龍兄の突然の帰還から一夜明け、俺の家に泊まった龍兄は昨晩の俺との約束のためにすでに起きていたのだった。
いつもよりも早い時間に起きた俺達は、久々に2人で朝の稽古をするために家を出た。
そして、向かった先は十分なスペースのある鷹宮神社の敷地だった。
「へえ?慶一、こんな場所を知ってたとはな。確かにここなら朝の稽古には丁度いいスペースがあるな。」
その言葉に俺も笑いながら
「はは。ここには何度か来た事があったからね。それにうちの近所には広い場所は中々ないからさ。それと、龍兄、ちょっと待っててくれないか?」
俺の説明に龍兄も感心しつつ周りを見渡していた。
俺は、朝の稽古を始める前に朝早くから神社内の掃除をしていたただおさんを見つけ、鍛錬の為の敷地の使用許可をもらうために挨拶にいった。
「おはようございます、ただおさん。ちょっとお願いがあるのですが・・・」
俺の声に気付いたただおさんはいつものようににこにことしながら
「やあ、森村君おはよう。今日はまた更に早起きのようだね。ところで、お願いというのはなんだい?」
そんなただおさんに俺は恐縮しつつ
「実は俺の義兄が久々に戻ってきてましてね。義兄との武術鍛錬の為に朝ちょっと敷地をお借りしたいと思いまして。それをお願いするために声をかけさていただいた次第です。」
俺の言葉に龍兄も俺の側に来て
「突然お伺いしてこのような申し出で恐縮なのですがご許可願えますでしょうか?」
その言葉にただおさんも感心しながら
「ほう、君が森村君の兄さんなのか。兄さんもまた礼儀正しい人のようだね。うちの敷地でよければ使ってくれてかまわないよ。それに森村君にはうちの娘達も世話になっている事だしね。」
ただおさんのその言葉に驚いた龍兄は
「え?あなたの娘さんを慶一は知っているんですか?」
そう言い、その質問にただおさんはにっこりと笑いながら
「彼は夏の旅行の時においても娘の命を救ってもらっている恩人でもあるからね。ああ、申し遅れたね。私は柊ただお、この神社の神主をやっているんだよ、よろしく。そして、娘の名前は柊かがみとつかさというんだよ。森村君とは同じ学校に通うよき友人なのでね。」
その名前に龍兄は昨日あった2人の事を思い出して
「かがみちゃんとつかさちゃんのお父さんだったんですか。どうりで・・・それにしても、中々由緒ある神社みたいですよね?ここは。」
その言葉に気分を良くしたただおさんは
「県下ではそれなりに古い歴史を持つ所ではあるかな。しかし、君のような若者にもそう言ってもらえるのなら、まだまだ家の神社も捨てた物ではないようだ。」
その言葉に龍兄も
「何をおっしゃいます。十分に素晴らしい所ですよ。これからも時折こちらに来させてもらってもいいですかね?」
その言葉にただおさんも頷いて
「家のようなところでよければいつでもどうぞ。おっと、少ない時間なのに邪魔をしちゃったね。それじゃ、鍛錬がんばりなさい。」
その言葉に俺と龍兄は
「「ありがとうございます。」」
そうお礼を言った後2人して朝の稽古を始めるのだった。
「よーし、まずは基本から復習していくぞ?構えろ慶一。」
龍兄の言葉に頷いて俺は静かに構えを取る、そして基本の型から体を動かしていくのだった。
ただおside
今朝もいつもどおりに朝のお勤めを果たしていたのだが、森村君達の来訪が会ったので驚いた。
何でも、彼らは自分らのやっている武術の稽古のために家の敷地を貸して欲しいとの事、彼のお兄さんが久々に戻ってきたのだ、という事を森村君が教えてくれた。
彼の兄もまた流石に武術を修める人間だけに礼儀のできた人間だと思えたので、私は彼らに鍛錬の為の敷地の使用許可をだしたのだった。
そして朝のお勤めを終えた私は家に戻ると
「あら、おかえりなさい、あなた。にこにことしてるけど何かよい事でもありましたか?」
私を出迎えてくれたみきが私にそう聞いてきたので、私は朝の出来事をみきに話すと
「まあ、森村君にお兄さんが・・・私もちょっと見てこようかしら?」
そう言っていたので私は笑いながら
