らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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混沌の旋律~慶一のバイト騒動記~

俺がそうじろうさんにクリスマスシーズンの間、こなたのボディガードを頼まれてから数日が過ぎた。

 

こなたside

 

数日前、おとーさんが慶一君に何やら頼み事をしたようだったのだが、それはクリスマスシーズンの間だけでも私のボディガードをつとめて欲しい、という内容の物だった。

 

2人が話をしている所を私も側で聞いていたのだけど、まさか慶一君が引き受けてくれるなんて思わなかったので少し困惑もしたのだけど、この状況もいいかな、と思う自分がいた。

 

そして、今日も私のバイトの終わりを待って慶一君は店の側に来ていたのだった。

 

窓から見える慶一君の姿を見て私は、少しだけこの状況が楽しいと思えていた。

 

慶一君の事は店の店員達にもそのうちに知られるようになった。

 

そして、私が何気なく窓の外を見る仕草を見た娘達に

 

「ねえねえ、泉さん。あの人、泉さんの彼氏なの?」

「結構かっこいい人じゃない?いいなー、私もああいう彼氏が欲しいー。」

「泉さんが羨ましいなー。」

 

等ともてはやされる事もあったのだが、そのたびに私は照れながら

 

「うーん、そういうのだったらいいんだけどね、まだ私、彼とはそういう関係って訳じゃないんだよねー。」

 

そう否定しつつも、なんとなく複雑な心境の自分がいたのだった。

 

そして、今日も仕事が終わり、慶一君の側に行って声をかける。

 

「お待たせ、慶一君。待った?」

 

私の言葉に気付いた慶一君が私を見て

 

「ん。お疲れさん、こなた。今日はもう上がりなんだな?そんなに待ってたわけじゃないから大丈夫だよ。」

 

軽く笑いながらそう言ってくれる慶一君に私は、店内で買ったホットコーヒーの缶を手渡しながら

 

「こんなものでごめんだけど、少しはあったまると思うからさ。はい、これ。」

 

そう言う私に慶一君は微笑んでくれて

 

「ありがとな。こなた。さて、それじゃそろそろ行くとしようか。」

 

そう言って私に帰る事を促す慶一君の横に並んで歩きつつ、慶一君の手を握る私だった。

 

「お、おい、こなた?」

 

照れて慌てながら私にそう言う慶一君に私は笑いながら

 

「ずっと外にいたんだし、手も冷えちゃってるでしょ?こうすれば暖かいからいいじゃん?」

 

そう言うと、慶一君はますます顔を赤らめて慌てていて、私はその姿を微笑ましく見ていた。

 

慶一side

 

いつものようにこなたとの待ち合わせ場所で俺は、しばらくの間待機をしていたのだが、30分程経った頃、こなたの仕事も終わったようで店の中から出てきたので、俺はこなたを出迎えたのだった。

 

そして、こなたは俺を待たせたお詫びの代わりと言って、店の中で買ってきたらしいホットコーヒー缶を俺に手渡してくれたので、俺はこなたに礼を言ってこなたに帰ろうと促した。

 

俺の言葉に頷いたこなたは、待ってる時に冷えた手を握ってきて「こうすれば暖かいからいいじゃん。」と言って来たので、俺はその行為に顔を赤くして照れていたのだった。

 

そして、こなたと一緒に歩きながら軽いやり取りをする俺達だった。

 

「ここのとこ毎日みたいだな。大分忙しいのか?」

「今の時期は特に、みたいだね。結構シフトも大変な感じだよ?」

「じゃあ、やっぱり24日は難しいよな?」

「うん。みんなには悪いなって思ってるけど、どうしてもって店長にも言われちゃったからさ。こんななりの私を採用してくれた店長さんへの恩もあるし、せめて恩返ししたいなって思ってさ。」

「ふーん?意外と義理堅い所もあるんだな、こなたも。でも、その気持は大事にしろよ?これからもその気持を忘れなければ、その行為はきっと、お前の助けになってくれるはずだからな。」

