らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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競い合う旋律~体育祭午後の部~

午前中の競技を終えた俺達は、ひとまず昼食を取る為にみんなで集まり、朝にこなた達が作っていたお弁当を広げる準備をしていた。

 

俺は、午前中の自分の競技の結果についてまだ納得がいっていなかったため、その事について未だ考え込んでいたのだが、そんな俺にみゆきが

 

「慶一さん。先程の結果に納得がいっていないのはわかります。ですが、それを引きずってしまえば午後の競技にも響いてきてしまうかと思います。ですから一旦ここで気持ちをリセットされるべきです。次は勝つために、ですよ?」

 

そう言って俺を励ましてくれるみゆきを見て、俺は自分の顔を両手で”パン”と張って気合を入れなおして気持ちを切り替えるのだった。

 

「ありがとな、みゆき。その事に固執してばかりじゃいい結果が残せるわけじゃない。もう大丈夫だ。次に向けて英気を養うとするか。」

 

そう言ってみゆきに笑いかけながらこなた達の用意してる弁当の所へ行く俺達だった。

 

俺のさっきの言葉にみゆきは

 

「いえ、少しでも慶一さんの為になったのならそれで・・・」

 

そう言って顔を赤らめるみゆきに俺は笑顔を返すのだった。

 

「慶一君、みゆきさん、こっちだよー。一応みんなの分も考えてそれなりの量にしてみたけどどうかな?」

 

2人でそんなやり取りをしながらこなた達のところに来た時、そう声をかけられたので俺は広げられた弁当を見ながら

 

「おお、こいつは結構凄いな。本当にご苦労さん、3人とも。」

 

改めてこなた、つかさ、あやのの3人にねぎらいの言葉をかけると、3人とも笑いながら

 

「いやあ、この位かるいかるい。」

「こなちゃんと一緒にがんばったよ?」

「足りないって事はないと思うわ。」

 

そう答えてくれたので、俺たちは改めて皆の所に座り弁当を食べ始めた。

 

「それじゃさっそくいただきます。」

 

そう言って色々なおかずに手をだしつつ、みんなでわいわいやりながら食事を始めたのだが、その後ろでこなたがニヤニヤとしている事に気付かないでいた俺だった。

 

こなたはそーっと俺の横に寄ってきておもむろにおかずを箸で掴むと俺に

 

「はい、慶一君。あーんしてー?」

 

とやってくるこなたに俺は物凄く慌てながら

 

「な、なにやってるんだよこなた!そ、そんなこと恥ずかしくてできるわけないだろ!?」

 

顔を真っ赤にしながらそう言う俺に、なおもこなたは

 

「えー?いいじゃーん。こういう時のお約束シチュでしょー?」

 

そう言いつつも、俺に食べさせようとする行為をやめようとしないこなたに

 

「そ、そうかもしれないが・・・って違う!そういう事じゃなくってだな・・・」

 

そんな2人のやりとりをみながら、他の皆もなんだかうらやましげに俺たちの方を見ていたのだが、いち早くかがみが我に返り

 

「こ、こなた!やめなさいよ、慶一くん困ってるじゃない!?」

 

と、助け舟を出してくれたのだが、こなたはそんなかがみをニヤニヤとした顔で見ながら

 

「んー?かがみんひょっとして羨ましいのー?だったら、かがみんもやってみればー?」

 

と言うこなたの言葉にかがみは顔を真っ赤にしながら

 

「ちょ、ちょっと、こなた!何言ってるのよ、そ、そんな事できるわけないじゃない!だって・・・その・・・け、慶一くんに迷惑じゃない・・・」

 

最後はしどろもどろになりながらもそう言い訳をしつつ、俺のほうを上目使いで見つめてくるかがみを見て、俺も顔を赤くして照れていた。

 

そんな俺の態度に気付いたこなたはさらにニヤニヤとしながら俺に

 

「ほほう?慶一君もまんざらじゃないって感じだねえ?ひょっとしてさっきのやつをかがみにやってもらいたいのかなー?」

 

その言葉にさらに慌てる俺は

 

「ば、ばか!そういう事じゃないって言ってるだろ!?はあ・・・どうしてこういう事になったんだよ・・・」

 

半ば疲れ果てつつ最後はそう呟いていたが、その時聞き覚えのある中年男性の声が聞こえると同時に、物凄い勢いでこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「こらー!!きさまー!うちの娘に何をする気だー!!」

