両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

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約一か月ぶりのこんにちは。
もう、月一投稿固定でいいですかね?

まあひとまずそれは置いといて。
春季地区大会決勝の模様をお送りします。


Episode.22

地区大決勝と主将

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

 

 そう言いながら、深々と礼をする。

 

 

 聞こえてくるのは、試合が進むにつれてだんだんと増えてきていた歓声と、拍手。

 

 

 

 

 

 春季大会の地区予選、決勝戦。

 

 勝利を重ねて勝ち進んだ俺たちは、七回を終えて3-1と二点ビハインドの状態。

 さらに――。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ...。」

 

 毎試合マウンドに立ち、投手陣の核となっていた俺は、疲労のピークを迎えていた。

 

 残念ながら、この地区大会までは一年生はベンチ入りできないため、俺が基本的にマウンドに立ち続けていた。

 

 

「おい、諒、大丈夫か?」

 

「ああ、なんとか、な...。」

 

「待ってろよ。逆転して、楽にしてやるからな。」

 

「期待してるぞ、友章...。」

 

 

 疲労困憊。

 

 この時の双葉は、まさにその語通りの状態だった。

 

 

 

「さあ、渡!先頭出ていこう!」

 

 主将の松宮の呼びかけに、頷いて応える渡。

 

 

 

 が、カウント1-1から、外のスライダーを引っ掛けてサードゴロに倒れる。

 

 

「くそっ、やっぱりスライダーか。」

「ああ。二回以降、キレをずっと維持してやがる。スタミナあるな。」

 

 

 マウンドに立つのは、自由ヶ丘高校エースの、氷川(ひかわ)

 右サイドハンドから、140キロを超えるストレート、それに迫るスピードの出ている高速スライダーが武器。

 タイミングの取りづらい、クセのあるフォームも相まって、ほしうら学院打線は沈黙させられていた。

 

 

 続く打者は、一番に入った歌間。

 初回にツーベースヒットを打って以降、完全に抑え込まれていた。

 

「(なんとかして僕が出ないと...!

 このままじゃ、頑張ってるリョウ君を見殺しにするようなもんだよ...!)」

 

 

 際どいボールにも何とか食らいつき、粘り続ける。

 

 そして――。

 

「ボール、フォア!」

 四球を勝ち取った。

 

 

「ナイス!ナイス!」

「いいぞ、道隆!」

 

 

 ベンチの声にガッツポーズで応え、次打者の東條に目をやる。

 

「(イッちゃん、あとは任せたよ!)」

 

「(おう、何とかしてやるよ!)」

 

 

 打席に入るや否や、バントの構えを見せる東條。

 バント、そして東條の足の両方を警戒してか、内野が全体的に前に出てくる。

 

 

 投手は、インローにスライダーを投じる。

 

 

 ここで東條がバットを引き、打ちにいく。

 意表を突いたバスターだ。

 

 

 だが。

 

 相手内野陣も読んでいたのか、いつの間にか後進している。

 

 

 東條が思いっきり叩きつけて打った打球は、センター方向へ。

 打球が高くはねる。

 セカンドが取りにいき、ショートはベースカバーに。

 

 ゲッツーか。

 

 誰もがそう思ったであろうその時。

 

 

 

 突如。

 打球がそれまでと全く違う方向に跳ねる。

 反応できないセカンド。

 ボールは勢いよく、外野へと転がっていく。

 

 

 歌間、激走。

 三塁に滑り込む。

 ワンアウト一、三塁である。

 

 

 

 

「悪い。俺のせいで。」

 

 

 タイムを取り、自由ヶ丘高校の内野陣がマウンドに集まる。

 ベンチからは伝令も出てきた。

 

「いやいや、キャプテン、あれは仕方ないよ。」

 

「そうそう。あんなの、相手がラッキーだっただけだって。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

「それよりも、二点リードでこのピンチってことの方が重要だから。」

 

「ああ。ベンチから、詳しい指示は出たか?」

 

