百足と狐と喫茶店と   作:広秋

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 今回は前回から一日日付が飛んでいます。その飛んだ分はのちに幕間として投稿予定です。
 今回からは、前回の最後にちらっと出てきた女性が物語の中心になります。いったい誰なんでしょうかね?(白目)

祝☆UA1400到達!ありがとうございますm(__)m

 それではどうぞ。


~前回までのあらすじ~

 あんていくへの居候プラスウェイターとなることが決まったリンネ。
 ついに物語にかかわり始めた彼女は物語にどんな影響を与えるのか。



5話 狐はウェイターへと


――あんていく――

 

 

 リンネがあんていくに居候することが決まり二日目。

 夕方になり、大学の授業を終えたカネキがあんていくに来ると彼を迎えたのは、

 

「よっ、カネキ君」

 

 ウェイトレス服に身を包んだリンネだった。

 

「あれ?リンネちゃんもうお店に出てきても大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫、今はお客さんいないし。なんたって私、物覚えはいい方だから、もう基本的なことはある程度こなせるしね」

 

 そう言って笑うリンネの背後で芳村が微妙な表情をしていたが、その原因が昨日のリンネの訓練だということを、カネキは知る由もなかった。

 そして、リンネにコーヒーの淹れ方を教えるだけで疲労しきってしまい、芳村がリンネを店にウェイターとして出すのを一瞬躊躇ったのも知る由もなかった。

 

「それに、今日はトーカちゃんが休みでしょ?だからその代役と訓練も兼ねてるの」

 

「へぇ~」

 

 ここで、楽しげに会話してる二人に芳村から声がかかる。

 

「ということで、カネキ君もフォローしてあげてね」

 

「あ、店長。わかりました。…そういえばトーカちゃんの休みの理由って何だったんですか?昨日聞こうと思ったんですけど聞きそびれちゃって…」

 

「女の子が休む理由なんて女の子の「古典の試験が危ないらしくてね。その対策をしたいんだそうだ」

 

  芳村がリンネの発言をうまく遮って答える。

 

「そういうわけでリンネちゃんにもフロアに出てもらったという訳さ。だからカネキ君も何かあったらフォローしてあげてね」

 

リンネは事を遮られたことに一瞬頬を膨らませて芳村の方を見たがすぐに笑顔を浮かべた。

 

「ということでよろしくね、カネキ君」

 

「わかりました、店長。それじゃあ、これからよろしくねリンネちゃん」

 

「さてと、もう夕方だ。午前中と違って忙しくなる。看板娘二号であるリンネちゃんにも、本格的に動いてもらわなくてはね」

 

「はーい、ご期待に沿えるよう頑張りまーす。」

 

「うん、それじゃあおしゃべりもこの辺にしておこうか。そろそろお客さんが来てもおかしくない。カネキ君は早く裏で着替えておいで。そしたら、リンネちゃんには食材の準備を手伝ってもらおうかな。」

 

「わかりました。」

 

「よーし、頑張っちゃうぞ!」

 

 

 

 

「ごちそうさまでした~」

 

「…ふう、これで一息付けますね」

 

 最後の客が出ていくとカネキがそう言って額をぬぐった。

 

「そうだね。まだ閉店までは時間があるが、私たちも一息入れるとしよう。…彼女もその方がいいだろう」

 

「そうですね、ははは…」

 

 そう言って苦笑いする二人の目線の先には、

 

「ブクブクブク…」

 

机に突っ伏して力尽きているリンネがいた。

 

「初めての仕事で疲れちゃったのかな?」

 

「それもあるだろうけど、慣れないことをしていたんだ。疲れてしまうのは当たり前だよ」

 

 すると芳村は思い出したようにカネキに声をかける。

 

「そういえばカネキ君、今日の夜時間あるかい?」

 

「はい?店の片付けですか?」

 

「いや、うちのスタッフと“食糧調達”に行ってほしいんだ」

 

「食料調達…買い出しですか?」

 

「そうじゃないんだ。今日行ってもらうのはお店で使う食材じゃなくて、私たちの食糧だよ。いつもはトーカちゃんにお願いしていたんだけど、今日はカネキ君にお願いできないかと思ってね」

 

 ここで初めて食糧調達の意味を理解したカネキが焦ったように口を開く。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!僕は…人殺しは!」

 

