らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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こうとやまとと慶一と〜3つの旋律が生まれた日〜中編〜

こうに高校受験の合格祝いをしようと呼び出され、やまとと先に再会を果たした俺。

 

こうを待ちながら、俺とやまとは3年前に俺達が出会った頃の事を思い出すのだった。

 

 

 

今を遡る事3年前。

 

俺が中学2年に上がったばかりの頃学校は、やれ卒業生の送り出しだ、やれ新入生の歓迎だと中々に慌しい季節になっていた。

 

俺は物心つく前に両親を事故で亡くしていて、育ての親の実家に預けられ散々に武術を教え込まれていたのもあったのと、1年の頃少し荒れていた事もあって校内ではちょっとした”怖い人”という印象を持たれる生徒だった。

 

そりゃあ、習った武術でケンカをする事もあったからそう思われるのは仕方がない事だったんだが、実の所、習った武術を使ったのはたったの1回だけだった。

 

まあ、その時に起きた事故みたいな出来事が原因で、俺はすっかり怖い人扱いになってしまっていた。

 

だから他の生徒に畏怖の目で見られたり、微妙な距離で避けられたりなんて事もしょっちゅうだった。

 

俺はこの学校にある校庭の隅で大きな枝を広げて立っている桜の木が好きだったので、よくその場所へとクラスからはぶられるたびに足を運び、その木の下でのんびり過ごすという事が最近の日課になっていた。

 

そして今日もいつもの場所でのんびり過ごそうと桜の木の下へ向かっていた時丁度先客がいたらしく、なにやら怒鳴り合う声が聞こえてきた。

 

そこから聞こえる声は2人分。

 

俺は、どうしたものだろうか?と思案していたが、結局その場に留まって様子を伺う事にしたのだった。

 

「もう、いいかげんにしてよ!?いっつもいっつも約束守らないで!!あなたは私の友達だと言ったわよね!?なのに私との約束はあなたにとってそんなにもいい加減なものだったの!?」

 

そう怒鳴る1人は女生徒らしく、かなり興奮しているようで、怒鳴られている方もそれに負けない大声で反論している。

 

「そんな事ないってば!今回もたまたまそうなっちゃっただけなんだって!!私はやまととの約束をいい加減にする気なんてこれっぽちも・・・。」

 

その反論の声を聞き、どうやら怒鳴られてる方も女生徒のようだと思いつつ、怒られている理由も約束に関する事らしい。

 

その女生徒を怒鳴りつけている女生徒はもう1人の女生徒の反論に再び声を荒げて

 

「信じられないわ!いえ、信じるだけの説得力もこうの行動には出て来てないじゃない!!それなのに私を信じてくれ、ですって!?虫がいいにも程があるわ!!」

 

”やまと”と呼ばれた方の娘が厳しい言葉を相手に叩きつける。

 

それを聞いていたもう1人の”こう”という娘が迫力に押されて口篭もり

 

「だ、だから、それは・・・。」

 

と、慌てながらも二の句が告げずにいる”こう”。

 

そして”やまと”はそんな”こう”を一瞥すると

 

「・・・もういいわ。もう終わりにしましょ?私ももうあなたに付き合うのはうんざりだから・・・。」

 

”やまと”は”こう”にそう告げてその場から走り去ろうとするが”こう”は慌てて”やまと”に静止をかけようと声を発する

 

「待って!やまと、私にもう一度チャンスを!!”やまと”との約束を果たすチャンスを頂戴!お願い、やまと!!」

 

その声を聞き一瞬”やまと”は”こう”の方を振り返るがすぐさま踵を返してその場を立ち去ってしまった。

 

そしてその場に残された”こう”はショックでしばらくうなだれていた。

 

俺は一部始終を耳にしてまったのでどうしたものかと思案していたが、とりあえずその場に残された”こう”に話し掛けてみる事にした。

 

「えーと、だな、申し訳ないと思ったんだが話を聞いてしまった。君さえ良ければ事情を聞かせてもらえないかな?」

 

俺がそう言うと”こう”はびくっ、と体を一瞬震わせた後俺の方を見て

 

