予告通り、今話で一段落つけて、一時休載させてもらうことになります。
では、春季大会決勝戦、どうぞよろしくです。
最終戦と今後
春季大会決勝戦。
相手は、強豪の
大会が始まった段階から、優勝候補として名前が挙げられていた学校だ。
何よりも特徴的なのは、各選手の体型。
とにかく、ゴツイ。まさに筋骨隆々、である。
その体格から、強いスイングで、非常に鋭い打球が飛ぶ。
その打撃力は、言うまでもなく脅威的である。
しかしもちろん、それだけではない。
がっちりとした体格は、エースとて例外ではないのだ。
エース
ストレートは、特に速いというわけではないが、とにかく重いらしい。
また、身体が重そうにも見えるのだが、全くそういうことはなく、フィールディングも並以上。
いつも言っていることだが、やはり今回も、簡単には勝てそうにない相手だ。
しかし。
目標としていた春季大会優勝まで残り一勝。
ここまで来たら、後悔はしたくない。
絶対に、勝つ!
両チームスターティングオーダー
ほしうら 香山農林
7 左 玄山大 一番 8 左 梅原
8 左 東條 二番 4 左 松井
5 右 松宮 三番 5 右 峯
3 左 沢良宜 四番 3 左 一条
9 左 梨田 五番 2 右 倉松
2 右 小野原 六番 7 右 錦野
6 右 歌間 七番 9 左 神宮寺
4 右 渡 八番 1 右 薫元
1 左 玄山文 九番 6 左 遊佐
後攻である、俺たちほしうら学院高校の先発投手、玄山文也がマウンドに上がる。
この大舞台での先発登板だが、文也にはさほど緊張している様子は見られない。
その通り、相手の初回の攻撃を、空振り三振、ファーストゴロ、センターフライで片付ける。
一方の相手エース薫元も、レフトライナー、見逃し三振、ショートゴロと抑え込む。
二回表、相手四番の一条がセンター前ヒットで出塁するが、次打者倉松のファーストライナーで併殺となり、チャンスは作られず。また、六番錦野はセカンドゴロに倒れる。
そしてここから、試合は均衡状態へと突入する。
文也は自身の特徴を最大限生かし、ヒットは打たれるものの三塁は踏ませず、粘り強く無失点を続ける。
対して打線の方は、薫元の重い球に苦しめられ、更に変化球も効果的に織り交ぜられ。
四、五回の単打一本ずつと一つの四球のみに抑えられる。
そして、思いもよらない事態が発生したのは七回表のことだった。
ここまで何とか無失点で来ていたほしうら学院高校を、ハプニングが襲った。
この回はテンポよくツーアウトを取った文也。
打席には、七番の神宮寺。
その、初球。
少し甘く入ったボールを打たれる。打球は右中間へ。
一塁を回り、二塁へ向かう。
一方、センター伊月の対応も早く、取ってすぐに二塁へと送球。
タイミングはアウトに近かったが、少し送球がそれる。
ベースから離れてボールを取るショートの道隆。
ぎりぎりと判断したのか、捕球後、二塁ベースへ飛び込む。
そして、二塁へ猛然と突っ込む神宮寺。
砂煙が上がり、両チームが固唾を飲んで判定を待つ。
「……セ、セーフ!!」
判定は、セーフ。
見ると、ボールがランナーの近くに転がっていた。
どうやら、グラブから零れてしまったようだ。
…ん?
違和感に気付いたのは、その後だった。
二塁ベースに覆いかぶさるようにしている道隆が、動かないのだ。
洋介が近づき、何やら話している。
すると、ベンチに向かって手招きをした。
監督が出ていく。
俺たちは、心がざわざわし始めた。
道隆と一緒に戻ってきた監督は、中山田に直ちにキャッチボールをしておくように指示すると、道隆の手の様子を見始めた。
どうやらさっきのプレーで、道隆は左手、グラブに、思いっきりスライディングを食らったようだ。
治療をするにも、道隆の痛がりっぷりからして、それは無理そうだ。
むしろ今すぐ、病院に行った方が良いのでは、というくらい腫れているようにも思える。
そして。
監督は、ショートの選手交代を主審に告げた。
道隆が下がり、代わりには一年の中山田。
この場面で代わりに入って、果たして問題ないだろうか、見ているこっちが緊張してしまう。
「…大丈夫だよ、リョウ君。」
「道隆!お前...。」
「僕の方も、大丈夫だよ。ここで一人だけ立ち去るなんて、できないから...。」
怪我した左手に冷却水を当てながら、苦笑いを見せる道隆。
「…おう、最後まで応援しよう。」
俺は、こんな感じの事しか言えなかった。
そんな俺に、監督から、再度肩を作っておくように声がかかる。
一、二回くらいに、一度ウォーミングアップをしておいたが、文也の好投で、一旦やめておいたのだ。
ここで再度やれ、ということは、クライマックスのピンチでの登板があるかもしれない、ということだろう。
了解です、と言い、ベンチを出ようとしたとき。
グラウンドで打球音がした。
