らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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別れの旋律~慶一のけじめと約束~

しおんとの記憶を思い出し、そして、次の日には俺はしおんとやまとを重ね合わせて見て、やまとをやまととして見ていなかった事に気付く。

 

そんな俺の罪悪感は、やまとの視線を受けられない程に、俺自身に後ろめたさを与えた。

 

しかし、俺の罪を受け止め、もう一度俺はやまとと向き合う事を決意する。

 

そんな俺の謝罪に、やまとも、今後はちゃんと自分を自分として見て欲しいという事を約束する事で許してくれた。

 

そして、次の日の1日を使い、俺はやまとの要望どおり、篠原しおんではなく、永森やまととして初めてのデートに出かける事となった。

 

だが、あの時、俺の胸の中で泣いていたやまとの方にも異変が起きていた事に、あの時の俺は気付かなかった。

 

そして、その事に気付かないままに俺は次の日を迎える事となったのだった。

 

???side

 

<本当にいいのね?これが可能なのは1回しかないわ。その後は、彼にあなたの事を気付いてもらう事は出来なくなるのよ?それでも・・・・・・。>

 

そして、そんな声にもう1人、私に協力してくれる人が声をかけてくれる。

 

<俺達が力を貸せるのは今回だけしかない。けど、君が後悔しない、って言うのなら俺達は君の思いに応えるよ。本当にいいんだね?しおんちゃん。>

 

その2人の言葉に私は力強く頷くと

 

<ええ。後悔はしないわ。かなたさん、そして牧村君。ごめんなさい。私の我侭を聞いてもらって・・・でも、私はようやく私を思い出してくれた慶一君と会いたいの・・・会って・・・最後のお別れをしたいのよ・・・だから、その為に、2人とも力を貸して?>

 

私の言葉に2人とも悲しげな表情を浮かべたものの、力強く頷いてくれたのだった。

 

そして、私の体を光が包み込んだかと思うと、ある場所へと私は導かれたのだった。

 

こうside

 

先輩の態度に何とか元に戻ってもらおうと奮闘していたやまとだったが、結局夜になっても先輩は元に戻らず、その事に業を煮やしたやまとの感情は爆発し、その感情の行き場は慶一先輩への八つ当たりに転化してやまとは怖い顔で部屋を出て行った。

 

事の顛末が気になった私だったが、やまとの剣幕があまりにも怖かった為、私は今回は部屋で大人しくやまとが帰って来るのを待っていたのだった。

 

そして、やまとが出て行ってから1時間後、やまとはようやく帰って来たのだが、そのやまとが出て行った時とは正反対の嬉しそうな顔をしているのを見て私はほっとしつつ、やまとにどうなったのかを聞いてみた。

 

「ねえ、やまと。先輩との話ってどうなった?先輩とちゃんと話せたの?先輩は元に戻った?」

 

そうやまとに尋ねると、やまとは笑顔で頷いて

 

「ええ。何とかね。実はね?こう。今回の原因は・・・・・・だったのよ。それで私は先輩を許す代わりに先輩に明日1日付き合って欲しいと言ったのよ。」

 

そう言うやまとに私は驚きつつ

 

「え?そういう事だったの?それに、1日付き合う、ってもしかしてデート?」

 

とニヤニヤしつつそう聞いてみると、やまとは嬉しそうに

 

「そうね。そういう事になるかしら。くれぐれも断っておくけど、これは私が私として初めてするデートになるわ。私は本当のスタートをここから切るのよ。永森やまととしてのスタートをね。だから、こう。くれぐれも邪魔はしないように釘を刺しておくわよ?」

 

と言うやまとに私は苦笑しながら

 

「わ、わかったよ。その代わり、デートの結果は報告してよね?それくらいはいいでしょ?やまと。」

 

と言う私にやまとはいつもの薄い笑みを浮かべながら

 

「そうね、それくらいなら考えておくわ。」

 

そう言うのだった。

 

だが、この時私は、そんな風に言うやまとに何故だか違和感のようなものを感じていた。

 

やまとは先輩に気がある、それは何となく予想はしていた。

 

