らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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共に歩み出す旋律~龍兄の頼み事、そして、事件を乗り越える時~

瞬の一件もあって落ち込んでいた俺だったが、みんなの気遣いによって俺は、再び立ち直る事ができた。

 

そして、再びいつもの日常に戻ろうとしていた矢先に、新たな事件が俺達に影を落とそうとしていた。

 

それを思わせる報道を目にしてから次の日の朝、俺は昨日の事を心の中で気にしつつも、今日もまた、いつものように学校へと向かう準備をして、パティと一緒に朝食を摂っていた。

 

そして、食事も一段落した頃に、ふいに俺の携帯に、龍兄からの電話がかかってきた。

 

俺はとりあえず電話に出てみる。

 

「もしもし?龍兄か?こんな朝っぱらからどうしたんだよ?急に電話してきてさ。」

「慶一か?朝からすまないな。ちょっとお前に頼み事があってな、その事で電話させてもらったのさ。」

「頼み事?」

「ああ。実は明日からしばらくの間、みゆきちゃんとみなみちゃん、こうちゃん、やまとちゃんの4人をお前の所で預かって欲しいんだ。」

「え?どうして、みゆき達を?」

「うちの町内には武闘派のヤクザ連中がいる事はお前も知っているだろう?ここ最近の連中の動きが不穏でな、近く、抗争が始まるかもしれないんだ。そうなったらしばらくは町内はごたごたするだろう。そうなった時、みゆきちゃん達やその御両親にもその影響が飛び火しないとも限らない。だから、そのごたごたからみゆきちゃん達を守るためにはお前の方に居てもらった方が安全なんだ。その間に俺や親父、それに麗真さん達でこのごたごたに決着(けり)をつけるつもりだ。それまでの間だけ、お前にみゆきちゃん達を任せたい、という事さ。」

「待てよ。そういう事なら俺も手伝った方がいいんじゃないのか?それに、みゆき達の御両親はどうなるんだよ?」

「みゆきちゃん達の御両親はうちの道場で保護するから心配ない。それに、今回の事はお前に手を借りるわけにはいかないんだ。」

「みゆき達の御両親の事は分かった。けど、何でだよ?俺じゃ頼りないのか?」

「そうじゃない。お前にはお前の仕事がある、と言っているんだ。」

「俺の仕事?」

「そうだ。お前の仕事は、みゆきちゃん達の側にいてみゆきちゃん達を守ってやる事だ。危険がそっちに飛び火しないとも限らない状況で、お前までこっちに参加してしまったら誰がみゆきちゃん達を守るんだ?みゆきちゃん達はお前にとって大切な仲間なんだろう?だったら、お前はお前の大切な仲間を守る事に力を尽くせ。心配するな、こっちは俺達で片付けられる。お前は自分の仕事を全うしろ。」

「・・・わかったよ。龍兄、くれぐれも無茶するなよ?親父や麗真おじさんにもそう伝えておいてくれ。」

「ああ、確かに伝えよう。それじゃ、明日からよろしく頼む。事がすんだらお前に連絡を入れるからそれまではお前も頑張れよ?」

「わかってる。みゆき達は絶対に傷つけさせない。こっちは任せてくれ。」

「心配はしてないさ。お前ならやれる、って信じてるからな。それじゃ、これで切るぞ?お前もこれから学校だろう?」

「おっと、いけね、そうだった。それじゃな、龍兄。」

「ああ。またな、慶一。」

 

そう言って電話を終える頃には結構な時間が経っていて、何時の間にか来ていたあやのとパティと一緒に、慌てながら駅へと向かうのだった。

 

龍也side

 

慶一との電話を終えて、俺は

 

(とりあえずはこれでいいだろう。慶一もどうやら俺の言った事を信用したみたいだしな。さて、一応の懸念事項はなんとかなったな。全てはこれからだ。なるべく早い内に決着をつけるぞ。)

 

そう心の中で考えて、みゆきちゃんに慶一の説得ができた事の報告のメールを飛ばしておくのだった。

 

慶一side

 

昨日の報道、そして、今朝にあった龍兄からの突然の電話。

 

