らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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蘇る旋律~親友の復活そして、慶一の嘆き 後編~

皆と共に思い出の喫茶店へと行った俺達。

 

そこには親友の瞬達だけでなく、中学時代に係わりを持ち、今回の一件において世話になった氷室もまた、この喫茶店を自らの憩いの場として使っていた事を知る。

 

そして、今回の報酬には割に合わないかも知れないが、とりあえずは氷室にも奢る事になり、俺達はその店でしばらくの時間を楽しむ事になり、それぞれに好きな物を注文してそれを待つ間、ふいにこうが俺に

 

「先輩、覚えていますか?私達が初めてここに来たときの事を」

 

そう言ったのがきっかけとなって俺達のちょっとした過去を話す事になった。

 

こうや、やまとは渋っていたのだが、皆の興味津々な眼差しを見てそして別段隠す事のものでもないと判断した俺は、同じくその時ここに来ることになった事に係わった瞬に話してもいいと言うのだった。

 

かくしてここに俺達4人の過去の話が始まるのだった。

 

「・・・コホン、それじゃ話すとしようか。あれは俺と慶一が中学3年、こうちゃんとやまとちゃんが中学2年の秋頃の事なんだが・・・・・・」

 

皆も知っているように慶一は小学校6年の後半から中学2年の前半くらいまで荒れていた時期があった。

 

学校の皆や教師達もその事を知っていた。

 

だから、中学3年の頃になっても、当時よりは大分慶一に対する風当たりは弱くなりつつあったが、それでも「暴れ者」「不良」そして「悪」そんなイメージが未だに根付いていた。

 

それは俺が慶一と共に成神章の謀略にはまって俺がやつに人質として捕まり、それを助けた慶一が原因で俺の足がこんな風になった事で、その事がさらにあいつに対して悪いイメージを植え付ける要因になっていた。

 

なんとなく事情を察していたこうちゃんとやまとちゃんの2人はそれでも慶一の本当の姿を知っていたがゆえに、他人の慶一に対する悪評を聞くたびになんともやりきれない思いになっていたらしい。

 

「ねえ、こう。どうして先輩は未だに皆から嫌悪の篭った目で見られてしまうのかしら・・・」

「先輩も自分で言っていたけど、先輩自身が自ら引き起こした事が原因だからだという事みたいだね、でもさ、皆には今の先輩の姿を知って欲しいよね・・・」

「そうね・・・そうすればきっと先輩の事わかってもらえるはずよね・・・」

「それまではさ。私達が先輩の側にいて先輩の力になろうよ。」

「それは当然よ。私は先輩から受けた恩を忘れてはいないわよ?」

「それは私もだよ。それに、もう1人、先輩の事をわかってくれる人がいるからきっと大丈夫。」

「先輩の親友と言っていた瞬一先輩の事ね?」

「うん。だから今はさこの3人だけでも先輩の支えになろうって思う。」

 

俺はこうちゃんややまとちゃんのそんな話を偶然にも耳にした。

 

そして2人の元に行って

 

「こうちゃん、やまとちゃん、悪いと思ったけど2人の話、聞かせてもらったよ。君たちの気持は嬉しい。だけど、今のあいつは俺をこんな風にした事を悔やみ、責めて、俺を親友と呼ぶ事すら出来なくなってしまってる。だから今の俺はおおっぴらにはあいつの支えになってやる事はできない。けど、もしあいつの事で何かあれば俺の所に相談に来て欲しい。俺の出来る事なら協力は惜しまないつもりだからさ。」

 

そう伝えると、2人は少しがっかりしたような顔をしつつも

 

「そうなんですか・・・でも、先輩も慶一先輩の事を考えていてくれる事はわかりました。何かの時には相談させてください。」

「それまでは、先輩の側には私達がいるから・・・」

 

2人の思いに俺も頷いて

 

「よろしく頼むよ、2人とも。」

 

そう2人に頼むと2人は力強く頷いたのだった。

 

それから何日かが過ぎた頃、俺は自分の足のリハビリも兼ねて地元の町を散策していた。

 

そうして歩いているうちに、俺は一軒の喫茶店を見つけた。

 

その店の外観や雰囲気に惹かれて、俺は気付くとその店に入っていた。

 

