両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

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本章、開幕です。

プレイボール!!


第一章
Episode.1


ニュウガク

 

 俺は、双葉諒。今日から私立ほしうら学院高校に入学する高校一年生だ。

 

 

 去年の春、そして夏。

 俺は、奇跡に出会った。

 

 球場近くに住んでいた俺は、ほんの気まぐれでとある試合を見に行った。

 この試合が、俺の一年後を決めるものになるとは全く思いもせずに。

 

 二十一世紀枠で出場したUT-Z高校とセンバツ六年連続出場の近年評価をあげてきている高校の対戦。

 前評判では、UT-Z高校の負けが濃いと思われていた。

 

 そして、その試合。

 UT-Z高校は、3-0で完封勝ちを収めた。

 

 初回、投手の吉良は、一~三番を三者連続三振に切って取り、その後六回まで無安打に抑える。

 予想外の展開に心が乱れた相手投手。

 三番吉良、四番安住の連続ヒットで一点を失い、更に五番当奈にツーランを許す。

 

 吉良は、被安打を、七回の二番打者のポテンヒット、九回の代打の選手の内野安打による二本に抑えた。

 完璧なピッチングだった。

 

 見ていて、鳥肌が立った。

 皆が無理だろうと思っていた中で、それを覆しての勝利。

 すごく、格好良かった。

 

 俺は、野球をやっていて、名の知れたシニアチームでエースだったから、高校のスカウトも来ていた。

 しかし、どこか物足りなさを感じていた。

 

 UT-Z高校の試合を見て思った。

 俺が求めていたのはこういうことだったのかな、と。

 

 センバツは、勢いに乗ったUT-Z高校が制し、その後の夏。

 マークが厳しくなる中で、エース吉良を中心にまとまりを見せ、春夏連覇を達成。

 

 一方、俺は、家を出て一人暮らしをし、ほしうら学院高校に行くことにした。

 選んだ理由は、美しい海に憧れがあったから。

 

 その地で、俺は奇跡をもう一度日本に轟かせてやろうと思う。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 登校中。

 

 俺は、少し考え事をしながら歩いていた。

 だから、横の路地から走ってきた男子とぶつかってしまった。

 

「いってえ!!」「痛!!」

 

 登校中にぶつかるなんて少女マンガかよ、とか思いながら、男子の方を見る。

 その男子は、頭を下げて、謝ってきた。

 

「ごめん!走って、あまり周りが見えてなかったよ...」

 

「いや、俺も、考え事してたから...大丈夫。」

 

 そう言って別れ、学校に向かおうと歩き始めようとした。

 

「ねえ!その制服!もしかして、ほしうら?僕と一緒!」

 

 確かに、言われてみれば同じ制服だ。

 

「せっかくだし、一緒に行こう?てか、行こう!」

 

「え??」

 

 突然の誘いに何も反応できずに黙る俺。

 

 その沈黙を、肯定と受け取ったのか、その男子は、俺と一緒に歩き出した。

 

 

 おかしい。

 普通に考えて、こんなことがあるのか。いやないだろうな。

 

 俺の隣を歩いているのはさっき会った(正確にはぶつかった)ばかりの奴。

 

 名前は、歌間 道隆(うたま みちたか)というらしい、のだが、

 

 

『ミッチーでいいよ!』

 

『は?』

 

『呼び方。ミッチーって呼んでいいよ、って。』

 

『いや、呼ばんし。』

 

『君は?名前は何ていうの?』

 

『双葉諒。』

 

『ふたば、りょう、か...。よし、じゃあ、リョウ君ね!』

 

『あだ名じゃないんかい!』

 

『つけにくいんだから仕方ない。ってか、ツッコミ!もしかして、関西の人?』

 

『ツッコミと関西に関係があるかは知らんが、俺は、確かに、関西から来た。』

 

『ええーっ!!本当に!?』

 

『・・驚きすぎ。』

 

『何で?何でココに来たの?』

 

『教える必要を感じないのだが?』

 

『いいじゃん、友達だし。』

 

『会って数分しか経ってないのに友達とか...判定ガバガバだな。』

 

『なんて?』

 

『別に。とにかく、みっちーに教える気は今のところないから。』

 

『みっちーじゃなくて、"ミッチー"!』

 

『バーカ。ひらがなはわざとだよ。誰がまじめにあだ名で呼ぶか!』

 

『ひらがな?よく、わかんないんだけど。』

 

『わからないならそれでいいよ、道隆クン。』

 

『その"クン"は、馬鹿にされてる気がするんだけど。』

 

『(ひらがなとカタカナ、判別できてるやないかい!)』

 

 

 とまあ、こんな感じで歩き、学校に到着。

 ・・・。最後当たりの茶番は、忘れてください...。

 

「洋く~ん!」

 

 友達を見つけたのか、手を振っている。

 道隆は、その男子の方へ向かう。

 俺も、道隆に手招きされたので、ついていく。

 

「ミッチー!置いてっちゃって、ごめん!」

 

「寝坊した僕が悪いんだから、謝らんでいいよ。」

 

 ミッチーって呼ぶ奴、いるんだな。

 

「ああ、忘れてた。この人は、リョウ君、双葉諒くんだよ。ここまで、一緒に来たんだ。」

 

 あれ?何だか洋くんの視線が険しくなった?

