百足と狐と喫茶店と   作:広秋

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 ついにストーリーがリンネの影響で歪み始めましたね。
 本来死の運命にあったキャラクターが生存し、逆に生存の運命を持っていたキャラクターが死んでいく。
 いやー、楽しいなあ()

 …だというのに、資格試験が近いせいで執筆時間がががが…
 次回の更新は一週間後…とはいかないかもしれませんが遅くなっても必ず、必ず続きは投稿しますので許してくださいm(__)m

 今回はうまく逃げおおせたリンネとリョーコ達がメイン、リンネたちにまんまと逃げられてしまったCCGが少し入っています。


~前回までのあらすじ~

 撤退し、CCGの追撃をうまく躱すことができたリンネとリョーコ。
 彼女らに逃げられたCCGの次なる策とは…


8話 母の思いは狐へと

――20区の外れ・廃屋――

 

 

 20区外れ、傷んだ壁の隙間から風が吹きこんで来る廃屋。

 その廃屋の中には弱々しくも明かりが灯っていた。

 

「…」

 

 その明かりに照らされているのは無言で座り込み明かりを見つめているリンネと先の戦闘で疲弊しきり、未だに目を覚まさないリョーコ。そして、リンネの手により攫われ、意識を奪われて手足を縛られ逃げる手段を失い口に布を噛まされている捜査官の男であった。

 しばらくたち、いい加減に待ちくたびれ始めたリンネが後ろ頭を掻きながら、

 

「はぁ…」

 

ため息をついた。

 すると、リンネのため息に反応したのかリョーコがうめき声をあげ目を覚ます。

 

「うう…ここは…?」

 

 状況を理解できていないリョーコは起き上がろうとするがリンネはそれを止める。

 

「まだ横になっていた方がいいよ」

 

 リョーコは声をかけられて初めてリンネがいるのに気が付いたのか、少し驚いた様子で横になったまま振り向くと、小さいながらもはっきりとした声で言葉を発した。

 

「あなたが助けてくれたのね…ありがとう」

 

 リョーコのその発言に首をかしげた。

 

「あれ?意識あったの?それに私は顔も隠してたんだけど?」

 

 リンネの疑問にリョーコは答える。

 

「それは雰囲気よ。それに傷だらけの私に何もしてこないのが何よりの証拠でしょう?」

 

 その問いにリンネは少し顔をしかめるがリョーコは気づかなかった。

 

「ふーん…まぁいいや。で、体の調子はどう?」

 

「ええ、大丈夫よ。まだ体がうまく動かないけど」

 

「そうでしょうね。傷は決して浅くはないからね」

 

 リンネはそこで一度立ち上がりリョーコの前に屈みこむとリョーコに問いを投げかけた。

 

「で、あなたはどこまで覚えてる?」

 

「どこまでって…」

 

 リンネの質問に記憶をたどり始めたリョーコの顔が青ざめていく。

 その様子に気づいたリンネがリョーコに声をかける。

 

「落ち着いて、いい?」

 

「落ち着いてなんて…!ヒナミは!あの子は来た道を戻って行った後どうなったの!?」

 

 しかしリンネの行動も空しく、リョーコは取り乱し始めてしまう。

 するとリンネは横になったままのリョーコの体を跨ぎ、身を屈ませるとリョーコの胸倉をつかみ上げた。

 

「落ち着け」

 

 リンネは冷たく言い放つと、取り乱し始めたリョーコの胸倉を屈んだまま掴み上げ至近距離から睨みつける。

 

「いい?ヒナミちゃんが引き返していったのなら、恐らくあんていくに向かった。そしてマスターが居ればそこで保護されているはずだし、そうでなくともカネキ君は店を上がる時間が遅かったから十中八九接触出来ている。これでいい?」

 

 一気に捲し立てられ困惑するリョーコをよそにリンネは言葉を続ける。

 

「ヒナミちゃんは無事。分かった?」

 

「え、ええ…」

 

 リョーコの答えを聞いたリンネはリョーコから手を離すと元の位置に戻った。

 

