らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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波乱の旋律~乙女達の戦い、バレンタイン騒動記、後編~

朝から波乱含みで始まったバレンタイン。

 

俺は他の女子生徒達から逃げる為に、毎回休み時間に身を隠していた。

 

そんな俺を捕まえられずやきもきしている旋律達。

 

こうのはからいによって、昼休みにはなんとか俺達はアニ研の部室へと集まる事が出来ていた。

 

そして、このチャンスにとこなた、つかさ、みゆき、こうの4人は俺にチョコを手渡す。

 

俺は、皆から貰ったチョコをその場で食べたのだが、その様子を呆然と見ていたかがみとやまとにこなたが、俺にチョコを渡さないのか?と促すと、かがみとやまとは慌てながら俺を見てそして、俺にあげるチョコなんて用意していない!と言い放つ。

 

そんな2人の台詞を聞いて、俺を始めとする他の皆も驚きの表情を見せていたのだった。

 

「・・・えーと、かがみん、永森さん?今のって、本気?」

 

そうこなたが2人に訊ねるが、2人は軽く青ざめつつ、やってしまった!という表情で焦っていてこなたの質問に反応できなかった。

 

そんな2人を見てこなたは再度先程の質問を投げかけると、2人は、はっと気付いて視線を泳がせつつ

 

「・・・あ、あたりまえじゃない!別にバレンタインだからって必ずチョコをあげなきゃいけないなんてそんなきまりはないでしょ!?」

 

そんなかがみの言葉に便乗するようにやまとも

 

「そ、そうよ!チョコをあげるだけが先輩へのお礼という訳じゃないもの!べ、別にそんなものじゃなくたって・・・」

 

つくづく素直になれない2人にこなたは軽いため息をつきながら

 

「・・・だそうだよ?慶一君。残念だねえ。」

 

と、ここで俺に話を振ってくるこなただったが、俺もこの展開に対してどう言っていいかわからず

 

「いや、そこで俺に振られてもだな・・・あくまで本人達の問題なわけだし・・・」

 

という答えを返すと、こなた以外にも他の皆も何だか呆れ顔になっていたのだった。

 

そんなこんなで結局昼休みは終わってしまい、俺は最後に部室を出るため残り、他の6人に先に教室へ戻ってもらうのだった。

 

こうside

 

昼休みにようやく慶一先輩と会えて、他の先輩と共に慶一先輩へチョコを渡したのだけど、やまとも本当は準備してきているはずなのに、照れとパニックのあまりにやまとが放った言葉に私は困惑していた。

 

やまとも本当は先輩へチョコを渡したいと思っていたはずなので、あの言葉を予想できなかったからというのもあるのだけど、その時に同時にもう一つ、やまとの性格を見落としていた事に気付いたのだが、その時にはもう取り返しのつかない事態になっていた。

 

当のやまとはというと、自分で言ってしまった言葉とはいえ、そんな自分の発した言葉に相当凹んでいるみたいだった。

 

「・・・ねえ、やまと。どうしてあんな事言ったの?チョコを用意してる事、私も知ってるのにさ。」

 

その言葉にやまとは私の方を見て

 

「・・・うるさいわね・・・いいでしょ?もう、そんな事はさ・・・あなたに何言われようとももう関係ないわよ・・・」

 

と、半ばやけっぱちになっている様子が見て取れた。

 

「そっか・・・でも、やまと、まだ、今日は終わってないんだし、チャンスはまだあると思うから頑張りなよ?最後まで後悔のないようにね。」

 

その言葉にやまとは短く

 

「・・・はあ・・・そうね、ありがとう、こう・・・」

 

ばつの悪そうな顔でそう私に返事をするやまとを見て私もやれやれと思いつつ微笑むのだった。

 

こなたside

 

この昼休みにようやく慶一君と接触できた私達は、お昼御飯の後、慶一君にそれぞれ用意していたチョコを手渡した。

 

