体育祭前の自主トレを終えて、いよいよ迎えた本番の日。
果たしてどんな結末を迎えるのだろうか・・・・・・
本番当日は皆、俺の家に泊まりこんでいたのでここから全員で学校へと行こうという話になり、一夜が明けてその日の朝、1階(した)から聞こえるこなたたちの声で俺は目を覚ました。
1階ではこなたたちの楽しそうな声が響いていて、耳をすましてみると今日のお弁当作りと朝食の支度をしているようだった。
俺は1階の状況を確認すると、学校へと向かう準備の為、着替えや持ち物の準備をする。
程なくして準備を終えた俺は、こなた達のいるキッチンへと降りて行くのだった。
「おはよう、みんな。今日はみんなで早起きなんだな。」
そうみんなに声をかけると、こなたが俺のほうに振り向いてウインクしながら
「あ、おはよー、慶一君。今日はお弁当とかいるだろうからみんなで作ってたんだよ。ついでに朝御飯もね。」
そう俺に挨拶を返してきた。
かがみたちも俺の声に振り向きながら
「私は少しだけお弁当のおかず作り手伝ったわ。後、前の勉強会で好評だったお味噌汁もがんばってみたのよ。」
「お弁当は主にわたしとこなちゃんと峰岸さんでがんばったよ。」
「私は朝食の方をがんばらせていただきました。」
「美味しく出来たと思うから、楽しみにしててね?慶ちゃん。」
「私も及ばずながら朝御飯の方がんばってみたぜ。」
と言う皆の言葉に俺もねぎらいの言葉をかけつつ
「そうか。みんな朝早くからご苦労様。とりあえず朝食済ませちゃうか。みんな席に着いてー」
席に着くように促すと、皆も頷きながらそれぞれの席に着いて
「よし、それじゃいただきまーす。」
と号令をかけると、皆も「「「「「「いただきまーす。」」」」」」と言って朝食が始まった。
朝食を取りながら俺は、何気なしにキッチンに置いてあるテレビをつけてニュース番組にチャンネルを変える。
ニュースには昨日の録画取りらしい他の学校の運動会シーンが映し出されていた。
『この秋、一番の陽気となった今日、各地で運動会が開かれます。』
というアナウンサーの声を聞きながら俺達はTVに見入っていると、一人の中年男性がインタビューを受けてる場面が映し出された。
『いやー、娘の応援に来たんですが、こんなに盛り上がるとは思いませんでしたー。いやー、いい写真が取れましたよー。』
とインタビューを受けていた中年男性が言っているのを俺達は何気なしにみていたのだが、不意にこなたが
「おとーさん?娘っていったい、どこの?」
という一言にこの場の空気が凍りついた。
「こ、こなた、今TVに写ってた人のことをお父さん、って言ったか?」
俺がおそるおそる聞くと、皆も半ば唖然としながら
「あ、あれが、こなたのお父さんなの?」
「確かにほくろとか似てる気はするけど・・・」
「と、いいますか、泉さんのお父さんだとして一体何をなさっているのでしょうか・・・」
「泉ちゃんのお父さんて、変わった人なのね・・・」
「てか、ちびっ子が言ってる事がほんとなら、あれってまずいんじゃね?」
口々にこなたにそう言っていたが、こなたはあまり動じてない様子で
「まあ、ああいうお父さんなのだよ。確かにはたから見たらちょっと危ない人かもねえ・・・」
とのん気に言うこなたに俺とかがみは
「「人事のように言うな!お前の(あんたの)父親(おとうさん)だろうが!!」」
と2人同時に突っ込みを入れたのだった。
そんな俺達の突っ込みも軽く流したこなたは俺達に
「あ、そうそう。今日の体育祭にお父さん多分来ると思うから迷惑かけちゃったらごめんねー?」
へらへらとした顔でそうのたまうこなたに俺達は大きなため息をつくのだった。
朝からいきなり疲れる思いをしつつも、俺達は学校へ行く準簿をして家を出る。
