らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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きっかけの旋律~龍也の存在とひよりの苦悩~

龍兄の思い、そしてみんな思いを改めて知り、俺もまた皆への思いを新たにしてその日の授業を終えた俺は、皆と待ちあわせてから学校を後にしていた。

 

今日はバイトも休みという事もあり、俺は皆と共に下校しつつ、さっきの龍兄の訪問等に関してやりとりをしていた。

 

「それにしても、まさか龍也さんがうちの学校の卒業生なんてねー。」

「制服を持ってる理由は納得できたけどそれが違和感ない理由がなっとくできん・・・」

「でも、制服着てる姿見た時はやっぱりけいちゃんに似てるな、って思えたよ~?」

「そういえば龍也さんは”俺が慶一に似てるんじゃない、慶一が俺に似てるんだ”とおっしゃっていましたよね?あれはどういう事なんでしょう?」

 

最後のみゆきの質問に俺はその理由を説明する。

 

「ああ、それは。俺が龍兄に追いつきたいと思うから龍兄の真似をしてきたからって事かな。だから俺は龍兄に雰囲気も似るようになってきたのかもしれないな。嬉しい事だけどさ。少しでも目標としてる人に近づけたんだしな。」

 

そう答えるとあやのやみさおも

 

「そっか、慶ちゃんは龍也さんを目標にしてきたんだもんね。」

「分かる気がするなー。なんかかっこいい、って思えたもんな。」

 

何となく納得してる感じだったが、俺は

 

「かっこいいと思える、じゃなくて本当にかっこいいんだよな、龍兄はさ。境遇は俺と同じだった。けど、俺みたいに自分に負けなかった。弱くなかった。龍兄は強かったんだ、本当に・・・」

 

そう言って龍兄への素直な感想を言うと、こうとやまとはそんな俺に

 

「先輩の過去の事知りましたが、それでも立ち直った先輩は弱くなんかないですよ。」

「そうよ。そんな境遇にあって荒れても最後には自分の罪すら受け入れて私達と出会い、今の先輩になれたんじゃない。普通の人が挫折してしまうような状況を跳ね返した先輩はやっぱり強いと思うわ。」

 

そう言ってくれた2人の言葉に俺は照れながら

 

「それは、お前らが俺を救ってくれたからだ。お前ら2人に会えなかったら俺はずっと一人きりで中学時代を過ごしたろうさ・・・心から笑える自分になれなかったろうさ・・・結局俺はみんなに頼ったんだ・・・」

 

2人にそう言いつつも、どこかに他人に頼る弱さを感じた俺は今の自分の状況を口にすると、かがみ達はそれぞれに

 

「いいじゃない、それでも。龍也さんが独りでも強いのだとしても関係ないわ。なら慶一くんは私達を頼る事で強くなっていけばいいのよ。あくまでも龍也さんは龍也さん。慶一くんは慶一くんなんだから。」

「そうそう。慶一君は慶一君のままで強くなればいいじゃん。それが他人に頼る事だったとしてもそれで君が強くなるならそんなの些細な事だよ。」

「わたしは今のけいちゃんだって強いって思うよ~?」

「そうですね。慶一さんは私達を守ってくれる強さを見せてくれました。その強さは慶一さんの心の強さでもあると私は思います。」

「慶ちゃんは弱くない、って私は思うわ。私も慶ちゃんに助けられた事があるから、それはよくわかるつもりよ?」

「あやのの言うとおりだぞ?前の体育祭の時だってお前は決して最後まで諦めず走り抜いたじゃん。ああいうのだってお前が弱かったら絶対に出来なかった、って思うけどな。」

 

そんな風に俺に言ってくれる言葉を俺はしみじみ噛み締めながら

 

「龍兄は龍兄、俺は俺、か・・・」

 

そう言いながら、あくまでも俺は俺なのだと実感すると、そこにこうとやまとも

 

「そうですよ先輩。先輩はあくまでも先輩でいいんです。龍也さんを真似たい気持もわからなくはないですけど先輩も自分自身にもっと自信を持っていいと思いますよ?」

「そうね。私もそう思うわ。中学時代から見てきた先輩は本当に強い人だと思った。あの時どれだけの逆境があったか・・・私とこうはそれを知っているのよ?あの嫌な思いをした2年間を・・・それを乗り切ってきた先輩なんだからやっぱり先輩も強い人なのよ。だから自信を持って?」

