ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 ティターニアも我慢。ウサ耳ジャガノを待つんだ···(引けるとは言ってない)


第二十六話 予兆

 ベルの二つ名が決まって数日。防具の新調と言って買い物に行ってしまったベルを置いて、僕はダンジョンへ潜っていた。10層付近で新種のモンスターが出現した、という情報がもたらされたからだ。曰く、そのモンスターには一切の攻撃が通じない。迷宮のどんなモンスターより奇怪な姿をしている。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。と。

 

 「十中八九、冥獣だろうね。」

 

 情報が出た──つまり、その姿を見て生き残った者がいる時点で、そこまで強くない個体だろうと推察できる。本来の冥獣とは、文明ごと生命を破壊し尽くすモノのハズだからだ。魔剣を持たない一般人では交戦など不可能。

 

 ──いや、待てよ? では何故、武器が通じないと分かったのか。一戦交えたのは確実か? くそ、もっとちゃんとした情報を貰っておくべきだった。慢心しない、などと言ったくせに。

 

 ──後悔は文字通り「後」にしよう。今は情報を整理すべきだ。心を挫き勇気を損なわせる力──勇気分解、と、魔剣機関は呼んでいた──を持った咆哮を上げる冥獣と戦うのなら、当人の意思に関わらず身体を動かす為の、魔剣の顕現と最適化は必須。故に、オラリオの冒険者では対処不能。魔剣使いでも居れば別だろうが···そんなことはありえないと断言できる。

 

 ──一撃かそこら、攻撃を加えた冒険者は冥獣の咆哮を受けて逃走した···そう考えるのが妥当だろうか。いや、冥獣どもは外観に似合わず素早い。逃走なんてできるのか? ···パーティーの仲間を犠牲にしたのか? 囮···生け贄か。合理的だし納得もできる逃走方法だ。

 

 ──と、なると、その冥獣は広範囲攻撃の手段を持っていない?

 

 ──これは楽観的すぎるな。そして、最も気になる一文。()()()()()()()()()()()咆哮。これは高位の──複数の魔剣による同時攻撃を必須とするレベルの──冥獣に特有のものだ。だが、それだと冒険者が生還した理由に矛盾が生じる。奴らは囮に夢中になるような低能ではない。むしろそこらの人間より狡猾で、残忍な奴らだった。

 

 「おっと。」

 

 思考に没頭していたら、いつの間にか問題の十階層へ到着していた。

 

 「···仕方ない。冥獣を探して答え合わせといこう。」

 

 十五分ほど歩いただろうか。人一人が通れるくらいの小さな壁の亀裂を見つけた。──この奥だ。

 

 冥獣は何度も言うように、「文明の破壊者」である。故に彼女たちは、全方位へ膨大な殺気を向けている。この世において文明を根底に置かぬモノが無いように。彼女たちの破壊の対象にもまた、区別はない。

 

 「でも迷宮は壊れないのか。···なんで?」

 

 亀裂に身体をねじ込みながら独白する。全ての知識の載った魔導書である『マビノギオン』や、原初の魔剣の一振りであり、天地開闢の実行者である『カラドボルグ=エア』に聞けば──後者は忘れている可能性もあるが──分かるだろうが、この方法は実際のところ有用ではない。マビノギオンやセラエノ断章には、確かにあらゆる知識が乗っている。が、分かりやすいかどうかは別だ。最適化された僕であれば読むことはできるだろうが、理解できるかと言えば疑問が──いや、見栄を張るのは止めよう。正直言って全く分からない。

 

 「···よいしょっと。」

 

 最終的にかなり狭くなっていた亀裂を通り抜け、開けた空間に出る。半径20メートルほどのドーム状の空間で、僕の通ってきた亀裂の丁度反対側の壁に、情報源の冒険者が通ったと思しき大きめの穴──通路がある。()()()()()()だが。

 

 巨大な、なんだかよく分からない生物の頭蓋骨から、不釣り合いなほどに華奢な女性の身体を生やした異形──カタナ型冥獣。名前通り、片腕からは湾曲した刀身を生やしている。

