俺が慶一に電話を入れる5日前。
時間は、瞬坊の葬儀が済んでから2日後までさかのぼる。
あの一件後、俺達はようやく、葬儀から2日目にして一時の落ち着きを取り戻した。
そして、その日、龍神道場には牧村家、紅の氷室、坂上、そして、俺の親父と俺と、各勢力の代表が集まっていた。
今後の事、そして、失ってしまった情報収集の役目をどうするか、と言う名目で俺達は顔を付き合わせる事となった。
円を描くように俺達は道場の中心で座り込み、話し合いを行う。
まず最初の声を発したのは親父だった。
「皆、緊急で集まってもらって済まない。我々の情報収集の要であった麗真殿の息子、瞬一君が連中の手にかかり、命を落とすと言う事態となってしまった。連中との戦いは未だ終わっておらず、現在、その後を継ぐ物に関してどうしたものかと悩んだ末に君らに集まってもらった、と言う訳だ。この件について君らから何か意見があるかね?」
皆を見回しそう言う親父に、他の皆もしばし考え込んでいるようだった。
そうしているうちに、最初に口を開いたのは氷室君達、紅の面々だった。
「今回の事、我々にとっても大きな痛手となりますね。しかし、うちの方にも残念ながら瞬一君ほどの能力を持った者がいないのが現状です。ですので、うちの方では少々厳しい事になりそうですね・・・。」
と、まず氷室君が発言をした。
そして、坂上君も
「今からあいつの後継を育てるにしても、時間も足りない状況だ。もたついていれば連中につけ込まれる事になりかねないからな・・・。そこが頭が痛いぜ。」
難しい顔でそう言う。
そして、そんな2人に俺達も表情を暗くしつつ
「うーむ・・・。うちの諜報員も手一杯で動いている状況だからな、こちらに人員を割く余裕がないのが現状だな・・・。」
顎に手をあてながら、そう言って考え込む親父。
「・・・麗真さん。浩坊か祐坊のどちらかはこの任務はこなせませんか?彼らも瞬坊とは兄弟だ。素質はありそうな感じはするけど・・・。」
そう、俺が麗真さんに話を振ると、おじさんは少し考え込み、そして俺に
「確かに素質はあるかもしれないね。でも、今からノウハウを教え込んでいてはおそらくは間に合わないと思うね・・・・・・そうなると・・・この任は私がやるのがいいだろう。」
その言葉に俺達は驚きながら
「牧村さんが?だ、大丈夫なんですか?」
「あんたも俺の見た所、実戦派な感じに見えたんだがな。ちゃんと務まるのか?」
氷室君と坂上君がそう言う。
そして、俺も氷室君達と同じ意見だったので
「麗真さんがやるのはいいですが、大丈夫なんですか?技能の修得は下手をすれば時間がかかってしまう事になりかねないですし、まして、今まで瞬坊に任せきりだったのでは?」
そんな俺達の言葉に麗真さんは”ふっ”と軽く笑うと
「心配ないさ。元々技能は私が瞬に叩き込んだのだからね。そこに更にアレンジをしてくれたのは瞬のセンスだが、その基本はすでにあるから問題はないよ。」
そう、自信ありげに言う麗真おじさんに、まだ多少不安の目を向ける俺達だったが、親父はそんな麗真さんに
「・・・すまん、先代の時に続いて、今回も頼る事になりそうだな。お前には自分の息子達の事を気にかけてやって欲しかったが・・・。」
そんな親父の言葉に俺は驚きながら
「親父、どういう事だ?先代の時も、って・・・・・・まさか!?先代の時、麗真さんが今の瞬と同じような事をしていた、って事なのか!?」
俺の言葉に親父は大きく頷きながら
「その通りだ。先代の時には麗真殿が今の瞬君のように情報収集を行ってくれていた。それによって奴らを一端は壊滅近くに追い込む事が出来た。瞬君が足を悪くしてからは、道場を継げない瞬君に、代わりに麗真殿は自分の情報収集の技術を教え込んでいた、という事だ。たとえ当主となれなくとも道場の為に、そして友人の為に自分の出来る事をしたいと言う瞬君の願いを受けてな。」
