らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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癒しの旋律達、第3話~親父の謝罪、瞬の遺品、そして、高良家と岩崎家の人々~

昨日の柊一家の来訪と、そして、暖かい皆の励ましは、俺に元気と力をくれた。

 

俺はそんな柊家の人達に感謝しつつ、楽しくて優しい時間を過ごした。

 

また少し元気になった自分の心を感じつつ、帰っていく皆を見送ったのだった。

 

俺は、皆の思いに応える為にも早く元気にならなくては、と改めて思うのだった。

 

そして、今日もまた、家でのんびりと心の傷を癒す為に読書をしつつ、気持を落ち着けている時、俺の携帯に着信が入って来たので、電話に出てみた。

 

「もしもし?龍兄?急に電話してきて、俺に用事なのか?」

 

そう、龍兄に聞くと、龍兄は

 

「ああ。今、お前はしばらく学校を休んでいるんだったよな?だから、一度実家に戻って来い。」

 

そう言って来たので俺は

 

「実家に?親父達が俺に帰ってこい、って言ってるのか?」

 

そう尋ねると、龍兄は

 

「親父達もそうなんだが、麗真さんがお前に用事があるらしい。なんでも、お前に瞬坊の形見の品を受け取って欲しいらしいのさ。」

 

その龍兄の言葉に少し落ち込みつつも気をとりなおして

 

「・・・わかったよ。それじゃ準備してそっちに行くから。まずは実家に行けばいいのかな?」

 

そう、龍兄に尋ねると、龍兄は

 

「ああ。先にこっちに寄ってくれ。牧村さんの所はその後に行くといい。」

 

そう言ったので俺は

 

「わかった。それじゃ向こうでな、龍兄。」

 

そう返すと、龍兄も俺に

 

「ああ。気をつけて来いよ?まあ、お前の事だから心配いらないとは思うがな。」

 

そう言ったので、俺は

 

「はは。とりあえず切るよ?龍兄。」

 

そう返してから電話を切ったのだった。

 

そして、俺は1つ気持ちを切り替えると、実家の方へと顔を出す為に出かける準備をした。

 

着替えなどを済まして準備を終えると、俺は実家に向かう為に家を出た。

 

道中、いつもならばなんでもないこの道のりが、なんだか、とても辛く感じるようになってしまった事に気付いた時、悲しい気持になる自分を感じる事になる事等思いもしなかった。

 

まだ俺には時間が必要なのかもしれない、と思いながら、俺は実家へを目指したのだった。

 

その後、実家への最寄駅へと到着し、俺は、そのまま実家へと足を向けた。

 

そして、実家の門の前まで辿り着き、俺は大きなため息をつきながら実家を見た。

 

(・・・よもや、こんな気持で実家を見つめなきゃならない日が来るなんてな・・・。でも、約束は約束だし、仕方ないよな・・・。とりあえず、龍兄達に顔を見せないと・・・。)

 

そう、心の中で考えつつ、俺は玄関をくぐり、声をかけた。

 

「龍兄!親父!、お袋!言われた通り帰って来たぞ!?」

 

そう言うと、お袋が俺を出迎えてくれたのだった。

 

「・・・お帰り、慶一。大変だったわね、色々と。龍也もお父さんも中にいるわ。さあ、あがりなさい。」

 

そう言って俺に家に上がるように促すお袋に頷いて

 

「ただいま、お袋。正直辛いけど、仕方ないよな・・・。」

 

そう言って家に上がり、俺は龍兄達が待つ居間へと足を向けた。

 

そして、居間で俺を待つ2人に俺は声をかけるのだった。

 

「龍兄、親父、言われた通り、顔を出しに来たよ。」

 

そう言うと、龍兄と親父は複雑な表情を見せつつ

 

「悪いな、慶一。まだお前には時間が必要だと言う事は分かっていたんだが、麗真おじさんも親父もお前に言うべき事、託すべき遺品があるとの事だったからな。少々無理言ったが、お前にこうして来てもらった訳さ。」

 

そう俺に言うと、側で控えていた親父が俺の前に来て、俺に土下座をしたのだった。

 

