両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

4 / 30
前回:さあ、新入部員の皆、実力を見せてもらおうか。


Episode.3

キュウシュ

 

 夕方の学校グラウンド。

 

 マウンドには、野球部新入部員の梨田朔良。

 バッターボックス(左)には、野球部三年生の杉山一春。

 

 ピッチャー梨田の見つめる先には、キャッチャー小野原理玖の構えるグラブ。

 サインを交換する。梨田は首を縦に振り、両手を胸の前に。

 

 振りかぶり、投げる。

 

 右手から放たれたボールは、一直線にキャッチャーのグラブへ――。

 

 バッターも動く。ボールを見つつ、バットを振る。

 

 ボールを捉える。鋭く飛んだ打球は、三塁線をきれて、ファール。

 

 主審の鈴木四季キャプテンのボールを受け取り、再度サイン交換。

 

 振りかぶって投げたボールは、ゆったりとした軌道を描いて、キャッチャーミットに収まる。

 カーブ。内角低め、ストライク。少し悔しそうな、打者の顔。

 

 小野原からのボールを受け取った梨田はサイン交換をし、振りかぶる。

 動き出す打者。しかし。

 

 梨田の指から放たれたそのボールは、通常の直球よりも遅かった。

 

 チェンジアップ。

 

 だが、打者も意地を見せ、なんとかバットに当てる。ファール。

 

 次のボールは、外角へのシンカー。

 バッターが見て、ボール。これでワンボール、ツーストライク。

 

 五球目。

 体のほうに曲がってくるスライダー。

 

 六球目。

 ストライクゾーンから外れていくシュート。

 

 いずれも打者がカット。

 

 球種の多様さに感心する観衆たち。(11人)

 

 七球目。

 インハイへの力強いストレート。

 バッターは誘いに乗らず見逃して、ボール。

 

 カウント、ツーボールツーストライクからの、八球目。

 外角へのボール。

 

 バットで捉えようと、スイング。

 

 が、

 梨田が投げたのはSFF、スプリット・フィンガード・ファストボール。

 

 ボールはストレートの軌道からホームベース付近で鋭く落ちる。

 バットが空を切る。

 空振り三振。

 

 梨田は、雄たけびをあげる!!

 

 その姿、まさに...シャイニー!!

 

 

 

 

 

「とまあ、こんなかんじでどうかな?」

 

「いや、意味わかんないです!」

 

 つい、ツッコんでしまった。

 

 三年生との勝負のため、小野原さんに自分の球種を伝えたら、こんなドラマを描いて下さった。

 

 正直に言おう。

 面白い。

 この通りにできるわけないけど、こういう抑え方は結構好きだ。

 

「よし、じゃあ、さっきの話通りにやるから。ミステイクるなよ!」

 

「えっ!?そんな...できるんですか?」

 

 それと、"ミステイクる"とは?

 

「まあ、サクラの出来次第だな。でもさ。」

「成功したら、すごく気持ちいいと思うだろ?」

 

「!!・・そうですね。気持ちいい、と思います。」

 

「期待してるぞ、新入り!」

 

 

 そして無事、ドラマを描ききることに成功。

 かなりの達成感を得たのだった。

 

 まあ、雄たけびはあげなかったけどね。

 

 次の打者は、土屋冬二さん。右打ちだ。

 ダイジェストでお送りします。

 

 一球目、カーブ。内角低め、惜しくも外れてボール。

 

 二球目、ストレート。外角いっぱいに入ってストライク。

 

 三球目、ストレート。高めのボール球も、バッターが振ってファール。

 

 四球目、SFF。バッターがぎりぎり当てて、ファール。

 

 五球目、スライダー。外にはずれてボール。

 

 六球目、カーブ。バッターが上手く打つも、三塁線きれて惜しくもファール。

 

 七球目、シュート。内角外れてボール。

 

 八球目、スライダー。バットに当てられ、ファール。

 

 九球目、ストレート。真後ろに飛ぶファール。

 

 十球目、超スローボール。主審の厳しい判定の結果、ボール。

 

 結果、四球。

 

 土屋先輩は粘るのがうまく、最終的に逃げてしまった自分の負けになった。

 

 ただ、俺は超スローボールには自信を持っているから、逃げたというわけでもないと言える。

 まあそれは、屁理屈みたいなものだけど。

 

 

 その後、もう一打席ずつ杉山先輩と土屋先輩と対戦した。

 

 杉山先輩には、2-2からの五球目、シンカーをうまく拾われてレフト前ヒット。

 

 土屋先輩は、初球のショートを詰まらせてピッチャーゴロに仕留めた。

 

 

 俺の球種は、自分の目から見ても豊富だと思う。

 カーブ、スライダー、SFF、チェンジアップ、シンカー、シュート。それと、超スローボール。

 

 どれも、一級品というわけではないので、これから磨いていかなければならないが、自信のある球種が二つ。

 チェンジアップと、カーブだ。

 これでストレートが強化されれば、更に良くなるだろう。

 そして、もっと他の球種のレベルも上げていきたいと思う。

 

 頑張って努力した先に、真のエースの称号がある。そう思っている。

 

 

 俺を見ている視線を感じる。

 

 その主は、双葉諒。

 

 まさか、同じ高校に進学するなんて思っていなかったけど、これはこれでいい。

 

 エースの座をかけて争う。真剣勝負だ。

 二人でともに切磋琢磨して、なんていうのは詭弁だ。

 

 諒は覚えているか知らないが、俺がエースだったとき、榊シニアは二度堺シニアと戦い、どちらも敗北した。

 

 マウンド上の気迫。

 そのエースに引っ張られ、いいプレーを連発するチームメイト達。

 

 間違いない。

 俺の知りうる最高のエースの姿がそこにあった。

 

 吉良翼さん。

 俺の一番の憧れ。真のエース。

 

 その雰囲気をどこか纏っている諒。

 

 負けたくない。負けられない。

 

 その思いとともに、諒に言う。

 

「負けねえぞ、諒。」

 

 不敵な笑みを浮かべる諒。

 

 無言で四本の指を俺に向けてくる。

 その後、踵を返してマウンドに上がっていった。

 

『四つ、取ってくる。三振。』

 

 四本指の意味をそう解釈した俺は、今後争う好敵手(ライバル)の背を見つめた。

 その背中がやけに格好良く見えた。

 

「はあ...。エースの座は遠いかな...。」

 

 目指すものが意外と遠くにあるのではと感じ、俺は少し不安になったのだった。

 




結構短めにしました。

双葉諒くんの投球は、次回に持ち越しということでお願いします。
梨田朔良の超えるべき投手の能力はどれほどなのか...!

ここで、学校紹介を。
◎ほしうら学院高校
...今年、創立14年目の歴史はまだまだ浅い私立高校。
野球部は、部として認められたのは八年前。それまでは、同好会として活動が行われていた。
現理事長は小野原真嗣(おのはらまさし)。小野原理玖の父。

基本情報は、こんな感じでしょうか。


では。読んでいただき、ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。