その際にかがみと永森さんもチョコを渡していない事に気付いた私は、2人をけしかけたのだけど、それがどうもまずかったらしい。

 

2人の性格はある程度分かっていたはずの私だったが、今回はつい、それを見逃してしまっていたが為に2人の得意のツンデレが出てしまったのだった。

 

永森さんもそうだったのだが、かがみもかがみで、どうにも引っ込みがつかなくなってるのが見て取れたのだが、結局私達はそんなかがみに何も言えないままにお昼休みを終えたのだった。

 

私達3人はさっきの事で教室に戻りながら話をしていた。

 

「それにしても、変な事になっちゃったねー・・・。」

「そうだね・・・でも、こなちゃんも悪いよ?おねえちゃんの性格はこなちゃんもよく知ってるよね?それであんな風に言えばどうなるか、ってこなちゃんも分かってたはずだよね?」

「かがみさんは中々素直になれない性格ですからね・・・皆さんの前でああ言ってしまった手前、引っ込みはつかないででしょうし・・・」

 

つかさとみゆきさんの言葉に私は苦笑しながら

 

「あはは、ごめん、2人とも。かがみの性格の事、一瞬頭から飛んでたよ。その事に関しては私も後でかがみに謝っておくつもりだから許して?」

 

そう言った後私は考え込みながら

 

「それはともかく、かがみ、どうするつもりなのかなあ・・・」

「何かいい方法ないかな?」

「そうですね、しかし・・・今の私達が何かを言ったとしてもかがみさんの火に油を注ぎかねませんよね・・・」

 

3人でそう言いながら私達は考え続けていたのだった。

 

あやのside

 

朝に柊ちゃんに慶ちゃんにちゃんとチョコを渡さないとだめだと言ったのだけど、お昼休みのあの騒ぎで柊ちゃんが発したあの言葉に私とみさちゃんも困惑していた。

 

そして、あの言葉を言ってしまった手前、後には引けなくなってる柊ちゃんの姿を横目で見つつ、どう声をかけようかと悩んでいたのだった。

 

「・・・なあ、柊、よかったんか?あれでさ。」

 

そんな私の葛藤をよそにみさちゃんが柊ちゃんに声をかけていた。

 

柊ちゃんはみさちゃんを睨みつけて

 

「・・・うるさい!別に構わないわよ!どうしてもあげなきゃならないなんて決まりはないんだからいいじゃない!もう、ほっといてよ!」

 

みさちゃんにそう怒鳴りつけると、柊ちゃんは憮然とした表情で教室への道のりを歩いて行く。

 

私は怒鳴られて凹んでいるみさちゃんに

 

「もう、みさちゃん。だめじゃないの。そんな言い方はかえって柊ちゃんを意固地にさせるだけよ?柊ちゃんの事は私に任せて、ね?」

 

そうみさちゃんに言うと、みさちゃんは私に頷いてくれた。

 

そして、私は柊ちゃんに一言伝える為に側へ行く。

 

「・・・柊ちゃん。確かにあなたの言う通りあげなきゃいけない、という決まりはないわ。けど、私は、少なくとも柊ちゃんには後悔はして欲しくない、それだけは伝えたいの。柊ちゃん・・・勇気を持って?まだ、時間はあるから・・・」

 

私の言葉に柊ちゃんはばつの悪そうな顔を向けていたが、教室に入る間際に私に

 

「・・・ありがと・・・峰岸・・・ごめん・・・」

 

そんな短い一言を言った後自分の席に戻って行ったのだった。

 

慶一side

 

朝から色々ごたついていて、ようやく皆とまともに出会えたのは昼休みになってからだったのだが、その時にこなた達は俺にバレンタインのチョコを渡してくれたのだった。

 

そして、まだ俺に渡していないかがみとやまとにこなたが言った一言が、2人の素直になれない心をあおったせいで2人が意地を張るという結果になってしまったのだった。

 

俺は困惑しつつもこの事態を見つめていたが、今は何かを言えるときじゃないな、と思った俺は成り行きに任せてみようと思い、ぎりぎりの時間に、再び教室に戻った。

 

