らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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旋律達の夏休み1〜海へ、第三話〜

波乱と疲労の一日目が過ぎ、2日目の朝いつもの通り早起きをした俺は、今日もまた海を眺めて目を覚ますために、と海岸へと赴いた。

 

かがみside

 

なんとなく今朝はいつもよりも早く目覚めた私は、とりあえず顔でも洗ってこようかな?と思い早めに部屋を後にしたのだが、洗面所に向かう途中で外に出て行く慶一くんを見かけて、今日はひょっとしたら一番かもしれないと思い、急いで慶一くんの後を追って合宿所を出た。

 

息を切らせながら追いついてみると案の定、今日はみゆきの姿はなかった。

 

私は息を整えながら慶一くんの側へ寄って朝の挨拶をする事にした。

 

「おはよう慶一君。やっぱり起きるの早いわね。」

 

私がそう挨拶をすると、慶一くんは私の方を振り返って笑いながら

 

「おはよう、かがみ。今日はお前が一番だったか。今日もいい朝だな。」

 

と言う彼に私も笑顔を返しながら

 

「そうね。私も今日はなんだか早めに目が覚めちゃったのよ。それで昨日慶一くん達とのんびりしてた時の事を思い出して来てみたの。そうしたら慶一くんがいたから声かけちゃったんだけどね。(なんて、本当は慶一くんの姿が見えたから慌てて追いかけてきたんだけど、恥ずかしいから本当の事はだまっておこうっと・・・)」

 

そう言いつつ、最後の部分を心の中で思いつつ私が説明すると、慶一くんも特に深く追求はせずに私に

 

「なるほど。とりあえずしばらくはのんびりしてようぜ。」

 

と、私から海の方へ視線を移しつつ言う慶一くんに私も頷いて

 

「うん。とりあえず隣座ってもいいかな?」

 

と聞いてみると、慶一くんは「ああ。」と短くだけど返事をしてくれたので私は彼の隣に腰を降ろした。

 

慶一side

 

突然かがみに声をかけられて驚いていた俺だったが、かがみほどしっかりしてる娘ならこういう事もあるかな?と何となく納得できていた俺だった。

 

「とりあえず座ってもいいかな?」

 

と聞いてくるかがみに俺は短く「ああ。」と返事をすると、かがみは俺の隣にちょこんと腰を降ろした。

 

そんなかがみの横顔をちらりと覗くと少し顔を赤くしているように見えた。

 

俺はその事には深く追求はぜず、少しの間そうしていると、かがみは俺に話し掛けてきた。

 

「慶一くんて普段も朝早いのはやっぱり鍛えられたせいだったりするの?」

 

そう話を振って来るかがみに俺は頷きながら

 

「ああ。規則正しい生活もまた大事なんだとか親父に言われてたからね。いつのまにか身についちゃったってところだな。」

 

そう答えると、かがみは納得しつつも腕組みをして考え込んでいるようだったが不意に俺の方を向くと

 

「なるほどね。ねえ、それってさつかさでも早起きできるようになったりするかな?あの娘、朝起きれないのが悩みだっていってたからさ。」

 

そんなかがみの質問に俺も頭を捻りつつ軽くやりとりを始める。

 

「うーん・・・こいつは普段からの生活習慣ってやつが重要だからなあ・・・つかさが起きれないとか眠いとか言ってるのはつかさ自身、変なタイミングで目覚めたりとかしてる可能性はあるかもだけどね」

「変なタイミング?」

「うん。睡眠の周期ってやつさ。大体1時間半ごとにレム睡眠とノンレム睡眠が交互にきてるんだけどその範囲がおかしいとすっきり目覚めなかったりするんだよ。だからその時間を測らせてやってみるしかないかもしれないな。」

 

俺はさらに言葉を続けて

 

「つかさの周期ってやつが分かれば後はそれを目標に起きるように改善していけばおそらく少しはましになるとは思うよ。」

 

俺がそう説明し終わるとかがみは

 

「そうね。慶一くんのアドバイスどおりあの娘にやらせてみようかしら?貴重な意見をありがとう、慶一くん。」

 

かがみが俺にお礼を言って来たので、俺は「まあ、役に立ってくれればいいけどな。」と返事をするとかがみも笑顔で頷いてくれた。

 

俺はかがみに一つ伝える事があったのを思い出したので

 

「かがみ。実は今日の山登りなんだが、山を登るほかにもう一つ目的があるんだ。その事を教えておこうと思ってさ。ちょっと耳貸して?」

 

俺がかがみにそう促すと、かがみは再び顔を赤らめつつ俺に耳を寄せてきたので

 

〈実は山にはね・・・・・・があるんだよ。しかもある程度は自由に取れるから今日の夕食は豪勢にいけると思うぞ?〉

 

そう耳打ちすると、途端にかがみの顔がものすごい笑顔になっていくのが見て取れた。

 

かがみは少し興奮気味になりながら

 

「慶一くん!それ、ほんとなのね!?嘘じゃないのよね!?嘘だったら酷いわよ!?」

 

と言うかがみに少し気圧されながらも俺は頷いて

 