そして、その後を継ぐように麗真叔父さんがさらに言葉を続ける。
「龍真さんの言う通りだ。私は瞬に私の持てる情報収集の技術を叩き込んだ。更にはあの頃とは違い、さらに便利な情報収集用の機材等も今の世の中には出回っている。私は瞬に基礎を叩き込む傍らで、逆に瞬から新しい物も吸収させてもらっていたからね。すでにそちらの方も学習は済んでいる、という事さ。だから、心配はない。」
そんな風に言う麗真さんに俺達もようやく安心する事が出来た。
そして、俺達は麗真さんに
「麗真殿、すまんが今回もよろしく頼む。先代と今回、両方を任せてしまい、すまん。その代わり我々は必ず奴らを叩きのめし、瞬君の仇を取ってみせる。」
親父がまずそう告げ、次いで氷室君達が
「我々も全力を尽くします。それと、うちの方の人間で比較的そっちに向いている人間を送りますので、牧村さんのノウハウを叩き込んでやってください。そうすれば少しは負担を減らす事もできるでしょうから。」
「あんたに頼りきり、ってのも良くないからな。俺達で出来る事は俺達でやるつもりだ。」
そう言い、そして俺も
「俺は、恥ずかしい話、麗真さんに頼りきるしかなさそうです。しかし、動く方ではきっちりと働いてみせます。ですから、今後の情報収集の方はよろしくお願いします。」
そう言うと、麗真さんも頷いて
「任せたまえ。それと、氷室君。明日からでもその人を呼べるかい?やるならば早い方がいい。すでに奴らに少し遅れをとっている状況だからね。坂上君、気をつかってくれてありがとう。私も全力は尽くす。君達も君達の出来る事を任せるよ。そして、龍也君。連中を潰すための鍵は君だと思っている。実戦の方では頼りにさせてもらうよ?それじゃ、龍真さん、皆さん、今日はこれでよろしいか?」
そう、全員を見回して言う麗真さんに俺達も力強く頷き、新たな布陣で連中との勝負に出る事となった。
麗真さんが情報収集の陣頭指揮を取る事になり、急遽、”紅”からもその補佐を育成、及び即戦力として投入を図り、次に備えるようにした。
それまでは、麗真さんにはかなり負担がかかってしまうが、それでも息子の仇を取る為に、という気概を持って臨もうとしてくれていた。
俺の出来る事は、そんな麗真さんの為に、奴らの本体に近づけた時には最大にこの腕を奮い、連中を叩き潰す事だった。
俺はそんな思いを胸に誓いつつ、来たるべき決戦に気を引き締め直すのだった。
そして、葬儀から3日目、麗真さんから家に電話がかかってきた。
その電話の応対はお袋がしたようだった。
「はい、もしもし?龍神ですが。」
「あ、桜さんですか?牧村です。」
「あら、麗真さん。今日はなんの御用かしら?うちの人は今、町内の見回りに出ていて留守ですよ?」
「いえ、今日は龍真さんにという訳ではないんです。桜さん、慶一君に連絡を取る事は出来ますか?」
「慶一に?ええ、できますよ?慶一に用事ですか?」
「はい。実は、息子の遺品を慶一君に受け取って欲しいと思いましてね。」
「まあ・・・そういう事でしたか。わかりました。すぐに連絡を取りますから、連絡がつき次第、その旨をまた電話させてもらいますね?」
「よろしくお願いします。今日は私も家の方におりますので、もし慶一君が来れるようでしたら来て欲しいとお伝え下さい。」
「分かりました。それでは後ほど。」
「はい、それでは。」
と言うのが、今回の電話の内容だったのだとお袋に伝えられた。
俺は、早速慶一に連絡を取るべく、携帯を開いて慶一の携帯に電話をかける。
何回かのコールの後、電話に出た慶一に俺は今回の事を伝えた。
慶一はまだまだ落ち込んでいる状況ではあったが、とりあえずは実家(こっち)に戻ってくるとの事だ。
俺はその事をお袋に報告すると、お袋は麗真さんの所へと結果報告の電話をかけていたようだった。
麗真さんの所に電話をかけるお袋を見ながら俺は
「・・・遺品か・・・つらいかもだが、その人の思い出でもあるからな・・・。」
