らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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今回はそんなに期間を空けずに後編投稿です。


雑音(ノイズ)の中で、お見舞いと密かな決意、後編

みゆき達がきっかけで始まった風邪が徐々に周りへと広がりを見せる中、その影響はそれぞれの家の家族にも飛び火しはじめていた。

 

俺は、風邪が飛び火している家に俺の持つ龍真丹という薬を渡したが、それでもまだ心配があった事もあり、みなみやこうのお見舞いに来てくれたこなた達を駅まで送り届けた後、夕食を済ませてから俺は、とりあえず家の所在がわかっている仲間達の所へとお見舞いがてら様子を見に出かけた。

 

峰岸家と柊家の訪問を済ませた俺だったが、柊家には俺が訪れる2時間程前に龍兄の訪問があったらしい。

 

柊家を後にするまえにまつりさん、いのりさんの2人に会った俺だったが、2人の様子がいつもとは少し違っていた事に俺は、龍兄とこの2人との間になんらかのやりとりがあったのかもしれない、と感じていた。

 

そういう部分は少し気にはなったものの、俺は今はその事を一時置いておいて次のお見舞いへと向かうのだった。

 

慶一が柊家を訪れる2時間前・・・・・・

 

龍也side

 

慶一からの連絡を受けて俺は、親父に薬のストックの有無を確認した。

 

それと同時に柊家においてただおさん達やまつりさん、いのりさんが風邪でダウンしている事も慶一から伝えられる。

 

慶一の2人のお見舞いに行ってあげて欲しいという言葉に軽いため息をつきながらも複雑な胸中の俺だったが、そんな折に薬の事で話をしていた親父にも2人の事について言われる事となった。

 

親父に言われた言葉を改めて考えつつ、2人の事を考えながらも俺は、とりあえずお見舞いと同時に2人に会ってみようと考えて、薬の件を親父に託してから俺は柊家へと向かったのだった。

 

そして、柊家に着いてかがみちゃんに出迎えてもらい、まずはただおさん達の所へと挨拶に出向く。

 

その後、まつりさん、いのりさん達の部屋へとかがみちゃんに案内してもらいながら俺は、親父に言われた事を思い返しつつ、俺もまた、2人と真剣に向き合ってみようと考えた。

 

2人が寝ている部屋へと辿り着いた俺は、ドアを軽くノックする。

 

部屋の中から2人の「どうぞー」という声に俺もまた「入りますよ」と声をかけて部屋に足を踏み入れると、2人は俺の来訪に驚いたようだった。

 

そのままかがみちゃんは1度部屋を後にし、俺達は部屋に3人だけとなったのだった。

 

「こんばんは。お2人ともその様子だと慶一からもらった薬が効いているみたいですね。とりあえずはほっとしました。」

 

俺がそう切り出すと、2人は少し苦笑しつつ

 

「あはは・・・なんか急に風邪引いちゃったのよね。でも森村君がかがみに薬を預けてくれたみたいで、本当助かったわー・・・あ、それと、龍也さん、来てくれると思わなかったからちょっとびっくりしちゃったわ。」

「まったく・・・まさかお父さん達だけでなく、私達までこんな事になるとは思いもしなかったわよ。でも、ありがとう、龍也さん。顔を見せに来てくれただけでもなんだか元気がでる感じよ。」

 

そう言う2人に俺も軽く頭を掻きつつ

 

「まあ、慶一から聞かされて驚きましたけどね。とりあえずは大した事がないみたいだからよかったかな。」

 

そう返すと、2人とも嬉しそうな顔をしていたのが見えた。

 

俺は、そんな2人の姿を見て改めて気を引き締める。

 

気を引き締めると同時に少し俺自身も真剣な表情になったらしく、そんな俺の変化を感じ取ったらしい2人もまた、表情が真面目なものに変わったのを感じた。

 

俺は、軽く息をつくと、2人を真剣に見つめつつ、話を始めた。

 

「・・・実は、お2人に大事な話があります。お見舞いに来た、というのも本当なんですが、それは口実でもあります。これからしようとする話は俺にとっても大事な事となるでしょう。だからこそ、この機会にしておくべき、と考えました。」

 

