らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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思い出を紡ぐ旋律、第4話~季節はずれの肝試し~

文化祭準備の疲労軽減の為、みゆき、こう、やまとの3人を俺の家に泊まらせて生活するようになってから3日が過ぎた。

 

いよいよもって文化祭の準備も追い込みになろうというところ、準備の遅れている俺達のクラスもそうだったのだが、何故かこなた達のクラスやこう達のアニ研もまた同時期に追い込みと相成り、学校へと泊り込む事になったのだが・・・・・・

 

「なあ、こなた。そろそろ戻った方がいいんじゃないのか?」

 

俺がため息混じりにこなたに言うと、こなたは俺に人差し指を立てながら

 

「だめだよ慶一君。こんなチャンスは2度とないかもしれないんだからね?まだまだ巡る所あるんだから。」

 

意気揚揚と言うこなたにかがみたちも呆れ顔だった。

 

俺達は今、夜の学校内をうろついていた。

 

さかのぼる事1時間前・・・・・・

 

「ふう、やっぱこうなったか・・・」

 

作業用の道具を片手に一息つく俺にかがみも苦笑しながら

 

「スタートの遅れは、やっぱり響いちゃったわね・・・慶一くん、お疲れ様だけど、後もう少し追い込めばなんとかなると思うから。」

 

かがみの言葉を聞きながら何気に時計を見た俺だが、時間は8時を回っていた。

 

この時間まで夕食も摂らずに作業をやり続けていたのもあるが、俺は大分空腹を感じていたのでかがみに

 

「なあ、かがみ。時間も時間だし、一端休憩して夕飯でも食べないか?」

 

俺がそう言うと、かがみも時計を見て少し考え込んでいたが、ふいにおなかに手を当ててさするような仕草をすると

 

「そうね・・・時間的にも丁度いいし、夕食にしましょ?みんなー!一端作業中断ー!これから夕食も兼ねてしばらく休憩を取ります。各自、食事を済ませて少し休んでー!」

 

作業チームリーダーのかがみがそう皆に通達すると、皆も安堵の表情を浮かべて各々夕食を取りに教室を出て行ったのだった。

 

「はあ~・・・腹減ったってヴァ・・・慶一、ナイス提案だぜ。」

「そうね。そろそろ夕食食べておかないと残りがきついわね。」

「はは、お疲れ様だな、みさお、あやの。」

 

俺の側にやってきたみさおとあやのも少し疲れたような顔でそう言ってきた。

 

「この時間だと学食はやってないわよね・・・と、なると、コンビニとかに行って夕食の調達してこないとだめよね・・・。」

 

かがみが顎に手を当てながらそう言いつつ考え込んでいた。

 

「なら、俺が行ってこようか?」

 

そう俺が言うと、考え事をしていたかがみがびっくりして

 

「わっ!び、びっくりした・・・慶一くん、声かけるときは一言いってよ、びっくりするじゃない。」

 

と、俺に文句をぶつけてくる。

 

俺はそんなかがみに苦笑しながら

 

「悪い、考え事してたなんて気付かなかったからさ。それで、どうする?」

 

改めて聞くと、かがみは少し考えた後俺に

 

「それじゃ、お願いしようかな。私はここにいないといけないから、悪いんだけど行ってきてくれる?」

 

かがみの言葉に俺は頷いて

 

「わかった。それじゃ食べたい物を教えてくれ。さっさと行ってくるからさ。」

 

俺がそう言うと、かがみは食べたい物を俺に伝えてきたので、俺はそれをメモしてサイフにしまいこみ、教室を出ようとした時、みさおが俺に声をかけてきた。

 

「慶一、待てよ、私も一緒に行ってやるよ。1人じゃ大変だろうし、今手が空いてるのも私だけだかんな。」

 

そのみさおの申し出を俺は、ありがたく受けることにしたのだった。

 

「じゃあ、よろしく頼む。あやの、みさおと2人で買い出し行ってくるから教室の方はよろしくな。」

 

