らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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癒しの旋律達、最終話~こうとやまとの決意、そして全てを受け止める慶一~

瞬が突然の事故で他界し、俺はその日から悲しみながら日々を過ごした。

 

そんな俺を旋律達はかわるがわるに慰め、癒しに来てくれた。

 

この一週間、皆から元気をもらってきた俺だったが、その甲斐もあって立ち直るまで後1歩と言う所まで心が回復してきているように感じていた。

 

回復へもう一押し欲しいと思っていた俺だったが、その事に思いを馳せている時に、俺の携帯に着信が入ったので、ディスプレイを確認してみると、電話の主は珍しくやまとだった。

 

俺はとりあえずやまとからの電話に出る事にした。

 

「もしもし?やまとか?珍しいな、お前から電話かけて来るのはさ。」

「・・・しばらくね、先輩。ふふ、そうかもしれないわね。」

「それで?俺に用事があってかけてきたんだろ?」

「ええ。あれからの私達の状況の報告も兼ねて、なのだけれどね。先輩。私もこうもあれからしばらくは大分落ち込んでいたわ。でも、先輩が皆に励まされている間、私達も同様に泉先輩達に励ましてもらっていたのよ。私達は間接的に瞬一先輩と係わっていた事もあって、慶一先輩ほどに酷い落ち込み方はしていなかったわ。だから、慶一先輩よりも先に立ち直る事ができたの。」

「なるほど。じゃあ、お前らは何とか克服した、って事だな?」

「そうね。それでもまだ少し、瞬一先輩を失った心の痛みは残っているのだけど・・・。」

「そうか・・・それでも少しはその悲しみが和らいでるのならなによりか・・・。それで?今回の電話はその報告なのか?」

「・・・それもあるのだけれど、こうと2人で相談した事もあって、先輩に会えるかどうかを聞きたかったの。」

「ん?俺なら別に構わないが、どこで会うんだ?」

「慶一先輩の実家に戻って来れる?もし戻れるのなら、そこで詳しい話をしたいわ。」

「実家に?うーん・・・わかった。それで、いつ頃向かえばいい?」

「明日は日曜日よね?だから、出来るなら今日の晩に向こうへ行って泊まってもらって、次の日の朝からがいいんだけど・・・。」

「・・・わかった。じゃあ、今日の夜からそっちへ行っておくよ。そっちに着いたら連絡を入れる。」

「それでいいわ。それじゃ先輩、連絡、待ってるわね?」

「ああ、それじゃな。」

 

そう言って電話を切る俺。

 

やまとからの誘いの電話に驚きつつ、俺はとりあえず、あやのに日曜日の猫の世話を頼む為に電話入れた。

 

そして、あやのに猫の世話を頼むと、俺は実家に向かう準備を始めたのだった。

 

やまとside

 

こうと一緒に私は、泉先輩達にも今回の一件の事で元気付けてもらっていた。

 

そして、そんな風に気遣ってもらえる中で、私は先輩が立ち直る最後の詰めを摸索していた。

 

色々考え、こうとも話し合った結果、私は先輩に、ある提案を持ちかけてみる事にしたのだった。

 

その事の電話を先ほど終えて、私はこうに向き直って

 

「とりあえず先輩への連絡は済んだわ。後は明日、どうなるかね・・・。こう、明日は私達にとっても試練よ?覚悟はいい?」

 

そう告げると、こうは少し戸惑いつつも決意に満ちた視線を私に向けて

 

「・・・わかってるよ。でも、きっと乗り越える。私達と先輩は、きっと・・・だって、私達には頼りになる仲間がいるもんね。だから、きっと大丈夫。信じようよ、やまと。先輩の強さをさ。」

 

そう確信を持って言うこうに、私も目を伏せつつも頷くと

 

「そうね・・・。いつだって私達は先輩の事を信じてやってきたんだから・・・。」

 

そう、こうに答えて私もまた、明日の決意を固めたのだった。

 

そして、私は更に、もう1つするべき事を終える為に再び電話を取ったのだった。

 

慶一side

 

一通りの準備を済ませて俺は家を出る。

 

やまととのやり取りの事を気にしつつ、俺は電車に揺られていたのだった。

 

この時の俺には、俺の知らない所でもう1つの動きがあった事を知らなかった。

 