でも、やまとは不器用な方だから、そんな感情を上手く出せなくて苦しんでいた。

 

そして、今回のように私がデートの事をあおっても、いつものやまとならツンデレを炸裂させて誤魔化す所のはずだと私も思っていた。

 

しかし、先ほどのやまとは私のあおりを肯定し、デートの結果を教える事を考えておくとまで言った。

 

いくら先輩との確執が解けたからと言って、あそこまで変わるものだろうか?と何となく今のやまとに対して疑念が沸くのだった。

 

そして、明日の準備を済ませて布団に入ろうとするやまとに私は、何となく声をかけてみた。

 

「ねえ、やまと?何かあった?」

 

私の呼びかけにやまとは

 

「何よ?こう。何かって何?」

 

そう答えるやまとに私はどう答えようか悩んだが、自分の感じた違和感は気の所為だと考え、私はやまとに

 

「ん。いや、なんでもないよ。お休み、やまと。」

 

そう言う私にやまとも

 

「?ええ、お休み、こう。」

 

そう言ってふっと笑ったやまとの顔を見た時、その笑顔にまたしても違和感を感じた私だった。

 

心に妙な引っかかりを覚えながらも、とりあえずは休んでしまおうと思い、布団に潜る私。

 

そのまま夢の世界へと旅立ったのだった。

 

けど、次の日の夜に私はその違和感の正体を知る事になるのだけど、その時までは特に深くその事を考えずにいた私だった。

 

慶一side

 

やまととのデートの約束をしてその翌日。

 

俺は、いつも通りに目を覚ますと、朝食の準備をする為にキッチンへと降りて行った。

 

そして、いつものようにみゆき達がここに来てから当番制で家事をやっているのだが、今日はみゆきとやまとの担当だったので、キッチンにいる2人に挨拶をして、みゆきに今日の事と、昨日までの俺の異常が元に戻った事を伝えた。

 

「・・・・・・と言う訳でな、昨日の事は俺の所為だったんだ。みゆき、余計な心配をかけてすまなかった。」

 

そう説明するとみゆきは複雑そうな表情を顔に浮かべると

 

「・・・そういう事、だったんですね?それで、昨日の事はほぼ解決したのでしょうか?」

 

そう言うみゆきに俺は頷いて

 

「まあ、大体はな。でも、その為に今日はちょっとやまとに付き合う事になったんだ。これは俺の罪滅ぼしみたいなものでもあるし、皆にも黙って行くわけにも行かなかったからな。こうして事情を説明させてもらった、と言う訳さ。」

 

その言葉にみゆきは少し不機嫌なオーラを放ちつつ

 

「・・・事情はよくわかりました。慶一さん?くれぐれも軽率な行動はとりませんよう、お願いしますね?」

 

と言うみゆきの迫力に押されつつも

 

「あ、ああ。わかってるよ。これをちゃんと終わらせて、明日は皆で楽しもう。」

 

そう言う俺に、ひとまずは黒オーラを消しつつみゆきも頷いて

 

「そうですね。皆さんもそうですが、私も楽しみにしていますから。」

 

その言葉に俺も頷いて

 

「わかってる。それじゃ朝食摂って、出かけるとするか。やまとも早く席に着いてくれ。」

 

そう言うと、やまとも頷いて

 

「わかってるわ。それじゃ食べちゃいましょう?いただきます。」

 

その号令にまだ寝ているパティとこう以外の俺達も「「いただきます。」」

 

そう言って朝食を摂った。

 

そして、玄関でやまとが出かける準備を済ませるまで待つ俺だったが、程なくして準備を終えたやまとがやってきた。

 

「お待たせ、先輩。それじゃ行きましょうか。」

 

その言葉に俺も頷いて

 

「ああ。それじゃでかけよう。それと、やまと。その服似合ってるぞ?」

 

そう褒めるとやまとは顔を赤らめて

 

「そ、そうかしら?ま、まあ、褒め言葉として受け取らせてもらうわ。」

 

そう言うやまとを見て、やまとに前のような笑顔が少しづつ戻ってる事を感じながら、俺達は家を出て行く。

 

