らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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笑いあう旋律~やまとの2つの誕生日会~

文化祭も滞りなく終わり、こなたのクラスとの売上勝負にも敗退するという一幕はあったが、この文化祭もまた俺達にとっての大事な思い出の一つになったと思う。

 

そして、先月のみゆきの誕生日もそうだったのだが、準備等の関係で同じように誕生パーティを開けなかったあやのの為に、俺達はせめてプレゼントだけでも渡そうと思い、それぞれに選んだプレゼントをあやのに手渡したのだった。

 

パーティの方は彼氏さんと一緒にやるならそれでいい、と思ったのもあったのだが。

 

そしてその後、もう1人同じ月に誕生日の奴がいるので、俺はそちらをどうするべきかと悩んでいたのだが、昼休みの食事中にふいにこなたが俺に言った一言で改めてそれを考える事となった。

 

「ねえ、慶一君。そろそろ永森さんの誕生日近いよね?慶一君は何かやろうとか考えてる?」

 

そのこなたの発言を聞いて皆もそれぞれに

 

「そういえばそろそろだったわね。まあ、慶一くんの事だし何かしらやろうと思ってるんじゃないかしらね?」

「そうだね~。わたしもお祝いしてあげたいな~。」

「慶一さん、永森さんのお祝いもされるのでしょう?企画をする、という事でしたら私も協力させていただきますよ?」

「あいつも私らの仲間だしな。パーっと騒ぐのがいいんじゃねえか?」

「そうね、私もプレゼント貰ったし、何かお返ししたいわ。」

 

そのこなたの言葉と皆のそれぞれの言葉に思考状態から現実に引き戻された俺は、とりあえずこなたの質問に

 

「んー・・・一応はな。まあ、何にしてもだ。その為にはお前らの協力が不可欠だからさ、今回もまた協力してくれないかな?」

 

俺がそう言うと、皆は笑顔で頷いてくれた。

 

「それで、具体的にはどうするの?」

 

そう訪ねてくるこなたに俺は腕組みしつつ考えながら

 

「うーん・・・とにかくだ、こなた、ちょっと耳を貸してくれ。」

 

そう言うと、こなたは俺に耳を寄せてきたので俺は計画の詳細を伝えると、こなたはニヤリと笑って

 

「なるほど、それは面白いかも。ちょっと待ってね、慶一君。今かがみ達と相談するからさ。かがみー、みんなちょっとこっち来てー。」

 

そう言ってかがみたちを呼んで円陣を組んでなにやら話し込んでいたが、相談がまとまったのかこなたが俺の方を向いてオーケーサインを出していたので、そちらの準備はこなたに任せる事となったのだった。

 

俺はそちらの準備ができることを確認して、その日の帰りにこうに会う為にアニ研の部室へ顔を出しにいった。

 

ノックをして部室に入るとそこにはやまとの姿はあったが、こうの姿は確認できなかった。

 

俺に気付いたやまとが俺の方に向き直って

 

「あら?先輩。部室に用事かしら?」

 

そう訊ねてきたので、俺はその言葉に頷くと

 

「ちょっとこうに用事があってきたんだが、今日は一緒じゃないのか?」

 

そうやまとに聞くと、やまとは軽いため息を1つつきつつ

 

「こうなら委員会に出席してるはずよ?後30分は戻って来ないわ。」

 

その答えに俺は腕組みをして考え込みつつ

 

「しょうがない、待ってるしかないかな?やまと、お前もこうを待ってるのか?」

 

俺の言葉にやまとは首を振って

 

「今日はちょっと用事があるから先に帰るわ。こうにもその事は伝えてあるから大丈夫だけど。」

 

そう答えるやまとに俺は

 

「そうか、わかった。俺はこうを待つとするよ。やまと、くれぐれも事故とかに遭わないように気をつけてな。」

 

そう伝えるとやまとは薄く微笑みながら

 

「誰かさんみたいにドジしないから大丈夫よ。先輩こそあまり遅くならないうちに学校出たほうがいいんじゃない?」

 

と言うやまとに俺は苦笑しながら

 

「用事が済んだらすぐ帰るさ。あー・・・それとな、やまと。26日は空いてるか?」

 

一応の確認の為にやまとに訊ねると、やまとは少し考える仕草をした後

 

