らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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旋律達のエピソード〜過去の一幕〜

旋律達の誕生日会からしばらくして、月も変わり6月になっていた。

 

6月といえば梅雨の季節。

 

この時期は俺としてもあまりいい思い出のない月でもあった。

 

今日もこなた達と共に昼食を食べ、勉学に励み一日が終わろうとしていた。

 

こなたはあれからコンプ祭りがどうのとか言って突然バイトを始めた。

 

なので、今日はバイトの為に一足早く帰っていた。

 

柊姉妹も用事があるとの事でやはり先に帰り、みゆきは委員会があるとの事で遅くなると言っていた。

 

みさおとあやのもそれぞれに所用<おそらく前に俺が気付いた彼氏とのデートかもだが>と部活で忙しいとの事で先に行ってしまっていた。

 

一応アニ研の仮部長でもある俺だから部に顔を出すべきかとも考えたのだが、今日は特に俺は来なくても大丈夫だとこうとやまとから言われていたので、今回は久々に一人で家に帰る事になった。

 

普段の俺の周りは騒がしい事この上ない状態だったので、時折こういう事になったりもしたのだが、俺はあの喧騒が少なからず気に入っていたのだろう、少しばかりの寂しさを覚えるようになった。

 

そんな事を気にしつつ昇降口の所へ来て見ると、いつの間にか外は雨になっていた。

 

「おいおい、天気もつはずじゃなかったのかよ・・・天気予報はずれたか・・・?」

 

俺はうんざりした口調で呟きながら空を見上げる。

 

今日は天気予報では雨は降らないと言っていたのを信じたので、傘を持たずに学校へ来てしまっていた。

 

俺はため息を一つついてもう一度空を見上げながら

 

「仕方ない、やむか勢いが弱まるのを待つとするか・・・。」

 

そう一人呟くと、しばらくの間その場で一人ぼーっとしながら佇んでいた。

 

どれくらいの間そうしていただろうか?俺はふいに携帯電話を取り出すと、そこに表示されている時刻を確認する。

 

授業が終わってから俺は、気がつくと1時間以上もの間その場にいたらしい。

 

だが、それでも雨の勢いは弱まる気配を見せなかった。

 

さて、これからどうしようかと思案していると、ふいに後ろから誰かに声をかけられた。

 

「なんや?森村か、いつまでも帰らんとこんなとこで何やってるんや?」

 

独特の関西弁のイントネーションで話し掛けてきたのは、こなたのクラスの担任の黒井先生だった。

 

俺は振り向いて困った顔をしながら

 

「いやー、そうしようと思ったんですが、この雨の所為で帰れなくてどうしようかと思っていましてね。」

 

事情を説明すると黒井先生は昇降口から外の様子を見ながら

 

「確かに酷い雨やな。けどお前、傘とかもってへんのか?」

 

と、聞いてきたので俺はその言葉に苦笑しつつ

 

「いや、実は今日の天気予報を信用してしまったので傘を持たずに学校に来てしまったもので・・・。」

 

ばつが悪そうに先生に返事をすると、先生も少し呆れたような顔で

 

「それは難儀やな。けど天気予報も過信しすぎたらあかん。今回の事はいい教訓になったんやないか?」

 

と、言いながらも顔は笑っているようだ。

 

俺はその様子をみて少しむくれながら

 

「先生が生徒の不幸を笑うというのはいかがなものでしょうかね?」

 

そう反論すると先生はニカッと笑って

 

「他人の不幸は蜜の味ともいうしなー。まあそれはええとしてうちも傘の予備でもあるならお前に貸したいところなんやが、あいにくと自分の分しか持ってなくてな。ほんま、すまんな。」

 

両手を合わせながら俺に謝ってくる先生。

 

俺は再びため息をつき

 

「まあ、仕方ないですよ。とりあえずもう少し待ってみます。ぎりぎりまで待ってどうするか決めますよ。」

 

そう答えると先生は顎に手を当てて俺を見ながら

 

「そか、まああまり遅くならんうちに決断しいや?下手したら学校から出れなくもなりかねんしな。」

 

そう忠告してきた先生に俺も頷きつつ

 

「そうですね、そうなる前に何とかしますよ。」

 

そう返事をすると、先生は笑いながら

 