皆で一緒に来たおかげで誰一人遅刻する事無く学校に着いた俺達は、それぞれの教室に行って着替え等の体育祭の準備を終えると、開会式があるので俺達はグラウンドへと出て行くのだった。
グラウンドで隣のクラスのこなたたちやこうややまと達と会い声を掛け合う。
「おはよ、こう、やまと。自主トレはばっちりか?」
「あ、先輩。おはようございます。それなりに練習は出来たと思いますよ?先輩達こそどうですか?」
「俺達はやれるだけの事はやったよ。後は本番で力を尽くすだけだな。」
「先輩が出る時は応援させてもらうわね?その代わり私達の方も応援よろしく。」
「ああ、そうさせてもらうよ。今日は悔いのないようにがんばろう。」
「ですね。」
「がんばりましょう。」
「慶一君。ここからはクラス別々だけど練習の成果出してがんばろうね。」
「ああ。お互いにベストを尽くそう。」
「けいちゃんもおねえちゃんも峰岸さんや日下部さんもがんばってね。わたしもがんばる。」
「あんたも最後まであきらめるんじゃないわよ?」
「私も練習の成果を出し切っていきます。みなさんもがんばってください。」
「やれるだけの事はやるわ。」
「私もやるからには全力だぜー」
「よーし、いっちょやるか。みんな、健闘を祈る。」
最後に俺が〆るとみんなも大きく頷いて笑顔でそれぞれのクラスに戻って行くのだった。
開会式も無事に終わり、それぞれの場所に戻っていく最中、俺に声をかけてくる人達がいた。
「慶一先輩、こんにちは。今日はこなたおねえちゃんの応援も兼ねて招待してもらったんですよ?」
「・・・先輩、お久しぶりです。今日はみゆきさんと共に・・・先輩も応援させてもらいますね・・・?」
「先輩、旅行以来ですね。今日は色々と楽しませてもらいますよ?こうちゃん先輩も応援しないとですし。」
その見覚えある3人に驚きながらも俺は笑顔で挨拶をした。
「ゆたか、みなみ、ひより?まさかお前らが来るとは思ってなかったが、いい機会だし陵桜を見ておけよ?学校を雰囲気をそして行事をな。俺達もがんばるから応援してくれよな。」
俺の言葉に3人とも元気に「「「はい!」」」と返事をしたのを見て俺は満足げに頷くと、自分達のクラスの待機場所へと戻って行くのだった。
「慶一くん、どこ行ってたの?もうすぐ競技が始まるわよ?」
待機場所に戻ると同時に最初の競技、パン食い競争に出るかがみが俺と入れ違いで出て行こうとする際に俺にそう声をかけてきた。
「ああ。戻る途中でゆたかたちに会ってな。あいつらも応援に来てくれてるんだよ。受験で忙しいってのにありがたい事だよな。」
ゆたかたちの事を話すとかがみも驚いたような表情で
「へえ?ゆたかちゃん達が来てたんだ。なら私も先輩としてがんばらないとね。」
未来の後輩の応援があると知って俄然張り切るかがみに俺も
「そうだな。まずはトップバッターだからしっかりな、かがみ。」
そう言ってかがみを激励しつつ送り出した。
「分かってるわよ。頑張ってくるわね。」
そう言いながら選手の集合場所へと走っていくかがみだった。
緊張の面持ちで自分の順番を待つかがみ。
そこにこなたがニヤニヤしながら
「優勝しなさ~い。女の子はエレガントにねー。」
そうかがみに声をかけると、かがみはいつもの調子でこなたに
「エレガントなパン食い競争なんてあるか!!」
とツッコミを入れていた。
やがて、かがみの順番が来ていよいよスタートラインに立つ。
俺達はみんなでかがみに声援を送っていた。
「かがみ、落ち着いていけ!練習の成果を見せるんだ!」
「柊ちゃん、がんばって!」
「いけー!柊ー!!」
2年E組の席からも
「かがみー。とりあえずがんばれー!」
「おねえちゃんファイト~」
「かがみさん。がんばってください!」
1年生の席からもこうとやまとが声援を送る
「かがみ先輩!がんばれー!」