「私も働くようになって分かってきた気がするよ。そういう事の大事さってやつをさ。それに、これも君からも教わったようなものだからね。だから君にも感謝してるんだ。」

「俺は別にたいした事しちゃいないぞ?それこそ買いかぶりすぎじゃないか?」

「うーん・・・相変わらず謙虚な所は慶一君って感じだね。でも少しは誇ってもいいと思うよ?」

「そういうもんかな・・・?」

「そういうもんだよ、慶一君。」

 

そう言って俺を見上げて笑ってくれるこなたの顔を見ていたら、また照れくさくなって視線を外す俺だったが、ふいにこなたが俺に

 

「あ、そうだ。慶一君に聞きたかったんだけどさ。どうして私のボディガード引き受けてくれたの?」

 

そう聞いてきたので、俺は少し考え込みつつ

 

「んー・・・ここ最近の世の中が物騒になってるっていうのもあるけどさ。俺が、そうしたいって思ったのが理由かな。お前は俺にとっても大切な友人であり、仲間だからさ。」

 

俺の言葉をじっと聞いていたこなたが俺を見つめながら

 

「・・・慶一君にとって私はただの仲間?友人?それだけなのかな・・・」

 

俺はいつになく真剣な表情のこなたにどきりとしながら

 

「こなた、それはどういう・・・」

 

俺がその理由を聞こうとした時、こなたは急に我に返ったようになって

 

「あ・・・えっと・・・ごめん。今の忘れて?あはは・・・今日は私も少し変みたい。」

 

そう言って慌てて自分の顔の前で両手をぶんぶん振るこなたを俺は、半ば呆然としつつ見ていた。

 

お互いに少し気まずい雰囲気の中でその後はあまり話せずにいた俺達だったが、こなたを無事に家に送り届けた後、俺は自宅へと帰る事となった。

 

帰る際ににも先程のこなたとのやり取りを思い出しながら、こなたの言った俺にとってのこなたは友人、仲間、それだけなのかな?という言葉の意味について色々考えていたのだが、今の俺にはその事に対する答えを見つける事ができなかった。

 

ひとまずその事に対する考えは保留にしようと思い、明日の仕事の事に関しての考えに移行する俺。

 

そんな時の俺は、こなたとの事の方にのみ意識が向いていて、かがみ達の事が意識から抜ける形となっていたのだった。

 

だからこそ、この時、俺は気付いていなかった。

 

ここ数日の間、かがみ達が何の行動も起こしていないかのように見えた状況を。

 

かがみ達が俺やこなたにも気付かれないようにある行動を起こしていた事を。

 

そして、その2日後のバイトにおいてその事を知らされることとなった。

 

その日の放課後、俺はこなたといつものようにバイト先へ向けて学校を出ていた。

 

道中、ここ最近何となく気になっていた事があって、こなたに聞いてみることにしたのだった。

 

「なあ、こなた。最近かがみ達の様子、変じゃないか?いつものように接しているようで、どこかこう・・・うーんうまく言葉にできないが不自然な感じがするというか・・・」

 

俺の言葉にこなたも少し考え込む仕草をしていたが、やがて俺の方を見て

 

「やっぱり慶一君もそう思った?私も何となく妙だなあ?と思ってたんだよ。」

 

こなたの言葉に俺は腕組みしながら

 

「そっか、俺の気のせいって訳じゃなかったんだな。これは俺の感じた事なんだが、何かやろうとしてる感じに見えなかったか?俺達に気付かれないようにさ。」

 

俺の言葉にこなたも頷いて

 

「うん。確かにそう言う感じだったね。でも、何をしようとしてるかはよく分からないから判断しにくいけどねー。」

 

俺はそんなこなたの答えを聞きながら(まあ、考えていても仕方ないか・・・)と心の中で思いつつ

 

「ま、いずれはっきりするかもしれないな。その時まではどうしようもないからこれ以上は詮索するのやめよう。」

 

そうこなたに言うとこなたは頷きながら

 

「そうだね。えっと、今日は君が迎えに来てくれるパターンだったよね?またいつもの場所で待っててね?終わったらすぐ行くからさー。」

 

そう伝えてくるこなたに俺も頷いて

 

「ああ。それじゃあの場所でな。」

 

そう俺が言った時、電車は秋葉に辿り着いたのだった。

 

こなたをバイト先に送った後、俺も自分のバイトの為に店へと向かう。

 