今回の件の重要性を何となく感じながら、俺はそう呟いていた。
しばらくの後、慶一は実家に帰ってきた。
玄関先でお袋にからかわれ、そして、親父との意外なやり取りを目の当たりにし、さらには俺の慶一に本当は言うべき事を親父に代弁してもらう事となり、その事を親父に心の中で感謝しつつ、俺は慶一に麗真さんの所へ行って来いと促した。
慶一も複雑な表情をしながらも、俺の言葉どおりに麗真さんの所へと向かうのを見送ってから、俺は町内を見回るついでに情報の収集もして来ようと思い、家を出た。
慶一が丁度、麗真さんの所へお邪魔している頃、俺は、町内を歩いている時に学校から戻って来たみゆきちゃんとみなみちゃんに出会った。
「あ、こんにちは。龍也さん。今日も見回りなんですか?」
「・・・こんにちは・・・龍也さん・・・。」
そう声をかけてきたみゆきちゃん達に俺も頷きつつ
「お?こんにちは。みゆきちゃん、みなみちゃん。今学校の帰りかい?みゆきちゃん、まあ、そういう事かな。」
そう挨拶を返すと、2人とも頷いて
「そうなんですよ。龍也さんもご苦労様です。」
「・・・無理は・・・しないで下さいね・・・?」
そう言ってくれたので俺も笑いながら
「はは。ありがとう。大丈夫、無理はしないからさ。あ、そうだ。2人に伝える事があるんだ。」
そう言うと、みゆきちゃんは首を軽く傾げながら
「お伝えする事?なんでしょう?」
と聞いて来たので、俺は
「今日、慶一が牧村さんに呼ばれてこっちに帰って来てる。たぶん、後30分くらいで戻ってくるんじゃないかな?だから、2人にさ、慶一を元気付けてやってくれないかな?ってね。」
そう言うと、2人は少し驚いたような顔になりつつも
「え?慶一さんが、こちらに、ですか?なるほど・・・わかりました。ありがとうございます、龍也さん。その事を教えていただいて。私も実は慶一さんを元気付けてあげる為にどう行動を起こすかを散々悩んでいた所でした。今の龍也さんの一言で私にも決心がつきました。今日、私は慶一さんに思い切って声をかけてみようと思います。」
その言葉に俺も頷いて
「そうか。それじゃ頼むよ。あ、ちなみに俺がこの事を教えた、と言うのは内緒ね?」
そういたずらっぽく笑うと、みゆきちゃんもクスリと笑って
「ええ。わかっていますよ?それでは私はこれで。龍也さん、ありがとうございました。」
そう言って、みゆきちゃん達は俺にぺこりと頭を下げると、慶一の居る牧村道場の方へと歩き出したのだった。
俺はそれを見送ってから見回りを再開させた。
みゆきside
慶一さんの事でみなみちゃんと共に悩みながら学校から戻って来た私達でしたが、その帰りに偶然、龍也さんと出会いました。
そして、私達が龍也さんに挨拶をすると、龍也さんは、今日は慶一さんがこちらに戻って来ている事を教えてくれました。
その事を知った私は、今日、思い切って慶一さんに声をかける事を心に決めて、龍也さんにお礼を言うと、その場をみなみちゃんと後にし、牧村道場の方への道へと歩き出したのでした。
私が、これからどのように慶一さんに接しようかと摸索している時にみなみちゃんが
「・・・みゆきさん。慶一先輩を元気付けるつもりなんですよね・・・?私も・・・何かしたいです・・・今すぐにはまだ、その方法が思いつきませんが・・・それでも・・・何かしたいです・・・。」
その言葉に、私もみなみちゃんの気持が嬉しくなって
「わかりました。それじゃ、2人で慶一さんの為に何かしてあげましょうか。慶一さんが戻るまではまだ時間もある事ですし、その間に考えてみるといいと思いますよ?」
そう言うと、みなみちゃんもコクリと頷いて
「・・・そうしてみます・・・ありがとうございます、みゆきさん・・・私の我侭を聞いてもらって・・・。」
そう言うみなみちゃんに私は、ふるふると首を振ると
