幸運の招待状を得て俺達は、近々オープンするという松嶋プレイワールドへとやって来た。
色々波乱もあった1日目が過ぎ、またしても波乱含みの2日目、俺達の幸運な時間もそろそろ中盤から終盤へと向かっていた。
そして、その終盤にこなたによって連れて来られた場所は、ある意味遊園地の定番とも言える場所でもあった。
俺達のやって来た場所、そこはお化け屋敷なのだった。
ここでも皆が、今まで同様に俺と動く事に関しての順番決めが行われたのだが、話し合いの結果、まずは1年生組みとの行動開始となり、ゆたかが限界を超えて気を失うというハプニングがあったものの、とりあえずはクリアを果たしたのだった。
そして、次はこうとみく、たまきの3人を含めた2年生組、そして、やまと単独、その後は3年生組へと進むらしい。
俺はとりあえずこう達に声をかけて行動開始を促すのだった。
「よーし、後もつかえているから次行くぞ。こう、みく、たまき、準備はいいか?」
そう声をかけると、3人はこれから起こる恐怖に少々緊張しつつも
「は、はい。いつでもどうぞ。」
「こちらは準備よしです。」
「私もおーけーです、先輩。」
と俺に言葉を返す3人に頷きで返すと、俺は3人と共にゴーストマンションへと入って行くのだった。
チェックシートを手に取り、俺達は揃って最初の部屋へと入っていく。
あらかた予想はしていたが、やはり、3人共に部屋の仕掛けやら演出やら恐怖をあおるサウンドに思わず悲鳴を上げるのを見て、俺は軽いため息をつきつつも、3人をなだめつつチェックシートにスタンプを押して部屋を後にしたのだった。
いくつかの部屋をまわり、ゴーストマンションも中盤へと差し掛かる頃、相変わらず恐怖の悲鳴を上げつつ俺にしがみつくみくとたまきの2人と、あきらかに怖がっているのに無理をして思わず無言になっているこうという構図が出来上がっていた。
そんな中、終始怖がるみくとたまきは、あまり動じていない風な俺を見て
「先輩ってあまり怖がっていませんよね?こういうのって平気なんですか?」
「落ち着いている人が側にいるのは安心できていいけど、確かにそうだよね?それで、実際はどうなんですか?先輩。」
そう聞いて来る2人に俺は苦笑しつつ
「そうだな、俺は特にこういうのは怖いって事はないな。怖いものの代表としては幽霊とかもあるけど、本物を目にしてもさほど怖いとは思わなかったよ。」
そう説明すると、2人は俺の言う本物を目にした、と言うキーワードに思わずびっくりしながら
「・・・え?ほ、本物、ですか?う、嘘ですよね?」
「ま、またまた、先輩ってば冗談ばっかり・・・。」
そんな風に言う2人に俺は首を傾げつつ
「ん?俺は別に冗談を言ったつもりはないんだがな。まあ、とにかくそういう事さ。」
と言う俺の答えに2人して顔を見合わせつつ、苦笑する2人だった。
そんな中、いまだに恐怖に耐えつつ無言になっているこうに目を向けた俺は、そんなこうの様子を見ながら軽いため息を1つついていた。
そして、そんな俺の様子にたまきが不思議そうな顔で
「?先輩、どうかしましたか?こうの事じっと見つめていたみたいですが。」
そう聞いて来るたまきの言葉に、同じように俺に視線を向けるみくと目があったのだが、俺はそんな2人の視線を受けながら「ん、ちょっとな。」と2人に答えながら俺は、中学時代のこうとやまとの事を思い出していた。
あの当時も俺達は、3人で色々な場所へと出かける事があったのだが、その1つに今回のような遊園地もあった。
実を言うと、やまと同様にこうも結構な怖がりだったのだが、こうには当時から困った癖のようなものがあって、やまとをからかう事に関しては、まさに自身の体を張るほどに気合をいれて色々な事をやって来た。
けど、それもどれもこれもがこうにとって大成功になった訳ではなく、時には自身も無茶をしてからかうつもりで起こした行動が、結果的に自分の首を締めるという結果になったという事もあったのだ。
その1つが今回のような事で、こうはあの当時も、自分も怖いくせにやまとが怖がる姿を見たいからと、自身もダメージを受ける事も構わずに3人でお化け屋敷へと入る事となった。