 

そんな声のするほうを振り向くと、朝テレビで見たこなたのお父さんが鬼のような形相で突っ込んできた。

 

「きさま!うちの娘をたぶらかすとはゆるせん!」

 

俺の襟首をつかみブンブンと揺するこなたのお父さんに俺は

 

「ちょ、ちょっと待ってください!たぶらかすとかそんな事してませんよ、だから落ち着いて下さい!こなたのお父さん!」

 

とにかく落ち着かせようと俺はこなたのお父さんにそう言ったのだが、俺が言ったこなたの名前にさらにヒートアップしながら

 

「きさま!こなたの名前まで呼び捨てか!?それに貴様ごときに”お父さん”と呼ばれる筋合いはないわー!!」

 

そんな様子を見ながらこなたは一つため息をつくと俺を締め上げる父親に向かって

 

「おとーさん、慶一君を離してよ。別に私が何をしてもおとーさんには関係ない事でしょ?」

 

と言うこなたの言葉にこなたのお父さんは慌てながら

 

「な、何を言うんだこなた。俺がお前の心配をして何が悪い?お前には変な虫をつけるわけにはいかんのだ!何故それをわかってくれない?」

 

こなたに情けない顔を向けながらそう力説するこなたのお父さんに

 

「おとーさん・・・うざい」

 

と言うこなたの衝撃の一言でこなたのお父さんはその場で石化してしまった。

 

騒ぎを聞きつけた係員さんがやってきてショックで動かなくなってるこなたのお父さんを引き連れて去っていった。

 

「いいのか?こなた。お父さんにあんな事言ってさ」

 

俺はおそるおそるこなたに聞くと

 

「いいんだよ、あれくらいいい薬だよ。それによく知りもしないで慶一君を悪い虫呼ばわりしたんだから。」

 

そんな風に言ってくれるこなたに俺はなんだか少し嬉しくなって

 

「ありがとな、こなた。俺なんかの為に怒ってくれて」

 

照れながらこなたにそうお礼を言うと、こなたも顔を赤らめながら

 

「あはは。お礼を言われちゃうと照れるねー。でも、慶一君。俺なんか、なんていわないでよ。慶一君は”なんか”なんじゃないんだからさ。」

 

こなたの言葉に事の成り行きを見守っていたみんなも

 

「そうよ。慶一くんは悪い虫なんかじゃないわ。」

「けいちゃんは凄く優しい人だから。」

「とても思いやりのある素晴らしい人です。ですからそんなに自分を卑下しないでください。」

「慶ちゃんの事知ってる私達が言うんだから自信持ってよ。」

「そうだぜー?お前のいい所たくさん知ってるんだからさ。」

「私達にとっては大切な人ですしね。」

「失いたくない、そんな価値のある人だわ。」

 

いつのまにか騒ぎを聞きつけてやってきていたこうとやまとも俺にそんな言葉をかけてくれたのだった。

 

俺はみんなの言葉が嬉しくて再び涙腺が緩みそうになる目をこすりながら

 

「はは、みんなありがとう。」

 

そうお礼を言うとみんなも笑顔で頷いてくれた。

 

そんな波乱の昼休みを終えて、いよいよ午後の競技に移っていく。

 

まずはみさおの玉入れからのスタートとなった。

 

みさおは白のチームになった。

 

「みさおー!落ち着いていけよー?」

「よーくカゴを狙うのよー?」

「みさちゃん!しっかりー!」

 

E組の方からも

 

「みさきちー、面白い事期待してるよー!」

「日下部さんがんばって~!」

「一つ一つ確実に決めてくださいね!」

 

という声援が上がっていたが、もはやこの頃になると先生もツッコミを入れる気もなくなったようだ。

 

みさおは苦笑しながらもとりあえず位置につく。

 

そして合図と共に玉入れが始まった。

 

一斉に両チームがカゴに玉をほおりこんで行く。

 

みさおも投げまくっていたのだが、どうもコントロールに難があるようでなかなかカゴに決まる玉がなかった。

 

それでもチームメイトがその分を補いつつ玉をほおりこみ、”止め”の合図がでて競技が終わった。

 

結果は白が後一歩及ばずで敗退だった。

 

「みさお、お疲れ。惜しかったな。」

 