「・・・その日は特に何かあるわけじゃないわね・・・でも、どうして?」

 

そう聞き返してくるやまとに俺は

 

「ちょっと用事で実家に帰るからな。こうも一緒に遊べるのなら地元で久々に遊ぼうかと思ったからな。」

 

俺のその言葉にやまとは一瞬寂しそうな顔をしたものの

 

「・・・そういう事なら、大丈夫だと思うわ・・・・・先輩・・・あの・・・」

 

何かを言いたげなやまとを見て俺は不思議そうな顔をしつつ<演技だが>

 

「ん?どうした、やまと。何か俺に言いたい事あるのか?」

 

そう聞き返すと、やまとは何かを言いかけていたのだが、その先を言葉にできなかったようでキュッと唇を一瞬噛み締める仕草をすると

 

「いいえ・・・なんでもないわ、それじゃね、先輩・・・」

 

そう言って部室を出て行くやまとを俺は心の中で(済まない)と思いながら見送ったのだった。

 

やがて、30分程してこうが戻ってきたので、俺は当初の目的をこうに伝えておこうと思い、綿密な打ち合わせをするのだった。

 

やまとside

 

後何日かで私の誕生日が来る。

 

私はこうにその事に関する相談をしたかったからこうの事を待っていたのだけど、私自身の用事もあってそろそろ帰らないと、と思っていた時、そこに先輩が現れた。

 

先輩はこうに用事があったらしく私にこうの事を聞いてきた。

 

こうは委員会に出席していたのでその旨を伝えると、先輩はこうを待つと言うのだった。

 

こうとの事、そして私が帰るにあたっての事、そして私の誕生日の日に先輩はその日に実家に戻るから3人で遊ばないかと言ってきた。

 

私は誕生日の事を意識しつつも、先輩に26日に私を誘った真意を聞かせて欲しかったから先輩に何かを言おうと思ったのだけど、先輩は私が言おうとしてる事にも気付いてくれなかったようで、だから私は先輩にそれ以上の事は聞けずにそのまま先輩に帰る挨拶をして部室を後にした。

 

帰り道に私は沈んだ気持になりながら

 

「・・・はあ・・・先輩・・・忘れちゃってるのかな・・・私の・・・誕生日の事・・・」

 

そう呟きつつ、憂鬱なため息をつきながら私は重い足取りで帰っていく。

 

「・・・仕方ないわね・・・こうなったら先輩やこうが26日の私の誕生日を覚えていてくれる事を願うだけね・・・」

 

そう自分に言い聞かせて家へと帰る私だった。

 

慶一side

 

こなた達とこうに仕込みを頼み、俺はやまとが欲しがっていたオルゴールを誕生日プレゼントとして送るべく買い物をしていた。

 

そしてプレゼントにリボンをかけてもらい、俺の準備を完了させてこうへと連絡を取るのだった。

 

携帯を手にとり、こうへと連絡を入れる。

 

「もしもし、こうか?俺の方の準備はできた。こうの方はマスターにお願いできたか?」

「ええ、こっちはばっちりです。事情を話したらマスターも快く引き受けてくれましたよ?後は当日の作戦だけですね。こっちはうまくやりますから先輩も頑張って下さいよ?」

「ああ、わかってる。俺達でやまとにとって忘れられない誕生日にしてやろうぜ。」

「そうですね、でも・・・ちょっとやまとが羨ましいかな。」

「まあ、お前の時も何か考えてやるさ。とにかく今回はこの計画の成功の為にがんばろう。」

「その言葉、覚えておきますよ?何にしても当日は成功させましょう。それじゃー。」

「ああ。それじゃ当日にな。」

 

そう言ってこうとのやり取りを終え、俺は当日のやまとの誕生日に思いを馳せるのだった。

 

やまとside

 

あれから、結局自分の誕生日の事について言い出すことも出来ず、私はもやもやとした気持のまま誕生日の前日を迎えた。

 

その日までの間、先輩もこうも私の誕生日について何も触れてくれなかったのもあって、私は半ば落ち込みながらも当日の事についてこうに確認の連絡を取ったのだった。

 