 リンネの言葉に気圧されていたリョーコだったがその言葉にいくつかの疑問を抱きリンネに説明を求めた。

 

「まって、幾つか聞きたいのだけど」

 

「何?」

 

 その後のリョーコの問いは以下のようなものだった。

 

 ・なぜ(リョーコ)を助けたのか。

 ・なぜヒナミの名前とあんていくのことを知っているのか。

 ・そしてあなたは何者なのか。

 

という3つだった。

 

「うん、もっともな問いだね」

 

 そう言うとリンネは説明を始めた。

 

「まず、なんであなたを助けたのかについてね。あなたを助けたのは半分偶然。もう半分が、さっきのあなたの発言で確信したけどあなたがヒナミちゃんのママだからかな。で、私があんていくのことを知っているのは私があんていくの店員だから。これでいい?」

 

 リンネの質問に思い当たることのあったリョーコが口を開いた。

 

「…リンネちゃん…なの?」

 

 リョーコに名前を言い当てらたリンネは首を傾げた。

 

「あれ?名前教えてたっけ?」

 

 リンネの疑問に

 

「いいえ、聞いていないわ。でも話を聞く限り、ヒナミの言っていた“リンネおねえちゃん”ってあなたのことでしょう?」

 

「否定はしないわ」

 

と答えると今度はリンネがリョーコに問いかける。

 

「で、あなたはこれからどうするつもりなの?」

 

「もちろんヒナミのところに戻ります」

 

 その答えにリンネは目を細め低い声で返す。

 

「諸共死ぬ気?」

 

「え?ちょ、ちょっと待って?リンネちゃん…それは一体どういう…」

 

 急に態度を硬化させたリンネに驚くリョーコだったがリンネはお構いなく言葉を叩きつけていく。

 

「やっぱりあなたは戦いになれていない。戦いに関しては無知ともいえる」

 

 リンネはリョーコを睨みつけるとさらに口調をきつくし続けた。

 

「いい?あなたはCCGに面が割れているの。つまりあなたはCCGにとっていい餌なの。そんなあなた()が近くにいたとすればヒナミちゃんは愚かあんていくそのもの、ひいては私すら危険にさらされる。あなたはヒナミちゃんやあんていくの人たちと心中したいの?」

 

 リンネの言葉に状況を初めて理解したリョーコは青ざめる。

 

「そ…そんな…私は、ただ…」

 

「そもそも、私が本当にヒナミちゃんの言う“リンネ”である保証もなかった。なのにあなたはあっさり信用した。今回は私が本当に件の“リンネ”だったから良かったけど、違っていたらどうするつもりだったの?あなたが無能なせいであなたが死ぬのは構わない。けど、自分のミスであなたの大事な人(ヒナミ)が死んだとき、あなたは自分を許せるの?」

 

 リンネの言葉でその様を想像したのかリョーコは泣き出してしまい、顔を隠そうとするが片腕がないために顔を覆いきれず、また腕を失った現実を突きつけられ声をこらえきれなくなったのか小さいながらも声を上げて続けた。

 

 

 

 

「気は済んだ?」

 

「ええ…」

 

 あの後しばらく泣き続けていたリョーコだったがやっと落ち着き始めたのを見たリンネに声をかけられしゃくり上げながらも頷いた。

 

「で、結局どうするの?あなたの前に道はあまり道は残っていない」

 

「…」

 

 どうしたらいいのかわからない様子のリョーコに呆れながらもリンネはある提案をする。

 

「もし、あなたがどうすればいいのか分からないなら私に一つ案がある」

 

 その言葉に縋る様に顔を上げたリョーコにリンネは話始めた。

 

「私が所属していた“群”が13区にある。幸い、私はそこの群れにはそこそこ顔が利く。そこに行けばあなたはほぼ確実にCCGの目から逃げられる。そしてあなたにはそこで強くなってもらう。ヒナミちゃんを自分自身で守れるくらいには」

 

「待って…それは」

 