今はまだその事にすら考えも及ばないままに、俺は実家の門をくぐる。

 

玄関に入ると、俺はお袋達に声をかけたのだった。

 

「ただいまー!親父、お袋、龍兄!戻ったぞー!?」

 

そう声をかけると、奥から驚きの表情で俺を出迎えてくれたお袋の姿があった。

 

「あら?慶一、急に戻って来てどうしたの?何も連絡なかったから驚いたわ。」

 

そのお袋の言葉に俺は苦笑しながら

 

「いや、向こうに居る時にやまとから電話があってさ。会って話したい事もあるからこっちに戻っていて欲しいという連絡を受けてさ。で、急遽戻って来た、と言う訳だ。」

 

俺の言葉に頬に手を当てつつ首を傾げながらお袋が

 

「やまとちゃんから話、ねえ・・・。ひょっとして慶一と付き合いたい、とかそういう事かしらね?」

 

と言うお袋の爆弾発言に俺は顔を赤くして慌てながら

 

「まてまて!どうしてそう言う方向に話が行くんだよ!お袋はいちいち飛躍し過ぎだって!!」

 

そう言うと、お袋は軽いため息をつきながら

 

「あら、残念。やまとちゃん、とってもいい子なのにねえ・・・。ねえ、慶一はやまとちゃん、嫌い?」

 

そう言うお袋に俺は更に顔を赤くしながら

 

「い、いや、好き、嫌いで言えば好きと言えるけど・・・って違う!!とにかくそう言う話と違うから!!」

 

そうやって慌てて否定すると、お袋はにっこり笑って

 

「まあ、いいわ。とりあえずあがりなさい。部屋に荷物を置いてゆっくりするといいわ。」

 

そう言うお袋に俺は疲れを感じつつ

 

「・・・ああ、そうするよ・・・はあ・・・。」

 

そう言って軽くため息をつきながら家に上がり、俺は自分の部屋に荷物を持ち込んだ。

 

その後、親父や龍兄にも声をかけたのだが、事情を話すと、お袋同様にからかってきたので、俺は半ばなげやりになりつつも何とか対応し、事無きを得たのだった。

 

そして、翌日。

 

俺はやまとに呼び出され、2人との待ち合わせには良く使っていた公園に来ていた。

 

しばらく待っていると、こうとやまとの2人が待ち合わせ場所に現れた。

 

「はあ、はあ・・・。お待たせ、先輩。いつもながら時間に正確で助かるわ。今回はこうも一緒に連れてきたからこうも遅れはしなかったのだけどね。」

「はあ、はあ・・・。こ、今回は間に合えました。今日ばかりは遅れる訳には行きませんからね。」

 

そう言って、息切れしながら話すこうとやまとの2人に俺は苦笑しつつ

 

「まあ、今回は大事な用事っぽかったしな。それに、お前の集合時間の正確さは知っているからな。」

 

そう言うと、やまとはいつも通りの薄い微笑みを向け、こうは遅れなかった事にほっとしていた。

 

そして、俺はそんな2人を見ながら今回の目的について尋ねた。

 

「やまと。今回俺を呼び出したのはどういう理由からなのか、教えてくれないか?」

 

俺の言葉にやまとは少し考える仕草をした後、決意を込めた瞳を俺に向けて

 

「先輩。先輩もそうだと思うけど、私達もあの一件からもう一週間が経過しようとしているわ。泉先輩達の励ましや癒しがあったおかげで、私達は立ち直る為の力をもらった。でも、まだ後1歩足りない、そう思っていたの。そして、私とこうはその足りないものが何かを色々考えたわ。そして、気付いたの。私達が立ち直る為に最後に必要なものは、瞬一先輩の一件から逃げずにその事実を受け入れ、そして、瞬一先輩との思い出の場所を巡ってもう一度、瞬一先輩と向き合う事だと。慶一先輩にとってこの事は辛いだろうと言う事はわかるわ。でも・・・このまま逃げたままでは瞬一先輩があまりにもかわいそうだと思うから・・・。」

 

そう訴えるやまと。

 

そして、そんなやまとを後押しするかのようにこうも

 

