました。」
まずマビノギオンが離脱し、本人が僕へ強化を掛ける。
「次はイノケンティウスだね。」
「任せておけ。」
次いでイノケンティウスが離脱し、僕へ余剰魔力を回す。
「よーし、行くよ。グラム?」
「魔剣の何足るかを、教えてあげるわ···。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト
回避もガードもできない状態で、グラムのブレイズドライブを受けたのだ。その結果何が残るかなんて、分かりきっている。
だが、魔剣というモノは大半が魔力で構成されているし、魔核の完全破壊なんて、それこそ全盛期の魔王でもなければ無理だろう。つまり、暴走していた魔剣の意識は吹き飛び、魔力も吹き散らされているが、魔核は無事だと言うことだ。
ここに、新たな魔剣が、僕の元へ加わった。
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