「もしもし、こう?明日の事だけど先輩から聞いてる?」

「先輩が実家に戻ってくるから3人で遊ぼう、って事だよね?ちゃんと聞いてるよ。それで待ち合わせは何時にする?」

「・・・そうね・・・午前9時頃、駅前でどうかしら。」

「分かった。それじゃその時間に行くよ。久々に3人だけで遊べそうだから楽しみだね。」

「それはいいけど、当日は遅れないでよ?前よりましになったとはいえ、それでもあなたは遅いんだから。」

「わかってるよー。もし遅れそうな時は一本電話入れるからさ。」

「そうならない事を祈ってるわ。それじゃ。」

「うん。明日ねー。」

 

と言うやり取りを終えて私は先輩にも明日の時間を伝える為に連絡を取るのだった。

 

慶一side

 

やまとの誕生日を前日に控え、俺はこなた達に最終確認を取って準備を終えた後、やまとからの確認の当日の待ち合わせに関する確認の電話を貰い、俺は前日の晩から実家へと戻って行く。

 

無論そこにこなた達も同行させて戻った。

 

そして実家に着いた俺達は、とりあえずこなた達が来てる事をやまとに悟られないようにこっそりと準備を始めた。

 

準備を進めながらこなたは

 

「いやいやこういうイベントもいいもんだねえ。やっぱり色々楽しまなくっちゃね。」

「あんたはほんとこういう騒ぎとか好きよね。日下部もだけどさ。まあ、年一回の事だしいいかな?とは思うけどさ。」

「わたしたちもお祝いしてもらってるんだし、それにこのみんなでやるから意味があるんじゃないかなって思うよ?」

「そうですね。永森さん達は慶一さんを通して知り合えた後輩さんでありお友達ですから。」

「私達の時にもあいつらが来てくれたのに私達がその礼もしないんじゃあ、義理がたたねえよな。」

「そうね。私もプレゼント貰ったからそのお返しはしたいから。」

「私も招待してもらってよかったのかな?」

「・・・ゆたかも先輩やみんなと仲間だから・・・いいと思う・・・それに、喜んでくれると思うから・・・」

「私もこうちゃん先輩や永森先輩、それに皆さんとも友達っスからね。」

「みんな、無理聞いてもらってありがとな。その代わり明日は思い切り楽しもう。」

 

その言葉に皆は「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」と気合を入れ直すのだった。

 

そして当日、皆に準備の続きをしてもらいながら俺は、待ち合わせの場所へ向かいつつ、こうと連絡を取り作戦開始を伝える。

 

今回取り決めた待ち合わせ場所に向かうと、いつもの時間でやまとを待つ俺だった。

 

やまとside

 

結局当日になっても私の誕生日の事に関して先輩やこうからも何も無く、私は今年の誕生日を意識する事をやめようと思い、出かける準備をして先輩やこうとの待ち合わせ場所へと向かった。

 

そして待ち合わせ場所に行くと、先輩は待ち合わせ時間の10分前、いつも私が来る時間前には待ち合わせ場所に辿り着いて私を待っていた。

 

私に気付いた先輩は片手を上げて

 

「よう、やまと。いつも通りだな。こうはまだかかるんだろうけどな。」

 

そう声をかけてくる先輩に私はいつもどおりの態度で

 

「おはよう先輩。いつもの事とはいえもう少し早く集合時間には来て欲しいとこだけどね・・・」

 

そう答えると先輩は苦笑しながら

 

「まあ、いつもの事だな。とはいえ、本当は、こういうのにも慣れるってのもおかしいんだろうけどな。」

 

先輩の言葉に私も軽いため息をついて

 

「そうね。いつかは治ってくれるといいのだけど・・・」

 

そうして先輩とやり取りをしてるうちに携帯が着信を告げたので、発信者を確認してみるとこうだった。

 

私はとりあえず電話に出ることにした。

 

「もしもし、こう?どうしたの?もっと遅くなりそうだとかそう言う感じ?」

「あ、やまと、ごめん。ちょっと急用できちゃってさ、行けなくなっちゃったんだ。悪いんだけど先輩と2人で行ってくれるかな。それとこの事は先輩に伝えておいて欲しいんだけど。」