今日の残りは後2時間、そして今、そのうちの1時間後の休み時間に再び部室に逃げ込みにいったのだが、そこには俺より先に先客がいたのだった。

 

「はあ、はあ・・・ふう・・・何とか逃げ切ったな・・・」

 

部室に飛び込み息を整えている時、俺に声をかける者がいた。

 

「・・・あ、先輩・・・あの・・・」

 

その声に振り向いてみると、そこには少し思いつめたような顔をしているやまとの姿があった。

 

「ん?その声はやまとか?どうした?やまと。」

 

やまとは何度も周りを見渡して、なおかつ俺を上目使いで見つつ、なんだか踏ん切りをつけられない感じで落ち着かない様子を見せていたが、やがて何かを決意したようで俺をきっと見据えると

 

「あ、あの・・・先輩・・・さっきは・・・つい勢いであんな事いったけど・・・その・・・ほ、本当は先輩に渡す物があって・・・その・・・こ、これを・・・先輩に・・・あげる・・・」

 

顔を真っ赤にしながら俺に持っていたチョコレートを差し出してくるやまとを見て俺は苦笑すると、それを受け取って

 

「ありがとうな、やまと。貰えて嬉しいよ。」

 

そう言うと、やまとは赤い顔をほころばせて

 

「そ、そう?それならよかったけど・・・ごめんなさい、先輩・・・私・・・」

 

先程の事で罪悪感があったのだろう、やまとはすまなそうに俺に謝ってきたが、俺は笑いながら

 

「いいさ。俺は気にしちゃいないよ。それに、お前との付き合いは長いんだ。性格くらいは把握してる。まあ、あおったこなたも悪いけどな。」

 

その言葉にやまとは心持ちほっとしているようだった。

 

そんなやまとを見て、そして貰ったチョコに視線を移し、俺はチョコのラッピングを剥ぎ取ると、やまとから貰ったチョコをその場で食べ始めたのだった。

 

そんな俺を見てやまとは慌てながら

 

「せ、先輩。別に今食べなくても後でゆっくり食べてくれればそれで・・・」

 

そう言って一応止めはしたものの、俺はそれに構わずやまとから貰ったチョコを完食する。

 

「ん。中々美味かった。あらためてありがとな、やまと。」

 

俺のお礼の言葉に照れながらもやまとは俺に

 

「よ、喜んでくれたのならそれで・・・でも先輩、先程の泉先輩達の時もそうだけど、どうしていきなり受け取ったチョコを食べたの?先輩は他の子からももらっているってのを聞いていたけどそっちには手をつけなかったって先輩達も言ってたわ。だから私、その事がずっと疑問だったのよ。」

 

そう聞いて来たので俺は軽く目を閉じて少し考えを纏める。

 

そして、ある程度考えが纏まったので、そっと目をあけて俺は、やまとにその理由を話すのだった。

 

「しいていうなら・・・お前らに対するこれが、俺の誠意ってやつかな。」

「誠意?」

「そうだ。俺とあの子達ととそしてお前らとの関係には違いがある。それは、やまと達は中学からだけど、こなた達も2年に上がってから付き合うようになった。その絆はつい最近俺を知ったあの子達とは比べ物にならない程、濃密で深いものだ。そして俺はその事をとてもありがたく、そして嬉しく思っている。だからこそ、あの子ら以外から貰うお前らからのチョコを何よりも先に食べる事が俺の、みんなへの絆の証であり、感謝の心だって事さ。」

 

そこまで話して一旦言葉を切り、軽く深呼吸した後

 

「俺は不器用だからな。皆への感謝の思いを表す上手い方法を知らない。だからこそ俺の出来る事で皆に対しての俺の思いを見せるにはどうすればいいだろう?って考えた時、こういう方法しか思い浮かばなかったんだよな・・・。」

 

そう言って照れながら話す俺に、気付くとやまとは瞳に涙を貯めながら俺を見ていたが、やがて俺の胸に飛び込んでくると

 