「そうですね。三番の松宮が今日は一番当たってますからね。

 ゲッツー狙いに絞って、中間守備でいいのでは、と。」

 

「まあ、そうだろうな。お前の意見は?」

 

「俺はもちろん、打たせる気なんてないよ。」

 

「そうだな。三振が一番良いわけだし、頼むぞ、エース!」

 

 

 そして、輪が解ける。

 

 

 

 一方。久々にチャンスをつくったほしうら学院。

 

 

「外してきますかね。」

 

「どうだろうな...。」

 

「こっちのサインは?」

 

「ん?ああ。

 

 

 

 とりあえず、一点を取りにいくよ。」

 

 

 

 ワンアウト一、三塁。

 打席には、キャプテンの松宮。

 

 

 その初球。

 

 スクイズに成功する。

 一点を返した。

 

 

 ツーアウト二塁となって、四番沢良宜。

 初球のストレートをレフトにはじき返し、ランナー一、三塁に。

 

 

 さらに沢良宜、二盗を決め、二、三塁とする。

 

 

 ここで、バッテリーは満塁策を選択。

 

 五番梨田を歩かせる。これで、ツーアウトフルベース。

 

 

 打席に入るのは、六番小野原。

 

 この大会、三回戦以外の試合では、常に双葉とバッテリーを組んできた。

 辛抱強く投げ続けてきた、その努力にしっかりと報いたい。

 

 他ならぬ、自分が。双葉の、女房役として。

 

 

 強い想いをバットに込め。

 

 アウトコースの直球。思いっきり打ち返す。

 

 

 逆らわずきれいに捉えられた打球は、ライト前――。

 

 

 

 

 パシッ!ザザーァッ!

 

 

 抜けなかった。

 

 

 セカンドを守る、自由ヶ丘高校キャプテンの意地か。

 

 先程のエラーを帳消しにする、ファインプレー。

 

 

 

 結局、ほしうら学院高校は、この回一点止まり。

 

 未だ、負けている展開。攻撃は、残り一回。

 

 

 

「おいおい!何辛気臭い顔してんの?この回も抑えて、逆転するんだろ?」

 

 

 皆、ハッとして声の主を見る。

 

「双葉。。」

 

「・・俺、お前らの熱意受け取ったよ。だからもう、絶対に失点しねえ!」

 

「リョウ君。。」

 

「この試合、ぜっったい、勝つぞ!!!」

 

「「「応!!!」」」

 

 

 

 八回ウラ。

 

 先頭は、二番源。四球で空振り三振。

 続く三番波多野も、四球で空振り三振。

 そして四番江上を、五球目で見逃し三振に切って取る。

 

 ここにきて、双葉の圧巻のピッチング。

 

 

 そして。

 運命の、最終回。ほしうら学院、最後の攻撃。

 

 先頭は、七番の玄山。

 

 彼は、この大会中に一度、マウンドに上がっていた。

 だが結果は、五回四失点。

 

 不本意な投球だった。

 久しぶりの公式戦のマウンドだったとはいえ。

 

 迷惑をかけたと思った。チームの、エースに。

 

 

 だから。

 その分、打撃で貢献しないといけないんだ、と、そう思った。

 

 

 

 

「よっしゃあ!ナイスバッティン!」

 

 玄山先輩がセンター前ヒットで出塁し、続いて打席に入るのは俺。

 

 

 今日はあまり、チームに良いリズムを持ってこれなかった。

 疲労はもちろんある。

 

 だが、その前に、自分はこのチームのエースであり。

 

 俺が簡単に弱音を吐くなんて、そんなことは許されないと思っていた。

 

 

 だけど、無理だった。

 正直、負けてもいいかな、なんてふと思ってしまった。

 

 

 でも。

 皆から、勇気と闘志をもらった。

 

 自分は一人ではないと、強く感じた。

 

 

 このチームで。

 

 このチームで、勝ち続けたい。

 

 

 そう、改めて思った。

 

 

 

 しっかりと送りバントを決めて、ワンアウト二塁として、次の打者たちに託す。

 

 