 焦るカネキを落ちつけようとした芳村だったが、いつの間にか復活していたリンネに言葉を取られてしまう。

 

「カネキ君、君は何か勘違いをしていないかい?」

 

 リンネは当たり前のことを言うように淡々と言葉を紡ぐ。

 

「いいかい?まず私たちは喰種だ。つまり、人を喰わなくては飢えて死んでしまう。これは人間も同じ、牛や豚などの生き物を殺し、食べているだろう?それと何が違うんだい?」

 

 しかし、その言葉を受け入れられずにうつむくカネキに芳村が助け舟を出す。

 

「そうは言っても、彼は少々特殊な喰種でね。あまりそういうのに慣れていないんだ」

 

「特殊?どういうこと?」

 

「うーん、どうと言われるとこれまた答え辛いんだが…」

 

 芳村が言葉を濁すとリンネも何か悟ったのか、追及をやめた。

 

「ふーん、まあいいや。なら私が代わりに行こうか?私ならそういうのには慣れてるし」

 

 リンネがそう提案するも芳村には何か考えがあるのかその提案を断ってしまう。

 

「いや、今回は人を殺めるようなことではないから、やはりカネキ君に行ってもらいたいんだ」

 

 そう言われ、カネキはしぶしぶながらも「人を殺めることがないなら…」と了承し、食糧調達の準備ということで一足先に仕事を切り上げ、奥へと入っていた。

その後、カネキが奥へ入っていったのを確認すると芳村は店のドアにぶら下がっていた札を『CLOSE』の方へ裏返した。

 すると、その様子を見ていたリンネが芳村に声をかける。

 

「あれ?もう閉めちゃうんですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 すると芳村は、いつもとは違う厳しい雰囲気で言葉を発した。

 

「リンネちゃんは、人の秘密を守れるかい?」

 

 リンネはその雰囲気と言葉に違和感を感じながらも答えた。

 

「人の秘密を守るのは当たり前ですよ。私だって秘密の10や20はあるんだし、人の秘密の一つや二つ守れないわけはないですよ。」

 

 リンネがそう返すと芳村は頷き、「ならいいだろう」と言った。

 なぜ突然そんなことを言われたのか分からないリンネは首をかしげるだけだったが、芳村がすでに店の片づけを始めてしまったため質問の機会を逃してしまった。

 

「…なんだったんだろ」

 

 

――駅前――

 

 

 カネキが身支度を済ませ駅前で待っていると黒いセダンがカネキの目の前にとまった。

 車から降りてきたのは不愛想な長身の男だった。

 

「えっと…四方さんですか?僕は金「知ってる」

 

 言葉を遮られ、「さっさと乗れ」と冷たく言われたカネキは半ば怯えながら車に乗り込んだ。

 そして車で走ること数十分、やってきたのは人気のないどこか不気味な高台だった。そこには、既に車が止まっていたが持ち主の気配はなかった。

 いまだに自分が何をするために来たのかわからないカネキは四方に問いかける。

 

「あの、ここで何をするんですか?」

 

 しかしカネキの問いに四方は答えることはなく、ただ高台の下をのぞき込むだけだった。

 

「…」

 

 無視されたカネキは下に何があるのか気になり柵に手をかけ身を乗り出す。

 するとそれに気づいた四方が注意しようとカネキに声をかける、

 

「そこ、老朽化して…」

 

が、カネキが気づく前に柵が崩れ、

 

「ふぇ…?」

 

高台の下へ真っ逆さまに落ちていった。

 

「うああああああああぁぁぁぁ…」

 

 

 

 

「いっつつ…これは喰種の頑丈な体じゃなかったらやばかったな…」

 

 高台の下まで落ちてきたカネキは、そう言いながら立ち上がり、周囲を見回す。

 

「不気味なところだ…上に行きたいけど自力で上がるのは無理そうだしなぁ…ん?」

 

 カネキがそう呟きながら高台の崖に近づいていくとつま先に何か当たったような気がして、驚いて足元を確認する。

 

「えっ…」

 

 カネキの足元にあった()()、それは男性の死体だった。首の骨が折れているのか首があり得ない方向に曲がっていた。

 

「うああああ!」

 

 カネキが驚いて尻もちをつき震えていると、いつの間にか降りてきていた四方が怯えているカネキに声をかける。

 

「死体を見るのは初めてか?」

 

 すると四方はこの場所の説明をしだす。

 