「聞いていた、ってどういう事?盗み聞きなんてサイテーじゃない?」

 

”こう”が俺を睨み付けるように不機嫌な声で俺に言う。

 

俺はその言葉にどう答えるべきか迷ったが、とりあえず正直に返答する事にした。

 

「いや、聞いてしまったのは偶然だよ。この場所は俺のお気に入りの場所でもあってだな、今日もここで過ごすべくこの近くまで来ただけさ。そうしたら君たちが怒鳴りあっていたって事かな。突然の事だったから俺もすぐさま動けなかったんだよ。」

 

俺は包み隠さずここにいた理由を説明すると、”こう”はふう、とため息を一つついて

 

「話はわかったよ。でもこれは私とあの娘との問題だからあなたには口出ししてもらう必要はないよ。」

 

そう言い、俺の提案を拒絶する”こう”

 

その言葉に苦笑しつつ、俺はならばどうしたものかと考えていたがやはりほおっておく事も出来ないと思い

 

「そうか。まあ、それならしょうがないな。けど何か相談したい事あったら俺に言って来い。俺が出来る事なら協力してやるよ。」

 

俺は俺の思いを”こう”にそう伝えた。

 

”こう”はそんな俺を怪訝な表情で見つめ

 

「どうして?あなたにとっては私達は他人のはずでしょ?私達に係わってもあなたには何の得もないのに。」

 

少しむきになりながらもそう尋ねてきたので俺はそんな”こう”に苦笑しつつ

 

「まがりなりにも2人のケンカを見てしまったからな。見てしまった以上はほおっては置けない。それに友達なんだろ?あの娘はさ。仲直り、したいだろ?」

 

俺がそう言うと”こう”は苦しそうに顔を歪めて

 

「仲直りは、したいよ・・・でも・・・どうしたらいいのか分からないよ・・・。」

 

涙をこぼしながら言うこうの頭に手を置いてぽんぽんと軽く叩いた後

 

「どんな理由でケンカになったのかは分からないが、あの娘と仲直りしたいというならいい手があるけど、乗ってみるか?」

 

1つ、2人を仲直りさせられるいい手を思いついたので俺がそういうと”こう”ははっと顔を上げて

 

「そんな方法あるの?あるならやってみたい!」

 

真剣な眼差しを俺に向けてくるこうに俺は微笑みながら

 

「なら、やってみるか?その前にどうしてケンカする事態になったのか、その原因を教えてくれないか?」

 

俺は事情を話して欲しいとこうに促すと、”こう”はちょっと戸惑いながらも事情を語ってくれた

 

「実は・・・・・・」

 

”こう”の話によると、相手の娘とはよく待ち合わせをする事が多かったのだが、決まって何らかの理由で”こう”が遅れて来るという状態になっていた。

 

最初の頃は仕方ない、と、その娘も思っていたのだが、そのうちに約束を破られるごとに自分は本当に”こう”にとっての友達なのだろうか?という疑念がわいてきたのだという。

 

そしてその積み重ねが溜まりに溜まって今回のような事になったのだという事だった。

 

「と、いう訳なんだよね・・・。」

 

理由を聞いて俺は腕組みをしてうーん、と一声うなると”こう”の方を見て

 

「事情はわかったけど、そんなに毎回だったのか?そこまで相手を怒らせてしまうほど?」

 

そう尋ねると”こう”も原因を思い出し、かつ、ケンカをした状況を思い出して落ち込んだようで

 

「確かに数は多かったけど、でも”やまと”の事をいい加減に思った事はないよ・・・。」

 

弱弱しい声になりながらも”こう”は俺に言う。

 

俺は”こう”を元気付けるように

 

「なら、その気持ちをもう一度”やまと”にぶつけてみるしかないな。よしそれじゃ”やまと”と仲直りする為に俺が協力しよう。」

 

俺はこの2人を助けようと決意して、”こう”にその事を言うとこうは不安そうな顔で

 

「でも、どうするの?」

 