結果は、やまとも怖がっていたが、こうもまた怖さで当初の目的すら忘れる事態となり、こうの目論見もこの時ばかりは見事に外れる事となった。
今回の事はおそらく、こうにとっても想定外だったのではないだろうか?とは思っていたが、それでもみくやたまきも一緒にいるのだし、大丈夫だろう、と思っていた。
それでも今のこうは、あの時と同じように恐怖ですくみあがってしまい、あの時と同じように無言になるほどに緊張しきってしまっているのが見てとれた。
そこまで思い出した時、俺はゆっくりとこうの側に歩み寄ると、恐怖と緊張でガチガチになっているこうの体を優しく抱きしめその頭を優しく撫でてやりながら
「こう、大丈夫だ。ちゃんと俺が側にいる。みくやたまきも一緒だ。だから落ちつけ。ほら、ゆっくりと深呼吸して、な?」
そう声をかけてやると、恐怖で涙目な顔を俺に向けてきたこうは、少し驚きつつ俺を見つめていた。
そして、俺の言ったとおりにゆっくりと深呼吸すると、再び俺の方に顔を向けながら
「あ、ありがとうございます、先輩。えへヘ、なんだか嬉しいですね。さっきの先輩の言葉と行動はあの時と一緒だったし、それに、やっぱり先輩にそう言ってもらえると落ち着きますしね。それに、あの時の事を忘れずにいてくれた事も嬉しかったです。」
そう言ってくるこうに俺は少し照れながら
「ま、まあ、今回もあの時と似たような事になっていたしな。とはいえ、それがお前のあの当時からのいい部分でもあり、悪い部分でもあるわけだがな。誰かをからかう為に体を張るのが悪い部分、自爆しても人に付き合う所がいい部分って事な訳だがな。」
そんな風に指摘をすると、こうは流石に苦笑するしかないようだった。
こうside
今回私は成り行きで皆とここに入る事になった訳だけど、中学生の頃からの私のこういったのが苦手な所はいまだに健在であり、それでも皆が行くならば私も付き合おうという自身としても結構厄介な性格に私は中学生時代の頃の事を思い出して心の中で苦笑していた。
今回は先輩と山さんぶっさんの4人で周る事となったが、それでもやっぱり怖いものは怖かったらしく、アトラクションの中盤に来る頃には恐怖と緊張で声が出せなくなってしまっていた。
心の中で恐怖と緊張と戦い続ける中、ふいに先輩が私の事を抱きしめつつ頭を撫でてくれ、あの時と同じような言葉をかけてくれた。
当時のような言葉が嬉しかった事と、いきなりの先輩の行動に驚いていた私だったが、私はなんだかその事が懐かしくもあり嬉しくあったので、先輩に照れ隠しにそんな風に感謝の言葉を言いながら私は心の中で
(いきなり先輩に抱きしめられた時にはびっくりしたな・・・でも、あの時の事を覚えていてくれた事はうれしかったかも・・・でも、先輩はやっぱり先輩だな・・・あの時から本当に頼りになる人なのは変わってないよね・・・後半分、私の恐怖を和らげてくれた先輩に応えるためにもまだまだ怖いけどがんばりますかね・・・)
と考えている私だった。
そして私は先輩に
「ふう・・・少しは落ち着けましたし、残り半分頑張りますね。」
そう声をかけると、先輩もそんな私の言葉に頷いてくれたのだった。
慶一side
とりあえずこうを落ち着かせて、俺はこうから「ふう・・・少しは落ち着けましたし、残り半分頑張りますね。」と言う言葉を受けてその言葉に頷きで応えると、その場から動き出したのだった。
その後も3人は、俺に怖さを紛らわす為に引っ付きつつの移動となり、こうはこうで俺の背中に引っ付きつつ隠れるように進んで行った。
そんな調子ではあったが、とりあえず最後まで進む事が出来、無事?アトラクションをクリアする事が出来たのだった。
あの後、さっきのこうへの行動についてみくやたまきから色々聞かれた俺だったが、この事がこうへのちょっとした戒めにもなればいいかな?と思い、中学時代にあった今回に似た出来事でのこうの事を2人に話したら、後に2人に散々に中学時代の事でからかわれたこうが、俺に恨みごとを言って来る事になるのだが、それは後のお話。