「先輩。この事はやまとと2人で考えました。瞬一先輩の思い出と向き合うのは辛いかもしれませんが、大丈夫です。私達も一緒ですから。1人で受け止めさせはしませんから、だから先輩、行きましょう。瞬一先輩を忘れる為じゃなく、いつまでも私達の心の中に生きていてもらうために。」

 

そう言う2人の言葉に俺は、俯いたまま黙っていたのだが、ふいに顔をあげると

 

「・・・ありがとう、2人とも。そうだな・・・俺もお前らの言うように立ち直る最後のきっかけって奴を探してた。でも、お前らからその事を聞いて、俺も覚悟が出来たよ。行こう。このままじゃ瞬は俺達の中から消えちまう。それだけは駄目だからな・・・そうなっちまったら・・・本当の意味で瞬は・・・死ぬ。俺達がいつまでも忘れなければ、あいつはずっと生きていられるんだもんな。」

 

そう2人に言うと、2人は俺の顔を驚きの表情で見つめて、その目を潤ませると、2人とも俺に抱きついて来たのを俺は受け止めた。

 

「・・・ありがとう、先輩。この提案、受け入れてくれてよかった・・・一生懸命考えた甲斐があったわ・・・。」

「先輩に決別される事すら覚悟していました・・・。こんな辛い提案を受け入れてくれてありがとうございます・・・。」

 

泣きながらそう言う2人の頭を撫でながら俺は、2人に

 

「お礼を言うのはこっちだよ。後1歩、俺の背中を押してくれたお前らの気持が嬉しかった。それに・・・俺は1人じゃないからな・・・お前らが居る・・・そして、こなた達も・・・。」

 

そう言って俺は2人に感謝しつつ、2人が落ち着くまで、その場で2人を慰めていたのだった。

 

そして、2人も落ち着きを取り戻した事を見て取った俺は2人に

 

「・・・どうやら2人とも落ち着いたみたいだな。よし、それじゃ早速巡るか。せっかくお前らが作ってくれた時間だしな、このままここでぼーっとしてるのはもったいない。行くぞ?2人とも。」

 

そう言って俺は瞬との思い出の場所を巡る為に歩き出した。

 

そんな俺を慌てて追いかける2人は

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ。先輩!」

「急に歩き出さないで下さいよー!先輩ー!!」

 

そう言って俺の後に付いてきたのだった。

 

そんな2人を連れてまずやって来たのは・・・・・・。

 

「先輩、ここって先輩の道場、よね?」

「ここが思い出の場所の1つ、なんですか?」

 

俺の連れて来た場所に戸惑いながらもそう尋ねる2人に俺は頷いて

 

「ああ、そうだよ。ここがあいつとの原点。俺があいつと初めて出会った場所さ。」

 

そう言って俺は道場の中央へと歩いて行き、そこでそっと目を閉じて当時を思い出す。

 

そんな俺を見ながら2人は俺に

 

「ここが・・・そうなのね?ねえ、先輩。初めて会った時の事、聞かせてくれる?」

「私も聞きたいです。先輩さえよければ、ですけど・・・。」

 

そう聞いて来たので俺はそっと目を開いて2人に向き直ると、その時の事を2人に話し始める。

 

「いいとも。俺と瞬が初めて出会ったのは今から7年位前の事さ。当時の俺は龍神流の技を使える自分に天狗になっていてな、俺の周りの同世代の連中は皆俺よりも弱いと思い込んでいた。そして、そんな時に親父から牧村さんの事を紹介されてな。その時に一緒に道場にやってきたのが瞬だったんだ。麗真おじさんから紹介された瞬は、今でもよく覚えているが、その当時から結構風格を持っている奴でな、俺を前にしても物怖じしないその態度が当時の俺には鼻についた。その後、2人の道場主の提案によって俺達は他流試合をする事になったんだが・・・その時に俺は鼻持ちならなかった瞬を自分の相手に指名したんだ。」

 

そこまで話すと、2人は俺に

 

「なるほど・・・。それで、瞬一先輩と慶一先輩は戦う事になったのね?」

「それで?結果はどうなったんですか?」

 

そう聞いて来たので俺は苦笑しながら

 

「結果は・・・俺の見事な敗北だったよ。」

 

そう告げると、2人は驚きの表情になって

 