「そうか、まあせいぜいきばりや。うちは用事もあるから先に帰らせてもらうで?」

 

俺にそう言ってこの場を後にする先生を見送りながら、さて、どうしよう?と再び思案に暮れる俺だった。

 

そうこうしているうちにまたしばしの時が過ぎ、いまだ勢いが落ちない雨を眺めて再び溜息をつく。

 

そのうちに、またも俺を呼ぶ声が後ろから聞こえた。

 

「あら?慶一さん、どうしたんですか?ぼーっとされていたようでしたが・・・。」

 

その声に振り向くと、そこには委員会を終えたみゆきが帰るために昇降口に来た所だった。

 

「ああ、みゆきか。帰ろうと思ったんだが外があの状態でな、傘もないしどうしたものかと途方に暮れていたってとこだ。そっちも委員会終わったのか?」

 

みゆきに現状の説明後に聞き返してみると俺の言葉に頷きつつ

 

「はい、先程終わった所だったんですよ。後は帰るだけでしたので・・・なるほど、確かにひどい雨ですね。一応傘を用意しておいて良かったかも・・・。」

 

みゆきも外を見ながらそう呟いていたが、俺はその呟きの中にこの現状の打開策を見つけ出した。

 

そして、その思いつきの実行の為にみゆきに声をかける。

 

「みゆき、その傘に入れていってくれないか?駅の側のコンビニまででいい。」

 

俺がそう言うと、みゆきも俺がやろうとしてる事に気付いたようで

 

「なるほど、そういう事なんですね?分かりました。それじゃ駅まで一緒に行きましょう。」

 

そう言ってくれたので、俺はみゆきに礼を言って、俺が傘を持ち、みゆきを入れて行く、という感じで学校を後にした。

 

駅への道すがら俺達は雑談等で盛り上がりつつ歩いていた。

 

「そういえばもうすぐ夏だな。みゆきは何か予定あったりするのか?」

 

俺がそんな話を振ってみると、みゆきは軽く首を傾げながら考える様な仕草で

 

「そうですね、みなさんと何かをする予定がなければ今年も田舎へ戻ってのんびりとしているかもしれませんね。」

 

そう応えるみゆきに俺は

 

「なるほどな。みゆきの田舎は避暑地には最適って訳か。」

 

そう返すとみゆきもにっこりと笑いながら

 

「はい、中々いいところですよ?みなみちゃんとも一緒に過ごした事もありますし。」

 

と言う事を教えてくれた。

 

すると、今度は逆に

 

「そういえば慶一さん、あれから猫さん達は元気でやっていますか?」

 

と、みゆきが新たな話題を振ってきたので俺もそれに応えて

 

「ああ、あいつらは元気だよ。病気もしないし、俺としても助かってるな。健康なのはいいことだしな。」

 

俺が笑いながらそう応えるとみゆきも同じように笑顔で

 

「それはよかったです。また猫さん達に会いに行きたいですね。」

 

と言うみゆきに俺は頷きつつ

 

「ああ。俺の予定がない時、みゆきの都合のいい時にでもいつでも会いにくればいいよ。」

 

そう言うと、みゆきはその言葉ににっこりと笑って頷いて

 

「そうですね、その時はお邪魔させてもらいますね。」

 

そう言うと、俺は「ああ」とみゆきに返事しつつ、さらに新たな雑談を楽しんでいたが何度目かのやり取りの後ふと、みゆきは俺に一つ話題を振ってきた。

 

「慶一さん、慶一さんは雨はお好きですか?」

 

俺はその質問に少し考え込みながら

 

「うーん、どちらかというと嫌いな方だな。昔ちょっとした事があってな・・・。」

 

中学2年、こう達と知り合ってからやはり同じように6月にあった事を思い出していた。

 

みゆきはそのちょっとした事というのが気になったのか俺に

 

「慶一さんが話しにくいという事でしたら無理には聞きませんが、話せるという事でしたらその理由を聞かせてもらっても構いませんか?」

 

みゆきが俺にそう言って来たので俺はその言葉に苦笑しつつ

 

「まあ構わないが、あまり楽しい話じゃないぞ?」

 

そう言って一応釘を刺しておいた。

 

俺の言葉にみゆきは頷きながら

 

「構いませんよ?慶一さんの事ももう少し知りたいですし。」

 

