ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第二十一話 再会

 「ランクアップ?」

 「そう。マスター君は、まだかもしれないけどね。」

 

 朝···いや、太陽の位置的には最早昼なのだが、僕が今さっき起きたから、今は「朝」だ。僕の中では。···で、今、僕は神ヘスティアに「ランクアップ」についての説明を受けている。モンスターを倒して経験値(エクセリア)を集め、偉業を成し遂げることをトリガーに、冒険者としての格を昇華させるプロセス。

 

 「僕は···って。ベルはそろそろなんですか?」

 

 そういえばベルの姿が見えない。酒場にでも行ったのだろうか。

 

 「ベル君は···なんというか、特別なんだよ。」

 「はぁ···と、言うか。僕に「経験値」って入るんですか?」

 

 魔剣を使った状態でいくらモンスターを屠ろうとステイタスが上昇しなかったように、経験値も反映されないのではなかろうか。と、言うか、されない気がする。

 

 「···。」

 

 それは神ヘスティアも同意見らしかった。

 

 「ところで神ヘスティア。」

 「ねぇマスター君。そろそろ、その呼び方辞めない? なんか他人行儀じゃないか。」

 「はぁ···じゃあ、神様?」

 「そうそう! そんな感じ!」

 

 よくわからない判断基準だが、満足げに頷いているので放っておこう。

 

 「それで神···様、ベルは?」

 「むっ。···ベル君なら、とっくにダンジョンに行っちゃったよ。リリも一緒にね!!」

 

 神ヘスティア、と呼びそうになった事を見咎められたと思ったら、なんかより一層怒り出した。と、言うか。ダンジョンだって? あの超強化ミノタウロスsの居る? 神性だけでも十分ヤバい相手だというのに、冥獣···っぽい何かまでいるんだぞ? 頭が悪いとしか言いようが···待て。そう言えば僕、ベルに神性やら冥獣やらの事を何一つ教えてないじゃないか。

 

 「と、取り敢えず行ってきます!!」

 「気をつけてね~。」

 

 神様も神様でアルバイトらしく、いそいそと準備をしながら返事をする。気の抜ける声だが、気を抜いてはいられない。

 

 「最悪だ···。」

 

 最近、ダンジョンまでの道を走ってばかりいる気がする。ゆっくり見るほどの物もないし、敏捷のステイタスも上がるから別に害はないのだが。

 

 ホームを出て少しすると、見知った金髪が目に入った。

 

 「あ···マスター。どこいくの?」

 「アイズさん良いところに。なんでこんなオラリオのはしっこに居るのか知りませんが丁度良かった。···。」

 

 ···何? 何が、どう良かったと言うのか。ダンジョンにヤバい奴がいるのでベルを助けに行きましょう。とでも言うつもりか? 神性のある武器も、SSランクの攻撃力が出る武器もない相手に、神性持ちのいる場所へ行け、と? それはただの死刑宣告だ。

 

 「···今日はダンジョンには入らないで下さい。良いですね?」

 

 なんとか理にかなった台詞を吐いて、返事は聞かずに走り出す。背後で何か言っているのが聞こえたが、重要な事なら追ってくるだろうし聞き返さずに走破する。

 

 「退化したかな···。」

 

 主に思考力とかが。あの勢いのまま口を開き続けていれば、飛び出た台詞は「ベルが危ない。一緒に来てください。」だった。

 

 ダンジョンの階層を繋ぐ坂道を転がるように駆け降り、道中の有象無象のモンスターを雪月花で切り捨てていく。あのミノタウロス擬きたちは、何故か前回は僕らを見逃した。それに、その殺意は全て僕に向いていた。だからと言って、今回もベルが見逃されるとは限らない。

 

 「···。」

 

 覚えのある気配が坂道を上ってくる。6階層と7階層を隔てる坂道をゆっくりと後退して登り、それに合わせるかのように三つの異質な殺意が昇ってくる。

 

 「!?」

 

 見覚えのある異形どもが、6階層へ続く坂へ姿を見せた。近い順に、首に傷のある奴、宝石の埋まった奴、影、と、行進のように並んで歩いている姿は滑稽にすら映る。その本質を知らなければ、だが。

 

 神性を持っているだけで、通常の攻撃は悉くが無効化される。その気になれば、都市一つ滅ぼすことも容易いだろう。冥獣に至っては、最早言うまでもない。魔剣以外は一切通さない馬鹿げた防御力と、魔剣の一撃にも匹敵する攻撃力。文明の破壊者、崩壊の権化だ

 

 「ォォォォォォォォォ····」

 

 唸り声を上げて、先頭のミノタウロスが威嚇してくる。一列に並ぶしかないこの坂道で屠らなければ──取り囲んで攻撃できる、6階層のフロアにまで登ってこられるのは些か不味い。流石に、最適化された体が防御面でも人外の域にあるとはいえ、神性二匹と冥獣の同時攻撃はきつい。広範囲殲滅攻撃は、迷宮そのものを壊す危険もある。

 

 「ォォォオオオオオオオ!!!」

 

 ミノタウロスが咆哮し、一直線に突進してくる。いやまぁ、それ以外の攻撃手段はないが。

 

 「一匹目ぇ!!」

 

 大上段からグラムを切り下ろし、脳天から真っ二つに切り捨て──()()()()!?

