文化祭の2日目、俺は午前中の自由時間をこう達と共に回り、腕相撲の出し物で勝負をしてゆたか達と合流した後、まつりさんとも合流した俺たちは自由時間もそろそろ終わるという事だったので、皆を伴って自分のクラスに戻った。
そして、俺も午後の手伝いもあるので手早くウエイター姿に着替えると、連れて来た皆の注文を取る為にテーブルへと赴く。
その後、皆の注文の品をテーブルに届けて次のテーブルへ注文を伺いに行こうとした時、新たなお客がやってきた事に気付いた。
妙に聞き覚えのある声がしたと思ったら、そのお客の集団は俺が通っていた中学の3年生の時のクラスメイト達だったのだ。
しかもクラスメイト達は俺の過去にあったあの濡れ衣事件において、給食費を盗まれた生徒達だった。
「いらっしゃいませ。何名様・・・ですか・・・?」
俺の声に気付いた生徒達の1人、白川が俺に
「ああ、こっちは6人だけど・・・ってお前・・・ひょっとして森村か?」
そう声をかけると、それに気付いた残りの生徒達も俺を見て
「あ、森村君?君はこのクラスの人だったんだ・・・」
「・・・なんかあの頃と少し変わったんじゃない?」
「何となく雰囲気違ってる感じだな・・・」
「・・・・・・」
「・・・怖くは・・・ないな・・・」
そう口々に言うのを俺は黙って聞いていたのだが、俺の本来の仕事を思い出して
「・・・みんな、久しぶり・・・ともかく、6名様ご案内だ、さあこちらへどうぞ。」
白川以外は何となく恐縮してる感じだったのだが、白川は俺に敵意にも満ちた目を向けていた事に何となく気付いていたのだが、あえて気付かないフリをして6人を空き席へと案内すると
「それでは、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」
そう言ってメニューを席に置き、俺はその場を後にしようとしたのだが、ふいに白川から声がかかったのだった。
「ふーん・・・結構様になってるんじゃねえか?まあ、泥棒のお前にしてはいい格好だよなあ。そんな風に真面目そうな顔して今度はこの店の売上に手をだそうとしてるんじゃないだろうな?」
その言葉に白川以外の5人の態度が妙におどおどしたような感じになるのが見て取れた。
俺はそんな白川の言葉を受けながらも白川に対して何も返さず、ただその目をまっすぐ見据えると、おずおずと俺にメニューの注文をしてきた5人の希望を聞き、それを持ってオーダーを出しに向かった。
その際にも白川は俺の後ろで
「けっ、何も言いかえさねえのかよ。つまらねえ・・・」
と呟くのが聞こえたが、俺はそれにも何も答えずに戻って行く。
こうside
私達の接客をした後先輩は後から入ってきた客に対応しようとしていたが、入ってきた客達は私ややまともよく知るあの時の事件の当事者達だった。
私もやまとも驚きつつ様子を伺っていたが、ふいに1人の先輩の元クラスメートが先輩に嫌味交じりの言葉を吐いたのを私達は聞いていた。
「ねえ、やまと。あの人達って先輩の元クラスメートだよね?何であの人達がここに現れたんだろう?それに、あの言葉・・・頭にくるね・・・」
「あの人達には聞き込みもしたからよく覚えているわ。とはいえ、さっきの先輩を馬鹿にした言葉は許せないわね・・・」
私とやまとが2人してこそこそと話をしていると、事情を知りたがっているゆたかちゃん達が私達に聞いてきた。
「八坂先輩、永森先輩、先輩達はあの人達の事知ってるんですか?」
「・・・慶一先輩の態度やあの人達の態度を見ると・・・先輩達が知り合い同士みたいだという事はわかるのですが・・・。」
「慶一先輩も少し話ずらそうにしてた感じっスね・・・ちょっと気になるっス・・・」
「それはいいけどさー、何?あの態度、森村君あの子達と何かあったの?」
その言葉に私はゆたかちゃん達にはあの時の過去の話に関する人だと言う事を教えて、まつりさんには先輩の中学時代に起きた事件の事を話した。
「そうだったんですか・・・あの人達がその時の・・・でも、慶一先輩に対する疑惑は晴れたはずでずよね?」
ゆたかちゃんの言葉に私も頷きながら
「そうだね。あれ以降は先輩もその件に関しては終わった事だけど、結局あの後先輩は一方的に疑われた事に対する謝罪もされてはいないって聞いてるんだよね。」
