ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
「猪口才な奴よ···。おい小僧、ブレイズドライブだ。」
「マスター。私も。」
「無茶言わないでよ···。」
冥獣ミノタウロスの壁を盾に、神性ミノタウロスの二匹はオーア·ドラグとアルギュロスの攻撃を防ぎ切っている。もう十分ほども、この拮抗は崩れない。いくら冥獣とはいえ、SSランクの魔剣二人の猛攻を凌ぎきれるものなのだろうか? 勿論、かつて世界を滅ぼした
「とはいえ、ブレイク状態にもならないってのはなぁ···?」
これだけ攻撃を加えてもガードブレイク──隙ができないとなると、本格的に何かしらの対策を練る必要がある。一生ここで粘る訳にはいかない。ベルを探しにいく必要もあるし、なにより何かの間違いでここにベルが来ようものなら、ほんの数秒で肉片と化す。
「はぁ···仕方ないか。グラム?」
「えぇ。いいわよ。」
殺意と怒りを漂わせる応えとともに、右手に馴染みの重さが加わる。願わくは、その殺意と怒りが僕に向いていないように。
「二人とも、
地面を蹴って加速し、黒い障壁へ剣を振り下ろす。柔らかく受け止め、絡み付いてくる影を切り払い、そこに金と銀の魔剣の贋作が雨のように突き立っていく。
「無傷か···ッ!!」
影が大きく膨れあがり、一部を腕のように成形して攻撃してくる。鞭のようにしなった一撃は、迷宮の壁を抉りながら殺到し、魔剣の贋作によって撃ち落とされた。
「凡百が、疾く潰えよ!!」
「させない···!!」
「ありがとう、アルギュロス!! オーア·ドラグも、いい対応だったよ!!」
意外と、この災厄の龍王二人と竜殺しの『魔剣』の相性は良いのかもしれない。
と、そんなことを考えていると。
「マスター···!?」
「は?」
アイズさんが、黄金と白銀の棺を背に、坂の上から驚愕に目を見開いて僕を見下ろしていた。
「今日はダンジョンに入らないでって言ったの、にッ!?」
また贋作が降り注ぎ、僕に向けて豪腕を振るおうとしていた、首に傷のあるミノタウロスが吹き飛ばされた。今のは本気で死ぬかと思った。腕はさておき、目前数センチを白銀の魔剣が通過したからね。
なんて。ビビった理由について語っている場合じゃなかった。
「オァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!」
胸に宝玉を生やしたミノタウロスが、金と銀の魔剣の猛攻を受けながらもアイズさんへ突進していく。アイズさんもすぐさま剣を抜いて迎撃の姿勢を取るが──そんなナマクラでは、神性を突破できない。打ち合った瞬間に吹き飛ばされてチェックメイトだ。
「仕方ないか。シャドウゲイト?」
「この状態で? まぁ構わないけど。」
僕だってSS魔剣二人を顕現させながらシャドウゲイトの転移なんてしたくない。既に魔力は半分ほど。神性二匹と冥獣を攻略するのには心許ない。
と、ぼやいていてアイズさんに死なれても困るので、さっさとアイズさんの前に転移し、ミノタウロスの前に立ちふさがる。アイズさんは邪魔なので、シャドウゲイトが2つほど下の層に送った。···正直言ってかなり魔力を喰われた。「ここでアイズさんを殺しておいた方が楽だったんじゃないか?」と考える程度には。
「ォァァァ···」
「獲物が消えて不満···って感じかな?」
こちらを睨んでいる一匹の背後、首に傷のある方も上ってくる。あの障壁を突破しない事にはどうしようもない···が、そこに至るまでの道筋は出来上がっていた。さっきのグラムの一撃を受け止めたとき、あの影は、僕の魔力をそのまま喰らっていた。攻撃力や衝撃が、インパクトの一瞬だけゼロになるという訳だ。
「つまり、僕の魔力があの影と同化している訳か。」
アルギュロスたちの攻撃も、悉くが吸収されていく。僕の魔力と大気中のエーテルが黄金と白銀の棺の中で混ぜ合わされた
ところで、僕の魔力は凄まじく変換効率がいい。魔剣を成形するのにも、ブレイズドライブを撃つのにも適した、
つまり。
「アルギュロス、戻って!!」
