ナツ、ヨセン
五月。
練習。合宿。練習。練習。
六月。
梅雨の時期。雨。練習。雨。雨。
そして、六月下旬。
夏の全国高校野球選手権大会の県予選、抽選が行われた。
結果、一回戦は、
ちなみに、三回戦で、第二シードの
「俺たちは、とにかく人数が少ない。」
試合前日。皆で気合を入れる。キャプテンが話しているところだ。
「試合は総力戦になってくるから、一年生にも、もちろん心の準備が必要だ。」
「皆で戦って、勝利を手にするぞ!」
ここでいったん言葉をきった後、
「目標は、もちろん甲子園出場!さあ、いくぞ!」
「「「オオーー!!!」」」
さあ、甲子園への戦いが幕を開ける!
翌日。
ほしうら学院高校と清貧高校との試合。
清貧高校は、エースの
左近投手は、三年生で、左のサイドハンド。
持ち球は、スライダーとスクリュー。コントロール良く投げ込んでくるタイプだ。
この試合、ほしうら学院の先発投手はこちらもエースの後藤六。
ほしうら学院の後攻で始まったこの試合。
四回表まで、テンポ良く、ランナーも出ずに進む。
四回のウラ、先頭の杉山がショートへの内野安打で出塁する。
二番の高橋がきっちりと送り、一死二塁。
三番松宮はレフトフライに倒れ、二死二塁となる。
が、四番鈴木の打席の初球、バッテリーエラーでランナーは三塁に進塁。ここで、鈴木がしっかりとセンター前にタイムリーを放ち、ほしうら学院は一点先制。
その後、六回表。
ワンアウトから、一番打者の仁科がツーベースヒットを放つ。
二死三塁となって、三番でエースの左近がフォークを巧くすくって打ち、タイムリー。同点となる。
しかし、六回ウラ。
ツーアウトから三番松宮が四球を選ぶと、四番鈴木がレフトオーバーのツーベースヒットで一点。
さらに、五番小野原がレフト前ヒット。鈴木が生還し、この回二点を挙げる。
その後、ほしうら学院のエース後藤は、ランナーも時々背負うが、危なげないピッチングで8回を投げて1失点。
ほしうら学院は、8回に代打出場した梨田が三塁打を放ち、犠牲フライでホームイン。
ダメ押しの一点を加え、9回のマウンドに上がるのは、一年生の双葉諒。
右投げでマウンドに上がり、最初の打者をサードゴロに打ち取りワンナウト。
しかし、次の打者にはヒットを許し、更に盗塁も決められる。
次の打者は、セカンドゴロ。進塁打となって、二死三塁となる。
次の打者を、ツーストライクと追い込んでおきながら粘られ、ツースリーとなる。
11球目。ストレート。きれいに打ち返される、が、打球は双葉のグラブに収まる。投直。
ゲームセット。4-1で、ほしうら学院高校の勝利に終わった。
★得点表
計H
清貧高校 000001000 15
ほしうら 00010201× 48
一回戦から、約一週間後。
ほしうら学院は、二回戦に挑む。
相手校は、
5点取られたら6点取り、10点取られたら11点取る、打ち勝つ野球をする高校だ。
相手投手は、二年生エースの丹川。持ち球は、スローカーブと、今時珍しい、パーム。
緩急をつけたピッチングをする投手。右投。
ただ、あくまで打撃のチームのため、投手陣は、良いとは言い難い。
この試合、ほしうら学院の先発投手は、二年生の玄山大也。
躱すピッチングに期待を込めて、送り出された。
また、普段と違う選手起用として、セカンドに一年生の渡が入った。
いつもセカンドの三年生、土屋は、ライトへ。
この起用は、守備力を上げるためのものであるが、単にそれだけではない。
真の目的は、きっと後に分かることになるだろう。
そして、試合が始まった。
先攻が、ほしうら学院。後攻は打多田高校。
試合は、序盤から動く。
一回表。
一死から、二、三、四番打者が、三連打。
更に、犠牲フライを挟んで、六番打者もタイムリー。
幸先よく三点先制。
対して、一回ウラ。
こちらは、一、二番打者が、連打。
三番打者が三振の後、四番が、サード強襲のヒットで一死満塁とし、五番打者が打席に入る。
打多田高サイドは、相手のセカンドが一年生であることに目を付けていた。
そして、この場面。
左打の五番打者は、思いっきり引っ張り打って、ビビらせてやろうという心持ちだった。
初球。アウトコースへのストレート。見逃してストライク。
「(いいピッチャーなのかもしれんが、俺らにとっちゃ、何でもない。)」
二球目もアウトコースのストレート。見逃してボール。
三球目はアウトコースのシンカー。平然と見逃してボール。
「(ほら、はやくインコースに来いよ。セカンドには打たせられないことが見え見えだぜ。)」
四球目。インコースにストレートが来る。
打者は、狙い通りセカンド方向に思いっきり打つ。
セカンドベース付近。センター前に抜けるか、という当たり。なおかつ鋭い当たり。