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?こちらへどうぞ。」

 

今も現役で変わらないマスターが俺を出迎えてくれ、俺を席へと案内してくれた。

 

俺はマスターに促されるままに席について店の中を見回してみる。

 

そこに広がる空間は俺にとってもかなり居心地のいい、癒されるような空間がそこにはあった。

 

俺は一目でこの店が気に入った。

 

そして、事あるごとに俺はこの店へと通うようになったのだった。

 

その頃、学校の方では・・・・・・

 

『見て?またあの3人一緒にいるわよ?』

『あの子って確か家が結構有名な八坂さんと永森さんだよな?森村なんかと一緒に居たらあの子ら自身もイメージ落としちゃうんじゃないの?』

『森村君も森村君よね。彼のせいであの2人もイメージ悪くしちゃうかもしれないって事わかってないのかしら?』

『あー、無理だろ?そんな自覚あったらとっくにあの2人を自分の側から離してるだろうさ。』

『無神経なのもこまりものよねえ・・・なんであんな人がうちの学校にいるのかしら・・・』

『あーやだやだ、まったく面倒ごとはごめんだよ、あいつどっかに行ってくれねえかなあ』

 

今日もまた慶一をやっかむ声が聞こえていた。

 

こうちゃんとやまとちゃんも慶一と共にその声をいつも聞かされていながらも、それでも慶一の側を離れなかったのは2人が慶一の本当の姿を知っていたからだったが、この日はついに2人の我慢が限界を超えた。

 

「・・・っ!うるさい!!、何も知らないで勝手な事ばかり言わないでよ!いつもいつも陰口ばかりで、言いたいことがあるならはっきり言ってよ!」

「私達が何をしてようとも、誰と一緒に居ようともあなた達には関係のない事だわ!見た目のイメージだけで先輩を見る事がどれだけあの人を傷つけているのか考えた事なんてないんでしょうね!」

 

それを皮切りにその場で慶一をやっかむ連中と2人との言い合いが始まった。

 

俺はその日は医者によってから学校に来る事になったので、いつもより遅れて学校に入った時、この騒ぎに気付いて俺は2人を止めにいったのだった。

 

「おい、落ち着け2人とも、何があったか知らないが、とりあえず頭冷やせよ!」

 

俺が喧騒に割って入り、両者を止めつつ2人に呼びかけると、2人は一瞬体をびくりと震わせた後、俯いて

 

「ごめんなさい、瞬一先輩、つい興奮してしまいました・・・。」

「慶一先輩の言われようがどうしても我慢できなかったから・・・ごめんなさい・・・」

 

そう言うと2人は教室を飛び出していった。

 

俺は言いあいをしていた連中の方に振り向いて

 

「おい、何を言ったかしらないがな、あいつは俺の親友だ。その親友を悪く言うつもりなら俺もお前らを許さないからそのつもりでいろよ?」

 

そう言ってそいつらを睨みつけて俺は、自分の席へと戻っていった。

 

言われた連中も何か言いたげではあったが、俺の迫力に押されたのかしぶしぶと自分たちの席に戻っていった。

 

俺はふと、教室の窓から慶一が例のお気に入りの場所へと向かう姿を見かけて、ぼーっとその様子を見ていた。

 

あいつはいつも嫌な事や辛い事があると、あの桜の樹の所へ行ってのんびりしてる癖があった。

 

そんな感じであいつが授業をサボる事もあったのだが、教室にいないほうが平和だという理由もあってか慶一のあの行動を咎める教師もあまりいなかった。

 

また、そうやってくさいものには蓋をしようとする教師達の事を慶一自身もわかっていたようで、何も言われないのなら、自分が席を外している事で波風立てずに済むのならということで慶一は進んでこういう行動を取っていたようだった。

 

そして、その日の放課後に俺は慶一のお気に入りの場所へこっそりと足を伸ばしてみた。

 

すると、そこで3人の話し声が聞こえたので俺はとりあえずその話に聞き耳を立てる事にしたのだった。

 