「ええ!?でも、瞬一先輩は自分は道場を継ぐ器じゃない、って言ってたのよね?そんな瞬一先輩に慶一先輩が負けたの?」

「な、何か信じられない話ですねえ・・・。」

 

その言葉に俺は当時を思い出しつつ苦笑いしながら

 

「当時の俺の実力と瞬の実力は同じくらいだった。俺は天狗になっていたからそんな瞬の実力を見抜けなかった。結果、瞬を侮り、隙を突かれて瞬に有効打を入れられてダウン、て言う訳さ。いくら強くなっていても俺は、実戦での経験は圧倒的に足りなかった。その差は、当時の俺の実力を容易に凌駕するには十分すぎる程の物をあいつはもっていたんだよな。」

 

そう言う俺の言葉に2人も感心したように唸っていた。

 

そんな2人に俺は更に言葉を続ける。

 

「だから俺は、その敗北から自分に足りない物を知り、その後は足りない部分を補う修行を続けてそして、再戦をした時にはお互いがお互いのもてる技術と力の全てを出し切って戦い、俺達ははれて親友となった、と言うわけだ。」

 

そんな俺の言葉に2人は

 

「なるほどね・・・あ、それじゃ、初めて出会った場所もここだけど、再戦をした場所もひょっとして?」

「まさか、それもここ、だったんですか?先輩。」

 

そう聞いてくる2人に俺は頷くと

 

「そういう事だ。初めて出会い、親友となる。ここはそんな俺達の原点の場所って事だ。」

 

2人にそう言うと、2人はおずおずと俺に

 

「そういう事なのね・・・。先輩、あの・・・。」

「えーっと・・・あはは・・・。」

 

何やら言い難そうに俺にそう言ってくる2人に俺は、微笑みながら

 

「・・・大丈夫だよ。ちゃんと受け止めた。悪いな、2人とも。気を使わせちゃってさ。」

 

そう言うと、2人は安心したようで、深く息を吐き出しながら脱力すると

 

「はあ・・・よかった・・・。」

「・・・安心しましたー・・・。」

 

そんな2人を見て俺はクスリと笑うと

 

「さあ、ここでの思い出はこれで終わり。次に行こうか。」

 

そう言って2人に促すと、2人も頷いて俺の後に付いて来た。

 

そして、歩きながらやまとが俺に

 

「あ、先輩。出会いの事もあるけど、最近は久々に帰省した日に瞬一先輩と再会してるわよね?それはいいの?」

 

そう聞いて来たやまとに俺は苦笑しつつ

 

「いいんだ。それは最近の事だしな。十分思い出に残っているから問題なしさ。それに、さっきの時にその事もあわせて思い出した。だからすでに目的達成さ。」

 

そう言いながら俺は、次の目的地に向かうまでに、2人にその後の瞬との事を話して聞かせた。

 

2人の知らない瞬の話を聞きながら、2人もまた、その一つ一つに真剣に聞き入っていた。

 

そうこうしながら歩いているうちに、俺達は次の目的地に到着した。

 

「さて、次はここだな。」

 

足を止め、俺はその目的地を見つめる。

 

そこは俺達の母校でもある中学だった。

 

「やっぱり次はここなのね・・・。ここは私達にも思い出があるわね・・・。」

「うん。今でも覚えてるよ。瞬一先輩と一緒に慶一先輩の汚名を晴らそうと走り回ったもんね・・・。」

 

俺と同じく母校を見つめながらそう呟く2人に俺は、大きく頷くと

 

「俺も忘れてはいないさ。あの時、俺を助けようとしてくれたあいつの気持も俺には伝わって来てた。でも、あの時の俺は、あいつに対しての負い目があったからな。感謝はしてたけど、結局親友復活はさせれなかった、そんな場所でもあるからな・・・。とりあえず、行くぞ?2人とも。」

 

そう言って、2人に移動する事を促すと、2人とも無言で頷いて俺の後についてきた。

 

少し歩くと、俺達を呼び止める声が聞こえた。

 

「こらこら、君達はどこの学校の生徒かね?他校の人間がこの学校に勝手に足を踏み入れてはいかんぞ?」

 

と言う聞き覚えのある声に、俺は振り向いて

 

「あ、岡崎先生。お久しぶりです。覚えていますか?森村です。」

 