「ははは、それはいいが、あまり彼らの邪魔にならないようにな。ところで朝食の準備はできてるかい?」
その言葉にみきも頷いて
「ええ、もうすませてあるわ。そろそろいのりやかがみも起きてくる頃でしょうし、私はちょっと様子を見にいってみるわね。」
そう私に告げたみきは神社の方へ彼らの様子を見に出て行くのだった。
そして、そのすぐ後にいのりとかがみが起きてきて
「おはよう、お父さん。なにやらお母さんとの話し声聞こえてたけど、何かあったの?」
「おはよー・・・ああ、眠いわね・・・」
かがみの質問に私は頷いて
「うん。実は今朝森村君とそのお兄さんが武術の鍛錬の為に敷地を貸して欲しいってやってきてね。今はその稽古をしてるはずだ。お母さんも興味を持ったみたいでね、彼らを見に出て行ったところなんだよ。」
私の言葉にかがみは驚きの表情で
「え?龍也さんが慶一君と一緒に来てるの?ちょっと私も様子見にいってくるね。」
そう言って慌てて家を飛び出すかがみを見送りつついのりが私に
「森村君にお兄さん?ほんとなの?お父さん。」
そう私に尋ねてくるいのりに私は頷きながら
「うん。雰囲気も礼儀正しさも彼にそっくりだった。中々良さそうな人だったよ。って、いのり?」
私がそう言い終わると同時に、いのりも慌ててかがみの後を追って家を飛び出したのだった。
その様子を軽いため息を一つつきながら見送った私は、朝食を取る為にキッチンへと向かったのだった。
慶一side
龍兄と共に基本の型からの鍛錬をする。
基本をチェックしながら龍兄の叱責が飛ぶのを懐かしく思いつつ、鍛錬に集中してやっていった。
「次!弐の型!はじめ!!」
「はい!!はああっ!!」
そして弐の型の鍛錬に進む俺だったが、俺の甘い部分に龍兄の叱責が入った。
「慶一!まだ動きに無駄があるぞ!小さく素早くだ!!」
「はい!!」
そうこうしながら鍛錬してるうちに、気付いたらみきさんとかがみといのりさんが近くに来ていた事に俺達は集中していたあまりに気付かなかった。
かがみside
お父さんから神社に慶一くんと龍也さんが来てる事を知った私は、2人の様子を見に行く為に家を飛び出してきたのだが、そこにお母さんが先に来て鍛錬の様子をにこにこしながら見守ってるのを見つけて私はお母さんの所に駆け寄って声をかけた。
「おはよう、お母さん。2人ともやってるわねー。」
私の声に気付いたお母さんは私に
「あら、かがみ。おはよう。ええ、中々迫力あるわよ?あっちの子が森村君のお兄さんかしら?」
というお母さんの言葉に私はお母さんの指差す方を見て
「うん。そうよ。あの人が慶一くんの義兄さんで龍神龍也さん。慶一くんとは血のつながりはないんだけど彼の事を実の弟のように思ってるのよね。」
その言葉にお母さんも驚きながら
「そうだったんだ・・・彼にもまた複雑な事情があるのね・・・」
そう言いながらも、再び私とお母さんは2人の鍛錬に目を向けたのだが、そこに少し遅れていのり姉さんがやって来て
「おはよう、かがみ、お母さん。あの人が森村君のお兄さん?」
という姉さんの質問に私は、先ほどお母さんにしたのと同じ説明をすると
「へえー・・・でも、優しそうな人よね。それに弟思いなんだ・・・」
その姉さんの言葉に私も頷いて
「あの兄弟を見ていると血のつながりだけで絆があるわけじゃないってわかるわよね・・・」
その言葉にお母さんと姉さんも頷いていた。
そして、少しして彼らの鍛錬も一段落したようで、2人とも一息ついていたところに私達は近づいて声をかけたのだった。
「おはよう、森村君。それと龍也さんでいいのよね?」
「おはよう、慶一くん、龍也さん。朝からがんばってるわね。」
「おはよう、森村君。それとお兄さんもお疲れ様。」
その言葉に2人とも驚きながら私達の方を向くのだった。
慶一side
鍛錬も1段落して体を休めていると、俺達に声をかけてくる人達がいたのでそっちを向くと、そこにはみきさんとかがみ、いのりさんの3人がいたのだった。
俺は3人に
「おはようございます、みきさん。それにかがみにいのりさんも。鍛錬の為にちょっと敷地をお借りしています。」