「嘘じゃないって。だから楽しみにしててくれ。」

 

親指をびしっと立ててかがみにそう言うと、かがみは「うんうん!」と頷いていた。

 

「よし、それじゃ朝飯に戻るか。持ち物確認したら出発だからかがみも抜かりないようにな。」

 

そうかがみに言うとかがみも頷きながら「わかってるわ。とりあえず朝御飯食べて準備しちゃうから。」

 

2人して頷きあった後、俺達は朝御飯を食べに宿泊施設へ戻っていった。

 

施設に戻り朝御飯を食べると早速山チームの面々を集めて荷物等の最終チェックを行った。

 

俺は山チームの面々を見回しながら

 

「準備の方はできたか?俺達は海チームより先に出る事になるから今のうち忘れ物がないかどうか確認しておいてくれよ?」

 

そう促すと、みんなは自分の持っていく荷物の最終確認をし始めた。

 

俺はみんなが最終確認を行っているうちに、海チームの付き添いの3人に声をかけに行っておく事にしたのだった。

 

「黒井先生、ゆいさん、親父。海チームの面々の面倒、よろしくお願いします。」

 

俺がそう声をかけると3人は

 

「おう、こっちはまかしとき。森村も無茶な事はしちゃあかんで?」

「こっちは私達がついてるから大丈夫だよー。でも、何かあったらかならず連絡を入れること、いいね?森村君。」

 

そう言ってくる2人に俺も頷きつつ

 

「わかってますよ。黒井先生、ゆいさん。何かまずい事が起きたりしたら即連絡を入れますから、とりあえずちゃんと電話つながるようにしておいてくださいよ?」

 

そう念を押しておくと、2人も「わかってるから心配せんでもええ。」「抜かりなくしておくから大丈夫。」

 

と、自信満々に言ってくれたその言葉をとりあえずは信用する事にした。

 

最後に親父が俺に

 

「慶一、あの山へいくのだろ?土産は期待してるぞ?今年も大分成長してるはずだからな。夕飯は豪勢にいくのもよかろう。」

 

うんうんと頷きながら言う親父に俺も

 

「ああ、わかってる。まあ、期待しててくれ。それと黒井先生達にはまだ内緒にしておいてくれよ?びっくりさせたいからさ。それと、こなたたちに何事もないようにボディガードも任せるからな。」

 

そう親父に言うと親父も

 

「大丈夫だ。心配せずに行って来い。それとボディガードは引き受けるからそっちも安心するがいい」

 

と言ってくれたので、俺も安心して山チームへと戻っていった。

 

山チームに戻る途中でこなたと会ったのでこなたに

 

「こなた。今日も楽しんできてくれ。俺達は山へ行くけど、ちょっとしたお土産持ってこれると思うから楽しみにしといてくれよ?それと海のほうではあまり無茶はしないようにな。」

 

そうこなたに言うと、こなたは、お土産の部分に反応したようで

 

「うん、楽しんでくるよ。それとお土産って何なのかな?すごく興味あるんだけど」

 

そんなこなたに俺も笑いながら

 

「ははは。しいていうなら食べ物さ。夕食時にはこなたにも腕ふるってもらうつもりだから期待しててくれ。」

 

こなたにそう返事すると、こなたも「わかったよー。」と言いながら俺に手をふって部屋へと戻っていった。

 

俺はその後、ゆたかたちとも行き会い、ゆたかたちにも「楽しんでこいよ?」と伝えてから山チームの面々の元へ戻っていった。

 

「慶一くん遅いわよ?もうみんな準備オーケーなんだからそろそろ出発しようよ。」

 

朝にかがみに教えた事が気になってるようで、かがみはなんだか落ち着きがなく、また嬉しそうな顔をしながら俺に出発を促していたが、その様子が気になったみさおが俺に

 

「なあ慶一、柊は何であんなに嬉しそうなんだ?」

 

と言って来たので、俺はみさおの背中をぽんと一つ叩いて

 

「それは向こうに着いてからのお楽しみだ。」

 

そう言った後、皆の方を向いて

 

「それじゃ山チーム出発するぞー」

 

と、皆に声をかけると、皆は「「「「「おー!」」」」」と答えて俺たち山チームは出発したのだった。

 

しばらく海岸に沿って歩き、山の入り口へと向かいながら軽い雑談を楽しみつつ進んでいく俺達。

 

「山自体はそんなに高い山じゃないんだな。」

 

山の方を見ながらみさおが見た感じを口にすると

 

「そうみたいですね。慶一さんが余り時間はかからないと言っていた意味がわかります。」

 

そのみさおの感想にみゆきが答える。

 

「でも、海に来て山登りまで出来るなんて思ってなかったわね。」

 

そう、楽しそうに言うあやのにかがみも頷きながら

 

「そうよね、そう考えると結構贅沢な旅なのかもしれないわよね。」

 

そう口にしていた。

 

「先輩、合宿所って言うくらいだから、やっぱり施設の近くにあるこの山も鍛えるのに使っていたって事なのかしら?」

 