ここ数日に色々と立て続けに起きているこの事態に俺は、困惑するしかなかったが、とりあえずは龍兄の言うとおりにしておこうと考え、俺達はいつもの電車へと乗り込んだ。

 

そして、かがみたちと合流してからは、俺達は昨日のニュースについての話していた。

 

「慶一くん、パトリシアさん、峰岸、おはよう。ねえ、昨日のニュース見た?」

「あの名前の人って本人なのかなあ?」

 

そう言って声をかけてくる2人に俺は

 

「うーん・・・まだその事に関しては詳しい情報がね・・・。」

 

そう答えると、俺達と同じようにニュースを見たらしいあやのとパティが

 

「昨日のニュースは私も見たわ。私もちょっと気になってるのよね。」

「キノウのニュースはワタシもミましたが、ケイイチタチのイウ、ナルカミというヒトはイッタイどんなヒトなんデスか?」

 

そう言って、そして、最後のパティの質問に俺は苦笑しながら

 

「まあ、俺にとっては因縁のある人間、という事かな?」

 

そう言う俺の言葉にかがみたちもコクリと頷く。

 

「インネン、ですカ?」

 

不思議そうな顔で言うパティのその言葉に俺も頷いて

 

「そうだな。中学時代には亡くなった瞬と俺にも係わりのある奴だった。瞬の足を砕いたのもあいつだったしな。その事件以降も何かと俺達に絡んできた奴だったよ。俺達には相当の恨みを持っていたと思う。」

 

そう言う俺の言葉にかがみは更にパティに

 

「以前にね、そいつの事で慶一くんと私達の間に亀裂が入った事があったのよ。まあ、その時には誤解で済んだけど、もし現実にそいつとの事があれば、間違いなくそいつは慶一くんを苦しめる為の行動を取る、そう言う奴らしいわ。」

 

そう説明するかがみにパティは、不愉快とも取れるような表情を作ると

 

「ナルホド。それはイヤなヤツですネ・・・。でも、もしそれがホンニンなのだとしたら、ケイイチタチにとってもいなくなってくれてツゴウがいいのではないデスカ?」

 

そう言うパティにかがみ達もうんうんと頷いていたが、俺だけはその言葉に少し難色を示していた。

 

そんな俺の気難しそうな表情に気付いたパティは

 

「ケイイチ?どうしましたカ?」

 

と、怪訝な表情で尋ねてくるパティと同じようにかがみ達もそんな表情で俺を見ていたが、俺は1つため息をつくと

 

「・・・パティ、それに皆も、皆の言いたい事も良く分かる。俺もまた、皆に危害を加えられそうな可能性を持つ奴がいなければ、と思う事もあった。けど、俺は、どんなに憎い相手であっても、そいつの死を願った事だけはないつもりだ。相手が誰であれ、誰かの死を願う事は人として最低な行為だと思わないか?だから俺は、少なくとも皆にはそう言う考えを持って欲しくない、って思ったんだよ。」

 

俺のその言葉に、皆はショックを受けていたようだったが、かがみ達は気を取り直すと俺に

 

「そうね。確かに嫌な奴だけどそう考えるのはだめよね・・・。ごめん、慶一くん。」

「わたしも一瞬だけどそう考えちゃった・・・。だめだよね、やっぱり・・・。」

「私も柊ちゃん達と一緒ね。ちょっと軽率だったと思うわ。」

「ソーリィ、ケイイチ。ワタシもカルくカンガエすぎていたようですネ・・・。」

 

少し凹みながらそう言ってくる皆に、俺は苦笑しながら

 

「いや、わかってくれればそれでいいよ。ともあれ、この話題は一端やめにしよう。新しい情報もないからあーだこーだ言っていても何もわからないからな。だから、一端気持を切り替えよう。」

 

ちょっと暗くなっていた空気に俺は、無理やり明るさを混ぜてそう言うと、4人とも少し困惑しつつも俺の言葉に乗ってくれたようなので、次の話題を、と思っている時に、丁度こなたが乗って来る駅についた。

 

そして、その電車にこなたとゆたかが乗ってきたので、俺は2人に挨拶をした。

 

「おはよう、こなた。ゆたか。今日も時間どおり来たな?ん?こなた、どうした?何だか凄く眠そうだが?」

 