俺はやまとを自転車の後ろに乗るように促した。

 

「やまと。これで駅まで行くから後ろに乗れよ。」

 

そう言うと、やまとは照れたように顔を少し赤くすると

 

「わ、わかったわ。先輩、安全運転でお願いね?」

 

その言葉に俺は頷いてやまとを後ろに乗せると、駅へ向かって自転車をこぎ始めた。

 

そして、自転車をこぎながら俺はやまとに

 

「やまと。今日お前が行きたい、と思ってる場所は決めてあるのか?」

 

そう尋ねると、やまとは俺の質問にしばしの間を置いた後

 

「そうね・・・○○水族館へ連れてってくれる?」

 

そう言うやまとの言葉に俺は少し驚きつつ

 

「○○水族館?何だかお前にしちゃ珍しいな。あそこはうちの実家にも近い所にあるが、向こうにいた頃はお前もそこに連れて行って欲しい、って言った事はなかったよな?それに、お前が知ってるかどうかもわからなかったし。」

 

そう言うと、やまとは俺に

 

「・・・別に。幼い頃には行った事があった、それだけよ。ちょっと懐かしくもなったからいつかまた行ってみたい、そう思ってたのよ。だから、今回はいい機会だし、と思っただけ。」

 

そう答えるやまとに俺は頷くと

 

「そっか。わかった。んじゃ久々に行ってみるとするかな。」

 

そう言うと、自転車をこぐ足に力をこめて駅まで疾走した。

 

だが、この会話の時、俺の中でやまとに対する、本当に僅かな違和感のようなものを感じていた。

 

それがなんなのか、その時の俺にはわからなかったから、とりあえずは気にしない事にしたのだった。

 

そして、俺達は数日ぶりに実家の方へと足を向ける事となった。

 

家に戻る前に道場に立ち寄って、やまとの両親に会わせてもいいかも、とも思いながら、俺達は○○水族館へとやってきた。

 

「ちょっと待っててくれ、やまと。今入場券買ってくる。」

 

そう言うと、やまとは何故か懐かしさを感じさせる笑みを浮かべて

 

「わかったわ。ここで待ってるから、行って来て?」

 

そう俺に言うと、あまり他人の邪魔にならない場所へと移動していくやまとの姿を見送ってから俺は、入場券売り場へとやってきて2人分の入場チケットを買った。

 

そして、やまとが待っている場所まで戻り、やまとに声をかけようとしたのだが、俺はその時、やまとが懐かしげに水族館の周りを見渡しているような、そんな仕草を見て、再び心に違和感のようなものを覚えた。

 

幼い頃に行った事がある、やまとは確かにそう言った。

 

だから、あの行動もしばらく来てなかった場所に対するものだろう、というのは何となくわかった。

 

でも、それだけで説明できない何かがあるように、俺は思えた。

 

俺はこの違和感の理由が知りたくなってきた。

 

だから、やまとにチケットを渡して入館する時から俺は、やまとの事を観察してみよう、と思ったのだった。

 

「うーん・・・懐かしいな、ここは・・・。」

 

色とりどり、色々な種類の魚を見ながら俺はあの頃を思い出してそう呟いた。

 

そして、ちらりとやまとの方を見ると、やまともまた、懐かしそうに館内を見ているのが見て取れた。

 

「・・・前もそう思ったけど、やっぱり退屈ね・・・魚を見るだけなんて・・・。」

 

懐かしそうにしていたのは最初だけで、少ししたら思わずそう呟くやまとに俺は思わずやまとの顔を無言で見つめた。

 

そんな俺に気付いたやまとは、俺に

 

「どうしたの?私の顔に何かついてる?慶一・・・い、いえ、なんでもないわ先輩。」

 

そう言いかけるやまとの言葉に俺は、今朝から感じていた違和感のようなものが少しずつ形をなしていくのを感じていた。

 

「・・・いや、なんでもない。それよりも、退屈か?やまと。お前がここに来たい、と言ったから連れてきたんだが。」

 

そう尋ねると、やまとは少し慌てながら

 

「え?あ、いや、その・・・そんな事ないわ。だって退屈なら初めからここに連れてきて欲しい、って言わないでしょ?先輩の考えすぎよ。それより先輩・・・。」

 