やまとが何気なく疑問に思った事を俺に尋ねてきたので俺はその言葉に頷くと

 

「そういう事さ。山篭りするためにあの山を使っていたって所だよ。懐かしいよなあ・・・」

 

やまとの疑問に答えつつ俺も、合宿をしてたころの事を思い出しながら思い出にふけりつつ、さらに言葉を続けて

 

「鍛える為に使いはしたけどそれだけじゃない物もあの山にはあるんだ。だからみんなを誘ったっていうのもあるんだけどな。」

 

やまとはふと、昨日俺が言ってたことを思い出したらしく

 

「先輩が言っていた絶景ポイントとかかしら?」

 

やまとの言葉に頷きつつ

 

「それもあるが、あとは山の幸なんかもあったりするのさ。しかもとびきりのやつがね」

 

笑いながら言う俺の言葉に今度はみさおがにやにやとしつつ

 

「山の幸って事は食べ物って事だよな?そうか、柊が嬉しそうな理由はそこにあったんだな?」

 

かがみの方を見ながらそう言うと、かがみは顔を真っ赤にしながら

 

「う、うるさいわね!別にいいじゃない!それにあんただってきっと驚くわよ!」

「ほーう?そんなにいいものなのか?一体何なのか言ってみ?」

「う、そ、それは・・・」

 

かがみはみさおの突っ込みに思わずたじたじになり、俺の方を向いてどうするべきかという視線を向けてきていたが、俺は黙って口元に人差し指を立てて”シー”というジェスチャーをすると

 

「と、とにかく着いてからのお楽しみよ!今言っちゃったら楽しみが減っちゃうじゃない!」

 

そうかがみが言い切るとみさおもしぶしぶながら

 

「まあ、そういう事なら楽しみにすっか。」

 

一応納得したようだった。

 

そうこうしているうちに気がつくと山を登り始めていた俺たちだったが、山に入ってからみさおが何故かかなりはしゃいでいるようだったので

 

「みさお、楽しいのか?」

 

そう尋ねると、みさおは満面の笑みで

 

「ああ。なんかこういうのも悪くねえなーって思ってさー」

 

そう答えながら鼻歌交じりでどんどんと俺たちの前を歩いていくみさおを見ながらかがみはやれやれというジェスチャーをしていて、みゆき、あやの、やまとの3人は苦笑しながらその様子を見つつ歩いていた。

 

「結構なだらかだから歩きやすいわね。」

 

なんともなしにかがみがそう言った言葉に俺は頷きつつ

 

「まあ、今歩いてるコースは一番楽なコースでもあるからな。特訓の時使ったところはこれの比じゃないとだけ言っとくよ。」

 

そう答えるとかがみは両肩をすくめながら

 

「私達には理解できない世界よね・・・それに慶一くんは自分のお父さんの事を化け物って言ってたし、ほんとあんたのとこってどんだけよ・・・」

 

半ば呆れつつそう答えるかがみの横からあやのが

 

「化け物に育てられた慶ちゃんだからやっぱり慶ちゃんも化け物、なのかな?」

 

そんな俺たちの会話を聞いていたらしく、そう聞いてきたが、俺は首を左右に振りつつ

 

「いや、親父とは比べるべくもないさ。俺はまだまだ”人”のレベルだよ」

 

そう答える俺に、さらにやまとも

 

「先輩の言う”人”のレベルってのも怪しい気もするけどね・・・第一基準ってものがわからないわよ。」

 

そんなやまとの突っ込みに俺も困惑しながら

 

「そう言われてしまうと説明のしようもなくなるんだけどな・・・」

 

と、後頭部を掻きつつそう答える俺。

 

さらにそれからしばらく歩くと、徐々に坂の傾斜と足元の悪さが目立ってくるようになる。

 

皆に少し疲労の色が見えはじめていたようだったが、休憩ポイントまではまだ少しあったので俺は皆に

 

「休憩ポイントまでもう少しだからがんばってくれよ?そこで休憩取ったら後少しだからな。」

 

目的地が近づいていると言う事を告げて、皆の気力を奮い立たせるように誘導しつつ、さらに歩を進めた。

 

そしてようやく休憩ポイントに到着する。

 

「よーし、休憩ポイントに到着だ。みんな少しゆっくりしてくれ。水分補給とかも忘れないようにな。」

 

「ふうー大分登ったなー。なあ、慶一その辺少し見てきてもいいか?」

 

みさおは大人しく休憩するつもりはなさそうだったのでとりあえず俺はその言葉に苦笑しつつ頷いて

 

「それは構わないが余り遠くへ行くなよ?それと今から20分したら出発するからそれまでには戻ってくる事、わかったな?」

 

そうみさおに言い含めてこの場を少し離れる事を許可したのだった。

 

皆もそんなみさおを見ながら

 

「まったく元気な奴よね・・・あいつには疲れるって事がないのかしらね?」

「みさちゃんらしいけどなんか山に入ってからさらに元気になったような気がするわ。」

「元気なのはいい事ですよ。とはいえ私達は少し休んでおかないとつらいですね。」

「一応スポーツ系のクラブ所属って事なのかしらね。私達よりはずっと体力があるみたいだし・・・」

 