「かがみ先輩、落ち着いていけばいけるわ!」
観客席からはゆたかたちが声援を送っていた。
「かがみ先輩、がんばってくださいー!」
「かがみ先輩!ファイトです!」
「柊先輩!がんばってくだいッス!」
例の3人の声援が上がっていたが、予想外の人の声も聞こえてきた。
「かがみー、がんばりなさいよー?」
「私らに恥かかせないようにしなさいよー?」
「かがみ、がんばってー」
「がんばれ、かがみ!」
俺は声のするほうに顔を向けて見て驚いていた。
何故なら、柊一家が応援に来ていたからだ。
俺は苦笑しながら柊一家を見ていて、かがみは声の主に気付くと顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
そしていよいよスタートする。
かがみside
私を応援してくれるクラスメートや後輩達の声が聞こえた。
(みんな応援してくれてるわね・・・あ、慶一くんも私を応援してくれてる・・・よーし、がんばってみよう。って、あれはお母さん達?何でいるのよ!?ああ、恥ずかしい///)
私は顔を真っ赤にしつつスタートを待ったのだった。
「位置に着いて、よーい!」パアン!!
ピストルの合図で飛び出すかがみ達、かがみは他の2人を気合を込めながら引き離しつつ、目標に向かって疾走する。
「どおおりゃあああ!たあっ!」
という気合の咆哮とともにパンに食いつくかがみだったが、ここで勢いがつきすぎたために咥えたパンごと全てをなぎ倒してしまった。
慶一side
その様子を見ながら俺は顔に手をあてつつ「あちゃー・・・」と呟きながらその惨状を見ていた。
他のみんなも驚きを隠せない表情でその様子を見守っていて、柊一家も苦笑とため息の混じった複雑な表情を見せていたのだった。
結局やり直しになりはしたが、文句なしに1位をゲットするかがみだった。
1位は取ったものの、最初のやりすぎに素直に喜べない様子でかがみが戻ってきた。
「おつかれ、かがみ。最初のはまあ・・・勢いつきすぎたけど1位取れてよかったな。」
かがみに祝福の言葉を送るが、かがみは複雑な表情で
「ありがとう・・・でもなんか素直に喜べないのよね・・・」
というかがみに俺も苦笑するしかなかった。
次はこなたとみさおの100メートル走ということなので俺は2人に
「こなた、みさお、がんばれよ?とはいえ、順番がずれてよかったな。100メートル走かち合わずに済みそうだしな。」
そう声をかけるとみさおはこなたを見ながら
「私は別に同じになってもよかったけどな。ちびっ子と勝負すんのもわるくねえなって思ったしなー。」
そんなみさおにこなたは手を振りながら
「いやいや、私が頑張ったとしても現役陸上部員のみさきちにはかなわないよ、きっと。」
謙遜しつつそうみさおに言うこなたにみさおは
「そっかー?私はちびっ子の足の速さには一目おいてるんだぜ?」
何気に飛び出したみさおの褒め言葉にこなたは少し照れながら
「ありがとうっていっておくよ。とにかく私達はそれぞれベストをつくそうよ。」
そんなこなたにみさおも頷きながら「そうだなー。」と言っていた。
そして2人の出番がやってきた。
最初はみさおが走るようなので俺達もみさおに声援を送る。
「みさお、がんばれー!」
「日下部、陸上部の意地、みせなさいよ!?」
「みさちゃん、ファイトー!」
みさおも俺達の送る声援に満面の笑顔とピースサインで答えていた。
みさおside
ようやく私の出番になりスタート位置に行くと、自分のクラスから私に向かって声援が飛んできた。
(柊にあやのも応援してくれてるな。あ、慶一も応援してくれてる、よし、ここは張り切らなきゃな)
そう考えながら私は、柊達の方に向かって満面の笑顔でピースサインを送るのだった。
慶一side
そしてクラウチングスタートの体制で構えてスターターが銃を上にあげる。