というみゆきの言葉に俺はため息を一つつくと、その当時の事を思い出し、みゆきに俺が雨が苦手な理由を話し始めた。

 

「なら話すよ。あれは中学2年の6月の事だったんだが・・・・・・」

 

 

 

俺とこうとやまとが知り合って2ヶ月近くが過ぎ、雨季の6月に入ってから少しして、あの日も俺は天気予報を過信して傘を持たずに家を出ていた。

 

学校の授業が終わる頃には外はどしゃ降り状態で、やはり今日と同じように雨に足止めをくらう結果になってしまった。

 

その日は朝から少し体調を崩し気味だった俺は、勢いの弱まらない雨にげんなりとしながらもこの後どうするかな?という事を考えていたが、自分の体調の事もあったので、とりあえず家に電話をかけて迎えにきてもらうか傘を届けてもらおうと考えて家に電話をかけた。

 

数回のコールの後親父が電話に出た。

 

「あ、もしもし、親父か?もし暇なら傘を忘れて家に帰れないから傘届けるか迎えにきて欲しいんだけど。」

 

事情を説明して助けを請おうとしたが

 

「迎えにこい?馬鹿者、この程度の雨など無視してそのまま帰ってくればよかろう?」

 

親父はにべもなく俺に冷たく言い放つ。

 

そんな親父の理不尽な物言いに俺は親父に激しく言い返した。

 

「あのな?体調が普通の状態なら俺だってそうしてるっての!今日は朝から少し体調が悪いんだ。その状態で雨なんて浴びてみろ、崩さなくてもいい体調をなお悪くしちまうよ!」

 

そう言って抗議する俺に親父もすかさず反論してくる。

 

「体調が悪い?お前の気合が足りないからそうなるんだ!ともかく私は知らん、自分でなんとかするがいい!それもまた、お前の修行の一環だ!」

 

そう言って一方的に電話を切る親父。

 

俺はあまりといえばあまりの事にボーゼンとしながらも親父の物言いに腹を立て

 

「っざけんなくそ親父が!息子を何だと思ってる!」

 

と、思わず叫んでしまった。

 

その叫びを偶然にも聞いていた女生徒が2人いた。

 

女生徒2人は俺の方へやって来ると、俺に心配そうな顔を向けて

 

「どうしたんですか先輩?何か大声で叫んでたみたいですが。」

「何があったのか知らないけれどあまりみっともいいものではないわよ?」

 

そう言って俺に声をかけてきたのはこうとやまとだった。

 

俺は2人の方を向き少し赤くなってばつが悪そうに

 

「あー・・・いや、ちょっと今、親父ともめてな・・・。」

 

大声を出したのが恥ずかしかったのでとぎれとぎれになりながら言い訳をする俺だった。

 

そんな俺にこうは不思議そうな顔で

 

「お父さんとですか?一体またなんでです?」

 

こうがそう俺に聞いてきたので俺はその言葉に頷きつつ

 

「ああ、外、雨ひどいだろ?俺、うっかり傘忘れたし、少し体調も悪いから傘持ってくるか迎えに来てくれって親父に言ったんだが、あいつは気合で何とかしろそれも修行だのとか無茶いいやがったからな。」

 

と、事の経緯を2人に説明すると2人とも困ったような顔で

 

「先輩の所は相変わらずみたいですねえ。」

「確かによくケンカしてるわね・・・。それにしても今回は流石にひどくないかしら?」

 

そう言う2人は俺に同情の目を向けてくれる。

 

そんな2人に俺はやれやれとジェスチャーしながら

 

「だろ?体調崩してなけりゃ親父の言うとおりにでもなんでもするとこだが、今回はちょっときついからな。」

 

そう2人に返事しながらもまた少し悪くなってきた体調に僅かに顔をしかめる俺。

 

そんな俺の顔色を見たのか2人は心配そうに

 

「大丈夫ですか?先輩、顔色悪いですよ?」

「ちょっとつらそうね、本当に大丈夫?先輩。」

 

そう俺に聞いてきたが、俺はちょっと辛いものの、少し強がって

 

「まあちょっときつくなってはきたが、まだ何とかな。所で2人とも傘は持ってないか?」

 

2人と会話してる時に気付いた事があったので聞いてみる。

 