「オァァァァアアアアアアア!!!!!」
ミノタウロスが咆哮を上げて豪腕を鳴らし、豪快な右フックを繰り出すと同時、左手に纏った
影がぎんいろから魔力を吸った瞬間、体内の魔力を影の中にある僕の魔力ごと燃やして発動する。
BLAZEDRIVE:
影が爆発した。いや、意味の分からない表現ではあるが、そう表現するしかない現象が起こった。牛畜生どもの纏う防壁は消え失せ、脆い本体を晒している。···が、そもそもギリギリの状態でブレイズドライブなんぞ、自殺行為に他ならない。
がくり、と、意思に反して膝が折れる。ヤバい。さっきの爆発でミノタウロスどもは吹き飛んだが、別に死んだ訳ではない。現に今、宝玉の方が立ち上がり、殺気を噴出させながらこちらへ歩いてきている。駄目だ。意識が遠のいていく。魔剣たちはとうに実態を保てなくなっている。最適化も解け、ただの脆い一般人···いや、ボロボロの一般人と成り果てていた。
さっき、僕は攻撃を受けて吹き飛んだ瞬間にグラムの顕現を解き、僕自身が傷を負った。直後、魔剣を顕現させて体を最適化し、魔剣たちが支配することで負傷を一時的に治癒させていた。そこで魔剣の顕現を解くとどうなるか。当然、支配される前の体──背骨の逝った死に体に戻る。
「げぼっ···」
魔力の残量は限りなくゼロに近い。誰かを顕現させても、戦うことは不可能だ。
だが。
「ジャガー···ノート···。」
「本当に救えないひとですねー。あの金髪の半人を救わなかったら、こんなことにはならなかったんですよー? 分かってるんですかー?」
いつもの棒読みに僅かながら熱が籠っている。どうやらお怒りらしい···が、そんな状態でも僕の意思は汲んでくれた。
片腕だけが支配下に置かれ、ポケットへ手を伸ばす。そこに入っているのは「魔石ダイヤ」と呼ばれる、膨大な魔力を秘めた、虹色に輝く石だ。なんと、
「魔界の魔石はオラリオでは手に入らないから···なるべく使いたくなかったんだけど。」
ゆっくりと立ち上がり、右手のジャガーノートでミノタウロスを指す。呼応するかのように、牛畜生も腰を落として突進の姿勢を見せた。
「来いよ牛畜生···僕が救いを与えてやる。」
「ォォォォォオオオオオオ!!!!」
胸の宝玉を輝かせ、凄まじい速さで突っ込んでくる。どうもあの宝玉、敏捷のステイタスを底上げする力があるらしい──まぁ、関係ないが。
「僕の魔力量の上限は分からないけど···ここオラリオで一睡した程度じゃあ、全快しないんだ。勿論、魔剣を顕現させるのに足る分は回収できるけどね。で、僕は今魔石ダイヤを使って
──魔核の駆動開始。
──魔剣少女をアンロック。
──魔剣のロック、解除。AランクからSSランク。
──絆による性能の上昇率、100%。
──極状態及び極弍状態、解放。
──全プロセスの正常履行を確認。
──発動。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
跡形も残さずミノタウロスどもを鏖殺し、全快から半分ほどにまで減った体内の魔力を思ってため息を──吐いてる場合ではなかった。ベルを探しにいかなくては。
「って言うかさぁ···あそこまでやる必要あったの?」
「折角魔力が全快したんですよー? やらなきゃ損じゃないですかー。」
などと話しつつ、二階層分降りたところで、アイズさんに膝枕されたベルを発見した。おのれ羨ましい···美脚は共有財産だろうが!!
「はぁ···。」
ジャガーノートに本気のため息を吐かれたんだけど、これってどういうこと?
「あ、マスター。」
そっとベルを置き、早足でアイズさんが向かってくる。先程までは、こいつのせいで貴重な魔石ダイヤを使う羽目になったんだし、殺そう。という意見が何人かの魔剣から飛び出していたが、久々に《愚かな卑怯者の鍵》を解放したことで、今は上機嫌になっていた。
「さっきのあれ、何?」
「うっ。」
ですよねー。やっぱりそれ聞いちゃいますよねー。気になるよねー。
ワールドイズマインの効果? 秘密だよ。
ミノたんは何度でも復活する。だから退場が雑とか言ってはいけない。
誤字訂正終了?