突然の親父の行動に驚いた俺は慌てつつ

 

「お、親父、いきなり何の真似だよ!いいから顔を上げてくれ!」

 

親父の側に寄り、親父を起こそうとしたが、親父はそんな俺の行動を手で制して

 

「・・・いいのだ。慶一。私はお前に詫びねばならん。私はこの町の自治を預かる者。そんな私のはずなのに、お前の友人を護ってやる事が出来なかった。お前にはもう悲しい思いをさせたくないと思っていたのに、情けない限りだ。慶一よ、すまん。私を軽蔑してくれても構わん。お前がそれを望むなら、それすらも甘んじて受け入れよう。それがお前に対する私の罪であり、受けるのが当然の罰なのだからな。」

 

俺は、そんな親父の言葉にかなりの驚きを隠せずにいた。

 

あの、高慢で、俺と顔を合わせればお互いに口喧嘩すらしていた親父が、今目の前で俺に土下座して頭を下げている。

 

俺はそんな親父の姿を見て、1つ頷くと

 

「・・・顔を上げてくれ、親父。親父がこの町の自治を任されて居る事は知ってる。けど、そうだとはいえ、この町は広い。だから、親父の目が届かない所が出たとしても不思議な事じゃないさ。それに、親父は何もしていない訳ではなかったんだろ?確かに瞬の事は悔しいし悲しいさ。けど、起きてしまった事はもうどうしようもないし、それに・・・調子狂うんだよ。いつも高慢で俺の顔見たら悪態つく、そんな親父の癖にそんな風にしおらしくしてさ。親父の気持はわかるけど、俺を思ってくれるならいつも通りの親父でいてくれよ。」

 

そう親父に言うと、親父は土下座の姿勢のままでしばし考え込んでいるみたいだったが、おもむろに立ち上がり、後ろを向くと

 

「・・・ふん。たまにこうやって素直に頭を下げてやったというのに、まったく可愛げのない。一体誰に似たのだろうな、この馬鹿息子は・・・。」

 

少しだけ震える声でそう言う親父に、俺も背中を向けて上を向きながら涙をこらえつつ

 

「・・・俺は・・・そんな可愛げのない・・・親父に似たんだよ・・・何しろ俺は・・・そんな親父の息子、だからな・・・。」

 

俺の今の素直な気持ちを言葉に出したのだった。

 

そんな俺達を見ていた龍兄も、どこか複雑そうなそんな表情を見せていたのだが、気を取り直して

 

「・・・ほらほら、親父ももう慶一に言いたい事はいったからいいだろ?慶一、そろそろ麗真さんの所へ行って来い。そして、少し落ち着いたら帰って来ればいい。」

 

そう言う龍兄の言葉に俺は頷いて

 

「・・・わかったよ。それじゃ、ちょっと行って来る。じゃあな、親父、龍兄。」

 

そう声をかけて居間を出ようする慶一に親父が

 

「・・・つらいかもしれんが、行って来い。きっとお前の為になるはずだ。」

 

その言葉を背中に受けながら俺は、片手を上げて親父に応えて家を後にしたのだった。

 

龍也side

 

今回の一件の真相を知ってる俺は、今の慶一と親父のやり取りを見て、真実を話せない苦しさと、瞬坊に何もしてやれなかった悔しさが俺の中で渦巻いているのを感じていた。

 

これ以上はこの場の空気に耐えれそうもないと判断した俺は、慶一に麗真さんの所へ行って来いと促してその場をとりあえずは収めたのだった。

 

(・・・すまん、親父。俺の思いも一緒に俺の代わりに慶一に伝えてくれてありがとう。親父の悔しい気持もわかるが、それ以上に俺が悔しい・・・。けど、これ以上は誰も失わせずに終わらせる。それが、俺の戦いだからな・・・。)

 

俺はそう心の中で考えつつ、改めてこの問題に収束をつけると誓うのだった。

 

慶一side

 

親父との邂逅は、なんとも緊張した重苦しい雰囲気を味わう事となった。

 

