両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

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なんとか六月中に投稿できました...。

予告通り、今話で一段落つけて、一時休載させてもらうことになります。

では、春季大会決勝戦、どうぞよろしくです。


Episode.26

最終戦と今後

 

 春季大会決勝戦。

 

 相手は、強豪の香山農林高校(こうやまのうりんこうこう)

 大会が始まった段階から、優勝候補として名前が挙げられていた学校だ。

 

 何よりも特徴的なのは、各選手の体型。

 とにかく、ゴツイ。まさに筋骨隆々、である。

 

 その体格から、強いスイングで、非常に鋭い打球が飛ぶ。

 その打撃力は、言うまでもなく脅威的である。

 

 しかしもちろん、それだけではない。

 

 がっちりとした体格は、エースとて例外ではないのだ。

 

 エース薫元(しげもと)は、右投げで、持ち球はパワーカーブとシンカー。

 ストレートは、特に速いというわけではないが、とにかく重いらしい。

 また、身体が重そうにも見えるのだが、全くそういうことはなく、フィールディングも並以上。

 

 いつも言っていることだが、やはり今回も、簡単には勝てそうにない相手だ。

 

 しかし。

 目標としていた春季大会優勝まで残り一勝。

 

 ここまで来たら、後悔はしたくない。

 絶対に、勝つ!

 

 

 両チームスターティングオーダー

  ほしうら       香山農林

 7 左 玄山大 一番 8 左 梅原

 8 左 東條  二番 4 左 松井

 5 右 松宮  三番 5 右 峯

 3 左 沢良宜 四番 3 左 一条

 9 左 梨田  五番 2 右 倉松

 2 右 小野原 六番 7 右 錦野

 6 右 歌間  七番 9 左 神宮寺

 4 右 渡   八番 1 右 薫元

 1 左 玄山文 九番 6 左 遊佐

 

 

 後攻である、俺たちほしうら学院高校の先発投手、玄山文也がマウンドに上がる。

 

 この大舞台での先発登板だが、文也にはさほど緊張している様子は見られない。

 その通り、相手の初回の攻撃を、空振り三振、ファーストゴロ、センターフライで片付ける。

 

 一方の相手エース薫元も、レフトライナー、見逃し三振、ショートゴロと抑え込む。

 

 二回表、相手四番の一条がセンター前ヒットで出塁するが、次打者倉松のファーストライナーで併殺となり、チャンスは作られず。また、六番錦野はセカンドゴロに倒れる。

 

 

 そしてここから、試合は均衡状態へと突入する。

 文也は自身の特徴を最大限生かし、ヒットは打たれるものの三塁は踏ませず、粘り強く無失点を続ける。

 

 対して打線の方は、薫元の重い球に苦しめられ、更に変化球も効果的に織り交ぜられ。

 四、五回の単打一本ずつと一つの四球のみに抑えられる。

 

 

 そして、思いもよらない事態が発生したのは七回表のことだった。

 ここまで何とか無失点で来ていたほしうら学院高校を、ハプニングが襲った。

 

 この回はテンポよくツーアウトを取った文也。

 打席には、七番の神宮寺。

 

 その、初球。

 少し甘く入ったボールを打たれる。打球は右中間へ。

 

 一塁を回り、二塁へ向かう。

 

 一方、センター伊月の対応も早く、取ってすぐに二塁へと送球。

 タイミングはアウトに近かったが、少し送球がそれる。

 

 ベースから離れてボールを取るショートの道隆。

 ぎりぎりと判断したのか、捕球後、二塁ベースへ飛び込む。

 

 そして、二塁へ猛然と突っ込む神宮寺。

 

 

 砂煙が上がり、両チームが固唾を飲んで判定を待つ。

 

 

 

 

「……セ、セーフ!!」

 

 判定は、セーフ。

 見ると、ボールがランナーの近くに転がっていた。

 

 どうやら、グラブから零れてしまったようだ。

 

 

 

 

 …ん?

 

 違和感に気付いたのは、その後だった。

 

 

 二塁ベースに覆いかぶさるようにしている道隆が、動かないのだ。

 

 洋介が近づき、何やら話している。

 

 

 すると、ベンチに向かって手招きをした。

 監督が出ていく。

 

 俺たちは、心がざわざわし始めた。

 

 

 

 道隆と一緒に戻ってきた監督は、中山田に直ちにキャッチボールをしておくように指示すると、道隆の手の様子を見始めた。

 

 どうやらさっきのプレーで、道隆は左手、グラブに、思いっきりスライディングを食らったようだ。

 

 

 治療をするにも、道隆の痛がりっぷりからして、それは無理そうだ。

 むしろ今すぐ、病院に行った方が良いのでは、というくらい腫れているようにも思える。

 

 

 そして。

 監督は、ショートの選手交代を主審に告げた。

 

 道隆が下がり、代わりには一年の中山田。

 この場面で代わりに入って、果たして問題ないだろうか、見ているこっちが緊張してしまう。

 

 

「…大丈夫だよ、リョウ君。」

 

「道隆!お前...。」

 

「僕の方も、大丈夫だよ。ここで一人だけ立ち去るなんて、できないから...。」

 

 怪我した左手に冷却水を当てながら、苦笑いを見せる道隆。

 

「…おう、最後まで応援しよう。」

 

 俺は、こんな感じの事しか言えなかった。

 

 そんな俺に、監督から、再度肩を作っておくように声がかかる。

 一、二回くらいに、一度ウォーミングアップをしておいたが、文也の好投で、一旦やめておいたのだ。

 

 ここで再度やれ、ということは、クライマックスのピンチでの登板があるかもしれない、ということだろう。

 

