らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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旋律の帰省〜慶一のもう一つの過去、後編〜

いつものように長い休みの前に一度実家に顔を出しに行く、という約束を果たす為に実家に戻ってきた俺の前に現れた旋律達。

 

そしていつものどたばたをしつつも道場に行き、みんなに演武を見せ色々と雑談を交わしている時現れた人物は俺の尤もよく知る、そして一生忘れてはならない係わりのある人物だった。

 

そしてその人物は俺に

 

「よう、慶一。元気にやってるか?今日はお客さん多いみたいだな。」

 

そう声をかけてくるそいつに俺も

 

「瞬、おまえだったのか・・・。しばらくぶりだな・・・。」

 

そう、今も拭えない罪悪感を持って返事をする俺だった。

 

その人物の名は牧村瞬一。

 

うちの道場との交流もある牧村道場の長男であり、俺とは同い年で、かつ、牧村流の後継者となるはずの男だった。

 

後継者となるべき男はいまや松葉杖をつき、挌闘家としてはやっていくには無理な体になっていた。

 

瞬は俺の顔を怪訝そうな表情で見ながら

 

「なんだ?ずいぶん歯切れの悪い返事だな?」

 

俺を見ながらそう声をかけてくる瞬に俺は戸惑いつつも

 

「ははは、なんというか、まだ、ちょっと、な・・・。」

 

何とか声を絞り出し返事をする俺を見て瞬は困ったような顔をしつつ

 

「まあ、いいか。なんにしても親父から用事をいいつかってここにきたんだ。ついでにお前の顔を見れるとは思わなかったけどな。聞けば最近は実家にはあまり顔をだしていないそうじゃないか。」

 

そう言いながらさらに言葉を続けて

 

「お前の親父さんやお袋さんも少し寂しいって言ってたぞ?学校もあって大変だろうけど少しは顔だしてやれよ。」

 

と、笑いながら言う瞬に俺は半ば上の空になりつつ

 

「あ、ああ、そうだな・・・。すまん・・・。」

 

心ここにあらずといったような返事を聞いた瞬は、やれやれといったジェスチャーをしていた。

 

そんな瞬を見て俺は言い訳するかのように

 

「すまん、ちょっと汗流してくる。瞬、また後でな・・・。みんなもくつろいでいてくれ・・・。」

 

そう言いながら俺は逃げるようにその場を立ち去った。

 

そんな俺を見ながらみんなは唖然としていたが俺を見送った瞬は

 

「やれやれ、まだ気に病んでいるのか・・・。まったく、生真面目なやつだよな・・・。」

 

そう呟いたのだった。

 

こなたside

 

彼が現れてから慶一君はどこか様子がおかしくなったようだった。

 

2人のやり取りを見るにつけ、2人の間に何かがあったのは明白だと思う。

 

相手の男の人の姿、そしてさっきの呟き、私は気になったのでその人に理由を聞いてみたいと思い、その人に声をかけたのだった。

 

「あの、牧村さんっていいましたよね?慶一君の知り合いの人なんですか?私は慶一君と一緒の学校に通うクラスメートで泉こなたといいます。」

 

一応それなりに年上っぽそうだったので敬語で声をかけると、牧村さんは私のほうを向いて

 

「ん?君が慶一と同じ学校のクラスメート?小学生とかの間違いじゃないよね?一応確認するけど。」

 

という失礼な物言いに少しカチンと来た私は頬を膨らませながら

 

「確かに見た目はそう勘違いされがちですけど、私は慶一君と同じ高校2年生です!」

 

と少し怒ったように言うと牧村さんは慌てて私に謝りながら

 

「いやー、ごめんごめん。見た目で判断しちゃいけなかったね。それと俺も君や慶一と同い年だから敬語じゃなくていいよ?」

 

そう言いながらさらに言葉を続けて

 

「君の言うとおり俺と慶一は知り合いだよ。というか親友だったけどな。それと改めて、俺は牧村瞬一。この道場と交流を持ってる牧村道場の長男さ。」

 

さっきの私の質問に答えてくれつつ自己紹介もする牧村さん。

 

それにつられて他のみんなも

 

「私は柊かがみよ。同じく慶一くんとはクラスメートよ?よろしく。」

「柊つかさです。かがみおねえちゃんとは双子の姉妹でけいちゃんともクラスメートだよ?よろしくね。」

「高良みゆきです。皆さんと同じように慶一さんのクラスメートです。よろしくお願いしますね。」

「・・・岩崎みなみです。森村さんとは知り合いですが、私はまだ同じ学校の生徒ではありません・・・。」

 