俺も親父もいたたまれなくなっている時に龍兄からの助け舟のおかげで、とりあえずは俺のもう1つの目的に向けて動く事ができるようになった。

 

とはいえ、こっちもまた、俺にとって重い空気を感じる事になりそうだと牧村道場に足を向けつつも、少しだけ足取りの重い俺だった。

 

牧村道場に向かいながら俺は、瞬との今までの事を思い返していた。

 

わかってはいたけれど、やっぱりあいつと過ごせた時間が少なかった事は、俺にとってはいつまでたっても後悔の要因となるようだった。

 

そんな事を考えているうちに俺は牧村道場へと辿り付く。

 

緊張で体を硬くしつつ、俺は道場の門をくぐった。

 

道場を左に見ながら俺は瞬の自宅の方へと足を向ける。

 

すると、玄関から瞬の弟の祐次と浩也が出てきた。

 

2人は俺に気付いて側にやってきて

 

「こんにちは。慶一さん。家に何か用事ですか?」

「先日は色々ドタバタしてしまってて声もかけれませんでしたね。もしかして瞬兄に線香でもあげに来てくれたんですか?」

 

そう言って来たので俺はそんな2人の言葉に複雑な表情を見せつつ

 

「・・・今回は、大変だったな。俺も親友を失ってしまってつらかったけど、お前らも身内をなくす事になってしまったもんな。祐、浩、それもあるんだけど、ちょっと麗真おじさんにも呼ばれていたから来たんだよ。麗真おじさんは家にいるかな?」

 

俺の言葉に祐が頷いて

 

「そういう事でしたか。親父なら家にいますよ。俺達はこれから出かけなければなりませんが、親父と、瞬兄に会っていってやって下さい。」

 

そう言ってくれて、浩も俺に

 

「そうしてもらえば瞬兄も喜ぶと思いますから。じゃあ、俺達はこれで行きますから。行こう、祐兄。」

 

俺にそう言った後、祐にそう促して、2人はどこかへと出かけていったのだった。

 

俺はそんな2人の後ろ姿に一礼して、家の呼び鈴を押す。

 

少し待つと、麗真おじさんが俺を出迎えてくれて

 

「やあ、よく来たね。あの時からあまり時間は立っていない状況で無理を言ってすまなかった。さあ、あがりなさい。」

 

そう促してくれたので俺は

 

「いえ、今回の事は俺にとっても大事な事だと思えましたのでやってきました。それじゃ失礼します。」

 

そう言って俺は家に上がり、麗真おじさんに導かれるままに、瞬の遺影の飾ってある仏壇へと案内される。

 

「さあ、ここだ。とりあえず、今、君に渡す物を取ってくるから、その間に瞬に線香でもあげてやってくれるかい?」

 

俺を仏間へと案内した後に、麗真おじさんはそう言って部屋を出て行った。

 

俺は静かに仏壇の前に正座して、仏壇の蝋燭に火を灯し、そして、線香を立てて手を合わせた。

 

そして、仏壇に手を合わせながらもまた瞬との事を思い出した俺は、少しだけ泣いたのだった。

 

そうしているうちに麗真おじさんは何かを手にして戻って来た。

 

「お待たせ、慶一君。これを君に渡したかったんだ。これは瞬がずっと大事にしてきたものだと言っていた。君と親友が復活したなら君にこれを送って2人で付けたいと思っていたようだよ。」

 

俺が、麗真おじさんから渡された瞬の遺品は、左手首にはめるリストバンドだった。

 

「リストバンド?片方しかありませんね?」

 

その俺の疑問に麗真おじさんも頷いて

 

「そうなんだよ。どうやら瞬は右手にはめるリストバンドを使っていたんだ。親友の証として、左右片方ずつにリストバンドをはめたかったようだね。これがある限り、俺は慶一と親友で居つづける、とそう誓っていたようだ。そして、瞬のつけるべきバンドは瞬と共に荼毘にふしてしまったからね。今残ってるのはそれだけだったんだよ。これを君に託す事は瞬の願いでもあったから、どうか受け取ってもらえないかな?」