と疑問符を浮かべつつ聞いてきたので俺はとりあえず手持ちのメモ用紙とボールペンを使い、軽く手紙をしたためて

 

「そうだな、とりあえずこの手紙を”やまと”のクラスの奴の誰かに頼んで届けてもらう、後は・・・・・・。」

 

それを”こう”に渡してから俺は”こう”に作戦を伝えた。

 

「これで上手くいくはずだ。後はお前次第だ。ええっと・・・こう、だっけか?」

 

俺が名前を呼ぶと”こう”はびっくりしたような顔で俺を見て

 

「どうして私の名前を?まだ自己紹介してないよね?それに”やまと”の事も・・・。」

 

不思議そうに聞いてきたので俺はあの怒鳴りあいを思い出して

 

「さっきも言ったけど2人の会話を聞いてたときに名前がでてたからね。あれだけ大声で連呼してたらいやでも覚えるさ。」

 

そう言うと”こう”はばつが悪そうに頭を掻きながら

 

「あー、そういえばそうだった・・・改めて、私は1年○組八坂こう、だよ。私のことは名前で呼んでくれてもオッケーだから。」

 

自己紹介してきたので俺も

 

「2年○組の森村慶一だ。もう一人の娘はなんという名前?」

 

そう言って自己紹介すると、急にこうの言葉使いが変わった。

 

「ええ!?先輩だったんですか?なんかすいません、ため口で・・・ええともう一人はですね、永森やまと、といいます。」

 

急に敬語を使い出したこうに驚いていたが

 

「別に今更敬語にならなくてもいいさ。ともかく仲直り作戦開始だな。」

 

俺は笑ってそう言うとこうも

 

「はい、よろしくお願いします先輩。とりあえずこれをやまとの所に、ですね?それじゃ私以外のやまとと仲がいい生徒に渡してきます。」

 

そう言って駆け出すこうを見送って作戦の実行のために準備を始めた。

 

今回の作戦はこれだ。

 

俺は校内ではあまり評判がいい生徒ではない。

 

なのでそこを利用してこうを拉致するというデマを手紙でやまとに伝える。

 

もしもやまとがこうをまだ友達として心配しこうの元へ駆けつけたならこうを痛めつけるという演技をしてやまとに心配をさせる。

 

ぎりぎりのところでネタばらしをして後はもう一度話し合いに持ち込ませるというものだ。

 

問題はやまとがこの作戦に上手く乗ってくれるだろうか?と言う事なのだが・・・何故か俺はあの娘なら乗ってくるという妙な確信があった。

 

・・・・・・そして作戦実行の時がきた。

 

俺を見上げつつ少し不安気な表情をしつつ

 

「上手くいきますかね?」

 

と、すっかり俺に対して敬語が身についてしまっているこうが俺に尋ねる。

 

俺はそんなこうに笑いかけながら

 

「なんとかなるさ、多分な。何となくだけど俺にはそんな予感がする。」

 

そう俺が自信ありげに答えるとこうはまだ不安がぬぐえないといった感じで俺を見て

 

「うーん、とにかくやってみるしかないですね・・・あ、誰か来たみたいですよ?」

 

こうがそう言ったので注意して辺りを探ってみると確かにこっちの教室に来る足音が確認できた。

 

「いよいよだな。さあて、いっちょやるか。こう、準備はいいな?」

 

こうに作戦の開始を促すと共に、準備ができたかを確認すると、こうは頷いて

 

「こちらはいつでもおっけーです。それじゃ先輩、よろしくお願いしますね?」

 

そう言ってくるこうに俺は頷きで返しつつ、自分に気合を入れて教室に入ってくる人物を見定めようとする。

 

すると教室のドアが開き中に入ってくる一人の女生徒の姿が目に入った。

 

その女生徒の姿を確認すると先程こうと大喧嘩をして走り去っていった”やまと”である事が分かった。

 

”やまと”は俺の側に近づいて来て

 

「あなたが噂の森村先輩、かしら?」

 

そう俺を鋭くにらみつけながら言う。

 

俺はそんな”やまと”を睨み返しながら

 