俺のその言葉に2人も緊張の面持ちで

 

「大切な事、なのね?」

「・・・わかったわ。聞かせて?龍也さん。」

 

そう言う2人の言葉に俺は重く頷くと、2人に先を話しはじめた。

 

「・・・ありがとうございます。では、話しますね。お2人とは鷹宮神社での出会いをきっかけとしてこれまでも旅行先等でお会いしたり、絡んだりと色々やってきました。期間にしてみれば短いものではありますが、その際にはお2人からは熱烈とも言えるアプローチも受けて来ました。俺は最初は、お2人には結構戸惑う事もあったのですが、それでも自分に対して好意を向けてもらえた事対しては俺自身、悪い気はしていません。」

 

ここまで話して俺は一端言葉を切る。

 

2人は俺のその言葉に少し照れているようにも見えたが、俺もまたそんな2人につられるように少し照れつつも話の先を進めた。

 

「お2人にもかがみちゃんを通じて、俺が元々は武者修行の旅に出ていて、今は用事で親父に呼び戻されて一時的に実家に戻って来ている、という事は聞かされているかと思います。そして、その用事が済んだなら再び旅に出る、という事も・・・」

 

そこで言葉を切ると、2人とも俺を見つめつつゆっくりと頷く。

 

それを見てから俺は更に話の先を進める。

 

「・・・俺は、旅人だったから、それなりには他人との交流もありました。とはいえ、それも、その日、その場での交流に留まっていた事もあり、付き合い等はそれぞれそれですが、それ程深い物でもありません。ですが、今回の事でいつもよりも長めに1つの場所に留まる事になり、お2人とはいつもよりも長い時間を過ごしています。」

ここまで話すと、俺は大きく1つ息をつく。

 

そして、更に先へと進む。

 

「お2人と出会った事、そして過ごして来た時間も、俺が再び旅に出ればこれだって一時の物、だと俺の中では思っていました。けれど、親父と話をし、お2人の事を思い返した時、今回はいつもと違う、そう感じました。旅先で出会った人の中にも色々な人はいました。異性と接する事もなかった訳じゃない。それでも、1つの所にこれほど長く留まった事もなかったし、俺にしてみればお2人との付き合いは今までよりも長い方でした。」

 

一端言葉を切り、更に先へ

 

「・・・その事は、俺の中で始めて、いつもとは違う気持が生まれている事に気付かせる事となりました。俺もその事に思い至った時には少し困惑しましたが、俺はこの気持ちに向き合って見るべきなのかもしれない、そう思いました。そして、その為には確認すべき事があると思った事もあり、今回、お見舞いに来させてもらった、という訳です。」

 

そう言って俺は、一端説明を終えると、2人を見つめる。

 

2人は俺の言葉を受けて

 

「・・・そっか、龍也さんの話は分かったわ。」

「自分の気持ちに向き合う、そう言っていたわよね?それが、私達にも関係があるのよね?」

 

そう言う2人に俺は頷き

 

「そうです。ですが、その前にお2人に確認したい事があります。」

 

2人にそう言うと、2人は俺の言葉に頷いて、俺の言葉を待つ。

 

「この事を改めて聞くのは照れくさいのですが、聞かせてください。お2人の俺へのアプローチやあの言葉は本気ですか?本気で俺に対してそう思ってくれているのですか?」

 

意を決して俺はそう告げる。

 

俺の言葉に2人は顔を赤くしたが、大きく深呼吸してから俺を真っ直ぐに見詰めて

 

「・・・わ、私は本気だよ。龍也さんと過ごしているうちに龍也さんと始めて出会って感じた淡い気持が確かな物になったから・・・」

「・・・わ、私だって本気。今だからわかる。私は龍也さんに一目惚れしたんだから・・・」

 

その言葉に俺は心の中でうろたえつつ、顔を赤くしつつも2人を再び見つめ返すと

 

「わ、わかりました。なら、俺も・・・俺もお2人の事を本気で考えてみたい。その為に少し時間が欲しい。答えはきっと出すつもりです。なので、少しわがままかもしれませんが、その時まで待っていてもらえますか?」

 