と、各々みさおに対する感想を口にしつつ、セミの鳴き声も響き渡る緑映える林の中で俺たちはそれぞれに休憩を取っていた。

 

「緑の中っていうのも良い物ですね」

 

周りを見渡しながらぽつりとみゆきがそう呟くのが聞こえたので俺は

 

「そういえばみゆき、緑は目にもいいんだぞ?お前も視力低下を悩みにしてたようだしこの緑を目に焼き付けておけばいいさ。」

 

俺のその言葉にみゆきはにっこりと笑って

 

「そうですね。いい機会ですからそうしてみます。」

 

そう言いながら木々の緑を見回しはじめるみゆきを俺も微笑みながら見守っていた。

 

しばらくして指定した休憩時間が終わる頃みさおが何かを持って帰ってきた。

 

「おーい慶一、みんなー、こんなもんみつけたぞ?」

 

と言いながらみさおが差し出したものは”あけび”だった。

 

俺はそれを見ながら

 

「へえ?こんなのよく見つけたな。これは果物みたいなものだから食べれるぞ?みさお、ちょっと食ってみたらどうだ?」

 

俺がそう言うと、みさおは目を輝かせつつ”あけび”にかぶりついた。

 

「お?こいつは意外といけるゼ」

 

結構満足げなみさおだったが、俺はかがみがなんだうらやましそうな視線を向けているのに気付いたが自身の保身のために何も言うまいと心に決めてみんなに出発を促した。

 

「さあ、後少しがんばろう。みんな、いくぞー」

 

そう皆に促して俺達は頂上に向かって再度歩き始めた。

 

それからしばらく歩いた後、ようやく頂上の看板が見え、俺たちは頂上に辿り着いたのだった。

 

「みんな、お疲れさん。これで到着だ。少し休んだら弁当にしよう。」

 

俺がそう言うと、皆はそれぞれ近くに残っている切り株をイス代わりにして座り、弁当を広げ始めた。

 

「お?流石につかさとこなたが用意してくれた弁当だ、うまそうだな。」

 

俺が弁当をみてそう呟くとみんなも

 

「我が妹ながら流石にしっかり作ってくれてるわね。こなたの腕もなかなかか、やっぱり私ももう少し出来るようになったほうがいいのかな?」

 

そう呟きつつ少し気落ちしてるかがみ。

 

「やっぱ、柊妹とちびっこは中々だな。料理関連では認めざるをえないなあ。」

 

ひとしきり感心しながら弁当をつつくみさお。

 

「私ももう少しがんばってみようかしら。」

 

と、さらに腕を磨く決意をするあやの。

 

「泉さん達に教わるべきかもしれませんね。でも美味しいです」

「泉先輩とつかさ先輩って料理の腕前大した物ね。なんとなく悔しいかも・・・」

 

みゆきとやまとも弁当をつつきながらそう呟いていた。

 

実は山チームの昼食の弁当はこなた達にお願いして作ってもらったのだ。

 

食事も済んで一段落した俺たちだったがやまとが俺に

 

「先輩、絶景ポイントってこの近くなの?折角来たのだから見て行きたいのだけど」

 

と言うやまとの言葉をきっかけに他の皆も口々に

 

「そういえばそんな事言ってたわよね。私も見ておこうかな?慶一くん、案内してよ。」

「柊が行くなら私もついてくぜー。」

「絶景ポイントをバックに写真とって帰るのもいいわね。」

「慶一さん、是非案内をお願いします。」

 

と言う皆の願いを聞き入れて俺は、皆をとっておきの絶景ポイントに連れて行くことにした。

 

「みんな、こっちだ。足元には注意してな。」

 

と、皆に注意を促すと、皆も慎重に俺の後に着いてきた。

 

やがて絶景ポイントに到着し、俺は皆に

 

「ほら、ここだよ。今日はすっきり見渡せるな。」

 

そう促すと、皆はその場所から眼下を見下ろして口々に

 

「わあー、これは凄いわねー・・・」

「おおーすげー、あれってひょっとして私らの泊まってる合宿所か?」

「綺麗・・・水平線もよく見えるわ。」

「素晴らしい景色です。まさに慶一さんの言うとおりでしたね。」

「・・・すごくいい眺め・・・いい景色が見れたわね・・・」

 

そう言いつつ、皆、底から見える景色に感動してるようだった。

 

俺達はそこに集まってみんなでセルフタイマーを使い記念写真を撮った。

 

そうして一通りの事を済ませ、そろそろ下山となる頃かがみは俺に

 

「ねえ、慶一くん。例の奴はどこで?」

 

と聞いてきたので、俺はかがみに1つ頷いて

 

「降りる途中にあるよ。そこに着いたらさっそく集めるとしようか。」

 

そう返事をすると、かがみは嬉しそうに「うん、楽しみ」と頷いていた。

 

その後、皆に下山を促して少し下ったあたりで俺は少しコースを変え、例の物が取れる場所へ皆を誘った。

 

しばらく歩くと目的の場所に到着したので、俺は皆に

 