 打席に入るは、九番の渡。

 

 守備で、勝利に貢献してきた自負はある。

 だが、打撃において、自分が貢献できたと思える試合はここまで一度もない。

 

 だからこそ。

 この試合、この場面。

 

 打って貢献したい。

 

 

 そう思っていたが、二球で追い込まれてしまう。

 

 

 三、四球目は食らいついて粘り、五球目はボール球を見逃す。

 

 

 そして、六球目。

 

 投手氷川の投じたスライダーが。

 

 

 すっぽ抜け、渡の腰に当たる。

 

 

 デッドボール。

 ワンアウト一、二塁と、チャンスが拡大。

 

 

 思わぬ形ではあるが、とにかく逆転のチャンス。

 

 

 対する自由ヶ丘。このピンチに、今日三回目のタイムを取る。

 

 次打者は、一番歌間。

 初回にツーベースヒットを打って、先制のホームを踏んでいる。

 だがそれ以降は、ヒットを許してはいない。

 ただ、前の回に粘られて四球を選ばれている。

 注意は、しっかりとしておかなければならない打者である。

 

 

 とはいえ、もう最終回。

 

 ここまできたら、あとはもうエースを信じるしかない。

 

 

 再開後の初球。

 先ほど抜けてしまったスライダーを完璧なコースに決め、空振りを奪う。

 

 二球目。

 ストレートが高めに外れる。カウント1ー1となる。

 

 三球目。

 スライダー。歌間の打球はファールとなって、追い込んだ。

 

 四球目。

 ストレート。またも歌間はファール。

 

 五球目。

 ストレート。釣り玉気味にインハイに外し、カウントは2-2。

 

 

 次で決まる。誰もがそう思った。

 

 

 六球目。

 選択したのは、ストレート。

 インコース、低め。完璧なボール。

 

 

 カキッッ

 

 

 歌間は手を出したが、打球は詰まって、弱弱しく飛ぶ。

 

 

 セカンド、ライト、センター。三人が、打球を追う。

 

 

 落ちるのか、捕るのか。

 

 際どいラインで、ランナー二人も戸惑っている。

 

 

 

 そして、

 

 

 パシッ

 と、グラブが、ボールを捕った音がする。

 

 

 

 と、同時に。

 

 

 

 ドゴォッ

 と、人同士が、交錯した音もした。

 

 

「っっ!!」

 

 グラウンド内、両ベンチ、そして観客席に、動揺が走る。

 

 

 慌てて駆け寄る自由ヶ丘の選手たち、そして監督。

 

 

 どうやら、セカンドとライトが接触してしまったようだった。

 

 当たり前ながら、試合は一時中断である。

 

 

 

 

「本当に、大丈夫なんだね?」

 

「ええ、この通りですよ。ちゃんと診てもらって、処置もしてもらいましたし、いいでしょう?」

 

「・・無理をしているようだったら、即刻交代してもらうからね。」

 

「はい!」

 

 

 そのように言葉を交わし、ベンチから自由ヶ丘高校キャプテンが飛び出していく。

 

 

 その元気な姿に、観客席からは拍手がおこる。

 

 

 

 ただの軽い接触プレーだったようで、ライトの選手はほぼ無傷。

 

 セカンドの彼も、少し怪しげではあるが、元気なようだ。

 

 

 歌間の打球。

 

 セカンドのグラブにしっかりと収まっていたため、アウトと判定。

 

 

 ツーアウト一、二塁。打者は二番東條という場面からの再開となる。

 

 

 

 再開後の初球だった。

 

 東條の叩きつけた打球が、一二塁間に転がる。

 

 ファーストが追いかけて、捕球。即、一塁を見る。

 

 

 が、その時、彼の動きが止まった。

 

 

 彼の目に映っていたのは、一塁ベース後方で倒れ込む、主将の姿だった。

 

 

 

 ハッと気付き、慌てて一塁に目をやると、投手の氷川が待つ横を、東條が既に駆け抜けていた。

 

 

 