そう声をかけるとあやのは頷いて

 

「わかったわ。気をつけて行って来てね?」

 

そう言って俺達を送り出してくれたのだった。

 

コンビニへ行ってかがみやあやのから頼まれた物を買い込み、最後にかがみの好きなポッキーもおまけで買ってから俺たちは学校へと戻って行く。

 

その帰りの途中でみさおと軽いやり取りをした。

 

「とりあえず、買い忘れはないな。みさおの方も大丈夫か?」

「ああ。私の方は問題ないぞ?それにしても慶一、お前、そのポッキーは狙ってんだろ?」

「はは。かがみのやつよくこれを食べてたからな。お前こそ俺を責めるような事言いながら笑ってるじゃないか。」

「いやー、想像したらついなー。まあ、これでまたダイエットがどうのとか言い出さなきゃいいけどなー。」

「うーん・・・けど俺から見たらかがみって全然太ってるようには見えないんだがな。」

「まあ、本人が気にしすぎてるだけだと思うけどなー。」

「やっぱそうだよなあ・・・そういやみさおはあんまりそういう事言わないよな?お前はあんまり気にしてないって事か?」

「んー?私は普段から運動してるってのもあるけどさ、正直気にするほど太ってるわけじゃねえしな。」

「ふむ・・・まあ、かがみが聞いたら激怒しそうだな。」

「慶一、私が今言った事は柊には内緒な。ぜってー怒られるし。」

「はは。わかってるよ。おっと、着いたな。」

 

話してるうちに学校へと辿り着いたので、俺達は買出しの物を手に教室へと戻る。

 

「ただいまー。買出し行ってきたぞ。ってあれ?こなた達にこう達もいたのか。」

 

教室にはいつのまにかこなた達やこう達がいたので、俺は皆に声をかけると、俺の声に気付いたこなた達が

 

「あ、慶一君おかえりー。私達も一緒に夕食にしようと思ってさ、こっちの教室に来たんだよ。」

「おかえり、慶一くん、日下部。ご苦労様。」

「けいちゃん、お邪魔してるよ?」

「お疲れ様です、さっそく食べましょうか。」

「慶ちゃん、みさちゃんおかえりなさい。」

「先輩、お邪魔してます。一緒に食べましょうよ。」

「お疲れ様、先輩。お邪魔してるわ。」

 

それぞれに返事してくれたので、俺はみんなの所へ行き、かがみとあやのに頼まれた物を渡し、なおかつかがみにポッキーを渡して、早速食べ始めた俺達だった。

 

ちなみに、ポッキーを渡されたかがみは顔を赤くして慌てていた所をこなたにからかわれるのを笑いながら見ていたのだった。

 

そうして和やかに夕食を済ませて少し休憩していたのだが、ここに来てこなたがとんでもない提案をしてきたのだった。

 

「ねえ、折角夜の学校にいるんだしさ、普段できないような事やらない?この休憩時間にさ。」

 

こなたの突然の言葉に俺は頭にハテナマークを飛ばしながら

 

「普段出来ないような事ってなんなんだよ?」

 

そう聞き返すとこなたはニヤリと笑って

 

「肝試しも兼ねて学校の七不思議の検証してみない?みんなでさー。」

 

その言葉にかがみが訝しげな表情で

 

「肝試しって、あんたねえ・・・そういうのは今やる事じゃないと思うわよ?それに私達は遊びでここにいるわけじゃないって事、忘れてるんじゃないでしょうね?」

 

かがみの指摘にこなたはやれやれというジェスチャーをして

 

「わかってないねえ、かがみ。肝試しは夏!なんてそんな固定概念そのままじゃやりたい事をやる機会を失うよ?それに普段は学校に夜中まで残ってるなんて事出来ないんだし、こういう時しかチャンスなんてないよ?」

 

そのこなたの言葉にかがみ呆れつつ

 