「さあ、みんな。今日のメインとも言っていい場所に着いた。これからこの周りを探索して松茸を狩るから心行くまで取ってくれ。」

 

と、俺がそう言うと、かがみは一層嬉しそうな顔になり、かがみ以外のみんなは目を丸くして驚いていた。

 

「け、慶一、松茸って言ったか?今・・・まじでなのか?」

「慶ちゃん、そんな高級品がこんな場所にあるの?信じられない・・・」

「まさか山に来た目的の一つがその事だったなんて思いもしませんでした・・・」

「で、でも先輩、勝手に取ってしまっていいの?山の所有者がいるんじゃ勝手に取ったら私達泥棒になっちゃうわよ?」

 

最後にやまとが言った言葉に俺は笑いながら

 

「心配ないよやまと、みんな。何せこの山の所有は龍神の物だからね。」

 

俺の爆弾宣言にみんなは目を点にして

 

「・・・・・・へ?・・・・・・今、なんて・・・・・・」

 

呆然とした顔で聞き返してくる皆に俺は

 

「だから、この山の所有は龍神家の物だっていったんだけど・・・」

 

そう改めて言うと

 

「「「「「えええええええええ!?」」」」」

 

皆は揃って絶叫し、その絶叫はこだまとなって帰ってくる。

 

俺は笑顔で皆に

 

「まあ、そういう事だから存分に取ってくれよな。夕食は豪勢にいこう」

 

と、親指をびしっと立てながらそう言う俺に皆はこくこくと頷き、それぞれに松茸を狩るために散っていった。

 

「うふふふ。土瓶蒸しに網焼きもいいわね。混ぜ御飯も捨てがたいなー」

 

と、ものすごく嬉しそうに夕食の献立に思いを馳せているかがみ。

 

「うーん、それにしても柊の聞いていた事がこれだったなんてわからなかったってヴァ・・・でもどんな味すんのかな?初めてだから楽しみなような、怖いような・・・」

 

いまだ戸惑いを隠せずにいつつもとりあえず松茸を狩るみさお。

 

「改めて慶ちゃんの実家ってすごいのね・・・慶ちゃんはああ言ってくれたけどとりあえず程ほどにしておきましょ」

 

高級品なだけにどことなく腰が引けてしまい取る量を抑えがちにしてるあやの。

 

「つくづくスケールが凄いですね・・・ともあれ人数分は確保しませんと・・・」

 

とりあえず慶一の育った家に驚きつつもきっちり人数分確保するため動くみゆき。

 

「宿代かからない代わりに食事等は私達でやると言う条件だったけどその中にはこういう風に食材を調達するという事もあったのね・・・つくづく慶一先輩は凄い家で育ってきてるのね・・・」

 

なんというか慶一の凄さの一端を見た気分になりつつ、とりあえず食材確保を続けているやまとだったがここで予期せぬ事態が起こった。

 

やまとside

 

「大分集まったわね・・・そろそろみんなのところに戻ろうかしら・・・」

 

しばらくの間、私は食材確保を続けていたが、そろそろいい感じになったので切り上げてみんなのところに戻ろうとして立ち上がった。

 

その瞬間、私のいる場所の近くの茂みがガサガサと音を立て始めたので私はなんだろう?と思い茂みの方を見た。

 

茂みの方を凝視していると、突然茂みから大きな物が飛び出してきた。

 

突然の出来事で私は何が起きたのかわからず少しパニックになっていたが、気持ちを落ち着かせてよく見るとそれは大きな猪だった。

 

猪は私のほうへと少しずつにじり寄ってきた。

 

おそらく私の持っている松茸の匂いに誘われてきたのだろう。

 

猪はそれを奪うべく、私に飛び掛る体制になってきていた。

 

私は恐怖のあまり、持っていた松茸を猪に投げつけ注意をそらしてその場から逃げようと試みた。

 

猪は私が投げた松茸をむさぼっていたので、その隙に逃げ出したのだが、私が動いた事に気付いた猪は私が投げつけた松茸を食べ尽くした後、私を追いかけるべく走り出した。

 

私は恐怖のあまりに「きゃあああああ!?だ、誰かー!」と思わず叫びながら走った。

 

慶一side

 

皆も松茸を取り終えて集まり出してきた頃、ふいにやまとが向かった方角からやまとの悲鳴が聞こえてきた。

 

「きゃあああああ!?だ、誰かー!」

 

俺達はその声に驚き、声のした方へと視線を向ける。

 

「な、何?今の悲鳴って永森さんの声じゃ?」

「何があったんだってヴァ、様子が変じゃねえか?」

「何か足音が聞こえて来ない?」

「あ!慶一さん、あそこを!永森さんの後ろに何か大きな物が!」

 

と言うみゆきの指摘を受けてそっちに目をやると、全力で走ってくるやまとの少し後ろから何やら茶色い塊がやまとを追いかけてきてるのが見えた。

 

「な!?あれは猪か?まずいな・・・」

 

俺はそう呟くと、地面に落ちていた堅い丸太を掴みあげ、やまとの後ろの猪に向かって投げつけた。

 

