らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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裏側シリーズです。

龍也が絡む事で起きる事件がありますが、それが解決される間は所々で裏側の話が入ります。

龍也視点での話になりますのでご注意を


舞い戻る旋律の裏側、その1~義兄の決意~

時間は、慶一と再会する前までさかのぼる・・・・・・

 

龍也side

 

俺が親父の元から武者修行の為に離れて6年の歳月が過ぎていた。

 

修行そのものは順調だったが、そろそろ親父達にも無事を知らせて安心させてやろうと思い、実家へと連絡してみた所、帰ってこれるのなら帰ってきて欲しいという親父の言葉の中に、少し焦りのようなものを感じた俺は、何らかの予感を感じつつもとりあえず実家へと帰った。

 

久々に見る実家のたたずまい、そして道場を目にして俺は6年前からあまり変わってない実家の姿にどこか懐かしさを感じながら家の玄関をくぐった。

 

そして、お袋に

 

「ただいま。お袋、しばらく留守にしてたけど、親父に言われて帰ってきたぜ?それで、親父はどこだ?もうくたばったとか?」

 

俺の声を聞きつけ俺を出迎えたお袋は、昔からあまり変わらない微笑をたたえながら

 

「あら、龍也、お帰りなさい。6年間音沙汰なかったから心配してたのよ?でも、よく無事で帰ってきたわね・・・。それとお父さんなら道場の方にいるわよ?慶一といい、あんたといい、お父さんには相変わらずね?」

 

そう言うお袋に俺は苦笑しながら

 

「何だ、慶一もそんな事言ってたのかよ。あいつ変な所を真似してやがるな・・・」

 

そう言いつつも俺はお袋に

 

「とりあえず、親父に会って来る。それじゃお袋、また後でな。」

 

そんな俺にお袋はにこにこしながら

 

「積もる話もあるでしょうからゆっくりしてらっしゃい。それと、話が終わったら久しぶりにのんびり家で過ごしなさい。」

 

そんなお袋に俺は「あいよ。」と短く言った後俺は親父の待つ道場へと足を向けたのだった。

 

そして道場に入るなり俺は

 

「親父!今帰ったぞ?まだ現役引退してないか!?」

 

そう声をあげると親父は途端に切れて

 

「お前もか!まったく変な所ばかり慶一に教えおって!!・・・ふん、まあいい。よく戻った、龍也。」

 

一度激昂した後すぐに冷静に立ち返り俺にそう言う親父に

 

「元気そうだな、親父。で?俺を今になって呼びつけるって事は何かあった、って事だろ?」

 

そう言う俺に親父は重くため息を一つついたあと頷いて

 

「ふ、察しがいいな。お前も覚えているだろう?数年前に先代と私と、そして牧村流、そして”焔(ほむら)”という暴走族のチームの頭と共に粛正を行ったあの犯罪組織の事を・・・」

 

俺はその言葉を聞いたとき、昔じいさんと親父から聞かされたある事を思い出して

 

「ああ。じいさんと親父が俺に語って聞かせたっけな。よく覚えてる。」

 

・・・・・・20年以上昔の事だが、親父がまだ若く、龍神流の継承者となって2年くらいが過ぎた頃、龍神流道場のある近辺で窃盗や傷害、殺人が起こるようになった。

 

最初は犯罪意識を持たない者の無法の犯行と思われたのだが、その裏にそれらの犯罪者を纏める組織の存在があった。

 

調べを進めて行くうちにその組織に辿り着いた親父達は、牧村流や当時、なわばりを荒らされ必死に犯人を探していた”焔”という暴走族のチーム<今は改名され”紅”と名乗っているようだが>と、はからずも協力しあう事となり、情報交換をしあいながら犯罪組織、そして、なわばり荒らしの犯人を見つけ出した親父達は警察も手に負えなかった犯罪組織を壊滅させた。

 

そして、その当時、その組織のトップだった男が神崎流(かんざきながれ)という男だったのだが、その男が逮捕され組織は解散に追い込まれたのだった。

 

そうして、それまで起こっていた犯罪はぴたりと止み、この近辺にも平和が戻った。

 

それが昔の事だ・・・・・・。

 

俺はその事を思い出した後、親父に

 