そう声をかけると龍兄も俺に
「おい、慶一。この人等もお前の知り合いなのか?」
そう聞いてきたので俺は頷きながら
「ああ。この人はさっきのただおさんの奥さんとかがみのお姉さんだよ。他にもう1人お姉さんがいるんだけど今日はこの場にはいないみたいだな。」
そう説明すると、みきさんといのりさんが自己紹介を始めたのだった。
「初めまして。龍神龍也さんでよかったかしら。私は柊みき。そこのかがみといのりの母親です。」
「初めましてー。私はかがみの姉のいのりです。森村君のお兄さんだそうで、森村君同様いい男ねー。」
みきさんはともかくいのりさんの言葉に龍兄も苦笑気味に
「みきさんといのりさん、ですか。家の弟がお世話になっています。龍神龍也です。それにしてもみきさんがかがみちゃん達のお母さんだとは・・・見た目にはそう見えませんね。それといのりさんでしたか?そう言ってもらえるのは嬉しいですが何だか照れますねえ・・・」
そう言いつつも、満更でもなさそうな龍兄に俺も軽いため息をついていたのだった。
龍兄の挨拶に2人とも感心しながら
「森村君同様、礼儀正しい子ね。龍也さんは今おいくつなのかしら?」
「森村君とは見た目的にはそう離れているようには見えないけど・・・」
そう言ってくる2人に龍兄は
「ありがとうございます。俺は今年24歳になります。それを言ったら俺もみきさんが4人の子持ちの母親にはとても見えませんよ。」
その言葉に少し驚きの表情を見せるみきさんと、それとは対照的に目を輝かせるいのりさんは
「まあ、あなたも年相応には見えないわ。見た目少し幼さも見える感じだし。」
「24歳!?そっかー、私と近いのね。うーん・・・」
そんないのりさんの視線に照れる龍兄は
「はは、恐縮です。それといのりさんと年近いんですか?自分の方が上なのかな?」
その言葉に頷くいのりさんは
「一つ上ね。そっかー・・・これは狙ってみるべきかな・・・」
そう言っていたが、最後の方の言葉はかなり小声だったので、俺にはその言葉を聞き取る事はできなかった。
「でも、2人とも中々かっこ良かったわよ?でも龍也さんと慶一くんとじゃ大分違って見えたのは驚きだったけど・・・」
かがみは俺達2人の鍛錬の様子を見てそう感想を言ってくれたが、俺はその言葉に頷きつつ
「そりゃ当然さ。龍兄は龍神流の正当伝承者だからな。俺みたいに技の全てを教わっていないのとは比べるべくもないさ。」
俺の言葉にかがみは複雑そうな表情をして、みきさんは感心したような顔で、いのりさんは更に目をかがやかせているのだった。
「大した物ね。正当伝承者か・・・龍也さんから出ていた雰囲気はその貫禄でもあるのねえ・・・」
「正当伝承者・・・玉の輿・・・やっぱり狙ってみようか・・・」
やっぱり最後のいのりさんの最後の言葉を聞き取れなかったが、遠目に何事かを画策してるっぽいのは見て取れた。
「確かに慶一は正当伝承者ではありませんが、こいつもなかなかの素質の持ち主ですよ。」
そう言って龍兄がフォローしてくれたが、俺はその言葉にもただただ苦笑を浮かべていたのだった。
その後、色々と話をした後、みきさんに一緒に朝食でもどうかと誘われたのだが、先に済ませて来ていたので今回は丁寧にお断りさせてもらったのだった。
そして鍛錬の帰り道・・・・・・
「かがみちゃんのお父さんも大変だな。女5人に男1人じゃさ。」
龍兄は何となく感じた感想を口にしていた。
「まあね、見る人によっちゃあれを勝ち組みと呼ぶのもいるのかもしれないけどな・・・」
そんな俺の答えに龍兄は笑いながら
「でも、いい人達みたいじゃないか。よかったな、慶一。俺はずっと俺が居なくなってからのお前の事を心配していたからな。あの人達を見ればその心配もなかったと改めて思うよ。」
その言葉に俺は嬉しさを感じながら
「うん。俺もそう思うよ。龍兄、俺のこと気にかけてくれていてありがとう。」
俺の言葉に龍兄は照れながら
「よせよ、照れくさい。ま、お前は俺の大切な義弟だからな。お前を気にかけるのは兄として当然の事さ。」
そんな龍兄の言葉を聞いて俺は、もう一度「ありがとう」と伝えると龍兄は後頭部を掻いていた。