そう取り繕いつつ、最後に俺を呼んだやまとに俺は「ん?何だ?」と答えると、やまとはおもむろに俺の腕に抱きついて来た。

 

「ちょっ!?や、やまと、これは?」

 

その行為に慌てながらそう返すと、やまとはいつものような薄い笑みを浮かべると

 

「せっかく2人きりなのだし、こうしてみたい、って思ったのだけど、迷惑だった?」

 

と俺を上目使いで見ながらそう言うやまとに俺は、うろたえつつも

 

「あ、いや、その・・・ま、まあ、お前がそうしたい、って言うのなら構わないんだが・・・いきなりやられたからちょっと驚いた。」

 

照れながらそう言う俺に、やまとはもう一度笑みを浮かべると

 

「そう?なら、しばらくはこのままでいいわよね?」

 

そう言うやまとに俺もただ頷くしかなかった。

 

そして、この行為に於いてもまた、やまとへの違和感を感じていたのだが、やがて、一通り水族館を見終わると、俺達は揃って館を出る。

 

そして、館を出た後、やまとはおもむろにある場所へ向かって歩き出したのを見て、俺は慌ててやまとの後をついていく。

 

そして、辿り付いた場所は、俺がしおんと最初で最後のクリスマスプレゼント交換をした場所だった。

 

そこで佇むやまとを見て、俺はしばらく無言だった。

 

そんな俺をそのままそこで待たせ、やまともまた、しばらくその場所で何やら考え込んでいるようだった。

 

そして、俺は確かに聞いた。

 

俺にもかろうじて聞き取れるような声だったが、確かにやまとはこう言っていた。

 

「・・・懐かしいな・・・ここで私は・・・慶一君に・・・ブレスレットをもらったのよね・・・。」

 

その台詞に俺は物凄く驚いていた。

 

何故なら、やまとが言った言葉はやまとにはまったく関係のない事で、そして、やまとの言うブレスレットをもらった人は、しおんに他ならなかったからだ。

 

そして、それを聞いたとき、俺の中でばらばらに散らばっていた違和感のカケラが組み合わさるのを感じていた。

 

と同時に、俺は思い切ってこの違和感の正体を確かめる為に、やまとに声をかけていた。

 

「・・・やまと、ちょっといいか?」

 

俺の言葉に振り向くやまと。

 

そして、やまとは俺を見て首を傾げながら

 

「・・・何?先輩。」

 

そう言うやまとに俺は、思い切って言葉をぶつけた。

 

「やまと・・・いや、おまえは誰だ。お前はやまとじゃないだろう?ひょっとして、だけど・・・お前はしおんか?」

 

その言葉にやまとは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに後ろを向くと

 

「な、何の事かしら?私は・・・私はやまと、永森やまとよ?先輩だって知っているでしょう?」

 

その言葉に俺は軽くため息をつくと

 

「・・・ああ、確かにやまとだ。見た目はな。だけど、中にいる奴はやまとじゃない、ってのは何となくわかった。何故ならお前はやまとが知らない事、そして、しおんじゃなければわからない事を知っているからだ。水族館の事も、そして、今お前が呟いた俺が、クリスマスプレゼントを送ったのがしおんであるという事もな。」

 

そうやって事実を突きつける俺だが、やまとはなおも俺の追及を否定するように

 

「そ、そんなの偶然よ。水族館だって私は過去にも来た事があるって言ったし、プレゼントの事だって先輩と出会う前にもらったものなら、先輩の推理は・・・。」

 

そう言うやまとに俺は、なおも俺の疑惑が確信へと繋がる証拠をあげていく。

 

「いや、それはありえない。いや、百歩譲って水族館の事はあるかもしれないにしても、この場所で、そして、クリスマスプレゼントはしおんに渡したものだ。確かに俺はやまとにプレゼントを渡した事はある。だけど、それはこの場所じゃない。この場所には来ていない。何故ならその理由は、一昨日まで俺が、しおんとの記憶を失っていたからだ。一昨日にその事を思い出したばかりの俺に、やまとをここに呼び出してプレゼントを渡す事なんてできないんだよ。」