「けど、何故今になってその話を?」

 

俺の質問に腕組みをしながら親父は

 

「実はここ最近の事なのだが、この近辺でまたあの時と同じような犯罪がおき始めているのだ。気になった私はその事を龍神のお抱えの諜報員に調べてもらったのだが驚くべき事がわかってな・・・」

 

親父の言う”驚くべき事”が気になった俺は親父に

 

「驚くべき事?それはなんなんだ?」

 

親父は一つ重々しく頷いて

 

「うむ、当時粛正し、壊滅させた組織の人間の幹部の1人だった男が上手く逃げ延びていたらしくてな、当時の神崎を真似て同じような犯罪を行う犯罪組織を作ったらしいという事なのだ。そして、元幹部の男は我々に強い恨みを持っているようでな、力をつけて我々を潰す事を画策しているらしいとの事だ。」

 

その言葉に俺は親父に

 

「それで?俺にそいつらを潰すために協力しろ、とそういう事か?」

 

俺の言葉に親父は一つ頷くと

 

「うむ。そして、今度こそ完全に連中を壊滅させ、この街から奴らの脅威を除く。それを牧村とも話し合い決めたのだ。」

 

俺は腕組みしてしばらく考え込んでいたが

 

「だが、そういう事なら俺じゃなく慶一でもよかったんじゃないのか?その程度の連中なら慶一でも十分に用は成せたはずだろ?完全な龍神流を習得してないとはいえ、あいつもかなりの腕のはずだ。」

 

俺の言葉に親父は苦しげに唸ると

 

「・・・確かに、慶一が1人の頃であればそれも考えた。しかし、今の慶一は守るべき者達を持ってしまった。慶一を巻き込む事で、その守るべき者達にまで迷惑をかけるような真似はできなかったのでな・・・」

 

俺はそんな親父の言葉に驚いて

 

「守るべき者?慶一がか!?へえ、あいつ何時の間にかそう言う奴を持ったのか。あの俺以外誰とも打ち解けようとしなかったあいつがなあ・・・」

 

俺が慶一と会ったあの当時、あいつは親父から真実を聞かされる前から何となく自分の境遇が他の同じ年代の子達と違ってる事を子供心に気付いていたようだった。

 

そのせいもあってか同じ世代の子とも中々仲良くなれず、いつもあいつは一人でいたのだと親父から聞いていた。

 

そして俺と会った慶一は俺に自分と同じ境遇のにおいを察したのか、俺に懐いた。

 

たった1年の間あいつと一緒にいただけだったが、俺はあいつを実の弟のように、あいつも俺を実の兄のように慕ってくれた。

 

けど、俺がいる間は結局あいつは友達らしい友達を作らなかったのだ。

 

その後は、真実を知らされて慶一が荒れたのだという事を親父から聞いていた。

 

「そういえばあいつが中学の頃、初めて心から打ち解けられた年下の友達が出来たって親父から聞いたな。ああ、後牧村の長男とも親友だったとも聞いたっけな。」

 

俺の言葉に親父は頷いて

 

「うむ。永森やまとちゃんと八坂こうちゃんという2人の女の子だ。その子らがあいつが中学の頃、牧村君以外に打ち解けられた友達だったのだ、そして高校に進んだあいつに、さらに大勢の素晴らしい友人ができたのだ。」

 

俺はその言葉にさらに驚いて

 

「高校でさらに大勢だって?信じられないな。でも・・・そうか、ようやくあいつにも守りたいと思える友人ができたんだな・・・。」

 

俺の言葉を聞きながら親父は俺を見て

 

「慶一が守るべき者の数は多い。それゆえに慶一をこちらに呼ぶ事は、その子らを守る者がいなくなる事と同義。私は慶一の為に、そしてその子らの為にもこの一件に慶一を絡ませる訳にはいかないのだ。もし万が一の事があれば・・・またあいつは一人になってしまうやもしれない・・・慶一にそんな思いを・・・もうさせたくはないのでな・・・」

 

俺はそんな親父の思いを受けて一つ決断すると

 

「・・・わかった。あいつにそんな思いをさせたくないのは俺も同じだ。この一件、俺が引き受ける。だから、親父、その友人らにも危害が及ばないようにガードをつけさせてくれ。俺も係われる限りはあいつの友人達を守ろう。」