「どうしてよ!昨日電話した時には大丈夫だって言ってたじゃない!」

「ほんとにごめん。今回の事は個人的なことじゃないからさ、どうしても抜けられなかったんだ。この埋め合わせはきっとするから先輩にも謝っておいてよ。」

「・・・仕方ないわね・・・わかったわ。先輩には伝えておくわ。それとさっきの約束守ってもらうわよ?」

「分かってるよ。それじゃやまと、先輩とのデート、がんばってきなよー?」

「ちょ!な、何言ってるのよ!こう!これはそんなんじゃ・・・あ、切れた・・・もう、こうったら・・・」

 

こうから言われた最後の言葉に私は顔を真っ赤にして反論したが、すでに電話が切れた後だった。

 

電話に怒鳴りつけて顔を赤くしてる私に気付いた先輩は不思議そうな顔で私を見ていたが、私はとりあえずこうからの伝言を伝える事にしたのだった。

 

「・・・・・・というわけで、こうは来れなくなったわ。そんな訳で私と2人だけなんだけど、先輩、どうするの?」

 

そう訊ねると、先輩は少し考える仕草をしていたがすぐに私に

 

「こうが来れないんじゃ仕方ないか、けどこのまま帰るのもなんだし、遊びに行くか?やまと。」

 

と言う先輩の提案に私は顔をまた赤くして

 

「え?で、でもいいの?私なんかと一緒じゃ、面白くないんじゃ・・・」

 

少し嬉しい気持になりつつ、私はこうと一緒じゃないと自分はそんなに楽しい人間じゃないと思っていたため少し落ち込みながらそう先輩におそるおそる言うと、先輩は私のその言葉に笑って

 

「何言ってるんだよ。お前がどんな奴かなんて俺やこうが一番わかってるんだぞ?そして俺はそんなこうやお前と一緒に居たんだ。そんな中で俺がお前に対してつまらないとかいう態度を取ってきたつもりはないけどな。それともお前はそう言う俺の言うことが信じられないか?」

 

両手を広げてやれやれとジェスチャーをする先輩を見て私は驚きで目を見開いていたのだが、そう言ってくれる先輩の気持が嬉しくなって

 

「・・・いいえ・・・ごめんなさい。先輩はいつだって私達に付き合ってくれてたわね。時には私と2人だけになった時もあった。でも先輩は変わらず接してくれたものね・・・そんな先輩を信じないんじゃ私は先輩の親友として情けないわ・・・」

 

そう自重気味に言う私に先輩はにっこりと笑って応えてくれた。

 

「・・・それじゃ、行きましょ?折角の機会だし、楽しませてもらうわよ?先輩。」

 

もはやこの時点で私は自分の誕生日の事を忘れかけていたのだけど、先輩の気遣いが嬉しかったからその事の方に意識を集中させる事になったのだった。

 

慶一side

 

計画実行の当日、俺はやまととの待ち合わせ場所でやまとと会い、そしてこちらの思惑通りこうがやまとに電話を入れた事をさっきのやり取りをさり気なく聞いていた事で知った。

 

そして俺も計画どおりにやまとを誘い、あちこちをぶらつきながら最後にこうと待ち合わせるあの場所を目指す予定でやまとに一緒に行こうと言うと、やまとは頷いて俺の誘いに乗ってくれたのだった。

 

「さてと、まずはどこへ行ってみるか・・・やまと、あのゲームセンターに行ってみないか?最近この地元にもできたんだろ?」

 

俺がやまとに行き先を言うとやまとも頷いて

 

「そうね、新しく出来た所だってこうにも聞いてるわ。またUFOキャッチャーでも楽しもうかしら?」

 

そう言うやまとに俺は先月それで酷い目にあった事を思い出しつつも

 

「ま、まあ、それでもいいんじゃないか?それじゃ行くか、やまと。」

 

やまとに移動開始を促すとやまとも頷いて俺の後ろからついてきたのだった。

 

そしてゲームセンターについた俺は建物の外観や広さに感心しながら

 

「へえー・・・大きいとこだなー。なあ、やまと。こうもこの店にはよく来るのか?」

 

そうやまとに聞くとやまとも頷いて

 

「ええ。結構いい挌闘ゲームコーナーもあるからお気に入りだって、こうも言ってたわ。私も実はここのUFOキャッチャーの景品にいいものがあるから気に入ってたりするのだけど。」

 

