体育祭の出場競技も決まり、俺達は体育祭までの間少しでも鍛えようということになり、それぞれに自主トレをしつつみさおのコーチを受けながら日々を送るのだった。
俺の体育祭までの間の自主トレは走り込み主体で行う事にしたので、みんなで頑張ろうと誓い合ったあの日から俺は、毎朝鷹宮神社と自宅の往復をして走り込んでいたのだった。
鷹宮神社と自宅の往復を決めて走り始めてから6日目の朝、俺はいつものように鷹宮神社へとランニングにでかけ、なかなかのタイムで神社へと到着する。
「はあ、はあ、ふう・・・中々いいペースだったな。今日も好調だ。」
息を整えつつクールダウンをしていると、俺の後ろから声をかけてくる人がいた。
「おはよう、今日もがんばってるみたいだね。感心感心。」
その声に振り向くとそこには柊家の御頭首柊ただおさんがにこにこしながら立っていた。
「おはようございます、ただおさん。競技に出る以上は無様な姿は晒せませんからね、とりあえずやれる所までがんばってみようかと。」
そんな俺の言葉にもう一人声をかけてくる人がいた。
「えらいわねー、森村君。ところでうちのかがみとつかさはどんな様子かしら?」
その人に俺も挨拶を返しつつ現状を話す俺。
「あ、おはようございます。みきさん。とりあえず悔いは残したくないですからね。それと2人ならそれなりにがんばっていますよ。もうすぐここに着くと思います。」
そう返事を返した相手はこれまた柊家の御頭首の奥様、柊みきさんだった。
「なんだか悪いわね。うちの妹2人がいつもお世話になってばかりでさ。」
その後ろからは柊家長女の柊いのりさんが俺に声をかけてきた。
「いえいえ。2人には俺自身も結構お世話になってますし、こういう時に助け合うのも友達として当然ですから気にしないで下さいよ。」
俺の返事にいのりさんはまた感心したような顔になっていて、その横で柊家次女のまつりさんが俺に
「うーん。森村君やっぱいいわー。ねえ、この際だから私と付き合ってみない?私なら歓迎だよ?」
そう言うのだった。
何故かあの時から俺はまつりさんにも気に入られたようで、事あるごとに今のようにからかって?(本気なのかな?)くるのを俺は苦笑交じりに受け流すのだった。
「はあ、はあ、はあ・・・ちょっと・・・まつり・・・姉さん・・・はあ、はあ、・・・慶一くんに・・・変な事・・・はあ、はあ・・・言うんじゃないわよ・・・」
息を切らせながらようやくかがみが到着して、早速まつりさんに突っ込んでいた。
「お?ようやく到着か。お疲れ、かがみ。」
俺が遅れてやってきたかがみにねぎらいの言葉をかけると、まだ息が整いきっていないが、かがみは
「はあ、はあ・・・あ、ありがと・・・はあ、は・・・いいんだけど・・・慶一くん・・・はあ・・・なんで私よりはるかにハイペースで走っていたの・・・にもう・・・はあ、はあ・・・息が・・・はあ・・・戻ってるのよ・・・」
そのかがみの言葉に俺は首を軽く傾げつつ
「うーん?親父のしごきに耐えてきたから?」
そうしれっと答えるとかがみは一気に脱力して
「本当に・・・あんたのとこって・・・どんだけよ・・・」
そう言いながらもようやく息が整ったようだった。
「かがみ。つかさ達は?」
まだこちらに着いていないつかさ達の事が気になり、俺はかがみに尋ねてみた。
「あの子も頑張ってるけど大分遅れてるわね。日下部とこなたがフォローに回ってるわ。みゆき達ももうすぐ着くはずよ?」
かがみの言葉に俺は腕組みをしつつ
「そうか。でもつかさも泣き言を言う割にはよくついてきてるよな。根性は認められるよ。あいつのけして諦めない姿勢はつかさの長所だな。」
そんな俺の感想にかがみもうんうんと頷きながら
「そうよね。特訓しようと言い出して走り込みにも距離的に慶一くんの家から家の神社までが丁度いいってことで慶一くんの家に体育祭まで泊り込んでみんなで練習しようって事になってから最初はすぐに根をあげそうになってたわよね、あの子。でもみんなが一緒だから頑張るって言って諦めないでついてきたっけ・・・。」
そんなかがみの言葉を聞きながら俺は練習を始めた頃の事を思い出していた。
練習初日・・・・・・
「よーしそれじゃ、最初はならし程度でゆっくり行くぞ?みんな。、1、2、1、2で声だしていくぞ?せーの・・・」