そして、スタッフ通用口から中に入ってバイトの準備の為、着替えを済ませて店に出る準備をするために殿鬼さんの所へと挨拶に行く。

 

「お疲れ様です。森村慶一、出社しました。これから店内へと行きますね。」

 

俺の声に気付いた殿鬼さんは俺に

 

「おお!今日もよろしく頼むぞ?伝説の少年A!」

 

その殿鬼さんの物言いに苦笑しつつも

 

「分かりました。それじゃ早速行きますね?」

 

そう言って店長室を出て行こうとすると、殿鬼さんが何かを思い出したらしく、急に俺を呼び止めて

 

「おっと、待ちたまえ。その前に君に紹介しておきたい人間達がいる事を思い出した。その人間達はいわば君の後輩だ。今日からよろしくしてやってくれ。それじゃ入ってきたまえ!」

 

と言う殿鬼さんの声に反応して店長室へと入ってくる人間達を一目見て、その人間達が誰かという事を確認した俺は、ただただ絶句していたのだった。

 

「・・・今日から一緒に働かせてもらうわ。よろしくね?慶一くん。」

「わたしも頑張るから、お仕事教えてね?けいちゃん。」

「至らぬ所もあるかと思いますが、しばらくはよろしくお願いしますね?慶一さん。」

「よっ。面白そうだから私もバイトする事にしたぜー?よろしくな慶一。」

「慶ちゃんや泉ちゃんの知り合いだと言ったらやらせてくれる事になったわ。よろしくね?」

「レジ打ちとかは任せてください。これでも生徒会会計ですから。そんなわけでよろしくです先輩。」

「・・・こういう店でアルバイトするのは初めてだけど、がんばってみるわ。よろしくね?先輩。」

 

しばらく放心状態だった俺が、ようやく立ち直るのに数分の時を要したのだった。

 

そして、額に手を当てながら大きなため息をついて

 

「・・・これは俺も予想外だったよ・・・かがみはあの時俺が見入っていたバイトの案内を見てたからってのはわかるけどさ・・・他のみんなはなんでだ?」

 

俺がそう訊ねるとかがみ以外の皆がそれぞれに

 

「お給料とか結構いいっておねえちゃんが言ってたから。それにクリスマスに向けてわたしも少しお小遣い欲しかったし・・・」

「条件がよかったのもありますが、やはり入用でしたので・・・」

「私もそうかなー。クリスマスはみんなで騒ぎたいじゃん?」

「私は、それ以外にも必要な物あったから・・・」

「これもみんなで騒ぐためですよ?先輩。条件もいいし。」

「私も、丁度アルバイト探していた所だったし・・・」

 

最後にやまとが少し顔を赤らめつつそう言うのを見て俺は、再度重いため息をついたが、こうなっては仕方がないと覚悟を決めたのだった。

 

「とにかくだ、これから仕事を始めるから、みんなは俺の指示通りに動いてくれ、頼んだぞ?」

 

そう声をかけると皆も「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」と言って俺についてきたのだった。

 

「あやの、こうはレジを主に頼む。つかさとみさお、やまとは商品の補充、整理だ。かがみ、みゆきは俺と一緒に店内を巡回しつつお客様への案内や高いところにある商品を取るのを手伝ったり、お客様の要望を聞いたりしてそれを処理する事を主にやる。つかさ、みさお、やまと、商品補充等に関しては補充倉庫の方にも先輩がいるからその人に教わりながらやってくれ。あやの、こうもレジ担当の先輩に教わる事。店内巡回は俺がかがみとみゆきに教えながらやる。そういうわけでそろそろみんな持ち場へついてくれ。」

 

俺の言葉と共に皆は頷いて、それぞれの持ち場に散っていく。

 

それを見届けて俺は、かがみとみゆきに声をかけ、店内の巡回を開始する。

 

「それじゃ、いくぞ?かがみ、みゆき。」

「わかったわ。慶一くん、お願いね?」

「よろしくお願いします、慶一さん。」

 

その2人の返事に頷き、俺は早速仕事を開始するのだった。

 

俺は歩きながら2人に

 

「まずは俺がやって見せるからよく見ててくれ。」

 