 

今までの俺を見てきた感想と気持を言ってくれたのだった。

 

「ありがとな。こう、やまと、それに、みんな・・・これからも俺はみんなを頼らせてもらう。それが・・・俺が俺として強くなる方法なんだと分かったから・・・」

 

俺がその事を改めて決意し、皆にそう伝えると、皆もにっこり笑って頷いてくれたのだった。

 

そこでふと、こなたが何かを思い出したように

 

「そういえばさ。慶一君は龍也さんを真似したいと思ったって言ってたよね?人としてもそうだけど武術においても、ってさ。」

 

その言葉に頷いて俺は頷きつつ

 

「ああ。そうだけど、それがどうかしたのか?」

 

こなたにそう訊ねると、こなたは何かを考えるような仕草で

 

「うん。慶一君が陵桜に来た理由もそれなのかな?って思ってさ。」

 

そう言い、その言葉にほかの皆も”はっ”としたような表情になっていた。

 

俺はこなたの言葉に頷くと

 

「こなたの思った通りさ。俺は龍兄を追うあまりに行くべき学校も真似たいとまで思っていた。だからここに来る事は龍兄がここに通ってる時から決めてた事だったんだよ。」

 

そう答え、その言葉にこうとやまとはそれぞれにこの学校を選んだ経緯を教えてくれる。

 

「そ、そういう経緯があったんですか。先輩が陵桜を受けようと思ったのは・・・私は親から言われていた事ももありましたが、それ以外に色々探してみましたが結局ここがしっくりいったので決めたんですけどね。」

「私は最初は聖フィオリナへ行くつもりでした。けど先輩と知り合ってそして、なぜか陵桜も受験してみようと思って、ここに合格できたのをきっかけにフィオリナを蹴る事になったわ。そして私は陵桜を選んだ・・・」

 

そんなこうたちの言葉を聞いてかがみ達もまた、それぞれに陵桜を選んだ経緯を話してくれた。

 

「私は自分の進路に進んでいく為に陵桜は最適だと思えたっていうのもあるけど、日下部や峰岸、そしてつかさも同じ所を受けてみたい、がんばってみたいっていうのもあったからみんなでがんばったのよ。そしてその結果私達は全員合格できたわ。」

「わたしはおねえちゃんと一緒にいたい、って思ったからがんばったの。」

「私も自分の進路の為に陵桜を選んだような物ですね・・・ですからそこにとりたてて深い意味はありませんでした。」

「私は柊ちゃんが言った通りね。みんなでがんばってみよう、って事から受けた感じ。それでも私とみさちゃんと柊ちゃんとは付き合い長かったから。」

「私は最初はあんまし深く考えてなかったんだよなー。柊とも長く付き合ってきたから高校も一緒になれたらな、って感じだったんだ。でもそのうちにその気持は本物になってさ。それこそ一生懸命勉強したってヴァ。んで今があるんだけどな。」

 

それぞれにそう言い、そして最後にこなたが自分が陵桜に行く事になった経緯を教えてくれた。

 

「私はおとーさんと賭けしてたんだよね。受験する高校のランクによって買って貰う物をさ。それでその条件の中で一番いいものだったのが陵桜合格できた時の物だったんだよねー。私はそれが目標だっただけだったんだけど。」

 

そう言って、うんうんと頷くこなたをみんなは呆れながら見ていたのだが、こなたは更に言葉を続けて

 

「陵桜を受ける理由ってさ。今聞いただけでも様々あったけど、結局みんながここを目指したからここにいるんだよね?そして、こうして出会ってみんな仲良くなった訳だよね?」

 

その言葉にみんなも大きく頷く。

 

それを確認した後こなたは更に言葉を続ける。

 

「でもさ、私思ったんだ。今の私達の関係ってさ。慶一君がつないでくれたものじゃん?だからもし慶一君が陵桜に来ていなかったら、今の私達ってなかったわけだよね?」

 

その言葉にかがみも頷いて

 