 

 グラムの刃は、鈍く光るミノタウロスの角と()っていた。激突の瞬間に首を傾け、グラムの刃と合わせたのか。バカな!? と叫ぶ間もなく、圧倒的な筋力で押し切られ、迷宮の壁まで吹き飛ばされる。

 

 「···げぼっ」

 

 僕は、咄嗟に()()()()()()()()()()

 

 「何をしているの!? マスター!!」

 

 支配も解け、受け身を取るどころか身体強化も大幅に削られた状態で壁に激突し、背骨が逝ったらしい。首から上しか動かせないし、体の感覚の一切がない。肺は機能しているようだが、空気を吐くごとに血も吐き出される。

 

 「なんで···どうして···!?」

 「いや···この間、グラムがズタボロになったのを見て···ね。」

 

 思い出した。魔核が崩壊し、一切の思い出を無くした魔剣の、僕に向ける冷めた目を。

 

 「この···!!」

 

 馬鹿。とでも言うつもりだろうか。そんな悲痛な声を上げられても応えられないし···何より、()()()()()()()()()()。それは彼女とて理解しているだろう。目前で脚を振り上げ、踏み潰して殺そうと牛顔に笑みを浮かべる雑魚は、理解していないようだが。

 

 「お説教は後で聞くよ。グラム。」

 

 踏み下ろされた、超重量級の脚を左手一本で受け止め、押し返す。バランスを崩したミノタウロスが、お仲間を巻き込んで坂道を雪崩落ちていく。僕の左手は、既に人の身ならざる銀色に変色し、変質し、変容していた。冥獣と同格の『災厄』として伝わる龍の骸から作られた、「腕」。

 

 ──銘は、『ぎんいろ』。

 

 「マスター? ()()()()()()()()?」

 「···いや、駄目だね。()()()にしよう。」

 

 ぎんいろの中には、もう一人のぎんいろが居る。災厄の、最悪の龍王として顕現する、破壊を創る錬金装置。

 

 ──その銘は、『アルギュロス=ぎんいろ』。

 

 「どうせだし、君もおいで。オーア·ドラグ。」

 

 ぞわり、と。世界そのものから滲み出るように顕現したのは、アルギュロスと対になる、黄金の龍王。棺桶に似たフォルムの二つの超越存在を背後へ浮かせて従え、追撃を開始する。

 

 「撃て。」

 「いいわ。」

 「いいだろう。」

 

 片や静かに、片や傲慢に。応えると同時に、大気中のエーテルと僕の魔力を吸い上げ、()()()()()()()()。造形が同じだけの心が宿っていないレプリカで、絆による性能の上昇のない贋作。だが、壊れても問題ない上に、大量に創り出して乱射できるという点は魅力的だし、そもそも二人の持つ力が桁外れな為か、レプリカとはいえ、魔剣として最低限の威力は持っている。

 

 砂塵と血煙を上げ、それらをすら捩じ伏せるように、大量の黄金と白銀の魔剣が降り注ぐ。

 

 並の魔物なら消し飛ぶ···どころか、攻城すら可能な攻撃。が、依然として牛畜生は健在。化け物どもめ、と悪態を吐く間もなく砂塵が晴れ、一面の黒──否、闇が露になる。

 

 「庇ったのか···?」

 「···そう。滅ばないの。」

 「そんなことは認めんがな。」

 

 らしくもなく殺意を漏らすアルギュロスと、どこまでも彼女らしく傲慢に嗤うオーア·ドラグ。いや、彼女も殺意を漏らしているのには変わりないが。

 

 冥獣ミノタウロスが神性しか持たない雑魚を庇うように前面へ出て、その影の体で攻撃を受けきったのだろう。二人の攻撃を受けてなおその殺気が薄れない辺り、前回のワンドメイス型冥獣よりも強力な個体か。

 

 「オァ■ァァ■■■■ァァ■ア■■■アアア!!!!」

 

 こちらの動揺を見透かし、攻撃のチャンスとでも思ったか。()()()()()()()()()()()()()()()()、神性ミノタウロスの二匹が突進を繰り出してくる。

 

 「そんなのありなの? ズルくない?」





 リアル多忙につき更新頻度が低下(預言)

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