「ありがとう・・・先輩、本当に・・・私達の事を思ってくれて・・・何よりも・・・絆を・・・重んじてくれて・・・嬉しい・・・本当に・・・」

 

俺の胸の中で泣きながら、やまとはしばらくの間嬉し涙を流していた。

 

俺はそんなやまとの背中を軽くぽんぽんと叩きながら、やまとの気が済むまで受け止めつづけていた。

 

そして、時間ぎりぎりになり、部室から出て行く時にやまとは

 

「ねえ、先輩。泉先輩達にも今の事、話すのよね?きっと、皆喜んでくれると思うわよ?」

 

やまとは嬉しそうに俺にそう言いながら手を振って去って行く。

 

そんなやまとに俺は頷きを返して教室へと戻っていったのだった。

 

その後、残りの時間を上手く逃げ切り、今日の学校は終わりを告げたのだった。

 

学校から帰る時、こなた達と一緒に帰ったのだが、その時に先程部室でやまとにされたのと同じ質問をされたので、俺はあの時やまとに言った言葉をそのままこなた達にも伝えると、こなた達もまた、喜びの表情を見せてくれたのだった。

 

その後は、結局、最後まで学校ではかがみと接触する事が出来なかった俺だった。

 

そんなかがみは、みさおやあやのと一緒に帰っていたらしいのだが。

 

かがみside

 

峰岸に言われて私はとりあえず慶一くんに接触を試みようとしたのだが、私の読みがことごとく外れた結果、慶一くんの隠れているポイントを見つけられずにその日の学校が終わってしまった。

 

そして、チャンスを生かせなかった事を落ち込んでいる私に気を使ってくれて、峰岸と日下部が私と一緒に帰ってくれたのだった。

 

「・・・柊ちゃん、元気だして?まだ、学校は終わったけど今日という日は終わっていないわよ?」

「そうだぜ?柊ー。まだ時間あるんだから最後まであきらめんな、な?」

 

そんな2人の憐れみが身にしみていたが私は

 

「・・・うん・・・ありがとう・・・峰岸、日下部・・・」

 

結局立ち直れないまま家に帰ったのだった。

 

そして、自室で落ち込みつつ、どうしようかなと悩んでいる私だったのだが、散々迷ったあげく、峰岸の言っていた勇気を振り絞ってみようと思い、家についてから3時間後、私は慶一くんの携帯に電話を入れたのだった。

 

慶一side

 

その日逃げ回った末に疲れ果てた体を引きずって俺は家へと辿り着く。

 

だが、そこに、俺を待っている3人が居たのだった。

 

「あ、先輩、お帰りなさい。」

「お帰りを・・・お待ちしてました・・・。」

「そろそろ時間だと思ってましたっス。」

 

そんな風に俺に声をかけてくれる3人に俺は驚いて

 

「ゆ、ゆたか、みなみ、ひより、お前ら、どうして?というか受験はどうした、受験は。」

 

そう訊ねると3人は笑って

 

「もう済ませましたよ。先輩。」

「・・・後は、結果発表を待つだけです・・・。」

「死に物狂いで頑張りましたっス。それで、発表までは時間も出来たし、今日はこういう日っスからね。3人で相談して来てみたんです。」

 

そう言って3人はにっこり笑うと俺にチョコレートを差し出してきた。

 

「これ、私からです。去年から今までお世話になったお礼です。」

「・・・クリスマスプレゼントも、嬉しかったですから・・・」

「先輩に貰った気合とおまじないのお返しっス。受け取ってください。」

 

という3人に俺も笑いながら

 

「そっか、わざわざありがとな。受験終わったか。全員合格してるといいけどな。さて、と・・・」

 

俺はそう3人に言うと、おもむろにチョコの包みを解いてその場で食べ始めた。

 

そんな俺の行動に驚いた3人は俺に

 