中間守備の内野を抜けるかという当たりだ。
それを難なく捕ったセカンド渡。ショートの杉山にトス。
杉山はファーストへ送球。4-6-3のダブルプレーで、スリーアウトチェンジ。
渡は、実は少しセカンドベース側に寄っていた。
相手はそれに気づくはずもなく。
ただただ、上手だなと思った。
そして、それと同時に、対抗心からか、『俺がセカンドをぶち抜いてやる。』とも。
併殺打の彼も、次こそはセカンドをビビらせてやろうと奮起するのだった。
これこそが狙い。
打撃には自信を持っている彼らを、渡をセカンドに置くことで、言うなれば煽っているのだ。
『セカンドは一年生だぞ、と。』
回は変わって二回表。
ほしうら学院の打線を止めることができないのは、打多田高のエース、丹川。
彼は、パームの制球が定まっていなかった。
そこで、他の二球種で上手くやりくりしようとしていたが、そうはいかない。
八番打者四球の後、ヒットエンドラン成功で無死一、三塁となって上位打線へ。
一番打者のセーフティスクイズで一点を失う。
しかし、ここでエースの意地を見せたか。
パームを、なんとかギリギリ使い物になる状態に戻す。
二番打者を内野フライ、三番打者を投併殺打に切り、なんとか一失点に防ぐ。
二回ウラ。
打多田高校の攻撃は、六番から。
セカンドライナー、空振り三振、セカンドゴロ。三者凡退。
六番打者は、会心の当たりだったが、渡がファインプレー。
段々と、消沈していく打多田高打線。
三回表からは、試合も落ち着く。
パームをなんとか使い物にした丹川。
慣れない軌道に戸惑うほしうら学院の選手たち。
五回表まで、3イニング続けて三者凡退に抑える。
一方、打多田高打線は、未だ点を取れずにいた。
三回ウラ、ピッチャーゴロ、セカンドゴロ、セカンドゴロ。
四回ウラ、サードフライ、左越え二塁打、セカンドライナー(ランナーが飛び出して併殺)
五回ウラ、ライト前ヒット、死球、セカンドフライ、ファースト併殺打。
再び試合が動いたのは六回表。
この回先頭の四番鈴木が、打ちあぐねていたパームをライトスタンドに運ぶ。
勢いづき、その後、二塁打、二塁打、ファーストゴロ、サードエラー、センター前ヒット、セカンドゴロ(併殺崩れ)、センター前ヒット、二塁打と続く。
再び四番鈴木というところで、投手交代をするも、二塁打。
五番佐藤がファーストゴロに倒れてスリーアウトとなったが、この回一挙七点。
11-0と試合を決定づけ、更にこの回、ウラを抑えればコールド勝ちとなるところまできた。
一矢報いたい打多田高校。打順はきりよく一番から。
今日、四番打者は二安打と当たっており、とにかくそこまで回したい。
一番打者が、粘って四球をもぎ取ると、二番打者のところで代打。
ライト前ヒット。一塁ランナーも懸命に走った。無死一、三塁とする。
ここで打席に立つのは三番を打つ二年生。
今日は、三振と三飛。全くいいところがない。
初球を打ち上げる。
打球は外野へ。ライトへの犠牲フライ。一点を返す。
四番打者は、四球。
五番打者が打席に入る。こちらも二年生。今日は不運もあり併殺打二つ。
現在、一死一、二塁。
あと一点取れば、この回でのコールドは免れる。
打ちたい、打たなければならない。
力みは、凡退につながる。
初球、二球目ともに空振り。ストレートとシンカー。
三球目のシンカーをギリギリバットに当ててファウル。
ここで、あまりにも力みのある打者に声をかける。
打撃のタイム。伝令は、同じポジションの先輩。
四球目の釣り球、五球目のシンカーを見逃して、2-2。
六球目、ストレートを打ってファール。力みはとれてきたか。
七球目、スライダー。鋭い打球は、セカンド方向へ。
しかし、セカンドは、渡。
祈る打多田高校の面々をよそに。
4-6-3のダブルプレー。ゲームセット。
うなだれる打多田高校、喜びを見せるほしうら学院高校。
こうして、ほしうら学院高校は、三回戦へと駒を進めた。
★得点表
計 H
ほし高 310007 1114
打多田 000001 1 6
一、二回戦のほしうら学院のスタメンを、一応載せておこうと思います。
守備位置を、数字表記にしています。
◎一回戦 ◎二回戦
1番 6 杉山 1番 6 杉山
2番 8 高橋 2番 8 高橋
3番 5 松宮 3番 5 松宮
4番 7 鈴木 4番 7 鈴木
5番 2 小野原 5番 3 佐藤
6番 9 玄山 6番 2 小野原
7番 3 佐藤 7番 4 渡
8番 1 後藤 8番 9 土屋
9番 4 土屋 9番 1 玄山
次話は、県の第二シード、干支高校との試合です。
今話も、読んでいただき、ありがとうございました!!