 

そこまで言って一端言葉を切り、更に言葉を続ける。

 

「更に決定的なのは、それぞれの呼び方の違いだ。やまとは俺を慶一先輩、と呼ぶんだ。さっきお前が呟いた独り言のように慶一君、とは呼ばないんだよ。」

 

そこまで言い終わると、俺はやまとの反応を待つ。

 

俺の言葉に無言で後ろを向いたままのやまとだったが、ふいにこちらに向き直ると

 

「・・・さすが、慶一君ね。やっぱりばれちゃったか・・・。ネタばらしは最後にしようって思ってたのにな・・・詰めが甘かったと言うわけね。」

 

そう言うやまとに俺は、再度驚きの表情をしつつ

 

「・・・やっぱりお前はしおん、なのか?一体どういう事なんだよ?やまとはどうしたんだ?」

 

その言葉にやまと<しおん>は俺の目を見ると

 

「そうよ?わたしはしおん。篠原しおん。あなたの知ってるしおんよ。心配しないで?やまとさんはちゃんとあなたの目の前にいるわ。私は慶一君の知り合い2人に力を貸してもらって、そして、やまとさんにも協力してもらって、やまとさんの体を一時的に借りてここにいるのよ?」

 

その言葉に更に驚く俺。

 

やまと<しおん>は俺に

 

「どういう事か知りたい、って顔ね?いいわ。話してあげる。」

 

その言葉に頷く俺を見て、やまとは理由を話し始めた。

 

「慶一君。あなたが私の記憶を取り戻すまでの間、私はずっとあなたの側であなたを見守っていた。そして、記憶を取り戻したあなたは私に対する罪に罪悪感を感じる事となった。私は、私を思い出してくれたあなたにどうしても伝えたい事があったの。でも、私はすでにこの世の者ではないから、霊感も失せてしまったあなたと話す手立てもなかった。そんな時に、そんな私の苦悩と願いを聞いてくれた人がいたの。」

 

やまと<しおん>がそこまで話すと、一端言葉を切った。

 

俺はそんなやまと<しおん>に

 

「願いを聞いてくれた人?それって?」

 

そう聞くと、やまと<しおん>は頷いて更に言葉を続ける。

 

「それは、慶一君もよく知っている人・・・泉かなたさん、という人と、あなたの親友の牧村瞬一君よ?」

 

その言葉に俺は驚いて思わず聞き返す。

 

「!?かなたさんと、瞬だって!?」

 

俺の言葉に頷いて、やまと<しおん>は更に言葉を続けた。

 

「そうよ。2人が力を合わせて私を一度だけ慶一君と話せるようにしてくれた。その際に、やまとさんにもこの事をお願いしたの。やまとさんもこれが最初で最後だと言う事を伝えたら、協力してあげる、って言ってくれたわ。そして、私はやまとさんの体を借りて、慶一君との思い出の場所へとやってきたの。」

 

その言葉に俺は複雑な表情をしつつ

 

「そ、そうだったのか・・・。お前は俺に伝えるべき事を伝える前に、もう一度だけ思い出の場所を見たかった、って言うんだな?」

 

そう言うと、やまと<しおん>はコクリと頷いて

 

「これでもう・・・あなたの前に出てくることは出来なくなるから・・・だから、もう一度だけ・・・見ておきたかった・・・。私とあなたとの始まりと終わりの場所を・・・。」

 

そう言いながら、やまと<しおん>は涙をこぼしながらそう言う。

 

俺はそんなやまと<しおん>の側へと行き、やまと<しおん>を抱きしめながら

 

「・・・そう、だったのか・・・。しおん、俺に伝えたい事があるって言ったよな?俺もだ・・・俺もお前に伝えなきゃいけない事がある。俺の言葉も聞いてくれるよな?しおん・・・。」

 

そう言いながら、俺もまた、涙をこぼしはじめていた。

 

そんな俺の言葉に頷いたやまと<しおん>は、俺に伝えるべき言葉を話し始める。

 