 

「リョウ君、ね。俺は、渡 洋介(わたり ようすけ)。ミッチーの幼馴染なんだ。よろしく。」

 

「ああ、よろしく。」

 

 気のせいかな?やけに強く"幼馴染"って言った気が...。

 

「そうだ!クラス分け見に行かないと!行こう!」

 

 そう言って駆け出す道隆。

 その後ろをピッタリと追いかける洋介。

 

 俺、三年間大丈夫かな...。

 漠然とした不安を抱いた俺も、その二人を追いかける。

 

 結果からいうと、道隆と洋介は一組、俺は二組だった。

 

 洋介さん?自慢気な顔を俺に向けてますけどどうしたんですか?

 

 一年生は、140人。4クラス、35人で作ってある。

 知ってる名前はないだろうけど、一応クラスの名簿を見てみると、既視感を覚えた名前が一つ。

 

 梨田 朔良(なしだ さくら)

 中学時代、シニアの関係で見たことがあるような気がする...。

 

 教室に行けば、何か分かるだろうと思い、向かう。

 

 この高校の入学式は、新入生はまず教室で待機し、先生が呼びに来るとそれに付いて行き、入場を経て、開式だ。

 まあ、どこも似たような形式だと思うが。

 

 教室に入り、自分の席を探す。

 俺の席は...廊下側から三列目、前から五列目で、神席だと言える。

 別に、寝たいからとかではなく、素直に一番後ろの席は嬉しい。

 教室の席は横に七列、縦に五列だ。

 

 左隣は女子で、右隣が既視感を覚えた梨田朔良。

 

 その既視感は、直後に解決した。

 

「なあ!堺シニアの双葉か?」

 

「え?」

 

 声のした方を見ると、そこには、俺よりも背が高く、ヒョロッとしたのがいた。

 

「忘れたわけないよな!」

 

「俺は、確かに堺シニアだったけど...。ごめん、誰だっけ?」

 

 するとその男は、全身を使った大げさなリアクションの後。

 

「俺だよ、榊シニアの梨田朔良!」

 

「榊シニア!?ってあの?」

 

「良かった...。これすら忘れられてたらどうしようかと...」

 

「って、ごめん。榊シニアって、何?知らないんだけど。」

 

 こう言うと、朔良は固まってしまった。

 

 

 その後、朔良が溶けてから。

 

 まず、榊シニアのことは忘れていないと誤解を解いた。

 朔良は、俺がいじり過ぎたからか、なんか、泣き出しそうな顔をしていた。

 なんか、悪いことしちゃったのかもな、俺。

 

 その上で、ここに来た経緯を聞こうと思ったが、先生が来た。

 ここから先は、式が終わってからだな。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 中学時代。

 俺は、堺シニアというチームに所属していた。

 

 監督の音納 栄壱(おとの えいいち)さんは、甲子園出場経験もある凄腕の指導者。

 監督の指導で力をつけ、チームは強くなった。全国大会出場経験もある。

 俺は最終学年の時、そのチームでエースだった。

 

 音納監督には、三つ下の弟がいた。

 

 名前は、音納 栄喜(おとの さとのぶ)

 彼も、甲子園出場経験者で、プロに入るかもと言われていた。

 しかし、彼はプロには行かず、榊シニアをつくった。

 詳しいことは分からないが、兄への対抗心を燃やしたと言われている。

 

 榊シニアも、監督の下で成長。

 俺と同級生のエースが、そう、梨田朔良だった。

 

 監督が兄弟ということで、何度か練習試合もしていた。

 しかし、俺は名前をアバウトに覚えていただけで、正確に覚えられていなかったようだ。

 確か、あの頃の朔良は、背が低く、俺よりも低かったはずだが、一気に伸びていた。

 

 

 どう成長しているのか。これから楽しみだな。




読んでいただき、ありがとうございました!!

一応...
・歌間道隆:高海千歌
・渡 洋介:渡辺 曜
・梨田朔良:桜内梨子


では。
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