 了解です、と言い、ベンチを出ようとしたとき。

 

 グラウンドで打球音がした。

 はっとそちらを向くと。

 

 

 中山田が跳んだ。

 

 

「…アウトォ!!」

 

 ショートライナー、ファインプレー、だ。

 

 

「ね、言ったでしょ?」

 

 驚く俺に、道隆から声がかかる。

 

「巧太郎君、メンタル強いし、すごく上手いし。」

 

「…よく見えてるんだな、周りが。」

 

 中山田は、存在感の無さが特徴。

 悪いけれど、俺は中山田の存在が認知できない瞬間が今でもある。

 

 だが、道隆の目には、しっかりと中山田の姿が捉えられているのだろう。

 

「…リョウ君、試合、頼んだよ。僕はもう、応援しかできないから。」

 

「…出ることになったら、な。」

 

「…うん、頑張って。」

 

「おう、任せとけ。」

 

 そうして俺は、簡易ブルペンへと向かう。

 

 

 

 七回裏、ほしうら学院の攻撃は四番の沢良宜から。

 何とか出たい先頭打者だったが、ストレートに詰まらされてレフトフライ。

 

 ワンナウトとなり、五番梨田が打席へ。

 初球の低めのシンカーを上手く掬って打つと、打球は左中間へ。

 初の長打、ツーベースヒットで、チャンス到来。

 

 六番小野原は、ファーストゴロで進塁打。

 これで、ツーアウト三塁となった。

 

 そして打席には、先程から守備に就いている中山田が。

 

 

 

「(…巧太郎君...お願い、打って!)」

 

 怪我で未だ少し痛む左手。

 でも今は、そんなことはどうでもいい。

 

 彼は、皆から存在感が薄い、とよく言われている。

 

 確かに、そうなのかもしれない。

 でも僕は、知っている。

 

 彼が日々、地道な努力を積み重ねていることを。

 

 彼は、内、外野ともにこなせるユーティリティプレーヤー。

 それでいて、打撃力もある。肩だけは、少し弱いけど。

 

 影が薄いからか、天性の技術か何かと思われているのかもしれないけど、彼の努力を見て、僕は確信した。

 

『僕は、巧太郎君の上には立てない』と。

 

 ただ、諦めたわけではない。

 僕も負けないように努力して、彼に食らいついていくんだ。

 

 

 でも、今は。

 とにかく彼が、打ってくれることを願う。

 

 

 初球。インローを突くストレート。見事なストライク。

 二球目はパワーカーブが外に外れる。

 三球目、ストレートを打つがファール。

 四球目はシンカー。これをカット。

 さらに五球目もシンカー。これは見逃してボール。

 六球目、さらに続けてきたシンカーは、カット。

 七球目。ストレートをはじき返すが、一塁線を切れてファール。

 八球目もストレート。高めに外れてボール。

 九、十球目はパワーカーブで、どちらもカット。

 十一球目、ストレート。これもカットする。

 

 すごい粘り。甘い球をひたすら待っているのか。

 でも、相手エースもやっぱりすごい。

 集中力を切らさず、厳しいボールを投げ続けている。

 

 そして、十二球目。

 バッテリーの選択は、シンカー。

 インコース低め、決して甘いボールではない。

 

 

 まるでそれを、読んでいたかのように。

 足を少し広げ、ジャストミートする。

 

 打球は。

 

 

 レフトの前へ。

 サードランナーのさっくんが、ホームイン!!

 

 遂に、遂に!

 試合の均衡が破れた。

 

 

 

 

 そして。

 八回表、先頭打者に四球を与えたところで、投手交代。

 

 マウンドに向かうは、背番号1。

 

 文也君と左手で握手を交わし。

 僕の方へ、視線を向けてくる。

 

 任せとけ、と、そう言っているのが分かった。

 

 打席には、一番打者。

 一点差。勿論相手の策は送りバント。

 

 きっちりと転がされ、ワンナウト二塁に。

 

 そして、二番松井への、初球。

 アウトコースへのスライダーで、サードファールフライ。

 さらに、三番峯。

 1-1からの三球目、高めのストレートを打たせ、センターフライ。

 

 

 追加点は取れず、迎えた最終回。

 一条が、四番の意地か、2-2からの八球目、見逃せばボールのスライダーを外野へ運び、出塁。

 五番倉松は強硬策で打ってくる。

 が、チェンジアップにタイミングを外され、空振り三振。

 続く六番錦野。

 初球のインコース低め、スライダー。

 打って、打球は三遊間へ。

 

 その刹那。

 僕は、価値を確信する。

 

 

 なぜならそこには...巧太郎君がいるから。

 

 打球を捕り、素早く二塁へ。

 洋くんが捕り、正確に一塁へ。

 

 

 ゲッツー成立。

 一塁審判のアウト!という声がグラウンドに響く。

 

 

 僕たちほしうら学院高校の、春季大会優勝が決定した瞬間だった。

 




優勝しました。これで一段落です。

最後道隆視点にしたのは、何となく別視点で書きたかったのと、ラ!ssで主人公している彼女がモデルなんだから、もうちょっと出番増やしてやらないといけないかな、と思ったからです。
基本的に双葉視点or第三者視点で書いているもので、別視点で書くのは結構新鮮でした。

では、最後に。
これにて一旦休載させていただくことになりますが、再開後皆さんに、これからも応援したい!と思っていただけるよう、色々頑張ろうと思います。

ここまで読んできてくださった皆様方。
本当に、ありがとうございました!!
いつかまた、本作品でお会いできれば大変嬉しいです。

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