そして、出てきた俺達を出迎えてくれたのは、次に周る予定のみさおとあやのの2人だった。
「慶一、お疲れー。次は私達とだぞ?」
「慶ちゃん、連続になっちゃって悪いんだけど、よろしくね?」
と言う2人に俺は頷いて
「ああ。俺の方は体力的には問題ないから構わないさ。それじゃ2人とも準備はいいか?」
と声をかけると2人も頷いて
「いつでもいいぞ?慶一。」
「私もよ。それじゃ早速行きましょうか。ちょっと怖いけどね・・・」
と言う2人に俺は、チェックシートを手渡して他に待機している皆に手を振って出発を伝えると、2人を伴ってアトラクション内部へと入って行く。
内部に入ると同時に、俺の腕にしがみつくあやのと腕にしがみつくまではしないものの、俺の手を握り締めるみさおに俺は少しドキリとしつつも、みさおの手から伝わる緊張に気付いた俺は、とりあえずこの手はしっかり握っていてやるか、と心の中で考えつつ、最初の部屋へと飛び込むのだった。
女の子らしく恐怖で悲鳴を上げるあやのに対して、みさおも所々で怖がる仕草を見せていたが、それでもみさおはみさおなりにこのアトラクションを楽しんでいるようだった。
アトラクションも中盤から後半へと向かう頃、俺はみさおに声をかけてみた。
「みさお。何だかんだいっても怖がってる所もあったが、それなりに結構楽しんでいるみたいだな?」
と言う俺の言葉に、みさおは俺の方に顔を向けてニカッと笑うと
「まあなー。確かにこええ所もあったけどさ、すっげー楽しいぞ?それに、お前を元気付ける為に行ったあの遊園地での事も思い出したしな。なあ、慶一。改めてありがとな。あの時にした私達との約束を守ってくれてさ。今ここでこうしてお前やあやのや皆と楽しめんのもお前のおかげだしなー。」
そう言うみさおの言葉に、その言葉を聞いていたあやのもまた俺に
「そうね。私もこういうのは苦手だけど、皆とこうして遊びに来れた事が嬉しいわ。それに、約束をちゃんと守ってくれたこともね。だから、慶ちゃん、私からもありがとう。」
と言う2人の言葉に俺は驚きつつも照れと嬉しさで頬を掻きつつ
「い、いや、そう言ってもらえるは凄く嬉しいけど照れるよ。とはいえ、楽しんでくれているのなら俺としてもよかったよ。今回は残り時間も大分少なくなって来てるけど、またこうやって皆で遊びに行きたいな、って思ってるよ。」
そう2人に言うと、2人ともにっこりと笑って
「それは私も同じだぞ?だから、また望むつもりだかんな。」
「ふふ。私もよ。私たちならできるのよね?慶ちゃん。」
その言葉に俺は頷いて
「そうだな。まあ、なんにしても、今は残り時間まで目一杯楽しもう。」
そんな風に言う俺に、2人も頷いて応えてくれたのを見て、俺もまた頷きで返し、俺達はアトラクションをクリアしたのだった。
みさおside
1年生組との周り、そして、永森以外の2年生組との周りを終えた慶一は、次に私達と周る順番になったので、私達を迎えに来てくれた。
そして、私とあやのと3人でのスタートとなった。
あやのは元々怖がりだったという事もあり、最初から慶一に引っ付いていたが、私はこういうのはそれ程苦手ではないっていうのと同時に慶一もついていてくれる事もあり、より恐怖を和らげる事が出来ていた。
しかし、それでも少しの不安はあったので、とりあえず慶一の手を握る事で安心感を増す事にしたのだった。
アトラクションを進む中、慶一の顔をちらりと見ると、何となく照れくさいのか、少しだけ顔を赤くしている慶一を見た時、私も思わずそんな慶一に対して笑みを浮かべつつ心の中で
(慶一とはこんな事するのも3回目だよな。なんか、ちびっ子達よりも多めにやれてる事にちょっとだけ優越感をかんじるゼ。それに、あのプールでの出来事から少しだけ私も、慶一に対する見方が変わってきた気がするな。今までは友達、って感じだったけど、なんだろ?今は少しだけ慶一の事が友達とは違う感じがしてる。この気持ってなんなんだろな?でも、不思議と嫌な気はしねえよな・・・ま、そのうちこれがなんなのかってのもわかんだろ。今は一緒にアトラクションを楽しむかな。)