ドカッ!!という音と共に俺が投げつけた丸太が猪にぶち当たりその突進を思わず止める猪。

 

やまとはそのまま全力で俺達のほうに戻ってきてかがみ達と合流した。

 

「やまと、みんな木の影に隠れてろ!俺が良いと言うまで出てくるんじゃないぞ!?」

 

俺がそう促すと、かがみたちは猪に見つからない木の影に隠れると

 

「慶一くん!慶一くんも逃げて!まともにやりあったらとても敵わないわよ!」

「先輩!逃げて!お願いだから!」

「慶ちゃん、だめよ!お願い、逃げて!」

「慶一、逃げろ!相手にするなんて絶対無理だって!」

「慶一さん逃げてください!無茶です!」

 

口々に俺に逃げろと訴える皆だったが、俺はここで逃げ出せば今度は他のみんなの方へこいつが行くだろうとわかっていたから逃げずに再び丸太を持って猪に対峙した。

 

「みんな、心配してくれているところを悪いがこいつを野放しにしたらみんなに危害が及ぶ事になる。何とかこいつを追い払うからそこから絶対動くなよ!?」

 

俺がそう伝えると、皆はなおも俺を気遣って声をかけてきてくれたが、今はこいつをどうにかする事が先決と考え、猪の動きに意識を集中していく。

 

猪は、俺を正面から見据えるように俺に飛び掛るタイミングを見計らっているようだった。

 

俺はどんな些細な動きも逃すまいとさらに意識を集中して猪を見据えた。

 

緊張感が高まりそしてついに猪が先に動いた。

 

猪は俺に向かい、まさに猪突猛進の如くまっすぐに俺に突っ込んできた。俺はぎりぎりのところで横っ飛びして猪の側面に回り持っていた丸太を叩きつける。

 

ドカッ!!という鈍い音と共に猪の体の側面に叩きつけられた丸太の衝撃で一瞬動きが鈍る猪にさらに俺は追い討ちの一撃を叩き込んだ。

 

「うらあっ!!」

 

猪を突き倒すように今度は丸太で胴体を突く。

 

ドスッ!!という音と共に胴体にめり込む丸太、さらに追い討ちをかけようとした俺に猪のまさかの反撃がなされた。

 

一瞬ひるんだ猪はさらに丸太を振りかぶった俺に体当たりをかけてきた。

 

俺はその反撃は予測してなかったのでとっさに持っていた丸太でガードするが、猪の一撃は俺を丸太ごと吹き飛ばした。

 

「ぐはあっ!?っくそ・・・」

 

木に叩きつけられはしたが、すぐさま体制を立て直し猪の動きに気を配る。

 

しかし思ったよりダメージがあったようで左の肩口がズキンズキンと痛んでいた。

 

やまとside

 

私が恐怖のあまりに連れてきてしまった猪を追い払うべく先輩は私達を安全な場所へと避難させた後猪と対峙していた。

 

私はどうしていいのかもわからずに泣きながら、先輩が猪と戦う姿を見ているしかなかった。

 

何度目かの猪との攻防の末にふいに猪に体当たりを食らった先輩が、背後に立っている木に吹き飛ばされたのを見て私はもちろん、一緒に事の成り行きを見守っている先輩達も思わず悲鳴をあげていた。

 

「きゃあ!慶一くん!」

「やべえよ!慶一!」

「もういいから逃げて・・・」

「慶一さん!もう、見てられない・・・」

 

かがみ先輩達が声をあげる中、私は声すらも発する事も出来ずにただ先輩を見つめつづけるだけだった。

 

(先輩!やめて!お願い!もうやめてー!)

 

心の中では私は狂ったように声をあげつづけているのに実際の私はどうしてかその心の叫びが口を突いて外に出てくる事がなかった。

 

左肩を抑えて立ち上がり猪と再度対峙する先輩が動き出す。

 

私達は結局無力だった。

 

慶一side

 

(みんなの声は届いているが、やっぱりこのままこいつを放置する訳には行かない。だが、決着へのきっかけはできた。次で・・・決める!)

 

俺は少しづつ猪を岩壁のある場所へと誘導していく。

 

俺の動きを追うように少しずつ俺に狙いを定めるように動く猪を誘導しつつ、俺は岩壁を背にするように立ち、自分の手前に落ちている岩の塊に手にした丸太をテコのようにセットすると、そこで猪の次の動きに集中し始める。

 

「こい!これで決めてやる!!」

 

挑発するように猪に声をあげる俺に、猪はついに俺にとどめの体当たりをかまそうと動き出した。

 

一気にダッシュして距離を詰めてくる猪を俺はぎりぎりまで引き寄せると、猪の胴体が丸太の上に乗った瞬間丸太を踏みつけて猪の体ごと跳ね上げると同時に鋭く回転し、渾身の回し蹴りを跳ね上げられて頭が下に向きになり、無防備になった猪の顎めがけて叩き込み、そのまま猪の突進力+遠心力で倍化した威力のまま岩壁に猪の頭をサンドイッチのように挟み込んだ。

 

「うおらああああ!!」

 