そう言って声をかけた先生は、かつての俺のクラスの担任だった。

 

俺の言葉に岡崎先生は驚きの表情を見せると

 

「これは驚いた。誰かと思えばうちのかつてのナンバーワンに匹敵する問題児の森村じゃないか。久しぶりだな。その様子だと元気にやっているようだな。」

 

そんな先生の言葉に俺は苦笑しながら

 

「問題児ナンバーワンとは手厳しいですね。とはいえ・・・それを否定できない自分が何だか複雑な気分ですが・・・。」

 

そう言うと、先生は穏やかな笑顔を俺に向けていたが、すぐに真剣な表情になると

 

「ふふ。お前には結構手を焼かされたものだが・・・それとだ・・・聞いてるぞ?牧村の事は残念だったな・・・。私も牧村の葬儀には出させてもらったが、私もやりきれんよ。牧村も中々に友情に厚い男だったからな。今でもよく覚えているよ。牧村がお前の無実を晴らす為に駆けずり回っていたあの日の事をな。」

 

本当に残念そうにそう言う先生に俺も軽く目を伏せながら

 

「ええ。俺も悔しく思っています。ただ、その原因の一端は俺にもありますからね。俺はその事を一生背負ってこれからも生きていくつもりです。」

 

そう言う俺に、先生は悲しそうな表情を向けていたが、俺は先生に

 

「実は今回この学校にお邪魔させてもらったのは、こいつらと一緒に瞬の思い出の場所を巡り、全てを受け止めて立ち直りたい、と思ったからなんです。先生、俺達は少しの間、その為に学校を見て廻りたいですが、構いませんか?」

 

今回の訪問の理由を伝えると、先生は頷いて

 

「そうか、永森と八坂も一緒に来たのだな。なあに、構わんよ。そうでなくてもここはお前らの母校だ。遠慮する事はない。他の先生方にも事情は説明しておくから、ゆっくりと廻って行きなさい。」

 

そう言ってくれたので、俺達は先生に頭を下げて

 

「ありがとうございます。それじゃ少しの間だけ、お世話になります。」

「ありがとう、先生。許可してくれて。」

「ありがとうございます先生。それじゃ少しの間だけお邪魔します。」

 

そう言うと、先生はにっこりと微笑んで職員室の方へ足を向けた。

 

そして、先生を見送ってから俺達は瞬と同じクラスだった事もあるので、当時の俺達の居た教室や、瞬とだべっていた所等を廻って歩いた。

 

そして、例の桜の樹の所へと足を向ける俺達。

 

その場所に辿り付き、俺達3人は桜の樹を見上げた。

 

「・・・ここは変わっていないみたいだ。少し安心したかな?」

 

俺のそんな呟きに2人は

 

「ここは先輩のお気に入りだった場所よね?私達のケンカを見たのもこの場所だったのよね?」

「懐かしいなあ・・・あの時先輩が私に初めて声をかけてくれたのもここでしたね。その時に先輩に会ったおかげで私は、いまこうして先輩ややまとと一緒に居られるんですねえ・・・。」

 

そう言ってあのときの事を思い出しつつ、懐かしそうにそう言う2人に俺は桜の樹を見つめつつ

 

「そうだな。けど・・・改めて瞬に感謝だな。この場所はさ、瞬が俺に教えてくれたんだ。とても落ち着ける場所がある、って言ってな。そして、俺はこの場所が気に入って、人目を避ける時も、のんびりしたい時もこの場所を選ぶようになった。そういうきっかけがあったから、あの時に俺はお前らにも会えたんだ。」

 

そう伝えると、2人はその事実にショックを受けていたようだったが、やがて少しだけ涙を流して

 

「・・・そうだったのね・・・。瞬一先輩、慶一先輩に会わせてくれてありがとう・・・。」

「慶一先輩と出会うきっかけを作ってくれた瞬一先輩、この運命を私はこれからも大切にして行きますね・・・。ありがとうございました・・・。」

 

そういう2人に俺も、少しだけ涙を流しながら

 

「改めてありがとうな、瞬。今の俺があるのはお前のおかげでもある。と同時に悲しいよ。お前と言う親友をうしなった事がさ・・・。でも、見ててくれ。俺は絶対にお前のくれたきっかけは無駄にはしない。その事を今ここで、この桜の樹に誓うよ。」