そう言うと2人とも頷いて俺のやり方を見る。

 

「あの、店員さん。この商品を探してるんですが・・・」

「こちらの商品は2階のコーナーにあります。向こうの階段か、エレベータで上がってもらって奥の方に表示が出ていると思いますのですぐおわかりになるかと思います。」

「ありがとう。」

「あの、店員さんあれを取りたいんですが・・・」

「少々お待ち下さい。今台を用意してお取りしますので。」

「・・・はいどうぞ、こちらになります。」

「ありがとうございました。」

「店員さん、これの予約はどうすればいいでしょうか?」

「こちらはレジの方にてご予約を承っておりますのでそちらへどうぞ。」

「どうもです。」

 

その後も2人の前で案内や要望処理を行っていく。

 

そうしていくうちに、2人とも大体の事を覚えたようなので、今度は俺が見守る中での実践が始まった。

 

2人とも流石にそつなく接客をこなしていくのを見ながら少しほっとしていた俺だったが、商品陳列と補充をしているみさお達のほうからあがる声が、この後に起こるカオスの引き金となるのだった。

 

「日下部さん!何してるの!?それ全部並べるところ違ってるわよ!?」

 

その声に気付いた俺は、先輩とみさおがいる方に目を向けると、みさおが先輩に怒られていたようだったので俺はそっちの方へと行って先輩に

 

「先輩、どうかしましたか?」

 

そう訊ねると先輩は俺に

 

「日下部さんに陳列と補充お願いしたんだけど、見てよ。見事に違う場所に並んじゃってるのよ・・・」

 

先輩の指差す方を見てみると、なるほど、確かに並べる物が違っていた。

 

しかもそのエリア全てが・・・。

 

俺は先輩にお詫びしつつみさおに

 

「すみません、先輩。ほら、みさお。俺も手伝うからちゃんと並べ直そう。」

 

そう言うと、みさおは落ち込みながら

 

「ごめん、慶一、先輩。手間かけさせちゃって・・・」

 

そう言って来たので、俺は軽いため息を一つついて

 

「やっちゃったものは仕方ないだろ?それよりも今はこれを一刻も早く正しく並べるんだ。気持を切り替えていけよ?みさお。」

 

その俺の言葉にみさおは”きっ”と顔を上げると

 

「そうだな。悪い、慶一。がんばるから手伝ってくれな?」

 

その言葉に俺は安心して

 

「ああ、任せとけ。それじゃやっちまうぞ?」

 

俺の言葉に先輩も大変ではあったが俺たちの手伝いをしてくれ、何とか元の形に収めることができた。

 

一仕事終えて一息ついた時、第2のカオスがやってきた。

 

「けいちゃん。補充用の商品運んできたんだけどどこに置けば・・・はわわっ!!」

 

補充用の商品をおぼつかない足取りで運んできたつかさが直前でつまづき、商品が宙を舞う。

 

「それはまるでスローモーションのようで・・・ってそうじゃない!!」

 

1人でナレーションをいれ、1人でツッコミを入れて、俺は宙を舞う商品を一つも落とさないように、しばらく使ってなかった龍神流の歩法を、おそらく今までで一番本気で使って全ての商品をキャッチしまくった。

 

しかし、最後の一つを取り逃し、その商品は地面に落下しおしゃかになってしまうと思われたのだが、俺達の様子を見ていたかがみがとっさにその商品に飛びついて

 

「なんとぉっ!!」

 

という気合と共にダイビングキャッチしてくれたのだが、その時かがみはスカート姿で、なおかつとっさのダイビングでスカートがめくれ、背後にいたお客にその姿を見られてしまい、恥ずかしさのあまりパニックになったかがみが

 

「きゃああああ!見るなー!!」

 

という声と共に背後の客にバックキックを放つのを感じた俺は、とっさに客とかがみの間に入ってかがみの蹴りを体で止めた。

 

「ぐはあっ!!」

 

その一撃はもろにみぞおちにヒットし、俺はその場で悶絶していたが、何とか立ちなおった俺はお客に先ほどの非礼をかがみと共にひたすら詫びていた。

 

そして、ようやく場が落ち着いてきた頃、今度は第3のカオスがもう1人によって引き起こされたのだった。

 