そしてやまとも不機嫌そうにあの頃の事を思い出しつつ
「あの時の私もその事には結構、腹を立てたものだけどね・・・」
私達の言葉にみなみちゃんも首を傾げながら
「・・・なら、何故・・・今頃先輩の前にあらわれたんでしょうか・・・?」
みなみちゃんの問いに私も考え込みつつ
「うーん・・・他に同じ中学、同じクラスからここに来た生徒もいてその生徒と友達だからその生徒から招待を受けて遊びに来て、そしてたまたまこの店にやってきた・・・とも考えられるけど・・・」
私の意見を聞きながらやまとは
「その線が強いとは思うけど・・・でも、そうだとして先輩に絡んだあの人以外の5人の態度が気になるわ・・・。」
そう私に言うとひよりんも自分の意見を口に出した。
「そうっスよね?もし先輩にちょっかいかけに来たんだとしたら他の5人も同じような態度であってもおかしくはないっスよね?でも、なんか他の5人は妙な後ろめたさのような物を感じます。」
私もひよりんの意見に頷きつつ
「確かに・・・とにかく今はもう少し様子を見よう。何にしても情報も少なすぎるしね・・・」
と言う私の言葉にみんなも頷いて、とりあえずは事の成り行きを見守る私達だった。
かがみside
慶一くんが八坂さん達を接客し、八坂さん達のテーブルに注文の品を運んだ後入ってきたお客に慶一くんは驚いているようだった。
二言三言、言葉を交わし、慶一くんがそのお客達を席につかせてメニューを渡し、注文を取ってる時にも何かを言われてるようだったのが見て取れた。
何となく浮かない表情をしながら慶一くんがこっちへ戻ってきたので、私は事情を聞いてみようと声をかけた。
「ねえ、慶一くん。今来たお客って慶一くんの知ってる人なの?何やら話し掛けられていたみたいよね?」
私がそう訪ねると慶一くんはなんとも複雑な表情で
「ああ、彼らは俺の出身中学のクラスメートさ、それも前に過去の話をした時の給食費を盗まれた連中だよ。」
慶一くんの答えに私もあの時の話を思い出しながら慶一くんが案内したテーブルの方をちらりと見ると
「あの人達がそうだったんだ・・・でも、どうして今頃現れたのかしらね?」
私が首を捻りつつそう呟くと
「まあ、この学校に来た同じ中学の出身者は俺だけじゃないしな。大方、俺意外のクラスメートに会いに来てそのついでに色々まわってたまたま辿り着いたんじゃないかな?」
そう言う慶一くんの表情はあまりすっきりとしたものではなかったのが少しだけ気になったが、私は慶一くんの受けてきたオーダーを準備して慶一くんに手渡すと
「はい、これ、注文の品上がったわよ?それじゃよろしく。」
そう言って慶一くんを送り出すと、私は向こうを気にしつつ次のオーダーの準備に取り掛かったのだった。
そして慶一くんが彼らのテーブルにオーダーを運んでいった時、そこにこなた達もやってきたのだった。
こなたside
こちらの営業も一段落したので、私はライバル店であることは分かっているのだけど、ついここのケーキが美味しいのでまた食べに来たくなり、みゆきさん達を伴ってやってきたのだった。
なんだかんだで結局慶一君達も来てくれているのだからお互い様だよね、そう自分に都合のいい言い訳をしつつ、今日もケーキに舌鼓を打つつもりだった。
そして、店内に入ると丁度慶一君が6人のお客が座っているテーブルにオーダーを運んできたところだった。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
私達に気付いた店員の1人が声をかけて来たので私は
「3人です。席ありますか?」
そう伝えると店員はにっこりと笑って
「では、こちらへどうぞ」
そう言って私達を丁度慶一君が応対してる客の近くの席に案内してくれた。
私達は席についてメニューを見ながら何を頼むか悩んでいたのだが、ふいに慶一君の応対してる客から声が聞こえてきたのだった。
「お待たせしました。これでご注文の品は全部ですね?ごゆっくりおくつろぎ下さい。」
そう言って次の応対に向かおうとする慶一君を、そのテーブルについてる1人が
「待てよ、森村。お前あの時俺らにかけた迷惑の詫びにしてはサービス悪いんじゃねえか?」
そう言い、その言葉に慶一君は苦笑しつつも