と、俺が挨拶をしたのを皮切りに、皆もこなた達に挨拶をする。

 

「おはよう、こなた、ゆたかちゃん。あら?そう言えばそうね?あんたまた遅くまでゲームでもやってたの?」

「おはよう、こなちゃん、ゆたかちゃん。そういえばこなちゃん、眠そうだね~?」

「おはよう、泉ちゃん、小早川ちゃん。調子悪いならあまり無理しない方がいいかもよ?」

「グッモーニン!コナタ、ユタカ。それともキノウはゲームではなく、アニメザンマイでしたカ?」

 

という言葉にこなたとゆたかは俺達に挨拶を返した。

 

「・・・おはよー、皆。うん、ちょっと昨日色々あってよく眠れなかったんだよねー・・・。」

「おはようございます、皆さん。おねえちゃんが言うには昨日は一晩中起きてたみたいです。」

 

というゆたかの言葉に呆れながら俺は

 

「まったく、相変わらずだなあ、こなたは。電車降りたらバスに乗るんだし、少しだけでも眠っておけよ?学校着いたら起こしてやるから。」

 

そう言うと、こなたは俺に

 

「ありがとー・・・助かるよー・・・。」

 

眠そうな顔でそう言うこなたに俺も苦笑していた。

 

「あ、そういえばこなた。あんたも昨日のニュース見たの?」

 

ふと、その事を思い出したかがみがこなたにそう言うと、こなたはその言葉にピクリと反応して

 

「私も、って事は、かがみ達もあのニュース見たんだね?」

 

突如先ほどの眠そうな顔はどこへやらで、真剣な表情へと変貌したこなたがかがみにそう言うと、かがみもその変化に気圧されつつもコクリと頷いた。

 

「かがみ、それに皆も、今日の昼休みに話したい事があるんだよ。だから、その事に関してはその時でいいかな?」

 

と言うこなたにかがみも、そして周りの皆も少し困惑しつつもコクリと頷いてそして、俺はこなたのその言葉にピンと来る物があったので

 

「こなた、それは昨日の俺との電話での事だな?」

 

そう尋ねると、こなたは頷いて

 

「うん。その事に関する続報ってやつかな?だから、なるべくこの件に係わってる皆にも話したいんだよ。」

 

そう言うこなたの言葉に俺も頷いて

 

「わかったよ。皆、そう言う訳だ。続きは今日の昼休みにな。」

 

そう俺が言うと、皆も頷いて、とりあえずその場の話はそれで終わったのだった。

 

そして、学校に着いて教室に入った時に、みゆきやみさおからもニュースの件で聞かれはしたが、全ては昼休みに話す、と言う事で全員が納得した。

 

そして、その日の昼休み。

 

いつものように俺達はアニ研の部室へと集まり、昼食となったのだが、あのニュースはこうややまと、みくやたまき、いずみ達も見ていたようで、こなたが、今朝言ってた話の続きをしようとした時にみく達に質問された俺は、成神についての簡単な説明をしてから、こなたの話の本題へと入った。

 

「それで?こなた、今朝の続きについてだけど・・・。」

 

俺がそう切り出すと、こなたは

 

「そうだね。けど、その前に昨日の慶一君とのやり取りの事をまず皆に説明しとくよ?・・・って事でね?昨日は慶一君と電話で話をしたんだよ。それでね?ゆいねーさんに掛け合ってみてこの一件に関する情報が何かないかな?と思って、聞くだけは聞いてみたんだけどね?その結果が昨日中に私に届いたんだよ。だから、今日はその事を皆に話そうと思ったんだよね。」

 

その言葉に皆も頷いて

 

「そうか、なら、頼むよ。」

 

俺がこなたに先を促すと、こなたは頷いて

 

「うん。まずは、あのニュースで見つかった遺体の事なんだけど、成神本人で間違いないみたいだよ?」

 

その言葉に俺を初めとする全員が驚愕の表情をした。

 

「・・・やはり、そうなのか・・・あまりそう思いたくはなかったけどな・・・。」

 

俺のその呟きにこなたも心持ち硬い表情で頷く。

 