「確かにそうよね?私やつかさ、みゆきは一緒にいたかもしれない。けど、日下部達や八坂さん、永森さんがそこにいたかどうかってなると、ありえなかったかもしれないわよね?日下部達はいずれそうなる可能性はあったにしてもさ。」

 

かがみの言葉に他のみんなもうんうんと頷いている。

 

こなたはそれを見て

 

「慶一君が陵桜に来る事になったのは、龍也さんがこの学校に居てくれたおかげでもあるわけじゃん?慶一君は龍也さんを真似てここを目指したんだからさ。」

 

俺はその言葉に頷きながら

 

「そうだな。それがあったから俺はここに居るわけだ。」

 

その言葉を聞きながらこなたは俺を見て

 

「だから私思ったんだよ。すごいな、って。今のこの状況を用意してくれたのは、慶一君を私達の前に連れてきてくれたのは龍也さんなんだって。私達みんなが今ここに居るのは、そのきっかけは龍也さんが作っていてくれた物だって考えたら、運命がそこから始まったって考えたら凄いなって思えたんだよね。」

 

こなたの言葉に俺も含め全員がこの状況に改めて凄さと運命を感じていた。

 

「やっぱかなわないや・・・龍兄。あんたはやっぱり凄いな・・・そして、俺にこんな運命をくれた事をありがたい、って思うよ。」

 

俺の呟きに皆もまた同じように感じ、そして頷いていた。

 

俺は皆の方に向き直り

 

「運命のきっかけは龍兄がくれた物。だけど、ここからは俺達が作る運命だ。この先どうなるかは予想もつかないけど、俺はこれからもみんなと共にこの運命を進んで行きたいと思う。それが俺の今の思いだ。」

 

俺の言葉に皆もそれぞれに

 

「私もみんなと一緒にこの運命の先、見届けたいな。とはいえ、このメンバーなら一緒に居つづけられると思うよ。今の私にはそう思える。」

「私もよ?どんな運命が待っているのかわからないけど、私達が一緒に居れる事が運命なら、この先もきっと私達は一緒に居られると思うから。」

「運命ってよくわからないけど、少なくとも今は、こなちゃんやけいちゃん、それにみんなと一緒に過ごしたいな~。」

「それが運命なら、私達はこれからも一緒に居れるはずです。私はそれを信じようと思います。」

「ここにいるみんなとお友達になることが私の運命ならこの先もきっと一緒にいけるわよね?」

「今こそもう一度あの時慶一が言った事を望む時なのかもな。みんなと一緒に居たいって事を望むってさ。」

「全てが繋がっているのならこれからも繋がっていられるはずですよ。私はそう信じます。」

「私達の出会いは必然だったのね・・・ならこれから一緒に居つづける事ができるのも必然よね・・・」

 

そんな皆の言葉を改めて噛み締めながら

 

「そうだな、きっとそういう事なのかもしれないな。みんな、これからも俺達は一緒に・・・一緒にやっていこうぜ。楽しい事も、辛い事も、みんなとならきっと乗り越えていけるから。」

 

俺の言葉に皆も力強く頷いてくれたのだった。

 

俺達の運命を改めて知り、その運命と共に進んでいく事を決意して俺達はそれぞれの家に帰っていく。

 

そして、家の側まで来たとき、門の側に何かが落ちているのを見つけた俺は、それをおもむろに拾い上げてみると、それは学生証だった。

 

「何で俺の家の前にこんなものが?」

 

そう呟きながら俺は拾った学生証を確認してみると、そこには「田村ひより」の名前が書かれていたのだった。

 

「ひより?あいつ、家まで来たのか?それでいて大事な物落としていったら世話ないよなあ・・・」

 

学生証を更によく確認してみると、そこにはひよりの住所も載っていたので、俺は軽いため息を一つついた後、家に入り出かける準備をして、ひよりに学生証を届けるために家を出たのだった。

 

住所を頼りにひよりの家をを探して歩きつづける事1時間、ようやく俺はひよりの家を見つけたのだった。

 

「ここか、それにしても大分迷ったよな・・・まさかここまでてこずろうとは思わなかったが・・・」

 

そう呟きつつ俺はひよりの家の呼び鈴を押してみる。

 