「あの時の事は悪いとは思ってるよ、けど、平等に接してる以上はお前らだけを特別扱いする訳にはいかないんだ。悪いけどな。」
そうやんわりと伝えるのだが、そいつはさらに
「はあ!?なんだそりゃ?お前の俺たちに対する詫びの気持ってのはその程度の物なんかよ?散々俺たちに嫌な思いさせておきながら誠意を見せれない?お前は所詮その程度の人間なんだな?」
彼に絡まれている慶一君は困ったような表情を浮かべて彼の対応に追われていたが、彼の発した言葉は周りの空気を嫌な物に変えつつあった。
そして私達はお互いに顔を見合わせながら
「何?あのお客、慶一君に執拗に絡んでるけどさ・・・何だか見てて気分悪いね。」
「けいちゃん、困ってるね・・・なんであんなひどい事言うのかな・・・」
「話を聞いている限りでは彼らは慶一さんの事を知っているみたいですね・・・」
そう言いながらも何だか腹立たしく思いながら私達はさらに聞き耳を立てていたが彼はさらに
「へっ、お前じゃ話にならねえよ。ここの責任者呼べ。こんな盗人野郎は店員から外しとけって言ってやるからよ。」
その言葉が出た瞬間、私達は思わず大きな声を上げていた。
「ちょっと待ってよ!慶一君が盗人ってどういう事さ!いくらなんでもその言葉だけは聞き逃せないよ!?」
「そうだよ!けいちゃんはそんな事する人じゃない!あやまって!?けいちゃんにあやまってよ!!」
「どのような理由で慶一さんをそのように言うのかは知りませんが、その言葉だけは許せません!」
そう怒鳴りつけると、彼らの話に夢中になっていて気付かなかったのだが、そこにいたゆーちゃん達までもが大声を出していたのだった。
「あの時の一件は先輩のまったくの濡れ衣だったはずだよ!?あんたらもその事知っているはずじゃない!何で今だにそんな事言うのさ!!」
「むしろ疑いが晴れた後も先輩に嫌がらせのように接していた事を謝るべきはあなた達じゃないの!?」
「本当の先輩の姿も知らないで勝手な事ばかり言わないで!?先輩が可愛そうだよ・・・」
「・・・むしろ、先輩の真実の姿ももみようともしなかったあなた方には・・・先輩をどうこう言う理由もないと思います!」
「噂だけで人を判断するあなた達のような人間こそ、もう少し自分を見たほうがいいんじゃないっスかね?」
「森村君はいい子だよ!あんたら勝手な事ばっかり言ってると私が許さないから!」
そして何となく様子を伺いに来ていたかがみたちまでもがこの言動には腹を立てたようで
「いつまでも昔の事をぐちぐちと!もう終わった事にいつまで執着してるつもりよ、あんたら!!」
「あいつは確かに昔暴れたかもしんねー!けどな、今のあいつはその事をちゃんと受け止めてんだ!それを認識した上でお前らに迷惑かけないように自分から色々やってきてたんだぞ!?」
「慶ちゃんは信頼できる人、私達のお友達であり仲間よ!?そして慶ちゃんは私達に嘘偽りのない姿を見せてくれてきた!そんな人をののしるなんて許せないわ!?」
その全員の剣幕に慶一君も、そして、慶一君に絡んだ彼も呆然と私達の方を見ていたのだった。
慶一side
白川と何度かのやり取りをしていた時、白川の俺に対する侮辱の言葉を聞いて何時の間にか来ていたこなた達やこう達、様子を見に来ていたかがみ達までもが白川の言葉に腹を立てて思わず大声で抗議をしたのを俺は驚きながら見ていたのだが、俺よりも少し先に我に帰った白川が
「な、なんだよ、こいつら・・・森村、お前こいつらの知り合いなのかよ?」
その言葉に俺は大きく頷いて
「ああ、そうさ。俺の大事な友達で、そして愛すべき仲間達ってやつだ。それとな、お前の言ってた責任者はそこにいるツインテールの子だよ。俺が気に入らないって言うのならその子に言えばいい。俺はその決定にただ従うだけからな・・・。」
俺がそう言うと白川は気を取り直して
「・・・ふん・・・そうかよ・・・ならそこの責任者さんよ。あんたが話を聞いていた通りだ。こいつを追い出して別の奴に俺たちの接客やってもらえないか?」
その白川の言葉にかがみはキッと相手を睨みつけながら
「・・・残念だけど、あんたの要求は聞けないわ。彼はうちのクラスでの大事な戦力なんだからね?それが気に入らないと言うのならあんたがここを出て行けば?」
そう伝えると白川は気色ばんで