俺はみさおにねぎらいの言葉をかけると、みさおは苦笑しながら

 

「がんばったけど、やっぱ厳しかったぜ。でも手抜きはしなかったから悔いはねーぜ?」

 

そう言って笑っているみさおを俺たちも笑いながら見ていた。

 

そして次の競技はかがみとあやのの走り幅跳びだ。

 

「かがみ、あやの。練習を思い出してしっかりな。」

「柊、あやのー。がんばれよー?」

「かがみ、峰岸さん頑張ってね。」

「おねえちゃん、峰岸さん。がんばれ~。」

「練習のイメージを思い出してがんばってください。」

 

と言うみんなの応援に2人は

 

「まあ、やるだけやってみるわよ。悔いは残さないように全力でね。」

「私もがんばるわ。みんな見ててね?」

 

そんな2人の言葉に俺たちは大きく頷いて見せた。

 

2人が選手の集まってる場所へと走っていくと、さっそく飛ぶ順番が決められたようだった。

 

最初はあやのが行くようだ。

 

スターターの合図とともに助走をしていくあやの。

 

「えいっ!」

 

という気合と共にいいリズムで踏み切りを飛び越える。

 

しかし、空中で少しバランスを崩した為に着地点で尻餅をつく形になってしまった。

 

手をついた場所が計られるので少し後ろ目の計測になった。

 

結果はあやのとしては自己ベストになったようであやのは満足気な顔をしていた。

 

そして次はかがみの番になった。

 

スタート地点で意識を集中するかがみ。

 

かがみside

 

(練習を思い出すのよ、かがみ。利き足を乗せる、後はタイミングよ。さあ、イメージするのよ?)

 

そう頭の中で考えながら私は練習の時のイメージを頭に思い浮かべる、そしてスターターの手が上がる。

 

慶一side

 

スタートラインに立つかがみはかなり集中しているように見えた。

 

これは期待できそうだなと思い、俺はかがみを見守る。

 

みんなも固唾を飲んでかがみのスタートを見守るのだった。

 

そして、スターターの手が上がり、いよいよかがみがスタートラインから動き出す。

 

かがみside

 

ゆっくりと助走を開始する私。

 

徐々にスピードを上げて行き、ジャンプの瞬間に気合を込めた。

 

「おおりゃああああ、だあっ!」

 

気合一閃で飛び出す私。

 

ジャンプのタイミングも感触も最高のものだった、ものだったのだが・・・

 

(きたー!!って・・・ああああ!?)

 

ジャンプの勢いがつきすぎて私は空中でバランスを崩し、顔面から砂場に突っ込んだのだった。

 

慶一side

 

かがみがジャンプした瞬間、いいタイミングでの踏み切りが行った!と思ったのだが、勢いがよすぎてかがみの体制が崩れるのが見て取れた。

 

そしてバランスを崩したかがみは顔面から砂場に突っ込んだのを見て俺たちは顔を手で覆いながら落胆のため息をついていた。

 

しかしこなたはその状況を見て

 

「流石かがみ。砂にまでツッコムか・・・」

 

と呟いていたのを聞いたが、俺はあえて聞かなかった事にした。

 

幅跳びの競技も終わり、かがみとあやのが俺たちのほうに戻ってくる。

 

あやのはかがみを元気付けていたようだが、かがみは凄く納得のいかない顔をしながら帰ってきた。

 

「おつかれ、かがみ、あやの。かがみ、助走と踏み切りのタイミングは悪くなかったぞ?けど、勢いつきすぎちゃったな。」

 

2人にそう声をかけると2人は

 

「私もバランスくずしちゃったから思うような結果になってなかったわね。」

「うう・・・納得いかないよ・・・もう一回やりなおしたい・・・」

 

という2人にみさお以下3人は

 

「あやの、おしかったなー。柊、どんまい」

「峰岸さんお疲れー。かがみ、楽しませてもらったよ?」

「おしかったね、おねえちゃん。峰岸さんもおつかれさま。」

「お2人ともお疲れ様です。」

 

それぞれにねぎらいとからかいの言葉をかけると、2人は複雑な表情で苦笑していたのだった。

 

ふとかがみの顔を見ると、さっきの砂がまだついていたようだったので、俺はタオルを取り出すと

 