そう、真剣な表情で2人に告げると、2人は俺の言葉に驚いて一瞬目を見開いたが、その顔は途端にゆがみ

 

「ほ、ほんと?ほんとに考えてくれるの?私たちの事、真剣に考えてくれるの?それが本当なら、私、待つ。龍也さんの答えを待つわ。」

「・・・うれしい・・・龍也さんが真剣になってくれたなんて・・・私も待つわ。だから・・・」

 

歓喜の涙をこぼしながら2人は俺にそう言ってくれた。

 

俺はその言葉に頷くと

 

「わかっています。きっと、きっと答えを出します。今日俺は、この場でお2人に約束します。まつりさん、いのりさん。俺に時間をくれた事、感謝します。」

 

2人にそう伝えるのだった。

 

2人は俺のそんな言葉に最後には笑顔で頷いてくれた。

 

今日俺は、ここで大きな決断を心に秘めて柊家を後にしたのだった。

 

まつり、いのりside

 

突然引いてしまった風邪で私達とお父さん達も同時にダウンする事となってしまった。

 

病気にかかると少し心細くなる、という事をよく耳にしたが、私達もそれは例外ではなかったらしい。

 

私達は何気に、だったが、こういう時に龍也さんがお見舞いに来てくれたらいいのにな、と考えていたのだが、どうやら森村君が気を利かせてくれていたらしく、龍也さんが私達のお見舞いに来てくれたのだった。

 

突然の龍也さんの来訪に私達はびっくりしつつも嬉しくもなり、気を利かせてくれた森村君にも心の中で感謝をしていた。

 

けど、龍也さんは私達にお見舞い以上の事を考えていたらしく、今日、私達は龍也さんからとても大事な話を聞く事となった。

 

龍也さんの話を聞き終え、私達は今聞かされた事が実は夢なのではないだろうか?と疑ってしまうくらいに驚き、動揺した。

 

そして、龍也さんが帰ってから私達はお互いに今回の事についてやりとりをするのだった。

 

「びっくりしたね、いのりねえさん。龍也さんが急に・・・」

「そうね、私も未だにこれが現実なのかな?って思うほどよ。でも、龍也さんが私達の事を考えてくれる、って言ってくれた事は嬉しかったかな。」

「そうだね。私達は龍也さんには結構アピールしてきたつもりだったけど、それがちゃんと龍也さんに届いているのか不安だったのよね。」

「私も、かな。でも、龍也さんは私達を嫌っている、という感じがしなかった。少なくとも嫌われてはいない、そうは思えていたけど・・・本当に龍也さんは私達の事を考えてくれる、そこまでになっていたなんて思ってもみなかっかったかな。」

「・・・うん。私も。」

「・・・まつり。」

「なに?いのりねえさん。」

「龍也さんは私達の事を真剣に考えてくれる、って言ってくれた。だから、私も今まで以上に真剣に向き合うつもりよ。その為に私は今日ここであんたとも約束をしようと思うの。」

「・・・いのりねえさんの言いたい事はわかるよ。だって、それは、私もいのりねえさんに言いたい事だったから。」

「そっか・・・なら、今ここでお互いに言いましょう。まつり、私はもしも自分が選ばれなかったとしたら、龍也さんの事はすっぱりと諦める。」

「私も。もし、私が選ばれなかったら龍也さんの事は諦めるわ。」

「だから」

「どっちが選ばれたとしても・・・」

「「恨みっこなしだからね?」」

 

最後はお互いにそう言い合い、お互いに顔を見合わせて笑いあい、そして、お互いに胸の内に闘志を燃やす私達だった。

 

それと同時に、どちらが選ばれたとしても選ばれた方を祝福してあげよう、とも心の中で決めていたのだった。

 

龍也side

 

自分の中の気持を覚悟に変えて、俺は柊家から実家へと戻って来ていた。

 

親父から慶一に届ける為の薬の件について話を聞いてから俺は、親父に話かけた。

 

「親父。」

 

俺の言葉に親父は「なんだ?」と返してくる。

 

俺はそんな親父の言葉に少しだけ照れながら

 

「親父が言っていた事、俺、真剣に考えてみるつもりだ。」

 

と、親父の顔を見ないようにしつつ、そう言うと、親父は

 

