ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
「あれが『魔剣』ですよ。説明しましたよね?」
「もう一回、見せて。」
多少辟易しながら言うと、即答で以て返された。面倒臭いな···殺すか? カルマ値がプラスの──性格が善性寄りの──魔剣たちから否定の声が上がる。じゃあ記憶を消すか? 殺害に比べて確実性に劣るが···まぁ、次善策か。残る案としては、「素直に従う」だが···別に、魔剣を貸せ、と言われた訳でもないし、僕を──ひいては、魔剣たちを利用しようという意図も見えないし構わない気もする。
審議開始。
「美人だしいいんじゃないかな。」
「美脚は正義。」
「脚には勝てない。」
「どうせ団長が出張ってきて見せる羽目になる。」
「じゃあここで見せて口止めしたほうが良い。」
審議終了。決定、見せる。
「···けど、条件があります。」
「分かった。」
まだ何も言ってないんだけど? 「死ね」とかだったらどうするんだよ···。
「まず、誰にも話さないと誓って下さい。」
「分かった。誰にも言わない。」
良い返事だ。あと一つだけ。
「それと···」
「···分かった。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アイズさんがリリを、僕がベルを担いでダンジョンを出る。アイズさんは僕より長身だが、それでも女性であって、リリの担いでいたリュックがその上体から大きくはみ出ていた。冒険者が一斉に帰路につく夕暮れどきにも関わらず、ヘスティアファミリアのホームまで事故らなかったのは、《剣姫》としての悪名(?)から、道行く冒険者諸君がモーセよろしく道を開けるからだろう。
おかげさまで何事もなく、我らがボロホームの廃教会に着いた。
「ここです。」
「そっか。」
「そういえば、何で昼はこんな所に?」
質問には答えずに、アイズさんはさっさと廃墟···じゃなくて、廃教会に入ってしまった。
「君はッ!! ヴァレン某君!?」
「ただいまです、神様。ベルも無事ですよー。」
ヘスティアの剣幕に面食らった様子のアイズさんを放置して、取り敢えずベルをベッドへ寝かせる。
「さぁて、と。」
こういう時ってどうすりゃいいんだっけ? 心臓マッサージ? 人口呼吸? 除細動? 手頃な発電装置とかないし、タブーの電流流せばいいかな?
「おっと、そうだ。意識の確認だ。」
いや、魔界に救命手順なんてなかったけれど。
「ベルー? 大丈夫ー? 聞こえるー?」
ぺちぺちと頬を叩くと、「神様ぁ···むにゃ」という答えを得る。
ふむ。
「ベルー? すぐそこにアイズさん居るけどー?」
「アイズさんッ!?」
跳ね起きた。こっちが驚くレベルの反射で。
「ベル君はボクのものだー!!」と叫ぶ神様を興味深げに見つめたあと、アイズさんがこちらを向いた。そのせいでベルがフリーズし···なに? 何かあったの? いや、待て。そう言えば膝枕されてたな? 羨ましい。
「はいはい、今度してあげるから、今は真面目な話でしょう?」
「ホントに? じゃあ是非。」
魔剣少女·ザ·ベスト·オブ·お姉ちゃん·その1──ベストなのに複数じゃないか、とか言ってはいけない──のシュムハザに膝枕してもらう約束をちゃっかりと取り付け、思考をきっちりと切り替える。
「で、ベル。何があったのか聞かせてくれる?」
「う、うん。それが──」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ふむ。大体分かった。ベルの倒したミノタウロスもどうやら通常のモノとは違うようだが···取り敢えず、生きていて何よりだ。しかも、僕の戦っていた階層の二つ下、つまり、僕がアイズさんを転移させた場所で戦っていたそうな。それにアイズさんの支援を断って、単騎でミノタウロスを屠ってのけるとは。本当に驚かせてくれる。
「やったよ、ベル君!!」
思考に浸っていると、ステイタスを更新していた神様が大声を上げた。
「ランクアップできるようになった!!」
「ホントに? 凄いじゃないか!!」
いやいやいやいや、まだ一月とかじゃないか? ベルがダンジョンに潜ってから。化け物なんて言葉じゃ言い表せないレベル。シンプルに凄い。言語力が···語彙が···
「じゃあ、次はマスター君の番だねっ!!」
ランクアップじゃなくて、ステイタス更新の話ですよね? そうですよね?
「服を脱いで、背中を見せて。」
安心した。
で、問題のステイタスがこちら。
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力: 測定不能
耐久: 測定不能
器用: 測定不能
敏捷: 測定不能
魔力:A 869
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スキルは相変わらずで、魔法は相変わらず発現していない。
「マスター君!? これ、どういうことだい!?」
「いや、まぁ、そりゃあ。」
「私を使い続けるーなんて、バカな事をするからですよー?」
せやな。
「君は···?」
いきなり僕の隣に現れ、ベッドに腰かけているナース服の少女──ジャガーノートのことをじっと見つめる神様。
「ジャガーノート、活動限界まであとどのくらい?」
「戦闘さえしなければー、数日は保ちますよー? 果たしてそんなことが可能なんでしょうかねー?」
無理でしょうね···。
「この子は、『魔剣少女』の一人で、ジャガーノートって言います。軽く病んでますけど、いい子ですよ。」
軽く病んでる、の辺りで睨まれたが無視する。
「で、この子と君のステイタスと、どんな関係があるんだい?」
「いや、実はですね、僕って、『魔剣を使える』訳じゃないんですよ。」
「それは聞いた。」
あ、そうですか···。
「···今の僕の体は、ジャガーノート用に最適化されて、彼女に支配されているんですよ。魔剣を扱おうと思えば、それだけの肉体キャパシティが必要ってことです。」
「どうして、そんなことを?」
「···僕の生身は、脊髄骨折と内蔵破裂で瀕死なんですよ。どこかの誰かがモンスターに神性を付与した所為で、ね。」
「モンスターに、神性だって? いや、それよりも、君は大丈夫なのかい!?」
「えぇ。大丈···あっ。」
「な、何!? どうしたの?」
魔導書使えば治せるじゃん。
「え? 気づいてなかったんですか? ···救いようがありませんねー。」
めっちゃ本気トーンで言われた。いや、だって、ねぇ?(意味不明)
ベストオブお姉ちゃんその1、シュムハザ。その2はアークチャリオット。