「あ、すいません先輩。私、傘忘れてしまってるので、今日はやまとに入れてもらって帰ろうかと思っていたんですよ。」

「私も2本持っていればよかったのだけど、今日に限って置き傘がなかったから手元にある一本しかないのよ。ごめんなさい。」

 

2人の返答にがっくりときつつも俺は2人の事を考えて

 

「なら仕方ないな。2人ともそろそろ遅い時間だし、俺の事はいいから先に帰れ。俺は何とかしてみるよ。」

 

ここに来てまたしても強がる俺を心配そうに2人は見ていたが、これ以上遅くなるのもまずいと感じたらしく

 

「先輩本当にすみません、お先に失礼しますね。それじゃ行こう、やまと。」

「わかったわ。先輩くれぐれも無理はしないようにね?」

 

俺は2人に笑いながら

 

「ああ。こんな状態で無理しても馬鹿を見るだけだしな。ともかく、2人とも事故に遭わないように気をつけて帰れよ?」

 

そう声をかけると2人とも俺に手を振りながら

 

「分かってますよ、先輩。それじゃまたー。」

「先輩も気をつけてね?体調悪いんだから早めに帰って養生しなさいよ?」

 

挨拶を返しながら帰っていく2人を見送りながらさて、どうしよう?と再び思案に暮れる俺だった。

 

やまとside

 

先輩と別れてこうと2人で帰っている私達だが、私はさっきの先輩の顔色とつらそうな感じが気になっていた。

 

「先輩、大丈夫かな?大分つらそうだったよね?」

 

さっきの先輩の事が気になったのか私に話を振ってくるこう。

 

「そうね・・・少し心配といえば心配ね。先輩どうするつもりなのかしら・・・?」

 

私も少し気になっていたのでこうにそう答える。

 

こうに返事しながら心の中で私は

 

(先輩、ああいっていたけど、あの顔色と状態見てるとかなり辛そうだったわね・・・こうを送り届けた後、傘を届けに学校へ戻ってみようかしら・・・?)

 

そう考えるのだった。

 

そして、こうを家に送り届けて、私は先輩に傘を届けてあげようと自分の家に傘を取りに行く為に急いだ。

 

家について先輩に貸す為の傘を持つと、私は再び足早に学校への道を戻っていくのだった。

 

慶一side

 

あれから色々と考えを巡らせてみたが、体調不良の頭ではまったく考えがまとまらず、かといって傘を用意できるわけもなく、だったので俺は仕方なく親父の言うように雨の中をそのままで飛び出した。

 

しばらく雨に当たりながら最初のうちは走れていた体だったが、徐々にこの悪い体調が俺の体力と気力を奪い、すぐに走る事ができなくなり雨に打たれながらぼーっとした頭で歩いていた。

 

「・・・くそ・・・ぼーっとしやがるな・・・やっぱ・・・この状態じゃ・・・無理・・・だった・・・・・・。」

 

そう呟いた次の瞬間、俺の意識は闇に落ちた。

 

やまとside

 

こうを送り届けた後私は、先輩に渡す傘を持って再び学校へと急いでいた。

 

学校に大分近づいた頃、先輩といつも帰っている通学路の途中の道路の電信柱付近になにやら倒れている人影を見つけた。

 

私は変な胸騒ぎを覚えてその人影に近づくと、その人はびしょ濡れになって意識を失っている先輩だった。

 

私は慌てて先輩の元に近寄り先輩に声をかける。

 

「先輩!大丈夫!?しっかりして!先輩!先輩!!」

 

大声で呼びかけるが先輩からの返答はない。

 

先輩は完全に意識を失っていた。

 

私は慌てて先輩の額を触ってみる。

 

その体は普段よりも熱さを感じさせ、先輩の熱がかなり高いのだという事が感じられた。

 

このままじゃまずいと感じた私は、先輩の家に電話を入れて助けを求める事にした。

 

数回のコールの後

 

「もしもし、龍神ですがどちら様ですか?」

 

と、先輩のお母さんが電話に出たので私は慌てながらも

 

「慶一先輩のお母さんですか?私は先輩の友人で永森やまとと言います。実は・・・・・・と言うわけなんです。お願いです、助けて下さい!」

 

なんとか事情を説明すると、先輩のお母さんはすぐに先輩のお父さんを迎えによこしてくれた。

 