そう考えながら進んでいた私だったが、アトラクションも中盤から後半へと差し掛かった頃に慶一が私に声をかけてきたのだった。
慶一の言葉に私は、私の思っている素直な気持を慶一に伝える。
あやのもまた、私と同じように自分の思っていた事を慶一に言ったのだが、その言葉が嬉しかったのか、慶一は少し顔を赤くしながら照れつつ、慶一の言う、残り時間を目一杯楽しむという言葉に全面的同意して、私たちはアトラクションをクリアしたのだった。
と同時に、チェックシートは私たちの思い出の品の1つになった事に、私はまた1つ小さいながらも宝物を手に入れたようなそんな気分になっていたのだった。
慶一side
みさお、あやのと2人を連れてのアトラクション周りも終了し、次はやまとと2人で周る番なので、俺は入る前から緊張しっぱなしのやまとに声をかけたのだった。
「さて、次はやまと、お前と周る訳だが、準備はいいのか?」
そう声をかけると、やまとははたから見ても面白い程に体をびくりと震わせて
「え?あ、そ、その・・・と、とりあえずは準備は出来てるわ。そ、それじゃ、さっさと行ってさっさと終わらせましょ?」
と、かなりテンパリ気味にそう言うやまとに俺は苦笑しつつも頷いて
「はいはい。それじゃ早速出発と行くか。じゃあ、皆、4週目、行って来るよ。」
と、近くで待機している皆に声をかけると、皆は俺達に手を振りながら
「「「「「「「「「「「「「「いってらっしゃーい。」」」」」」」」」」」」」」
と言う声をかけてくれたのを受けて、俺とやまとは、さっそくゴーストマンションへと入って行ったのだった。
お化け屋敷へ飛び込むと同時に、俺の腕にしがみつきびくびくと怯えるやまとの姿は、ある意味予想は出来ていた事だったので、俺はその状況に軽いため息をつきつつも、俺はやまとにチェックシートを手渡しながら
「ほれ、チェックシートだ。俺の腕にしがみついていても構わないからこれはきっちりとお前が持っておけよ?」
そう声をかけると、やまとは早くも涙目な顔を俺に向けつつ、俺からチェックシートを受け取ると
「わ、わかってるわ。と、とにかく先に進みましょ?こ、こんなとこ一刻も早く出たいから・・・」
と、震える声で俺に言うやまとに俺は頷きつつ苦笑し
「わかったよ。それじゃ行くか。」
そうやまとに答えて最初の部屋へと飛び込む俺達だった。
部屋に入り、早速最初の仕掛けが動き出す。
その仕掛けに盛大に怖がり悲鳴を上げるやまと。
その後も仕掛けが動く度にそんな事の繰り返しをしつつ、中盤を少し過ぎる所まではなんとかやって来れた。
この頃にはやまとも、すっかり恐怖と上げ続けた悲鳴でかなり見た目にも疲れがでているのが見て取れ、俺はそんなやまとの姿を見つつ、とりあえずやまとの気を紛らわせる意味も込めてやまとに声をかけた。
「なあ、やまと。アトラクションの外でのこうとのやりとりは俺も見ていたんだが、お前は前からそうだったよな?こうの挑発っぽい行為に思わず乗ってしまう、ってやつはさ。結局こうの思惑通りに進む、って事が何度もこれまでにあったんだし、いい加減学習出来ていてもいい頃じゃないか?」
と、声をかけると、やまとは俺に少々疲れの見える表情を向けつつ、大きな溜息を1つついてから
「・・・それは、わかってるんだけど・・・なんていうのか、こうのあの挑戦的な態度を見ると、つい、私も意地を張ってしまって・・・後になって何度も後悔するんだけど、なんでなのか、こうには負けたくない、っていう気持になってしまうのよね・・・それで結局こうの思惑にはまって痛い目を見てるはずなのに・・・はあ・・・我ながら嫌になるわ・・・」
俺はそんなやまとの言葉に少し考えてから
「うーん・・・こうに負けたくない、か。いろいろな面から見るにつけ、やまとがこうに負けている部分ってのもそうないような気もするけどな。」
そう言うと、やまとはいつも不機嫌になると見せる表情になりながら