「・・・先輩、いいんですか?いつまでも言わせておいても・・・」

「私は悔しかったわ・・・それでつい言い合いになっちゃって・・・」

「そうか・・・それでさっき教室の方から騒ぐ声が聞こえていたのか。」

「先輩は、悔しくないですか?自分の事が理解されない事を・・・」

「先輩の・・・本当の姿を知ってもらえさえすれば少しは・・・」

「少しは・・・ましになるってか?いいんだよ。今の俺のイメージは俺自身の行動が原因で作ってしまったもんだ。それが俺の罪ならば仕方がない事さ。けどな、俺はこの状況であっても辛い訳じゃないさ。だって俺の側にはこんなに俺を心配してくれるお前らがいるんだしな。だから、言いたい奴には言わせとけ。俺には、俺を信じてくれるお前らのような人間がいてくれるだけで十分だ。」

「・・・先輩・・・。」

「私達はあなたの側にいるわ。これからも・・・」

 

その3人のやり取りを聞いて、これからも俺はあいつらをフォローしてやんなきゃな。と心に改めて誓うと、その場を気付かれないようにそっと離れたのだった。

 

それから数日が過ぎてある日、慶一にとっても危機となる事件が起こった。

 

それはその日の昼休みの事だった。

 

その日は給食費の回収もあり、クラスの全員がそれを持って学校へときていた。

 

そして、慶一はと言うと、タイミング悪く教室を抜け出していつものお気に入りの場所へと行っていたのだった。

 

いざ、給食費の回収となった時、一人の生徒が自分の鞄を見て騒ぎ出したのだった。

 

「な、ない!俺の持ってきたはずの給食費がなくなってる!」

 

その言葉がきっかけで騒ぎが起きたのだった。

 

「よく調べたのか?家に忘れてきたって事はないよな?」

 

その生徒の友人がそいつに訪ねるとそいつは首を振って否定して

 

「それはない!確かに俺は鞄に封筒に入れた給食費を入れたんだ。それに家にも確認の電話を入れたら母さんも俺がちゃんと鞄に給食費を入れていた所を見てるって言ってた。」

 

その答えにざわつき始める教室内だったが、事態はこれだけではなかった。

 

「な、ないわ!私のもない!」

「俺のもだ!俺もちゃんと持ってきたはずだ!誰かが盗んだのか!?」

「俺のもないぞ!」

「私のも!」

 

クラスの約半数の給食費が紛失するという事態になった。

 

その頃、慶一にぶちのめされた成神もその時の傷も癒えて、慶一に恨みを持ちつつも学校へと復学していた。

 

それも要因の一つだったのだが、慶一の悪評も重なって、2人が真っ先に疑われる事となった。

 

だが、この時、成神にはアリバイがあった。

 

教室の片隅にいたところを同じクラスの生徒に目撃されていたからだったのだが、タイミング悪く教室を後にした慶一はアリバイすらはっきりしない状況だったので、疑いの目は必然的に慶一に向く事となった。

 

そして、慶一は事情聴取も兼ねて職員室に呼び出される事となった。

 

俺達はそんな事態を見ながら

 

「瞬一先輩、何かの間違いですよね?慶一先輩はなにもしてませんよね?」

「そんな事あるわけないじゃない!こう、あなた慶一先輩を信じられないの?」

「そうだ、こうちゃん。あいつがそんな事するわけがない。だから俺達はあいつを信じて待とう。」

「あ・・・ごめん、やまと。私先輩の事信じているって言っておきながら・・・なんて事を・・・すみません、瞬一先輩、私ももう一度信じて見守ります。」

 

こうちゃんのその言葉に俺は力強く頷いたのだった。

 

職員室内・・・・・・

 

「森村、正直に言ったらどうなんだ?お前がやったんじゃないのか?」

「先生、何を根拠にそんな事を言うんです?」

「お前だけがその時のアリバイがないんだ。そして、皆から逃げるように例の桜の木の所へ行ったのを見た生徒の証言もある。これだけの状況証拠がありながらお前が何もしてないとは言い難い。それに・・・」

「お前の評判が良くない事も知っているはずだ。何しろお前はうちの中学ではかなりの暴れ者だったからな。疑われるには十分な理由だ。」

「・・・先生達はそれだけの事で俺を犯人と決め付けるのですか?ちゃんと物的証拠も調べてくれなければ納得いきませんし、それに、俺はそんな事をするような卑怯な人間じゃない!」

