ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

10 / 41
ルビは···分かるね?


第十話 燃魂一撃

渦巻く魔力をそのままに、今更ながら周囲を確認する。よし、大丈夫だ。モンスターの影響か、この辺りに人はいない。なら・・・思い切りできる。

 

 「おいで・・・オルタ。」

 

 

 ──右手を横に。

 

 ──大気のエーテルが収束する。

 

 ──形状は剣。

 

 

 神性を持つ敵には神性を持つ攻撃か、SSランクの武器しか通じない。そして、僕の選んだ魔剣は『魔剣グラム・オルタ』。北欧の主神オーディンが林檎の樹に突き刺した魔剣、『魔剣グラム』の贋作(いもうと)にして、3本しかない、真性の『魔剣』の1つ。

 

 特級とも言える神性に加えて、魔剣グラム・オルタのランクは最大のSS。ここまでやるか、というオーバーアタック具合だ。・・・まぁ、実は、ランクAAとはいえ、僕の魔剣が弾かれた、という事実は、僕の自尊心とか矜持とか、そんな感じのモノをいたく傷つけていた。

 

 顕現させるまでのタイムラグに繰り出される攻撃を雪月花の身体支配に任せて回避し続ける。馬鹿野郎、変身中の攻撃はご法度だろうが!

 

 そんな怒りも含めて、決意する。

 

 「オルタ・・・あっちにしよう。」

 「はい・・・マスター。」

 

 顕現寸前のグラム・オルタへさらに魔力を流し込む。

 

 

 ──その純度、存在を歪めるほど。

 

 ──その量は、魔核を変えるほど。

 

 

 ──グラム・オルタが変貌する。

 

 ──変位する。

 

 ──変異する。

 

 ──変容する。

 

 ──変質する。

 

 ──変遷する。

 

 

 そして、成る。

 

 ──『魔剣グラム・オルタ【極】』顕現。

 

 

 迸る活性化した魔力が稲妻のように大気を焼き、バチバチと音を立て、オゾンの臭いを立ち込めさせる。グラムと同じ、剣の腹にあるコアが蒼から紅へと光の色を変える。

 

 「いやいや、違うよ、オルタ。全力で行くんだってば。」

 「あ···分かりました···」

 

 より強く柄を握りしめ、来る衝撃に耐えようと地面を踏みしめる。

 

 「ウォォォォォォオ!!」

 

 こいつはやばい、とでも思ったのか、ミノタウロスが突撃してくる。が、遅い。

 

 「お姉ちゃん···力を貸して···!!」

 

 僕の体内魔力が一斉にグラム·オルタへ流れ込んで行く。それは先程とは違い、干渉力を持った破壊そのものとして、世界へ投影され── 

 

 

  BLAZE DRIVE:不完全世界ファーヴニル

 

 

 一斬一殺、ワンショット·ワンキル、一刺必殺、極められた殺傷技術を表す言葉は沢山ある。そして、僕の放った所謂、必殺技、体内魔力を魂もろともに燃やし、エネルギーへ変換して放つ『ブレイズドライブ』が起こした現象を表すのなら、それは、『一斬鏖殺』とでも言うべきか。いや、対象が一人(一匹?)しかいない状態で『鏖殺』なんて言葉は相応しくないのだが、その一匹にぶつけられた破壊の力は、同じ存在がたとえあと60億人(60億匹?)いたとしても、殺し切ることは容易かった。

 

 では周囲は吹き飛んでいるのか? 答えは、否だ。爆縮に似た現象が起こり、その破壊をすべてミノタウロスへぶつけたから。

 

 ···では、ミノタウロスは? 答えは、「分からない」。十中八九死んでいるとは思うが、死体が蒸発か爆散かしている為に確認はできない。血煙すら起こらないので着弾確認もできない。

 

 「さ、流石に死んだ、と思う···。」

 「だ、だよね? 流石にね?」

 

 ブレイズドライブをするなら私がやりたかった、みたいな抗議が脳内に吹き荒れているが、黙殺。モンスターが神性を持つとなれば、ベルに勝ち目は薄い。神造兵装である「神様のナイフ(ヘスティア·ナイフ)」が機能していれば或いは···といった所か。神ヘスティアや神ヘファイストスが襲撃されれば今後の生活にも支障が出かねない。早めに合流しよう。

 

 つったかつったかと軽快に走り──勿論魔剣は仕舞って──白いゴリラ? と、それに追われるベルと神ヘスティアを発見する。

 

 「ベル!!」

 「マスター!? よかった、無事でッ!?」

 

 こちらを振り向いた隙に白いゴリラが攻撃を加え、ベルは回避したものの砕けた石畳と共に吹き飛んでしまう。やっぱ軽いな。

 

 「加勢するよ、ベル···ッッ!?」

 

 誰かに足を捕まれてすっ転ぶ。なんなの? 貞子?

 

 足下を見れば、石畳を突き破って生えた植物の蔦が足首にまとわりついていた。

 

 「お化けかと思った···。」

 「ウォーシャドウはお化けみたいなものだろうに。」

 

 む、何奴。なんて反応を返す前に足下に槍が突き立ち、絡んでいた蔦を断ち切った。誰かと思えばロキ·ファミリアの皆さんじゃないですか。···逃げたい。

 

 「ありがとうございます。助かりました。じゃ。」

 

 ちゃんとお礼を言って立ち去ろうとする僕の足を誰かが掴む。誰? 貞子? 団長? ···いや、うん。蔦だよね。知ってる。

 

 今度は蔦を切る間もなく、頭を下にして足首を掴み上げられる。石畳を破壊して地上に出てきたのは、巨大な植物系の魔物だった。蔦を振るって僕を投げ──投げられた!? え? やばくね?

 

 受け身を取るより早く石畳に激突する。肺から空気が漏れ、体を動かすのに必要な酸素が一気に失われる。あ、待ってこの感じ。

 

 「おぶ···おえぇぇぇぇ······。」

 

 ご飯···は、食べてないから胃液がダバァした。意外と、何も吐くものがないときの嘔吐の方が辛いよね! ──現実逃避、了。

 

 ロキファミリアの面々が武器をだらりと下げて僕の方を見ている。驚愕に見開かれた目の奥に宿るのは畏怖か、単なる恐怖か。

 

 ──僕を取り囲み、守るように魔剣少女が顕現し、それぞれの武器を手にして魔物を見据えている。彼女たちの目に宿るのは怒りと、心配。

 

 意識が暗転した。

 

 

 

 

 




ルビは『ブレイズドライブ』。

 まぁアレって魂じゃなくて魔石サファイアを変換した魔力を燃やしてるだけだけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。