「そう、もしあなたがいつまでたっても弱いままだったらいつまでたってもヒナミちゃんには会えない。そして万が一その過程で死んでしまった場合も会うことはできない。でも、あなたが強くなれたなら、その時はヒナミちゃんと二人で生きていくことができる」

 

 その話を聞いたリョーコの目には先ほどの絶望に沈んだ色ではなく、子を守るためならば何でもする鬼子母神()のような色が浮かんでいた。

 そして、顔を伏せたまま言葉を発する。

 

「私が強くなる…誰にもヒナミを害することができないくらいに強くなれば、そうなればいいのね?」

 

 リョーコのその答えに満足したリンネはあえて冷たい口調でリョーコ言葉を浴びせた。

 

「そうなればいい。だけどあなたには覚悟を決めてもらわなきゃいけない。“他人の生き血を啜ってでも生き残る覚悟を”」

 

 リンネはそう言うと攫ってきた気を失ったままのCCG捜査官の腹を蹴り飛ばし、起こした。

 

「ぐぁっ…!?」

 

 喰種の力で腹に重い一撃を受けた捜査官の男は悶絶するがリンネは気にも留めずに続けた。

 

「もしあなたが13区に行くことを望むなら私にも準備が必要。もう日が昇る。だから次に日が昇ってからまた落ちるまで、つまり今日の日没ごろに準備を済ませてまたここに戻ってくる。だからあなたは人間(これ)私が戻るまでに食べきりなさい」

 

「ひっ…」

 

 自分の置かれた状況を理解した捜査官の男は短い悲鳴を上げるが赫眼を発現させたリンネに一睨みされると大人しくなってしまった。

 

「まだ生きてるものを自分の意志で殺し、食べなさい。それが今あなたのやらなければならないこと」

 

「私が自分の意志で…」

 

「そう。私が戻るまでにしっかり食べきっておくこと。そうすれば、私があなたを13区の、私が元々居た群れに連れて行く」

 

 するとリンネは立ち上がりリョーコに背を向け、小屋の出入りを開け放つとそのままどこかへと去って行った。

 丁度その時朝日が昇り始め、薄暗かった小屋の中に光が差した。

 

「た…助けて…」

 

 その後、リンネが居なくなったことで恐々ながらもリョーコに命乞いをする捜査官の男だったが返ってきたのはまるで世間話のような言葉だった。

 

「私はね、小食なの」

 

「はっ?」

 

 あまりにも状況にそぐわない言葉を返された捜査官の男が困惑した声を上げるがリョーコはそれを気にも留めず言葉を続けた。 

 

「私はあまり多く食べることができないの。だから沢山食べるのには時間がかかってしまうの」

 

「な、なら!」

 

 たくさん食べれないと聞いた捜査官の男はここぞとばかりに命乞いを始めた。

 

「う、腕!腕の1,2本くらいなら食べても構わない!だから、だから命だけは!」

 

 しかし、捜査官の男の必死の命乞いに対して帰ってきた言葉は“死刑宣告”だった。

 

「だから、食べ始めるのは…早い方がいいわよね?」

 

 直後、捜査官の男のは言いようもない激痛に襲われ、意識が一瞬で遠のいていくのを感じた。

 なぜなら、リョーコが赫子を発現させると同時に捜査官の男の首の骨を赫子の一撃を持って粉砕し、その勢いで首を刎ね飛ばしたからだった。

 そして、意識が途絶える瞬間に彼が聞いたのは慈母のような優しい声だった。

 

ヒナミ(あの子)のために、死んでくださらない?」

 

 それからしばらくの間、20区の外れにある小屋からは水っぽい何かをすする音と何か千切るような音、そして女性の静かな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 その後、丁度日が沈み始めるころリンネが小屋に戻ってきた。

 

「あら。お帰りなさい、リンネちゃん」

 

 リンネを迎えたのは口元を血でべったりと濡らしたリョーコだった。

 

「少し大変だったけど、きちんと食べ終えたわよ」

 

 そう言ってほほ笑むリョーコにリンネは短く「合格」と言うと続けた。

 

「分かった。明日にでもあなたを13区に連れて行く。でも表立っては動けないから地下から行く」

 