それぞれ自己紹介を交わすのだった。

 

私はさっきの牧村さんの親友だった、という部分が気にかかったので聞いてみることにした。

 

「牧村君、さっきの慶一君と親友だったという過去形を使っていたようだったけど、それってどういう事なの?」

 

その私の質問に牧村君は複雑な表情を浮かべながら

 

「ああ。あいつにとってはそうだったということかな。俺は今でも親友だと思ってるけどな。まあちょっと昔に色々とあってな・・・・・・。この話、聞きたいかい?」

 

と言う牧村君の言葉に私達は「是非聞きたい!(わ)(です)」と言うと牧村君は私たちを見て少し考える仕草をしていたがやがて

 

「・・・君達なら、この話をしてもいいだろうな。この話を聞いた後でもあいつの側に居てくれるって思えるしな。」

 

牧村君は私たちを見ながらそう言うと、昔の事を思い出しながら私たちに話をしてくれるのだった。

 

「今から4年近く前の事だ。小学校6年の後半から中学に入り中学2年の中間あたりくらいまであいつがものすごく荒れていた時期があったんだ。俺も当時はあいつと同じ中学に進んでいてな、そこであいつと出会い、互いの技量の限りを尽くしてケンカしてお互いを認め合い、俺達は親友となったんだ。木の話は小学6年の頃に俺とあいつが親友となってそれから1年くらい経ってから、って事さ。それで、続きを話すとだな・・・・・・」

 

慶一が小学校6年の後半から荒れ出したのはあるきっかけが原因だった。

 

それは今の育ての親である龍神家で偶然にも父親と母親がしていた会話を慶一が聞いてしまった事から始まった。

 

「・・・あなた、慶一が私達の本当の子供ではないと言う事をいつ伝えるつもりなの?遅かれ早かれいずれはあの子はその事を知る事になるのよ?」

 

「わかっている。いずれは話さねばならない事もな。私もその時期を見定めている所だ。だが、今はまだ話すべきときではないだろう・・・。」

 

慶一はそれまで龍神の両親が自分の本当の親だと思い込んできた。

 

だからこそこの会話を偶然にも聞いてしまった慶一は、2人の会話の真相を聞きたくて部屋へと飛び込んでいった。

 

「!?慶一?」

「慶一、どうした?急に飛び込んできて。」

 

慶一は真剣な表情で2人にさっきの会話の事を問い詰める。

 

「父さん!母さん!さっきの話はどういう事なの!?俺はこの家の、父さんと母さんの子じゃないの!?」

 

慶一の必死の問いかけに、先程の会話を聞かれたのだと思った2人はしばらく無言で慶一を見つめて考えを巡らせていたようだったが、やがて意を決すると慶一に真実を語ってきかせたのだった。

 

「慶一、私達はあなたの本当の親ではないわ。あなたの本当の両親はあなたが物心つく前に事故で亡くなったのよ・・・。あなたの本当の両親の名前は森村真一さんと慶子さん・・・。あなたの本当の性は・・・森村というの・・・。あなたは龍神慶一ではなく・・・森村慶一、なのよ・・・?」

 

「私達龍神は森村君とは親戚筋にあたる。ゆえに、両親を亡くし一人きりになってしまったお前は、その引き取り先が決まるまで親戚中をたらいまわしにされる事になった。だが私達はそんなお前を不憫に思い、お前を引き取る事にしたのだ。そして、いずれこの事実をお前に伝えるつもりだったのだ・・・。許せ、慶一、真実を隠していたのもすべてはお前を思うあまりにやった事なのだ・・・。責めるのならば母さんではなく私を責めろ・・・。それがお前に対する私の償いだ・・・。」

 

そんな2人の告白を聞いて慶一は大いに混乱してしまい、育ての親たる2人を見て

 

「そ、そんな・・・俺は、龍神慶一だ!森村なんて知らない!俺はこの家の子だ!そうだよね?父さん!母さん!何とか言ってよ!・・・・・・信じない・・・そんなの信じられない・・・う・・・ううう・・・ああああああっ!!」

 

2人が悲痛な面持ちで慶一を見守る中、現実を受け入れられない慶一は叫びながら部屋を飛び出していった。

 

そして、森村の性を今の今まで知らずにずっと龍神の性を名乗ってやってきた慶一は、自分が本当は龍神とは何の関係もない人間なのだという現実を受け入れられずに中学1年から2年の前半を過ごす事になる。