緊張感が走り、そして”パアン”という銃の音でみさおたちが一斉にスタートを切った。
50メートル付近までは横一列で走っていたが、そこを超えたあたりでみさおがスパートをかけた。
不意のスパートで他の選手達は反応が遅れ、結局最後までみさおに追いつけないままみさおがトップでゴールに入った。
「みさお!1位おめでとう、いい感じだぞ!」
「日下部!ナイスよ!」
「みさちゃんおめでとう!」
俺たちが声をかけると同時に、クラスのみんなもみさおの健闘をたたえて盛り上がった。
そしてその状況を横目でこなたが見ていたのだが、次はこなたの順番が回ってきたので応援を切り替えた。
こなたをよく見ると、あまり緊張した様子はないようだった。
「こなた、練習の成果をみせろよ!?」
「がんばりなー、こなたー!」
「ちびっ子、私も1位取ったんだからお前も頑張れよなー!?」
「泉ちゃん、がんばってー!」
とこなたを応援していたら桜庭先生から
「お前ら、敵を応援するな!気持ちはわかるがな!」
そんなツッコミが入ったので、俺達はその言葉に苦笑しつつも一時自重する事にしたのだった。
こなたside
ようやく私の順番が回ってきたのだけど、敵のクラスであるはずの慶一君達が私の応援をしてくれていた。
はたから見るとなんともシュールな光景ではあったけど嬉しさはあった。
(かがみやみさきちたち、慶一君も応援してくれてる。ここはがんばってみようかな?)
そう考えつつスタートラインに行く途中で桜庭先生が慶一君達にツッコミを入れている声が聞こえ、私はその様子に苦笑する。
元々そんなに気負っていない私だったけど、慶一君達のやりとりを見てさらに緊張がほぐれるのを感じていた。
そして、リラックス状態のまま、私はスタートラインに立つ。
慶一side
桜庭先生のツッコミをもらった所で俺達はこなたのスタートを緊張しながら見守っていた。
そしてクラウチングスタートの体制に入る選手全員を見てスターターが銃を上にあげる。
一瞬の間を空けて”パアン”という音と共にこなた達の組のスタートとなった。
はいいのだが、やっぱりこなたは速かった。
50メートル付近辺りまでにはすでにこなたはトップスピードに乗っており、そのままの勢いでゴールまで一直線だった。
余裕で1位をゲットするこなた。
「こなた、お疲れ。かなり余裕だったな。」
「まあ、あんたの事はあまり心配はしてなかったけどね。」
「やっぱちびっ子の足は速いぜ、私の見立てに間違いはなかったな。」
「凄いのね、泉ちゃん。私あんなに速くは走れないわ。」
そう言いながら俺達はこなたを迎えたのだった。
こなたは俺達のその言葉に少し照れているようだったが。
こなたの競技が終わり、次は俺の200メートル走の番になった。
「慶一君、いってらっしゃーい。」
「がんばってね?慶一くん。」
「けいちゃんがんばれ~」
「慶一さん、頑張ってくださいね。」
「慶ちゃん、頑張ってね?」
「慶一、お前の実力見せてもらうぜ?」
そんな皆の声援を受けて俺はみんなに大きく頷きながら「それじゃいってくる」と言って選手達の集まってる場所へと向かう。
その途中でこうとやまとの声援も飛び込んできた。
「先輩、がんばってくださいー」
「勝ってよ?先輩!」
こうはいいとしてやまとはなんだか俺にプレッシャーをかけてくれたのを苦笑しつつ、2人に軽く手を上げて応える俺だった。
観客席の方を何気に見ると、ゆたかたちが俺に手を振っているのが見えたので俺も手を振り返して応えた。
さらには「森村君、超がんばれ!」というまつりさんの声援が聞こえてきたのだが、俺はその声援にまたも苦笑する事になったのだった。
そして俺の走る順番が回ってくる。
クラウチングスタートの体制で合図を待つ俺。