「・・・物的証拠、か・・・ならこれを見てもそう言いきれるなら反論してみなさい。」

 

そう言って教師が取り出したのは慶一の鞄だった。

 

そしてその中から出てきたのは、盗まれた人数分の給食費の入った封筒だった。

 

そして・・・・・・

 

「こ、これは何かの間違いだ、俺はやってない!絶対にやってない!」

「言い訳は警察で聞こう。仮にもこれは窃盗罪にあたる。そうなっては警察に介入してもらうしかないからな。」

 

学校に警察が呼ばれる事になり、事態は急速に大きな方向へと動いたのだった。

 

突然に学校にやってきた警察、そしてパトカーに乗せられて連れて行かれる慶一を、俺達は信じられないような気持で見て、そして俺達は教師達の所に行き

 

「先生、どうして慶一が警察に連れて行かれるんですか!?」

 

俺の抗議に教師は

 

「どうしてといわれてもね、彼がいなくなった時に給食費の盗難騒ぎがでた。そしてその場にいなかった森村が疑われてなおかつ彼の鞄から盗難にあった給食費が入った封筒がでてきたんだ。そこまでの物的証拠が揃ってしまっている以上はもはや窃盗事件だ。警察に引き渡すのもやむなしだろう?」

 

俺はその教師の言葉が信じられなかった。

 

「そんなはずはありません!何かの間違いだ!あいつは人の物を盗むようなそんな卑怯な人間じゃない!俺が、俺たちが必ず証拠を掴んでみせる!」

 

そう言葉を叩きつけて職員室を飛び出して俺は、2人の元へと向かった。

 

「こうちゃん、やまとちゃん。今慶一が警察に連れて行かれた理由を聞いてきた。実はな・・・・・・」

「そんな!何かの間違いです!先輩はそんな事する人じゃない!」

「そうよ!絶対何かの陰謀があるはずだわ!私達で証拠を掴んで先輩を助けるわ!」

「ああ、このままじゃ腹の虫が収まらないからな。俺もやる。3人であいつの疑いを晴らそう」

 

そう言って頷きあった俺達は、その日から慶一の疑いを晴らすために色々と調査を開始したのだった。

 

慶一が警察から戻るまでの間にどうしても真犯人を見つけたかった俺達は、各所での聞き込みや目撃情報などを集める為に奔走した。

 

そしてなお一層、慶一に対する風当たりが強くなっているのを聞くたびにこうちゃんとやまとちゃんは俺の所に来て悔し涙を流していたのだった。

 

そして、その翌日も聞き込みや目撃情報を探してうろついて帰るときに慶一の悪評を聞き、またも生徒達と激突した2人を連れて俺は、俺の見つけたあの店に2人を落ち着かせる為に連れていったのだった。

 

「瞬一先輩、この店は?」

「なかなかいいだろう。たまたまリハビリで散策してた時に見つけた俺のお気に入りの店でな。お前らを落ち着かせる為に連れてきてみたんだよ。」

「・・・いい雰囲気のお店ね・・・」

「いらっしゃい、牧村君、今日は連れが一緒なんだね?」

「あ、マスター。今日はあのケーキとパフェをこの2人にお願いします。」

「わかりました。それでは少々お待ちください。」

「あの、いいんですか?奢っていただいても・・・」

「なんだか悪い気がするわね・・・」

「気にするなよ。こういう時だからな。甘い物でも食べて元気取り戻そう。」

「・・・ありがとうございます、瞬一先輩・・・」

「ご馳走になるわ。先輩」

「ああ、心行くまで味わってくれ。」

 

そう言って俺は、2人にチーズケーキとミックスパフェをご馳走した。

 

それらを食べて落ち着いた頃、明日の対策を話し合って俺達はその店で別れた。

 

次の日も俺達は証拠探しに奔走していた時、ついに決定的な証言と証拠が見つかる事になった。

 

それは、教室にいたという成神のアリバイを崩す決定的な証言だった。

 

俺はその生徒に話を聞いた。

 

「ああ、成神の居たって所には俺がいたんだよ。あいつその日に俺にお金を渡してきながら俺の言うとおりに動いて欲しいと言ってきてさ、俺はあいつに似た髪形に変えて皆から顔がわかりにくい位置であいつを見たって場所にいたんだよ。あいつはこっそり教室から出て行ったのを俺だけが知ってたんだ。」

