ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
って感じのローテンションで書いたから設定と齟齬があったり誤字脱字があるかも。
あとサブタイトル。思いつかなかった。
背骨を治して数日、神様が
「二つ名、ねぇ? "ルーキー"とか、"天衣無縫の使い手"とか、色々あったよね。」
「あれは、『称号』だったはずよ。魔剣機関が勝手に決めたモノだけど、それなりのセンスはあったわね。」
ほう。グラムをして「センスがある」と言わしめる称号か···何があったっけ? "経験してるしっ!!"とかかな。
「張り倒すわよ?」
ごめんなさい。せめてこのパンだけ食べさせてください。
「じゃあ、行ってくる。ちゃーんとカッコいい名前を付けて貰ってくるからねっ!!」
「あ、はい! よろしくお願いします、神様。」
「"魔王"とかオススメですよ、神様。」
「ベル君に魔王は合わないなぁ···。」
「僕もそれはちょっと···」
そうかなぁ···良いと思うんだけど。魔王。
「あとどんな称号があったっけ···"不撓不屈の使い手"とか?」
「"魔王"とかね。」
やっぱり良いよね? 魔王。グラムもそう思うよね?
「いいえ、露程も思わないわ。」
ぐさっ。今のは大ダメージだよグラムさん···お、オルタ···慰めて···。
「あ、あの···私も、お姉ちゃんに賛成です···。」
「真似るのは辞めて頂戴、と、言いたいところだけれど。これに関しては許してあげるわ。」
ぐはっ。僕のライフはもうゼロだよ···。
一人で悶えていると、ベルに物凄い目で見られた。もうね、冷たいとかいう次元じゃない。純粋に心配されてるのがホントに辛い。ベルには教えていいかな···ロキファミリアが知ってて仲間が知らないっていうのも変だし。
「ベル。今、「誰と話してるんだろう」と思ったでしょ?」
「え? いや、今は···」
「教えてあげるよ。僕のスキルのことも含めてね。」
僕は、魔剣について語って聞かせた。勿論、その具体的な威力や本数、消費する魔力量については隠したままだが。ちなみに後から聞いた話だが、このときベルは「リリはまだ寝てるのかな。そろそろ起こした方が良いよね···。」と考えていたらしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃ、じゃあやっぱりあの時の女の子って···!!」
どの時だろう···ベルの前で魔剣を出したのは···ミノタウロスから助けた時か。なら雪月花だね。
「マスターの体を舐め回してた女の子は、幻覚じゃなかったんだね!!」
「ぶっ」
飲んでたスープが鼻から出た。なに? 僕を舐め回した? 誰が? ···いや、いや、待て。そうだ。トマト化したときだ。酒場に入るのに不都合だから、アルカードにペロペロして貰ったんだった···!!
「べ、ベル···見てたの···?」
「遠目だったから、マスターだって確信は持てなかったんだけど···。」
そっかー、マスターだったんだー。と、納得した様子のベル。
「ま、まぁ、うん。そうだね。」
「ねぇ、その魔剣って、僕にも使えるの?」
「無理だよ(殺すぞ)」
逆···には、なってないな。大丈夫だ。でも声が冷たくなりすぎたし殺気も漏れた。いかんいかん。だから落ち着いてよ、みんな。
「···!?」
僕の周囲に多数の魔剣が──長剣、大剣、太刀、騎槍、杖棒、魔典から魔鎌に至るまで様々な魔剣達が顕現し、その切っ先を、照準を、ぴったりとベルへ合わせていた。オラリオ最強の戦士オッタルでさえ絶望する布陣。なのだが···
「うわぁぁ!? ごめん、ごめんってば、マスター!!」
狼狽える程度で済むベルは、もしかすると大物かもしれない。いや、まぁ、迷宮に出会いを求めて潜るような人間なのだし、大物だろう。
「驚かせてゴメン。でも、魔剣を貸すことは出来ないよ。」
「うん。分かった。」
ロキファミリアでも似たような事を言われたが──あの時はよく耐えられたと自分でも思う。ミョルニル辺りが全力で潰しにかかるかと思ったけど。
「私は貴方と違って、感情では動かない冷静な女なのよ!」
あー···うん。そうだね。(投げやり)
「で、ベル。今日はどうする?」
「今日は、ダンジョンには潜るなって神様が言ってたから···酒場にでも行こうかな?」
「そっか。じゃあ、僕も行こうかな。リディの働きぶりを見に行こう。」
とりあえず、鼻から出たスープの後片付けをしてから、ね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ、すみませーん。まだ営業時間じゃ···ベルさん!!」
お久しぶりです、などと返す辺り、ベルと懇意にしている店員なのかな···いや、そうだ。怪物祭のときにデートしてた人じゃないか!! スゴいな、ベル。まさかオラリオに来て一月そこらで···
「おや、マスターさん。お久しぶりです。先程シルも言っていましたが、まだ営業時間ではありませんよ?」
「あ、リューさん。お久しぶりです。」
おんなじセリフを返したようだが、僕とリューさんは付き合ってる訳ではない。一週間働いている間、彼女が僕にも仕事を教えてくれたのだ。···料理だけは、何故か別の人だったけれど。
「ただ様子を見に来ただけですよ。リディは?」
「リディちゃんなら、さっきミア母さんと買い出しに行きました。まぁ、中へどうぞ。」
営業時間外だと言いながら、机に乗っていた椅子を下ろして水を出してくれる辺り、この人は好い人だと思う。
リューさんに近況報告をしていると、我らがバイト戦士リディが帰ってきた。見たところ荷物の類いは持っていないが···置いてきたのだろうか。
「リディ。荷物はどうしたのですか?」
やっぱりリューさんも気になりますよね? まさか女将に全部持たせて···も、大丈夫なんじゃないか?
「荷物はねー、この人が運んでくれたのっ!!」
「ここに置けばいいの···?」
リディの背後から大量の袋を抱えたアイズさんが姿を見せた。小柄な体躯の半分近くが、パンや野菜の入った袋で覆われている。っていうか、アイズさん何やってるんですか···昨日も気づいたら居なくなってたし···。
「荷物運んでくれたら、ジャガ丸くんの限定バージョン、買ってくれるって言われたから。」
おい。リディ。オラリオトップクラスの冒険者を食べ物で釣るとかどんな神経してるんだ。っていうか荷物持ちぐらいなら僕がやるから、他所のファミリアに迷惑かけないの。
「はーい!! じゃあ、明日からお願いね? マスター!!」
しまった。釣られた。
お疲れ様でした。と言ってアイズさんにも水を渡すリューさんを眺めながら「なんかこの二人似てるな···」などと考えていると、不意に袖を引かれた。
「リディ? どうしたの?」
「マスター、マスター。リリさんはどうしたの?」
「···おおっと。」
完全に忘却の彼方へ飛び去っていた。ベルー!! ベルー!!
「何? マスター。どうしたの?」
おいおいシルさんとイチャついてる場合じゃないぞ···。リリのこと、忘れてないか?
「え? いや、ちゃんと朝ごはんは置いてきたし、「酒場に行く」っていう書き置きもしてきたよ?」
そういう問題じゃないだろ···。あぁ、もう遅い。入り口に立つあの小さな影は···
斯くして、第二次ベル争奪戦が始まった。
へいわなせかい