「かがみ、まだ顔に砂ついてるぞ?ちょっとだけ動くなよ?」

 

そう言いながら俺はかがみの顔についた砂をタオルで拭い取っていく。

 

かがみはそんな俺の行動に顔を赤くしながらも、俺に身をゆだねて拭き終わるまでじっとしていてくれた。

 

「よし、これでいいな。取れたぞ?かがみ。」

 

俺が拭き終わった事を告げると、かがみはまだ赤い顔のままで

 

「あ、ありがと、慶一くん。それとごめんね?折角一緒に練習してくれたのに・・・」

 

さっきの失敗を気にしているようだったので俺は

 

「確かに失敗しちゃったけど、それでも手は抜かなかったんだろ?なら、それでいいじゃないか。結果はどうあれ、そこだけは胸を張っていいさ。」

 

そう言葉をかけるとかがみは少し気が楽になったようで

 

「うん。ありがとうね?慶一くん。」

 

少し落ち込んだ顔から笑顔になって俺にそう言ってきたのだった。

 

俺もその言葉に笑顔で頷いて応えた。

 

競技もいよいよ大詰め、残すは俺とみゆきのリレーだけだ。

 

まず最初はみゆきが先に走る事になった。

 

「みゆき、バトンタッチの練習を思い出せよ?お前ならできるさ。」

「みゆきさん。いいレース期待してるよ?」

「みゆき、私の分までがんばってね?」

「ゆきちゃんファイト~。」

「高良ちゃん、最後だからしっかりね?」

「高良ー、どんな結果になっても全力でなー。」

 

と言う俺たちの激励にみゆきも笑顔で頷きながら

 

「みなさん、ありがとうございます。それじゃいってきますね?」

 

そう言うみゆきは、俺たちに軽く手を振って選手達の集まる場所へと向かう。

 

そして、第一走者がスタートラインへと立つとグラウンドは軽い緊張感に包まれた。

 

スターターの銃が上へとあがり、一瞬後”パアン”という合図と共にリレーがスタートした。

 

みゆきのクラスは2位につけている。

 

そのままの状況を維持して第2走者へとバトンが渡る。

 

第2走者もなんとか2位をキープしながら第3走者へ。

 

この時点で1位との差は微妙だったのだが、次の第4走者で3位へと転落する。

 

俺たちはその状況を固唾を飲んで見守っていた。

 

「あ、3位になっちゃったよ?」

「これは厳しいかもね。」

「うーん・・・これでこそレースだ!」

「高良ちゃん厳しくなったわね・・・」

「それでも最後まで諦めねーさ。私らだって約束したんだからな。」

 

口々にみんなが話す中、いよいよみゆきがアンカーとして出て来た。

 

みゆきside

 

途中まではなんとか2位で健闘していたうちのクラスも第4走者のところで3位へと落ちてしまう。

 

それをスタートラインに立ちながら見ていた私でしたがそれでも最後まで諦めないと心に誓いながら

 

(私は私の全力を尽くしましょう。それがみなさんとの・・・約束ですから・・・)

 

そう考えつつ私はコースへと出て待機するのでした。

 

慶一side

 

「ゆきちゃん、大丈夫かな・・・」

 

つかさがそう呟くと俺はつかさの頭をぽんと軽く叩いて

 

「大丈夫さ、あいつだって最後まで諦めない。だから見ててやろうぜ?」

 

そうつかさに言い聞かせると、つかさも俺を見上げてコクリと頷くのだった。

 

そして1位、2位にバトンが渡り、一歩遅れてみゆきにバトンが渡る

 

みゆきの力走が始まり、みゆきは一気に2位を抜き去った。

 

そのままの勢いで1位を追走するみゆき。

 

「いけー!みゆき!諦めるな!勝てるぞー!?」

「みゆきさん、がんばれー!!」

「みゆきー!そのままいっちゃえー!」

「ゆきちゃん!がんばれ~!!」

「高良ちゃん!いけるわよ!?」

「負けんなー!高良ー!!」

 

1年生席からも

 

「高良先輩!いけますよ!がんばれー!!」

「けして諦めないで!高良先輩!!」

 

観客席からは

 

「高良先輩ー!!がんばれー!」

「みゆきさん!負けないで!」

「高良先輩!ファイトっす!!」

 

ゆたかたちの声援が飛んだ。

 

みゆきside

 

必死に1位を追走する私に向かってみなさんからの声援が聞こえました。

 

(みなさん・・・負けない!けして最後まで諦めない!ここで全力を尽くします!)