そのやまとの言葉に俺は少し考え込みながら

 

「・・・なら、俺が見ててやるからやまとの好きな物やってみろよ。それで取れない時は俺がやってやるから。」

 

そう言うとやまとは薄く微笑んで嬉しそうにしながら

 

「なら、遊ばせてもらうわね?でも先輩はいいの?私ばっかり楽しむ事になっちゃうかもしれないけど。」

 

そう言ってくるやまとに俺は笑いながら

 

「いいんだよ。今日はそうするつもりだったんだからな。ま、とにかく頑張れ、やまと。」

 

俺の言葉に頷いてやまとは早速お金を崩しに向かった。

 

何度かミスする場面もあったのだが、俺のフォローもあって何とか景品を取ることが出来たやまとは何だか嬉しそうだった。

 

そして、その後はウインドーショッピングや本屋を巡っていたのだが、もうそろそろ目的の場所に行かないといけないな、と思い、俺はこうとの待ち合わせ場所である”レゾン”を目指して歩き出したのだった。

 

レゾンへ行くまではやまとと色々会話もしていたのだが、その会話の節々に、何かを言いたそうにしているやまとの姿を見るたびに少し心苦しくもなったが、俺はその気持を押し込めてやまとを伴い、レゾンへ向けて歩く。

 

やまとside

 

先輩と久々に2人で楽しむために私は、ひとまず自分の誕生日の事を忘れようとしていたのだが、ここまで先輩に自分の誕生日の事を気付いてもらえない状況に少し悲しさを感じ始めていた。

 

そして、それは無理やり押さえこもうとしていた自分の誕生日への思いをより意識させる事になった。

 

先輩が向かおうとしてる場所、その道筋に見覚えがあった私は先輩に

 

「ねえ先輩。ひょっとしてレゾンへ向かうつもりなの?」

 

そう訊ねると先輩は少し驚いたような顔をして

 

「へえ?向かってる場所、わかったのか。そうさ。そこに行くつもりだよ。お前に奢ってやろうと思ってな。今日の締めくくりにな。」

 

そう言う先輩の言葉に私は密かに心の中で(なら、ケーキを奢ってもらってそれを私の誕生日としよう・・・)そう考えていたのだった。

 

「なら、ケーキでも奢ってよ。それくらいは良いわよね?」

 

と言う私の言葉に先輩は笑いながら頷いてくれたのだった。

 

そうして歩いているうちに懐かしい店、レゾンへと着いた私は、先輩に促されて店内へと足を踏み入れる。

 

そして、マスターから声をかけられた先輩はマスターと軽いやり取りをしていたのだけど、そのうちにやり取りを終えて私を伴いある席へと移動した。

 

そしてそこにいた人間をみて私は驚いたのだった。

 

「やっほー。やまと、待ってたよー。」

 

電話で急用が出来て来れないと言っていたはずのこうがそこに座っていたのを見た私は思わず

 

「こう!?あなたどうして・・・急用で来れなかったんじゃなかったの?それとも用事が済んでその帰りってとこなのかしら?」

 

こうに問いただすとこうはぺろっと舌を出して

 

「実はね、これが私の言ってた急用って訳なんだよ。とにかく座って?やまと。」

 

そのこうの言葉に訳が分からない顔をしている私だったが、とりあえずこうに言われたとおりに席についたのだった。

 

そしてその横に先輩も座ったのだが、その先輩も何やらにこにこと笑って私を見ているのを私も不思議そうな顔で見ていたのだった。

 

「それで?どういう事か説明してくれるわよね?」

 

そうこうに言うとこうはおもむろにマスターを呼んで

 

「マスター。お願いしていた物をよろしくです。」

 

そう声をかけると奥からマスターが大きなケーキを持ってこっちに来るのが見えたのだった。

 

「お待たせしました。永森やまと様。これはお2人からのやまと様への心づくしです。」

 

そう言って私の前にそのケーキを置くとマスターはペこりと頭を下げた後クラッカーを取り出して

 

私に向けてクラッカーを鳴らしたのだった。

 

突然の事に私が混乱しているとマスター周りの客が

 

「誕生日おめでとう!!」

 

と言ってきたのだった。

 

そして先輩とこうも私に「誕生日おめでとう、やまと。」「おめでとう、やまと。」

 