自宅に戻り、学校に行く準備をして家を出る頃、龍兄は俺に
「今日も留守番しててやるから心配せずに学校へ行って来い。」
そう言ってくれたので、俺は家を龍兄に任せて学校へと向かった。
「おはよう。」
そう挨拶しながら教室に入ると、俺の声に気付いたあやのとみさおが
「おはよう、慶ちゃん。今日も元気そうね。」
「おはよ、慶一。何だか柊が元気ねえんだよなー。」
「おはよう。2人も今日は元気そうだ。ん?」
2人に挨拶を返しつつ俺はかがみの方をちらりと見ると、かがみはなにやら疲れたような顔で席についているのが見えたので、俺はかがみの所に行って声をかけてみた。
「おはよ、かがみ。朝にあったときは元気そうに見えたんだが、なんかあったか?」
俺の声に疲れたような表情を向けながら
「おはよ、慶一くん。実はあの後さ、家に戻った時にまつり姉さんが起きててさ、お母さんが龍也さんが来てる事をまつり姉さんに教えたらしいんだけどその事で姉さんが私に「なんで私を呼ばなかったんだ」と文句言ってきてさ、そのまま言い合いに・・・」
俺はその様子を想像してため息を一つつくと
「なるほどな・・・かがみ、まつりさんに言っておいてくれよ。今度龍兄連れてくからってさ。そうすりゃお前の顔も立つだろ?」
俺の言葉にかがみは少し驚いたような顔で
「いいの?龍也さんに迷惑だったりしない?」
かがみの言葉に俺は否定するように手を振って
「大丈夫、大丈夫。こっちに戻って来てる間は融通きくから大丈夫さ。龍兄もああ見えて意外と付き合いがいいからね。」
俺の言葉にほっとしたような顔になりながら
「そっか。ありがとう、なんかごめんね?姉さんのせいで手間かけさせちゃってさ。」
そんなかがみに俺は軽く笑いながら
「気にするな。俺だって柊家の人達にも大分世話になってるんだしこの位はしないとな。」
そんな俺の言葉にかがみもようやく笑顔を見せながら頷いてくれたのだった。
「龍也さんて慶ちゃんのお兄さんよね?昨日のバイトの時に聞いた人。」
あやのが俺にそう訊ねてきたので俺もうなずいて
「そうだよ。今はしばらく俺の家に泊まってくらしいからまあ、見に来たければきてもいいよ。」
そんな俺の言葉にかがみは「見世物かよ!!」といつもの切れのあるツッコミを披露していた。
かがみの突っ込みに苦笑しつつ
「まあ、そんなんでも龍兄は気にしないから大丈夫だけどな。」
俺の言葉にみさおは
「なんだかある意味すげー兄ちゃんだな。」
そう言うみさおに俺は笑いながら
「まあ、色んな意味でね。」
そう答えるのだった。
そしてその日の昼休み、俺はみんなと共にアニ研部室に集まりいつものように昼食を取っていた。
もはやこの時期になると、屋上へ行くのは寒すぎるという判断と、ここなら俺達だけで食事できるので気兼ねがなくていい、というのもあったのだが。
そんな中、今日は今朝の柊家においての話題で盛り上がっていた。
「へえー?かがみの家で2人して鍛錬かー。私も見てみたかったかも。」
なんとなく惜しい物を見逃したかのように残念そうに言うこなた。
「まあ、あんたが慶一くん達の来る時間に起きて来れれば見れるんじゃない?」
という強烈なツッコミをいれるかがみにこなたは軽くむくれていた。
「あはは、わたしはまだ眠ってたからけいちゃん達が来てたことにも気付かなかったよ~。」
のほほんと言うつかさにみゆきは
「それも・・・つかささんらしいですね。私は家が遠すぎますから駆けつけるのも無理ですね・・・」
そう言いつつ少し落ち込んでいたのを見たあやのが
「高良ちゃん。慶ちゃんにお願いして鍛錬の様子をみんなが見れる時に見せてもらうようにしたらいいかもよ?大丈夫よね?慶ちゃん。」
そう言いながら俺に話を振ってきたので俺はその言葉に頷きつつ
「まあ、龍兄に言えば融通利かせてくれるとは思うけどね。そんなに見たい?鍛錬の様子。」
俺の言葉に一番にみさおが反応して
「みてえなー。なんか凄そうだもんなー。」
そう言うみさおにさらにこうも
「先輩のお兄さんを見てみたいってのもありますけどね、私は。」