「・・・そうか。それは何よりだな。まあ、せいぜい悩む事だ。」

 

と、いつもよりも少し優しげな声でそう言う。

 

俺は、そんな親父の声の変化に軽く溜息をつきつつ

 

「・・・ああ、せいぜい悩む事にするさ。」

 

そう吐き捨てつつ、結局は親父の思い通りになった事に再度心の中で大きく溜息をつく俺だった。

 

慶一side

 

柊家においてちょっとした異変らしきものを感じつつも俺は、気持を切り替えつつ、柊家を後にして後2箇所のお見舞いに周る事にした。

 

自転車を走らせて先に向かったのは、ひよりの家。

 

俺は、夜道を軽快に飛ばしつつ、ひよりの家へと向かう。

 

そうこうしているうちにひよりの家へと辿り着いた俺は、自転車を家の前に留めて、田村家の呼び鈴を押す。

 

少し待っていると、「はーい、どちら様?」という男の人の声が聞こえ、玄関の戸が開き、中から前にも会った事のあるひよりのお兄さんが顔を出した。

 

俺は、その顔を確認すると、早速ひよりのお兄さんに声をかける。

 

「こんばんは、森村です。ひよりさんの様子が気になったので、お見舞いに伺わせていただきました。ひよりさんの具合はどうですか?」

 

と、俺がそう言うと、その俺の言葉にひよりのお兄さんは俺の顔を見て少し驚きつつ

 

「おお、君だったか。わざわざ悪いね、うちの妹の為にさ。ひよりなら部屋で寝てると思うけど、せっかくだからあがっていくかい?」

 

そう言ってくれたので、俺はその言葉に頷きつつ

 

「ありがとうございます。それじゃ、少しお邪魔しますね。」

 

そう言うと、俺は田村家にお邪魔する事にしたのだった。

 

以前に行ったひよりの部屋へとお兄さんと共に向かう途中、ひよりのお兄さんは「お茶でも入れてくるから先に部屋へ行っててくれ」と俺に言いつつ、途中で分かれて行った。

 

俺はそんなひよりのお兄さんに「おかまいなく。」と声をかけつつひよりの部屋へと向かう。

 

部屋に着いた俺は、部屋のドアを軽くノックしてみる。

 

すると、中から「兄貴?とりあえず入っていいよ。」と言う言葉を聞いた俺は、「お邪魔するよ。」と返事を返しつつ部屋へと足を踏み入れる。

 

俺の姿を確認したひよりは驚いて

 

「へ?け、慶一先輩?どうして先輩が家にいるっスか?」

 

そう言ってくるひよりに俺は軽く笑いながら

 

「あー・・・ひよりがダウンしたといずみから聞いたんでな。ちょっと気になって様子を見に来て見た、って所だよ。」

 

そう言うと、ひよりはそんな俺の言葉に照れながら

 

「そ、そうだったんスか。でも、びっくりしました。先輩、家に来る、って連絡もなかったっスからね。」

 

その言葉に俺は苦笑しながら

 

「はは。ちょっと急いでた事もあって連絡しそびれた、悪いな。それより、体調の方はどうだ?いずみに薬を届けてくれ、と頼んだんだが、いずみはちゃんと届けてくれたか?」

 

ひよりに詫びつつもそう尋ねると、ひよりは俺の言葉に頷いて

 

「はい。少し前に委員長が家に来てくれてうちの兄貴が薬を預かったとの事で、早速飲ませてもらいました。薬は先輩から預かったと聞いてましたんでびっくりしたっスけど、この薬、ほんとよく効くっスね。」

 

そう説明してくれた。

 

俺はその言葉に頷きつつ

 

「ん。それなら安心だな。ひより、お前の家の家族構成を教えてくれないか?念のためにひよりの家族の分も薬を渡したいからな。」

 

そう言うと、ひよりは俺の言葉に嬉しそうにしつつ

 

「私だけでなく家族の事も気遣ってくれるのはありがたいっスね。ともあれ、今回は先輩のご好意に甘えさせてもらうっス。うちはですね・・・・・・という感じです。」

 

ひよりの説明を聞いた俺は、早速ひよりに家族分の龍真丹を手渡す。

 