「「「「「「「1!2!、1!2!・・・」」」」」」」
しばらく走ると、つかさのペースが徐々に落ち初めてきた。
「つかさ!遅れてるぞ!?大丈夫か!」
俺はペースを落としてつかさにあわせつつ走る。
「つかさ、大丈夫か?」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・く・・・苦しいよ・・・」
「がんばれ。まだ始めたばかりだぞ?」
俺はつかさを励ましつつ、つかさにあわせて走りつづけていた。
そして半分くらいきた頃ついにつかさに限界がきたようだった。
徐々に走る速度から歩きの速度に変わってくる。
そしてついに立ち止まってしまった。
「はあ、はあ、はあ・・・もう・・・もう・・・無理・・・だよ・・・走れ・・・ないよ・・・」
俺もつかさが止まるのにあわせて立ちどまる。
俺達の様子を察したかがみ達がが俺達の方へ走ってくる。
「つかさ、大丈夫?」
かがみがつかさの顔を覗き込みながら聞く。
「・・・・・・」
つかさは無言だった。
こなた達もつかさに声をかける。
「つかさ、大丈夫?疲れちゃった?」
「つかささん。大丈夫ですか?」
「妹ちゃん。平気?」
「柊妹、グロッキーか?」
そんなみんなの声を聞いていたつかさは目に涙をためながら
「ごめんね・・・私・・・また足引っ張ってるね・・・みんなと一緒なら頑張れるって思ったけど・・・結局だめだった・・・ごめんね、ごめん・・・」
ついに泣き出してしまうつかさに俺はどういうべきか考えていたが一つ意を決するとつかさに
「つかさ、つらいか?練習。このままやめるか?みんなに迷惑をかけているから、自分が足手まといだからってこのまま諦めるか?この練習はあくまでも自主トレだ。強制というわけじゃない。やめるのも続けるのもお前の自由だ。でも・・・結局はこれも自分自身との戦いでもある。つかさ、お前はこのままで満足か?自分に負けたまま全てを投げ出して満足か?」
俺の言葉につかさは涙で濡れた顔を俺に向けながら真剣な顔で俺の話を聞いている。
俺はさらに言葉を続けて
「つかさ、誰だって最初はつらいもんだ。こなただって、かがみだって、陸上部でがんばってるみさおだって、あやのもみゆきも、俺だってそうだ。最初は何度も心が折れたりもした。そんな時俺は自分の周りを見た。俺以外の人間がどうなってるのかを見た。みんな苦しそうだった。つらそうだった。こんな思いをしてるが自分だけじゃないんだって思った。そしてつらそうにしてる周りの連中がそれでもなお前へ進もうとしてる、それを見た時、みんなが頑張れる、なら、俺も頑張れるはずだと思えた。そう思えたとき俺は気付いたらみんなと共に再び走り出せていたよ。」
一旦言葉を切って一呼吸置いた後最後の言葉をつかさに投げる
「それとな、つかさ。お前はみんなに迷惑がかかる、足を引っ張る事でみんなに何か言われるんじゃないかって思い、その事を恐れるあまりに自分自身を萎縮させすぎてる所がある。だから自分が本当に言いたい事があってもそれを全部自分の中に閉じ込めて抱え込もうとする。いいんだよ、つかさ。泣き言を言ってもいいんだ。迷惑かけてもいいんだ。俺達には何も遠慮する事はないんだ。何故なら俺達は仲間なんだから。みんなのそれぞれの弱い部分を受け止めてフォローしあえる仲間なんだからだから、お前の言いたい事をさらけ出してもいいんだ。そして頼ってほしい。自分が一人だと思わずにさ。その時は俺達がお前を・・・俺がみんなを・・・助けてやる。」
俺は自分の言うべき事を言い終えると、つかさの答えを待った。
こなた達は俺の言葉に感じるものがあったのか、それぞれつかさに
「つかさ、あんたの弱い所も私は知ってる、けどあんたの支えになることだってできるわよ。フォロー歴16年をなめんな!」
「つかさ、私もだらしないところもあるけどさ、そんな所もさらけ出してみんなに頼ってる。けどみんなに頼りにされた時は私もそれに応えるよ。」
「つかささん。私も弱い所、つらいこともたくさんあります。けどみなさんがそんな私のそう言う部分をフォローしてくれるおかげで乗り越えていく事ができました。つかささんも決して一人じゃないんですよ?」