「あんたの言う事にも一理あるとは思うけど、それでも私達は文化祭の準備って物があるんだからさ。」

 

かがみの言葉を聞いてこなたは”ふう”と軽いため息をついた後

 

「なら、みんなにも聞いてみるよ。それで否定されたんなら諦めるから。というわけなんだけどみんなはどう?」

 

そう話を振ってきたので俺達はその問いに

 

「まあ、息抜きにはいいんじゃないか?ここの所根詰めっぱなしだったしな。」

「わ、わたし、怖いのはちょっと・・・」

「・・・ちょっと怖い感じですが、興味もありますね。」

「面白そうじゃん。私はちびっこに賛成だぜ?」

「みさちゃん!まったく・・・私も怖いのは苦手ね・・・」

「面白そうですね。私も行きたいです。」

「ちょっと、こう!あなたも何調子に乗ってるのよ!私達だってまだ準備残ってるのよ!?」

「いいじゃん、やまと。こんな機会めったにないよ?」

「そ、それはそうだけど・・・」

「ひょっとしてやまとも怖かったりするの?」

「なっ!そ、そんなわけないじゃない!わかったわよ、私もいくわよ!」

「だ、そうです。先輩。」

 

意見を聞き終えたこなたは満面の笑みでかがみに

 

「5対3の多数決で決まりだね。かがみ、なにか反論あるかな?」

 

こなたがそう聞くとかがみは渋々と

 

「・・・わかったわよ・・・私も一緒に行けばいいんでしょ?はあ・・・まったく・・・」

 

そう答えるかがみにこなたは

 

「まあまあ、かがみ。こういう事も私達の思い出の一つになるって考えればいいじゃん。というわけで出発しようかー。」

 

この決定に苦笑する者もいたのだが、とりあえず俺達は懐中電灯等を準備して陵桜の七不思議の検証に出かける事になったのだった。

 

まず最初の目的地は星桜の樹だった。

 

「最初は噂の星桜の樹の所だね。ここの不思議は夜中に樹が光るというものらしいんだけどね」

 

こなたの説明を聞きながら俺達は星桜の樹の所までいったが、噂は噂に過ぎなかったようで、特に何もなかった。

 

「やっぱりただの噂ね。夜中にこの枯れ木が光るなんてそんな事ある訳ないものね。」

 

かがみは呆れたように言う。

 

「でも、ほんとに光ってたら怖いよ・・・」

 

早くも怖がっているつかさがそう言うと俺は

 

「まあ、そんな事あるわけないけどな。けど、どこからそんな噂立ったんだろうな?」

 

その俺の言葉にみゆきも首を傾げて

 

「私もよくは知りませんが、何時の間にかそんな噂が立ったらしい、ということだけは聞いた事がありますね。」

 

そう言うみゆきの言葉を聞いた後、こなたは少しがっかりした感じで

 

「まあ、しょうがないよね、それじゃ次いこっかー。」

 

という事で再び動き出した俺達だった。

 

次の場所はどこの学校でも噂だけはあるトイレの花子さんだが、これは今は電気の消えてしまっている奥の校舎の一角にあるトイレだった。

 

薄暗い廊下を懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく俺たち。

 

気がつくと、かがみとつかさ、あやの、やまとが暗闇の恐怖があったのか俺の側に寄り添って進んでいた。

 

「あー・・・4人とも、そんなにくっつかれると動きにくいんだけど・・・」

 

そう声をかけると4人ともびくりとなって

 

「な、何よ、別にいいじゃない。この暗がりじゃ足元こころもとないのよ!」

「ごめんね、けいちゃん。私怖くて・・・」

「慶ちゃんごめんね。やっぱり苦手だから・・・」

「べ、別に怖いわけじゃないわよ・・・」

 

やまとが説得力のない事を言っていたが、俺はそんな4人にただ苦笑するのみだった。

 

程なくして例のトイレに到着した俺達だったが、女子トイレであったがゆえに検証はこなた達に任せる事となった。

 

