PKプレイヤーの憂鬱   作:セットヌードル

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※独自設定

索敵→昼間にプラス補正、夜など暗闇でマイナス補正

隠蔽→昼間にマイナス補正、夜にプラス補正。集団でいるとマイナス補正

現在のスキルの習得できる数を二つに設定。


旧04 俺は悪くない

 サラダ昆布は夜にレベリングを行う。別段夜型だからとか、夜のモンスターの方が強いからとか、そういう理由ではない。キリトが昼に活動しているからである。ただでさえ迷惑をかけているのに安全な昼でのレベリングまで取ってしまうのは常識的に有り得ないとはサラダ昆布。そしてサラダ昆布は人殺しに常識を説かれてもという突っ込みをして自嘲した。無論内心で、である。

 それでも人の良いキリトは自分が夜でも良いと言った。

 

『迷惑とかそんなの考えなくて良いからさ。俺達、と、友達だろ?』

 

 顔を背けながら頬を赤く染めたキリトを見て真剣にパーティーを解散しようかと考えたサラダ昆布だったが現状そうすれば生存の確率が著しく低下する。サラダ昆布は取り敢えずドン引きしたのを隠しありがとうと感謝し、加えてやはり自分が夜で良いと言った。

 

「なにせ夜の方が効率が良い」

 

 夜は他のゲームよろしく敵が通常より若干であるが強い。その分得られる経験値も高く、なるほどその方がレベリングの効率が良いのは当たり前だ。しかし、それではない。夜、延いては暗闇というやつは悪意が紛れるには最適である。

 

「嘘だろ……!」

 

「おいおい、そんなに驚かれると傷ついちまうよ」

 

 驚くグリーンのプレイヤー。警戒していた(スキル・索敵)はずの背後から現れたのだから仕方のないことである。暗闇ではマイナスの補正がかかる索敵であるが、それでも背後に立たれるまで気が付かないということはない。あるとすれば暗闇でプラスの補正がかかる索敵とは真逆の隠蔽を習得している場合である。

 索敵(危険を先に見つける)隠蔽(危険に見つからないようにする)かの二択を迫られたとき、できるだけ生存を願うのなら索敵を選ぶ。生存の確率が高いのは言うまでもなく昼間である。それに普通は複数人でレベリングを行うが、その場合隠蔽の効果は薄れる。ならば選ぶのは索敵だ。好き嫌いの問題でそれでも隠蔽を選ぶ者もいるが大半は索敵を習得する。

 

「くっ……!」

 

「やめてくれ、怖くて震えあがっちまう」

 

 しかし、オレンジプレイヤーが隠蔽を習得しているならばその目的は考えるまでもなく明白である。であれば武器を構えるのは当然。最もオレンジが現れたから反射的に構えた可能性の方が高いのだが。

 ともあれグリーンプレイヤーは武器をオレンジプレイヤー――サラダ昆布に向けた。

 

「死にたくないから仕方ないよな」

 

 仕方がない。やりたくはないが、相手が武器を構えたのならこちらも構えなければ殺されてしまう。

 

 (ならば、俺は悪くない)

 

 どちらが悪いか、その判断は非常に難しい。それ故に先に手を出した方が悪い、という風に判断することがある。子供同士の喧嘩などはこのように判断されることが多い。最終的には両成敗で終わることが多いけれど。

 暴論に思えるかもしれないが、それが罷り通ることが多いということは多数の人間がそれで納得しているということである。場合によるが法においてもそうだ。どれほど煽られとしても手を出し殺してしまってはそちらが悪くなる。

 

「だからお前が悪い」

 

「くそがぁ!」

 

 この世には正当防衛というものがある。攻撃されたら攻撃しても良いというものだ。厳密には細かいルールがあるが、素人考えではこれで良い。やり過ぎれば過剰防衛となり正当防衛した方が悪くなる可能性があるが相手が殺しに来ているのなら殺してしまっても正当防衛は成立する。殺しと殺しでバランスが取れているからだ。

 いや、待てと。それこそ暴論ではなかろうかという疑問があるかもしれないが、ここで重要なのはサラダ昆布がそれで納得できるか、それで殺人を許容できるかである。そしてサラダ昆布はこれで殺人を許容できてしまう。殺しにきたのを殺して何が悪いと。

 

「来いよ」

 

「っ!」

 

 グリーンプレイヤーはその剣を振るった。サラダ昆布は対して槍でそれを防ぐ。

 

 戦闘が始まる。

 

「――!」

 

「――」

 

 そこに言葉はなかった。静かな夜に剣戟による金属音と息遣いがやけに響く。一度、二度、刃を交わしただけであるが、グリーンプレイヤーは冷や汗をかき、顔を青ざめさせた。

 

 (強すぎる……!)