「せ、先輩、今じゃなくても後でもいいですよ。」

「・・・落ち着いてから食べてくれれば・・・」

「3人分はきつくないスか?」

 

と心持ち心配そうな顔を向けて来たが、俺は

 

「心配ないよ、それに・・・・・・」

 

こなた達ややまとに言った言葉を伝えると、3人とも感激していたのだった。

 

俺はチョコを食べた後、3人を家に上げてお茶をご馳走してしばらく間、談笑していたが、みなみが帰る時間となったので俺は3人を駅まで送っていったのだった。

 

そして家に戻り、自室で着替えを済ませてから、夕食の支度をする為にキッチンへ行こうとしたのだが、そこにかがみからの電話が入ったのだった。

 

俺は電話に出ると

 

「もしもし?かがみか。どうしたんだ?」

「・・・あ、慶一くん?あ、あのさ、私、前に慶一くんの家にまつり姉さんとお世話になった時にね?ラノベを忘れたやつがあったんだけどさ・・・・・・」

「・・・ん?かがみ?」

「・・・あ、ご、ごめん。それを・・・その・・・・・・」

「・・・・・・どうしたんだ?」

「・・・あ・・・明日、学校で渡してくれないかなーって・・・」

「ん?用件はそれだけなのか?なら、引き受けるが。」

「・・・え?、あ、うん・・・それだけ・・・お願いね・・・慶一くん・・・」

「あ、ああ、わかった。」

 

俺がそう言った後、かがみはがっかりしたような声で電話を切った。

 

そんなかがみの態度を思い起こしつつ、とりあえず頼まれたラノべをかがみの泊まっていた部屋から探し出すと、俺はそれを手にとり、しばらく考え込んでいたが、軽くため息をついた後、俺は出かける準備をして自転車にまたがり、柊家を目指したのだった。

 

かがみside

 

思い切って勇気を振り絞って慶一くんに電話を入れた私だったのだが、結局、それをだしにして慶一くんを呼ぼうという私の思惑は見事に失敗に終わったのだった。

 

私は素直になれない自分の性格を、この時ほど恨めしく思ったのだった。

 

そうして後悔しているうちに、もうチョコの事はどうでもいいや、と思った私は、このチョコを自分で処理してしまおうと思い、ラッピングを解いて一粒づつチョコを食べ始めたのだった。

 

凄く悲しい気持になりながら・・・。

 

一粒一粒を悔しいような空しいような気持でゆっくりと食べて行く。

 

最後の一個になる頃には私は気付けば情けなさで泣いていた。

 

(私ってどうしていつもこうなんだろう・・・自分が情けない・・・)

 

そう思いつつ最後の一個に手を伸ばそうとした時、家の呼び鈴が鳴るのだった。

 

そして少しして、慶一くんが来たとお母さんから呼ばれ、私はチョコに伸ばした手を止めた。

 

慶一side

 

かがみからの電話を受けて俺は、かがみが本当に言いたかった事は別にあるんだろうな、という事がありありとわかったので、その事を確かめようと思い、柊家へ自転車を飛ばしていた。

 

そして、いつもの半分の時間で柊家に辿り着いた俺は、かがみから頼まれたラノべを手に、柊家の呼び鈴を鳴らす。

 

「よう、慶一。お前もここに用事か?」

 

人が出てくるのを待っていた時に俺に声をかけてくる人がいたので声の方を振り向くと、そこには龍兄がいた。

 

「あれ?龍兄じゃないか。どうしたんだよ?こんな所で。」

 

俺が不思議そうな顔でそう訊ねると龍兄は苦笑しながら

 

「いや、実は今日はバレンタインだろ?だから、まつりさんにどうしても来て欲しいって頼まれちゃってなー・・・。」

 

その答えに俺も苦笑しながら

 

「うーん・・・まつりさんは本気みたいだなあ・・・龍兄、ここにはもう1人龍兄を狙ってる人いるの忘れてないよな?せいぜい修羅場にはならないように気をつけてくれよ?」

 