とりあえず内部を確認しにいったのはこなたとこうとみゆきだったが、結局これもただの噂だったようで、ここにはもう用がなくなった俺達は次の七不思議の検証へと向かった。

 

次の噂は屋上近くの階段で夜中に何故か段数が1段増えて13階段になる不思議な階段だった。

 

ここも例によって電気は消えていて、懐中電灯を照らしながら俺達はゆっくりと階段を上がっていった。

 

「な、なんというか、夜の学校って不気味ね・・・」

 

かがみが身をこわばらせながらそう言う他の皆も

 

「だよねえ、いい雰囲気でてると思うよ。」

「何でこんなに怖いのかなあ・・・」

「そうですね・・・不思議な感じです・・・」

「この雰囲気がいいんじゃねえか?とはいえちょっと不気味だけどな。」

「そういえば慶ちゃんはあまり怖がっていないわよね?どうしてなの?」

「そういえば先輩は一人冷静ですよねえ?中学の頃、私とやまとが学校に忘れ物をして夜中に教室まで取りにいくのに付き合ってもらった時も先輩は何ら平気そうな顔してましたよね?」

「そう言えばそうよね?先輩は怖くないの?」

 

あやのたちの言葉に俺は

 

「んー?特に怖いって事はないな。本物も見た事あるけどそんなに怖いとは感じなかったな。」

 

俺の最後の言葉に凍りつく全員だったが、こなたが

 

「ほ、本物を見たって・・・ひょっとして幽霊?」

 

おそるおそる俺にそう訪ねてきたので俺は頷いて

 

「ああ、そうだ。まあ、もう少し小さい頃だがな。最近は見ないよ。」

 

その言葉に全員が絶句したのだった。

 

俺は、皆の言葉に軽く笑いながら

 

「そもそも普通の幽霊はこっちが何もしなけりゃ害を及ぼす事もないからな。本当に怖いのは悪霊になったやつだからな。」

 

そう言うと、俺のその言葉にかがみは

 

「なんというか、頼もしいわね・・・ねえ、あんたは幽霊がそこにいるとかそういうのは分かるの?」

 

そう聞いてきたので、俺はかがみの言葉に首を左右に振って

 

「いや、残念ながらそういう所まではわからないんだよな。なんとなく、気配のようなものは感じる事はたまにあるけど。それに、今見えなくなってるって事は、もう少し小さい頃にあった霊能力的な物がなくなったんだと思うから。」

 

俺の答えにかがみは考える仕草をして

 

「そっか、それじゃ今のあんたは普通の人と何ら変わらないって事なのね。」

 

その言葉に俺は頷いて

 

「まあ、そういう事だな。けど、もし見えたりしたとしてもそんなに怖くないのは変わらないけどさ。」

 

俺の言葉に皆は感心しているようだった。

 

そんなやり取りをした後、噂の検証を終えて俺達は次の噂の場所へと向かったのだった。

 

「次は音楽室の怪ってやつだね。夜中に勝手にピアノが鳴り出すとかいうあれ」

 

音楽室に向かいながらこなたが軽く説明をしてくれた。

 

「そういうのもよくある噂よね。でも、誰もいない音楽室でそんな事起きたら怖いわよね・・・」

 

体をぶるっとふるわせつつかがみが言う。

 

「まあ、実際そういうのもそうそう起きるもんじゃないさ。」

 

皆を安心させるように言うと、心なしか全員に安堵が広がるのを感じたのだった。

 

そして音楽室に辿り着き早速検証を開始する。

 

ピアノの周り等を見回っている時に誰かが楽器を蹴倒したようで大きな音がでた。

 

その音に驚いて悲鳴が上がる

 

「きゃあああっ!何?何?何なの!?」

「怖いよ~けいちゃん~!」

「ひゃああっ!何が起きたの!?」

「きゃあっ!何!何なのよ!?」

 

一斉に俺に抱きついてくる4人をとりあえず倒れないように受け止めつつ

 