それは、接客をしてその商品をみゆきがお客から受け取ってその商品名をなぜか復唱したことがきっかけになったのだった。

 

「お客様、ご確認ください。これがお探しの『いけないお兄ちゃん』と『あぶない妹』という本になります。」

 

そんな事をみんなにも聞こえるような声で話すみゆきに店内では

 

「「「「「ぶーーーーーーーーーっ!!!」」」」」

 

と一斉に近場にいた客までもが吹き出し、俺は大慌てでみゆきの所に行って

 

「み、みゆき!いいから!それは復唱しなくていいから!そういうのはレジに任せて、な?みゆき。」

 

と言う俺の言葉にみゆきは、よく分からないという感じで首を傾げていたのだが、俺がみゆきに商品の説明を耳元で小声でしてやると途端に顔を真っ赤にして

 

「す、すみません!すみません!すみません!」

 

と、恥ずかしい思いをさせたお客に平謝りしていたのだった。

 

それからも店内はてんてこまいな状況が続いていたのだが、その中でこうとやまととあやのだけはちゃんと業務をこなせていたのだった。

 

皆の初日のバイトも何とか終了し、俺はすっかり疲れきってスタッフ控え室で休んでいたが、そこにかがみとつかさとみゆきとみさおの4人が入ってきて

 

「慶一くん。ごめんね?なんかパニックになって迷惑かけちゃって・・・私が蹴った所、大丈夫?」

 

申し訳なさそうな顔をするかがみに俺は

 

「いいよ。状況的に仕方がない事だ。けどな?相手はお客様であれも不可抗力なんだからお客は悪くないって事だけは覚えておいてくれよ?それで俺がとばっちり受ける分には構わないから。」

 

そう伝えるとかがみはますますすまなそうな顔で

 

「わかってる。慶一くん、本当にごめんなさい・・・」

 

そんなかがみの頭をぽんと軽くたたくと

 

「気にするなよ。仕事事態はちゃんとやれてた。たまたまが重なっただけの事だし早々起こる事じゃないんだからな。だから、明日からちゃんと切り替えていけばいいよ。」

 

俺の言葉にかがみは頷いて

 

「うん。ありがとう。それじゃ私、着替えてきちゃうわね?」

 

そう言って部屋を出て行こうとするかがみに俺は

 

「ああ。待ってるからみんなで帰ろう。」

 

そう声をかけると、かがみは俺に手を振って着替えに向かったのだった。

 

そして、つかさも俺にさっきのドジの事を謝りに来たのだった。

 

「けいちゃん、ごめんね?またわたしドジやっちゃった・・・けいちゃんにもお店の人にも迷惑かけちゃった・・・わたしってやっぱりだめだね・・・」

 

俺は自分を責めるつかさにどう言葉をかけるべきか思案していたが、やがて心を決めるとつかさに

 

「なあ、つかさ。俺がお前らと何度目かの昼休みに言っていた事覚えてるか?お前らが俺やかがみの家事の事で話していたあの時の事だ。」

 

俺の言葉につかさはその時の事を思い出したようで俺に

 

「わたしやこなちゃんが料理うまいのは最初からじゃない、ってけいちゃんが言ったあのときの事?」

 

つかさの言葉に俺はこくりと頷くと

 

「そうだ。そして、その時に俺は、かがみにつかさやこなたはそれだけの経験を積んだから今のように料理ができるようになった、と言ったよな?かがみが出来ないのは2人よりもそういう経験に差があるからだと。」

 

俺の言葉につかさもコクリと頷いて俺の言葉の続きを待つ。

 

「今のつかさも、俺もだけどそうさ。こういう仕事の経験なんて今回が初めてなんだぜ?だから、うまく出来なくてあたりまえなんだよ。それこそ何の経験もないのにいきなりそういう事が上手くできる人間なんて天才くらいなもんさ。だから、今日始めたばかりのお前が上手く出来なくても何の不思議もない。だから、俺はお前にそれを責める資格もない。」

 

俺は言葉を一旦切って深呼吸するとさらに言葉を続ける

 