 

その頃の慶一はそんな現実を突きつけられたことによる苛立ちと怒りと悲しみをないまぜにしたような感情のぶつけどころがわからずに日々を送っていた。

 

俺はそんな慶一の側に親友として居れた一人だった。

 

そのうちに慶一は、武術をやっているという事を誰かに知られ、気付けばそんな噂が学校中に流されていた。

 

そんな事もあり、その噂を耳にした不良グループ連中から目をつけられるようになっていった。

 

そして、慶一はそいつらをぶちのめす事を自分の複雑な感情をぶつける場に選んだ。

 

「お前が龍神慶一か。結構評判だぜ?かなり強いってな。けど、お前をぶちのめして俺が最強だって事をしめしてやるよ!お前の伝説もここまでだ!」

 

そう言って向かってくる不良の一人を返り討ちにしつつ慶一は

 

「・・・龍神・・・俺を・・・その名で呼ぶんじゃねえ!俺は・・・森村慶一だ!わかったら消えろこの屑野郎が!」

 

切れた表情で不良をボコる慶一。

 

即座に戦意を喪失した不良は慌てながら

 

「うわあああ!わ、わかった、もう勘弁してくれあんたには二度と手をださねえよ、だから助けてくれー!」

 

ボコられながらも哀願して許しを求めて叫んでいた。

 

俺は慶一の側にいながらその様子を見つつ

 

「おい、慶一、相手はもう戦意を失ってる。そのくらいで勘弁してやれ。」

 

と言う俺の言葉に、慶一は切れた表情を俺に向けながら

 

「うるせえ!俺に指図するな!それ以上言ったらお前も黙らせるぞ!」

 

激昂しながら俺に言いつつも、理性はそれでも残っていたようで”お前を黙らせる”とは言うものの、そこまでの行為に及ぶ前には冷静を取り戻していた慶一だった。

 

そして冷めた目でぶちのめした不良を見下ろしながら

 

「・・・俺は・・・どうしたらいいんだ・・・。」

 

答えを求めるかのように慶一は暴れた後はいつもそう呟いて自問自答をしていた。

 

そんな慶一に対する答えは俺にもわからなかったが、それでもこいつをこのまま一人にしちゃいけないと思っていたから俺はどんな時でも常に慶一の側で行動の一つ一つを見つめていた。

 

そんな日々が続いて2年に上がってすぐの頃だ・・・・・・

 

俺たちに目をつけている不良グループの連中の中でも特に俺たちに恨みを持った連中がいて、そいつらはある日俺の油断をついて俺を気絶させて慶一を仕留めるために人質として俺を拉致した。

 

慶一は荒れてはいたが、俺を見捨てるような事だけはしなかったがゆえに俺が人質に取られたと知るや、罠だと分かっていても慶一は俺を助ける為に連中の呼び出しに応じた。

 

「よく来たな。龍神、いや・・・森村だっけな。こいつが大事なら無駄な抵抗はしない事だ。さあてお前ら、ショーの始まりだ!」

 

リーダー格の合図と共に慶一を取り囲む雑魚連中。

 

慶一は連中を一瞥すると

 

「・・・好きにしろよ!そのかわり瞬には手を出すな・・・!!」

 

俺を盾にされて抵抗できないと見るや、連中はこぞって慶一をボコボコにしはじめた。

 

慶一がボコられているのを歯がみしながら見守っていた俺だったが、一瞬の隙をついて俺を拘束する連中の一人をぶちのめして脱出し、慶一の所へ向かう。

 

「手間かけさせたな。もう大丈夫だ。さあ、借りを返してやろうぜ?」

 

慶一にそう言うと慶一もボコボコの顔で不敵に笑って

 

「ああ、そうだな。後悔させてやろうぜ?俺たちコンビに手出しした事をな!」

 

今までの借りを返すかのように雑魚連中を二人で叩きのめしていき最後にリーダー格をぶちのめしてこのケンカは終わるはずだった。

 

だが、俺達はそのリーダー格の動きに気付いておらず、まだくたばっていなかったリーダー格は近くにあった鉄パイプを拾い上げ俺たちに気付かれないように殴りかかって来た。

 

「へへへ・・・足の一本くらいは貰っていくぜ!?くたばれや!!」

 

丁度それがボコボコにされて片目が腫れ上がり見えなくなっていた慶一の死角をつく形になりその足に鉄パイプが振り下ろされるその刹那、俺は反射的に慶一を庇うように動いていた。

 