「ああ、そうだ。噂ってのがどんななのかは興味がないけどな。」

 

俺は努めて冷静に”やまと”に返答をする。

 

そんな俺になおも険しい表情を見せつつ、”やまと”は教室の中を見回しながら

 

「こうはどこなの?あなたが拉致したって事は分かってるのよ?」

 

憎しみとも取れるような目で俺を見ながら俺に問い掛ける。

 

俺はそんな”やまと”に不敵な笑いを浮かべると

 

「こうならここにいるよ。ほら来いよ!」

 

そう言って後ろ手に腕を固められて見動きが取れないこうを引っ張り出す<本当は何も拘束してない>こうは”やまと”の姿を確認すると作戦どおりの行動を開始した。

 

こうは怯えたような表情を作って

 

「や、やまと・・・来てくれたんだ?」

 

やまとに対して絶妙の演技をする。

 

俺はそんなこうを見ながら(結構演技上手いな、こうは女優にもなれるんじゃないか?)と心の中で思いつつこうに乱暴しそうな演技をする。

 

「おい、俺は勝手に喋っていいとは言っていないぞ?勝手な真似をするな!!」

 

そう怒鳴りつけるような演技をすると、それを見た”やまと”は俺から見ても動揺しているように見えた。

 

そして俺をキッと睨みつけながら

 

「こうを離して・・・。」

 

そう、”やまと”は俺に懇願してきた。

 

俺はそんな”やまと”を一瞥すると、作戦として考えていた台詞をやまとにぶつけた。

 

「やまとっていったよな?本当にこいつを離して欲しい、そう思っているのか?」

 

俺はやまとに鋭い視線を投げかけながら問い掛ける。

 

やまとはそんな俺の視線に少し怯えたようになりつつも

 

「どういう意味よ・・・?」

 

と気丈に俺に抗ってきた。

 

俺は瞳を閉じてしばし沈黙する演技をした後おもむろに目を開きやまとを見据えて

 

「こいつを拉致した時に聞いたんだけどな、お前はこいつの事なんとも思ってないらしいじゃないか。こいつは言ってたぞ?お前にこいつに付き合うのはうんざりだと言われたってな。それで自暴自棄になったんだ、って事もな。」

 

俺は冷たくやまとに言い放つ。

 

その言葉を聞いてなおも動揺するやまとを見ながら俺は、おおむね作戦が上手く行っている事を確認していた。

 

そんな俺の思惑を知らないやまとは動揺の収まらないままに

 

「そ、それは・・・・・・。」

 

短く出た台詞だったが、そう言いながら言葉に詰まるやまと。

 

俺はそこを逃さず更に言葉を畳み掛ける。

 

「そんなお前が何でこいつを助けになんか来たんだよ?友達じゃないんならこいつを助ける義理だってないよな?お前にとってはもう無関係な人間の訳だしな。」

 

その俺の言葉に狼狽するやまと。

 

こうはそれを心配そうに見つめる。

 

しかし、やまとは動揺から立ち直れていないのでそんなこうの様子にも気付いてないようだった。

 

そんなやまとに俺はさらに言葉を続ける。

 

「だったら俺がこいつをどうしようともお前には関係ない事だよな?もう友達でもなんでもない赤の他人なんだし。」

 

そう言って追い討ちをかける俺、慌てるやまと。

 

そんなやまとに更に追い討ちをかけるように、ここでこうの演技が再び炸裂した。

 

「もういいよ、やまと。来てくれたのは嬉しいけどさ、この人に逆らったらやまともどうなるかわかったもんじゃないよ?やまともこの人の評判は知ってるでしょ?」

 

そんなこうの演技を真に受けて瞳を閉じて拳を握り締めるやまと。

 

そんなこうを心配そうに見つめながらやまとは苦しげに言葉を搾り出し

 

「でも、それじゃあなたが・・・。」

 

やまとがそういい終わる頃を見計らい今度は俺の追い討ちの演技が炸裂。

 

こうの頬を張る真似をする。

 

”パンッ”という乾いた音が響いたが実際は殴っていない。

 