「・・・確かに先輩の言うように私がこうに負けている部分もそれ程はないのかもしれないわ。でも、それでも私はこうに対して羨ましいと思える事がある。そう言う部分を見せ付けられた時、どうしても私自身がそれを認めたくなくて意地を張ってしまう。わかってはいるの。それが私がこうに対してコンプレックスに思う事なんだって事も。でも、どうしてもその部分を見せつけらた時、私はそれを認められない。認める事が怖いのかもしれない。だから、反発をしてるのかもしれないわね。そんなこうに挑発的な行為をされる時にはね。だから・・・わかってはいるのよ、今回のこれも自業自得だ、って事も・・・」
俺はそんなやまとの言葉を聞いて、その言葉に思いを巡らし、やまとに
「・・・なるほどな。でも、人間誰しもそういうものってのは1つや2つはあるだろうさ。今はその事が受け入れられないかもしれないけど、いずれその事に向き合う時、受け入れる事が出来る時が来るかもだ。だから、今はまだ、そのままでもいいんじゃないか?ともあれ、そろそろこうの思惑を受け流せるようにはならなきゃ、だぞ?今回の事も自業自得だと自覚してるんだったらな。」
と最後の方は軽く笑いつつそう言うと、やまとはプクリと頬を膨らませながら
「わ、わかってるわよ。いちいち釘刺されなくっても私自身、理解はしてるわよ。」
そう言って怒るやまとから、幾分か恐怖と緊張が和らいだ感じを受けた俺は、苦笑しながら
「はは。まあ、わかってるならいいさ。さあ、後半分だぞ?きっちり終わらせてこうを見返してやれ。」
そうやまとに言うと、やまとは俺の言葉に頷いて
「そうね。まだまだ怖いけど、先輩のおかげで少しは気も紛れたし、頑張って最後まで行くわ。」
そう答えるやまとに俺も頷きで応えて、俺達は残り半分の踏破に向けて動き出した。
結局最後まで悲鳴上げっぱなし、俺にしがみつきっぱなしなやまとだったが、最後は泣きかけながらもなんとかクリアを果たしたのだった。
クリア後のやまとは、かなり疲れきっていたようだったが、俺はそんなやまとをこうに任せると、次に待機しているかがみに声をかけた。
「お待たせ、かがみ。じゃあ、次はお前とだな。準備できてるなら早速出発だ。」
と言う俺の声に、かがみはビクリと身を震わせつつ
「え?あ、そ、そうだったわね。そ、それじゃ、怖いけど行きましょ?慶一くん、ちゃんとエスコートしてよね?」
と言うかがみに俺は苦笑しつつも頷いて
「了解だ。チェックシートは持ったよな?それじゃ入るぞー?」
と、かがみに声をかけると、かがみは少し慌てたような感じでチェックシートを持つと、俺の言葉に緊張の表情で頷き、俺の後についてアトラクションの入り口へと向かった。
そして、最初の部屋の前に来た時には既にかがみは、恐怖のあまりに俺の腕にしっかりとしがみついて俺の顔を何度もちらちらと見ているかがみの頭にぽんと手を乗せて
「ほら、行くぞ?俺も側にいるから大丈夫だよ。それじゃあしゅっぱーつ!」
と、声をかけると、かがみも覚悟を決めたようで
「わ、わかったわよ。こうなったら覚悟決めてやるわよ!」
と目一杯の強がりを見せるかがみに苦笑しつつ、俺達は最初の部屋へと足を踏み入れたのだった。
かがみもやまと同様に悲鳴上げまくり、俺の腕にすがりつきまくりの状況ではあったが、それでもなんとか中盤まではやって来れた。
が、やまと以上に怖がりなかがみは、この辺りでかなりきつそうだった。
そんなかがみの様子に俺は、少し心配になって声をかけてみた。
「大丈夫か?かがみ。お前も結構怖がりだもんな。どうする?これ以上きつかったらリタイアするという手もあるぞ?」
そんな俺の言葉にかがみは半分涙目ではあったが、キッと俺を睨みつけると
「リタイアはしないわ!正直限界に近いけど・・・でも、永森さんだって頑張ってクリアした!ゆたかちゃんも気絶したけど頑張った!それなのに、先輩である私がリタイアなんてみっともない真似出来ないわよ!私頑張る。怖いけど、頑張る。だから、そんな事言わないでよ・・・ふぇっ!?」
と、俺に強い意志を叩きつけるかがみに俺は1つ頷くと、俺の腕にしがみつくかがみの腕を解いてかがみを優しく抱きしめて