「妹ちゃん。私も運動はあまりしてない方だから結構つらかったわ。でもみんながいることが私の支えになったの。つらい事があったら私にもいってね?私も助けてあげられると思うから。」
「柊妹ー。あやのの言うとおりだぜ?私も出来る限りフォローしてやるから頑張ってみろよ?」
つかさは黙って俺とみんなの言葉を聞いていた。
俺達の言葉を聞きながら考え込んでいたつかさはふいに顔を上げて
「ありがとう。けいちゃん、みんな。私がんばってみる。また泣き言とか言うかもしれないけど、それでも絶対諦めないから、だから・・・わたしを助けてほしい・・・」
そのつかさの言葉に俺達は満面の笑顔で頷いたのだった。
・・・・・・そして現在。
「あれからつかさも少し強くなった気がするな。」
そんな俺の呟きにかがみも俺に笑いかけながら
「そうね。慶一くんがあの時つかさに言ってくれたことがあったから、なんだろうけど、私も嬉しかったな。あの言葉はつかさに向けたものだったけど、でも・・・私もつかさの事を見て思う所があったしね。ねえ、慶一くん?私の事も助けてくれるのよね?」
そんな風に俺に笑顔で言うかがみに俺はどきりとして少し顔を赤くしながら
「つかさにも言ったけど、あの言葉はかがみにだって言ったようなものなんだし、俺が出来る事なら手を貸すさ。」
かがみと視線を合わせていられなくなり俺はかがみから視線を外してそっぽを向いた。
そんな俺を見ながらかがみは満面の笑みを浮かべていた。
「はあ、はあ・・・かがみだけ・・・助けるってのは・・・はあ、はあ・・・ずるくない?・・・はあ、はあ・・・慶一・・・君・・・」
「はあ、はあ、はあ・・・そ・・・はあ・・・そうだよ・・・けいちゃん・・・はあ・・・はあ・・・」
「はあ・・・はあ・・・その優しさを・・・はあ・・・はあ・・・私達にも・・・分けてほしいです・・・はあ・・・はあ・・・」
「はあ・・・はあ・・・私達も・・・はあ・・・はあ・・・平等で・・・はあ・・・はあ・・・あるべきよね?・・・はあ・・・はあ・・・」
「はあ、はあ・・・慶一は・・・私達には・・・はあ、はあ・・・そういうのなしってのは・・・はあ、はあ・・・ゆるさねえゼ・・・」
他のメンバーも到着したはいいが、かがみに言った事を聞かれてたようだ。
口々に私達も助けろと言ってくる状況に俺は苦笑しながら
「何を言ってるんだよ、そんなのは当然だ。俺はあの時つかさだけじゃなくみんなにもあの言葉を投げかけたんだからな。」
そんな俺の答えにみんなも満足そうな表情で頷いていた。
「さあて、今日が体育祭前の最後の練習だからな。みんな気合入れて最後までがんばろうぜ?」
と号令をかけるとみんなも「「「「「「おー」」」」」」と言って気合を入れなおしていた。
そして俺達の最後の練習が始まった。
「みさお、スタートを見てくれ。」
みさおにスタートのタイミングを見てもらう俺。
クラウチングに構え、1、2、3!でタイミングを計る。
「1、2、3!!」
と同時に地を蹴って前へ飛び出す。
「大分よくなってるぞ?慶一、こっちも才能あるんじゃねえか?」
みさおに褒められて少し自信を持つ事ができた。
「ありがとな、みさお。後は俺は走り込むからつかさたちの方みてやってくれ。」
みさおに他の人の練習を見てやってほしいと言うとみさおも頷いて
「わかった。私は柊妹やあやのを見るから残りの自主トレがんばれよなー。」
そう言ってみさおはつかさたちのほうへと走っていった。
「慶一さん、バトンタッチの練習にお付き合いしていただいてもいいでしょうか?」
俺と同じでリレーに出るみゆきがバトンタッチに不安があるということで俺に練習相手をして欲しいと言ってきたので、俺も同じくリレーに出る立場である以上俺もやっておかないといけないなと思い
「よし、それじゃ一緒にやるか。みゆき、軽く後ろを確認しつつなるべく俺を引っ張りながらバトンを受け取れ。」
そう指示を出すとみゆきも
「わかりました。それじゃ慶一さん、お願いします。」
というみゆきに頷いて位置につき練習をスタートさせる。
「いくぞー、それっ!」
俺はなるべくみゆきとタイミングを合わせるように動くと、みゆきもなかなかの反射神経をみせてくれ、ほぼこちらの指示どおりに動いてくれた。
「はいっ!」
上手くバトンをキャッチするみゆきに俺も