皆もまた少し暗い表情になりつつも、こなたの言葉を黙って聞いていた。

 

そして、その皆の様子を見つつ、こなたは更に言葉を続けた。

 

「私もそうだけどね・・・それじゃ続きだけど、報道でやっていたように死因は自殺、これも間違いないって事だね。」

 

その言葉にここにいる全員が複雑な表情を見せる。

 

俺はそんな皆の様子を気にしつつ、こなたに確認したい事があったので聞いてみた。

 

「こなた。自殺って事で、報道では遺書も見つかっている、って事だったよな?その内容は教えてもらえたのか?」

 

俺のその質問に、こなたはかなり困惑の表情を見せていた。

 

こなたはしばらく何事かを考えた後、意を決するような表情を作ると、更にその先の情報を話してくれたが、その前に俺達にこう前置きした。

 

「・・・これは、話すべきかどうか、散々悩んだ事なんだけどね・・・それで昨日一晩中悩んでたんだよ・・・

でも、いろいろ悩んだけど、やっぱり話すのがいいと思うから話すね?」

 

そう言うこなたの言葉に俺達も神妙な顔で頷くと、こなたは遺書に関する情報を話してくれた。

 

「あいつの部屋から見つかった遺書にはね、こう書いてあったらしいんだよ。内容はかなり端折っちゃうけどさ。ようするに、あいつは牧村君を・・・手にかけたらしいんだ・・・。そして、そうしてからの自分の行動に罪悪感を感じてそれに耐えられなくなったから自ら命を断ちます、と言う事なんだよね・・・。」

 

その内容にかなりのショックを受ける皆。

 

だが、それ以上に俺がショックを受けていた。

 

何故なら、瞬の死は轢き逃げによるものだという事を聞いていた。

 

そこに、かつての、中学時代に因縁を持つ者が係わった、等とは思いもしなかったからだ。

 

そして、ようやく犯人がわかったものの、その本人もまたすでにこの世の者ではなくなっていた、その事が俺の中で複雑な感情として絡み合っていた。

 

俺は、無言で席を立つと、その場を後にしようとした。

 

そんな俺の行動に気付いたこなたは俺に

 

「慶一君、どうしたの?一体どこへ・・・。」

 

そう尋ねてくるこなたに俺は振り返らずに

 

「・・・すまん、少し1人になりたい。」

 

そう言って部屋を後にした。

 

俺は、部屋を後にすると、星桜の樹の所へと向かった。

 

こなたside

 

遺書の事を公表するかいなか、私は昨日から一晩中悩んでいた。

 

でも、この事実は慶一君にも伝えるべきだと最後には決断して、この場で皆と慶一君に話した。

 

皆も慶一君もショックを受けているようだったけど、慶一君のショックは皆よりも更に大きく感じた。

 

そして、その場に居たたまれなくなったのか、突然慶一君席を立ち、アニ研部室を後にしようとしたので、私は思わず慶一君を呼び止めた。

 

しかし、慶一君は私の言葉に振り返らず「1人になりたい。」と言ってそのまま部室を出て行った。

 

そんな慶一君を、この場にいる誰もが引きとめる事は出来ず、私たちもその事に落ちこんだ。

 

しかし、そんな時「先輩!」「待って!先輩!!」そう声を上げて八坂さんと永森さんが慶一君の後を追って教室を出た。

 

私たちは、その行動に驚きながらも2人を見送り、私は慌てて八坂さんにメールを飛ばしたのだった。

 

そして、メールを飛ばした後、私はこの場に居る皆に、昨日聞いていた情報の、先ほど慶一君の前では話さなかった部分について話す事にしたのだった。

 

慶一君や八坂さん達の行動に困惑し、とりあえず行動しようと動く体制をとろうとした皆に私は声をかけた。

 

「待って、慶一君の居場所については八坂さんに見つけたらメールを飛ばして欲しい、って頼んであるから心配ないよ?その前にまだ、皆に話してない事があるから聞いてくれる?」

 

その私の言葉に皆は、私の方を見て驚きの表情を見せていたが、かがみが

 

「・・・わかったわ。そっちは八坂さんに任せて後で追いつくとして、こなた、その話していない事って言うのを聞かせてもらえる?」

 