「だ、大丈夫だみんな。誰かが立てかけてあった楽器に足引っ掛けたんだろ。」

 

そう言いつつこなた達の方を見ると、悲鳴こそ上げなかったもののかなりびっくりしてたようだった。

 

そしてばつの悪そうな顔でみさおが

 

「わ、わりい。今の私がやっちゃった。」

 

その言葉と同時に、怒涛のように皆から文句の嵐を浴びせられてしこたま凹んでいるみさおの姿があった。

 

俺はみさおの頭を軽くぽんと叩くと

 

「みさお、どんまいだ。失敗は誰にだってつきものなんだから気にするな。」

 

と、一応慰めた俺だった。

 

結局、音楽室も何もなかったので俺達は次へと移動をする。

 

「なあ、こなた、そろそろ戻った方がいいんじゃないのか?」

 

と、ここで冒頭の状況になったのだが、こなたはまだ納得がいっていないようで

 

「だめだよ慶一君。こんなチャンスは2度とないかもしれないんだからね?まだまだ巡るところあるんだから、まだ諦めないよ?」

 

意気揚揚と言うこなたに俺達は苦笑するしかなかった。

 

その後、校長室の歴代校長の写真の怪とか美術室の幽霊の噂の検証を行ったが結局何事もなく、最初の勢いはどこへやらでこなたは意気消沈といった感じだった。

 

テンションの下がった状態のまま最後の理科室の動く人体模型の検証の為、俺達は理科室に近づいていたのだが、俺は室内に人の気配を感じ取りこなた達に声をかけたのだった。

 

「こなた、ちょっと待て。皆も止まってくれ。」

 

俺の静止の声にみんなも少し驚きつつも止まってくれたので皆に小声で説明した。

 

『誰もいないはずの電気の消えている理科室に誰かいる。こんな時間に、しかも電気もつけずに理科室内に人がいるのはどう考えてもおかしい。何かあるかもしれないからみんな俺の指示通りに動いてくれ。』

 

俺の言葉に皆が怯えたような表情になるのが見て取れた。

 

『ね、ねえ、それって本当なの?まさか幽霊・・・とかじゃないわよね?』

 

怖がりつつ聞いてくるかがみに俺は首を振って

 

『いや、この気配は生きてる人間の物だ。幽霊じゃない。とにかく、不審者なら捕まえなきゃまずい事になるかもしれないから皆、協力してくれ。』

 

俺の言葉に緊張を表情にだしながらこなたが

 

『わ、わかったよ。私達はどうすればいいの?』

 

そう聞いてきたので、俺はみんなに指示を出した。

 

『まず、こう、やまと。お前達2人は左側のドアについていてくれ。みゆきとかがみは右側だ。つかさは危ないからかがみたちと一緒に居ろ。俺とこなたとみさおで室内に入るから俺達が入ったのを確認したらあやのは廊下の電気をつけてくれ。そしてこなた、みさお。お前ら2人は中に入ったら理化室内の電気スイッチの側で待機、俺が指を鳴らす音が聞こえたら電気のスイッチを入れるんだ。いいな?』

 

『わ、わかったぜ』『了解ー』

『大丈夫なの?慶一くん・・・。』

『無理はしないでくださいね・・・。』

『けいちゃん、無事に戻って来てね?約束だよ?』

『慶ちゃん、怪我だけはしないでね。』

『先輩、危なくなったら逃げてくださいよ?』

『先輩、あまり心配はさせないでよ?わかってるとは思うけど・・・』

 

俺はこなた、みさお以外の6人に頷くと、慎重に理化室内へとこなたとみさおを従えて入って行く。

 

あやのは俺の指示通り廊下の電気スイッチの所で待機し、俺達が理化室内に入ると同時にスイッチを入れた。

 

こなたとみさおは理化室内の電気スイッチの側に移動して、かがみ達とこう達も配置についたのを瞬時に見回して確認した後暗がりに向かって声を発した。

 

