両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

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前回:梨田朔良、豊富な球種持ってるってよ。


Episode.4

リョウキキ

 

 生まれたとき、俺は左利きだったそうだ。

 それを親に矯正させられて、右利きに。

 

 自分が左利きだったことも忘れてきていた小四の春。

 俺は右腕を骨折し、左腕での生活を余儀なくされた。

 

 そこで自分がかつて左利きだったことを思い出した。

 

 骨折が治っても、俺は左腕も使って生活していた。

 

 小五から始めた野球では、珍しくて格好よさそうという理由から、両投げに挑戦。

 

 右では力強いボールを投げ、左では巧みなコントロール。

 

 こうして、両利きの投手、双葉諒が生まれた。

 

 

 そして、今。

 俺はマウンドに立ち、左打席に立つ佐藤夏三さんを見ている。

 

 佐藤先輩は、バットをまっすぐに高々と掲げるようなフォーム。

 

 俺は、捕手の小野原先輩とサインを交換する。

 すでに、投げられる球種は伝えてある。

 リードは、先輩に任せることにした。

 

 一球目。振りかぶって、投げる。

 パアン、と、小気味いいミットの音がする。

 際どいゾーンに投げ込んだストレートは、ボールと判定される。

 

 二球目。腕を振る。

 その強い振りとは裏腹に遅いボール。

 バッターのタイミングを完全に外したスローカーブ。

 もちろん、ストライク。

 

 三球目。ストレート。

 バッターも振っていったが、振り遅れて三塁側ベンチに飛ぶファール。

 

 四球目。続けてストレート。

 だが、今までの二球のそれよりも数キロ速い。

 高めの釣り球を振らせて、三振にとった。

 

 普通のストレートと全力ストレート。

 そう区別するのが一番わかりやすいだろう。

 

 次のバッターは、高橋秋五さん。右打者。

 バットを肩に置き、寝かせるようなバッティングフォーム。

 

 初球。振りかぶって、力を込めて、投げる。

 真ん中低めのそのボールを先輩は振った。

 が、ボールはそこから下に落ちた。

 フォークで空振りを奪い、ワンストライク。

 

 二球目。ストレート。

 アウトローいっぱいを狙ったが、少し外れてボール。

 

 三球目。スローカーブ。

 バッターも読んでいたのか、タイミングを合わせて打ったが、それでも振り出しが早く、ファール。

 

 四球目。ストレート。

 良いコースに決まったが、さすがにカットされる。

 

 五球目。

 少し高い、とバッターは思っただろう。

 高めに抜けたように見えたそのボールは、ホームベース付近で滑らかに落ち、ストライク。

 縦スライダー。見逃し三振を奪った。

 

 これで、二人とも三振にとった。

 

 朔良のいる方を見ると、朔良もこっちを見ていた。

 

 どういう思いで、俺のピッチングを見ているのだろうか。

 後で聞いてみようか。

 

 とにかく、あと二つだ。

 

 相手打者は左打ちの佐藤先輩。

 もう、球種はすべて見せた。

 あとは、とにかく裏をかくピッチングをするのみだ。

 

 ふとそこで、思い当たる。

 

 左投げを見せよう、と。

 

「すみません、キャプテン!」

 

「お?どうした?」

 

 突然マウンド上の新入部員から声がかかり、少々驚く鈴木四季主将。

 

「あの、俺左投げもできるんですけど、次の二打席、そっちでいいですか?」

 

 は?となる野球部員一同。

 

「え?いや、左投げ、って...。何?両投げなのか、双葉?」

 

「一応、そうですけど。」

 そりゃまあ、困惑するよな...笑

 

「んじゃあ、せっかくだし、見せてもらうか。」

 

「少しだけでいいので、軽く投げさせてもらってもいいですか?」

 

「ああ、準備ができたら言ってくれ。」

 

 俺は、軽く左投げでキャッチボールを始めた。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 まさか、両利きだったとはな...。

 

 驚きの事実をついさっき知った俺、鈴木四季は双葉の様子を見ている。

 

 確かに、何ら違和感なくボールを投げている。

 

 その時、学校グラウンドに、一人の人物が。

 