そう言って来たので、私はその言葉に頷くと、皆を一通り見渡して、言葉を発した。

 

「成神が、龍也さん達が今闘っている犯罪組織に所属している、という事は牧村君の亡くなったあの日に皆にこっそり話したよね?」

 

その言葉に頷く皆。

 

私は更に言葉を続けて

 

「その成神がどうやら、組織の上の人間に美味い話でそそのかされて、牧村君を始末する為に動いたんだよ・・・そして、仕事を終えた成神もまた、連中の偽装工作の生贄となって消されたらしいんだよ。」

 

その私の言葉に、その場にいる全員が衝撃を受けていた。

 

そして、かがみが

 

「そ、それじゃ、今回の事は、2人ともその犯罪組織の手にかかってしまった、という事なのね?」

 

そう聞いてくるかがみに私も重々しく頷く。

 

「全ての元凶はその犯罪組織、という事ですか・・・悲しい事ですね・・・。」

 

みゆきさんも、この事にはなんともやりきれない気持のようだった。

 

つかさもこの事を聞いて

 

「・・・この事はけいちゃんには言えないね・・・。こなちゃんが黙ってて、と言った意味がよくわかるよ・・・。」

 

そう言うつかさの表情も暗かった。

 

「私、この事は絶対に慶ちゃんには言わないわ。みさちゃんも絶対言っちゃだめよ?」

「わかってる。こんな事言えっかよ。言えばあいつは今よりもずっと苦しい思いをするに決まってる。」

 

そう言う峰岸さんとみさきちもまた、お互いに頷きあい、この事は心の中に封印するつもりのようだった。

 

「私たちも言わない。ね?みなみちゃん、ひよりちゃん、パティちゃん、いずみさん。」

「・・・そうだね・・・事実は、私達の心の中に・・・。」

「こんな事言えないっスよ・・・私だって一応は言っていい事悪い事の区別くらいはつくつもりっス。」

「ワタシもイイません。ジケンはこれでカイケツした、それでいいデス!」

「そうだよね。私も言わないわ。ずっと心にしまっておく。」

 

そして、毒島さんや山辺さんも同じように頷いて

 

「何だかすごい事になってしまいましたが、ここは私たちの秘密って事でいいね。」

「うん。そうしよ?先輩を下手に傷つける事はないよ。」

 

そう言いあい、私たちと一緒にこの秘密を共有する事を改めて約束してくれたのだった。

 

そして、秘密の共有を誓い合った頃、私の携帯に八坂さんからのメールが届き、慶一君の居場所が判明したので、私達もこっそりと慶一君の所へと行くことになった。

 

そうして私たちがアニ研部室から移動を開始したその頃・・・・・・。

 

慶一side

 

こなたから一連の情報を聞いて、その場に居たたまれなくなった俺は、1人きりになりたくてアニ研部室を後にした。

 

そして、いつも俺が落ち着ける場所として利用した星桜の樹の所へとやってきた。

 

俺は樹の幹に手を添えながら心の中で色々と考えていた。

 

(瞬に続いて、成神までもが消えてしまった。そして、瞬の消えた原因が成神にあり、成神もまた、自らの罪の重さに耐え切れずに命を断った・・・。ようやく犯人がわかったと思ったのにこれじゃ・・・俺は、どうしたらいいんだろうか・・・?)

 

犯人が特定できた事、そして、その犯人がもういない事、それらの事を考えた時、俺は複雑な思いで心がいらつき、俺は気付いたら「ドカアッ!!」と言う衝撃と共に星桜の樹を殴りつけていた。

 

そして、そんな俺の後ろから声をかけてくる者がいた。

 

「・・・先輩、ここでしたか・・・。」

「・・・探したわ、先輩。」

 

その声に気付いて振り向くと、そこには、俺を見つけてほっとしているこうとやまとの2人が居た。

 

「こう、やまと、2人ともどうして?」

 

俺がそう尋ねると、2人は複雑な表情を見せながら

 