ゴスッ!!という鈍い音が響き、俺はその一撃を自分の利き足に受けることになった。

 

「う、ぐあああっ!」

 

俺は一撃を受けたところを押さえてうずくまる。

 

「っ!何してやがるてめえええ!」

 

それをみた慶一は怒りの表情で即座にリーダー格を叩き伏せて沈黙させた。

 

足を押さえてうずくまる俺の元に来て慶一は心配そうに俺の足を見ながら

 

「大丈夫か?瞬。すまん、油断してた・・・。」

 

そう声をかける慶一に俺は「大丈夫だ、心配ない」とだけ答えてお互いを支えあいながら病院へと向かった。

 

病院で一応の治療を受けたが、俺の足については詳しい検査結果はすぐにはでないから結果が出次第連絡をするという医者の話を聞いてから俺達はそれぞれの家に帰っていった。

 

そして後日、検査結果を受けて俺は愕然とした。

 

利き足の膝関節粉砕骨折という結果がでたからだ。

 

この足は治っても元のようには歩けなくなるだろう、ましてや武術を続ける事は無理だという医者の話に俺の親父は相当落ち込み、そして龍神さんの所へと怒鳴り込みに行ったのだった。

 

事実上、俺は挌闘家として終わった体になってしまった。

 

親父から聞いた話だが、慶一は龍神さんに挌闘家生命を奪ってしまった事に対する制裁が加えらえたと言う事を聞いた。

 

だが、俺は元々は弟達に比べてその素質は劣っているという事を自覚していたがゆえに、その事は多少ショックだったものの心のどこかではほっとしている自分に気付いていた。

 

「瞬、すまん、俺のせいで・・・お前は・・・・・・。」

 

龍神さんに制裁を加えられた顔で俺のところに来て泣きながら俺の前に土下座する慶一を見て俺は

 

「俺をこんな体にした事を、悪いと思っているのか?」

 

そういう俺に慶一は額を床に摩り付けながら

 

「ああ・・・。謝って済む事じゃないって事も分かってる・・・。でも、お前に詫びなきゃ気がすまない・・・。」

 

泣きながら俺に言う慶一を見つめながら

 

「詫び、か・・・本気で詫びたいと考えてるのなら、俺の出す条件を飲んでもらおう。」

 

俺がそう言うと、慶一は顔を上げて「条件?」と聞き返してきたので俺はその言葉に頷き

 

「そうだ。俺の出す条件は、お前が龍神さんときちんと話し合い、お前の真実と現実を受け入れる事だ。お前が森村であることを受け入れ、育ての親ではあっても、龍神さん達の事も今の自分の親であるのだという事実を受け入れる事。これがお前に出す俺への詫びの条件だ。」

 

俺の言った言葉に戸惑う慶一は

 

「しかし、それは・・・・・・。」

 

そう言いつつ煮え切らない態度の慶一に俺は慶一にはっぱをかけるように

 

「できないのか?俺に詫びたいというお前の言葉は嘘だというのか?お前は所詮はその程度の事も乗り越えれない奴なのかよ?」

 

そう厳しい言葉をかける俺の指摘に慶一はしばらく考え込んでいる様子だったが、やがて意を決したらしく

 

「・・・わかった・・・。お前の言うとおりにするよ・・・。いつまでも逃げてちゃいけないよな・・・。」

 

慶一がそう答えると、俺は満足そうに頷いて

 

「それでいい。がんばれよ?慶一。お前ならきっと乗り越えられるさ。俺の親友たるお前ならな。」

 

その俺の言葉に慶一はつらそうな顔をしながら

 

「瞬、俺は、お前の未来を奪ってしまった俺は、お前に親友と呼んで貰う資格なんてない・・・。」

 

と言う慶一に俺は苦笑しながら

 

「相変わらずそういう所は生真面目な奴だな、お前はさ。けどな、お前がどう思おうとも俺はいつまでもお前の親友だ。それだけは言っておくからな?」

 

そんな俺の言葉に慶一は再び涙をこぼしつつ

 

「ありがとう、瞬。だけど・・・俺はこの先も・・・お前をそんな風にしてしまった俺自身を許す事はないだろう・・・。だけどお前のその気持ちだけは嬉しかった・・・。」

 

そう言って目を伏せて慶一はさらに言葉を続けて

 

「お前の言った条件、乗り越えてみせるよ。それだけはこの場で誓う。それじゃ俺はもう戻るよ。いつかまたな?親友・・・。」

 

そう俺に告げて道場を去る慶一の後姿を俺はいつまでも見送っていた。

 