実はこうの頬の近くに俺の手をやまとには見え難いように添えて自分の手をひっぱたいたからだ。

 

その演技に目に見えて更にうろたえるやまとは思わず

 

「やめてっ!!」

 

と叫び声をあげた。

 

それによる効果があったようで俺は心の中でしめしめと思っていた。

 

その状況にさらに狼狽するやまと。

 

ここで俺は更なる演技をする。

 

俺はこうをねめつけ<もちろん演技>こうに怒鳴りつける。

 

「うるさい、お前も余計な事言うな!これ以上余計な事言うともっと痛い思いをする事になるぞ?」

 

俺がそう言うと打ち合わせもしていないのに涙目になる演技をするこう。

 

(ほんとに上手いな、こいつ・・・)と俺は心の中で思いながらやまとの様子をみる。

 

やまとは大分追い詰められた様子になってきていて俺に弱弱しい声で

 

「待って!?やるなら私をやりなさい!でもこうは離して!お願い・・・。」

 

そう言ってやまとは必死になって俺に懇願する。

 

俺は感情の篭らない目になりながらやまとを見て<これも演技>そんなやまとに静かに問い掛けた。

 

「・・・どうしてそこまで必死になるんだ?こいつはお前の友達でもなんでもないんだろ?」

 

俺は冷たくやまとに言い放った。

 

だがやまとはそれでも負けたくないとばかりに俺に本当の気持ちをぶつけてきた。

 

「いいえ違うわ。確かにこうはいい加減な所もあって約束を破ったりする事もあるけど、それでもこうは・・・こうは、私の大切な親友だわ・・・。」

 

その言葉に俺の傍らにいるこうが嬉しさのあまりに涙をこぼし始めた。

 

俺はそんなこうを見て(良かったな。)と心の中で思う反面ここでそれはまずいかも・・・と焦りも感じていたが、そんなこうの様子にやまとは気付いていないようなので少しほっとしていた。

 

俺のそんな葛藤など気付きもしてないやまとはさらに俺に言葉を重ねてきた。

 

「・・・だから・・・だからやるなら私を!こうは離して!お願い・・・。」

 

そう必死に俺に訴えるやまとを見て俺は作戦の成功を確信し最後の仕上げに入った。

 

俺はやまとから言質を引き出す為に

 

「ふうん?ならやまと、お前にとってこうは大事な人間って事なんだな?それは間違いない事なんだな?なら、こうのやったことも少しは許してやれるか?」

 

そう言って俺は念を押すようにやまとに問い掛けつつさり気なくこうがやまとに対してしてきた事に対する行為を言葉に織り交ぜつつ、やまとの言葉を引き出す事を試みた。

 

さり気にこうのやまとに対する行為に対して言及された事に気付かなかったやまとは

 

「許せるわ。こうが無事なら・・・私は、約束を守れなかった事くらい許すわよ・・・。」

 

そう言いながらやまとは涙を流しながら俺にこうへの思いををぶつけてきた。

 

その言葉を引き出してこれでいいだろう、と心の中で思った俺はこうの方を向いて

 

「・・・だそうだ。よかったな?こう。」

 

俺がこうに向かって言った言葉にやまとは急に目を点にして事態が飲み込めないといったような顔になっていた。

 

そして、こうはやまとの気持ちを聞いて涙を流しながら

 

「はい、よかったです。やまとがまだ私を親友だと思ってくれていて。先輩が言った通りでしたね、上手くいくような予感がするって・・・」

 

まだこぼれる涙を拭いながら俺に答えるこうに、やまとはようやく我に返りこの状況の説明を求めてきた。

 

「こう、これは一体どういう事なの?先輩、あなたは一体・・・。」

 

そう問い掛けてくるやまとに俺達は今回の一件についてのネタばらしをした。

 

「・・・つまり、私はまんまと2人の計画にはまったと・・・。」

 

俺達のネタばらしを聞いたやまとは相当不機嫌な表情で、いやおそらく心も相当不機嫌だろうが俺たちを睨み付けながら言う。

 