スターターの動きを注意深く見守りつつ、神経を集中させていく俺だったが、俺の組に伏兵が潜んでいる事に俺は気付かないままスタートする事となった。
そして緊張の一瞬”パアン”という銃の音と共に飛び出す俺。
100メートルラインまでは横一列で走っていたが、ここで飛び出した選手がいた。
後で教えてもらってわかった事だが、この選手こそ陸上部の短距離専門の選手だった。
一瞬動揺した俺だったが、すぐに追走を開始する。
しかし、相手はすでにトップスピードに乗っていたため、ぎりぎりの所で距離を縮められずそのまま押し切られる結果になった。
結果は2位、まさに俺の油断が招いた2位だった。
相手を舐めきっていた事が俺の油断に繋がった事を今はただ反省する俺だった。
「おしかったね。2位だったけど陸上部の人だし、しょうがないよ。」
「でも慶一くんも負けてなかったわよ。もう少しだったしね。」
「けいちゃん、どんまい」
「本当に残念でしたね。でも次は勝ちましょう。私も頑張りますから。」
「それでも慶ちゃん、かなり速かったわよね?みさちゃん。」
「ああ。慶一も陸上部でもいけるんじゃねえか?って思えたぜ?」
そんな皆の言葉に俺は申し訳ない顔で
「すまない、折角応援してくれたけど俺自身の油断だ。この結果は・・・だけどリレーできっと取り戻してみせる。」
そんな俺の決意にみんなは俺の肩を叩きながら「がんばってね」と励ましてくれたのだった。
午前中の競技は後2つ。
あやのの障害物競走とつかさの100メートルハードルだ。
次はあやのの障害物競走の番だったので、あやのは集合場所へと向かった。
「あやの、怪我しないように頑張れ。」
「峰岸さん、色々と期待してるよ?」
「峰岸、期待はしてるわよ?」
「峰岸さん、がんばれ~」
「峰岸さん、一つ一つ確実に、ですよ?」
「あやのー。ファイトだぜー?」
俺達があやのに声をかけると、あやのもにっこり笑いながら「ありがとう、いってくるわね?」と言いながらスタートを待つのだった。
障害物の概要はこうだ。
走る選手は2人、平均台を渡り、網をくぐり、跳び箱を超えて、ハードルを超えて、最後に小麦粉の中に埋まっている飴を見つけてゴールという感じだ。
そしてあやのの順番が回ってきた。
あやのは緊張の面持ちでスタートラインに立つ。
スターターが銃を上げ一呼吸おいて”パアン”と銃が鳴らされると同時にあやのは飛び出した。
最初の平均台にさしかかりもたつく事無く台に乗ったあやのは上手くバランスを取りながら平均台をクリアした。
そして次の網くぐりに差し掛かる時にあやのに追いついてきた選手と同時に網に飛び込むと、2人して網を動かしている為かなりてこずる展開になっていた。
どうにか網をくぐりぬけはしたが、もう一人の選手に引き離され、あやのはその選手を追走しながら跳び箱に向かうと、軽くこれをクリア。
次のハードルで再びトップに立ったあやのはそのまま飴探しに入る。
少し遅れて選手が来て飴探しを始める頃には、あやのは上手く飴を見つけ出しゴールした。
結果は1位の大健闘だった。
「あやのおつかれ。顔洗って来いよ?」
「峰岸さんお疲れ様、見てて飽きない展開だったよー?」
「ぷぷ、面白い顔ねー。」
「真っ白だね~。」
「競技が競技ですし仕方ないのでしょうけど、とりあえずこれをどうぞ」
みゆきはそう言いながらあやのにタオルを渡す。
「ありがとう、高良ちゃん。みんなもね。」
みゆきからタオルを受け取ったあやのは苦笑しつつもみさおと軽くやりとりをする。
「ともあれ1位だったんだからよかったじゃんか?飴美味いか?」
「もう、みさちゃんたら。みんな、私顔洗ってくるわね?」
そうやってみさおと話した後、あやのは顔を洗う為お手洗いへと向かったのだった。
そして、いよいよ午前中最後の競技、つかさの100メートルハードルの番がまわってきたのだった。