その後、慶一は龍神さんのご両親とよく話し合い、俺の言った条件を乗り越えた。

 

「・・・・・・と言う事があってな。それでもあいつの龍神さんに対する態度だけは素直にはならなかったが一応は今の関係になった、ってことなのさ。」

 

一通りの話を終えると泉さん達は全員がつらそうな顔をしつつ

 

「そうだったんだ・・・その足はその時に負った怪我だったんだね?今でも歩くだけで精一杯なの?」

 

という泉さんの質問に

 

「あの頃よりは大分良くはなったけど、まだこれがないと歩き回れないかな?」

 

そう言いつつ、松葉杖を振りながら答える。

 

「そっかー、大変だね・・・。」

 

心なしか暗い表情でそう言う泉さん。

 

柊さん(姉)もどことなく辛そうな表情で

 

「あまりにも悪いタイミングで慶一くんはその事を知っちゃったのね・・・。そして自分の行動が牧村くんを再起不能に追い込んだことを今でも責めてるのか・・・。」

 

そう言葉を漏らしたのを聞いて俺はその言葉に頷くと

 

「すべてはタイミングだったって事だな。でも俺も、もっと早くにあいつの目を覚まさせてやればよかった、と後悔してる部分もあるよ。」

 

今にして思えば、という思いを柊さん(姉)に口にすると

 

「運命だったのかしらね・・・。」

 

と、少し悲しげな表情でそう言った。

 

俺はそんな柊さん(姉)の漏らした言葉に

 

「運命か・・・。今思えばそうだといえるところもあったかもしれないな。」

 

と、俺もあの時から感じていた事を口にした。

 

「牧村くんは・・・けいちゃんの事恨んだりしてるの?」

 

柊さん(妹)がおずおずと俺に質問してきたので俺はゆっくりと左右に首を振りつつ

 

「恨んでるとかそういう事はないよ。話の中でも言っていたけどさ、正直才能のない俺が牧村を継ぐことに重荷を感じていたからね。むしろその重荷が取れた事にほっとしてるかな。俺に期待してくれていた父さんには悪いとは思ってるけどさ。」

 

そう答えると柊さん(妹)は複雑そうな表情で

 

「そう・・・なんだ・・・。でも、けいちゃんはまだ自分を責めつづけてるんだね?」

 

そう言って来たのを受けて俺もその言葉に自嘲の笑みを浮かべつつ

 

「あいつはあれで結構頑固な所あるからな・・・。それがあいつのいい所でもあり、悪い所でもあるよな・・・。」

 

と言う俺の言葉を聞きながら高良さんは

 

「慶一さんが優しくなったのも、人と争う事をしなくなったのも、その時からだったんですね?」

 

なんとなく高良さん自身が感じた事を口にした。

 

俺はその高良さんの言葉に頷きつつ

 

「人と争う事をしなくなったのはその時からだが、優しいという部分はそれ以前からも持ってたあいつの性格だな。でもそこが災いして結果、俺の一件に罪悪感を感じているってのがな・・・。」

 

そう答えると、高良さんも困ったような顔をしながら

 

「優しさゆえの、生真面目さゆえの頑固さになっていますね・・・。」

 

俺はそんな高良さんの言葉を聞きながら

 

「そうだな・・・。あいつはもう少し楽に生きてもいいと思う。だけど、あの性格を変えるってのはなかなかできないんだろうな、不器用なやつでもあるしな。」

 

苦笑しながらそういう俺と高良さんの後ろから割り込んでくる声があった。

 

「不器用でもそれが先輩のいい所でもありますからね。私はそんな先輩を気に入ってるしね。」

「不器用だっていうのは私も知っているわ。けど、あの人には信頼できる何かがあるから、私はあの頃から側にいつづけてたのよ?」

 

と言う言葉に振り向くと、そこにはいつの間にやってきたのかこうちゃんとやまとちゃんが居た。

 

「2人ともいつの間に?全然気がつかなかったよ。」

 

驚きながらそう言うと、皆も驚いていたようだった。

 

「牧村先輩が慶一先輩の話を半分くらいしたところですよ。ねえ?やまと。」

「そうね。私達も知らなかった話が聞けたわね・・・。」

 

2人がそう答えるのを聞きながら俺は(2人には秘密にしてくれっていう慶一との約束破っちゃったなあ・・・。)と心の中で思いつつ焦っていた。

 

「・・・瞬・・・何の話をしてたんだ・・・?まさかあの事をみんなに話したんじゃないだろうな?」

 