しばらく待つと、家の中から人が少し慌て気味に出てこようとしているのを軽いため息を一つつきながら感じていると、玄関のドアが開き、そこにはどこかひよりににも似た感じの男の人が俺を見るなり声をかけてきたのだった。

 

「お待たせっス。どちら様?」

 

俺を観察するように見つめる男の人に俺は

 

「えっと、俺は森村慶一といいます。こちらは田村ひよりさんのお宅でいいんですよね?」

 

そう訊ねると男の人は俺を怪訝な表情で見ながら

 

「ええ、そうっスけど・・・ん?森村?」

 

俺の名前に聞き覚えがあったのか男の人は、俺を見つめながらしばし考え込んえいたが、やがて掌をぽんと打つと

 

「ひょっとして今年の夏休みに妹が世話になった森村さんってあんたかい?」

 

その妹という言葉に驚きつつも

 

「ええ、そのとおりです。失礼ですがひよりさんのお兄さんですか?」

 

俺の言葉にその人は頷きながら

 

「ああそうだよ。俺はひよりの兄貴だ。よろしく。それで今日は一体何の用で家に?」

 

その人がひよりのお兄さんだという確認が取れると俺は

 

「ええっと、実はですね。俺の家の側でひよりさんの学生証を拾いましてね。困ってるかもしれないと思ったので届けに来たんですよ。それで、ひよりさんはいらっしゃいますか?」

 

そう訊ねるとお兄さんは腕組みしながら

 

「いや、実は結構前に出掛けたんだけどまだ帰って来てないんだよ。なんなら俺がひよりの学生証、預かろうか?」

 

その言葉に俺は頷きながら

 

「なら、お願いできますか?これがそうです。」

 

そう言って俺は、持ってきたひよりの学生証を手渡すと、お兄さんはそれを受け取りながら

 

「うん。確かに預かったよ。わざわざ悪いね。ひよりにはよく言っておくからさ。」

 

そう言うお兄さんに俺も頷いて

 

「わかりました。よろしくお願いしますね?では、俺はこれで。」

 

そう言って踵を返して立ち去ろうとした時、丁度、出先から帰ってきたひよりと会った。

 

「あ、あれ?森村先輩、何でこんな所いるっスか?」

 

俺も突然帰ってきたひよりの姿に驚きつつ

 

「お前の落し物を拾ったんでな。困ってるかもしれないと思って届けに来たんだよ。お兄さんに落し物の学生証預けといたから後で受け取っておけよ?」

 

俺の届けに来たものの事に驚いたひよりは

 

「え?学生証っスか?・・・・・・ああああっ!!さっき無くしたと思って諦めかけてた・・・で、でも、どこに落ちてたっスか?」

 

俺はその質問に軽いため息をつきつつ

 

「俺の家の門の前だよ。お前俺に何か用事あって家に来たんじゃないのか?そうじゃなきゃあんな場所にお前の学生証落ちてるなんて考え難いしな。」

 

そう指摘すると、ひよりは苦しげに言葉を詰まらせて俯いていたが、おもむろに顔をあげると

 

「・・・先輩。学生証拾っていただいたお礼も兼ねてで申し訳ないっスがちょっと家に寄っていってもらえないっスかね?」

 

その言葉に俺は(俺の家に来た目的についてかもしれないな)と思ったので

 

「わかった。とりあえずお前も話したい事あるみたいだからお前の言葉に甘えさせてもらおうかな。」

 

そう返事をすると、ひよりはほっとしたような表情になって

 

「ありがとうございます。それじゃ先輩、あがってください。こっちっス。」

 

そうひよりに促されて俺は、ひよりの家にお邪魔する事となった。

 

そして、俺はひよりの部屋に案内されて

 

「すいません、先輩。ちょっと待っていてほしいっス。飲み物でも用意してきますので」

 

俺を自分の部屋に入れたひよりは俺にそう言うと、俺は飲み物の準備をするために部屋をでようとしているひよりに「おかまいなく。」

 

そう伝えたのだった。

 

俺はひよりが飲み物を取りに行っている間、ひよりの部屋をざっと見回していた。

 