「何だと?こっちは客だぞ!?その客に対して気に入らないなら出てけとかそれが責任者としての台詞なのかよ!!」
その言葉にさらに強い決意でかがみは
「私の仲間を!友達を!侮辱するような輩にお客としていて欲しいなんて思えないわ!むしろそういう人こそ私が客として認めない!!」
そして2人のにらみ合いが起きたのだが、そんな様子を伺っていた白川の連れの5人が
「・・・もういいよ。白川、私達の負けよ。」
「そうね。それに、私達の本来の目的はこうじゃなかったでしょ?」
「そうだよ。俺達がここに来たのは彼とケンカする事じゃない。」
「だから、もう引け、白川。」
「そうそう。そして改めて本当の目的を果たしましょ。」
そう声をかけると、かがみとにらみ合っていた白川が急に態度を変えたのだった。
「・・・ちっ、しゃーないな。すまん責任者さん、騒がせたな。」
その突然の態度の変化に俺はもちろん、周りのみんなも戸惑っているようだった。
そして俺がおそるおそる、その理由について訪ねてみると
「なあ、どういう事なんだ?俺とケンカすることじゃない、本来の目的はそうじゃないってのはさ。」
そう訪ねると5人が俺に
「うん、実はね。この学校に遊びに来たのはうちのクラスから仲のいい友達がここに通っていると言うのもあったんだけどさ。それと共に私達はね・・・・・・君に謝りに来たの。」
「あの時の給食費盗難事件で君は無実の罪を着せられて警察に捕まった。けど真実を知った後も俺たちは君の噂を知っていたのもあったから怖いってのもあって、君に謝る事も出来ずに卒業まで過ごしてしまった。」
「ずっと、気に病んでいたんだ。君を傷つけたかもしれない事を・・・」
「でも、あの後君に何度か係わる事があったけどそのたびに君は何も言わず私達を助けてくれたりした事もあったよね?」
「それが嬉しかったっていうのもあるけど・・・それ以上に散々疑いをかけた僕らに何も言ってこない君がどんな気持でいるのだろうという事がずっと気になってたんだ。」
そしてその後に白川が何となく言いにくそうに
「だから、俺達はみんなで話し合って、この桜藤祭でお前に会って一言謝ろうと思ってな。お前のクラスを探してうろついてたらここに辿り着いた。そしてお前を見つけた俺は、あの時お前に散々ひどい事をした事に対する怒りの気持をあの頃から溜め込んでいた気持をぶつけて欲しいと思ったからあえてお前を挑発したりする行為をしたんだ。けど、お前はあの時同様何も言わなかった・・・どうしてだ?なんであの時もそうだったけど何も言わないんだよ。」
俺はみんなの気持を聞いて少し考えた後
「みんな、ありがとう。俺に対してそう思ってくれる気持はありがたい。けど、俺があの時も今回もみんなに対して、そして今日の白川に対しても何も言わなかったのは、それが俺の、弱い自分が作り出した罪だからさ。自分の境遇を恨み、ぶつけどころのない気持を暴力に転化し、俺は親友を傷つけた、そしてみんなの心にも恐怖を与えた。だからこそ、俺はみんなにそんな目で見られようとも、なんと言われようとも、それが己の罪に対する罰だと思い、あえてその事の全てを受け入れてきた。いつか俺が全ての罪を許される時まで、俺が背負うべき物だったからな。そんな俺だから、お前らには何も言わなかったし、言えなかった。」
その俺の言葉を黙って聞いていた6人は
「そっか・・・君は凄い人だね・・・けど、私は君の罪を許してあげる。だから私達の罪も、許して欲しい。」
「君を散々に言ってきた事、本当にすまない。この通りだ。」
「ごめんね、そしてありがとう。ひどい事を言った私だけどそれでも私に手を貸してくれたこと嬉しかった。」
「すまん・・・君の背負ってる物の重さを今回ようやく認識できた。でもそれにも負けない君がうらやましいとさえ思えるよ。」
「ごめんね。傷つけるような事言ってごめんなさい。」
「・・・悪かった。心から詫びるよ。もっと早くお前の事を知っていればいい仲間になれてた気がするぜ。お前を庇ったあの子らを見てれば分かるよ。だからもうあの事は気にするなよ?」
俺はそんなみんなの謝罪を受けて心に暖かい物を感じながら
「みんな、ありがとう。俺を許してくれて。そして、みんなもどうか気にしないでくれ。俺はもう気にしていないからさ、そして楽しんでいってくれ。俺が初めて出来た仲間たちと創る桜藤祭を、うちの出し物をさ。」
