らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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大集合の旋律~大人数の勉強会最終日、慶一の異変、そして、やまととの約束~

勉強会2日目に、俺の失っていた記憶と共に、もう1つの過去が明らかになった。

 

俺は、自分の犯した罪を思い出し、皆にそれを裁いてもらおうと、俺の罪の事を皆に話したのだった。

 

皆は、俺の告白に辛辣な言葉を投げかけてくる反面、残された俺は、しおんの為にもこれからも生きて、幸せにならなければいけないと言われたのだった。

 

俺はそんな皆の心に感謝しつつ、しおんにも再度詫びて、今後は皆の言うように、しおんの分まで幸せになるために頑張ろう、と決意するのだった。

 

そして、そんな事があった次の日の朝・・・・・・。

 

(おはよう、しおん、瞬。父さん、母さん。今日からまた俺は頑張って行くよ?だから、俺の事を見守っていてくれな?)

 

と、仏壇に飾ったしおんと瞬と両親の写真に向き合いながら俺は、改めてこれからの自分の精一杯を生きていこうと誓うのだった。

 

だが、この時俺は、過去を取り戻した事で俺自身にちょっとした異常が起きている事には気づいてはいなかった。

 

それを自覚するきっかけが今、起きようとしていた。

 

仏間での挨拶を終えた俺は、部屋を出ると、そろそろ朝食の準備も出来ている頃だろうと思い、キッチンへと向かおうとした。

 

だが、その途中で俺は、やまとと出会う事になったのだった。

 

「あら?おはよう、先輩。部屋を見に行った時には姿が見えなかったから、家の中を少し捜してしまったわ。もう朝食ができているから、呼んで来てとみくさん達に頼まれたのよ。」

 

と言うやまとに俺は顔を向けて

 

「お?おはよう、やまと。そうか、わざわざすまないな・・・っ!」

 

いつものように挨拶を返そうとした俺だったが、何故かやまとの顔を見た瞬間に、途中まで言いかけていた挨拶も途切れてしまい、そのまま視線をそらしたのだった。

 

そんな俺の態度にやまとは、頭にハテナマークを飛ばしながら見ていたが、やがてこうしていても埒があかないと思ったようで

 

「?まあ、いいわ。私は先に行ってるから、先輩も顔を洗ったりとか済ませたならキッチンへ来てよ?」

 

そう言いながら再びキッチンへと戻って行くやまとを見送りつつ、自分が何故あんな態度を取ったのかがよくわからずにいる俺は、心の中で

 

(なんだ?一体どうした、っていうんだ?いつものやまとといつもの挨拶じゃないか・・・。なのに何故俺はやまとから視線をそらしたんだ?何故、妙な罪悪感を俺は感じているんだ?一体、何故・・・。)

 

と、自問自答を繰り返しつつも、俺はやまとに言われたとおりに洗面所に行って顔を洗うと、キッチンへと朝食を摂る為に向かったのだった。

 

結局その時にはその答えも出ないままに朝食を済ませた俺は、そのまま少し休憩の後、3日目の最後の勉強会を始めたのだった。

 

勉強会の最中も、俺は朝のあの状態について、色々と考えを巡らせていた。

 

その所為もあって、俺はこなた達からの質問にいつものように答える事が出来ずに戸惑う事となった。

 

「ねえ、慶一君。ここなんだけどさー。」

「けいちゃん、ここはこれでいいの?」

「慶一ー、ここを教えてくれよー。」

 

と3人に質問されると、俺は考え事に集中しすぎた為に、こなた達の聞きたい事を聞きそびれてしまった。

 

「あ、えっと・・・すまん、3人共。もう一回いいか?」

 

と言う俺の様子にこなたは首を傾げつつ

 

「どうしちゃったのさ?慶一君。いつもの君らしくもないねえ?」

 

と言って来るこなたに俺は苦笑しつつ

 

「はは・・・。言葉もないな。悪い、ちょっと考え事に没頭しすぎたようだ。確かに俺らしくなかったかもな・・・。」

 