「1日1回1錠で、風邪を引いた時に飲んで、その翌朝にもう1つ飲むように、と伝えてくれ。この薬なら、それで完全によくなるからな。」

 

そう説明すると、ひよりは俺の言葉に頷いて

 

「わかりましたっス。もしも私の風邪が飛び火するようならその時にはありがたく使わせてもらいます。」

 

その言葉に俺も頷きで返しつつ

 

「ん。まあ、なんにしても、だ。少し体調が良くなったからといってあまり無茶はしないようにな。その風邪がちゃんと治るまでは漫画を描いたりも禁止、その事はきっちりと釘を刺させてもらう。」

 

少し強めの口調でそう言うと、ひよりは俺の言葉にびくりと一瞬身を震わせたのを見た。

 

そして、ひよりは苦笑しつつ

 

「わ、わかってるっスよ。無茶はなるべくしないようにするっスから。ははは・・・」

 

そう言って何かを誤魔化すかのように笑うひよりに俺は内心で大きく溜息をつきつつ(あれは絶対無茶する気だったな?)と思う俺だった。

 

ともあれ、ここでのやる事も済ませた俺は、その後、お茶を持ってきてくれたひよりのお兄さんにお礼をいいつつお茶をご馳走になった後、田村家を後にしたのだった。

 

田村家での用事を済ませた俺は、今日向かう最後の場所である泉家へと自転車を走らせた。

 

しばらく自転車を飛ばし、何度か通った泉家への道を走り抜けてようやく到着した頃には時間も午後9時を回っていた。

 

ちょっと遅くなったかな?と思いつつも気を取り直して俺は呼び鈴を押す。

 

少し待っていると、玄関に人の気配を感じた。

 

「はーい。どちら様ですかー?」

 

と言う声と共に玄関が開かれると、そこには髪を下ろしたゆたかの姿があった。

 

「こんばんは、ゆたか。ちょっと遅い時間だけど、そうじろうさんの事が気になってね、お見舞いに来たんだ。」

 

そう、ゆたかに声をかけると、俺の突然の来訪に驚いたのか、ゆたかは少し慌てながら

 

「え?ええ?慶一先輩、ですか?び、びっくりしましたよー。あ、えっと・・・おじさんの様子を見に来てくれたんですね?ありがとうございます。とりあえず上がってください。」

 

そう言って俺に家にあがるように促してくれたのを受けて、俺は「お邪魔します。」と一言ゆたかに伝えて泉家にお邪魔した。

 

ゆたかに案内されながらそうじろうさんの部屋へと向かう途中、俺の声を聞きつけたのか、こなたが勢いよく2階から駆け下りてきた。

 

ゆたかはそんなこなたに驚きつつ「あ、こなたおねーちゃん。」と言い、こなたもゆたかの姿を見て「やふー、ゆーちゃん。」と挨拶をしていた。

 

そして、俺の姿を見つけると

 

「あ!慶一君!?なんか声が聞こえたから慌てて降りて来たんだけど、急にどうしたのさ?」

 

そんなこなたに俺は軽く笑いながら

 

「ああ、ちょっとそうじろうさんの様子が気になったから、様子見にね。あれからそうじろうさん、どんな感じだ?薬は飲ませたんだろ?」

 

ここに来た経緯を説明しつつそう言うと、こなたは俺の言葉に

 

「え?わざわざその為に来てくれたんだ。慶一君も意外と律儀な所、あるよねえ。とりあえずお父さんには慶一君からもらった薬は飲ませたよ。朝に比べたら大分落ち着いてるかな。」

 

そう説明してくれたのを受けて俺はとりあえずは安心しつつ

 

「そうか、それならよかったよ。なあ、こなた。そうじろうさん、薬で少し体調良くなったからって言って執筆活動してたりしないよな?そうじろうさんも結構無茶するらしい、ってのはこなたから聞いてたし、少し心配なんだが・・・治りかけで無茶してまたぶり返し、ってのもどうかと思うしな。」

 

俺の言葉にこなたは人差し指を立てて考え込む仕草をしつつ

 