 

その言葉に親父も頷いて

 

「すまん。伝承者となったお前に過酷な運命を背負わせる。この私を恨んでくれてかまわん。だが、この一件、今回で決着をつける。そのために、頼むぞ?龍也。」

 

その言葉に俺も頷いて

 

「伝承者となった俺が背負う道ならば、伝承者らしく戦うのが俺の責任だ。これが俺の運命であるならそれに準じよう・・・それが・・・龍神流を継ぐ者の覚悟だからな。」

 

俺の覚悟に親父も黙って頷くのだった。

 

そして俺はこれからすべき事を親父に尋ねる。

 

「親父、さしあたって何をしたらいい?」

 

俺の問いかけに親父は

 

「まずは、組織の存在の確証を得る事だ。その為に情報収集を龍神家だけでなく牧村家とも協力して当たっている。お前もそれに協力して欲しい。おそらく勝負はこの1年の間となるだろうからな。」

 

親父の答えに俺は

 

「わかった。ともかく当たれる所は当たってみよう。親父の方でも何かわかったら情報を頼むぞ?」

 

俺の言葉に親父は頷きながら

 

「わかった。それとだ、龍也、折角戻ってきたのだから久しぶりに慶一の所に顔を見せに行ってやれ。今はあいつは本当の両親の住んでいた家、つまり、森村家に戻っているからな。」

 

親父から聞いた名前に俺は

 

「森村・・・そうか、あいつ、その事を受け入れたんだな・・・」

 

そう呟いたのだが、それを聞いていた親父が

 

「うむ。今年の夏にやつの本当の両親の墓へ行った時、あいつはそれを完全に受け入れた。それも、あいつが守りたいと思った者達が奴の勇気の後押しをしてくれたからこそ、だ。そんな友人達だからこそ、その子らも守ってやりたいのだ・・・」

 

親父の言葉を聞いて俺は

 

「任せろよ。あいつの手の及ばない所があるなら俺や龍神家、牧村家の人間でフォローする。あいつに絶対悲しい思いはさせないさ。」

 

そう言った後俺は親父に

 

「まあ、そんなわけだから、俺は親父の言葉に甘えさせてもらってあいつの顔見に行ってくるよ。その前にちょいと牧村家等も寄っておくがね。」

 

俺の言葉に親父は

 

「うむ、何かわかったらよろしく頼む。こちらも全力を尽くそう。」

 

俺はその言葉に頷いて道場を後にした。

 

そして家に行ってお袋に

 

「お袋ー、すまないが俺は牧村の家に行ってくる、ゆっくりできなくてごめんなー。」

 

そう伝えるとお袋も声は少し残念そうにしていたが

 

「わかったわ。気をつけていってらっしゃいー!」

 

お袋の返事を聞いた俺は家を後にし、牧村道場へ向けて足を運んだ。

 

そして、牧村道場についた俺は道場へと足を向け、扉を開いて

 

「ちはー。龍神龍也です。御頭首の牧村麗真(まきむられいま)さんはいらっしゃいますか?」

 

俺の声にざわつく道場内、そして俺の見知った3人が俺の所にやってきたのだった。

 

「まさか・・・龍也さんですか!?お久しぶりです!覚えてますか?瞬一です!」

「お久しぶりです。現継承者の祐次です。武者修行に行かれてから音沙汰なかったと聞いていましたが・・・」

「覚えてますか?浩也です。俺も龍也さんには会いたかったですよ。」

 

その3人を見て俺は懐かしい気持ちになりながら

 

「ああ、覚えてるとも、瞬坊、祐坊、浩坊。」

 

そう言うと3人は苦笑しながら

 

「懐かしい呼ばれ方ですが、もう坊って年じゃないですよ。」

「そうです。いつまでも子ども扱いはないんじゃないですか?」

「俺は、そう呼ばれても一向に構わないけどな。」

 

そう答える3人に俺は思わず吹き出しそうになるのをこらえていたのだが、そこに頭首の麗真さんがやってきて柔らかな微笑をたたえながら

 

「やあ、龍也君。しばらくぶりだね。武者修行に行ったきり戻ってこないと聞いていたけど、珍しい事もあるものだね。」

 