そう言う俺に、つかさやみさおがちょっと心配そうに

 

「だいじょうぶ?ちょっと疲れてるの?」

「お前は結構無茶する所あるし、気をつけなきゃだめだゼー?」

 

とそう言ってくる2人に俺は複雑な表情を向けつつ

 

「大丈夫だ。つかさ、みさお。それと、その心配はありがたく受け取っておくよ。」

 

そう言うと、3人は少しほっとしたような顔になっていたが、そこにかがみが

 

「あんたらが慶一くんに苦労かけるからじゃないの?慶一くんを心配する前に、まずはそうなってしまう自分達の事を反省しなさいよね?」

 

と突っ込みを入れると、3人は苦笑しながら

 

「わ、わかってるよー・・・。一応は私も悪いとは思ってるんだし、そんな風に言わなくてもいいじゃん・・・。」

「あ、あはは・・・ごめんね?けいちゃん。」

「むう・・・私だって少しは責任は感じてるぞ?でも、ついつい慶一に頼っちゃうんだよなあ・・・。」

 

と言う3人にかがみは大きなため息をついて呆れていた。

 

あやのやみゆきもそんな光景を見て苦笑を浮かべ、1年生組、2年生組もそんな俺達のやり取りを楽しそうに見ていた。

 

そして、そんな中でこうとやまとが

 

「まあ、なんだかんだ言っても先輩の面倒見の良さはあの頃から変わってないですよね。」

「お人好しな所は確かにあの頃から変わらない所よね・・・。ある意味じゃ先輩らしいけど・・・。」

 

そう言う2人に俺は苦笑しながら

 

「まあ、こうの言うように世話焼きではあったというのは今更否定はしないよ。それを言うならこうとやまとだってあの頃からさほど変わっちゃいないよな?ちょっと小生意気な所とか、言葉がきついところと・・・か・・・。」

 

と、こうとやまとの2人に顔を向けて話をしている途中、やまとと目が合いそうになった時、再び朝に感じたあの感覚が蘇ってきて、俺は、やまとへ最後まで言葉を発しきれずに言葉を途切れさせつつ、視線をやまとから外す事となってしまった。

 

俺のこの変化にこうとやまとはもちろん、俺を見ていた他の皆もまた、俺の異変に戸惑っているようだった。

 

「先輩、朝もそうだったけど、どうしちゃったのよ?何で私と目が合いそうになると視線をそらすのよ?」

 

頭にまたもハテナマークを飛ばしつつそう聞いてくるやまとに俺も、困惑した顔でそれでも目をあわせられないまま

 

「・・・俺にもわからん・・・朝からずっとこの事には自問自答してきたんだが・・・どうして突然こうなったのかが俺にも良くわからないんだ・・・。俺、どうしちゃったんだろうか?」

 

そう言う俺に、やまとは何やら釈然としない表情を浮かべていたが、俺達のやり取りを見ていたみゆきが

 

「慶一さん。慶一さんは永森さんに対して何か後ろめたい事があるんですか?先ほどの態度を見る限りでは、慶一さんにそういうものがあるように思えたのですが・・・。」

 

その言葉に俺はしばし顔を伏せて考え込んでいたが、やがて顔を上げると

 

「いや、そんな事はない・・・そのはずだ・・・。昨日俺は皆に俺の後ろめたい事を告白したんだし、皆もその事は知ってるはずだよな?だから、後ろめたい事なんてないはずなんだ・・・。だけど、どうしてやまとの顔を見れなくなっちゃったんだろう?昨日までと何ら変わらないはずなのに・・・。」

 

そう答える俺に、皆もまた、困惑の表情を見せていたのだった。

 

やまとside

 

昨日の先輩の告白を聞いた私は、皆と同様に大きなショックを受けていた。

 

けれど、先輩は、皆の言葉を聞き、自らの罪を受け入れて、これから先”しおん”さんの分まで生きて、幸せになる事を改めて皆と共に誓い合ったのだった。

 

けれど、その次の日の朝から、先輩の身に異常が起こっていた。

 