そう言い、その言葉にやまとも頷きながら
「そうね。私もどんな人か会ってみたいわ。先輩と雰囲気が似てるってつかさ先輩もいってたわよね?」
その言葉につかさも頷いて
「うん。あの時は遠目から見ただけだったんだけど、けいちゃんと一瞬見間違えそうになった位だよ~。」
そう言うつかさにかがみは
「慶一くんと見間違えそうになったのはあんたくらいよ。とはいえ、似てるといえば似てるわね。」
そんなかがみの言葉にみんなも興味深々で居たのだが、その時部室のドアがわずかに開いていたことに気付くものが居なかったのだが、ふいに俺達とは別の声がかかったのだった。
「似ているのは俺じゃないよ?慶一が俺に似ているんだよ。」
その言葉にかがみは
「ああ、そういう事なのね・・・って、龍也さん!?」
かがみのツッコミに俺達は一同に声の方を振り向くと、そこには陵桜の制服に身を包んだ龍兄がにこにこしながら立っていたのだった。
「た、龍兄!何やってるんだよこんなところで!」
俺とかがみの言葉に、そこに立つ人物が先ほど噂をしていた龍也さんである事がわかり、みんなして驚いていた。
「あの人が慶一君のお兄さん?龍也さんなんだ?」
「わあ!龍也さんだ~。でもどうしてここにいるの?」
「そ、それ以前に慶一さんのおっしゃられた事が真実なら龍也さんは確か24歳のはずですよね?それにその制服は・・・」
「え!?龍也さんてそんなに年上だったの?その学生服の似合い方見てるとそうは見えないわ。」
「へー・・・確かに慶一に似てるなー・・・」
「で、でも、血は繋がってないんですよね?」
「まるでもう1人の先輩と会ったかのようね・・・」
口々にそう言うみんなに龍兄はのほほんと笑いながら
「みなさん、初めまして。俺は慶一の兄、龍神龍也です。皆さん、慶一が日頃色々とお世話になっています。兄としてお礼を言わせてください。」
その言葉にみんなも慌てて自己紹介をするのだった。
「あ、えと、泉こなたです。慶一君にはお世話になってます。」
「高良みゆきです。慶一さんとは仲良くさせていただいています。」
「峰岸あやのです。私も慶ちゃんには色々良くしてもらいました。」
「日下部みさおだ。私も慶一とは友達だゼー?」
「八坂こうです。先輩とは中学時代からの付き合いです。」
「永森やまとです。こうと共に中学時代の後輩です。」
その後に龍兄が補足をいれて
「そして、柊かがみちゃんとつかさちゃん、だよね。そっかー君らが慶一が守りたい者達って事か。」
その龍兄の言葉を聞いた瞬間、俺も含めて皆が一斉に顔を真っ赤にして照れていた。
「慶一、俺がここにいるのは、ちょいと学校へ侵入させてもらったからだよ。それと共に、慶一が守りたい者達の顔を拝んでおきたかったっていうのもあるけどな。」
その言葉に俺は思わず龍兄に
「何で、そんな事を?」
そう訊ねると、龍兄は笑って
「お前の守ろうとする者達を俺も守りたいと思うからだ。その為には、守るべき者をその姿を把握しておく必要があるしな。」
俺は少し呆れつつも、俺が守りたいと思う人を龍兄も守りたい、というその気持ちが嬉しかった。
「龍兄の気持はわかったけど、あんまり無理するなよ。いくら龍兄が陵桜の卒業生だからといってもその格好はやりすぎだと思うしな。まるでそれじゃなんちゃって高校生じゃないか。」
照れ隠しに言った一言に龍兄は慌てながら
「悪かったな!それでもあんまり違和感ないだろ?」
それでも余裕そうにそう言う龍兄。
そんな龍兄に俺は、呆れたようにため息をついていたが、皆は龍兄が陵桜の卒業生である事、そして制服姿にそんなに違和感がない事に驚いていた。
そして、そんな龍兄に口々に
「えー・・・とても年相応には見えない・・・」
「というか、その姿で高校生と言っても通用するわよね・・・」
「あはは、どんだけ~・・・」
「とても変わった方なのですね・・・」
「流石にこれは私も驚きね・・・」
「確かに高校生にしかみえねー・・・」
「なんだか、それでいてかっこいいのは反則じゃないですか・・・?」
「先輩以上の凄い人、ね・・・」
