癒しの旋律達、第1話~やってきたこなたとゆたか~
突然の瞬一の死、そして、それを悲しみ、友と永遠の別れをして俺は、悲しみを抱えたまま家へと戻った。
皆はそれぞれに俺を心配してくれているようだったが、悲しみの方が大きかった俺は、そんな皆の気持に気付かないまま自宅へと戻って来た。
黒井先生や兄沢店長へとりあえずの現状報告を果たし、俺は、黒井先生や兄沢店長の好意に甘えさせてもらい、しばらくの間、学校とバイト先を休む事となった。
それでも・・・やっぱり皆は皆だったのだと俺はこれからの一週間で改めて知る事になった。
俺が休んでいたこの一週間あまりは、俺にとっては涙が出る程にありがたいと思えた一週間だったと言えた。
そして、今日からその一週間が始まる。
一週間の最初の日、まずやってきたのはこなたとゆたかの2人だった。
こなたside
あの一件の後、慶一君はやはりショックが大きかったみたいで、黒井先生にしばらく学校を休むと言っていた事を先生から聞く事になった。
私は、そんな事情を聞いてどうしようか?と悩んでいたが、それでも、慶一君に元気になって欲しいと思う私は、ゆーちゃんを誘って早速慶一君の家へと向かう事にしたのだった。
私のその行動にかがみ達は、すぐに慶一君の所に行くのはまずいのではないか?まだあれから時間もあまり経っていないのだし、と言い、戸惑いを見せていたが、私に出来る事はこれしかないから、と皆に自分の決意を言うと、皆もそれ以上は何も言わなかった。
ゆーちゃんも少し戸惑っていたみたいだったけど、最終的には私の判断に乗ってくれたのだった。
私とゆーちゃんは、慶一君の家に行く際に夕食の食材を買っていく事にして、慶一君にとりあえずメールを飛ばした。
そして、返信を待つ時間も惜しかったので、私とゆーちゃんは夕食の食材を買い込む為にスーパーへと立ち寄ったのだった。
「うーん・・・今回は前に作ったチキンカレーをもう一回作ろうかな?」
そう呟く私にゆーちゃんは
「こなたおねーちゃん、チキンカレー作るの?おねえちゃんのカレー美味しいからきっと先輩喜んでくれるよ。それに私もおねえちゃんのカレー少し楽しみだしね。」
私に満面の笑顔でそう言うゆーちゃんに、私は照れながら
「あはは。そう言ってくれると嬉しいかな。なら、ちょっと張り切っちゃおうかな?よーし、ゆーちゃん。私の言う材料探してきてー?私も買うものを集めておくからー。」
そう言うとゆーちゃんは笑顔で頷いて
「うん。わかったよ、おねーちゃん。こっちは任せといてー。」
そう言うと、私から食材のリストを受け取って買い物篭を持って走っていった。
私もそれを見送った後、自分の買う食材を探しに籠を手に歩き出したのだった。
その頃、慶一side
あの一件後、俺は心の傷を癒し、立ち直る為に学校を休んでいた。
パティも俺に気を使ってくれ、俺を1人にしておいてくれたのだが、程なくしてこなたからメールが届いたのだった。
FROM:こなた
慶一君、昨日は大変だったね。
昨日の今日だから、たぶんまだまだ君は落ち込んでるよね?それは私もわかってるけどさ、君の事、少しでも元気づけてあげたいんだ。
だから、今日の夕食は私が作らせて貰いに行くよー。
そう言う訳だから今日は夕食の支度をしないで家で待っててよ。
私にはこういう事しかできないけど、私の今出来る精一杯の事で頑張らせてもらうからさ。
だから、期待して待っていてくれたまへー。
P.S ゆーちゃんも一緒に連れて行くからよろしくねー。
俺は、こなたからのメールを確認し、軽くため息をついた。
「・・・ったく、こなたの奴・・・でも・・・・・・。」
1人呟きながらも俺は、そんなこなたの気持ちを嬉しく思っていた。
あんな事があって1人、しばらく塞ぎ込んでいたい、そうも思ったが、俺のやかましい友人はそれを許してはくれないみたいだ。
落ち込んでばかりいるのもよくない事はわかってる。
だからこそ、俺はこの事も、立ち直る為のいいきっかけに出来たら、と思ったのだった。
とりあえず、俺はこなたにメールの返信を返すと、こなたの言う通りに2人を待つ事にしたのだった。
そうして1人、部屋の中でいろいろな事を考えながらこなた達を待っていたが、そこに昨晩は家に帰ってきていなかったパティが戻ってきたようで、急ぎ足で部屋に行く足音が聞こえた。
俺はそんなパティに声をかけるべく、パティの部屋へと赴いた。
そして、パティの部屋のドアをノックしようとした時、部屋から突然パティが飛び出して来て、俺とぶつかったのだった。
「アウチ!!イタタ・・・トツゼンナニゴトですカ・・・?あ、ケ、ケイイチ、ダイジョウブですカ?」
尻餅をついたパティが俺にそう言ってきた。
俺もまた痛みに顔をしかめつつ
「あ、ああ、何とかな・・・それより、パティ、お前こそ大丈夫か?派手に転んでたみたいだが。」
そう声をかけるとパティは苦笑しつつ立ち上がって
「ワタシならシンパイいりまセーン!それよりケイイチ、ちょっとワガママをキイテホシイのですガ、カマいませんカ?」
そう言ってくるパティに俺は首を傾げて
「我侭?一体なんだ?」
そう尋ねると、パティは真剣な表情で