「!佐藤監督!こんにちは!おい、皆、一回しゅ」

「大丈夫。集まらんでいい。」

 

「わかりました。続けてていいぞ。」

 

 佐藤 洋寿(さとう ひろとし)

 俺たち野球部の監督だ。

 

 佐藤監督は、甲子園出場経験もある元高校球児。捕手をしていたそうだ。

 

「今は?一年生の実力チェック中か?」

 

「そうです。」

 

「今年は、左投げがいるみたいじゃないか。しかもピッチャーで。」

 

「それが...あいつ、双葉諒と言うんですけど、両投げだそうなんです。」

 

「両投げ?器用な奴もいるんだな。」

 

 その時。

 

「キャプテン!準備できました!」

 

 双葉から声がかかる。

 

「オーケー、分かった。よし、じゃあ、再開してくれ。」

 

 さあ、左投げの実力を見せてもらおうか。

 

 

 その初球。

 振りかぶった双葉は、右足をあげた後。

 

 背中をホーム側に見せるほど身体をひねった。

 

「(!トルネード気味!森福みたいなフォームか!)」

 

 そこから通常よりも一塁側に足を踏み出し、腕を振った。

 

 思わず打者の佐藤は少し後ずさる。

 

 しかし、投げられたボールはただのインコースへのストレート。ストライクだ。

 

「(これは...思っていたよりも...すごい!?)」

 

 二球目。アウトコースに制球されたストレート。

 ぎりぎりいっぱいに入ってストライク。

 

 三球目。そこから外に曲がっていくスライダー。

 ボール球だが、バッターが手を出してしまう。

 それほどまでのキレ。

 かなり良い変化球だ。

 

 次の打者は、高橋秋五。右打者だが、双葉は左でいくようだ。

 

 初球。インコースいっぱいへのストレート。

 バッターは、向かってくるような軌道に思わず腰を引く。

 しかし、ストライクだ。

 

 二球目は、アウトコースへのボール。

 バッターは当てにいったが、ボールはシュートして先っぽに当たり、ファール。

 

 三球目。

 インコースへのボールをバッターは振りにいく。

 しかし、投げられたのはおそらくスライダー。

 バッターの目からは、消えるように見えるだろう。

 当てることができず、空振り三振。

 

 圧倒的なピッチング。

 そうとしか言えない。

 

 右投げでは、力強い直球で空振り三振。縦スラを落として、見逃し三振。

 左投げでは、スライダーで二つの空振り三振。

 

 右投げは、力強いピッチング。二つの縦変化球にスローカーブ、良いストレート。

 左投げは、かなり精密なコントロール。右にも左にも通用する二つの横変化球。

 

 かなり期待できるピッチャーが入ってきたな、と俺の心はおどっていた。

 

 

 その後、監督のところに集合。

 

「俺は、監督の佐藤洋寿だ。この学校の理事長とは昔、バッテリーを組んでいたことがある。」

 そこで、一度言葉をきる。

 

「俺の目標は、甲子園を制するチームを作り上げることだ。」

「そのためには、厳しいことも言うし、楽な練習なんてさせる気はない。」

「それでも、本気で俺の目標に付き合ってくれる奴はぜひ野球部に入ってくれ。」

 

 監督の熱い思いを聞いて、辞められる奴なんているわけがない。

 

 俺も、初めにこの監督と会った時、こういうことを言われたのを覚えている。

 

 気付けば、あと約三か月。

 この、生徒思いな素晴らしい監督と野球ができるのもそれくらいだ。

 

 これまでも、そうだったけれど。

 

 これからは、いままでよりもっと一日一日を大切にする必要があるんだな、とふと思った。

 

 

 こうして、新生ほしうら学院高校野球部の活動はスタートした。

 部員、三年生6人、二年生3人、一年生4人の計14人。

 佐藤監督の指導のもと。

 

 甲子園を目指して、暑い熱い夏に向けて。

 

 高校球児たちの船出の時が来た。




実力チェック編、終わりました。
・・双葉諒、有言実行。主人公感はでていたでしょうか?

練習編を何話かしてから、夏大編になります!
暑い熱い戦い、お見逃しなく!


読んでいただき、ありがとうございました!
感想や誤字訂正等、お待ちしています。

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