「今回の事、私達にも少なからず関係のある事です。瞬一先輩の事もそうですが、成神の事も私達には係わりがある事でした。」

「私達は共に過ごしてきたあの頃からの仲間よ?だから、先輩の悔しさも、悲しみも共有できる。今の先輩と一緒の気持を感じられるのは私達しかいないと思ったから、ここに来たのよ・・・。」

 

俺はそんな2人の言葉に納得しつつ、2人に背を向けて語り始めた。

 

「・・・そうか、ありがとう、2人とも。こう、やまと、俺はどうすればよかったんだろうか?俺はあいつの仇をこの手で取りたかった。この手で犯人を見つけ出して、瞬の墓前に突き出し、犯人の行為を瞬に詫びさせたかった。でも・・・その犯人ももういない・・・あいつの仇はもう、とってやれないんだよな?けど、事件は犯人の判明と犯人の死によって終わってしまった。事件が解決したのはいいけれど、何だかやりきれない思いで一杯だよ・・・。」

 

そう語る俺の言葉を黙って聞いていた2人だったが、2人はそんな俺に

 

「確かに、私も悔しいという思いで一杯です。でも、少なくとも犯人は判明しました。事件も終わりを見ました。」

「すぐにそれらの事実を割り切れ、というのはきつい事かもしれないわ。でも、私達は生きているわ。生きている以上は、たとえ辛い事実であったとしても私達は瞬一先輩の分も生きなきゃいけない、前を見なきゃいけないと思うわ。だから先輩、生きなきゃ、進まなきゃ。瞬一先輩の分まで、これからも・・・。」

 

そんな2人の言葉に俺は、心の中でくすぶっていた複雑な感情が紐解かれていく、そんな気がした。

 

そして、俺は2人に向き直ると

 

「ありがとう、2人とも。そうだな、俺達は生きている、これからも生きなきゃいけない。それが、瞬の為でもあるよな。だったら、そんな瞬の思いに俺が応えなきゃ、瞬にも悪いよな。よーし!事件は終わったんだ!いっちょ気合を入れなおして今日から俺は新しくスタートするぞ!!」

 

そう言った後、俺は気合を入れる為に両手で顔面を張る。

 

パアン!という小気味いい音と共に俺は、それまでの全ての思いを断ち切るかのように自分に気合を入れなおした。

 

そんな俺の行動に驚きの表情をする2人は

 

「せ、先輩?大丈夫ですか?何か痛そうでしたけど・・・。」

「突然そんな事をするからびっくりしたわ。ほんとに脅かさないでよ、先輩。」

 

そう言って来たので、俺は更に自分に気合を入れる為に2人に

 

「うーん、これだけじゃまだ気合が足りないな、2人とも、俺の頬を張れ。そして、更に俺に気合を入れてくれ。」

 

そう言う俺に2人は驚いて

 

「ちょ、先輩、それは、いくらなんでもできませんよー。」

「そうよ。無茶言わないで欲しいわ。」

 

そんな2人に俺はなおも

 

「無茶は承知だ。だけど、これは俺が更にこの先に進む為の儀式みたいなもんだ。だから、付き合ってくれよ。な?頼む。」

 

俺は、必死に2人にそう頼み込むと、2人ともしぶしぶながら俺の気合入れに協力してくれた。

 

「そ、それじゃ、行きますよ?え、えーい。」

 

ぺちんという情けない音で俺の頬を叩くこう。

 

そんなこうに俺は

 

「だめだだめだ!そんな軟弱な打ち方で気合が入るか!?やりなおしだ、やりなおし!もっと思い切って来い!!」

 

そうあおると、こうはようやく覚悟を決めたようで

 

「わ、わかりましたよ。もう、どうなっても知りませんからね?ええぃっ!!」

 

バチーンと言う物凄い音と共に俺の頬にこうの掌が炸裂し、俺の頬に大きな紅葉が出来上がる。

 

「やればできるじゃないか。それでいいんだ。」

 

そう言って俺は痛む頬をさすりつつ笑って見せた。

 

そして、俺は次にやまとにも気合入れを頼んだ。

 

「よーし、次はやまとだ。ドンと来い!」

 

と言う俺の言葉にやまとは、少し呆れたような顔をしつつ

 

「・・・まったく、先輩にもしょうがないわね。いいわ。付き合ってあげる。行くわよ?それっ!!」

 