「地下…ね…」

 

 リョーコの言葉にリンネは地下の説明を始めた。

 

「そう地下。東京の地下を縦横無尽に通っている地下通路のことよ。この地下通路は東京のありとあらゆる場所につながっている。おまけに広大かつ複雑な構造をしているからCCGの監視も甘い」

 

「分かったわ」

 

 リンネの説明で理解を示し、頷いたリョーコだがリンネに少々強い口調で問いかけた。

 

「私はどうなっても構わない。だけどヒナミはどうなるの?あと、私がどう処理されているのかも知りたいのだけど」

 

「さっきあんていくにも言ってきた。マスター…芳村さんが言うことには、ヒナミちゃんはしばらくはあんていくで預かることにしたらしい。あと、あなたは行方不明ってことになってる」

 

「行方不明…ね」

 

「何か?」

 

「いえ、これで後顧の憂いはないわ。芳村さんならヒナミを悪くは扱うことはないでしょう。あとは私が強くなるだけ」

 

「あれ?思ったより物分かりがいいんだね?」

 

「そうね、だって私が近くに居ればヒナミに危険が及ぶ。ならば一時離れるくらいなんともないわ。私は、たとえあの子に恨まれたとしてもあの子を守る。そう決めたの」

 

 リョーコの言葉に満足そうな笑みを浮かべたリンネは先ほどよりも幾分柔らかい声音で言う。

 

「そう、分かった。なら行こうか、13区へ。」

 

 そして、小屋を出ていくリンネにリョーコは続いて小屋を出る。

 

「ヒナミ…待っていてね…」

 

 小屋を出ていくリョーコのつぶやきは誰の耳にも届くとはなく夕暮れの空に消えていった。

 そして、小屋には引き裂かれたCCG捜査官の服と大量の血痕が残されていた。

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部――

 

 

 少し時間は戻り、リンネが小屋を出た頃、捜査官にそれぞれ割り当てられた部屋の一室では、照明は落ちているのにも関わらず、薄暗い明かりが灯っていた。

 その部屋では机に備え付けられているライトのみを点け、一人の男が椅子に座り机に向かっていた。

 

「狐の介入によって対象を取り逃がし、さらには局員を一人拉致された…か」

 

 そう言いながら顔をしかめるのはコーヒーのカップを片手に今回の報告書を作っている真戸だった。

 

「子の喰種を守るために親がその身を盾にし守り抜き、母親も増援によって取り逃がす…」

 

 ここで真戸は一度コーヒーをすすると顔をしかめた。

 

「全く、情けない限りだ…だが…」

 

 憎々しげに言葉を吐いた真戸だったが今度は愉快そうな表情を浮かべると目線を手元の報告書から視線を移した。

 

「今回の戦利品…しっかり利用させてもらおう…」

 

 その視線の先には不気味は雰囲気を放つ黒いアタッシュケースが一つ置かれていた。




 はい、以上8話でした。
 今回はシリアスパートでリョーコさんを生き残らせる上で必要な「喰種としての心構え」を体得させつつ、リョーコさんに狂化フラグを立てました。
 …え?字が違う?狂化です。間違いありません(ニッコリ)
 ちなみにリョーコさんは一時的に表舞台からは退場です。あくまで一時的ですので復帰はします。ご安心ください。
 具体的にはアオギリが活発化するあたりまでですかね、予定では。

 平和な日常パートもやりたいけどそれを挟むとストーリーが滞るのがなぁ…
 いっそ幕間か番外編でやるか…

 次回はあんていくメイン、そしてカネキやトーカ、ヒナミがメインになります。
 あと余裕があればCCGサイドも少し入れる予定です。

 それでは次回をお楽しみに

~次回予告~

 リョーコを救援するべく動いたもののリョーコを見失ってしまった芳村。
 そのことを知らされたあんていくは動揺に包まれていた。
 そしてトーカは復讐へとひた走る。 

 次回、百足と狐と喫茶店と 第9話

 子の号哭は狐へと

 全ては大いなる存在の手のひらの上か

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