「わかった。かがみの意思はわかったよ。俺にはこんな事くらいしかできないけど、少しでもかがみの恐怖と緊張を和らげる手助けになれればいいんだが、ともあれ、一端深呼吸だ、かがみ。ゆっくり、ゆ~っくりとな。」
俺の突然の行動にふいに声を上げるかがみに構わずに俺は、少しでもかがみの恐怖と緊張を解きほぐす為に出来る事をやってみた。
かがみはそんな俺の行動に、顔を赤くしながら俺をじっと見つめていたが、やがて、俺の言った言葉に気付くと、かがみはゆっくりと深呼吸をしはじめた。
そして、いくらか落ち着きを取り戻したかがみは俺に
「あ、ありがと。私の意思を汲んでくれて・・・でも、慶一くんの気遣いも嬉しかったよ?おかげでさっきよりは大分ましにはなったし、後半分、頑張ってみるわ。慶一くん、その・・・また怖さがピークになった時にはさっきのをお願いしてもいいわよね?」
と、上目使いに俺を見るかがみにドキリとしながら
「あ、ああ。この程度の事で役に立つなら構わないよ。そ、それじゃ気を取り直して行こうか。」
と、そうかがみに言うと、かがみはにっこりと笑って再び俺の腕にしがみつく形となり、アトラクションの後半へと進んで行った。
途中何度かさっきのような事をやってかがみを落ち着かせながら、俺達は最後まで行く事ができたのだった。
かがみside
ついに始まったお化け屋敷巡りだったが、私は実の所、こういうのが苦手で、慶一くんと2人きりで周れる事に期待を感じつつも、同時に恐怖も感じていた。
そして、それは順番待ちをしている間に徐々に大きくなって行くのを感じていたのだった。
いよいよ私の順番となり、期待と恐怖はほぼピークに達していた。
私は慶一くんの言葉にいつもの強がりで応えたのだが、その強がりも慶一くんには見抜かれているみたいだなと感じながらも、それでも構わずに自分を奮い立たせてアトラクションへと入っていった。
アトラクション内では慶一くんと腕を組めたものの、恐怖の方がそんな事に対する嬉しさの感情に勝ってしまっていて、アトラクション中盤に差し掛かった頃には、もう慶一くんの腕にしがみつく事で恐怖を紛らわせる事に必死になってしまっていて、それ以外の事は何も考えられなくなってしまっていた。
そんな私の様子を見て慶一くんは、私にリタイアする事も提案してきたのだけど、ゆたかちゃんや永森さんも最後まで頑張ったのに、私だけが途中で脱落なんてできないと思い、私は慶一くんの提案を突っぱねた。
そんな意地を張る私に慶一くんは、私の意思を尊重してくれ、私をリラックスさせるために私を抱きしめて深呼吸するように促してくれた。
その時になってようやく私は、慶一くんと2人でいる事を意識して、照れもしたのだけど、それ以上に慶一くんの気遣いがありがたくて、私はそんな慶一くんの好意に甘えさせてもらう事にしたのだった。
そうやって行くうちに、アトラクション後半ではある程度リラックスもできたので、慶一くんに抱きしめてもらう事に嬉しさを感じるようになり、とりあえずは満足の出来る結果となったのだった。
けど、結局私は、最後まで自分が慶一くんに対してお願いしたい事を言えずに終わった事にアトラクションから出てきてから気付いたのだが、今回は仕方ない、いずれは慶一くんに言おうと心に密かに誓って終わったのだった。
(怖かったけど、結局意地を張っちゃったわね。結局前半は怖さばかりが勝ってしまって駄目だったし、自己嫌悪・・・でも、後半はいい思いできたし、よかったかな?これで少しはこなた達をリードできてればいいんだけどね・・・とはいえ、結局私が慶一くんにお願いしたかった事を言えなかったな・・・それだけが少し心残りだけど、いいよね、チャンスはまだあるだろうし焦らなくても。また1つ、思い出が増えたのが嬉しいな。)
と、私は心の中でそう考えつつ、次に周る組を見送ったのだった。
慶一side
かがみとのアトラクション巡りを終えて、いよいよ残るは3人となった。
この後にどんな事になっていくのか、俺にはまったく予想がつかなかったが、それでも最後まで付き合ってみるかと心の中で考えてつつ、俺は順番を待っているつかさの元へと歩いて行くのだった。