ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

12 / 41
第十二話 自力の強化

 

 迷宮の中でも高難度と言われる、下層。さらにその深部、最下層。···とは、関係なく、僕は今第4層にいます。その理由? 決まってるじゃないか。

 

 「体を鍛えようと思う。」

 

 ダンジョン内部も、魔剣たちと繋がっているはずの脳内も、どちらも痛いほどの沈黙に包まれる。

 

 「マスター本来の実力じゃーどーにもなりませんよー。そんな事も分からないんですかー?」

 「まぁ聞いてよ。」

 

 救えないなー。と続いたであろう脳内のセリフを遮るように告げる。僕の意図。それは──

 

 「バイトをして分かった。流石に素の体力が絶望的過ぎた。」

 

 ステイタスこそ 筋力:I 0 なんて生易しい表記だが、そもそもの実力と平均値とを照らしてステイタスを表すシステムなら 筋力:K -200 ぐらいだろ、きっと。いや、そこまでじゃないかもしれないけど。

 

 「と、言うわけで。僕が自分で戦ってみたいんだけど、いいかな?」

 「駄目よ。」

 「駄目です。」

 「救えませんねー。」

 

 満場一致か。はい。諦め···と、いう訳にはいかない。今のまま──魔剣たちに使われているだけでは、「真の魔剣使い」にはなれない。「真の魔剣使い」というのは字の如く、自分の力、自分の意思で魔剣を使い、その力を十全以上に発揮させる才能者のことだ。僕の目指す、極致。

 

 「だから、頼むよ。僕の夢に、力を貸して欲しい。」

 

 沈黙。魔剣たちが顔を見合わせるような雰囲気が漂う。一分、二分と時間が過ぎていく。

 

 「分かったわ。但し、必ず誰かを顕現させて、バックアップにすること。いいわね?」

 「分かったよ。ありがとう、グラム。」

 「別に、お礼を言われるようなことじゃないわ。」

 

 じゃあ取り敢えず、とばかりに魔剣少女を顕現させる。僕の持つ中でもトップクラスの熟練であり、長い付き合いの三人。『魔剣グラム』『魔剣グラム·オルタ』『ジャガーノート』。極状態──魔核を変質させるほどの純粋かつ多量の魔力を注ぎ込むことで、一時的に性能を底上げする状態のこと──でも自分自身で活動できる、数少ない魔剣たち。普通、極状態なら僕を使って行動するしかないのだけれど、彼女たちは慣れが違う。

 

 で、僕がそんな彼女たち──Sランク内で、最もSSランクに近い『最高峰』を呼び出した事から分かるように。

 

 「怖がりすぎよ、マスター。」

 「だ、大丈夫です。お姉ちゃんが、いますから。」

 「私たちがちゃーんと救ってあげますよー。」

 「た、頼むよ!? ほんと頼むよ!?」

 

 初期装備のダガーナイフだけでどこまでやれるのか。楽しみだ。(虚勢)

 

 

  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 結論から言って、意外と戦えた。戦果としてはキラーアントが数十体といったところ。ただし、無傷で。···どうやら、彼女たちが僕を使っている状態でも、経験やら何やらは蓄積されるらしい。相手の攻撃は凄まじく遅く感じるし、どこにどう避けるべきかが分かる。勿論、雪月花のように華麗に、とか、グラムのように最小限の動きで、とかは無理だけれど。

 

 「いける···いけるぞ!!」

 

 調子に乗って魔物の群れへ突進する。一斬必殺を心掛けて、的確に魔石を攻撃していく。ひとーつ、ふたーつ、みーっt···ん? 三匹目のキラーアントを殺そうとした時点で、ある異常に気付く。ナイフが、欠けてる。

 

 切っ先が砕け、刃もズタボロ、切れ味なんて期待外。そんな状態だった。

 