そう言ってやまとは、思い切り手を振りかぶり、俺の頬に打ち込もうとする。

 

だが、何故か俺は、そのやまとの一撃を無意識のうちに避けていた。

 

そんな俺の突然の回避行動にたたらを踏むやまと。

 

そして、攻撃を避けた俺を睨みつけて

 

「・・・ちょっと先輩。先輩が気合入れてくれ、って言ったんでしょ?それなのに避けちゃったら意味ないじゃない!?」

 

そう言って抗議するやまとに俺は苦笑しながら

 

「い、いやー、すまんすまん。何故かお前の攻撃が来る瞬間、俺の背中に妙な寒気が走ってな。それを感じた瞬間に、体が無意識にお前の攻撃を避けちゃってたよ。すまん、今度はちゃんと受ける。だから、もう一度やってくれ。」

 

そんな俺に、やまとはなおもぶつぶついいながら俺を見ていたが、やがてため息を1つつくと、もう一度俺に気合入れの攻撃をしてきた。

 

そして、今度こそ俺はやまとの攻撃を受けたのだが、俺は攻撃を受けると同時に何故か意識までもが飛んで、その場に倒れる事となった。

 

そんな俺を見て、慌てて駆け寄る2人。

 

「先輩、大丈夫ですか?先輩、しっかり!」

「先輩、ちょっと!先輩、先輩ってば!!」

 

意識の遠くなっていく最中に2人のそんな必死な声が聞こえていた。

 

こなたside

 

かがみ達に龍也さんから聞いた情報を話し、皆でこの事を心の中にしまい、慶一君は話さない事を誓いあった私達は、慶一君の事が気になって3人の所へと向かった。

 

八坂さんからの返信メールをもらっていたので、慶一君達の居場所もわかり、私達は3人の所へと辿り付いた。

 

そして、こっそりと物陰から様子を伺っていると、慶一君が2人と話しをした後に、自分の頬を両手で叩いているのが見えた。

 

私達はいきなりのその行為に驚き、慶一君達の様子を伺っていたが、慶一君は自分の顔を自分の手で叩くだけでは足りなかったのか、八坂さん達にまで慶一君の顔を張らせていた。

 

その行動に更に私達は驚いていたのだけど、永森さんの番になって一度は永森さんの攻撃はかわした慶一君だったが、2度目の攻撃を受けた瞬間、慶一君はその場に倒れこんだ。

 

それを見た私達は慌てて慶一君達の所に行って

 

「ちょっと、ちょっと!八坂さんに永森さん、突然何してるのさ?と、とにかく、慶一君!ねえ、慶一君!しっかりして!?」

 

そう言って私は、涙目で慶一君を揺すっている八坂さん達と一緒に慶一君に声をかけて起こそうと試みた。

 

「だめです!泉さん、八坂さん、永森さん!慶一さんは脳震盪をおこしているかもしれません。そのまま動かさずにいて下さい!それと、誰でもいいですから、タオルかハンカチを濡らして持ってきてください!それと、天原先生も誰か呼びに行ってもらえませんか!?」

 

突然、私達にそう叫ぶみゆきさんに驚き、私達はすぐに慶一君を揺するのをやめた。

 

そして、みゆきさんの言葉に反応した数名が

 

「・・・タオルが確か教室にあったはずなので、私、行って来ます・・・。」

 

と言って、みなみちゃんがまずタオルを取りに駆け出し、次にかがみが

 

「私は天原先生を呼びに行って来るわ。」

 

と言って保健室へ駆け出して、さらにゆーちゃんが

 

「私、水を持ってきますね?」

 

そう言ってその場を後にした。

 

そして残ったメンバーで慶一君をその場に寝かして様子を見ていた。

 

慶一君の様子を見ながら私は八坂さんと永森さんに

 

「ねえ?どうして慶一君や八坂さん達は突然こんな行動とったの?見ててびっくりしたんだけど。」

 

そう尋ねると、2人は落ち込みながら

 