そんなやまとの姿を見たこうは慌てながら

 

「ごめん、やまと。私はどうしてもやまとと仲直りしたかったんだ。あの時偶然に森村先輩が私たちのケンカを見ていた。その先輩が私たちをどうにか仲直りさせたいって思ってこの計画を練ってくれたんだよ。だから、先輩は責めないであげてほしいんだ。」

 

そう言って必死にやまとに説明をする。

 

それでもやまとはまだ納得行かないといったような顔をしている。

 

そこで俺はやまとに申し訳ないという思いで謝った。

 

「永森さん。さっきは演技上君の事を名前を呼び捨てにしてしまった、ごめんな?それとこうも君に見捨てられるかもと思って泣いたんだし、こうの事は勘弁してやってはくれないかな?俺は君にどう責められても構わないから。」

 

俺が事情を説明しつつそう言うとやまとはやれやれといったように首を左右に振って

 

「仕方ないわね。私もこうにはちょっときつく言いすぎた部分もあったんだろうし、何よりこうが私のために泣いたんじゃこれ以上責める訳にはいかないわ・・・それに先輩にも迷惑かけちゃったみたいだしね・・・。」

 

呆れたような顔をしつつもどうやらやまとはこうを許したようだ。

 

そんなやまとにこうも申し訳なさそうな表情で

 

「やまと、ありがとう。そして、ごめんね?」

 

そんな風に言うこうにやまとは少し顔を赤くしつつもこうから視線を外していた。

 

その様子を俺も見ていたが、やまとのその言葉から、どうやら俺も許されたらしいという事がわかった。

 

俺は心の中でその事にほっとしつつ

 

「迷惑だなんて思ってないさ。これが俺の性分だからな。俺の目の前で困ってる人間はどうしても見捨てられないってだけさ。」

 

俺が笑ってそう言うと2人も複雑そうに笑って

 

「確かに損な性分よね。こんな事したってあなたには何の得にもならないっていうのに・・・。」

 

そんな俺にやまとは呆れ顔になりながらそう言う。

 

こうは逆に嬉しそうな顔で

 

「でも私は得したかな?またやまとと友達としてやっていけるんだしね。先輩にも感謝かな?」

 

そう言うと、やまとはその言葉に少し赤くなりながらもその顔を見られないようにそっぽを向きながら

 

「こ、こう、なに言ってるのよ。今度また約束破ったらもう知らないわよ?」

 

照れながらもこうに釘を刺すやまと。

 

それを見たこうはすかさずやまとをからかうように

 

「あ、やまとがデレたー。デレたやまとも可愛いね。先輩もそう思いませんかー?」

 

そう言うのだった。

 

いきなり話を振られ俺はこうの言葉に慌てた。

 

 

そして、とっさに

 

「ま、まあ、可愛いんじゃないか?」

 

俺がそう言うとやまとはますます顔を火照らせて

 

「せ、先輩も何いってるのよ!?からかうのもいい加減にしてよ!!全く・・・ほんと先輩って噂とは違うわね・・・。」

 

やまとが噂の事を聞いてきたので俺は2人に事の真相を話す事にした。

 

「あの噂の事か?あれはな・・・・・・」

 

こうside

 

私は先輩の噂の事は聞いていたけど、あくまでもそれは噂であり、本当の先輩がどんな人なのかという事に興味を持った。

 

今回の一件にしてもどうしても先輩には噂どおりの人とは思えないイメージを持ったからだった。

 

だからこそ、噂の当事者たる先輩に対して噂とは違うと思わず口にしたのだが、先輩はそんなやまとの言葉にも特に不快感を見せる事なく噂に対する真相を説明してくれたのだった。

 

「あの噂の事か?あれはな・・・・・・」

 

そう言って噂の事を話し始める先輩の言葉に私達も黙って耳を傾けたのだった。

 

噂の真相はこうだった。

 

先輩が1年の頃近くの学校等で噂になってる不良グループがいた。

あるとき先輩はその不良グループが同じ学校の生徒を痛めつけてるいるの見て助けに入った。

 