 

俺は一つ疑問に思っていた事を聞いてみた

 

「どうして君はその事を言わなかったんだ?」

 

そう訪ねるとその生徒は

 

「あいつはたまに替え玉を使って授業をさぼったりしていたし、今回もまたそれだと思っていたからね、何も怪しいとは思わなかったんだ。それにあいつはクラスでも嫌われ者だからね、自分から進んで係わろうとする人間はいなかったから。だから時たまこうやってあいつの方から俺に持ちかけてくる事があってさ、今回もいい小遣い稼ぎになると思ったからあいつの頼みを聞いて替え玉をやったんだ。」

 

俺はその生徒の証言を録音して証拠として残した。

 

その後、さらにもう1人の証言をこうちゃんが取って来てくれた。

 

しかも、何の因果かその証言をしてくれた生徒は慶一が以前、氷室とのケンカの時に助けたあの生徒だった。

 

こうちゃんは俺が成神の替え玉になっていた生徒から証言を取り終える頃に俺の元にその生徒を連れてきてくれ、俺はその生徒からも証拠になる証言を聞くことになった。

 

「瞬一先輩。もう1人証言してくれる人を連れてきましたよ。」

 

そう言って1人の生徒を引き連れてこうちゃんがやってきたので俺はその生徒の顔を見ると

 

「ん?こうちゃん、本当か?そいつは・・・そうか、まさか君だとは思わなかったな。」

 

俺がその生徒にそう言うとその生徒は俺を見て

 

「森村君の友人だったよね?あの時は助けてくれてありがとう。今回はあの時のお礼とお返しも兼ねて、この事件の犯人らしい奴をたまたま森村君の教室付近で見かけたからその事を伝えたいと思ってね。」

 

その言葉に俺は「詳細を教えて欲しい」と彼に言うと、彼は事件の起きたときの事を思い出しながら

 

「うん。実はあの事件が起こる昼休み前の授業が始まる少し前なんだけど、その頃彼らのクラスは体育で人がいなくなっていた。それと同時に森村君も皆から疎まれる視線を受けながらみんなの前から姿を消そうとしていた所を見ていたんだ。それで、そのすぐ後なんだけど、その後を狙ってこっそりと彼らの教室に入っていく1人の生徒の姿を見たんだ。僕にはそれがなんだか不自然に見えてね。気になったものだからこっそりと教室の外から中を覗いてみると、給食費をなくしたと騒いでいたその生徒達の物と思われる机の側で何やらごそごそやっているのを見てね、さらには森村君の物らしい机の側に行って何かをやっているようだったよ。そうしているうちにそいつは僕に気付いたみたいで慌てて教室から出て行ったんだ。」

 

俺はその証言を聞いてなるほど、と心の中で頷きながら

 

「話は分かった。一つ聞くけど、君はそいつの顔とかは見たのか?」

 

その俺の問いかけにその時の事を必死に思い出しながら考え込んでいた彼は

 

「ごめん、顔ははっきり分からなかったよ。けど、少し特徴的な髪型をしていたのは覚えてる。たしか・・・・・・こんな感じかな?」

 

彼の言う髪形の特徴にピンとくるものがあったので俺は

 

「ありがとう、参考になったよ。俺は慶一を何とか助けたい。ほかに何か気付いた事があったら俺に連絡して欲しい。」

 

そう彼に告げると彼も頷いて

 

「わかったよ。他の皆は彼を疎ましく思っているようだけど僕は彼に救われた時、彼の本質を見た気がするからね。僕も彼のために協力は惜しまないつもりだよ。」

 

その言葉に俺は彼に

 

「ありがとう、慶一もきっと喜んでくれると思う。きっと俺達はあいつを救ってみせるから。君の事も彼に伝えておくよ。」

 

俺のその言葉に彼も力強く頷いてくれたのだった。

 

そうして彼と別れて、さて次はどうするべきかこうちゃんと相談しようとした時、息を切らせてやまとちゃんが飛び込んできた。

 

「瞬一先輩!証拠品になりそうな物が見つかったわ!これよ!」

 