 

麗真おじさんのその言葉に俺は、再び胸に熱いものが湧き上がるのを感じていたが、俺は麗真おじさんからリストバンドを受け取ると、左腕にそれをはめた。

 

「・・・あいつの気持、ありがたく受け取らせてもらいます。そして、このリストバンドに誓って言います。俺はこれからもずっと、あいつの事は忘れない。生きている限り、俺はこれを持ちつづけます。」

 

そう俺の決意を麗真おじさんに言うと、麗真おじさんはにっこりと笑って

 

「ありがとう。瞬もきっと喜んでくれてるだろう。私も瞬の心を君に託せたし、1つ肩の荷が下りた気分だ。こんな事になってしまって少し気は引けるかもしれないが、これからも瞬に会いに来てやってくれ。私はいつでも歓迎するよ?」

 

その言葉に俺は深く頭を下げると

 

「・・・ありがとうございます。またこちらに寄らせていただきますね。それじゃ、今日の所はこれでお暇させてもらいますね。」

 

そう言うと、俺は玄関へと足を向ける。

 

そして、家を後にする俺を麗真おじさんは見送りに出てくれた。

 

そんな麗真おじさんに手を振って俺は、実家を目指して歩き始めたのだが、その途中で俺は2人の女の子に声をかけられたのだった。

 

「あら?慶一さん。てっきり自宅の方にいらっしゃると思っていましたが、どうされたんですか?」

「・・・こんにちは、先輩・・・。私も先輩に出会えるとは思っていませんでしたから、驚きました・・・。」

 

その声の主はみゆきとみなみだった。

 

俺も偶然とはいえ、2人に出会ったことに驚いて

 

「みゆき、それに、みなみか。今学校の帰りか?ちょっと俺は実家に呼ばれたんでね、今日は帰って来てたんだよ。今ちょっと瞬の家に行っててな。これを受け取って来た。」

 

そう言って俺は左腕を2人に見せる。

 

2人は俺の言葉に戸惑いながら

 

「・・・牧村さんの所、ですか・・・お辛いでしょうね、心中お察しします・・・。それと、これはリストバンドですね?片方だけ、なのですか?」

「・・・突然の事でしたから、大変でしたね・・・先輩・・・何故片方だけ、だったんですか・・・?」

 

そう言う2人に俺は、麗真おじさんから聞いた事を説明すると、2人は少し落ち込んだような表情で

 

「・・・そういう事、だったんですね・・・。でも、大丈夫ですよ、慶一さん。牧村さんの思いはこのリストバンドにこめられているはずですから。」

「・・・先輩が牧村さんの事を忘れなければ・・・きっといつまでも先輩の心の中で生き続けるはずです・・・。」

 

その言葉に俺も複雑な表情を見せつつも

 

「そうだな・・・。ありがとう、2人とも。俺は忘れないさ、だって俺は、あいつの親友だったんだからな。」

 

その言葉に2人は少しだけほっとしたような表情で

 

「よかったです。慶一さんも少しだけ、あの時よりはお元気になられたみたいですから・・・。」

「・・・私達は先輩の事を心配していましたから・・・。」

 

そう言ってくれる2人の気持が嬉しくて、俺も微笑みながら頷いたのだった。

 

みゆきside

 

今日も慶一さんの事で皆さんと色々な事を話し合い、そして、泉さんやかがみさん達の話を聞いて、次は私達が動くべきでしょうか?と思案をしていました。

 

そして、学校の帰りにみなみちゃんと出会い、これからの事を話し合いながら一緒に帰って来たのですが、その途中でまさか慶一さんに出会う事になるとは思いもしませんでした。

 

驚いた私達は、慶一さんにこちらにいらっしゃる理由を尋ねてみましたが、実家から呼び出され、そして、牧村さんの所に行ってきたという事を慶一さんから聞かされて、私達は慶一さんの気持を考えた時に少しだけ辛くもなりましたが、牧村さんの遺品であるリストバンドを腕にはめた慶一さんは少しだけあの時より元気を取り戻しているようにも見えました。