その頃から先輩は武術をやっていて強いと言う噂があり、その噂を耳にした不良グループ連中の頭が先輩を狙っていた。

 

先輩はその生徒を助けると、その生徒を痛めつけない事を条件に一対一の勝負をしろと頭に申し込まれタイマンを張る事になった。

 

緊張感の走る中両者がぶつかりあったのだが・・・先輩は結局一発の拳しか打ち込まずそれで勝負がついてしまった。

 

先輩から受けたダメージが残ったまま頭は無理して立ち上がり再度先輩に挑もうとしたが、そのままふらふらと丁度その場にあったガラクタ置き場に突っ込み盛大に自爆して大怪我を追ったとの事。

 

それを見ていた取り巻きたちがびびってしまい先輩がその不良をそこまで叩きのめしたという噂に相当な尾ひれがつけられたまま広がった、との事だった。

 

慶一side

 

俺が2人に噂の真相を話して聞かせると

 

「なんだか・・・迷惑な話ですねえ・・・。」

 

と呆れ顔で言うこう。

 

「結局先輩はたった一発しか手出ししなかった、って事なのね・・・。」

 

そう言うやまとも呆れ気味だった。

 

そんな2人の様子を見た俺は、思い切って俺に対してどういう印象を持ったかを聞いてみることにした。

 

「まあ、そういうことだな。2人に聞くけどさ俺ってそんなに怖く見えたか?」

 

俺が聞くと2人は俺の方をじっと見つめて首を少し傾げると

 

「私は先輩に会ったときにはそんな噂のある人って思えなかったですね。」

 

こうは俺をまじまじと見ながら俺の印象を答えてくれた。

 

やまとも俺をもう一度確認するように見て

 

「さっきの演技見てたときには噂どおりかも、って思ったけど・・・実際話してみるとそうでもないわね・・・。」

 

と素直に感じた感想を言ってくれた。

 

噂とは正反対の印象を持ってくれたようで俺は少しほっとしていた。

 

「まあ、そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。」

 

俺は2人に笑いかけながらそう言った。

 

こうは俺を見て何か考え込んでいたが、突然

 

「ねえ先輩?先輩さえ良かったら私たちと友達になりませんか?」

 

そう提案を持ちかけてくるこう。

 

やまとはそれに驚いてこうに向き直り

 

「・・・こう?本気?・・・」

 

と、こうの真意を測りかねるような感じでこうに聞いていた。

 

こうは笑って

 

「本気だよ?だって私たちの事助けてくれた人だよ?それに悪い人じゃなかったじゃない?」

 

そう言って2人を助けた俺を信用してくれているようだった。

 

そんなこうの様子を見てやまとは一つ軽いため息をついて

 

「まあ、確かにそうだけど・・・先輩はどうなの?私たちが友達でもいいのかしら?」

 

2人の提案に驚く俺だったが、実の所噂のせいで学校では友達らしい友達もいなかった俺はこの申し出は嬉しく思えたが、今回の一件もあって少し不安も覚えていた。

 

俺は2人に確認するように

 

「いいのか?2人とも。2人を仲直りさせる為とはいえあんな事をしてしまった俺だけど、そんな俺でもいいのか?」

 

不安げに2人に尋ねる俺にこうは笑顔で

 

「もちろんです先輩。これからもよろしくお願いしますね?」

 

そう言って俺の腕に自分の腕を絡ませてくるこう。

 

そんなこうを見て呆れながらもやまとも俺に笑顔を向けてきて

 

「よろしく、先輩。それと私の事はやまと、でいいわ。」

 

そう言いながら俺に握手を求めてくるやまとに俺も笑顔で握手を返して

 

「俺の事も名前で呼んでくれて構わないぞ?改めてよろしくな。こう、やまと。」

 

そう2人に答える俺だった。

 

・・・・・・こうしてここに3つの旋律が誕生する事になる。

 

この旋律がこの先さらに数を増やしていく事になる事をこの時の俺には気付きすらしなかった。

 

 

次回、後編、今の時間に戻った3人の様子を描きます。

 

 


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