「・・・おい!いるのは分かってるんだ、いつまでも隠れてないで大人しく出てきたらどうなんだ!?」

 

そして気配のある方へ声をかけた俺は目を閉じて気配の出方を待つ。

 

しばしのにらみ合いにも似た状況を続けていたが、やがて気配の主はこのまま隠れつづけていても無駄だと悟ったのかついに動き始めたのを俺は感じ取っていた。

 

俺の方に徐々に向かってくる気配を感じながら俺は、さっきの打ち合わせどおりに指を鳴らすと、それに反応したこなたとみさおの2人が一斉に室内の電気スイッチを入れたのだった。

 

そして灯りがついた瞬間目を見開き、俺の目の前に迫っている覆面をつけた男が突進してきていた。

 

「怪我したくなければそこをどきやがれ!」

 

そう叫びながら俺に突進してくる覆面男の手にはナイフが握られており、どうやら俺を刺すなりして怪我を負わせつつ逃げようという算段らしい。

 

俺は即座に相手のナイフを持つ腕を蹴り上げた。

 

「甘い!!」

 

俺の気合の声と共にナイフを持つ腕を蹴り上げられた覆面男はナイフを離しはしなかったものの、上に向いた腕はすぐには元に戻らないようだったので、俺は間髪いれずに相手との間合いを詰めると、相手に螺旋の捻りを加えた掌底を突き出す。

 

「螺・旋・掌!!」

 

そんな俺に抵抗を試みた覆面男は、ナイフを持つ腕を俺の顔に向けて突き出してきたのを頬を切らせながら避けつつ、その掌底は男の胴体を捉え、覆面男はうめき声を一つあげるとそのまま気を失った。

 

事の成り行きを心配そうに見守っていた皆が俺の所にやってきて

 

「慶一君、大丈夫!?」

「慶一くん、頬から血が・・・。」

「どうなったの?けいちゃん!」

「大丈夫ですか!?慶一さん!」

「慶一!あっ!ほっぺたに傷が・・・」

「慶ちゃん、しっかり!」

「先輩!大丈夫なんですか!?」

「先輩!よかった・・・本当に・・・」

 

心配する皆をとりあえず落ち着かせて俺はこうとみさおに

 

「みんな、心配かけたけどもう大丈夫だ。それと、こう、みさお。そいつを壁にもたれかけさせるように立たせてくれ。」

 

俺の言葉にみんなはほっとしていたが、俺が男を立たせるように指示すると、みさおとこうは俺の指示通りに壁に持たれかけさせるように男をたたせたのを見て

 

「さてと、意識戻ってから逃げ出されないように今から保険をかけておくから、かがみ、みゆき、それが済んだら職員室行って先生を呼んできてくれ。」

 

俺の保険、という言葉に皆不思議そうな顔で見ていたが、みゆきだけは俺がやろうとしてる事に気付いたようで

 

「慶一さん・・・程々にしておいてあげてくださいね?」

 

というみゆきの言葉に苦笑しながらも頷く俺だった。

 

そして、必殺の4連撃を打ち込む俺。

 

「螺旋連弾四壊!!」

 

あの時と同じように四肢の関節を外してだるまにすると、みんなは俺の繰り出した技に驚いていたのだった。

 

「慶一君、今なにやったの?」

 

そう聞いてくるこなたに俺は

 

「ああ、瞬時に捻りを加えた拳を四肢の関節に打ち込んで関節を外したんだよ、まあ、逃げられないようにするための保険ってやつさ。」

 

俺の言葉にかがみは気の毒そうに相手を見て

 

「まあ、自分がしでかした事とはいえ・・・少しは同情するわね・・・」

 

やれやれというジェスチャーをしながらそう言うかがみに俺は

 

「はは、まあ、犯罪行為をしでかす相手なら仕方がないってやつだな。それじゃ、かがみ、みゆき。先生を呼んでくれ。」

 