 

 「···うーん?」

 

 正直言って、そこまでの脅威ではない。RPGで言えばストーリー一章の中ボスくらいだ。魔剣使いからすれば、だが。

 

 範囲攻撃もない。そこまで高位でもない。僕の推理が悉く外された。恥ずかしい。

 

 「『答え合わせといこう』···ふっ。」

 

 僕の声まねを投げてきたのは、決闘の魔剣──槍だが──『グラーシーザ』。

 

 「名推理だったよ、マスター。ふふっ···。」

 「いつまで笑ってるんですかそろそろやめてくださいおねがいします···。」

 

 精神が死ぬ。

 

 腹いせも兼ねて、この冥獣には一瞬で退場願おう。

 

 「おいで、ミストルティン。···あとグラーシーザも。」

 「ちょっと、止めてと何度も言っているでしょう?」

 「まぁ、いいじゃない。私は結構気に入ってるんだから。貴女との共闘。」

 

 「え? 剣でしょ?」というヴィジュアルの騎槍『グラーシーザ』と、「ホントに剣として作る気があったの?」というヴィジュアルの騎槍『ミストルティン』。関係性は──ミストルティンがグラーシーザを過剰に意識している、といった感じか。グラーシーザはそれを楽しんでいる感じだが。

 

 「さて···行くよ?」

 

 右手には炎属性の決戦兵器『グラーシーザ』。

 

 左手には風属性の運命を司る武器『ミストルティン』。

 

 「準備は良いかしら?」

 「行くわよ、マイマスター。」

 

 「十全だよ。」

 

 槍を扱う上で重要なのは、器用さやスピードだ。従って、僕の身体はそれらに偏って最適化されている。一撃食らえばそれなりのダメージを被るだろう。相手がもう少し強大ならば、の話だが。

 

 「まず一撃ッ!!」

 

 リーチの長いミストルティンで高速の刺突を繰り出し──違和感に気づく。

 

 ()()()()()()?

 

 確かに、今の一撃の速度は凄まじい。並の魔物なら視界に映ったことにも気付かないだろう。だが、こいつは冥獣だ。そんじょそこらのモンスターとは一線を隔する化け物。見えない訳もない。槍を二人という手数重視の戦闘スタイルであるが故に、一撃触れた程度では確かに即死はしない。が、熟度75、レベル215の魔剣の一撃だ。生命力の大半は奪える威力を持っている。

 

 ──避けない?

 

 ──違う、こいつは···!!

 

 ぐさり。と、面白いくらいあっさりとミストルティンの切っ先が突き立った。

 

 冥獣は、既に息絶えていた。ならば、あの殺気を放ったのは何か。この冥獣を屠ったのは何か。このドームには冥獣の死骸と僕。そして出口は2つだが、片方僕が来たから、必然的にもう片方から出た事になる。

 

 あの特徴的な殺気は間違いなく冥獣のものだった。だが、この空間にあったのは死骸のみ。誰か、或いは何かが、冥獣を屠ったことになる。出口の高さは2~3メートル。冥獣を屠れる人間がいるとは思えないから···

 

 「超小型冥獣とかかな?」

 

 ここに至るまで戦闘音はなかった。つまり、あの冥獣は鎧袖一触に屠られたことになる。強力な冥獣でもなければ無理だ。

 

 「マスター。これを見てくれない?」

 

 魔剣少女の状態で顕現していたグラーシーザが、出口の前で僕を呼んでいた。

 

 「なに? どうしたの? ···ぉぉぅ。」

 

 あったのは足跡。僅かながら、赤く漂う強烈な魔力を持っていた。

 

 「なんだよ、それ···。」

 

 そんな特徴的な魔力は、僕は一つしか知らない。

 

 ──暴走した、魔剣少女のものだ。

 

 




 なお主のところのミストルティンは熟度15ぐらい。レベルは1。グラシは熟度3でレベルは1。だ、だって使ってないし···。

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