 

 けしてグリーンプレイヤーが弱いわけではない。夜にソロでレベリングしても大丈夫だと自負できるくらいには強いのだ。それは自負だけではなく事実である。それこそ攻略組と言っても過言ではない。それでも慢心せず片手間に狩れる低レベルのモンスターのみがポップする場所でレベリングも行っていた。一応ではあるがPKプレイヤーの襲撃も警戒していたし、そのために仲間とPvPをしたこともある。

 それでも彼の剣はサラダ昆布に届かない。けれどそれは彼の思うようにサラダ昆布が強すぎる訳ではないのだ。

 実力、プレイヤースキルだけを見ればサラダ昆布は彼より弱い。攻略に参加しているプレイヤー全体で見ても普通レベルである。ではレベルが彼よりも高いのかと言えばそうでもない。PKボーナスの経験値があるとは言えそう頻繁にPKできるものでもないし、サラダ昆布自身もできれば(正当防衛でないなら)PKはしたくないと思っている。故にレベルの差はほとんどない。

 それでは何故彼がサラダ昆布に負けているのかと言えば理由は二つ。

 一つは武器の差である。とは言えこれもそれ自体に差がある訳ではない。むしろステータスを見れば彼の剣の方が上だ。では何の差かと言えば剣と槍では三倍云々である。それが実際にそうなのかどうかは諸説あるが、それがなくとも単純に刃までの距離が長い方が恐怖心も薄れるし、その分大胆に動けるので優位に立つ。

 二つ目は人に刃を向ける恐怖の有無である。いくらPvPで刃を交えようとも、実際に命のやり取りをするとなればその刃はブレてしまう。それに剣のリーチではやはり相手の刃に近づく必要があり、恐怖心が煽られる。そうすると動きが鈍くなってしまう。

 その二つが重なり彼は何時もの実力を出せず、サラダ昆布が強く見えるのだ。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!」

 

 そしてそれはHPが少なくなればなるほどに増していく。まるで油の切れた機械のように身体が動かない。これまでは技術が伴った剣であったが、今では力任せに、子供のように振るうだけになっていた。

 

「こ、殺さないでくれ」

 

 彼の手から剣が零れ落ちた。もう戦意はない。後彼に残された選択は必死に命乞いをするだけだ。

 

「金もアイテムも全部やるから!」

 

「いいよ」

 

「え?」

 

 サラダ昆布はそれを承諾した。彼は首をかしげる。てっきり殺されると思っていた彼は拍子抜けし、しかしそれでもサラダ昆布の気が変わらない内にとアイテムと金を全て渡した。サラダ昆布は内容を確認し、満足そうに去っていく。

 

「死ね!」

 

 ――そして彼はその背に剣を向けた

 

「え?」

 

 拍子抜けた声を出したのは攻撃されたサラダ昆布ではなく、グリーンプレイヤーの彼であった。

 

見えてたぜ(スキル・索敵)?」

 

「そんな、馬鹿な」

 

 索敵と隠蔽の両方を習得することは可能である。それ事態は不思議なことではないが、序盤であるこの段階ではその両方を習得しているプレイヤーは皆無に等しい。スキルというのはレベルによって習得できる数が限られている。今の段階でのレベルを考えると武器のスキルを除けば索敵と隠蔽のどちらかしか習得できないはずなのだ。それなのにその両方を習得しているということはサラダ昆布は自分の遥か先にいるプレイヤーということになる。

 

 (なんで俺がこんな目に!)

 

 絶望だ。彼は絶望した。PKプレイヤーに遭遇するだけに止まらずそのプレイヤーがトップレベルのプレイヤーだったなんて。

 

「アイテムサンキューな」

 

「あ――」

 

 パリン。やけに耳障りの良い音が響いた。

 

「やっぱり夜のが良いよな」

 

 絶望の中死んでいった彼だが勘違いをしている。先も述べた通り彼とサラダ昆布のレベルはほぼ同じだ。ということは隠蔽を習得しているサラダ昆布は索敵など習得していない。つまりただの嘘である。

 サラダ昆布が背後からの攻撃に反応できたのは索敵があったわけでも、第六感が鋭い訳ではない。それを経験したことがあるからだ。

 サラダ昆布は必ず殺す前にアイテムと金を要求する。PKによる経験値よりもそちらの方が魅力的だからだ。今はキリトと行動しているが何かしらの理由でそうできなくなったときのためにアイテムなどを貯蓄するのは必須だからである。

 大半はそのまま逃げるが、しかし全てを奪われ黙ったままというプレイヤーばかりではなく背中を見せた瞬間に襲ってくる者もいた。サラダ昆布はそれで死にかけたこともある。その経験があったため、去るときは何時も背後に気を付けていたのだ。

 因みに「見えてたぜ?」と言ったのはハッタリでもなんでもなく、単に格好が良いからである。

 

 こうして、彼はデスゲームが始まってからもPKを続けた。正当防衛(CPK)だから悪くない、そう許容して彼はPKを続ける。それが誘発して行っているものだとしてもサラダ昆布にとっては関係ない。なにせサラダ昆布にとって「悪」とは手を出した奴のことをいうのだから。原因がサラダ昆布にあっても手を出したのは相手である。

 

「――だから俺は悪くない」

 

 

 




PK? したくないです。でも襲ってくるならPKします。なお、襲ってくるように挑発する模様。


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