そう言ってくれたのだった。

 

その時初めて私はこの事が仕組まれた事なのだという事を知った。

 

と同時に、私に内緒でこんな誕生日をプレゼントしてくれた先輩やこうの気持が嬉しくなって、そして2人が私の誕生日を忘れていなかった事が嬉しくて、思わず私は2人に飛びついて泣きじゃくったのだった。

 

「ありがとう、先輩、こう。私、忘れ去られていたのかと思った・・・嬉しい。本当に嬉しいわ・・・」

 

そう言って泣きじゃくる私をこうと先輩は優しい目をしながら受け止めてくれていたのだった。

 

そんな様子を見ていた店のお客もマスターも私達の様子を暖かく見守っていてくれたのだった。

 

しばらくして落ち着いた私に2人が誕生日プレゼントを渡してくれた。

 

「やまと、これは私からだよ?」「これは俺からだ、受け取ってくれ」

 

そう言って渡してくれたプレゼントを見てまたしても嬉しくなった私だった。

 

「ありがとう、先輩、こう。最高の誕生日よ。」

 

私は嬉しい気持を素直に言葉にすると、先輩達もにこにこと笑ってくれたのだった。

 

そうしてレゾンでしばらくの間楽しい会話をしてケーキも食べてそろそろ夕方のいい時間になったので私達は店を出る事にした。

 

その際にマスターにも今日のお礼を言って店を後にする。

 

そして帰り際先輩が私に

 

「やまと、こう。うちに寄ってけよ、夕飯ご馳走するからさ。」

 

そう言ってくれたので私は今日はその言葉に甘える事にした。

 

そこで待つもう一つのサプライズに気付かないまま。

 

慶一side

 

上手く時間を稼ぎ、やまとにまず俺とこうからの2人によって、俺達3人だけの誕生日を終わらせて、今俺はやまとをつれて今回のメインのために実家へと夕食をご馳走すると口実をつけて来てもらう事となった。

 

レゾンから出る前に俺はお手洗いでこなた達とこっそり連絡を取って準備の終了を確認したので、後は実家にて2つ目の誕生日を行う為だった。

 

最初の誕生日で、あれだけ喜んでくれたやまとだから、こっちでもきっと喜んでくれるだろうと思えた。

 

そんな事を考えながら実家へ向かっていた俺達だったが、やまとが不意に俺に

 

「ねえ、先輩。私の誕生日の事覚えていてくれてたのよね?忘れたフリなんて人が悪いじゃない・・・」

 

どこか少し拗ねたような顔で俺にそう言ってくるやまとに俺は苦笑しながら

 

「ごめんごめん。お前を驚かしてやりたいと思った俺とこうの考えた事なんだよ。それに、お前が陵桜に来て初めてのお前の誕生日でもあったからな。中学時代はこの3人でお互いに誕生日を祝ってきたんだし、そうするのがいいと思ったんだ。そのためにちょいとドッキリを仕掛けたが、喜んでくれたみたいでよかったよ。」

 

そう言うとやまとは顔を赤らめながら

 

「あ、ありがとう、先輩。私やこうの事を大事に考えてくれる先輩の気持、うれしかったわ。私達3人でやってきた事・・・それを大事に思ってくれた事も、嬉しい・・・」

 

そう言うやまとをみてこうも

 

「親友の誕生日だもんね。忘れるわけないよ。そこのところはもう少し信用して欲しかったなあ。」

 

意地悪そうに笑うこうにやまとも照れながら

 

「それは・・・悪いと思ってるわよ。とにかく・・・その・・・ごめんなさい・・・そして、ありがとう。」

 

赤くなりながらいうやまとにこうは

 

「うーん、その表情、いいねー。萌えだよ萌え。やまとは可愛いねー。」

 

と言うこうの言葉にやまとは顔を真っ赤にして黙り込んでいたのだった。

 

俺はその様子を苦笑しながら見守っていたが、やがて実家に着いたので2人に

 

「よし、それじゃ家に入るか。2人ともついてこいよ。」

 

そう促すと2人とも頷いて俺の後についてきたのだった。

 

「ただいまー。お袋ー、こうとやまとを連れて来たぞー。さあ、上がれよ2人とも。」

 