それまで私と話をする時も、普通に私と目を合わせて会話が出来ていたはずの先輩が、その日の朝には私と話をしている途中で私から視線をそらす、といういつもとは違う行動を取ったのだった。

 

しかも、それが私以外の先輩達や後輩達と話す時はいつもと何ら変わらない事が、その日の勉強会以降からの先輩の私に対してだけの態度を見るうちに、私自身もいらいらが募ってくるのが感じられた。

 

どうして突然こういう事になったのか、先輩に問いただしてみても、先輩自身にもその原因がわからずに困惑しているという。

 

私はそんな先輩を見ながら心の中で

 

(・・・先輩、一体どうしちゃったの?今までは先輩も私や皆と話す時も何ら態度は変わらなかった・・・。なのにどうして突然私にだけそんな態度をとるようになっちゃったのよ・・・原因を先輩に聞いてみても先輩もわからない、と言っていたっけ・・・なんだかこのままじゃ納得できないわ・・・。こうなったら意地でも先輩には元に戻ってもらうんだから。絶対に・・・。)

 

そう考えながら、私は絶対に先輩を元に戻してみせると誓ったのだった。

 

慶一side

 

結局その後も勉強会は進み、とりあえずの終わりを見たものの、俺のやまとに対する態度は改善されないままだった。

 

明日以降のみさおとあやのとした約束も果たさなければいけない中、俺はこの問題だけはどうにかしないと、と頭を悩ませていたのだった。

 

全ての勉強会の日程を終え、俺はこなた達を送る為に一緒に駅へと向かった。

 

その際、やまと達は食事当番でもあったため、家に留守番をしてもらい、皆を見送ったのだが、その時にこなたに

 

「ねえ、慶一君。結局永森さんにあんな態度を取ってしまう原因ってわかったの?」

 

そう尋ねられたのだが、未だに原因が判明していない状態だったので、俺は素直にその事をこなたに伝える。

 

「それが、未だにまだわからない状態なんだ・・・。俺もこのままでいいとは思っていないから、なんとしても原因は突き止めたい所だよ。なあ、こなた、みさお、あやの、それに皆。もしも今日中に解決ができないようだったら、もう1日だけ時間をもらっても構わないかな?俺としてもこのままじゃすっきりもしないからな。約束を果たすならば、俺にとっても皆にとっても何のしがらみも無くしておきたいんだ。」

 

その言葉にこなた達は頷いて

 

「そうだね。私達としても、今のままじゃやりにくいし、そこの所は慶一君の判断に任せるよ。だから、慶一君も頑張って問題を解決させてよね?」

「まったく・・・これから遊びに行こうって時に妙な問題かかえちゃって、あんたも苦労するわね。でも、こなたの言う通り、さっさと問題解決させちゃいなさいよ?」

「そうだぞ?慶一。そうしなきゃ意味ねえんだからな?」

「心の問題なのかもしれないけど、私達には祈る事くらいしかできないものね・・・。」

 

という4人に俺も苦笑しながら

 

「わかってるさ。何とかやってみるつもりだ。何だか皆にも心配かけちゃってすまないな。」

 

そう言うと、ゆたか達も同じように苦笑しつつ

 

「時にはそういう事もありますよ。とにかく先輩、頑張って下さいね?」

「そうっスよ?私達も遊びに行ける事を楽しみにしてるんですから。」

「私もです。仲間と認めてもらっての初のお出かけですし、楽しみたいですからね。」

「せっかく先輩も立ち直って初めての皆との交流なんですし、無駄にはしたくないですから、だから、先輩、問題が解決できるように祈ってますよ?」

「そうそう。それが私達の願いでもあるんですから、よろしくお願いしますよ?先輩。」

 

そう言う皆に俺も頷いて

 

「そうだな・・・。とにかく、もう一度やまとと向き合わなきゃいけないようだし、皆の期待を裏切らないように頑張るよ。それじゃ、皆、気をつけてな。」

 

そう言うと、皆もにっこりと笑って手を振りながらそれぞれの家へと帰って行った。

 