 

そしてさらに加速をする私でした。

 

慶一side

 

俺たちの声援が届いたのかみゆきはさらにスパートをかけてきた。

 

そしてほぼ1位と横並びになりその勢いのままにゴールテープをカットしたのだが、その差はほとんど微妙だった。

 

上がる大歓声とともに結果を待つ俺たち。

 

そして結果は・・・・・・みゆきが1位でのゴールとなった。

 

みゆきがニコニコと笑いながら俺たちのほうへ戻ってきた。

 

「みゆき、お疲れ様。いいレースだったぞ?」

「流石みゆきさん、観客サービスも忘れないねー。」

「みゆき、あんたの根性見せてもらったわよ?」

「ゆきちゃんすご~い。」

「高良ちゃん、流石ね。」

「高良、お前もなかなかやるじゃんか。」

 

そう言いながらみゆきを祝福する俺たちに笑顔で

 

「みなさんありがとうございます。みなさんでした約束をどうやら果たせたみたいですね。それと泉さん、観客サービスって何の事だったのでしょうか?」

 

そう返事をしつつ、こなたのいった言葉には頭にハテナマークを浮かべていたみゆきだった。

 

こなたは適当に笑ってはぐらかしているようだったが。

 

そして最後に俺の番が回ってきた。

 

「いよいよ最後だね。慶一君、見せてもらうよ?」

「さっきの雪辱は果たさないとね。がんばってね?慶一くん。」

「けいちゃん。約束、わすれないでね?」

「慶一さん。今度は勝ちましょう。応援していますね。」

「慶ちゃん。最後までしっかりね?」

「今度は間違っても油断すんなよな?慶一。」

 

俺はみんなの声援に強く頷きながら

 

「ああ、今度は負けないさ。みんな、見ててくれよ?」

 

みんなにそう伝えると俺は選手の集まる場所へと歩いて行くのだった。

 

集合場所へと向かう途中、こうとやまとの2人からも声援が送られた。

 

「慶一先輩、がんばって。」

「先輩、今度は負けないでよ?」

 

そして、観客席の方からも

 

「先輩ー!応援してますからがんばってくださいー!」

「先輩!ファイトです。」

「森村先輩!ドラマを期待してるっスよ?」

 

その観客席の声援に右手を上げて応える俺。

 

そして緊張の中第一走者がスタートラインに立つ。

 

一瞬静寂に包まれるグラウンド、そして緊張が支配する中スターターの銃が上がり一瞬後”パアン”という音と共に飛び出すランナー達。

 

出だしは2位と好調だったが、ここからが波乱の幕開けとなった。

 

第2走者にバトンが渡る頃には3位へと転落し、第3走者へのバトンタッチの乱れで4位へと落ち込む。

 

こなたside

 

緊張の中慶一君の最後のレースが始まったんだけど最初は好調の滑り出しで2位をキープしていたのに第2走者、第3走者にバトンが渡るごとに順位を落としていた。

 

「むう・・・これは中々厳しい展開だね・・・」

 

私は腕組みしながら状況を見守っていると、みんなも不安そうに

 

「ここに来て4位か・・・確かに厳しいわね・・・」

「けいちゃん、勝てるかな?」

「今のままでは、少々厳しいのではないでしょうか・・・」

「途中の連携でもたつきがでてたものね・・・後に響かなきゃいいのだけど・・・」

「むー・・・このままじゃ1位は厳しいかもなー・・・」

 

そう言いあいながら状況を見守っていたが、第4走者に渡る頃には最下位まで落ちてしまっていた。

 

「ああ、ついに最下位・・・こりゃ厳しいってもんじゃないね・・・」

 

半ば絶望感を伴い私は思わずそう呟いてしまっていた。

 

みんなもこの状況に希望を見出せなくなっているのが見て取れた。

 

そして、そんな最中最後のランナーである慶一君がスタートラインへと立つ。

 

状況は絶望的だけど、それでも私はみんなに

 

「みんな、状況は最悪かもしれないけど最後まで私達も慶一君を応援しようよ。」

 

私がみんなにそう持ちかける、とみんなもハッとした顔になって大きく頷いて

 