その言葉に俺は苦笑しながら

 

「はは、手厳しいですね。実はこちらに戻ってきたのは親父から例の件の進展があったかどうかについてを確かめておこうと思いましてね。」

 

俺の言葉を聞くと同時に麗真さんから笑顔が消えうせ、突如真剣な顔へと変貌した。

 

「やはり、その事で龍真(りゅうしん)さんは君を呼び戻したのか・・・来たまえ。今わかってる事を説明しよう。」

 

そう言って俺に奥へ来るよう促した麗真さんに俺はついていくのだった。

 

結果だけを聞けばそれほどは進展していなかった。

 

だが、一応の情報を仕入れて俺は道場を後にしようとしたのだが、道場を出るとき俺は瞬一君に呼び止められた。

 

「龍也さん、ちょっといいですか?」

 

俺はその声に振り向いて

 

「ん?どうした、瞬坊。」

 

そう返すと瞬一君は俺に

 

「家の親父から今回の件について伺っています。それで、龍也さんにお聞きしたいのですが、今の所どの程度の情報を聞いていますか?」

 

そう訊ねる瞬一君に俺はこれまで聞いてきた事を教えると

 

「なるほど・・・”焔”・・・ですか・・・今の”紅”ですね・・・紅なら、俺にも知り合いがいます。そいつからも情報を得るといいでしょう。それと今回の件に係わるかもしれない奴がいるんです。そいつの名前も教えておきますよ。」

 

俺は瞬一君に

 

「紅に知り合い?それに今回の件に係わるかもしれない奴?・・・ふむ・・・詳しく教えてもらえるかい?」

 

そう促すと、瞬一君は携帯を取り出しながら

 

「ちょっと待っててください。今電話してみます。話はそいつと連絡が取れ次第って事で。」

 

その言葉に俺は黙って頷いて電話の終了を待つのだった。

 

そして、電話を切った瞬一君は俺の方に向き直って

 

「連絡が取れました。今からそいつとの待ち合わせ場所へ向かいますから一緒に来てください。」

 

そう言ってくる瞬君の言葉に頷き、俺は彼の後について電話の主との待ち合わせ場所に出向く。

 

そして辿り着いた場所は喫茶店だった。

 

看板には”レゾン”の文字があった。

 

俺と瞬一君は店内へと足を踏み入れ、指定の場所へと歩いていく。

 

まだ相手は到着していないようだったが、俺達はそこに座り相手を待ちながらかるくやりとりをした。

 

「瞬坊、済まんな。足の具合はどうだ?慶一が迷惑かけた事、改めて謝らせてくれ。」

「いえ、俺はもうその事は気にしていませんから。ここだけの話ですがあいつには少し感謝してるんですよ、俺は弟達と違って武の才能は劣っている。だから自分が牧村流を継ぐ事が重荷だったんです。その重荷を慶一が取り払ってくれたのだから・・・結果的に足を壊しましたが内心ほっとしてるんですよ。怪我を負わされた俺が言うのもなんですけどね・・・」

「そうか、瞬坊も色々悩んでいたんだな・・・それでもあいつは自分を責めたろうな・・・自分のせいで瞬坊が武術家として再起不能になってしまったんじゃな・・・」

「ええ。あいつはずっとその事で自分を責めつづけていました。けどようやくあいつは自分を許す事ができたようです。最近俺達、親友を復活しましたからね。」

「そうか・・・それもやっぱりあいつの周りに出来た友人達の影響って訳か・・・」

「ええ。あの子達はいい子達ですよ。ちょっと前にこんな事がありまして・・・で、俺が手伝って情報をですね・・・というわけで見事に解決する事ができたんです。あいつの為にそこまでしてくれる友人ですからね。本当にいい子達と出会えましたよあいつは。」

「なるほど・・・なら余計に、守ってやらないとな・・・」

「はい。俺もあの子達の悲しむ姿は見たくないですからね。」

 

お互いに頷きあってるいた時、ようやく待ち人がやってきたのだった。

 

「やあ、瞬君。急に僕を呼び出して何の用なんだい?」

 

その言葉に瞬一君は

 

「氷室、よく来てくれたな。実はお前に会わせたい人がいてな。そこに座ってる人だ。名前を・・・」

 