俺がそう言うと、2人とも頷いて職員室へと向かって行くのを俺達は見送っていたが、ふいにあやのが俺の頬にハンカチを当ててきて

 

「慶ちゃん、頬の傷、まだ血が止まってないからこれを当てていて?」

 

と言うあやのに俺は慌てながら

 

「あやの、気持は嬉しいが折角のハンカチが汚れちまうよ。俺もハンカチはあるし、それを当てておくからさ。」

 

あやののハンカチを汚す事を気にして俺はそういうのだが、あやのは頑として折れず

 

「だめよ?傷口にバイキンが入ったりしたら大変だもの。」

 

強い口調でそう言ってくるあやのに俺は仕方なく従うのだった。

 

やがて先生達が俺達のいる理化室前にやってきて

 

「森村!一体何があったんや!ちゃんと説明してもらうで!?」

 

その言葉に俺は事のいきさつを話すと

 

「まったく、お前は強いとはいっても無茶しすぎや!お前にもしもの事があったらこいつらが泣くんやぞ!?その事もちゃんと考えや!ともあれ、無事ですんでなによりや、こいつは警察に引き渡しておくさかい、お前らは今日は家に戻り。」

 

黒井先生にそう言われ、俺達は今日は家に帰る事となったのだった。

 

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。後の事はよろしくお願いしますね?それじゃ行くか、みんな。」

 

皆に声をかけてその場を立ち去ろうとする俺に、黒井先生がもう一度声をかけてきた

 

「待ちや、森村。」

 

俺はその声に振り向いて

 

「なんですか?先生。」

 

と声をかけると、犯人を縛り上げた先生が

 

「帰る前にこいつの関節元に戻していき。このまんまで警察に引き渡すわけにはいかんわ。」

 

そう言われ、俺は苦笑しながら犯人の関節を元に戻したのだった。

 

そして、次の日警察の事情聴取と共に俺が学校に侵入した不審者を捕まえた事が広がり、ちょっとした話題を呼んでいた。

 

そしてその日の昼頃に俺は校長室に呼び出されると

 

「森村君。君にお願いがあるのだが。」

 

校長が俺にそう言ってきたので俺は

 

「お願いってなんでしょうか?」

 

そう聞き返すと校長はばつの悪そうな顔で俺に

 

「うちの学校のセキュリティに穴があったという事が今回の事で発覚する事となった。だが、我が校の名誉の為にこの事を表に出されてしまう事を避けたいのだよ。ゆえにこの事実は君の胸の中にしまっておいてくれないだろうか?」

 

そう懇願してくる校長に俺は少し考えた後

 

「その頼みを聞いてもいいですが、一つだけ条件があります。それを聞いてくれるなら今回の事は他言はしませんが、聞いてもらえないのであればどうなっても責任持ちませんよ?」

 

俺の言葉に顔色を変える校長は

 

「条件?君は我々を脅すつもりなのかね?」

 

おそるおそるそう聞いてくる校長に俺は

 

「いやあ、一つだけ可愛い生徒の我侭を聞いてくださればいいんですよ。それだけで今回の事は他言はしませんから。」

 

と、したり顔で言う俺に校長は

 

「とりあえず、君の言う条件とやらを聞かせてもらおう。その上で判断させてもらいたい。」

 

そう言って来たので俺は校長に

 

「それならば。俺が聞いて欲しい我侭と言うのはですね・・・・・・と言う事です、出来ますか?」

 

俺の出した条件を聞いて校長は

 

「ふむ・・・その程度の事でいいというのならその条件飲むとしよう。それじゃこの件はこれで終わりと言う事でいいかな?」

 

俺は満面の笑みで頷きながら

 

「結構ですよ。それじゃ校長先生、くれぐれもよろしくお願いしますよ?」

 

俺の出した条件を守る、と言う約束に念を入れて、俺は校長室を後にした。

 

俺は3年になった時の事を思い浮かべながら、そこに向けての行事を終わらせつつ確実に進んでいこうと改めて気合を入れなおしたのだった。

 


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