そう言ってやまとちゃんはハンカチにくるんだ一枚の封筒を俺に差し出してきた。

 

「やまとちゃん、これは?」

 

俺がそう訪ねるとやまとちゃんは少し興奮気味に

 

「これは慶一先輩のクラスの子の1人が持っていた給食費を入れてあった封筒よ。誰かがこれを中身だけ出して処分しようとしていたみたいでゴミの処理をしようとしていた慶一先輩のクラスの給食費を盗まれた子達の一人が自分の封筒を見つけたみたいで驚いていたわ。私はその子に頼んで自分の指紋をつけないようにハンカチにくるんでこれをもらって来たの。これにひょっとしたら犯人の指紋がついてるかもしれないわ。」

 

俺は証拠品を差し出すやまとちゃんの頭を軽くなでて

 

「よくやった!やまとちゃん。これを早速証拠品として提出して調べてもらおう。」

 

ハンカチごと封筒を受け取った俺は、その証拠品を持って教室を飛び出そうとしたのだが、それを教室の外で話を聞いていた教師が呼び止めた。

 

「あー・・・張り切っているところを悪いんだがな、それはもう必要ない。」

 

俺達はそんな風に言う教師の態度に腹を立てて

 

「必要ないって、どういう事ですか!あいつを助ける必要はないって事なんですか!?」

「そうですよ、先生!どうして私達の邪魔をするんですか!」

「邪魔はさせないわ!折角証拠がそろったんだから!」

 

そうまくし立てると、教師は俺たちに

 

「落ち着け!そういう事じゃない、まずは話を聞きなさい。」

 

その言葉に頭に上った血を下げながら教師の次の言葉を待つ。

 

「実はさっき警察からの連絡があってね、彼の無罪が確定したから戻ってくるという事なんだよ。」

 

俺は教師の言葉に驚いて

 

「え?どういうことです?一体何があったんですか?」

 

そう問いただすと教師はばつの悪そうな顔をしながら

 

「それなんだが、彼の持っていた封筒と中身の現金に付着してる指紋を調べたらしいんだが、封筒からは彼の指紋がでてはいたものの、中身の現金からは彼の指紋が一切検出されなかったとの事だ。封筒には彼の親の指紋もついていたので事情を聞いた所、彼は封筒を受けとりはしたが、中身には触れていないこともわかったんだよ。」

 

俺はおそるおそる教師に

 

「じゃ、じゃあ、慶一はやっていない、ということになるんですね?」

 

俺の確認するような言葉に教師も頷いて

 

「そういう事だ。それに彼の持っていた封筒の中身のお札の1部から成神章の物と思える指紋が1枚だけ見つかったんだ。彼は森村とはクラスが違う、クラスの違う者の指紋がそのお札についている事は不自然だという事でね、それが更なる決定的な無罪の証拠となったということだ。そして今君達が話していた事が真実だとするならば、ほぼ今回の事件の犯人は成神章で間違いないだろうな。だから、我々は彼に警察へ出頭するように言い、今、引渡しをしてきた所だ。」

 

そう説明し終わった後教師は俺たちに頭を下げて

 

「すまなかった。彼のイメージや素行のみを問題にして彼を犯人とすぐさま決め付けてしまった。そのせいで彼だけでなく、その友人たる君達にも不快な思いをさせてしまったようだ。申し訳ない。」

 

俺はその教師の態度を見て

 

「・・・話はわかりました。ですが、詫びるのなら、慶一に直接詫びてください。心配せずとも、あいつはその程度で先生達を恨んだりはしないでしょうから。」

 

俺の言葉に教師は顔を上げて自嘲の笑みを浮かべながら

 

「・・・君は彼のよき友人なんだな。わかった。彼に直接謝罪しよう。今回の件はこれで終わりだ。」

 

そしてもう一度俺たちに頭を下げると職員室へと戻って行った。

 

俺達はそれを見送った後

 