「うーん・・・私が7時頃にお粥を持っていった時にはおとなしく寝てる感じだったけど、今はどうかなあ?その後はわからないけど。」

 

その言葉に俺は少し考え込んだ後

 

「まあ、なんにしても、ちょっと会って行くよ。」

 

こなたにそう言うと、こなたは俺の言葉に頷いて

 

「わかったよー。あ、それと、お父さんの様子見終わったら時間あるなら私の部屋に寄ってよ。実は慶一君に紹介したい新しい漫画とかがあるんだよね。」

 

そう言うこなたに俺も頷きで返しつつ

 

「わかった。あまり遅くなれないけど、少しぐらいならな。それじゃ、先にそうじろうさんの所に行って来る。」

 

そう言うと、こなたも頷いて2階へと戻って行った。

 

俺は、こなたを見送ってからそうじろうさんの部屋へと向かう。

 

部屋に着くと、俺はドアを軽くノックする。

 

中から「どうぞー。」と言う言葉が聞こえ、俺は、「失礼します。」と声をかけると、部屋の中へと入って行く。

 

そこには、布団から上半身を起こし、目の前に小さな机とパソコンを置いて仕事をしているらしい、そうじろうさんの姿があった。

 

そうじろうさんは俺の姿を見ると

 

「おや?森村君じゃないか。どうしたんだ?こんな時間に。」

 

その言葉に俺は苦笑しつつ

 

「そうじろうさんが風邪でダウンしたとお聞きしまして、ちょっと様子を伺いに立ち寄らせていただいたんです。」

 

そう説明すると、そうじろうさんも苦笑しつつ

 

「はは。なるほどな。どうせなら美人のおねーさんとかが嬉しい所だが、まあ、君にも今回は薬をもらって世話になってるし、贅沢は言えないか。」

 

と言うそうじろうさんの言葉に更に苦笑する俺だったが、とりあえず気を取り直すと

 

「とりあえず薬が効いたみたいでなによりです。が、それでもまだ完全に治った訳ではないんですから、できれば仕事は控えて下さい。まあ、言っても無駄かもしれない、って感じはしますけど・・・」

 

その言葉にそうじろうさんは再度苦笑して

 

「あー・・・そういやそうだったね。とりあえず薬の件は感謝するよ。本当によく効くみたいだ。それと、仕事に関してはまあ、目をつぶってもらうしかないかな?とはいえ、一応は心配してくれてるみたいだし、そこはありがとうといっておこう。」

 

その言葉に俺は、これは止められそうにないなあ、と心の中で溜息をつきつつも、一縷の望みにかけてそうじろうさんへ説得の言葉を投げかけた。

 

「それでも、自分がまだ病人だって事は自覚して下さいね。あなたの作品を待っている読者もいるんですから、無茶は程ほどにしてくださいよ?」

 

その言葉にそうじろうさんは「うっ!」とうめいて

 

「・・・うーむ・・・そう言われたら流石に無茶はできないか・・・ふう、仕方ない。ここはおとなしく君の言う事を聞いておくか。君もまた、俺の本の読者の1人だしな。」

 

軽く溜息をつきながらそう言うそうじろうさんの言葉に、俺はとりあえずほっと胸を撫で下ろして

 

「わかっていただけたら何よりですよ。それじゃ、ここに長居するのもなんなので、俺はこれで。お大事に、そうじろうさん。朝にはもう一度あの薬を飲んで下さい。」

 

そう言うと、そうじろうさんも俺の言葉に頷いて

 

「わかった。わざわざありがとう。君に言われた通り、明日もう一回あの薬を飲んでおくよ。夜も遅いからね、気をつけて帰るんだ。」

 

その言葉に俺も頷くと

 

「はい。それじゃ、今日はこれで。」

 

そう言って俺は部屋を後にするのだった。

 

その後、少し時間をとってこなたの部屋に行き、こなたから新しい漫画等を紹介してもらい、何冊かをこなたから借りて泉家を後にした。

 

家に戻る途中俺は、自転車を走らせながら雑音(ノイズ)はまだ終わらない、そんな予感を感じていた。

 

薬も後僅か、新たなストックの到着を俺は、なるべく早く届くようにと、心の中で祈らずにはいられなかったのだった。

 

 


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