 

私はこの状況をチャンスと考え、慶一さんの為に行動を起こそうと考え、声をかける事にしました。

 

「・・・あの、慶一さん。よろしければこれから家にいらっしゃいませんか?」

 

私の言葉に慶一さんは驚いたような表情を見せて

 

「え?これからか?でも・・・。」

 

そう言う慶一さんに私は更に言葉を続けて

 

「慶一さんの事情は存じています。ですが、こういう時こそ私はあなたの力になりたいのです。あなたを元気付ける為に、私の出来る事をしたいのですよ。」

 

私の言葉に慶一さんは戸惑いつつも、その場で考え事を始めたのを私はじっと見つめて、慶一さんの動きを見守っていました。

 

慶一さんの考え事が済むのを見守っていると、みなみちゃんが私に

 

「・・・みゆきさん。私も今日は・・・みゆきさんの家にお邪魔してもいいですか・・・?」

 

そう聞いて来たので私は頷いて

 

「ええ。いいですよ。みなみちゃんも慶一さんの寂しさを紛らわせてあげたいのですよね?」

 

そう言うと、みなみちゃんは少しだけ顔を赤くしつつ、コクリと頷いたのだった。

 

そんなみなみちゃんを見て私は、クスリと小さく笑ったのでした。

 

それから少しして慶一さんの考え事も終わったみたいで

 

「・・・みゆきのその言葉に甘えさせてもらっていいかな?」

 

と、遠慮がちに聞いてくる慶一さんに、私も笑顔で頷いたのでした。

 

慶一side

 

瞬の家から戻る時にふいに出会ったみゆきとみなみ。

 

2人は俺に自分の家に来ないか?と声をかけてくれた。

 

実家や牧村家で重い空気を味わって少しだけ疲れが出ていたのかもしれない。

 

俺はその提案に少しだけ考えた末に乗る事にしたのだった。

 

俺は、みゆきにその言葉に甘えさせて欲しいと頼むと、みゆきは嬉しそうに微笑んで頷いてくれたのだった。

 

そして、俺が2人と一緒にみゆきの家に向かおうと足を踏み出そうとした時、みなみが俺に

 

「・・・あの、先輩・・・。みゆきさんの家に行く前に私の家に・・・来ていただいても構いませんか・・・?」

 

そう声をかけてきたので、俺は少し驚きつつ

 

「みなみの家か?何かあるのか?」

 

そう尋ねると、みなみは俺の顔を見つめながら

 

「・・・はい。私が・・・先輩にしてあげられる事が見つかったので・・・それで、それをする為には・・・家に行かないとできませんから・・・。」

 

俺がその言葉に頭にハテナマークを飛ばした状態でいたが、みゆきはみなみが言いたい事に気付いたみたいで

 

「みなみちゃん、ひょっとして”あれ”ですか?なるほど・・・それならば慶一さんも喜んでくれるかもしれませんね。」

 

みなみにそう言うと、みなみはコクリとみゆきに頷いていた。

 

俺はそんな2人のやり取りを見て

 

「なあ、みゆきは何かわかったみたいだけど、一体なんなんだ?」

 

そう聞くと、みゆきはいたずらっぽく笑って

 

「ふふ。みなみちゃんの家に行けばわかりますよ。それまでは内緒、です。」

 

そう言って人差し指を立ててウインクするみゆきに俺は、何か納得の行かないものを感じつつも

 

「・・・まあ、みゆきがそう言うなら楽しみにしてみるか・・・。」

 

そう言うと、みなみも心なしか少しだけ嬉しそうな表情を見せた。

 

そして、みゆきと共にみなみの家にやってきて、俺はみゆきと一緒にみなみの家へと入って行く。

 

すると、俺の予想が当たったみたいで、チェリーが俺に向かって突進してきたので俺はすんでの所でチェリーのタックルをかわしてみる。

 

だが、相手の方が一枚上手だったみたいで、俺は突然タックルの軌道を変えたチェリーにのしかかられて顔を舐められたのだった。

 

おろおろしつつもチェリーを引き剥がすみなみ。

 