「ここの上に車が停まっていただろう?おそらくあの車はこの男の物だ。…ここには自分の意志で死を選ぶ人が集まる。そして、この場所が人間に知れ渡っていないのは俺たちあんていくが処理しているからだ」

 

 その説明を聞いたカネキは震えながらも答える。

 

「あ…あんていくの人たちは、自殺者を選んで食べているんですね。…そうすれば人を殺めずに済むから…」

 

「…選んでいるつもりはない。人を殺して食う時もある。トーカや他の奴もそうだ。俺がこんなことをしてるのも、お前とこんなところに来てるのも芳村さんにたまれたから。ただそれだけだ」

 

 四方はそういうと大きな黒いボストンバッグに似たカバンをカネキに渡して言い放つ。

 

「これを詰めろ。俺は向こうのもう一体を詰めてくる」

 

「えっ…」

 

 しかし、人の死体に慣れていないカネキは戸惑い震えることしかできなかった。

 すると、その様子を見かねた四方はため息をつくとカネキのバックをひったくりながら冷たい口調で言う。

 

「もういい、俺がやる」

 

「あっ…」

 

 そう言って死体のそばによるとバッグを地面に置き、死体の目を閉ざした後にと両の手を合わせると祈るようなしぐさをすると、手早く死体をバックに詰め始めた。

 

 

 

 

 ()()を終えた帰りの車内、カネキは先ほどの四方の行動について考えていた。

 すると、何かに気づいた四方が車を止め降りる。そして横道の先にいた女性に声をかけて連れてきた。

 連れてこられた女性はカネキに気が付くと声をかけてくる。

 

「あら、カネキ君。」

 

 突然声をかけられたカネキは驚きながらも答える。

 

「あっ…笛口さん」

 

 声をかけてきたのは笛口リョーコ、喰種の女性でヒナミという名の娘がいる。

 

「こんばんは、お邪魔するわね」

 

 そういって車に乗り込むリョーコだったが、その表情は俯いているため分かりづらかった。

 

「…怒ってます、よね。」

 

 唐突に申し訳なさそうに口を開くリョーコ。

 

「私が、夫の墓に通うから…」

 

 その言葉に四方は、リョーコ容赦なくを攻め立てる。

 

「墓に行くことをとがめているんじゃない、一人で行動することが問題なんだ。20区(ここ)白鳩(ハト)をおびき寄せたのはリゼじゃない。奴らはあなたを追っているんだ」

 

 四方はそこで一度言葉を切り、声のトーンを少し下げて続ける。

 

「ヒナミを巻き込みたくないなら慎重に行動してください。芳村さんが言うことには、彼らはもうすぐそこまで迫っているんです」

 

 そう言われたリョーコはさっきと打って変わって、顔を上げ毅然とした顔で四方に言葉を返す。

 

「先ほど、夫のマスクをお墓に埋めてきました。…私がいつまでもあの人にすがっていては…私があの人に甘えていてはいけない」

 

 すると今度は優しい笑みを浮かべて言う。

 

「私はあの子(ヒナミ)が甘えられる場所でないといけない。だって、私は母親なんですもの」

 

 そう決意を固めるリョーコだったが、車に乗り込むところは愚か、マスクを埋めている時も見られていたことには気づいていなかった。

 そして、それが自分自身のみならず、愛する我が子も危険にさらしてしまう原因になってしまったということを、今はまだ知る由もなかった。

 

 

――20区・CCG20区支部会議室――

 

 

 20区にあるCCGの支部では亜門や真戸などの本局の捜査官も交え、ここ数週間の喰種の目撃情報や捜査状況などをもとに会議が行われていた。

 

「720番、及び722番は特に動きなし」

 

 亜門はそう言って捜査対象者の動向事細かに報告していく。

 

 しかし、ここ最近は喰種に関する有力な証言、情報が乏しく。CCGの捜査官たちは苛立ちを募らせていた。

 

「ふむ、亜門君。詳細な報告は良いがもう少々簡潔でも構わないぞ」

 

「はっ、了解です。」

 

「ふむ、やはり決め手に欠けるな。…20区支部担当の723番に動きは?」

 

 そう真戸に問いかけられた20区所属の丸いメガネをかけた捜査員は立ち上がり報告を始めた。

 

「はい、対象は電車で移動、5つ目の駅で下車。その後一度は見失いましたが資料にあるC地点にある石碑のようなものの近くで再補足。数十分の滞在後、知人のものと思われる車に乗り合わせ帰宅した模様です」