俺の言葉に龍兄は”はっ”として

 

「そういえば・・・いのりさんもいたんだよな・・・うーむ・・・まあ、なるようになれ、だな。それはそうと、慶一こそどうしてここに?」

 

その言葉に俺は後頭部を掻きつつ

 

「かがみの忘れ物届けに来た、ってのもあるんだけどさ・・・かがみも話したい事あるみたいだったし、話聞いてやろうと思ってさ・・・」

 

最後は少し複雑な表情で俺は龍兄に告げると、龍兄は軽いため息を一つついて俺の肩を叩くと

 

「そっか・・・まあ、何があったかはわからないが、お前も頑張れ。かがみちゃんの悩みなのかもしれないが、解決するといいな。」

 

そう言ってくれたので俺も頷きながら

 

「ああ、そうだな。ありがとう。龍兄。」

 

そうお礼を言うと龍兄は軽く笑って応えてくれた。

 

そうこうしているうちに玄関が開いて、みきさんが俺達を出迎えてくれたのだった。

 

「はいはい。あら?森村君と龍也さんじゃない?家に何か用事?」

 

その言葉に俺達もそれぞれの目的を言う。

 

「はい、実はかがみの忘れ物を届けに来たんですよ。」

「俺はまつりさんに呼ばれましてね。」

 

そう告げるとみきさんはかがみとまつりさんに声をかけた。

 

「かがみー!?森村君が来てるわよー!?まつりー!?龍也さんが来てくれたわよー!?」

 

その声がかかると同時に、まつりさんが凄い勢いで玄関へやってきて

 

「あ、龍也さん、来てくれたんだー。いらっしゃーい。あれ?森村君も一緒なの?」

 

俺が返事をしようと声をあげようとした時、少し遅れていのりさんも出迎えにやってきてくれた。

 

「まつりー?抜け駆けは許さないわよ?こんにちは。龍也さん。それに、森村君も。さあ、あがってあがって。」

 

といういのりさんの言葉に苦笑しつつ俺は

 

「はは、それじゃお邪魔します。」

 

と言って上がり、龍兄も圧倒されつつも

 

「お、お邪魔します。」

 

と言って家に上がったのだった。

 

上がってから俺は2人に引き止められ、しばし待つと、まつりさんといのりさんが俺にチョコをくれた。

 

「はい、森村君。義理だけど私から。」

「これは私からだよ?義理だけど味わって食べてよね。」

 

と言う2人に俺も嬉しくなり

 

「ありがとうございます。それと、龍兄の方はお手柔らかに。」

 

そう言って2人からチョコを受け取った後俺は龍兄と2人に

 

「それじゃ、俺はかがみの所へ行って来るから龍兄?2人の相手は任せたよ?まつりさん、いのりさん。龍兄をよろしく。」

 

その言葉に2人とも満面の笑みで頷いて、困惑顔の龍兄を引きずって連れて行く。

 

龍兄は俺に何か言いたそうにしていたが、俺はあえて無視を決め込んだ。

 

それを確認した後、俺はかがみの部屋へと足を向けた。

 

かがみの部屋の前へ来た時、丁度部屋から出てくるつかさと出会った。

 

「あ、けいちゃん。来てたんだ。いらっしゃ~い。ひょっとしておねえちゃんに用事?」

 

声をかけてくるつかさに俺は

 

「よっ、つかさ。お邪魔してるよ。まあ、そんなとこ。忘れ物もあったみたいだからそれを届けるのも目的だけどな。」

 

そう返事すると、つかさは少し考え込む仕草をした後俺に

 

「ねえ、けいちゃん。お昼休みにおねえちゃんが言った事、きっと本心じゃないと思うんだ。だから・・・」

 

それ以降の言葉を紡ごうとするつかさの口元に人差し指を立てて俺は片目をつぶって笑みを作ると

 

「わかってる。まあ、こっちは任せてくれ。つかさ、わざわざ気を使ってもらってすまないな。」

 