再びチェリーのリードをしっかりと結びつけて、俺達はみなみの家へとお邪魔したのだった。

 

玄関で俺達を出迎えてくれたほのかさんに挨拶をしたのだが、俺はほのかさんに励ましの言葉をもらう事となり、また少し心の中が癒され、暖かくなった気がした。

 

家に上がった俺達は、ピアノの置いてある部屋へと通された。

 

みなみは部屋に着替えに行き、しばらくするとこの部屋へと戻って来たみなみを俺達は出迎える。

 

そして、俺は、みなみがやろうとしていることが気になって、みなみに声をかけてみた。

 

「なあ、みなみ。この部屋で何をする気なんだ?」

 

ピアノの準備をしているみなみにそう尋ねると、みなみは俺に

 

「・・・私は、少しだけピアノが弾けるんです・・・ですから、先輩に元気になってもらえる音楽を・・・先輩に聞かせてあげたいと思いまして・・・それで・・・少しでも心を癒す手助けができたら、と思ったんです・・・。」

 

そのみなみの気持が嬉しくなった俺は、みなみの頭を撫でながら

 

「ありがとう。俺のためにそんな事も考えてくれてたなんて、本当に嬉しいよ。ごめんな?みなみ。俺、まだまだこんなでさ・・・お前のその気持の為にも一日も早く元気になるから。だから、もう少しだけ俺に時間をくれ。」

 

俺の言葉にみなみは顔を赤らめつつ

 

「・・・わかっています・・・私は、いえ、私達は先輩が元気になる日を待っていますから・・・。」

 

その言葉に俺は、力強い頷きで応えたのだった。

 

みなみの演奏が始まり、俺はその旋律に耳を傾けた。

 

とても優しくて、そして繊細な音色は俺の心に暖かさと癒しを与えてくれたようだった。

 

気付けば俺は、そんなみなみの奏でた音楽に対して最大の拍手で応えていた。

 

みなみもまた、照れつつも嬉しそうだったのを見て、みゆきもほのかさんもまた微笑みを浮かべて俺達を見ていたのだった。

 

みなみの素晴らしい癒しをもらって、俺達は岩崎家を後にし、今度は高良家へとお邪魔する事となった。

 

玄関で俺達を出迎えてくれたゆかりさんは、俺を抱きしめて優しい言葉をかけてくれた。

 

「大変だったわね、慶ちゃん。でも、心配しないで?慶ちゃんには家のみゆきやみなみちゃんもついているんだからね?」

 

そんなゆかりさんの言葉に顔を真っ赤にしてみゆきは

 

「お、お母さん、何を言ってるんですか!私だけじゃありませんよ。泉さんやかがみさん、それにクラスメートの方々や後輩の方々だっていらっしゃるんですから。」

 

そう少しテンパリ気味に答えていたが

 

「あら?みゆきは慶ちゃんの力になりたい、って私に言ってたじゃないの。あんなに慶一さんの為に、慶一さんの為にって。」

 

その爆弾発言に更に顔を真っ赤にして慌てるみゆき。

 

「お、お母さん!そ、それはっ!ですから、その・・・。」

 

そんなみゆきを見てゆかりさんはニヤニヤとした顔で

 

「あらら~?顔真っ赤よ?みゆき。」

 

その言葉にみゆきはゆかりさんに抗議しつつ

 

「だ、誰の所為だと思っているんですかー!?うう・・・あの、慶一さん、お騒がせしてすいません・・・。」

 

最後にはばつの悪そうな顔で俺に詫びるみゆきに、俺も苦笑しながら

 

「ははは・・・なんというか、その・・・俺の事を考えてくれた事は嬉しかったけどな。」

 

そう答えると、みゆきはまたもや顔を真っ赤にして照れながら

 

「慶一さんまでそんな事を・・・もう、みんな意地悪です・・・。」

 

俺はこの台詞は狙ったわけじゃないのだけど、どうもそう言う風にとられてしまったようだったので、俺は更に苦笑するしかなかった。

 