「いいんですよ。みなみちゃんももう、私達の、慶一さんの仲間なんですから。」
そう言うと、みなみちゃんは嬉しそうに微笑んでくれたのでした。
そして、程なくして道場から出てきた慶一さんに私達は偶然を装って声をかけ、みなみちゃんもまた、自分の出来る事を見つけたらしく、慶一さんを自宅へと招待する事となったのでした。
そして、その日は慶一さんに私の家に泊まってもらい、一晩中とはいかなくても語れる限り、時間の許す限り慶一さんを元気付ける為に語ろうとしましたが、やはり、いつもの生活習慣だけは私を規則正しい就寝時間に眠らせるという事になり、結局私とみなみちゃんが眠ってしまうという事になってしまいました。
その際に私は慶一さんの家の猫の事に気付き、峰岸さんにお世話をお願いする旨のメールを送っておいたのでした。
龍也side
慶一とみゆきちゃん達がそんな風に過ごしている頃、町内を見回っていた俺に、氷室君からの電話が入ってきた。
「もしもし、氷室君か?突然の連絡だが、何かあったのか?」
「龍也さん、ちょっとおかしな事が起きているみたいです。それの報告の為に連絡させてもらいました。」
「おかしな事?」
「はい。実は、瞬一君が亡くなったあの日から僕達は瞬一君を手にかけた犯人の行方を追いかけていました。そして、その手掛かりなりそうな男を捕まえたんです。」
「ん?手掛かりになりそうな男だって?」
「ええ。こいつはシルバーシャドウの仲間の一人でしてね、しかも成神章の直属の奴だったんです。」
「なんだって?ここでまたあの男の名前が出てくるとは・・・それで?」
「その男の話では、成神の率いるシルバーが解体されたのだという事なんです。」
「解体?それはまた、一体どうして?」
「その男の話によると、瞬一君の亡くなる3週間程前までは、成神はゴールドへのシノギが落ち込んでいる事に悩んでいたらしいんです。成神の下のついていた連中もまた、ゴールドの影におびえながら成神からの指示を実行し、とりあえずのシノギを得るために活動はしていたらしいんです。しかし、瞬一君の亡くなる3週間前になり、成神は下の者達に言っていたそうです。ゴールドへのシノギの落ち込みによるお咎めをなくすチャンスが出来たと。これに成功すれば俺達はゴールドとして新たに活動できるようになると。」
「なるほど・・・シノギの件を不問にし、さらには上への昇格もある、という上手い話があった、という事だな?」
「その通りです。そして、それから後、成神の様子は、瞬一君の亡くなるあの日までの間にどんどん変わっていった、との事です。まるで何かに怯えるような、そして、自分自身が追い詰められているかのような、そんな感じだったと。」
「ふむ・・・。」
「そして、ここが重要な所なんですが、瞬一君が亡くなったあの日から、成神の行方がわからなくなっているみたいなんです。」
「何!?それは確かなのか!?」
「はい。あの日以来、成神と連絡も取れなくなり、更には急に成神所属のシルバーが解体されたんだそうです。そいつも今後の自分の身の振り方を考えていたらしいですが、そんな折に僕達に捕らえられる、という事になりました。」
「・・・成る程な・・・。氷室君、すまないが、その事に関して更なる詳しい情報を集めてくれないか?それと、その男はもうシャドウとは関係ないんだな?」
「わかりました。ええ、そうです。もう自分の所属する所は無くなったと。これを機に足を洗うつもりだったのだ、と言っていました。」
「そうか。なら、そいつは情報を引き出せるだけだしたら解放してやってくれ。連中ともう係わりが無いのであれば、いつまでも拘束しておく理由もないからな。」
「わかりました。それじゃ、僕らはさらにこの件についての調べを進めます。何かわかり次第、連絡を入れますので、今回はこれで。」
「ああ。今後も奴らの動きに注意しつつ、よろしく頼む。」
「はい。それでは。」
