両投げ両打ち!!   作:kwhr2069

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お久しぶりです。
一か月って、こんなに早く経つんですね。

正直、ここまで空いてしまうとは自分でも思っていませんでした。
すみません。

ストーリーとしては、夏休みが明けたという時系列でみていただければよいかと。
てことで、どーぞ。


Episode.17

転校生と野球部員

 

 今日は、9月1日。

 二学期が始まるこの日、俺のクラスは若干そわそわしていた。

 

 どうやら、転校生が来るらしい。

 教室内は、男か女かの話で盛り上がっていた。

 

 時間になり、先生と一人の男子が教室に入ってきた。

 

 ここで、転校生恒例の、名前披露。

 

『東條 伊月』

 黒板に書かれた名前には、どこか見覚えがあった。

 

 

「い、伊月?」

 

 朔良の声。

 

「ん...?朔良!なんでココに?」

 

 

 どうやら、朔良は知り合いのようだ。

 かくいう俺も、どこかで見たような...。

 

 朔良が知ってるってことは、野球関係かな?

 

 

 そうして考えて。

 俺が東條のことを思い出したのは、丁度朝のHRが終わったタイミングだった。

 

 自身の記憶を確かめに、俺は東條の席へ行く。

 

「なあ、もしかして東條って、パワフルシニアにいた?」

 

「ん?そうだけど、君は?」

 

「俺か?双葉諒っていうんだ。よろしく。ちなみに、堺シニアだったぜ。」

 

「堺シニア...。」

 

 

「関西のチームだろ。忘れたのか?」

 とここで、朔良の登場である。

 

「仕方ないだろ。僕、記憶力ないし。」

 

「いや、知らんわ。って、そうじゃなくて!」

「伊月、いきなり転校なんてしてきたのは、どうしてだ?」

 

「あれ?知らない?僕の祖父母が、ココに住んでるから、来たんだよ。」

 

「理由、それだけじゃないだろ?」

 

「悪い。話す気分じゃないから、後にしてくれ。」

 

 そう言って席を立つと、教室を出て行った。

 

「(何か、あったみたいだ。踏み込めない雰囲気だな...。)」

 

 

 沈黙が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・ごめん、トイレって、どこ?」

 

 それを破ったのは、恥ずかしさに顔を覆った東條であった。

 

 

 東條 伊月(とうじょう いづき)

 ある事情から、俺ら世代では結構有名な選手だ。

 

 パワフルシニア不動の一番、圧倒的出塁率を誇る選手だった。

 なんといっても、その俊足たるや。本当に驚異的だった。

 

 ただ、中三の夏初め頃、どういうわけか、試合に出ていないという噂があった。

 

 結局、その真相は明らかにはならなかったが。

 

 確かな実力はあるのだから。

 ぜひ、野球部に入ってほしい!

 

 

 

 昼休み。

 俺、朔良、東條の三人は、昼食を手に、なんとなく屋上へ。

 

 俺は早速、

「東條、野球部に入ってくれないか。」と聞く。

 

 東條がどんな理由でココに来たのかは分からない。

 向こうで何かあったのかもしれない。

 

 だが俺は、自分のことを一番に考えずにはいられなかった。

 とにかく今は、野球部員が必要で、誘える人は誘っておきたかった。

 

 

 しばしの沈黙から、東條は、

「僕はもう、野球が嫌いになったんだよ。」と言った。

 

 驚く俺と朔良をよそに、東條は自身の抱えるコンプレックスと、転校の理由について話し始めた。

 

 

 僕は、確かにシニアで活躍してた。

 でも、中三の春頃から成長していったチームメイトに抜かれて、レギュラー降ろされたんだ。

 

 それから高校に入って。

 その頃は、野球がまだ好きだったから、当然のように野球部に入ったよ。

 

 

 でも、そこから真の地獄を味わうようになったんだ。

 兄貴と比較されて、馬鹿にされる毎日だった。

 

 それまで憧れだった兄貴の存在が、急に鬱陶しくなった。

 

 そして、そんな想いを抱いている自分自身も嫌になったんだ。

 

 

 兄貴はホントにスゴイし、尊敬してる。

 

 そんな遠い存在の兄貴と比べられて、とうとう野球が嫌いになったんだよ。

 

 

 

 黙って聞いていた。

 

 兄の存在。

 俺は、長い間それに苦しめられている一人の後輩を知っている。

 

 彼も、あまりに大きい兄の存在に、自分を見失いそうになっていた。

 

 

 東條は、祖父母の実家がこの学校の近くにあるらしい。

 だからこの学校に転校してきたということだった。

 

 

「・・そうだったんだな。」

 

 聞き終えた朔良は、納得したように言った。

 事情も知らずに聞いて悪かった、と。

 

 しかし、俺は違った。

 

 彼の真の想いに期待していた。

 

「確かに、それは辛い経験だろうな。俺はそんなこと、経験したこともないから分かんないけどさ。」

 

 でも、

 

「東條。お前は本当に、野球が嫌いなのか?」

 

「・・ああ、嫌いだよ。悪いが、お前の期待には、沿えられないな。」

 

 

「・・野球そのものは。」

 

「ん?」

 

「野球自体は、どうなんだよ。」

「お前は、本当の野球の楽しさっていうのが、まだ分かってないんじゃねーのか。」

 

「そんな筈はねえ!僕は、痛いほど思い知ったんだ。」

「周りの奴にバカにされて、頑張っても思い通りにプレーできることもなくて。」

「そんな競技、やりたいと思うか?」

「だから、」

 

「じゃあ上手くなればいい!」

 

「っ!」

 

「本気でやるんだよ。周りなんて、ほんとに見えなくなっちまうぐらいに全力で。」

「いくら頑張っても上手くなれない?当たり前だ!それが野球だ!それが、スポーツってもんだろ!」

 

「・・・。」

 

「お前だって、本当はわかってるんだろ?自分の今の選択が、”逃げ”なんだってことくらい、さ。」

 

 

「改めて、聞くぞ。東條、お前は野球、好きか?」

 

「・・嫌いでは、ない。」

 

「ハハッ、素直じゃねーな。」

 

「・・悪かったな。」

 

「つーことで、だ。」

「一緒に野球、やろうぜ!下手とか言ってきたやつなんて、見返してやればいいんだよ!」

「一緒に、甲子園、行こう!」

 

 

 

 

 

 その日の放課後。

 

 僕は、久しぶりに野球のユニフォームに袖を通していた。

 

 

「やっぱ、似合ってんな。」

 

「そうか?」

「・・ありがとな、双葉。」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもない。」

 

「そっか。」

「ああ、俺のことは、諒でいいよ。俺も伊月って、呼ばせてもらっていい、だろ?」

 

「もちろん。」

「って、お前、聞こえてんじゃんかよ。」

 

 

 

 その日。

 久しぶりに心の底から、野球を楽しめた気がした。

 

 その楽しみは、これまでの何にも代えがたいものだった。

 

 

 僕は、野球が好きなんだと気付けてよかった。

 

 兄という憧れの存在を、また追いかけるきっかけが得られた。

 

 その道のりは大変長く、きっと辛いことがたくさん待ち受けているに違いない。

 

 

 でも、諒がいれば。

 

 諒と一緒なら、どんなことがあっても乗り越えられるんじゃないか。

 

 

 強く、そう思える。

 




読んでくださって、ありがとうございました。

いや~、ホントに久しぶりすぎて、いろいろ忘れちゃってますね。
こまめに書いていかないと...!

これから、ストーリースピードを上げていけたらいいのですが。
できる範囲内で頑張りますので、温かく見守っていただければ、と思います。

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