俺がそう言うと、つかさはほっとしたようなそれでいて嬉しそうな表情になって

 

「ううん。いいんだ。みんなで笑っていたいもん。だから、おねえちゃんにも悲しい思いしたままでいて欲しくないから、お願いね?けいちゃん。」

 

その言葉に俺は黙って頷くと、一つ深呼吸をした後、かがみの部屋をノックした。

 

少し待つと中からかがみが

 

「・・・慶一・・・くん?」

 

とおずおずと聞いて来たので俺は

 

「ああ。俺だ。中入ってもいいかな?」

 

と聞くと、少しの間の後

 

「・・・うん、いいよ。どうぞ・・・」

 

そう言ってくれたので、俺はかがみの部屋のドアを開けて

 

「よっ、かがみ。頼まれた忘れ物届けにやってきたぞ?」

 

そう挨拶すると、かがみはすこし呆れたような表情で

 

「電話でも言ったけどさ・・・明日でよかったのよ?なのにわざわざ持ってきてさ・・・あんたも暇よね・・・」

 

そう言うかがみの顔に俺は涙の跡のような物を見つけたが、あえてその事は口にせずに

 

「あはは。まあ、そうかもしれないな。ほらかがみ、頼まれていた物だ。」

 

そう言って俺はかがみに持ってきた忘れ物のラノベを手渡す。

 

「・・・あ、ありがと・・・でも・・・助かったかな?」

 

そんな風に言うかがみに俺も頷きつつ、俺はもう一つの目的の為にかがみに

 

「・・・なあ、かがみ。お前、俺に何か言いたい事、あったんじゃないか?」

 

そう切り出すと、かがみは驚きで軽く目を見開いていたが、やがて

 

「・・・そんな・・・言いたい事・・・なんて・・・」

 

少し落ち込み気味にそう言うかがみに俺は軽いため息を一つつくと

 

「あの電話の話し方で、話したいことなんてない、って言われても説得力ないぞ?」

 

その言葉にますます落ち込むかがみを見つつ、俺は部屋を見回すと、かがみの机の上にあるラッピングの解かれたチョコを見つける。

 

そこには最後の一個が残っていた。

 

俺はかがみの机に近づき、その最後の一個をおもむろに手にとって

 

「なあ、かがみ。これ、もらっていいか?」

 

そう訊ねると、かがみは途端に慌てながら

 

「え?あ、ま、待って?そ、それは・・・」

 

そう言うかがみを見つつ、俺はその一個を口の中へほおりこんだ。

 

「お?結構美味いな、これ。」

 

その俺の言葉を聞いたかがみは急に涙を流し始めた。

 

「・・・ごめんなさい、慶一くん・・・本当は・・・本当はね?それを慶一くんに渡したかったの・・・でも、私はこんな性格だから、素直に言えなくて・・・慶一くんに渡すチャンスを逃しちゃってそれで、最後の勇気を振り絞ってさっき電話をかけたけど、そこでも言えなくて・・・もう渡す事出来ないって思ったら、どうでも良くなって・・・慶一くんに渡す為のチョコ、自分で食べちゃった・・・ごめん・・・ごめんね・・・ちゃんと渡せなくてごめん・・・」

 

俺は、そんな風に泣きじゃくるかがみをそっと抱きしめて

 

「いいさ・・・お前の性格はやまととそっくりだからな・・・素直になれないその気持は俺にはわかるから・・・それに、最後の一個だったけど、あれ、かがみが手作りしてくれたんだろ?凄く美味かったよ。お前の気持が篭ってた。だから、もう泣くな、な?」

 

そう言いながらかがみの背中を優しくぽんぽんと叩きつつ、かがみが泣き止むまでそのままでいた。

 

しばらくして泣き止んだかがみが俺から体を離しつつ

 

「みっともないとこ見せちゃったな・・・何だか恥ずかしいわ・・・」

 

そんなかがみに俺は笑いながら

 

「時にはそういう事だってあるさ。でも、素直に気持、出せたじゃないか。」

 