そう言って家に上がるように促すと2人とも「「お邪魔しまーす」」と言って上がってきたのだった。

 

「こう、やまと。俺は部屋に荷物を置いてくるから先にリビングへ行っていてくれ。」

 

そう言って2人を先にリビングに行かせて俺は部屋に戻るフリをして2人の後をこっそりとつける。

 

そして2人がリビングについた瞬間に鳴らされるクラッカー、それを浴びるやまと。

 

そこに居たみんなから送られる「「「「「「「「「誕生日おめでとうー。」」」」」」」」」の言葉にやまとは何が起きたのかよく分からない表情でしばらくほうけていたが、それが自分の誕生日を祝う事だとわかった時、再びやまとは嬉しさの涙をこぼしていたのだった。

 

「誕生日おめでとう永森さん。これ私からのプレゼントだよ。」

「おめでとう、永森さん。これは私から。」

「おめでとう~。これ私が選んだんだよ?」

「おめでとうございます永森さん。これは私からです。お役に立てばいいのですが。」

「おめでとう、永森。これは私からだ。使ってくれなー。」

「おめでとう永森さん。私からはこれを。」

「おめでとうございます永森先輩。これは私がみなみちゃんと選びました。」

「・・・おめでとう・・・ございます・・・これは私からです・・・」

「永森先輩、おめでとうっス。これは私が選んでみました。」

「おめでとう、やまとちゃん。これは俺からだ受け取ってくれ。」

「おめでとう、永森さん。これは僕から送らせてもらうよ?」

「ふふ、おめでとう。やまとちゃん。これは私からよ?」

「おめでとう、やまとちゃん。これは私から君に。これからも馬鹿な息子とよい友人でいてやってくれ。」

 

最初はこなた達だけの予定だったのだが、ここにきて親父や瞬、氷室、お袋までもがやまとに誕生日プレゼントを渡すという凄い状態になっていた。

 

やまとは嬉し涙を流しながらみんなからのプレゼントを頷きながら受け取っていた。

 

そして今日2つ目の俺たちの企画する誕生日会が始まったのだった。

 

終電ぎりぎりまで騒ぎ、みんなを駅に送り、俺はこうとやまとを家に送り届ける為に一緒に歩いていた。

 

そしてこうを送り届けてやまとと2人になった時、やまとは俺に

 

「先輩、今日は本当にありがとう。どれだけ感謝しても足りないくらい嬉しい誕生日だったわ。3人での誕生日だけでなく、実家で高校で知り合ったみんなとの誕生日会。一生忘れられない誕生日を本当にありがとう。」

 

心から嬉しそうにそう言ってくるやまとに俺は照れながら

 

「そう改まって礼を言われると照れるな・・・俺だってお前らに俺が忘れかけてた自分の誕生日を祝ってもらった。そして、高校に入って出来た仲間達だけど、俺たちはみんなそれぞれに絆で繋がってると思ってる。そんなみんながお前の誕生日を祝ってくれる、そう言ってくれた。やまと、今度は俺達、3人だけじゃない誕生日ができるようになったんだ。その事を忘れないで欲しい。」

 

俺の言葉にやまとはじっと俯いて考え込んでいたが、おもむろに顔を上げると

 

「そうね・・・中学時代以来私達に出来た仲間達。とても嬉しい事だわ。私は忘れない。今日の事を、そして私達にはみんなが居る事を・・・それを心に刻み込んでまた皆と楽しくやりたいわ。そして今度は私が、皆の誕生日にはお返しをしてあげたいと思う・・・その時にはまた素敵な提案を期待しているわよ?先輩。」

 

最後にそう言って笑うやまとに俺は苦笑しつつも頷いたのだった。

 

「まあ、俺に何ができるかは分からないけどさ。せいぜい頑張るよ。その時には協力してもらうからな?やまと。」

 

そうやまとに言うとやまとも満面の笑みを浮かべて

 

「その時は遠慮なく言ってよ?先輩。」

 

そう答えるやまとと笑いあったのだった。

 

今日はやまとの誕生日。

 

俺はあいつに忘れられない誕生日をプレゼントしてやれた事を嬉しく思っていた。

 

そして、2年生の終わりの足音が少しずつ聞こえはじめている事を感じながら、この11月を振り返っていた俺だった。

 


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