という言葉を最後に俺は、氷室君との電話を終えた。
俺は、氷室君から得た情報に関して少し引っかかりを覚えていた。
それは、成神の置かれていた状況と、瞬坊の亡くなるまでの間に、奴に何かがあったのではないか、という事だった。
それと同時に、瞬坊が亡くなった日から、奴の消息が掴めなくなった事も気になっていた。
そこに、今回の事件の真相の1つがあるのではないか、俺はそう思っていた。
とにもかくにも、これ以上の事は氷室君からの続報を待つより手はなかったので、俺は、今しばらく自分でもこの件についての調査を進めながら、更に3日を費やす事となった。
そして、あの報道が流される日の前日、もう一度氷室君からの電話を受ける事となった。
「もしもし?龍也さんですか?氷室です。」
「やあ、氷室君。あれから何かわかったかい?」
「・・・ええ。実はとんでもない事がわかりました。」
「とんでもない事?」
「はい。あれから紅の人員を使い、あちこちで成神に関する情報や消息を調べまわっていたんですが、その最中に僕達は成神の隠れ家とも呼べるアパートを発見したんです。」
「何だって?それで?そこに奴の痕跡があったのか?」
「・・・ええ、ありました。とんでもないものがね・・・。」
「!!とんでもないもの?」
「・・・・・・。」
「ん?どうした?氷室君。」
「すいません、なんと言うかショックでしたから・・・。とにかく、そこで見つけた物ですが、それは・・・・・・成神章の・・・・・・遺体でした。」
「!!何だって!?奴は死んでいたのか!?」
「はい・・・。奴の部屋で、奴は布団の中で寝ていました。しかし・・・それはすでに物言わぬ屍だったんです。」
「・・・なあ、氷室君。それが成神本人だとちゃんと確かめたのか?他人のそら似、という事じゃないよな?」
「そのあたりの事は・・・警察に通報し、遺体を引き取ってもらって現在身元を確認してもらっています。しかし、その部屋の奴の机の上に・・・奴の遺書がありました・・・。奴はどうやら・・・自殺を図ったようです・・・。」
「・・・なんてこった・・・。!?氷室君、その遺書の内容は確認したのか?」
「・・・すいません。遺体を見つけた、というショックもあって、僕は即座に警察に通報してしまい、遺書の方も証拠品の1つとして警察に押収されてしまいました・・・。遺書の内容を知るには警察に掛け合う必要があると思います。」
「・・・わかった。そちらの方は俺が親父に頼んで何とかしてもらう。氷室君、少し気持を落ち着ける為にも休んでいてくれ。何かわかり次第、今度はこちらから君に連絡を入れる。」
「・・・・・・わかりました・・・。ご迷惑をおかけします。何かわかり次第、連絡を入れてください。こちらもいつでも連絡が繋がるようにしておきます。」
「ああ。任せてくれ。それじゃ。」
「はい。それでは・・・。」
そう言って俺は、氷室君からの連絡を一時打ち切った。
氷室君から告げられた事実に衝撃を受けつつも、俺は親父へと連絡を取った。
そして、警察にかけあってもらい、発見された遺体の身元と、遺書の内容についての情報を得る事となった。
そして、その結果を氷室君に知らせる為に連絡を入れる。
数回のコールの後、氷室君が電話に出た。
「もしもし?氷室君か?遺体の身元と遺書の内容に関する情報が入った。今からそれを君に伝える。よく聞いてくれ。」
「!!本当ですか!?龍也さん!!それで、結果は!?」
「遺体はDNA鑑定の結果、成神章本人のもので間違いない、との事だ。遺書についてだが・・・・・・」
「龍也さん?どうしました。」
「・・・すまん、ちょっと思い出したら怒りがな・・・。とにかく、遺書の内容だが、簡単に言うと、成神が瞬坊に手をかけたという事、そして、その事に対する罪悪感に耐えられなくなって自殺をした、という内容だった。」
「・・・龍也さん、それは本当なんですか?奴が瞬一君に手をかけた、っていうのは・・・。」