「ええ、もちろんよ。その前に私も言葉をあなたに伝えたい・・・。慶一君。私の事を思い出してくれてありがとう・・・。でも、私はもうあなたとは違う場所にいるわ・・・。だから、もう会いたくても会えない・・・。けれど、心配しないで。私はもういなくなってしまったけど、あなたの周りにはあなたを大事に思う人達がたくさんいるわ。だから、これからは、私に囚われないで私の分まで幸せに生きて?それが私の願いだから・・・。そして、最後に・・・好き・・・大好きだよ?私はいつまでも慶一君の事が大好き・・・。それだけは忘れないで欲しいの・・・。」

 

泣きながらそう言うやまと<しおん>の言葉に俺もまた、その言葉一つ一つに頷きながら、そして泣きながら

 

「わかった・・・わかったよ、しおん。お前の願い、受けとった。今度は俺の番だ。しおん、ごめんな?あの時お前に好きだと言われたのに、俺の安っぽいプライドの所為で、俺はお前の告白に対する返事を先送りする事になってしまった。記憶を取り戻した俺は、ずっとその事を気に病んでた。もう伝える事も出来ないその事をずっと後悔していた。けれど、今この瞬間に起きている奇跡は俺にチャンスをくれた。だから、俺は言う。あの時言えなかった事を俺は言う。しおん。俺もお前の事が好きだった。お前に話し掛けたときから、俺はずっとお前の事を気にしてた。お前と一緒に居れる事が嬉しかった。好きだって言ってもらえた事が嬉しかった。だからこそ、俺は伝える。好きだ、しおん。俺もお前が大好きだ。そして、ありがとう。俺を好きになってくれて。ありがとう、俺と出会ってくれて。俺はずっと・・・あの日々をこれからも忘れない・・・ずっと・・・。」

 

伝えるべき事をお互いに伝え、俺達はしばらくの間、お互いのぬくもりを感じるかのように抱き合っていた。

 

そして、俺達はお互いに見つめあい、そして、唇を重ね合わせた。

 

忘れていた6年以上の思いを込めたキス。

 

もう2度と出来ないと思っていたキスを俺達は交わした。

 

そして、お互いに体を離すと、やまと<しおん>は

 

「ありがとう、慶一君。最後に伝えたい事を伝えられた・・・ちゃんとお別れも出来た・・・。もう、思い残す事はないわ。この体ももうすぐやまとさんに返る。慶一君、お願い。あなたを慕う皆の事を、これからも守ってあげてね?そして、いつか向こうで会えたならまた・・・一緒にいましょうね。それまでは、慶一君は自分の精一杯を生きて欲しい。」

 

そう言うやまと<しおん>に俺は頷いて

 

「わかったよ。俺は、皆と一緒にこれからも精一杯生きる。それがお前の願いだもんな。心配しないでくれ。お前とした約束、ちゃんと果たすから。」

 

そう言うと、やまと<しおん>はにっこりと笑ってくれた。

 

そして、いよいよ別れの時がやってきた。

 

「・・・そろそろ時間ね。もうこれで私は慶一君の前には出てこれないけれど、いつでもあなたの側であなたを見守ってるから・・・。」

 

そんなやまと<しおん>に俺は頷くと

 

「ああ。元気でな、って言うのも変だけど、元気で、そしていつかまた会おうな?しおん。」

 

俺の言葉にやまと<しおん>は頷いて

 

「そうね、また、いつか・・・。そろそろ時間だわ・・・さようなら、慶一君。」

 

そう言うやまと<しおん>に俺は

 

「しおん、そうじゃない。俺達の別れの挨拶はさよならじゃない・・・またな?だよ。」

 

そう言うと、やまと<しおん>は少しだけ驚きの表情を見せた後

 

「そうね。じゃあ、改めて・・・またね?慶一君。」

 

その言葉に俺も頷いて「ああ、またな?しおん。」とそう言うと同時に、やまと<しおん>が急に体の力が抜けたようにふっと倒れかけたのを見て俺は、慌てて、倒れそうになっているやまとの側へと駆け寄ってやまとの体を受け止める。

 

そして、そのままベンチにやまとを寝かせると、やまとの意識の回復を側で待った。

 

