ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 ブキダスさんではない。


第二十五話 魔剣製造者(ブラック·スミス)

 「マスター、見てないで助けて···って、見てすらいない!?」

 

 両腕をシルさんとリリに引っ張られているベルの悲鳴を遠くに聞きながら、リューさんに注いで貰った水をくいっと傾ける。三人掛けのテーブルは僕とリューさん、それにアイズさんが、始業前だというのに占領していた。

 

 「アイズさん、冥獣の情報はありましたか?」

 「そっちは、大丈夫。」

 

 そっちは、ということは、()()()()は掛かったのか?

 

 「オラリオには、()()()()()()()()()が居るらしい。噂だけど。」

 「魔剣を打てる、ですか···。」

 

 魔剣を作る、と聞いてまず浮かぶのは、埴輪のような顔のついた超技術の結晶(オーパーツ)···ブキダスさん。魔石ダイヤから魔剣を造り出すトンデモ不思議装置。レアではあるものの、そこまで入手難度の高くない魔石ダイヤからどうすれば魔剣が出来上がるのか分からないが、「さん」を付けずに呼べるモノじゃない。

 

 「どこに行ったら会えますかね?」

 「ごめん、そこまでは分からない。」

 

 まぁ仕方ない。そんな凄まじい鍛治師が居るとして、「俺は魔剣が造れるぞー!!」と吹聴していたら正気を疑う。

 

 「じゃあとりあえず、ヘファイストス·ファミリアとかギルドとかに行って、情報を集めてみます。」

 

 お邪魔しました、と言って店を出ていく。アイズさんが何か言った気がしたが、リューさんが対応していたようなので、僕に言ったのではないのだろう。

 

 

 

      ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 「あ、神会だから、ヘファイストスファミリアの武器屋は休み···行っちゃった。」

 「ギルドも、そう言った情報は教えてくれませんよ···行ってしまいましたね。」

 

 数日後。こんな会話があった、と、僕はリディから聞いた。

 

      ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 「すいませーん。」

 

 こんこんこん、と、ノックしても、ヘファイストスファミリアのドアは開かなかった。鍵も掛かっているし···まずはギルドに行こうか。

 

 「あら先生、この程度の鍵、わたくしが開けて差し上げますわ!!」

 「え? セスタスって、ピッキングとか出来るの?」

 

 舌足らずな声が響き、魔力が吸われ、一瞬の後に、水色と白のグラデーションの髪をツインテールで結んだ幼女が表れた。華美なドレスや可愛らしい顔に似合わず、両手には銀色の無骨なガントレットを着けている。

 

 「じゃあ、まぁ、よろしく?」

 

 別にそこまで急がないのだけれど···そもそもセスタスがピッキング技術を持っている事が驚きだったので見せてもらうことにした。それもレディのたしなみなのだろうか。

 

 「えい。」

 

 可愛らしい声を上げ、()()()()()()()()()

 

 「···ぇ?」

 

 ピッキングというより、ドアブリーチ?

 

 「えい。えい。えい。えい。」

 

 殴った。殴った。殴った。殴った。

 

 開いた。

 

 「どうです? 見事に開いたでしょう?」

 「···え? あ、うん。そうだね?」

 

 ありがとう?

 

 「ふふん。」

 

 セスタスは満足げに実体化を解いて消えていった。えーっと···まぁ、いいか。

 

 「お邪魔しまーす。」

 

 武器や鎧の並んだ棚の間やカウンターには誰もおらず閑散としているが、工房の方からはハンマーの音が聞こえていた。

 

 「すいませーん。開けますよー?」

 

 手近なドアを開け、熱気漂う工房へ入っていく。中にいた赤髪の男性の、「誰だお前」という視線が痛い。

 

 「あ、えっと、神ヘファイストスと契約している者なんですが、彼女はどこに?」

 「ヘファイストス様なら、神会に行ってますけど?」

 

 あー。そっか。そうだよね。うん。忘却の彼方だった。

 

 「そ、そうですよね···忘れてました。」

 「武器のメンテナンスって訳じゃなさそうですけど、何の用事ですか?」

 「あぁ、いえ。ちょっと聞きたい事があって。···そういえば、貴方は、『魔剣が造れる鍛治師』って、知りませんか?」

 

 ん? 今この人、顔が強ばったな。···というか、ヘファイストスファミリアの鍛治師は髪が赤くなる呪いでもあるの? それともそういう風習なの?

 

 「···その鍛治師について知って、どうするつもりだ?」

 「え? うーん···。」

 

 特に理由は無かったが、強いて言えば、新しい魔剣が造れるのか試したかったし、魔剣の強化も頼みたかった。

 

 魔剣たちの強さ──製造時点からの成長度合いを「レベル」と呼ぶのだが、リディの連れていたペット(?)の、「もち」──業界の人は「ちーもー」って呼ぶらしいが──を使った強化では、レベルにして215レベルまでしか強化出来なかった。が、もしも、ブキダスさんのごとき超級の鍛治師がいるのならば、その上を見てみたかった。

 

 さっき、この思惑を魔剣たちに語った時に「既に完成されたこの私を、さらに強化するというの? ···貴方、世界でも滅ぼすつもり?」と、グラムに心底愉快そうに言われたけれど。

 

 「···って言うか、こっちの魔剣はゲテモノ以下のゴミ同然の代物だったっけ。」

 

 しまったなぁ···今週のしまった。『魔剣』が造れる、なんて言っても、どうせオラリオで言う『魔剣』であって、僕の持っているような真性の『魔剣』には遠く及ばないモノしか造れないだろう。

 

 「···おい、お前。」

 「はい?」

 

 なんか怒ってる?

 

 「一週間後、もう一回来い。」

 「は、はぁ? 分かりました。」

 

 え、なに? なんで怒ってるの? ···あ、そうか。こっちでも「魔剣」は武器の極致なのかな? なるほど。僕がそれを侮辱するような事を言ったから怒ったのか。

 

 

      ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 つい了承してから数十分。僕は足取り重くホームへ戻ってきていた。

 

 「ブキダスさんが居るわけないよなぁ···はぁ···。ただいま···。」

 「おかえり、マスター君! ベル君の二つ名が決まったよ!!」

 

 魔王?

 

 「いや、もう離れようよ···。ベル君の二つ名は、『未完の少年(リトル·ルーキー)』だよ!!」

 「···なんというか、普通ですね。」

 「それで良いんじゃないか! シンプルイズベストって奴だよ!」

 

 魔王の方がカッコいいんじゃないかな···いや、待て。僕がランクアップしたときに『魔王』の称号を取れば良いじゃないか。よし。そうしよう。

 

 





 感想ありがてぇです···低評価と減っていく総合評価に心折れてエタる所を救われたよ···

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