俺の言葉にかがみは微笑みながら

 

「ふふ。そうね・・・でも、やっぱり、普段はこんな風に言えそうもないわ・・・」

 

自嘲気味に言うかがみに俺も苦笑しつつ

 

「それもかがみの性格だから仕方ないさ。」

 

そんな言葉を交わした後、かがみが思い出したように笑いながら

 

「あはは。でも峰岸の言った通りね。慶一くん、チョコをその場で食べてくれた。何だか嬉しい。」

 

その言葉に俺は照れながら

 

「それが俺のお前らへの誠意だからな。俺なりの、さ。」

 

案の定こなた達同様その理由を聞いて来たので、俺はかがみに皆にしたのと同じ説明をすると、かがみは嬉しそうな顔をしていた。

 

「・・・慶一くん、あのさ?」

 

少し考える仕草をした後、かがみが俺にそう聞いて来たので俺は

 

「ん?なんだ?かがみ。」

 

そう聞き返すと、かがみは照れたような顔になって

 

「今からもう一回、あんたにあげるチョコ作らせてくれないかな?折角食べてくれたけどさ、結局は私勝手に絶望してチョコほとんど食べ尽くしちゃってたし、あれ一個だけっていうのが私としても納得いかないからさ。」

 

そんなかがみの言葉に俺は

 

「はは。なら、かがみの納得いくようにすればいいよ。俺は出来るの待ってるから。」

 

その俺の言葉にかがみは嬉しそうに頷いて部屋を出ると、つかさを呼んでつかさに見てもらいながら改めてチョコ作りをするために台所へと向かった。

 

そして俺は、さっきのよりももっと立派なチョコを改めてかがみからもらったのだった。

 

かがみside

 

慶一くんが家に来た目的が何なのか、その意図がわからなかった私だったが、ラノベを私に返した後慶一くんは私が電話した訳に気付いてくれていたみたいで、私の言いたかった事を聞きに来てくれたのだった。

 

色々凹んでいた事もあって、慶一くんの前で感情を爆発させてしまった私だったが、それでも、私の話を聞いてくれ、そして私の作ったチョコを食べてくれた事がとても嬉しかった。

 

そして、慶一くんがチョコを貰ってすぐに食べていたあの行動の意味も教えてくれたのだが、それを聞いた時、私はとても嬉しい気持になったのだった。

 

折角食べてもらったチョコだけど、結局私が食べ尽くした所為でほとんど慶一くんに食べてもらえなかった分に納得いかなかった私は、つかさに教わりながら改めてチョコを作って慶一くんに手渡した。

 

慶一くんはまたしてもその場で食べてくれようとしたのだけど、少なかったとはいえ、もう食べてもらっていた事もあったので、後で食べて欲しいと慶一くんを説得して持ち帰ってもらったのだった。

 

かくして最低になるかと思われた私のバレンタインも、最後には上手く行った事に私は密かに喜んでいたのだった。

 

(お昼休みにあんな事になってしまってもうだめかな?と思っていたけど、慶一くんが私の事に気付いてくれた。嬉しかったな・・・。それに本当にチョコをその場で食べてもくれたしね・・・その意味も聞いた時は本当に私たちの事を大事に思ってくれてるんだ、ってわかったし・・・やっぱり慶一くんは私達にとって、側にいて欲しい人よね・・・)

 

そんな風に考えながら、明日からの学校生活に思いを馳せる私だった。

 

慶一side

 

色々あったバレンタインだったけど、とりあえず今日1日を無事に過ごす事ができたようだ。

 

かがみの話を聞きにいき、その問題を何とか解決できた事にもほっとしていた。

 

そして、かがみから改めてもらったチョコも家に帰った後しっかりと完食したのだが、流石に一日にチョコを食べ過ぎた俺は、その日の夜には胃腸薬のお世話になったのだった。

 

それでも、皆に俺の誠意を示せた事を嬉しく思いつつ、これからも皆と居たいと思う俺だった。

 


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