ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
ベルと別れてホームへ戻った僕が真っ先に行ったのは、ステイタスの更新だった。自力で魔物を屠ってきたのだし、ステイタスが上昇していることを祈って。いざ! ステイタス開帳っ!!
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力:I 3
耐久:I 3
器用:I 5
敏捷:I 3
魔力:G 320
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んー。うん。成長はしてる。成長はしてるんだけど。もっと、こう、ベルみたいな劇的な変化に期待してたんだけど···。
「そういえば、魔力の上昇が凄まじいけど、何かあったのかい?」
魔力値の220という伸びに大して驚きもせず、神ヘスティアはジャガ丸くんをもさもさと食べながら聞いてきた。さては順応したな、この神。ベルで異常なステイタス上昇に耐性つけたな。
「まぁ、ちょっと。」
大方、ブレイズドライブを使ったからだろう。それに極状態も使ったし。自前の魔力を使えば使うだけ、魔力の値は伸びるのだし。
「他のステイタスも少しとはいえ伸びてるし···やったね、マスター君!」
はいこれお土産。などと宣う神ヘスティアは、さっきまでもさついていたジャガ丸くんとは別の、小豆クリーム味なるものを投げて寄越した。なんだこれ美味しい···。
僕と神ヘスティアがジャガ丸くんをモサモサと食べていると、ベルが満面の笑みと共に帰ってきた。
「見て下さい神様! マスター!」
じゃら、という金属音を奏でる袋を持った──中身は金貨だろう。そのまま帰ってくるとは不用心な──ベル。ほう、サポーターのお陰かな?
「すごいじゃないか! どうしたんだい? 今日は。」
「それがですね、神様···」
ベルがサポーターのことを神ヘスティアへ説明している間、僕はずっとジャガ丸くんを食べていたのだけど。神ヘスティアがソーマ·ファミリアに危惧を抱いているという事実には気を引かれた。
「ねぇ、アダマス。神ソーマってどんな奴?」
「奴? って貴方ねぇ···。まぁいいけど。」
僕の不遜な言い方に苦笑を漏らした様子だったが、声だけが鼓膜を震わせているために本当かどうかは分からない。と、いうか、まぁいいんだ。
「ソーマは酒好きで知られているけど···あいつ、自分で最高の酒を作るんだ。って息巻いてたのよ。お陰でディオニュソスに睨まれるわ、出来損ないの酒が人間に流れて大惨事になるわで···。」
「飲む側じゃなくて、造る側だったのか。で、大惨事って?」
「依存者の多発と、酒を求めた依存者の暴走。」
ほう。麻薬みたいなものか。魔界でも攻撃力を底上げするクスリとかはあったけどね。材料に水晶と血液って、酒なんかより余程危ないんじゃないの。
「ソーマが下界でも同じことをしているなら、注意しておきなさい。」
珍しく真剣な表情の···あ、いや、声色のアダマスに気圧される。
「なら、そのサポーターの小人も暴徒化するかもしれないな···。」
「酒と金と異性には注意しなさいな。」
はーい。きをつけまーす。
「ちょっと、本気で言ってるのよ?」
いや、だって、僕が酒やら異性やらに溺れる前に、君たち魔剣が僕を正道に戻すでしょ。暴力で。権力、暴力、謀略。この3つは金、酒、異性と並んで強力な武器だ。暴力どころか破壊の権化みたいな魔剣たちに囲まれていれば、堕ちることもないだろう。
「堕ちたりしたら、君たちに失望されちゃうからね。」
呟きは聞こえたのか、或いは聞こえなかったのか。どっちだっていい。
「ねぇベル。僕も明日からついて行っていいかな?」
「マスターも、リリを疑うの···?」
誰だよリリって。
「リリルカだから、リリ。リリがそう呼べって。」
「「リ」がゲシュタルト崩壊してきた···。別に疑う訳じゃないよ。今日のベルの効率を見るに、二人いればもっと稼げるんじゃないかって思っただけだよ。」
ちょっと考えて「そうだね!」と返すベルを見て純粋なのかバカなのかを真剣に考え出した今日この頃。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日早朝。僕はベルと一緒にリリルカさんと顔合わせをしていた。
「よろしくお願いいたします、マスターさん。
ん? 獣人とな? また読み違えたか···。
取られたフードの下、頭頂付近から生えたケモミミはぴくぴくと動いている。獣人である、というのは本当らしい。
「···よろしく。リリ。」
三人で連れ添って迷宮へ入る。「昨日みたいに、狩場は二人で決めていいよ。」と言った結果、十階層まで降りてきた。
で、問題が発生。僕は今武器を持っていません。昨日壊れたから。で、ここは武器なしでどうにかなる階層じゃありません。部外者がいるので魔剣も使えません。
Q.どうする?
A.どうしよう···。
「待ってホントにどうしよう。」
刻々と堕ちていく評価。とてもつらい。