ドグシャツ!!という鈍い音が響き、ズズウン!!と地響きを立てながら猪はその場にうずくまる。

 

体をピクピクと数度痙攣させた後完全に猪は沈黙した。

 

俺は大きく喘ぎながら猪の状態を確認するとそのまま大の字に寝っころがった。

 

「はあ、はあ、ぜえ、ぜえ・・・ふー・・・何とか・・・やったぜ・・・」

 

俺がそう呟くと同時に事の成り行きを見守っていた皆が俺の元へ走り寄ってくる。

 

「慶一くん!大丈夫?生きてる?」

 

泣きながら俺の様子を確認するように声をあげるかがみ。

 

「慶一!大丈夫か?死んでねえよな?な?」

 

大慌てで俺を揺さぶるみさお。

 

「慶ちゃん・・・無茶、しすぎよ・・・」

 

そう言いながらも泣きじゃくっているあやの。

 

「慶一さん!よかった・・・本当によかった・・・」

 

泣きながら俺に抱きついてくるみゆき。

 

「先輩・・・先輩!先輩っ!ばか!ばか!ばかああああ!」

 

同じように抱きついてきて泣きじゃくるやまと。

 

そんな皆を見ながら俺は、皆を助けられた事への安堵と、皆を心配させ泣かせてしまったことに対する罪悪感にとらわれつつ

 

「みんな、ごめん。心配かけたな。俺は何とか大丈夫だ。」

 

顔を上げながらそう言うと、皆も緊張の糸が切れたようで、俺に抱きつきながらしばらくの間泣いていた。

 

しばらくして皆が落ち着いた頃、皆はさっきの事で気が動転していたとはいえ、自分達がした行為を思い出してみんな顔を赤くしつつも帰る支度を済ませていた。

 

俺はというと、山の管理をしてもらっている所に電話で問い合わせて、先程仕留めた猪を引き取りに来て欲しいという依頼をだした。

 

それらの事を済ませた後俺は皆を見回して

 

「それじゃ、その・・・そろそろ戻るか」

 

俺も皆に心配させてしまった手前、その事を気にしていたためかなんともばつの悪い物言いになってしまっていたのだが、それは皆も同じだったようで

 

「そ、そうね。そろそろ戻りましょ?」

「あー・・・えっと・・・とりあえずもどっか」

「・・・うん、そろそろ、いこっか?」

「そ、そうですね。皆さん行きましょう」

 

そう言う皆はなんだかまだギクシャクとしていた。

 

その後、俺たちは山を降りるために動き出したのだが、さっきの事以降、宿に着くまでの間なぜかやまとは無言で俺の腕に抱きついたままだった。

 

かがみとみさおは少し不機嫌そうだったが、俺の昔話を知っていたみゆきはなんとなくやまとの行動を察していたようで、俺たち2人の様子を黙って見守っていた。

 

山の幸の収穫を終えて宿に帰宅すると、俺たちの帰りに合わせて山の管理者の人が先ほどの猪をさばいた肉を届けてくれた。

 

「ただいまーっと・・・」

 

俺が代表で言いながら宿に入ると、海から戻って来てたこなた達に出迎えられた。

 

「お帰りー、慶一君って・・・どうしたの?その有様は・・・」

 

その質問に俺はどう説明すべきか悩んだが、結局正直に答える事にした。

 

「山に行ってお土産取ってきたのはいいんだがそこで猪に遭遇してな、とりあえず仕留めてきた。」

 

そう言いながら取ってきたお土産をこなたに渡しつつ、そう説明すると

 

「あ、ありがとうーってこれって松茸!?お土産ってこれなの!?それに猪仕留めたって・・・」

 

こなたが大慌てしながらそう言うと俺はこなたに頷きつつ

 

「さっき肉届いたろ?あれは俺が仕留めた猪さ。」

 

俺がそう言うと、他の皆もそれぞれに

 

「け、けいちゃん、猪たおしたの?」

「先輩!怪我は平気ですか?」

「・・・よく・・・無事で・・・」

「先輩・・・半端ないっすね・・・」

「じゃ、じゃあさっきやまとが言ってた事って・・・先輩!無茶しすぎです!」

 

驚愕しながら口々に言う皆に俺は罪悪感も伴いつつ苦笑しながら

 

「あー・・・まあ、とりあえず左肩打撲にはなってるとは思うけど何とか生きてるよ?」

 

つとめて明るく言う俺に海チームから

 

「「「「「当然です!」」」」」

 

と鋭い突っ込みが入った。

 

「森村!なんでそないな事になったのに連絡の一つもよこさんかったんや!」

「そうだよ?森村君みんなを心配させちゃいけないよ?」

 

と、付き添いの2人からも突っ込みが入るが、俺は

 

「すいません、ですがそんなのやってられる余裕があったらやってましたよ。それに連絡できたとしても先生達を待ってる余裕はなかったですから。」

 

心配してくれる先生達に悪いと思いつつも、そう言わざるをえなかった。

 

「ほう?猪か。肉が届いていたから何かと思ったらお前が仕留めたとはな。だがよくみんなを守りきったな。よくやったぞ?慶一」

 