前に同人誌などを手がけているという事も聞いた事があったし、俺自身もひよりの作品は見せてもらった事があったので、やはり部屋には漫画を描く為の道具も置いてあった。

 

「なるほど・・・あいつはよっぽど好きなんだな・・・漫画描くことが・・・」

 

それらの道具を感慨深げに見つめながらそう呟いていると、飲み物を持ったひよりが部屋に戻ってきたので

 

「お待たせしましたっス。って先輩、あまりじろじろ見ないで下さいよ。恥ずかしいっスから・・・」

 

照れて顔を赤らめたひよりに俺も苦笑しつつ

 

「いや、すまんすまん。漫画書くことが本当に好きなんだなって漫画の道具見ながら思ってただけだよ。特に弄繰り回したりはしていないから心配するなって。」

 

ひよりを安心させるようにそう言うと、ひよりもどこかほっとしたような顔で俺の前に飲み物を置いて、ひよりも向かい側に座ったのだった。

 

そして「いただきます」と言って飲み物を一口飲んだ後、さっそくひよりに本題を切り出したのだった。

 

「それで?突然に俺の家に訪れた理由はなんなんだ?何か相談事か?」

 

俺の言葉にしばらく悩んでいたひよりだったが、意を決したようで俺にぽつりぽつりと家に訪れた理由を話し始めた。

 

「・・・実はですね・・・もうすぐ私も受験じゃないですか。今まで頑張って勉強してきたっスけど、このぎりぎりの所まできて急に物凄く自分が不安になってしまったんです・・・ちゃんと合格できるのか・・・みんなと一緒に陵桜行けるのか・・・みんなの期待どおりに私は皆さんの前に立てるのか・・・色々考えるようになってしまってそれが物凄くプレッシャーになってしまって、自分でもどうしたらいいかわからなくなっちゃったんス・・・だから先輩に会って何か私にアドバイスでもしてくれたらと・・・そう・・・思って・・・先輩の家に行ったんです・・・でも、タイミング悪かったのか先輩いなくてそれで・・・気付かないうちに学生証も落とすし・・・悩みは解決しないしで・・・凹みながら戻ってきたんです・・・」

 

俺はそんなひよりの告白を聞きながら(プレッシャーの原因の一端は俺にもあるよな・・・)と思いながらも、とりあえずひよりにかける言葉を捜す俺だった。

 

「そうか・・・受験前にありがちな不安てやつだな・・・プレッシャーの原因の一端を作った俺にも非があるからな・・・とりあえず聞くが、最近は受験勉強はちゃんとやれてるか?」

 

俺の言葉にひよりは暗い顔になって

 

「実は・・・プレッシャー感じ出してから前みたいに上手く行かない日々が続いてるっス・・・」

 

そのひよりの答えに(うーん・・・こいつは相当だな・・・仕方ない、とりあえずは・・・)

 

「そうか・・・よし、それなら俺がお前に龍神流に伝わるプレッシャー跳ね除けるおまじないと気功による身体のリラックスを施してやる。とりあえずひより、椅子をこっちに持ってきてそこに座れ。そしたら始めるぞ?」

 

俺の言葉にひよりは、わらにもすがる程切羽詰った表情で椅子を持ってくると、そこに座って俺がやろうとしてる事に期待をかけているのが見て取れた。

 

俺は椅子に座ったひよりに

 

「まずは気功による身体のリラックスだ。ひより、ゆっくり深く深呼吸をするんだ。そしてそれを徐々に俺の呼吸に合わせるようにしていくんだ。いいな?ゆっくりだぞ?」

 

そう言うと、ひよりは頷いて俺の呼吸に合わせるようにゆっくりと深呼吸を始める。

 

俺はひよりの呼吸を感じ取りながら気を練って行き、ゆっくりとひよりの頭と背中に手をかざして気を送り始めた。

 

徐々に気持がよくなってきたのか、表情が柔らかくなってきたひよりに俺は静かに問い掛ける

 

「どうだ?気持が落ち着いてきただろ?そのままもう少し続けるぞ?」

 

俺の言葉にひよりはこくりと頷いて俺に身を委ねていた。

 

約10分ほどそれを続けて次に俺はひよりに

 