それを見届けた後、俺は改めてやまとと向き合い、この問題を解決しようと意気込んで家へと戻ったのだった。

 

結果から言えば、その試み、そして意気込みは空回りをするに至った。

 

その後の夕食時、そして、居間でのくつろぎ時にも俺は、何度かやまとに話し掛けてみようとしてみたが、どうしてもやまとと目が合いそうになると目をそらしてしまう。

 

そして、そんな俺の態度に、やまともまた、不機嫌度を増しながら爆発寸前になっていたようだった。

 

その後、俺はもう一度仏間へと赴いて、しおん達の写真を見ながら忘れていた過去の事、そして、それから現在に至るまでの自分の足跡を思い出していたが、その時に俺はようやく今回の事を引き起こした原因へと思い至ったのだった。

 

それは、やまと達と出会ったあの頃に俺が取った行動こそが、その原因だったのだ。

 

そこまで思い至った時、”バンッ”と勢いよく仏間のドアが開かれた音を聞いて、俺は驚いてそちらに目をやると、そこには苛立ちの爆発したやまとの姿があったのだった。

 

「や、やまと?どうしたんだ、一体・・・。」

 

そう言ってやまとにさらに声をかけようとしたが、その声はやまとの心の叫びによって遮られた。

 

やまとside

 

勉強会の後、先輩をなんとしても元に戻したいと思った私は、その後も先輩を元に戻す為に、こちらからも積極的に話し掛ける等の努力をした。

 

けど、こちらの懸命の努力も実らず、皆とくつろいでいた最後の時間においても先輩の態度は朝からのままだった。

 

先輩の為に頑張ってみようとしたこちらの意図も効を奏さず、私はその思いの空回りにいらいらを募らせ、先輩が私の前から立ち去ってから少しして、私のいらいらはついに爆発する事となった。

 

かなりの剣幕でこうに先輩の居場所を聞き出した私は、このいらいらを先輩にぶつける為に先輩のいる仏間へと向かい、かなりの勢いで部屋のドアを開けた。

 

その大きな音に気付いた先輩は、驚きの表情で私を見ながら、私に声をかけてきた。

 

「や、やまと?どうしたんだ一体・・・。」

 

そう言った後、更に言葉を続けようとした先輩に、私は今までの感情をぶつけるように先輩に対して大声を上げたのだった。

 

「先輩っ!どうしたのよ!?どうして今まで私にも皆と同じように普通に話せていたのに今朝からおかしくなっちゃったのよ!?私は先輩に元に戻って欲しくて頑張ってるのに、どうして先輩はその私の思いに応えてくれないの!?先輩もこうと同じように私に普通に接してくれる数少ない理解者だった!私は・・・私はそんな先輩を心から信頼していたのよ!?それなのにどうして・・・どうして今になってそんな態度を取るのよ!?私が・・・私が先輩に何かしたっていうの!?ねえ!答えてよ!?先輩っ!!お願いだから・・・元に戻って・・・。」

 

と爆発した感情をぶつけたものの、最後には先輩に見放されてしまったのか?という思いが湧きあがり、私は涙をこぼして先輩を睨みつけていたのだった。

 

先輩はそんな私を見て、心底すまなそうな顔を向けながらも”きっ”と私を見据えると、私の側へと近づいて、泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれた。

 

慶一side

 

今朝からの俺の異変。

 

そして、そんな俺の異変にやまとは相当に感情を溜め込んでいる様子だった。

 

そして、その鬱積した感情は今、俺に叩きつけられた。

 

俺は、そんなやまとの感情を受け止めつつ、そして、泣きじゃくるやまとをそっと抱きしめながら、やまとへと語りかけるのだった。

 

「・・・すまん・・・すまなかった、やまと。お前には大分辛い思いをさせちゃったな・・・。あの後俺はここに来て、そして、今朝からの異変の原因について思いを巡らせていた。そして、ようやくその原因に思い至ったんだよ。今から俺が言う事をしっかりと聞いてくれるか?やまと。」

 