親父からのまさかの誉め言葉を聞いた俺はその言葉に照れながら

 

「な、何だよ、普段は俺の事ぼろくそ言うくせに気持ち悪いな」

 

と、照れ隠しに言う俺の言葉に親父はカチンときたようで

 

「気持ち悪いとはなんだ!?全くたまに誉めてやればそんな減らず口を・・・」

 

何やらぶつぶつ言い始めた親父をほっといて俺は

 

「こなた、つかさ、まあ、そう言うわけだからこれらの食材の調理は任せるよ。俺はちょっと手当てしてくるから。他に手が空いてる人がいたらこなた達を手伝ってやってくれないか?」

 

そう伝えると、何人かはこなた達の手伝いにもう何人かは風呂へと向かった。

 

俺はそんな皆の行動を見届けた後親父に

 

「親父、すまないけど治療を頼むよ。」

 

そう言うと親父も俺の言葉に頷いて

 

「わかった。奥の部屋へ来い。」

 

と、短く俺に言うと、先に奥の部屋へと向かって行った。

 

俺も親父の後を追おうと動こうとした時、俺の後ろから声をかける2人がいた。

 

「先輩、私も付いていきます。」

「私も一緒に・・・」

 

振り向くとそこには怖い顔をして立っているこうとやまとだった。

 

俺は2人を少しの間見つめ、その後軽いため息を1つついてから「わかったよ、ついてこい」と声をかけると、2人は頷いて俺の後をついてきた。

 

奥の部屋に着くと、親父に入室するむねを伝えて部屋に入った。

 

「ん?こうちゃんとやまとちゃんも一緒か。まあいい、そこで見ていなさい。慶一、肩を見せろ。」

 

2人にそう促して、俺に患部を見せるように言う親父に、俺は肩を捲り上げてみせた。

 

怪我の状態を診ながら親父は

 

「ふむ、外れていたか。自分で無理にはめてきたようだな。だがこれならなんとかなるだろう。」

 

と、俺の怪我の状態を教えてくれた。

 

そう、俺の肩は打撲ではなく脱臼をしていたのだ。

 

あの時はとりあえず肩をはめなければ勝負をつけれないと判断した俺は、荒療治だったが動かせるように肩をはめ込み最後の攻撃をしたのだった。

 

親父の俺の肩が外れているという言葉を聞いたやまとはまた涙をこぼし始め、俺に

 

「先輩・・・ごめんなさい・・・私のせいで・・・」

 

そう謝ってくるやまとに俺は慌てながら

 

「お、おい、やまと。大丈夫だから、お前のせいじゃないから、な?怪我は俺の自己責任なんだから、だからもう泣くなよ。」

 

やまとをなだめるように言い聞かせていると、今度はこうもやまとと一緒にいつのまにか泣いていて

 

「先輩、中学生の時の事覚えてますよね?あの時も先輩は私達に心配かけてるのを忘れていませんよね?」

 

さらにこうは言葉を続けて

 

「あの時も怖かった。折角友達になれた先輩を失うんじゃないかって、今回もそう。私は先輩達の身に起こっていた事を知らなかったけどやまとから話を聞いて私も怖くなった。先輩、お願いですから私達を不安にさせないでください・・・」

 

そう訴えるこうとやまとの2人を俺は優しく抱きしめながら

 

「そうだな。ごめん・・・心配かけてごめんな?俺が悪かったから、だからもう泣かないでくれ。」

 

2人にそう伝える俺。

 

親父の治療を受けた後も俺達はしばらくの間、お互いに謝りあいながらそうして2人が落ち着くまでの間、抱き合っていた。

 

やがて、2人も落ち着き、俺も治療を終えて食堂に顔をだしてみると、今回の収穫を使った料理が完成していた。

 

「おー、なかなか美味そうだな。さすがこなたにつかさだ。」

 

出来あがった料理を見て俺はそう感想を言うと、こなたたちは照れ笑いをうかべながら

 

「何とかがんばったよ。さてそれじゃそろそろいただこうよ。」

 

というこなたの声をきっかけに

 

「「「「「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」」」」」」

 

の声とともに豪勢な夕食が始まった。

 

松茸御飯や土瓶蒸し、猪鍋等等が並び、とくにかがみやみさお、黒井先生らは凄く喜んでいた。

 

こなたたちも普段食卓に並ぶ物ではないものだけにちょっとした高級料理に目を輝かせていた。

 

ちなみに食材は余っていたのでその分などはお土産に持ち帰るつもりのようだ。

 

こうして波乱の2日目が終わった。

 

命の危険と隣り合わせだったが、俺は俺のために泣いてくれる人がいるという事がとても幸せな事なのだということを理解すると同時に、皆を心配させるような無茶はしないようにしなきゃなと心に誓う俺だった。

 

それと同時に、ようやく今回の旅行において、俺の中でのもう1つの目的に対する覚悟も決まり、俺は次の日にその覚悟を形にしようと決意する。

 

合宿所での俺達の旅行も折り返しへと向かうのだった。

 

 


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