「遺書の内容、ではね・・・。」
「え?龍也さん?」
「・・・俺は、この遺書の内容に不審な物を感じている。」
「どういう事です?」
「氷室君。君が俺に奴の特徴を教えてくれた時の事は覚えているな?」
「はい。あれからまだそんなに日も経っていませんからね。」
「その特徴を思い返してみた時、今回のこいつの行動が妙に不自然に思えたのさ。」
「それは、つまり?」
「奴は自分の為には手段を選ばず、他人を利用して生き延びるような小悪党タイプだ。それだけに、どんなにみっともない事になっても、どんなに窮地に追い込まれる事になっても、自身の保身と命をあきらめるような奴とは思えなかった。今回にしたって、シノギの件で追い詰められてはいたが、それを打開できる何かを得たのなら、奴はそのチャンスを最大限に利用しようとするはずだ。そして、その行動の結果に人を死なせる事に成ったとしても、その事に罪悪感を感じるようなそんな奴には思えなかった。」
「・・・確かに、そうかもしれませんね。奴はそんな男でした。あの頃からね。」
「そんな奴が、かつての同級生を死なせた事に罪悪感を持つ、その事が引っかかったのさ。何故なら、奴は瞬坊に対して恨みがあれど、瞬坊が不幸になる事に対しては笑って見下すような奴のようだからな。」
「・・・なるほど、確かにそうかもしれません。中学時代に奴ともぶつかった事はありましたが、結局最後まで奴とはわかりあえませんでした。」
「ここからは、俺の推測なのだが、これは成神を自殺に見せかけた殺人ではないか?と思っている。」
「殺人?まさか・・・。」
「俺が考えるに、瞬坊を手にかけたのは成神なのは間違いはないだろう。だが、その成神もまた、何者かに利用されるだけされた後、消されたのかもしれない、と、言う事だ。」
「・・・口封じ、という奴ですか・・・。」
「そうだ。そして、俺達の方での情報収集の要が失われた事、そして、瞬坊に対して恨みを持つ者を犯人に仕立て上げて俺達の目を欺こうとしたのだろう。おそらくは、この裏にはシャドウが係わっているはずだ。」
「なるほど・・・でも、奴らはどうやらボロを出したようですね。遺書を残してしまった事が奴らにとっては、奴らが係わったという痕跡を残す事になったようですし。」
「ああ。おそらく偽装遺書がなければ完璧だったかもしれないがな。どうやら上の奴の中にも少し間抜けな奴がいたようだ。だが、それも状況証拠だけでしかない。遺書からも部屋からも成神の指紋以外は物的証拠になるものは出て来なかったからね。後は、犯行には車が使われた、という事だが、その車を処分した可能性もあるようだ。だから、今その車処分した解体工場の捜査も行われているとの事だ。氷室君。俺達は大分奴らに近づいていると見ていいだろう。これからが勝負かもしれないぞ?」
「そうですね。頑張りましょう、龍也さん。そして、瞬一君の仇をきっと取りましょう。」
「ああ。それまではまだまだ戦いは続く。最後まで気を抜かずにな?」
「はい。では、僕はこれからまた連中に関する情報を集めに行きます。龍也さんも頑張ってください。」
「おう。気をつけろよ?氷室君。」
「龍也さんこそ。それじゃ。」
そう言って俺は氷室君との電話を終える。
そして、それから1日が過ぎ、成神の事がテレビで報道される事となり、真意をたしかめようとしているこなたちゃんからの電話を受けた。
俺はこなたちゃんに、今わかっている事を伝えた。
そして、翌日、こなたちゃんへの2度目の電話で、現在の状況を伝える事となる。
それと同時に、慶一が何とか瞬坊の死のショックから立ちなおる事も伝えられ、俺は兼ねてから準備していた件に関して慶一に電話をかけたのだった。
みゆきちゃん達を慶一の家に預け、そして、その御両親を龍神道場で匿い、しばらくはごたごたする日々を過ごす事となる。
連中との決戦はかなり近づいていた。