「実は、先輩と今回の事、今後の事を話していたんですが、やまとの言葉に先輩が突然自分に気合を入れると言い始めて、それで・・・。」

「慶一先輩が自分だけの気合じゃ足りないから、私達にも協力しろ、って言うから、先輩の言うとおりにしたんだけど・・・何故か私の一発で先輩が倒れちゃって・・・。」

 

と言う言葉に私は目を丸くして驚いていた。

 

「うーん・・・永森さんも何気に強かったりしない?慶一君のしちゃう程だし・・・。」

 

と、頭に大きな汗マークを浮かべながらそう言うと、永森さんはその言葉に落ち込みつつ

 

「私はそんなつもりはないんだけど・・・なんでなのかしら・・・それに最初の一発目は何故か先輩も私の攻撃を避けたし・・・。」

 

永森さんのその言葉に、この場にいる、私とつかさとみゆきさんと峰岸さんとみさきちは苦笑し、事情のわからない、その他の1年、2年組は頭にハテナマークを浮かべていた。

 

そして、苦笑しながら私は永森さんに

 

「・・・ひょっとしてさー、あのクリスマスの時の奴で慶一君の心に気付かないうちにトラウマができたんじゃないかなー・・・。」

 

そう言う私の言葉に永森さんは”ガーン!”という効果音よろしく物凄くショックを受けたような表情になり、相当に落ち込んでいた。

 

そんな永森さんをまたも苦笑しながら見ていると、ようやくタオルを取りに行ったり水を取りに行ったり、天原先生を呼びに行ったりした面々が戻って来た。

 

そして、皆の見守る中で天原先生の診断を待つ私達に先生が言ったのは、慶一君は軽い脳震盪を起こしているようだ、と言う事だった。

 

少し安静にしていれば意識も戻って動けるだろう、という先生の言葉に私達はようやく安心したのだった。

 

そして、しばらくして、慶一君が目を覚ました。

 

慶一君はまだ少し朦朧とした意識で私達を見て

 

「あれ?皆どうして?それに、俺は一体?」

 

と言って首を傾げる慶一君だった。

 

慶一side

 

今回の事もまた、気合を入れて乗り越えていこうと思い、自分自身とこうとやまとに気合注入を頼んだ俺だったが、何故か途中で意識を失っていたようだった。

 

皆の声が聞こえてふと目を覚ますと、皆がそこに居て、安堵の表情で俺を見ているのが目に入った。

 

俺は、そんな皆に

 

「あれ?皆どうして?それに、俺は一体?」

 

と、尋ねると、こなたが俺に事情を説明してくれたのだった。

 

俺にとって衝撃だったのは、やまとに意識を飛ばされた事だったのだが、その事に苦笑する俺に、やまとが涙目になりながら

 

「・・・ごめんなさい、先輩。痛かったわよね?」

 

そう言ってくるやまとに俺はふっと微笑むと

 

「まあ、確かにな。強烈だったよ。おかげで物凄く気合入った。それに俺は怒ってないからもうそんな泣きそうな顔するなって。」

 

そう言いながら俺はやまとの頭を撫でてやった。

 

「・・・うん。ありがとう、先輩・・・。」

 

俺の言葉にやまとは、顔を赤らめながらほっとしたような表情を見せていた。

 

そして、俺は皆に向き直ると

 

「皆、色々心配かけちゃってすまなかった。今回の事、真相もはっきりしたし、俺はもうこれからはこの事に縛られずに前を向く事にするよ。皆の俺を心配してくれる気持は嬉しいけど、俺はこれから、もっと強くなってみせるから。だから皆も、笑ってくれ。そして一緒に進もう。瞬はもういないけど、俺達はまだ生きてるんだから。俺達がこれから先、笑って過ごしていく事を瞬も望んでいると思うから。」

 

そんな俺の、これからの決意に皆はお互いに顔を見合わせていたが、全員が頷き、俺を見てそして、笑ってくれた。

 

そんな皆の笑顔を見て、俺は、心の中で

 

(これからの俺のすべき事は、皆と一緒に前を向いていく事だ。俺はこれからも、この笑顔と共に行きたい。そして俺もまた、先に進もう。皆と一緒にならきっと、振り返らずに行けると思うから・・・。)

 

自分がこれからしなければいけない事、その事に新たな決意をする俺だった。

 


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