俺がそう言うと6人はようやく緊張を解き笑ってくれたのだった。
そして白川が5人の方を向いて
「よーし、お前ら。今からこの店の売り上げに貢献するぞ?じゃんじゃん注文するんだ、いいなー?」
「「「「「おー!!」」」」」
そして俺の方に向き直ると
「というわけだ。ウエイターさん、注文頼んだぜ?」
親指をびしっと立てて俺に言ってくる白川に俺も笑顔で頷きかえして
「よーし、かがみ、みさお。注文とってくれ。あやの、ケーキの方任せたぞ。こなた達もこう達も楽しんでいってくれ。それじゃ営業再開だ。他のお客さん方、お騒がせして申し訳ありませんでした。引き続き当店をお楽しみください。」
そう言って注文を取ってオーダーを渡しに向かう俺だった。
「ふふ。よかったね、慶一くん。」
オーダーを渡してる時にかがみが俺にそう声をかけてくれたので
「ああ。また一つ心が軽くなった気分さ。それとありがとな、かがみ。俺を庇ってくれてさ」
そうお礼を伝えるとかがみは顔を赤くして
「べ、別に、あんたのためじゃないわよ!あんたがいなくなったら他の人達の負担が増えるからやっただけなんだから!か、勘違いしないでよね・・・」
最後の方は小声になっていたのを俺は苦笑しながら見ていた。
「また一つ終わったな、慶一。」
「よかったね、慶ちゃん。」
その後ろから声をかけてくるみさおとあやのに俺は笑顔で頷いて
「ありがとう。みんなのおかげさ。」
そう伝えると2人は照れた顔で
「へへ。照れるぜ」
「私はただ、慶ちゃんが普段、私達にしてくれるような事を私もしただけよ。慶ちゃんも大切なお友達だしね。」
そう言いながらも笑っているのを俺も穏やかな笑顔を向けて見ていたのだった。
こうside
あの人達の先輩への物言いに腹をたてて思わず怒鳴り込んだ私達だったが、真実を聞かされると一つ先輩の罪が消えたのだと思い、私とやまとは気付いたら涙を流してあの時の思いが報われた事を悟った。
そして、ゆたかちゃんたちも皆一様にほっとした表情を浮かべながら
「そういう・・・事だったんだね・・・なんだ・・・先輩の無償の優しさはあの人達にも届いてたんだじゃない・・・何だか、嬉しいなあ・・・」
「そうね・・・ようやくあの事が報われた気分よ・・・凄く嬉しい・・・」
「よかったですね、八坂先輩、永森先輩。そして慶一先輩も・・・」
「・・・先輩のまっすぐな気持は・・・あの人達の心に届いたんだね・・・よかった・・・」
「何だかまた一つ先輩の事を知れた気分ですね。うーんこれもネタにすべきかな?」
「ひよりん?自重しなよ?」
「わ、わかりましたっスからそんな怖い顔で睨まないで下さいよ・・・」
「青春だねー・・・でも森村君、よかったね・・・」
そう口々に言いながら私達はケーキセットをもう一つ追加注文して楽しんでいたのだった。
こなたside
彼らの真実を知って私達は少しだけほっとした気分だった。
それと同時に、これからもどんどん慶一君の罪がなくなっていけばいいなと思いながら私達は
「よかったね。慶一君嬉しそうだったし。私もちょっと嬉しいかな?」
「けいちゃんの努力が報われた瞬間を見たんだね。何だかすごくいい場面に立ち会えた気がするよ~。」
「彼らもまた、慶一さんに対する罪悪感を持っていたんですね・・・でもお互いに許しあえたのなら、それは素晴らしい事なんだと思いますね。」
「うん。そうだね。それじゃ私達も彼らに謝って、そしてうちの店の売上にも貢献してもらっちゃおうか。」
「こ、こなちゃん、それはちゃっかりしすぎてると思うよ・・・?」
「商魂たくましいですね・・・泉さん。ともあれ私達のお店に戻りましょうか。」
「その前に、このケーキセットを食べてからねー」
最後にそういう私に、つかさとみゆきさんも苦笑を浮かべつつも、同じようにケーキセットを食べていたのだった。
俺が犯してきた罪、それは俺の愚かさから招いた物だったが、みんなと出会い、その一つ一つを確実に消していけてると思う。
そして今日もまた、俺の犯した罪が一つ消えることととなった。
俺はそれを感じながら、これからもまだ残る俺の罪を受け止めながらもそれをみんなと共に乗り越えていこうと改めて思うのだった。