程なくしてやまとが目を覚まし、やまとはぼーっとした目で俺を見ていたが、やがて勢いよく立ち上がると俺の頬を思い切りひっぱたいた。

 

バチーンッ!!という乾いた音が響き渡り、やまとは荒い息をつきながら

 

「何やってるの!?何してるのよ!?何勝手にキスなんてしてるのよ!?わ、私はそんなの許可した覚えなんてないわよ!?しおんさんに体を貸すって言ったけど、こんなの聞いてないわよ!!」

 

と、物凄い剣幕でまくし立てるやまとに俺は、おろおろとしながら

 

「す、すまん、やまと。つい雰囲気に乗ってしまった。そういうつもりじゃなかったんだ。本当にすまん。」

 

そう言って両手を合わせて平謝りする俺に、やまとは大きなため息をつくと

 

「・・・はあ・・・それで?ちゃんと言いたい事は言えたのね?お別れできたのね?そこの所どうなの?先輩。」

 

と聞いてくるやまとに俺は頷いて

 

「ああ。それはちゃんと言えたよ。お互いに伝えたい事を伝え合えた。もう悔いはないよ。その為に苦労させてしまってすまなかったな、やまと。もう何も心配いらない。これからは俺はあいつとの約束を胸に生きて行くさ。お前や、皆と一緒にな。」

 

そう言うと、やまとはひとまずほっとしているようだったが、おもむろに立ち上がり

 

「・・・それならいいわ。先輩、思い切ってひっぱたいちゃったから頬が赤くなってるわ。ちょっとハンカチ濡らしてくるからそこで待ってて?」

 

そう言ってやまとは近くの水道までハンカチを濡らしに走って行った。

 

俺は頬を押さえながら、そんなやまとの後姿を見送りつつ、やまとが戻ってくるのを待った。

 

程なくしてハンカチを濡らしたやまとが戻ってくると、俺の頬に濡らしたハンカチを当てる。

 

「・・・ごめんなさい、あまりの事だったから思わず思い切りひっぱたいちゃったわね・・・。ねえ、先輩?」

 

そう言って俺の顔を見つめるやまとに俺は

 

「ん?なんだ?やま・・・・・・。」

 

そう言って言葉を発しようとしたが、それは、その体制からいきなり俺の唇を塞いできたやまとによって中断させられた。

 

そして、少しの間そうしていたやまとは、ゆっくりと俺から唇を離す。

 

「え、えっと、あの・・・や、やまと、さん?」

 

と、半ばパニくりながらそう尋ねると、やまとは顔を赤くしながら

 

「・・・さっきのは、篠原しおんとしてのキス。今回のは・・・私としての・・・永森やまととしてのキスよ?あんなのでファーストキスなんて納得できなかったから・・・これが本当のファーストキスって事にしておいて欲しい・・・。それに、しおんさんからも情報もらったしね・・・先輩は泉先輩達ともキスをしてるのよね?」

 

その言葉に俺は冷や汗をだらだらとたらしながら

 

「え、ええと・・・ま、まあ、その・・・そういう事です・・・。」

 

と、隠しても無駄だろうと思い、観念して正直に言う俺。

 

そんな俺を見てやまとは、いつもの薄い微笑みを俺に向けると

 

「回数もこれで互角・・・私も皆と対等よ?それだけは覚えておいて?先輩。そして、これからは私は本当の永森やまととして先輩と向き合って行かせてもらうわ。これは・・・そのスタートの証でもあるから・・・。」

 

そう言うやまとに俺は、ただ苦笑するしかなかった。

 

そして俺は、やまとの希望でこの後ゲームセンターでやまとの好きなUFOキャッチャーを存分に楽しませて家へと戻った。

 

こうして、俺は、しおんとのけじめをきちんとつける事が出来たのだった。

 

これからはしおんとの約束を果たす為にがんばろう。

 

そして、ちゃんとこれからはやまととも向き合って行く。

 

俺はそう改めて心の中でしおんと約束をし、今回の奇跡を起こしてくれたかなたさんや瞬に感謝をしたのだった。

 


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