その言葉の先を俺が続けて

 

「龍神龍也だ。よろしく。君の名は?」

 

俺が答えると、氷室と呼ばれた少年は俺を一瞥して

 

「僕は氷室結城。龍神、と言ったね。あなたは、慶一君の関係者かなんかなのかな?」

 

その言葉に俺は頷いて

 

「ああ。俺は慶一の義兄だ。君も慶一の事は知ってると見える。」

 

俺の言葉に驚きの表情を見せた彼は

 

「慶一君の?まさか・・・瞬君、それは確かなのかい?」

 

彼は瞬一君に確かめる為に聞くと、瞬一君も頷いて

 

「ああ。彼と血は繋がっていないけど、龍也さんは慶一の義兄さ。そして龍神流の正当伝承者でもある。」

 

その言葉を聞いてさらに驚きの表情を見せる彼は俺に

 

「そ、そうだったのか・・・僕はてっきり彼が正当伝承者だと思っていたのだけど・・・」

 

その言葉に俺は頷き

 

「俺が武者修行から戻れなかった場合は君の言うとおりだったがな。まあ、色々事情があって戻って来たと言う訳だ。」

 

そう答える俺に氷室君は

 

「一つ、確かめさせて欲しい事がある。話はその後でということでいいかな?」

 

その言葉に俺は怪訝な表情で

 

「確かめたい事?一体何をだ?」

 

俺の言葉に氷室君は不敵に笑うと

 

「とりあえず表へいきましょう。僕に付き合ってもらうよ?」

 

その言葉に俺は心の中でやれやれと思いながら

 

「分かった。そうしなきゃ話が進まないと言うのなら付き合おう。だがその後はちゃんと話をさせてもらうからそのつもりでな?」

 

その様子をため息をつきながら見守っていた瞬一君だったが、俺達の後に一緒について表に出てきたのだった。

 

氷室君は俺を見据えて

 

「あなたの実力を見せてください。僕は慶一君に示された力に心酔して彼の友人となった。あなたが正当伝承者でなおかつ慶一君の義兄であるならば僕を納得させる事ができるはず。この試し、受けてもらうよ?」

 

氷室のその言葉に俺は軽いため息を一つついて

 

「実力を示さないと話が出来ないというなら、やるしかないようだな。まあ、せいぜい、死なないようにはやってやる。手加減はするけど怪我したら許してくれな?」

 

そう言いながら俺は気を集中させて静かに構えを取る。

 

氷室side

 

瞬君から呼び出され、待ち合わせ場所に行ってみると、僕の知らない人と一緒にいる瞬君が待っていた。

 

彼に話を聞いてみると、彼は慶一君の義兄さんであるという。

 

さらには龍神流の正当伝承者であるとも教えてくれた。

 

確かに目の前にいる彼は慶一君と似た感じを受けた、だが、その実力を見せてもらわない限り僕は話をする気にはなれなかったので、彼に実力を見せてもらうように言う。

 

そして今、静かに構えを取った彼を見て僕は、慶一君と戦った時のあの恐怖の感じを思い出すのだった。

 

(す、すごい・・・あの時の慶一君からも今のような威圧感のような物を感じていたけど・・・目の前の彼から発せられる感覚はあの時の比じゃない・・・これは・・・本物だ・・・)

 

僕の精神は臆していなかったが、体は敏感に相手の力を感じ取っていたようだ。

 

自分の意志に反してどんどん動かなくなってくる体の状態に僕は焦りを感じていた。

 

だが、僕はそこで自分の中の勇気の全てを振り絞り

 

「・・・いくよ。これでも僕はこの辺を牛耳る紅のリーダーだ。半端な相手には負けるつもりはない!」

 

そう言って渾身で踏み込み、彼の顔面にパンチを叩き込みに行ったのだが間合いに入った瞬間に僕の意識が飛んだのだった。

 

龍也side

 

相手が俺の気に飲まれ、萎縮しているのが見て取れたが、それでもひるまずに踏み込んでくる彼に俺はゆるやかに体を流し、急所に一発指を突き入れると彼はそのまま意識を失い倒れふした。

 

それを確認すると俺は彼の元に歩み寄り、彼に活をいれて意識を復活させたのだった。

 