はっとそちらを向くと。
中山田が跳んだ。
「…アウトォ!!」
ショートライナー、ファインプレー、だ。
「ね、言ったでしょ?」
驚く俺に、道隆から声がかかる。
「巧太郎君、メンタル強いし、すごく上手いし。」
「…よく見えてるんだな、周りが。」
中山田は、存在感の無さが特徴。
悪いけれど、俺は中山田の存在が認知できない瞬間が今でもある。
だが、道隆の目には、しっかりと中山田の姿が捉えられているのだろう。
「…リョウ君、試合、頼んだよ。僕はもう、応援しかできないから。」
「…出ることになったら、な。」
「…うん、頑張って。」
「おう、任せとけ。」
そうして俺は、簡易ブルペンへと向かう。
七回裏、ほしうら学院の攻撃は四番の沢良宜から。
何とか出たい先頭打者だったが、ストレートに詰まらされてレフトフライ。
ワンナウトとなり、五番梨田が打席へ。
初球の低めのシンカーを上手く掬って打つと、打球は左中間へ。
初の長打、ツーベースヒットで、チャンス到来。
六番小野原は、ファーストゴロで進塁打。
これで、ツーアウト三塁となった。
そして打席には、先程から守備に就いている中山田が。
「(…巧太郎君...お願い、打って!)」
怪我で未だ少し痛む左手。
でも今は、そんなことはどうでもいい。
彼は、皆から存在感が薄い、とよく言われている。
確かに、そうなのかもしれない。
でも僕は、知っている。
彼が日々、地道な努力を積み重ねていることを。
彼は、内、外野ともにこなせるユーティリティプレーヤー。
それでいて、打撃力もある。肩だけは、少し弱いけど。
影が薄いからか、天性の技術か何かと思われているのかもしれないけど、彼の努力を見て、僕は確信した。
『僕は、巧太郎君の上には立てない』と。
ただ、諦めたわけではない。
僕も負けないように努力して、彼に食らいついていくんだ。
でも、今は。
とにかく彼が、打ってくれることを願う。
初球。インローを突くストレート。見事なストライク。
二球目はパワーカーブが外に外れる。
三球目、ストレートを打つがファール。
四球目はシンカー。これをカット。
さらに五球目もシンカー。これは見逃してボール。
六球目、さらに続けてきたシンカーは、カット。
七球目。ストレートをはじき返すが、一塁線を切れてファール。
八球目もストレート。高めに外れてボール。
九、十球目はパワーカーブで、どちらもカット。
十一球目、ストレート。これもカットする。
すごい粘り。甘い球をひたすら待っているのか。
でも、相手エースもやっぱりすごい。
集中力を切らさず、厳しいボールを投げ続けている。
そして、十二球目。
バッテリーの選択は、シンカー。
インコース低め、決して甘いボールではない。
まるでそれを、読んでいたかのように。
足を少し広げ、ジャストミートする。
打球は。
レフトの前へ。
サードランナーのさっくんが、ホームイン!!
遂に、遂に!
試合の均衡が破れた。
そして。
八回表、先頭打者に四球を与えたところで、投手交代。
マウンドに向かうは、背番号1。
文也君と左手で握手を交わし。
僕の方へ、視線を向けてくる。
任せとけ、と、そう言っているのが分かった。
打席には、一番打者。
一点差。勿論相手の策は送りバント。
きっちりと転がされ、ワンナウト二塁に。
そして、二番松井への、初球。
アウトコースへのスライダーで、サードファールフライ。
さらに、三番峯。
1-1からの三球目、高めのストレートを打たせ、センターフライ。
追加点は取れず、迎えた最終回。
一条が、四番の意地か、2-2からの八球目、見逃せばボールのスライダーを外野へ運び、出塁。
五番倉松は強硬策で打ってくる。
が、チェンジアップにタイミングを外され、空振り三振。
続く六番錦野。
初球のインコース低め、スライダー。
打って、打球は三遊間へ。
その刹那。
僕は、価値を確信する。
なぜならそこには...巧太郎君がいるから。
打球を捕り、素早く二塁へ。
洋くんが捕り、正確に一塁へ。
ゲッツー成立。
一塁審判のアウト!という声がグラウンドに響く。
僕たちほしうら学院高校の、春季大会優勝が決定した瞬間だった。
優勝しました。これで一段落です。
最後道隆視点にしたのは、何となく別視点で書きたかったのと、ラ!ssで主人公している彼女がモデルなんだから、もうちょっと出番増やしてやらないといけないかな、と思ったからです。
基本的に双葉視点or第三者視点で書いているもので、別視点で書くのは結構新鮮でした。
では、最後に。
これにて一旦休載させていただくことになりますが、再開後皆さんに、これからも応援したい!と思っていただけるよう、色々頑張ろうと思います。
ここまで読んできてくださった皆様方。
本当に、ありがとうございました!!
いつかまた、本作品でお会いできれば大変嬉しいです。