そう言いつつも、皆苦笑しながら改めて龍兄を見ていたのだった。
龍兄はそんな皆の言葉に、頭にハテナマークを飛ばしながら不思議そうな顔で見ていたが、ふいにこなたとみゆきの方を向くと
「えっと、泉さんと高良さんだっけ?少し前に慶一の周りで起きた一件では慶一の為に力を尽くしてくれたそうだね。俺からも改めて礼を言わせてくれ。」
その突然の言葉にこなたとみゆきは
「い、いえ。そもそも私達が慶一君を助けたくてやった事ですから。」
「私も、ただそれだけでしたから、改まってお礼を言われると恐縮します・・・」
顔を赤らめながらそう龍兄に返事をしていた。
そんなこなた達を見て龍兄は柔らかく微笑んでいたが、今度はこうとやまとに向き直り
「こうちゃん、やまとちゃん。中学時代は慶一の親友としてよくあいつを見捨てないでいてくれた。こちらも礼を言いたい。」
その言葉にこうとやまとは泣きそうな顔になって
「そんな事ないです!先輩が私達を、友情が壊れそうになっていた私達を救ってくれたんです。見捨てるなんてとんでもないです。先輩には返していない恩がたくさんありますから・・・」
「そうよ。そんな先輩だったから私達は一緒にいたのよ?私達の恩人を本当の親友を見捨てるなんて絶対できないから・・・」
俺は2人のその言葉に中学時代の頃を思い出して泣きそうになったが、ぐっとこらえて2人を見つめた。
そして、次はみさおとあやのの方を向くと
「やっぱりいい子達だ。それに、日下部さん、峰岸さん。こいつの友達でいてくれてありがとう。できればこれからも一緒にいてやって欲しい。こいつはもう、1人きりでは居させたくはないからね。」
その言葉にみさおとあやのも頷きながら
「私達こそ慶ちゃんにはこれからも友達として一緒に居て欲しいって思ってるわ。大丈夫よ?お兄さん。私達は慶ちゃんを1人にはしないから。」
「そうだぜ?こいつは私らの為に今までもがんばってくれてきたんだ。私はこいつのいいところをたくさん知ったからな。そんないい奴とはこれからも友達でいたい、って思ってるゼ?」
その言葉に更に胸が詰まる思いをしながらみさおとあやのを見つめる。
最後にかがみとつかさの方へと向き直ると
「そして、かがみちゃん、つかさちゃん。何か困った事があればこいつに頼ってやってくれ。こいつはお人好しだから頼まれれば嫌とは言えない奴だからな。特に友達の頼みはさ。それにこいつはそうされる事を嬉しく思う奴だからね。」
その言葉にかがみとつかさも頷いて
「慶一くんの性格は最近よくわかってきたわ。それに私も慶一くんだから安心して色々相談できるんだもの。慶一くんの優しさを私は知っているから・・・」
「わたしもけいちゃんには頼りきりだけど、いつでもわたし達を支えてくれたけいちゃんの事大好きだから、また迷惑かけちゃうかもしれないけど、けいちゃんの思いに応えてあげたいって思ってるから。これからも頼らせてね?」
その言葉がとどめだった。
俺はみんなの思いを改めて知り、そして俺の為に一緒に居てくれようとするみんなの気持にその涙を止めることができなかった。
そんな俺を龍兄は優しく見つめていたのだが、ふいに時計をみた龍兄は俺に
「慶一、そろそろ時間みたいだ。俺は先に帰る。がんばれよ?慶一。お前を思ってくれるその子達を悲しませるな。そして、守れ!できるよな?お前が守りたいと思う人達なんだから。俺も支えてやる。これから何が起ころうとも、お前はこの子らを守るという事だけは忘れるな。そして、友達をこれからも大切にしてやれ、いいな?慶一。」
その龍兄の言葉に俺は力強く頷いて
「わかってる。俺は必ずみんなを守りつづけてみせるよ。みんなの思いに応えるためにも。」
その言葉に満足気に頷いた龍兄は、再びこっそりと部室を出て行くのだった。
龍兄の真意は未だにわからずじまいだが、俺は龍兄の言うように、俺の仲間を、俺を慕ってくれる者達をこれから何が起ころうとも守りつづける事を心に誓った。
俺が越えるべき戦いがまだ残っている事を改めて認識しながら、そして俺を笑顔で見つめる皆を見ながら俺は、ますますその思いを強くするのだった。