咳き込みながら意識を取り戻す彼は俺を見て

 

「い、今・・・何が・・・」

 

そう訊ねてきたので俺は

 

「君が踏み込むのとあわせて緩やかに体を動かして君の急所に指一本突き入れた。その衝撃で君の意識が飛んだのさ。尤もこれも龍神流にとっては初歩の技なんだがな。」

 

そう解説する俺に氷室君は驚愕の視線を向けていたがやがて

 

「ふふ。あなたの実力は分かりました。本物ですね、いやそれ以上だ。僕は彼より強い男はそうはいないと思っていたけど、世の中というものは本当に広いのだね・・・」

 

自嘲気味に笑う彼に俺は

 

「なあに。それでも俺の気に当てられながら踏み込んできた君は普通よりは上だよ。ただ、俺が、少々人のレベルを上回ってるがゆえにの事だ。俺に対し踏み込むまで出来た君は自分を誇っていいよ。」

 

その言葉に彼は困ったように笑いながら

 

「ふふ・・・つくづく化け物ですね、あなた達は・・・いいでしょう。あなたの話を聞かせてください。」

 

俺と瞬一君は笑って頷くと彼を連れて再び店内へと戻って行き、席についた俺達はようやく本題に入れたのだった。

 

「それで、龍也さん。僕に何が聞きたいんですか?」

 

実力差を見せ付けてからすっかり敬語で話すようになってしまった氷室君に俺は

 

「うん。実はね、俺はある犯罪組織を追っているんだ。その昔君が所属している今の名前に変わる前の”焔”というチームと共にその組織を一度は壊滅させたんだ。だが、その犯罪組織は完全に消滅してなかったんだよ。最近になってまたこの近辺を荒らしだしているとの事だ。」

 

俺の言う”焔”の名前に驚いた氷室君は

 

「あなたはどこでその名前を!?それじゃ先先代が話してくれた先代の言っていた潰した犯罪組織の事っていうのはその時の事だったのか・・・!?それじゃ先先代と共に協力した武術道場の連中っていうのは・・・龍神流?」

 

氷室君の言葉に瞬一君は

 

「それと、うちの牧村流もだ。その3勢力でもって当時の犯罪組織を潰したらしい。」

 

俺はさらに言葉を続けて

 

「その時に逃げ延びた当時の幹部だった男が組織を立ち上げ直したらしい。その男の名前についても今は調べているところだが、君はその事に関する情報を何かしらないか?例えばそれに係わってるらしい人間の名前とか。」

 

その言葉に氷室君はしばらく考え込んでいたのだがふいに

 

「その組織に関係してるかどうかはこちらも調べている所ですが、1人だけ心当たりがあります。」

 

その言葉に瞬一君も頷きながら

 

「俺もだ・・・おそらく俺達は同じ考えに行き着いてると思うがな・・・」

 

俺は2人に

 

「そいつの名前は?」

 

そう訊ねると2人は頷いて

 

「「成神・・・章・・・という男です。」」

 

その名前を告げる。

 

俺は2人に教えられたその名前をメモに取ると

 

「そいつはどんな奴なんだ?」

 

と2人に訊ねると、2人はそれぞれに説明をしてくれた

 

「自分では手を汚さず、他人の手を利用して姑息な真似をする小物ですね。」

「中学時代には慶一をボコる為に俺を拉致し、手出しの出来なくなった慶一をやはり自分の手は汚さず兵隊にやらせる姑息なやつです。俺の足もそいつのせいでなったようなものですし。」

 

その後は、慶一に対してしかけようとした窃盗の濡れ衣を着せようとして失敗した話や、今現在も氷室君から逃げ回りつつ窃盗犯を操っている事も教えてくれた。

 

「なるほどな・・・まさか慶一が係わった奴が今それだけの重要な手がかりになろうとしてるとはね・・・」

 

俺が呟くと氷室君は更に

 

「これはここ最近入手した情報なのですが、彼もまたその後ろに控えてる組織に利用されているだけらしいとの事です。彼が慶一君と接触し、その恨みを今でも抱えてる事を利用されたらしいと。」

 

そして瞬一君も

 

「こちらの情報ではそれを足がかりに俺達3勢力への恨みを晴らすべく動きはじめているらしいという事です。」

 