「お前は一度しくじったりするとパニックになりやすい。だから仕事でしくじったらそのミスを取り返そうとしてさらにドジを上乗せする形になってしまう。だから、失敗してしまった、と思ったらそこで一旦深呼吸しろ。そして周りの状況と今の自分がやろうとしてる事を落ち着いて見直してみろ。その上で自分のすべき事がわかったら、ひとつずつでいいから確実にやってみるようにしてみろ。そして体育祭のハードル走の本番の時、お前がやった事を思い出せ。あの時お前がパニックから立ち直れた時のことをな。」

 

俺の言葉に真剣に耳を傾けていたつかさは俺に強い決意の瞳を向けると

 

「うん!ありがとうけいちゃん。見てて?わたしがんばるから。そしてまたわたしがくじけそうになった時は・・・」

 

俺は大きく頷いてつかさの最後の言葉を補足する

 

「俺がお前を助けてやるさ。」

 

その言葉につかさは嬉しそうな笑顔を俺に向けてきて、俺もそれに応えるように微笑みながら頷くのだった。

 

そしてつかさも着替えに戻ったのを見届けると、今度はみゆきとみさおが俺の所へとやってきた。

 

その後、みゆきとみさおの謝罪を受けたが、大した事ではなかったので俺は2人にも気にするなと伝えたのだった。

 

そして2人も着替えて来ると言って出て行くのを見送った後、入れ替わりでやまとが控え室に入ってきたのだった。

 

「先輩、今日はお疲れ様。大変だったわね、色々と。」

 

俺はやまとのその言葉に苦笑しながら

 

「ははは・・・けど、まさかみんながこのバイト先に来るなんて思わなかったからなあ・・・」

 

そんな俺の言葉にやまとは少し考え込んでいたようだったが、俺の方に目を向けるとぽつりぽつりと話始めたのだった。

 

「実は私達、高良先輩から聞いたのよ。先輩とした約束の事・・・。」

 

やまとのその言葉に俺は、あの時みゆきとした約束の事を思い出していた。

 

「先輩は言ってたわ。慶一先輩と共に私達が一緒にいられるように努力しよう、って話したんだって事を。慶一先輩もそのための努力をすると言っていたって事も。そして、先輩が泉先輩のボディガードをするためにこのバイトを始めたのだと言う事も知ったわ。あれ以来しばらく2人とは距離が開いた状態になっていた。その事を考えた時、かがみ先輩が慶一先輩のバイト先の事を教えてくれたのよ。そして、そこなら泉先輩の関係者たる私達ならば採用されるかもしれない、ってかがみ先輩が言ったから私達は思い切って面接を受けにきてみたの。そうしたらこの店の店長さんが慶一先輩と一緒にいたかがみ先輩の事を覚えていてくれて、それで私達全員、採用になったって訳なのよ。」

 

そして一旦言葉を切ったやまとは、一呼吸おいてさらに言葉を続けた。

 

「高良先輩の願いを、慶一先輩の願いを、その努力を私達もしてみたくなった。それが同じ場所へのバイトを望んだもう一つの理由よ?」

 

俺はみんなの気持が理解できたような気がした。

 

それと同時に、2人で約束した努力を皆もしてくれようとしてくれた事がとても嬉しく思えた。

 

「なるほどな・・・みんなも同じように思っていてくれたのか。何だか嬉しいな。」

 

1人そう呟いた後に俺はやまとに

 

「よっし。それなら今しばらくは戦場になるぞ?やまと、お前の思いも見せてもらう。これから大変だがその努力をすると言ったからには、とことん付き合ってもらうぞ?」

 

そう言うとやまとも不敵に笑って

 

「ふふ。望む所だわ、先輩。これからしばらくよろしく。」

 

俺もその言葉に頷きで応えたのだった。

 

そして、全員で帰る準備を終えて俺はいつものようにこなたを迎えにこなたのバイト先へと向かった。

 

皆でこなたが出てくるのを待っていたが、バイトを終えて出てきたこなたが俺達を見て凄く驚いていた。

 

俺達はその理由をこなたに話したのだが、こなたはその後しばらく何事かを考え込んでいたようだった。

 

そして、後日こなたはある行動を起こすのだが、今の俺達にはその行動の意味に気付ける者は誰もいなかったのだった。

 


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