 

そう力強く言う俺の側に2人も寄り添って、同じように、決意に満ちた眼差しをこの桜の樹に向けていたのだった。

 

そして、俺達は、ここでの思い出もしっかりと受け止めて、最後の場所へと足を向けた。

 

2人は俺の向かおうとしている所が分かったみたいだったが、俺にとりあえずの確認を取ってきた。

 

「ねえ、先輩。最後に向かおうとしてる場所ってやっぱり・・・。」

「あの場所、しかないですよね?一応確認はしたいですが。」

 

そう聞いてくる2人に俺は頷いて

 

「2人の思っている通りだ。最後の場所は・・・レゾン。」

 

俺の言葉に2人は”やっぱり”と言うような顔をして、そして、こうはふいに携帯を取り出すと、どこかへメールを打っているようだった。

 

俺は、そんなこうの行動に頭にハテナマークを浮かべていたが、特に追求はしなかった。

 

そして、俺達は最後の目的地であるレゾンへと辿り付く。

 

店を見上げて俺は感慨深げに

 

「やっと着いたな・・・俺達の思い出の終着点。」

 

そう呟く俺に、2人もまた俺と同様に店を見上げて物思いにふけっていたが、俺はそんな2人に

 

「さ、いつまでも店を見上げていても埒があかないからな。店に入るぞ?2人とも。」

 

そう促すと、2人ともはっとして、俺の言葉に気付いてすぐさま俺の後を追いかけてきた。

 

そして、懐かしさの溢れる店内へと入ると、俺達をレゾンのマスターが出迎えてくれたのだった。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?やあ、森村君に永森さん八坂さん、いらっしゃい。珍しいね。」

 

と言うマスターに俺は笑いかけながら

 

「マスターも元気そうでなによりです。実は、今日は瞬の事もあってこの店に来させてもらったんです。」

 

そう言うと、マスターは少し悲しげな表情になって

 

「牧村君の事は聞いているよ。気の毒だったね。ここは君にとっても彼にとっても思い出のある店らしいね。そういう人が居てくれて嬉しい限りだけども・・・。」

 

俺はそんなマスターに苦笑しながら

 

「そうですね・・・。今回はその事も含めて、あいつとの思い出を振り返ろうと思ってやってきたんですよ。」

 

その言葉にマスターは”ふっ”と笑顔になって

 

「事情はわかった。今日はゆっくりしていくと良いよ。それじゃ君達を特別席にご案内だ。さあ、こっちへ。」

 

そう言うと、俺達を特別席へと案内すると言い出した。

 

俺はそんなマスターの態度に慌てながら

 

「い、いえ。今日はそんなつもりで来たわけではないですし、普通の席で構いませんから。」

 

そう言うと、マスターは含みのある笑いをしながら

 

「まあ、まあ、そう言わずに。さあ、こっちへ。」

 

そう言って、なおも俺達を特別席に連れて行こうとするマスターに俺は再び苦笑しつつも、案内されるがままに特別席に行った俺は、そこに集まってる連中を見て絶句した。

 

「やほー、慶一君。待ってたよー。」

 

俺に気付いたこなたが俺に手を振りながらそう言うのを見て、俺は混乱した頭で

 

「こ、こなた?何でお前がここに・・・。」

 

そう言うと、今度はかがみが俺に

 

「あら?こなただけじゃないわよ?私達もいるしね。」

 

と言う言葉を皮切りに、そこに居る全員が声をかけてきた。

 

「わたしも居るよ?けいちゃん。」

「八坂さんからメールをいただきまして、私達もここに集まらせていただきました。」

「今回は慶ちゃんが大きな決心をしたって聞いてたから、そんな慶ちゃんの助けになれないかな?って思って。」

「1人じゃつれえ事でも皆がいたらなんとかなんだろ?」

「私達も先輩の為に何かしてあげたかったから・・・。」

「・・・私も、ゆたかやひより、パティ、委員長とも話し合ってここに来て見ようと思いましたから・・・。」

「私に何が出来るかわかりませんけど、私も何かしたかったっスから。」

「どんなにツライコトでもミンナでセオえばツラクはないデスよ?」

「小早川さん達の言う通りですよ。私達は仲間なんですから。」

「そんな仲間の為に立ち上がらせてもらいました。」

「先輩には元気になって欲しいですからね。」

「僕も君の友人として、そして、瞬一君の友人として君を励ます義務があると思ったからね。」

 