 三匹目の魔石を砕くと同時に、ナイフの方も柄を残して砕けてしまう。あ、やばい。残る魔物は15匹くらいか。いや、キラーアントは性質上、倒せば倒すほど、仲間を呼ぶ。なら見積り25匹···いや、仲間を呼ぶ間もなく殺せばいい。だが武器がない。

 

 「もう無理だ。任せた。」

 「もうおしまいですかー? もうちょっと救ってあげましょうよー。」

 「まぁ、初陣にしては上出来じゃない? 私を使うつもりなら、もっと強くなりなさい。」

 「ふ、二人とも早くしないとマスターが死んじゃう···っ。」

 

 あの程度じゃ死なないでしょ。みたいな声が聞こえてきたのは無視する。はやく、たすけて。

 

 僕の周りを取り囲んでいたキラーアントの一部が()()()()、包囲に穴が開く。その向こう側には果たして、彼女たちがいた。

 

 「ジャガーノート!!」

 

 手を差し出しながら名前を叫ぶ。ジャガーノートもこちらへ手を伸ばし、手が触れた瞬間に、右手には僕の身長を優に越す戦斧が握られていた。そして、最早僕の体は僕の物ではなくなっている。

 

 振り向き様に一閃し、飛びかかって追撃してきていた一体を爆散させる。──が、戦斧というのはフロントヘヴィなエモノで、攻撃直後には隙ができる。ジャガーノートほどの魔剣であれば隙の少ない攻撃も、一斬多撃も可能だが、咄嗟の行動だったために大振りになってしまった。そして、そこを逃すほど、魔物というものの知性は低くない。

 

 怪鳥のごとき鳴き声を上げて、魔物が一気に押し寄せてくる。流石に不味いと思ったのかグラム姉妹が一気に距離を詰め──るより先、僕の声が彼女たちを止めた。

 

 「来るな。巻き込まれるぞ。」

 「最初からこれがしたかっただけなんでしょう? いいですよー。どうぞどうぞー。」

 

 僕が魔剣を振るう中で、攻撃直後の隙を無くす為に思い付いたコンボ。攻撃直後の──

 

 

  BLAZEDRIVE:ディヴァインフロート

 

 

 解放された魔力が物理的な破壊力を伴って、殺到する魔物の群れを迎撃する。一瞬の後、ドロップ品の魔石すら残さずに魔物たちは蒸発していた。

 

 「わざわざこれをやるために呼び出したんでしょう? 流石は変態マスターだなー。憧れちゃうなー。」

 

 馴染みとすら言える棒読み具合が心地いい(末期)

 

 「そ、それはそれとして。武器が無くなったし、今日はもう帰ろうか。」

 「そうですねー。あ、どうでしたかー? 二週間ぶりの、私たちの感触はー?」

 

 ちょっとエロみを感じる言い方···ん? 二週間とな?

 

 「マスター。貴方、一週間近く寝込んでいたのよ? 何度か目は覚ましていたけど···直ぐに寝たから、覚えていないのね。」

 

 ふむ。で、寝込んでいた分+働いてた分=二週間。と。そういうわけか。い、意識したら凄まじい疲労が···!!

 

 「一週間働いてたんだし、大丈夫でしょ。」

 「それもそうか。」

 

 あ、なんか疲労も無くなった。病は気からってアレ迷信じゃないのか。

 

 「んじゃ、帰ろうか。」

 

 魔剣たちを非顕現状態へ戻して、意気揚々と地上へ戻る。と、ベルを発見。

 

 「おーい、ベル。」

 「あ、マスター!!」

 

 ん? ベルの横に置いてある巨大なリュックサックは···いや、小人(パルゥム)か? よく見たら誰かが背負ってる。

 

 「そちらの御仁は?」

 「あ、この人はリリルカ·アーデさん。サポーターとして雇うことになったんだ。」

 

 サポーター、ねぇ? チュートリアルで一通りの説明は受けたけど···サポーターが必要なほどの戦果が上がるのだろうか。まぁ、帰ってきてのお楽しみということにしておこう。

 

 

 

 

 




 やっとベルと絡ませられそう。(げんなり)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。