「よし、次はプレッシャーを跳ね除けるおまじないだ。ひより、両の掌を俺に向けて差し出すんだ。そして腕は胸の高さで固定する。そして目をつぶって楽しい事をイメージするんだ。その間におまじないを終わらせる。」

 

俺の言葉にひよりはおずおずと手を俺の言った位置にあげて

 

「こ、こうっスか?」

 

そう聞いてくるひよりに俺は頷いて

 

「そうだ。そのままゆったりとしながら目をつぶるんだ。そして、イメージな?」

 

俺の言葉に従い、ゆっくりと目を閉じるひより。

 

俺はひよりの両の掌と額に指を当て、おまじないの文字をなぞる。

 

ひよりも俺がやっている事に気付いたのか、くすぐったそうにしていた。

 

そうしてそのまま10分、俺はひよりにリラックスさせてから目を開くように促すと、ひよりはゆっくりと目を開けて

 

「あ・・・すごいっス!不思議っス!さっきまでのプレッシャーが無くなってるっス!先輩、このおまじないす凄いっスね!?」

 

すっかり緊張が解けたひよりが少し興奮気味に俺に言うと

 

「龍神流に伝わるおまじないだからな。効かないはずはないさ。それと最後にこれをお前に。」

 

そう言って俺は、ひよりに前に鷹宮神社で購入した健康祈願のお守りを渡して

 

「これは俺がかがみの神社から買ってきた物だ。こいつを持って受験に望んでくれ。これがお前にあげられる最後の薬ってやつかな?」

 

俺が笑いながらそう言うと、ひよりは俺から受け取ったお守りをしげしげと見つめながら

 

「ありがとうございます、はいいですけど、こういうのって普通学業祈願のお守りじゃ?」

 

そのひよりの疑問に俺は、あの時かがみ達に言った事をそのままひよりにも伝えると

 

「なるほど、確かに先輩のいうとおりっスね。どんなに勉強がんばっても体調壊したら元も子もないですし。」

 

ひよりの言葉に頷きながら

 

「そういう事だ。何をするにしても体が、健康が基本だ。お前が漫画描くのだってそうだろ?」

 

俺の言葉にうんうんと頷くひよりに

 

「まあ、そういう事だから後は受験までつっぱしれ。また不安になったらおまじないしに来てやるから。なんならお前からまた尋ねてきてくれてもいいがな。」

 

俺がそう言うとひよりは嬉しそうな顔で

 

「ほんとうっスか?また凹んだらお願いしたいっス。先輩、私受験がんばりますから。絶対に小早川さん達と先輩達の前に行きますから待っててくださいね。」

 

そう意気込むひよりに俺も笑顔で頷いたのだった。

 

そして用事を済ませた俺はひよりの家を後にする。

 

家に戻りながら俺はさっきのひよりの事を考えていた。

 

「受験のプレッシャーか。ゆたかもみなみも感じているんだろうけどな・・・ひよりは特にプレッシャー感じちゃったんだな・・・ま、今回ひよりに施したでっちあげでひよりがリラックスできたみたいだし結果オーライだよな・・・」

 

そう、俺がさっきのひよりに施したおまじないは、ひよりの心を楽にするためにわざとそういうものがあると思わせるでっちあげだったのだ。

 

普通の薬もこれがよく効く薬だと信じ込ませれば、いつも以上の効果を発揮するプラシーボ効果ってやつを俺は狙ったのだ。

 

ひよりは結構思い込みやすい性格だった事もあり、その効果は絶大だった。

 

けど、これがひよりの為になる事だし、あいつに余計なプレッシャーを与える原因の一つを作った俺が取れるあいつに対する贖罪でもあった。

 

それでも、ひよりには十分効果が出た事が分かったので、これからもあいつの為になる嘘を受験が済むまでつきつづけてやるかな、と思う俺だった。

 

もうすぐクリスマスもやってくる。

 

そしてそれが終われば後何日かで今年1年も終わりを迎える事だろう。

 

俺は陵桜に入ってから今までの事をもう一度思い出しながら、来年もまたみんなと共に楽しくやろうと改めて思う俺だった。

 

そしてそれと同時にクリスマスプレゼントに頭を悩ませつつ、みんなのプレゼント選びにデパートへ訪れるのだった。

 


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