「よし、いい感じだ。そのまま何度か練習しよう。」
そう言うとみゆきも頷き、そのまましばらくバトンタッチの練習を続けていた。
ある程度練習を終えてふとかがみの方に目をやると、幅跳びの練習をしていたのだが、どうも本人はあまりしっくりいっていないように見受けられたので俺はみゆきに
「みゆき、ちょっとかがみの練習を見てくるよ。そのまま自主練しててくれ。」
みゆきにそう伝えるとみゆきも頷いて
「分かりました。こちらはやっておきますのでかがみさんをよろしくお願いしますね。」
そう言ってくれるみゆきに頷いて俺はかがみの方へと向かった。
「かがみ、どうした?あまりしっくりいってないって感じだが?」
何事か考え込み首をかしげているかがみに声をかけると、かがみは俺の方に向き直り
「あ、慶一くん。うん、なんか踏み切りのタイミングがいまいちね・・・」
なんとなく納得がいってない風なので俺はかがみに
「かがみ、俺が見てるからちょっと目の前でやってみてくれるか?」
かがみに一連の動きを見せて欲しいと言うと、かがみも頷いて
「わかった。ちょっとやってみるから見てて?」
そう言ってスタート位置に行くと「いくよー!」と言って助走を始めた。
タッタッタッタットーン!というリズムで飛び出すかがみだったが、俺は飛び出すときのタイミングに違和感を覚えたので
「最後に飛び出すタイミングが微妙におかしい気がするな。飛び出すときに上手く利き足が乗ってない感じだ。それが乗るようになればもっと良くなるはず。」
という俺の指摘にかがみも納得して
「なるほど、それか。わかったわ。そこを意識してもう少しやってみるわね?」
というかがみの答えに俺も頷いて
「がんばれよ?かがみ。それじゃ俺はこなたの方を見てくるから。」
そうかがみに伝えるとかがみは
「わかったわ。私のほうも見てくれてありがとう。こなたはそんなに問題はないかもだけどがんばってね?」
かがみの言葉に俺も頷いてこなたの方へと向かったのだった。
「こなた。調子はどうだ?」
何本か軽く流していたこなたに俺は声をかけてみると
「あ、慶一君。今の所は問題ないかな。私は結構走るの得意だしね。」
というこなたの言葉に感心しながら
「なるほど。こなた、とりあえず俺と軽く何本か流さないか?」
そう提案する俺にこなたも頷いて
「いいよー。それじゃ一緒にやろっか。」
俺達は並んでスタートラインに立ち、俺が”よーい、スタート!”の合図を出して軽く流していく。
何本かやり終えるとこなたは俺に
「いやー、慶一君も結構足速いねー。私も結構自信あるほうだけどちょっと驚いたよ。」
笑いながらそう言ってくるこなたに俺も
「走り込みの成果かもな。基礎体力上げる運動は結構やったからなあ・・・」
そう言いながら親父のしごきを思い出している俺だった。
「まあ、この分なら慶一君の1位姿を見れそうな感じだねえ。」
というこなたに俺は慌てながら
「俺よりも速いやつだっているだろうさ。こなたの言うように1位が取れるとも限らないしな。」
と謙遜する俺にこなたは
「そっかなー?慶一君ならいけるとおもうけどなあ・・・」
そう言いながら、俺が1位を取れると信じて疑わないようだった。
その後はあやのとつかさの練習をみさおと一緒に見たのだが、つかさのハードルに関しては思いのほか苦労する事となった。
とりあえず各々納得できるところまで練習をして今日のメニューを終えて明日の本番に備える俺たちだった。
終わり際にみんなで最後の励ましあいを行った。
「みんな。今日までやれる事はやれたと思う。明日は全力を出し切ろう。」
「練習の成果、出せるようにがんばるよ。」
「悔いは残さないようにやりましょ?」
「みんなと一緒にがんばったから、明日も最後まで諦めないよ。」
「思い出に残る体育祭にしましょう。」
「私も全力をつくすわ。今日までの練習を忘れないようにしてね。」
「私もベストをつくすぜ。明日はみんなで笑おうなー。」
最後のみさおのしめに俺達は「「「「「「「ファイト、オー!!」」」」」」」と最後の気合を入れて今日を終えるのだった。
明日はいよいよ本番、みんなは共に笑って終われるだろうか・・・少しの不安もあった俺達だが、自分を信じて全力を出し切ろうと誓い合うのだった。