「~~~!!やったぜ!」

「やっぱり先輩は無罪だった。そうだよ、先輩がそんな事するわけがない!私達は正しかったんだ!」

「私は最初から信じてたわよ。こう、あんたと違ってね。」

「ちょ!やまと!その事ならもう反省したから許してよー。」

「私に言っても仕方ないでしょ?先輩に直接いいなさい。」

「ははは。何にしてもこれで解決だな。慶一が戻ってきたらあの店でパーっと慶一の出所祝いでもやろうぜ?」

「しゅ、出所って先輩・・・」

「人聞き悪すぎよ?先輩。でも賛成。何とか先輩もこれなら無事に卒業できるわよね?」

「うん。きっとできるよ。」

「だな。さあて、レゾンに予約入れとくか、いくぞ?2人とも。」

 

俺が最後にそう言うと2人とも笑って「「はい」」と返事を返したのだった。

 

その後、無事に警察から戻ってきた慶一と一緒にこの店に来て出所祝いをやったんだが、その時によほど慶一が戻ってきた事が嬉しかったのか、こうちゃんとやまとちゃんが大泣きしていたのだった。

 

その後は慶一もその店を気に入り、何かあったりするとその店に必ず立ちようようになっていた。

 

「・・・・・・というわけさ。」

 

慶一side

 

瞬が過去の事を話し終えるとみんなも”ほーっ”と大きくため息をついていた。

 

「なるほど、そんな事があったんだねー。」

「まさか盗みの濡れ衣着せられかけたなんてね・・・」

「よかったよ・・・けいちゃん・・・今ここにいてくれて・・・」

「それにしても・・・また・・・成神章さんが原因なんですね・・・」

「酷い話ね・・・許せないな」

「慶一、そいつぶっとばしちまえばよかったんじゃねーか?」

「まったくですよ!ずるすぎます!」

「・・・けど、結局証拠を残すミスをしたせいで・・・自業自得になったようですね・・・」

「その、まぬけっぷりもネタにはなりそうですねー」

「僕の知らない所でそんな事をしてたとはね、成神章、やはり小物だったようだ。」

 

皆が口々に感想を言うのを聞いていた俺だったが

 

「何にしても、改めて礼を言うよ。瞬、こう、やまと。お前らが俺を救ってくれた事は決して忘れない。」

 

俺の裏で起きていた事を知った俺は、3人に素直に礼を言うのだった。

 

「へっ、まったく手のかかる友人を持つと苦労するぜ」

 

そう言って照れ隠しにそっぽを向く瞬。

 

「あの時にも弁解はしましたけど、ちゃんと先輩の事信じてましたからね?本当ですよ?だから私の言う事も信じてくださいよー」

 

未だ一瞬ではあったが俺を信じきれなかった事を引きずっているこう。

 

「私はいつだって信じてたから。誰かさんとは違ってね。」

 

こちらも顔を赤らめつつそっぽを向きながら言うやまと。

 

そんな3人を友人に持てた事を改めて誇りに思う俺だった。

 

そしてふいにこなたが

 

「ねえ、結局2人のあまり思い出したくない事ってなんだったの?」

 

そう聞くとこうとやまとの2人は途端に慌てだして

 

「な、なんでもないですよ、気にしないで下さい。」

「そ、そうよ。つまんないことだわ。だから気にする必要はないわよ?」

 

そう弁解する2人の様子を見ながら二ヤリと笑った瞬が

 

「それはな。慶一の出所祝いの時に嬉しさのあまりに人目をはばからず2人が大泣きしたのを慶一や俺ばかりではなく他のお客にも見られてしまったからさ。あんなに泣いたのも大勢の人の前で泣くのも初めてだったと2人が言っていたからね。」

 

その言葉に2人は真っ赤になって

 

「しゅ、瞬一先輩!!」

「いじわるよ・・・先輩・・・」

 

そう抗議する2人にこなたが「萌えー」と叫んでいたのだった。

 

俺は思う。

 

俺はこれまでに何度も誰かの心に救われてきたのだと。

 

今回の事も、あの時も、いつも誰かしら自分を思ってくれる人間の存在がある、俺はその事を改めて確信させられる事となった。

 

そして、願うならば今度は俺が皆のために何かが出来たらと、こなた達の騒ぐ姿を見ながら考えていたのだった。

 

余談だが、結局全員に奢って会計を済ませてみるとなんとまた12000円を突破する事態になっていた。

 

みゆきへのプレゼントの事も考えた時、もはや塩粥生活も覚悟せねばならないと情けなく思う俺だった。

 


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