 

 その報告に不満を感じた亜門が質問を飛ばす。

 

「…その車のナンバーは?」

 

 しかし、その質問に対する答えを相手が持ち合わせていないのに気付くと、亜門は苛立ちを隠そうともせず苛烈に攻め立てる。

 

「それと、その石碑は()では?埋蔵品に696番との関連性が見出せれば723番は“喰種(クロ)”だと確定する。何故そこまでやらなかったのですか?」

 

 亜門の言外にある「墓を漁れ」という意志に20区の捜査員たちは反感を示す。

 

「私に墓を漁れと?そんな倫理に反したことをしろというのですか!?」

 

「本局と20区(我々)ではやり方が違うのですよ」 

 

 すると、その言葉の中にあった“倫理”という言葉に反応した亜門が20区の捜査官に言い放つ。

 

「“倫理”で“(喰種)”は潰せません。我々は“正義(捜査官)”、我々こそが“正義”です」

 

 その後、亜門達本局の捜査官と20区の捜査官との間にわだかまりを残したまま会議は終わり、捜査官たちは各々の捜査のために散っていった。

 

 

 

 

 会議を終えた亜門と真戸の二人は自分たちの資料の整理を終え、帰路に就くため支部内を歩いていた。

 

「全く、こんなにも支部の捜査官が危機感と使命感に欠けているとは思いませんでしたよ。そんなことだから奴ら(喰種)に好き勝手にやられるとなぜ分からないんだ」

 

 そう言って憤慨する亜門。その様子を見た真戸がそれを諫める。

 

「そう怒るな、亜門君。だから我々がここに居るのだろう?君の心は義憤に燃えている。その火は業火の如くだ」

 

 そう言って真戸は嬉しそうな顔をすると弾むような口調で続けた。

 

「その火は正しい世界を望む者たちの心には必ず燃え広がっていくだろう。胸の内に松明持っているかどうかにもよるがね。私も松明を持っているつもりだよ。そのおかげで君からいい影響を受けている」

 

「真戸さん…」

 

 そこで真戸は言葉を切ると肩の高さで手を振りながら亜門と別の方向へ歩きながら続けた。

 

「しかし今日はもう疲れた。君は歩くのが速い・・・私は先に休ませてもらおう。君も一度休むといい、きちんと休息をとるのもまた我々の仕事だよ」

 

 真戸はそう言うとそのまま亜門に背を向け歩いていった。

 残された亜門は複雑な表情でそれを見送るが、ちょうどその時通りかかったCCGの職員と、彼に手を引かれるCCGで保護されている孤児の二人を見てその瞳に憤怒の火を灯し、タオルとスコップを持ってCCGの市部を飛び出した。

 

 

――雑木林・石碑の前――

 

 

 そこにいたのはつい先程CCGの市部を飛び出して来た亜門だった。

 彼はその瞳に義憤の炎を燃やしながら首筋を撫でる生暖かい不快な風も、肌にまとわりつく羽虫も意に介さずひたすらに石碑()を掘り返していく。

 すると、スコップの先端が固い()()に当たる。

 亜門は嬉々とした表情で屈みこみ土を手で払い除けていく。

 そして、ついに目当てのものを手にいれた。

 目的を達成した達成感に頬を綻ばせる亜門の手にあったのは696番(喰種)のマスクだった。

 

「やった…見つけたぞ…これで723番は喰種(クロ)だ…!」

 

 翌日、この亜門の手柄により笛口リョーコは喰種と断定され討伐令が出ることになる。




 とうとうリョーコさんがCCGにロックオンされてしまいました。
 東京喰種で一番好きなカップリングはカネトーですが、私が一番好きなキャラはヒナミちゃんです。(そこ、ロリコンて言わない。)
 そろそろ本格的に原作に介入したい気持ち半分、ほのぼの日常ギャグパートをやりたい気持ち半分…予定は未定()

 感想、誤字報告お待ちしています。
 
 次回をお楽しみに


~次回予告~


 ついに喰種であることがCCGに露見してしまったリョーコ、その彼女にCCGの魔の手が忍び寄る。
 そんな中、リンネはヒナミと接触し、彼女の願いを、祈りを知る。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第6話

 少女の祈りは狐へと

 さーて次回も、サービスサービスぅ!

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