「だから、つまずいてしまっただけですって。全然大丈夫ですから。」

 

「・・悪いけど、信じられないね。どうしても、接触プレーの影響だと思われてしまうんだけど。」

 

「ですから、大丈夫って本人が言っているんですから、別に問題はないでしょう?」

 

「それでもね...」

 

「いいじゃないですか!あとワンアウトで終わるんですよ?」

 

「だから、その一つのアウトを取る過程でだね...」

 

「とにかく、自分は本当に大丈夫ですから!早く再開しないと...!」

 

「うーん。。」

 

 

 審判に対し、強く言いきる。

 おそらく、怪我の箇所は痛んでいるはずだ。

 

 それでも、グラウンドに立ち続け、プレーを続けようという姿勢を見せている。

 

 それほどまでに、彼のこの試合に懸ける想いが強いということであろう。

 

 

 

 最終的に審判側が折れて、試合は再度再開されることに。

 

 

 

 

 ツーアウトフルベース。

 打席には、キャプテンの松宮先輩。

 

 さっきからずっとハプニング続きで、試合が止められている。

 

 そんな中でも、自分のチームメイトは皆、全く集中を切らしていない。

 

 

 頼もしい。

 

 

「キャプテン!一本、お願いします!」

 

 俺のこの想いは、果たして届いているだろうか。

 

 

 

 打席に入る。

 

 どうしてだろうか。

 ベンチの皆の声が、やけに強く脳に響く。

 

 力が、わいてくる。

 

 

 なんだか、打てる気しかしない。

 

 

 初球。インコースにストレート。

 完璧なボールで、手が出せない。ストライク。

 

 だが、不思議と心は落ち着いている。

 

 

 二球目。タイミングを外すための、スローカーブ。

 この試合、ほとんど投げていないボール。自信が無いのだろうか。

 外れて、ボールになる。

 

 

 三球目。インハイへのストレートを見逃す。ボールだ。

 手を出してほしかったのかな、俺は、そんなことまで考えている。

 

 1-2になって、バッティングカウントだ。

 

 

 四球目。アウトロー、スライダー。

 丁寧に投げられていて、ファールにするのが精いっぱい。

 

 

 次で、絶対に勝負に来る。

 そう確信した。

 

 五球目。

 来たのはアウトローのボール。ストレートか。

 

 ジャストミートして、逆らわずに打ち返す。

 

 

 打球は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・最後、残念だったな。」

 

 帰りのバス。隣に座った大也が、そう言った。

 

 

「いや。完全に実力不足だよ。

 惜しいように見えたのは、あっちのセカンドがケガしてたからだし。

 普通の状態だったら、ただの平凡なセカンドゴロだったと思う。すまんな。打てなくて。」

 

「謝る必要は、どこにもないぞ。」

 

「必要なくても、謝りたい気分なんだからそうさせてくれ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

 

 

 最後の打球。

 

 抜けたと思ったそれは。

 

 

 懸命に走って追いついたセカンドに捕球され。

 

 ファーストランナーが二塁でフォースアウト。

 

 

 こうして、試合は終わった。

 

 

 

「リベンジ、したいな。」

 

「したい、じゃないだろ?()()んだよ。」

 

「そうだな。」

 

「春季大会、本番はこれからだな。」

 

「ああ。初戦の先発はもちろん、我らが誇る天才一年生投手、玄山文也だよな?」

 

「・・どう返したら正解なのかがわからん。。」

 

 

 

 そう。春季大会は、この試合で終わりではない。

 

 これまでは、あくまで地区予選。

 いうなれば、前哨戦。

 

 ここからが、本当の戦いであり。

 最終目標である夏の甲子園大会への弾みをつけるため、勝たなければならないのだ。

 

 

 そのためには。

 

 落ち込んでいる暇など、ない。

 

 

 ただひたすらに、前を向いて。

 

 進んでいくしか、道はないのだから。

 




なんかダラダラと長くてすみません。
もっとコンパクトにキレイに書けるように腕を上げたいですね。

では、読んで下さって、ありがとうございました!

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