「そうね、慶一くんは絶対諦めない。だから私達も最後まで応援しましょ?いけー!慶一くん!」

「うん。約束だもんね。がんばれ~!けいちゃん!」

「私達はそれを忘れる所でした。慶一さんの友人としてまだまだですね・・・がんばってください!慶一さん!」

「本人が諦めていないんだもの、私達が諦めたらだめよね。慶ちゃん、最後までしっかりー!」

「ちびっ子に改めて教えられたな。よーし!全力でいけ、慶一ー!」

「慶一君、負けるなー!」

 

みんなでもう一度声援を送る私達だった。

 

1年生side

 

第4走者で最下位まで落ちた慶一先輩のクラスのチームを見て、私達も半ば諦めかけてレースの様子を伺っていたのだが、不意に2年生の慶一先輩のクラスから再び先輩を応援する泉先輩達の声が聞こえた時、私は慶一先輩の方を見てみると、先輩はまだ表情に諦めた様子が見受けられなかった。

 

それを見たとき私はああ、先輩はまだ諦めていない、それなのに私は勝手に諦めてしまった。

 

泉先輩達もそれに気付いたから改めて声援を送ったのだと私は気付いた。

 

私はやまとに

 

「やまと。慶一先輩も泉先輩達もまだあきらめていないよ?私達も最後まで諦めずに先輩に声援を送ろうよ?」

 

その私の言葉にやまとはハッと顔を上げて

 

「そうね・・・まだみんな諦めていない、それなのに私達が早々に諦めたら先輩にも悪いわよね。分かったわこう。」

 

そして私達は2人で

 

「慶一先輩、がんばってください!まだレースは終わってません!」

「まだまだ希望はあるはずよ!?決して諦めないで!」

 

そう言って先輩に声援を送るのだった。

 

観客席side

 

先輩のクラスのチームがどんどん順位を落としていくのを私達ははらはらしながら見守っていました。

 

私達もそんな状況を見ながら複雑な気持ちでいたのだけど・・・

 

「先輩のチーム、最下位におちちゃったね・・・」

「・・・この状況は厳しいね・・・トップは無理でもせめて上位にはいれたなら・・・」

「劇的な逆転狙うにも厳しいよね・・・」

 

そう私達が相談していると、こなたおねえちゃんたちの声や八坂先輩達の声が聞こえてきた。

 

「!?あれは、先輩達の声?」

「・・・みんな・・・あきらめてない・・・私達も・・・最後まで応援するべきじゃないかな・・・?」

「そうだね。それに先輩もまだ諦めていないようだよ?」

 

という田村さんの言葉に私は先輩の方を見てみたら確かに先輩の顔には諦めの色が見えなかった。

 

「私達も、応援しよう。先輩が諦めていないなら私達も・・・がんばれー!先輩!!」

「・・・そうだね。・・・応援しよう・・・先輩!がんばってください!」

「私も諦めないよ?先輩ー!ファイトっス!」

 

私達は先輩にあらん限りの声援を送るのだった。

 

慶一side

 

静かにスタートラインに立ち、最後の瞬間に全力を尽くそうと心を静めているとみんなからの声援が聞こえてきた。

 

俺は声のかかるほうを順番にみながらその一つ一つに頷いて見せたのだった。

 

1位、2位、3位、4位と次々にランナーがバトンを受け取り通り過ぎていく中、俺は静かに最後の力を爆発させる体制をとっていた。

 

そして第4走者からバトンを受け取った瞬間、それを一気に爆発させた。

 

バトンを受け取りその一瞬で4位を抜き去り3位を追走する俺。

 

抜かれた4位は一瞬何が起きたのか分からないという風だった。

 

そのまま物凄い勢いで3位を追走し、最初のコーナーで3位を抜き去った。

 

さらにそのまま2位を追走する俺、その頃にはこの快進撃に大きな声援が送られ始めていたのだった。

 

コース中盤で2位を捉える俺は、そのまま2位を抜き去ると、もはや誰も自分を追走する物がないと舐めきり軽く流す程度の速度で走っていた1位を猛追した。

 

こなたside

 

まさかの展開に私達は目を見張りながらこの状況を見ていた。

 

1位すら絶望的なこの状況から気付けば1位を脅かす所まで慶一君が来ていたのだから当然といえば当然の事だった。

 

私達は我を忘れて慶一君に声援を送る

 