そう声をかけると、少し落ち着きを取り戻したやまとが俺の顔を見つめながら

 

「・・・わかったわ。話してくれる?先輩。」

 

そう言うやまとに俺も頷くと、今朝からの俺の異変の原因についてやまとに話をはじめた。

 

「俺が”しおん”をお前等と出会う前に亡くしていた事は昨日話したよな?そして、俺の罪についても。」

 

その言葉にコクリと頷くやまとを見て、俺は更に言葉を続けた。

 

「あの後、俺は無意識にその事実を受け入れたくなくて自分の記憶を封印した。でも、俺自身意識していなくても心のどこかで”しおん”の事を覚えていたらしい。そして、あの日、お前達のケンカの場面に出くわした俺は、やまとの姿を見て、そして、無意識に”しおん”に似ているお前にあいつの姿を重ねていたらしいんだ。」

 

その言葉にやまとはショックを受けたような顔になりつつも

 

「私が・・・”しおん”さんに似ていたの?そして、先輩は無意識に私に”しおん”さんの影を重ねた?それは・・・つまり・・・。」

 

そのやまとの言葉に俺は苦しげな表情になりながら

 

「・・・そうだ・・・。俺はあの時にお前を永森やまとではなく、”篠原しおん”として見ていた。それがわかったのは、過去からの俺の記憶をさかのぼって見た時、だったんだ。そして気付いた。俺は、お前をずっと・・・永森やまととして接していたつもりの俺は・・・過去を取り戻す昨日まで、”篠原しおん”として接していたという事に気付いたんだ・・・。」

 

その言葉にはやまとは相当に凹んだ様で、俺を悲しげな表情で見つめながら

 

「・・・そんな・・・。それじゃ先輩が今まで私を私として見て来てくれなかったの?私はずっと、”しおん”さんの代わりだったの?私は・・・私の存在は・・・永森やまととして先輩にはずっと認識されて来てなかった、って言うの?あんまりよ・・・そんなのあんまりだわ・・・。」

 

そう言ってやまとは再び俺の胸の中で泣き始めた。

 

俺はそんなやまとにとてもすまない気持になりながら

 

「なんと言ってくれても構わない・・・。俺は、お前に対してそれだけの事をした。たとえそれが無意識の事であっても・・・俺はお前を傷つけた・・・。お前の存在意義を認めずに来た・・・。たとえお前に愛想を付かされても仕方のない事だと思ってる・・・。そして、そんな俺の、お前に対する罪悪感もあって、俺はお前の目を見れなくなってしまっていたんだと気付いたんだ・・・。やまと、俺をののしってくれても構わない。軽蔑してくれても構わない。俺はお前への罪に対する罰を甘んじて受ける。それだけ俺は、お前に対して許されない事をしたんだから・・・。」

 

そう言って俺は固く目を瞑り、やまとからの言葉を待った。

 

「・・・そうね・・・先輩は最悪だわ。私をずっと、私として見てくれなかった。これまでの私と先輩との事もなんだったのか、わからなくなったわ・・・。ずっと私は先輩に騙されていただけなの?先輩の私に対してかけてくれた言葉は私に対してのものじゃなかったの?」

 

そうやって俺を非難するやまとに、俺は何も言えなかった。

 

言う資格すらなかった。

 

俺はそれだけの事をやまとに対してしてしまった。

 

俺の弁解できる余地など、どこにも残っていないのだから。

 

そう考えていると、やまとはそんな俺の態度を見ながらも俺の顔をじっと見続けていたが、やがて

 

「先輩、1つだけ聞かせてくれる?過去を取り戻した今、先輩は私の事を永森やまととして見れるようになったの・・・?」

 

その言葉に俺は少し驚きつつも頷いて

 

「・・・ああ。信じてもらえるかわからないけど、今の俺にはちゃんとお前が永森やまとだと認識出来ているよ。そして、今日初めて俺は、永森やまとから言葉を聞いている。永森やまとという人間の言葉を聞いている。それだけは間違いない事だ。」

 