倒れた先輩を先輩のお父さんがおぶってすぐさま先輩の家の方へと移動を開始し、私は先輩のお父さんの後について行き、私達は一緒に先輩の家へと急いだ。

 

その際にこうにも連絡をいれると、こうも慌てて先輩の家にかけつけたのだった。

 

家に着き、先輩のご家族が先輩を着替えさせ布団に寝かせて私達は先輩の様子を伺う。

 

先輩のお母さんは私からの電話を受けてすぐにお医者さんを呼んだようだった。

 

そんな中、先生が来るまでの間、私とこうは2人で先輩を見ていた。

 

「やまと、先輩大丈夫かな・・・?」

 

こうが心配そうに聞いてくる。私も心配そうな顔で

 

「私が見つけた時には大分熱も高いようだった・・・。心配があるとすれば肺炎とかかしらね・・・?」

 

私はこうにそう返答すると、こうも先輩の顔を見ながら黙り込んでしまった。

 

しばらくするとお医者さんが来てくれて先輩の状態を診てくれた。

 

「軽い肺炎になりかかっていました。もう少し発見が遅れていたら命にも係わっていたでしょう。そちらのお嬢さんのおかげですね。ともかく後は安静にしている事です。ではお大事に。」

 

そう言って帰っていくお医者さんにお礼を言い、私は再び先輩の部屋へと戻ってきて先輩の看病をこうと一緒にしたのだった。

 

結局その日は先輩が心配だった事もあり私達は先輩の家に泊り込む事となった。

 

次の日の朝先輩が目を醒ますまで私達はずっと先輩の側についていたのだった。

 

慶一side

 

俺が意識を失っていた時に起きていた出来事は、後にやまとから詳しく聞く事となったが、俺が自分の部屋で目を覚ました時には、その空白の時間におきた事を何も知らずにいた。

 

やまと達を心配させていた事も知らず、ちょっとした騒ぎになっていた事も知らず、だったが、俺は自分の部屋でようやく意識を取り戻した。

 

(ううん・・・なんだろう、なんだか暖かいな・・・俺は確か学校の帰りに・・・どうしたんだっけ・・・?ん?・・・人の気配?)

 

俺は誰かの気配を感じて目を開けた。

 

そこは俺の見知った天井であり、部屋だった。

 

周りを見渡した時、こうとやまとが俺の側について眠っているのが見えたので、俺は驚いて飛び起き2人に声をかけた。

 

「おい、2人とも起きろ。お前ら俺の部屋で何をしてるんだ?」

 

2人の方を揺すってみると2人は目を醒まして俺を見るなり涙目になりながら飛びついてきた。

 

「先輩!先輩、よかった。もう大丈夫なんですね?」

「心配したわ。先輩、もう体は大丈夫?」

 

俺はいきなり涙目で飛びつかれる状況が理解できず、混乱した頭で2人に

 

「おい、落ち着けって。2人とも、一体何があったんだ?」

 

俺が事情を聞くとそれにはやまとが答えてくれた。

 

「昨日先輩と別れた後、先輩の事が気になったんでこうを送った後、先輩に傘を届けようと家に傘を取りに戻って学校へ向かったら、通学路の途中で先輩が倒れていたのを見つけたのよ。それで私は慌てて先輩の家に連絡して助けを呼んで先輩を家に運んできたの。その時には先輩のお父さんがかけつけてくれたわ。」

 

そこでやまとは一旦言葉を切り再び悲しそうな顔で言葉を続けた。

 

「家に着いても先輩の意識が戻らなくて、お医者さんに来てもらって先輩を診てもらったわ。幸い命に別状はなかったけれど、私達は心配だったから、先輩の看病をするために、先輩の部屋にいさせてもらったのよ・・・。」

 

やまとの説明を受けて俺は申し訳なさそうな顔をして

 

「そうだったのか・・・2人とも心配かけたな。本当にごめんな?」

 

俺が2人に謝ると、2人は俺から離れて少し顔を赤くしながら

 

「先輩が無事でよかったです。今後はあまり心配かけないで下さいね?」

「友達を失うのはごめんだわ。先輩、今度はもうこんな無茶はしないで・・・もうあんな怖い思いはしたくないから・・・。」

 

そんな2人の言葉に俺はますます申し訳なくなって

 