俺はそれを聞いてしばらく腕組みしながら考え込んでいたがふいに顔を上げると

 

「慶一と起こしたいざこざだけの問題じゃなくなってきてるな、これは・・・そして、それに係わる人間達が一同に揃い始めている。さらには、瞬坊や氷室君もまたしかり、か。」

 

俺の呟きを黙って聞いている2人に俺は

 

「これも運命なのかもしれない・・・慶一の、瞬坊の、氷室君の、そして・・・俺達龍神流の・・・」

 

俺の言葉に無言で頷く2人に俺は

 

「氷室君、瞬坊、これは俺達3勢力の問題だ。そして、今回でこの因縁を絶つ為に協力しあわないか?君達にとっても悪い話じゃないはずだ。」

 

そう氷室君に話を振ると彼も頷いて

 

「そうですね。自分もまた運命的なものを感じます。なら、この運命に決着をつけるためにも僕はあなた方と協力を共にしましょう。」

 

そして瞬一君も

 

「俺達牧村も忘れてもらっちゃ困るよ?戦うのなら俺達が揃わなきゃ、だぞ?」

 

俺もそれに頷いて

 

「ああ、3勢力すべてでこの運命と戦わなきゃ終わらない。俺もそう思う。氷室君君に頼みがある。」

 

俺の言葉に氷室君は俺を見て

 

「頼み、ですか?」

 

そう聞いてきたので俺は彼に

 

「その前に今の慶一の周りにいる人間の事を知ってるか?」

 

そう聞くと彼は頷いて

 

「はい。とても魅力的な子達が居ますよ。」

 

俺はその答えを聞いた後

 

「俺達の方でも人員は出すけど、君らの方からも彼女らを守る兵隊を貸して欲しい。万が一にでも慶一を巻き込みたくないのもあるが、それ以上に彼女らに何かあることで慶一に悲しい思いをさせたくないからな。」

 

俺の答えに驚きの表情で俺を見ている氷室君だったが

 

「義弟さん思いなんですね、龍也さんは。心配しないで下さい。僕もそのつもりですから。彼とは友人ですしね。あの子らの悲しむ顔は僕も見たくない所です。」

 

その答えを聞いて俺はほっと胸をなでおろすと

 

「すまないな。その代わり戦う時となったら俺は君達の兵隊にも極力手出しはさせないよ。それを約束しよう。龍神流の正当伝承者としてね。」

 

俺の言葉に氷室君は笑って

 

「ふふ。頼りにしてますよ?龍也さん。では僕はそろそろ彼女らを守る兵隊の手配と共に更なる情報収集にあたりますので。」

 

そして瞬一君も

 

「俺ももっと情報を集める為に色々回ってみるつもりです。」

 

俺は2人に頷き返すと

 

「わかった。俺も色々あたるつもりだからよろしく頼む。俺はこれから慶一の所へ行って来るから何かあったら連絡をよこしてくれ。勝負はこれから1年間の間だ。それまでに決着をつける。だからみんな。必ずやつらを潰そう。」

 

俺の言葉に2人とも力強く頷いて俺達3人は店を出たのだった。

 

2人と別れ、俺は親父に教わった住所を頼りに昔の慶一の本当の両親が住んでいた家へと向かう。

 

慶一の家へ向かいながら俺は

 

(この一件において俺は誰も悲しませないで戦おう。そして慶一には幸せで居て欲しいと思うから俺はあいつの為に出来る限りの事をしよう。もうあいつは幸せになってもいいんだからな・・・全てを被るのは俺だけでいいのだから・・・それが・・・正当伝承者である俺の役目だからな・・・)

 

そう考えながら歩き、俺は慶一の家の前についた。

 

そして家を見上げながら俺は

 

(ここが慶一の本当の両親が住んでいた家か・・・この場所も・・・俺が守らなきゃな・・・)

 

そう考えている時後ろから俺に声をかけてくる者がいた。

 

「えーと・・・この家に何か御用ですか?」

 

その声に俺は振り向き声の主に

 

「いや、実は俺の親父からここに俺の義弟が住んでいるって聞いてきたんだが・・・って、お前、慶一か?」

 

そして、俺達は再会した。

 


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