それからしばらくは、みゆきが立ち直るまでに時間がかかっていたのだが、何とか元に戻ったみゆきは部屋に戻って着替えを済ませて下に降りてくるまで俺達は、リビングで待っていたのだった。

 

それまでの間、ゆかりさんと前回の温泉旅行の事でみゆきを助けた事に対するお礼を改めて言われたり、みゆきもそうだけど、ゆかりさんもまた、俺の事を気にかけていてくれたみたいで、瞬の一件の事についても慰められる事となった。

 

そんな話をし終わる頃にみゆきが現れて、一旦は話はお開きになったのだが、その後でみゆきは俺を自宅に連れて来た理由を言ったのだが、俺はその理由に驚きを隠せなかった

 

「慶一さん。今日はみなみちゃんと一緒に家に泊まっていって下さい。」

 

そう言い放ったのを俺は慌てつつ

 

「ちょ、ちょっと待て、みゆき。みなみも一緒だとはいえ、年頃の男を泊まらせるのは問題があるんじゃないのか?」

 

そう返すと、みゆきは特に慌てた様子もなく

 

「?何も問題はありませんよ。それに私も文化祭の時にも、勉強会の時にも、お正月のあの時も、私は慶一さんの家に逆に泊まらせていただいているんですよ?もしここで私の申し出を断ると言うのでしたら、その時の3回のお泊りの時も何らかの問題があったはずじゃないのですか?」

 

その言葉に俺は、自分から勉強会以外ではみゆき達を自宅に泊まらせた事があったことを思い出し、ため息を1つついた後

 

「そういや、そうだっけな・・・何だかいろいろな事があったからすっかり忘れてたよ・・・。でも、いいのか?お世話になっちゃってもさ。」

 

俺の遠慮がちな言葉にみゆきは頷いて

 

「はい。先ほども言いましたが、これは慶一さんを元気付けてあげたいからやるのです。それは私の希望でもあるのですから、そこの所はご理解いただきたいと思います。」

 

その言葉に俺はみゆきのその気持ちが嬉しくて

 

「悪いな、なんだか今回は迷惑かけっぱなしだ。でも、ありがとう。あ、それと、泊まると決めたからには俺も実家に戻って着替えを取ってきたほうがいいかも、だな。」

 

そう言うと、みゆきはにっこりと笑って

 

「いえ。これはあくまでも私の意思ですから。それと、着替えを取って来られると言う事でしたら、みなみちゃんと一緒に夕飯のお買い物をお願いできませんか?今日は私も夕食の仕込みの方は頑張ろうと思いますから。これでも私、あれから練習したんですよ?その成果も見ていただきたいですから。」

 

そう言うみゆきに俺も頷いて

 

「わかったよ。それじゃ、ちょっと行って来るから買い物リスト頼むよ。」

 

俺の言葉にみゆきは、すぐにメモをつづって俺に手渡すと

 

「では、この通りにお願いしますね?」

 

そう言ったので、俺は頷いて、みなみにも声をかけて一緒に着替えを取りに行くのと同時に、買い物に出た。

 

家に戻って女の子の家に泊まる事になった事を報告すると、親父はさっきの湿っぽさはどこへやらで俺を散々にからかっていた。

 

俺はそんな親父の態度に安心しつつもむくれながら家を出ると、みなみと一緒に夕食の買い物を済ませた。

 

そして、改めて高良家へと戻った俺は買い物してきた物をみゆきに渡すと、みゆきは早速夕飯の支度を始めた。

 

俺も世話になるのだから、という事でみゆきを手伝おうとしたけれど、今日は1人でやらせて欲しいというみゆきの頑なな態度に負けて、俺はみゆきに全てを任せる事にした。

 

そして、みゆきが作ってくれた食事は、こなたのとはちょっと違うハンバーグだった。

 

こなたはチキンを加えたチキンハンバーグなのに対して、みゆきはオーソドックスな牛と豚の肉のひき肉で作ったハンバーグだった。

 

俺やみなみやゆかりさん達がハンバーグを口にする所を緊張の面持ちで見るみゆきに俺は、親指をビシッと立てて

 