「そうだな・・・自分で言った事なのに結局無理してお前らを悲しませるような真似しちゃったよな・・・まったく、俺はなにやってるんだか・・・」

 

俺の言葉に2人とも涙を拭って笑顔になって

 

「もういいですよ先輩。それより、体は大丈夫ですか?」

「分かってくれればいいわ。とにかく今日は1日、熱が引いて来てるとはいえ無茶はしないこと。いいわね?」

 

と言ってくれる2人に俺は笑顔を返しつつ頷いて

 

「ああ、わかったよ。今日は2人を心配させない為にも大人しくしてるさ。元気になったらまた遊ぼうな。」

 

そう言うと2人は「「早く元気になってね?」」と言ってくれた。

 

俺は2人に頷き返して、その後親父に不本意だったが、助けてもらった礼を言いにいったら珍しく親父は

 

「今回は私の判断が間違っていたようだ。無理をさせたな、すまなかったな、慶一。」

 

と素直に謝っていた事が印象に残っていた。

 

俺が親父と交わす初めての、お互いが素直になったやりとりだった。

 

 

 

 

「・・・・・・ってな事があったのさ。」

 

俺が話し終えると、みゆきは”ほーっ”と軽いため息をつきながら

 

「か、かなり大変な事になったんですね。でも、無事でよかったですね。」

 

と言うみゆきに俺も頷いて

 

「そうだな。今こうしてみゆきやみんなと話していられるのも、あいつらが俺を助けてくれたからなんだ、って思うと、あいつらには命を救ってもらった事、凄く感謝してるよ。」

 

俺がみゆきにそう言うと、みゆきもにっこりと微笑みながら

 

「そうですね。私も感謝といったところでしょうか・・・。その時に慶一さんが亡くなってしまっていたら、こうして出会う事もできなかったのでしょうし。」

 

さり気なく”どきり”とするような事を言うみゆきの顔をまともに見れなくなって俺は照れ隠しに顔をそらす。

 

顔をそらしながらも俺は

 

「ま、まあ、みゆきの言うとおりかもな。あの時死んでたら今ここにいなかったんだし。」

 

と、照れでしどろもどろになりながらもみゆきにそう答える。

 

そんな俺を見つめながら、みゆきはいつもの柔らかな笑顔で微笑んでいた。

 

「出会えてよかったですよ?慶一さん。」

 

さり気なくそう言うみゆきの言葉に俺は再び照れで顔を赤くする。

 

そうこうしてるうちに目的の駅前へと俺達は辿り着いた。

 

俺はコンビニを見つけると、みゆきに待っていてもらい傘を買いに行った。

 

傘を買ってコンビニから出てきて俺は、みゆきについでに買ってきた紅茶を渡した。

 

「サンキューみゆき。これはここまで入れてくれた礼だ、こんな物で悪いけど俺のおごりだ。」

 

そう言う俺からみゆきは、紅茶を受け取りつつも苦笑して

 

「別にお礼なんていいんですよ。私も大した事をしたわけではありませんし。でも、せっかくのご好意ですから、これはありがたく受け取らせていただきますね?」

 

そう言いながらも紅茶を受け取ってくれたので、俺はほっとしながら

 

「それじゃここで。みゆき、今日はありがとな。おかげで助かったよ。」

 

そう言って駅でみゆきと別れる。

 

みゆきもそんな俺に手を振りながら

 

「いえ、このくらいの事でしたらいつでも協力しますから。それと、今後もあまり無茶はなさらないでくださいね?」

 

と、俺に釘を刺すのだった。

 

俺はそんなみゆきの言葉に苦笑しながらも「ああ、わかってるさ。」そう、みゆきに返事をして家に帰るのだった。

 

 

 

 

俺は旋律達に生かされた。

 

旋律達が俺を助けてくれた事が今につながっていると今日過去を振り返って改めて実感する俺だった。

 

それと同時に、旋律達が作ってくれた未来に俺は今日感謝をしながら、自分がここに生きている事そして、旋律達に出会えた事を嬉しく思うのだった。

 

梅雨はまだまだ始まったばかり。

 

昔のトラウマがある俺は少々憂鬱な日々が今しばらくは続くが、皆と一緒に過ごして行くならそれすらも克服できそうだ、と思うのだった。

 

 


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