その言葉にやまとは、しばらくの間顔を伏せて考え込んでいるようだったが、ふいに顔を上げると俺の目を見つめながら

 

「・・・わかった。先輩。先輩は私に愛想をつかされても構わない、そう言ったわね?」

 

その言葉にコクリと頷く俺。

 

そんな俺の態度を見て更に話を続けるやまと。

 

「本当だったら先輩の言うように、なのかもしれないわ・・・。でも・・・今まで私が私として見てもらえなかったのだとしても、今日までの時間、そして出来事は確かにあった事だわ。今更それを否定はできない。それに、今まで楽しかった。その事実は変わらないわ。その記憶と時間は、私にとっても真実のものだもの。それを踏まえた上で先輩に聞きたい。先輩はこれから先は私をちゃんと永森やまととして見てくれる?」

 

その言葉に俺は戸惑いながら

 

「・・・記憶が戻った今、俺はお前をちゃんと永森やまととして見て行きたいと思っている・・・けど・・・俺は、お前に対して許されない事を・・・。」

 

そこまで言った俺に、やまとはいつもの薄い微笑みを向けて

 

「・・・いいわ。許す。これから私をちゃんと見てくれるって言うのなら、私は先輩を許すわ。たとえ今まで私が私として見られてこなかったのだとしても、もう私にとって今までの時間はかけがえのないものになっているのよ?そして、私はそんな時間に居心地の良さを感じてしまったもの。今更離れる事なんて出来ない。それに、先輩がどう思っているかは分からないけど、私はそんな先輩を、今更嫌う事なんて出来ないから・・・だから・・・お願い、先輩。これからの私をちゃんと見て?それを約束してほしい・・・。」

 

その言葉に俺は、罪悪感と俺の罪を許してくれたやまとの言葉に涙をこぼしながらも、やまとの目を真っ直ぐ見据えて

 

「・・・すまない、やまと。約束する。これからはちゃんとお前をお前として見るよ。そして、これから先お前に対しての罪滅ぼしをさせてくれ。そして、ありがとう・・・俺を許してくれて・・・。」

 

今度は最後まで目をそらさずに俺は、やまとに向き合う事が出来た。

 

そんな俺を見たやまとは、俺と同じように泣きながらも笑顔を見せてくれたのだった。

 

こうして俺は、もう一度やまとと向き合う事ができるようになった。

 

今後、俺は、ちゃんとやまとをしおんの代わりとしてではなく、やまととして見ていこう、そう心の中で誓ったのだった。

 

ひとまずは、俺の異変もこれで終わりを見たのだが、その後でやまとから俺にこんな提案を持ちかけられる事となった。

 

「先輩、今回の事で私に罪滅ぼしをしたい、って言ったわよね?それじゃ、1つ私のお願いを聞いてもらってもいい?」

 

そう言うやまとに俺は苦笑しつつも頷いて

 

「俺に出来る事なら構わないが、やまとのお願いって何だ?」

 

と尋ねると、やまとは少しだけ顔を赤らめながら

 

「明日1日、私と・・・デートして欲しい。そう言うお願いはだめ?」

 

そう言うやまとに俺も驚きつつも顔を赤らめて

 

「え?あ、いや、やまとがそうして欲しい、って言うのなら俺は構わないけど、でもいいのか?」

 

その言葉にやまとは頷いて

 

「うん。だって、今回のデートは私が私として初めてするデートだから、だから、ここからスタートさせたいの。篠原しおんの代わりではなく、永森やまと本人としてね。」

 

その言葉に俺は頷いて

 

「わかった。お前の願いを聞くよ。こなた達には明日1日時間をもらうように説得する。そして、ここから始めよう。もう一度・・・。」

 

そう言うと、やまともまた、満足気に頷いてくれたのだった。

 

かくして、改めて俺達は本当の意味での永森やまとと俺の関係をスタートさせる事となった。

 

今度こそはちゃんと俺は見るべき人間を見失わない、そう心に誓ってこれから進んでいこうと思うのだった。

 

その後、こなた達を説得し、明日のデートへの時間をあける事となった。

 


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