「つかさ、練習を思い出していけよ?」
「つかさー、こっちも色々期待してるよー?」
「失敗しても最後まで諦めちゃだめよ?」
「つかささん。なるべくリラックス、ですよ?ハードルを超えるタイミングを思い出してください。」
「柊妹ー。とにかくベストを尽くせって奴だってヴァ。」
そんな俺達の声援につかさは緊張気味に
「う、うん。とりあえずがんばってみるよ。」
そう言っていたが、まだ硬さが取れていない様子のつかさを見て俺は、大丈夫かな?と心の中で思っていた。
つかさはそのままの状態で選手の集まってる場所へと向かった。
つかさside
(えーっと、ゆきちゃんから教わったハードルを超えるタイミングは・・・1、2、3でだったよね?よーしがんばるぞー)
わたしはゆきちゃんから教わったタイミングを頭の中で反芻しつつスタートを待つ。
そして、スターターの銃が上がりスタートの合図が鳴った瞬間わたしは頭の中が真っ白になったのだった。
とにかく走らないとと思い、ハードルに向かって走って行ったものの、完全に飛び越すタイミングを忘れてしまっていた。
そして、一つ、また一つとハードルを倒していくたびわたしは冷静さを取り戻せなくなっていた。
慶一side
スタートの時、つかさの頭の中が真っ白になったであろうことをここからでも感じ取れていた。
そして、案の定ハードルを超えるタイミングを忘れてしまったようで、ことごとくハードルを倒しながら進んでいくつかさ見ていた俺達だった。
「うーん、ものの見事に全部倒していくね・・・」
「ある意味才能かもね・・・」
こなたとかがみはそんなつかさを見ながらそんなことを言い合っていたが、俺は何とかしてやりたいと思いつかさに大きな声援を送る。
「つかさ!もう一度練習を思い出せ!!失敗しても関係ない、開き直るんだ!もう一度よくハードルを見ろ!まだ半分残ってる、けして諦めるな!あの時にも約束した事を思い出せ、つかさー!!」
俺のその言葉にびくりと反応するつかさ。
つかさside
もう自分でも訳の分からないことになっている状況で、わたしは半ば諦めかけていた。
けど、ふいにけいちゃんの声がわたしに飛びこんできたのを受けて、わたしはけいちゃんの言葉をもう一度反芻する。
(練習・・・そうだ、練習をおもいだすんだよ。もっとよくハードルをみるの。がんばるんだよ、わたし)
その瞬間わたしの動きが変わったのを感じていた。
慶一side
俺のとっさの呼びかけに反応を見せたつかさの動きが目に見えて変わったのが見て取れた。
半分を超えたところからつかさはハードルに引っかかる事無く最後までクリアする事ができるようになっていた。
結果は最下位だったものの、最後まで諦めなかったつかさを俺達は笑顔で迎えたのだった。
「つかさ、よくやったな。順位は最下位だけど最後まで諦めずにがんばれた。えらいぞ?」
「あそこから立て直すなんてやるねー。私も見直したよ。」
「つかさごめん、正直あんたの事信じてなかった・・・姉として失格よね・・・」
「つかささん、最後までよくがんばりましたね。順位以上の成果を出せたと思いますよ?」
「妹ちゃん、すごかったよ。みんなとの約束果たせたね。」
「私も見直したってヴァ。根性あるよな?お前はさ。」
口々につかさを褒める俺達につかさは感極まって涙を流しながら
「ありがとう、みんなありがとう。けいちゃん、あの時声かけてくれてありがとうね?けいちゃんのおかげでわたし、練習を思い出す事できたんだよ?最後まであきらめなかったよ?」
そんなつかさを見ながら俺達は、優しく微笑みながらつかさを見ていたのだった。
午前中の競技はこれでほぼ終了となった。
午後の激戦において俺達は最後まで悔いを残さない一日にしようと改めて思うのだった。