「美味いぞ?みゆき。頑張ったな。練習の成果でてるじゃないか。」

 

そう褒めると、みゆきは顔を赤くして照れながらもほっとしているようだった。

 

みなみやゆかりさんやご主人も、みゆきの作ったハンバーグを美味しいと言っていたので、みゆきは結構嬉しそうだった。

 

高良家での時間は、悲しい事があったなんて事さえも忘れさせてくれる程に楽しくて、騒がしくて、そして暖かかった。

 

今回は寝るときは、俺とみゆきとみなみの3人で広い部屋で布団を敷いて寝ることとなったのだが、それもゆかりさん達のはからいで、3人で心行くまで語り明かせるようにということだったのだが、規則正しい生活をしているみゆきやみなみには、遅くまで起きているなどという事が出来る訳もなく、12時を過ぎる頃には轟沈していた。

 

俺はそんな2人の寝顔を見ながら苦笑を浮かべていたが、2人の布団を直してやると、俺もそのまま自分の布団に入り込んで眠りについたのだった。

 

あの時から寝つきの悪い夜を過ごしていた俺だったけど、久々に今回はゆっくりと眠れた気がした。

 

俺は、改めて高良家の人達とみなみに心の中で感謝したのだった。

 

(ふう・・・突然の事で驚いたけど、高良家に人達も、そして、岩崎家の人もみんないい人達ばっかりだな・・・。また少し、俺は癒された気がする。本当にありがたいよな。こういう人達が居てくれる事はさ・・・。俺もいつまでも落ち込んでいちゃいけないよな・・・頑張って立ち直ろう・・・俺を心配してくれる、俺を待っていてくれる皆の為にも・・・。)

 

そう考えながら久々によく眠れた俺だった。

 

そして、朝御飯を終えて、みゆき達を学校に送り出して、俺も高良家の人や岩崎さんにもお礼を言うと、埼玉の自分の家へと帰っていったのだった。

 

みゆきside

 

思いがけず慶一さんに出会い、私の出来る事が出来た事を私はよろこんでいました。

 

私の隣を歩くみなみちゃんもまた、慶一さんに対して自分の出来る事が出来たという事に満足しているようでした。

 

「みなみちゃん。あそこで慶一さんに出会えた事には驚きでしたが、私もみなみちゃんも慶一さんに対して出来る事が出来た事はよかったですよね。私も少しでも慶一さんのお力になれた事が嬉しかったですよ。」

 

そう言うと、みなみちゃんも私に笑顔を返しながら

 

「・・・はい。些細な事でしたが、先輩の為になった事は・・・私にとっても嬉しい事でした・・・みゆきさん・・・。先輩はきっと立ち直ってくれますよね・・・?」

 

みなみちゃんのその言葉に私も力強く頷くと

 

「ええ。きっと立ち直ります。慶一さんならきっと。ですから、私達はそれを信じて待ちましょう。大丈夫ですよ。きっと元気な姿で私達の前に戻って来てくれますから。」

 

そう言うと、みなみちゃんも私の言葉に同じように力強く頷いてくれたのでした。

 

(慶一さん。私達は待っていますよ。慶一さんが元気な姿で私達の前に戻って来てくれる事を。ですから、乗り越えて下さい。慶一さんならきっと出来るはずですから・・・。)

 

どこまでも青い空を見上げながら、私は心の中でそう考えていたのでした。

 

みなみside

 

色々と忙しい時間だったけれど、先輩を元気付ける事に対して役に立てた事がとても嬉しかった。

 

みゆきさんの確信に満ちた言葉を聞きながら私は心の中で

 

(・・・大丈夫。あの時に比べたら先輩は格段に元気になってきてる・・・。きっと先輩は私達の前に戻って来てくれる・・・。私もそれを信じられるから・・・だから・・・頑張って下さい・・・先輩・・・。)

 

改めて先輩に対して祈りながらそう考えたのだった。

 

先輩の立ち直る日を心待ちにしながら、私はみゆきさんと一緒に学校を目指したのだった。

 


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