突如みんなの後ろからかかる声に俺はビクッとなりながらおそるおそる振り返るとそこには気難しい顔をした慶一が立っていた。

 

「い、いやー、いずれわかる事だしいいかな?と思ってな。お前だっていずれは話すつもりだったんじゃないのか?」

 

慌てながらいう俺に慶一は大きなため息を一つついて

 

「はあ・・・話してしまったんじゃ仕方ないな・・・。瞬から聞いた通りさ・・・俺は今でもあの時の罪を背負っている。」

 

みんなにそう言う慶一だった。

 

慶一side

 

汗を流して戻ってみれば瞬が皆に余計な事を話していたようだった。

 

俺は瞬を問い詰めたが結局俺の知られざる過去ってやつを暴露された事になった。

 

俺はみんなを見ながら

 

「瞬から聞いた通りさ。みんなは俺の事軽蔑したろうな・・・結局俺は自分の弱さに負けて自分勝手に暴れて挙句の果てには瞬を再起不能に追い込んだんだからな・・・。」

 

俺が自嘲の笑みをもらしながらそう言うと、皆は口々に否定の言葉を口にした。

 

「そ、そんな事ないよ!私だって同じ立場ならどうなっていたか分からない。慶一君のように立ち直れなかったかもしれないよ・・・。私には同じくらいの時期には親友と呼べる人なんていなかったしね・・・。」

 

激しく首をふって俺の言葉を否定するこなた。

 

かがみも俺を真っ直ぐ見据えつつ

 

「そうよ。それでも立ち直った慶一くんは強い人だわ。それに昔がどうであれ今の慶一くんは私達にとってはかけがえのない友達よ?」

 

俺にそんな言葉を投げかけてくれた。

 

つかさもまたかがみ達と同様に

 

「昔をイメージしたら怖いって思ったよ?でも、いまのけいちゃんは全然そんな事ないよ?とても優しくて親切で私達を気にかけてくれる人だもん。」

 

笑いながらつかさは俺にそう言ってくれる。

 

みゆきも俺の目を見ながら

 

「こんなにも友達を思う慶一さんを、私達が軽蔑するはずはないです。本当のあなたを知っている私達は少なくともそう思えますよ?」

 

そう言って、いつもの柔らかい微笑みを俺に向けてくれるみゆき。

 

こうとやまともそれぞれに

 

「私たちは先輩に助けてもらったからこそ、今もやまとと一緒にいられているんです。今の先輩はちゃんと昔の罪を償いながら生きていますよ。」

「私たちをつないでくれた先輩を、あの時からずっと信頼しているわ。高校を変更した事も受け入れてくれた先輩の優しさを、私は知っているから・・・。」

 

そう言ってくれたのだった。

 

そして、今まで黙っていた岩崎さんも

 

「・・・森村さんとは何度かお会いした程度ですけど・・・森村さんの思いやりの心は私にも分かりました・・・。私も森村さんは人として好きになれる人だと思います・・・。」

 

 

俺に対してそう言ってくれたのだった。

 

そんなやり取りを見守っていた瞬が

 

「だ、そうだよ?慶一。ここにはお前を軽蔑視する奴は一人もいないそうだ。俺も含めてな。だからお前もあまり自分を責めるなよ?今はまだ無理でも、いつか・・・自分を許してやれ。」

 

そんな皆の言葉に俺はみんなに背を向けながら涙をこぼしつつ

 

「・・・みんな・・・ありがとう・・・。」

 

俺は皆に背中を向けたままお礼を言った。

 

皆の表情は窺い知る事はできなかったが、なぜかみんなが優しく微笑んでいる、そんな気がした。

 

今日、俺は自分のもう一つの過去と罪を皆に知られる事となった。

 

皆は俺の過去に驚いていたけれど、それでも俺の罪を知りながらも俺を誰一人責める者はいなかった。

 

俺は、そんな皆の気持ちに心が軽くなっていくのを感じながら、いつしか自分自身を許せる日が来るのかもしれないと思っていた。

 

旋律の罪、それは一生消えない物として残ってしまったけれど、その罪を知りつつもそれを受け入れてくれた仲間達と更なる信頼を築くきっかけになれた。

 

俺はこの日を忘れる事はないだろう。

 

だが、この過去が後に慶一を更なる苦しみに誘う事になる事を、この中の誰一人として予想出来る人間はいなかった。

 

俺の試練への足音は、少しずつ俺の元へと歩みを進めているのだった。

 

 


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