最後の氷室の言葉を聞いて俺は、再び皆の気持に打たれて涙を流した。

 

そして、涙を流しながら俺は

 

「ありがとう。俺の為にまさか皆が集まってくれるとは思わなかった。こなた、かがみ、つかさ、みゆき、あやの、みさお、ゆたか、みなみ、ひより、パティ、いずみさん、みくさん、たまきさん、結城。俺は、皆のような仲間が居てくれて幸せだよ。」

 

そう言うと、皆は俺の顔を見てにっこりと笑ってくれた。

 

若干名、急に名前で呼ばれて驚きの表情を見せる子もいたけれど。

 

その若干名が俺におそるおそる声をかけてくる。

 

「あ、あの、先輩。さっき私たちの事名前で呼んでくれましたよね?一体またどうして?」

 

そう言ってくるみくに俺は笑いながら

 

「みくさんもたまきさんもいずみさんも俺達の仲間になった。そして、3人は俺の為にあの日元気付けてくれに来てくれたよな?そんな事もして貰うほどなんだし、そんな3人も名前で呼ばなきゃ申し訳ない、って思ってな。嫌だったらやめるけど・・・。」

 

そう言うと、3人は首を振って

 

「いえ、むしろ嬉しいですよ。これで私達本当の仲間になれたんだな、って思えますしね。」

「実の所、少しだけ、先輩に名前で呼んでもらう事にあこがれもあったりしました。」

「何だかくすぐったい気分ですが、でも、悪い気分じゃないですね。それに、これで私も本当に皆さんの仲間になれたんだな、って思うと、何か嬉しいです。」

 

そう言う3人に俺は照れながら

 

「そう言ってもらえるならよかったかな。とにかく、改めてよろしくな?」

 

そう言うと、3人とも「「「はい!」」」と言って笑ってくれたのを見て、俺も少しほっとしていた。

 

そして、俺はこうとやまとの2人に向き直り

 

「2人とも、ありがとう。最後に大きなサプライズだったけど、凄く元気をもらえたよ。」

 

そう言って改めて2人に礼を言うと、2人は複雑そうな表情で

 

「・・・正直ほっとしたのはこっちね・・・。先輩、怒るんじゃないかな?って思ったもの・・・。」

「あはは。正直最後のこれは賭けでした。でも、先輩が喜んでくれたなら私も安心です。」

 

そう言う2人に俺は笑いながら

 

「2人とも俺の為に考えてくれた事だろ?そんなお前らに怒るような真似はできないさ。とりあえず俺達も席に着こう。皆も待ってるしな。」

 

そうやって2人を促し、俺達は皆の待つ席に着いた。

 

「慶一君。私達にも牧村君の思い出を話して欲しいな。もちろん私達も受け止めるよ?皆と一緒にね。」

 

そう言ってくるこなたに俺は頷いて

 

「ああ。皆にも聞いて欲しい。俺とこうややまとと瞬の思い出を。そして俺は、全てを受け止めるから、だから、皆にも少しだけ元気を分けてもらえないかな?」

 

皆を見回してそう言うと、皆ももまたにっこり笑って頷いてくれたのだった。

 

そして、俺達は遅くまでこの店で瞬との思い出話をも含めて色々な事、これからの事を話し合った。

 

そうして俺はその日、瞬の事に対する全てを受け止め、前へと進む決意をして家路につく事となった。

 

家に帰る途中、俺は心の中で

 

(瞬。お前と親友だった事、その日々を俺は忘れない。その事を胸に秘めて、そして、俺は前を向く。今俺の側に居てくれる皆と一緒に。だから、天から見ていてくれ。俺はお前の分まで生きて行ってみせるから・・・。)

 

そう決意を固めた俺だった。

 

そして、次の日の朝、俺は久々に学校の制服に袖を通して、今日からまた前へ進もうと自分に気合を入れたのだった。

 

色々あったが、皆のおかげで俺は完全に立ち直る事が出来た。

 


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