「いけー!慶一君、そのまま1位もぬきさっちゃえー!!」

「慶一くん、そのままいっちゃえー!勝てるわよ!!」

「けいちゃんがんばれ~!」

「慶一さん!もう少しです!諦めないで!」

「慶ちゃん!勝って!」

「慶一、いけ!1位をもぎ取れー!!」

 

そう私達は声援を送っていたが、さらに1年生サイドや観客サイドからも声援が上がる。

 

1年生side

 

私達は今奇跡を見ているようだった。

 

もはや逆転すら不可能な状況だった先輩がいまや1位を脅かすほどにまで迫っていた。

 

その状況に興奮した私達も先輩に声援を送っていたのだった。

 

「先輩!いけますよ!そのままぬいちゃえ!!」

「勝てるわ!先輩!最後までがんばって!!」

 

そして他の生徒達もこの状況に熱狂していた。

 

観客side

 

私達は今目の前で起きていることが現実なのかよく分からずにいた。

 

でも、慶一先輩は1位の人を捕らえようとしている、その状況を見たとき私達は先輩に声援を送っていた。

 

「先輩、いけます!がんばって!!」

「諦めないで!先輩!」

「勝てるっスよ!?いけるっスよ!?先輩ー!!」

 

そしてその他に先輩に声援を送っている声も聞こえていた。

 

「森村君!いっちゃえー!」

「森村君!今度こそ超がんばれー!!」

「いけるわよ!?森村君!」

「力を出し切りなさい!君ならできる!」

 

そしてレースは最高潮に盛り上がる。

 

慶一side

 

全てを出し切る走りでついに1位を捉えた俺だったが気付くとそんな俺の走りに大声援が送られていた。

 

(みんなの声が聞こえる・・・これはやらなきゃ男じゃない!!)

 

そして俺は余力全てをこのスパートにかけてさらに加速をつけた。

 

急に沸き起こった大声援に1位のランナーも異変に気付き後ろを見やると、物凄い勢いで猛追してくる俺に気付いて慌ててスパートをかけた。

 

しかし、その時にはすでに遅く、トップスピードに乗っていた俺はゴールぎりぎりで1位を抜き去りゴールテープを切った。

 

湧き上がる大歓声を受けて俺は力を使い果たし、その場で大の字に寝転んだのだった。

 

みんなが俺の側へ駆け寄ってくる。

 

「おめでとう、慶一君。まさかあそこから1位もぎ取るなんて思わなかった。凄かったよ?」

「凄い走りだったわ。私感動しちゃった。」

「がんばったね。諦めなかったね?けいちゃん。約束守ったよね。凄かったよ~?」

「私も感動しました。慶一さんの底力を見たような気がします。おめでとうございます。」

「慶ちゃん、お疲れ様。まさに奇跡って感じだったわよ?私も感動しちゃったわ。」

「私も予想外だったってヴァ。慶一お前本格的に陸上やってみねーか?」

「慶一先輩、凄かったですよ?私も感動物でした。」

「先輩の力を見せてもらったわ。そして決して諦めない姿勢も。私もみならわなきゃね。」

 

俺は疲れた体ではあったけどなんとか起き上がると、皆ににっこりと笑いながら

 

「ありがとな。みんなの声援も俺に力をくれた。それに約束したしな、絶対に最後まで諦めない、ってさ。」

 

そして、観客席を見ながら立ち上がると、俺に声援をくれたゆたかたちの方に向かって右手を上げて応えると、途端に再び沸き起こる大声援に俺は清々しい表情で手を振っていたのだった。

 

最終的な結果はこなたたちの2年E組の優勝となった。

 

そして閉会式を終えて今年の体育祭は幕を閉じる事となった。

 

全てが終わってみんなで打ち上げをするために俺の家へと向かう俺たち。

 

その帰り際にお菓子やジュースを買い込んで家に帰ると俺たちはその晩遅くまで今日の体育祭の事で盛り上がっていたのだった。

 

競い合う旋律達の戦いは一時終わりを告げる。

 

けれどここで俺たちが得た物はそれぞれに意味のある大きな物だったと思っている。

 

それはこれからの俺たちにも力を与えてくれる物になるだろうと確信していた。

 

そして俺達は次の行事に向けてまた新たな戦いの日々へと突入していくのだった。

 

 


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