「これからイッシュウカンのアイダ、ヒヨリのイエにトマリにイキたいのデスよ。ちょっとヒヨリとイロイロやりたいコトがありマスから。もちろんレンラクはイレます。ケイイチ、カマいませんカ?」
その言葉を聞いて俺は少し考えた後
「ひよりの家に行くんだな?そういう事ならまあ、いいか。とりあえずひよりの家についたらひよりに一本連絡させてくれ。まあ、何をするのかは聞かないが、やりたい事をやってくるといい。」
そう言ってパティに許可を出した俺だった。
パティは俺の許可にほっとした表情を浮かべると
「サンキューデス、ケイイチ。ケイイチにイワれたトオりレンラクはちゃんとしますからシンパイしないでクダサイ。」
そう言うパティに俺も頷きで返すと、パティは俺にぺこりと頭を下げて家を出て行った。
パティside
あの事件があってから慶一は、大分落ち込んでいるみたいでした。
私は、ひよりとあの日にひよりの自宅に招かれた際に色々と話し合い、せめてしばらくそっとしておいてあげよう、と思い、私は思い切って、慶一が学校やバイトを休んでいる間だけひよりの家で泊まる事にしました。
昨日一晩ひよりの家に泊まり、私は急いで家に自分の荷物を取りにもどりましたが、私の帰宅に気付いた慶一に部屋の前で鉢合わせる事になり、私も慶一もびっくりしていました。
そして、思い切って慶一にひよりの家に泊まる事を話してみましたが、慶一は私のそうしようとした理由がわからないような顔をしつつも、私に許可を出してくれました。
私はそんな慶一の好意に感謝しつつ、離れ際に見た慶一の少し寂しそうな表情に胸を少し痛めながら、慶一に心の中で詫びつつ家を出たのでした。
(ソーリィ、ケイイチ。イマのケイイチのソバにワタシのようなゲンキすぎるコがいるコトはツライコトでしょうから・・・スコシのアイダだけケイイチをそっとしておいてアゲタイですから・・・しばらくワタシはケイイチのソバからハナれていますネ?コロアイをミハカらってモドリマス。それまでは、しばらくサヨナラです。)
そんな風に慶一を思いつつ、ひよりの家へと向かったのでした。
慶一side
突然のパティのお願い、それを俺は聞き届けたけど、パティを見送ってから俺は、家に1人きりになったのだと自覚した。
あんな事件もあって、確かに塞ぎ込みたい気分ではあったけど、そう思いながらも俺は、こういう時に誰かに側にいてほしいとも思う自分に重いため息をつくと共に、いいしれぬ寂しささえも感じていた。
「・・・パティがいないだけで・・・こんなにも静かだったんだな、この家は・・・。」
俺は今、自分の側に誰もいないこの事実に、そして、瞬がいなくなった事が更に俺に悲しさと寂しさを増幅させたようで、思わずこの状況に涙したのだった。
そして、重い足取りで部屋に戻った俺は、ふいに自分の携帯に目をやると、さっきこなたから届いたメールに再び目を通し、こなた達が来てくれる、その事を再度確認し、ほんの少しだけ救われる気分になった自分を自覚した。
それからこなた達が来るまでの間、俺はキッチンの方の準備を済ませつつ再び部屋に戻り、ベットに寝転がりながら天井を見上げつつ、今回の事を思い返してまた悲しい思いに浸っているうちに眠ってしまったのだった。
こなたside
買い物中に慶一君からのメールを確認した私は、ゆーちゃんが戻るのを待って一緒に慶一君の家へと向かう事にしたのだった。
その時に慶一君からのメールの事もゆーちゃんに伝えて、私達は慶一君の家へと向かったのだった。
慶一君の家に着くと、とりあえず呼び鈴を押してみる事にした。
呼び鈴を鳴らして少し待ってみたが、慶一君が出迎えてくれる様子もないのでゆーちゃんと頷きあって合鍵を使い、家の中へと入る私達。
私とゆーちゃんはキッチンへと向かい、とりあえず買ってきた食材をテーブルの上に降ろすと、ゆーちゃんに
「ゆーちゃん。慶一君の部屋に行って慶一君に声かけてきてくれない?私は先に食事の準備始めておくからさ。」
そう言うと、ゆーちゃんは頷いて
「わかったよ、おねーちゃん。ちょっと部屋まで行ってみるね?」
そう言ってキッチンから出て行くのを見送って私は早速食事の準備を始めたのだった。
ゆたかside
こなたおねーちゃんに言われて私は、とりあえず慶一先輩の部屋へと先輩の様子を見に行ってみた。
部屋の前に来て一応ドアをノックしてみたが、返事が返ってこなかった。
でも、部屋の中には人の気配があったので、誰かがいる事はわかった。
とりあえず私は「はいりますよー?」と声をかけてから部屋の中へと入る。
初めて入る先輩の部屋を見て私は、部屋が綺麗に片付いているのを見てしきりに関心していたが、ふと先輩の机の上を見た時、旅行の時に取った写真が飾ってあるのが見えた。
私は机に近づいて写真手にとって見てみる。
(わあー・・・先輩もこの写真、大事に持っていてくれたんだね・・・。何か嬉しいな。この旅行は本当にいい思い出になったもんね・・・。先輩には本当に感謝だよね・・・おっと、いけない。先輩の様子を見に来たんだっけ・・・忘れる所だったよ・・・。さて、先輩は、っと・・・。)
そう、心の中で考えながら私は部屋の中を見回してみると、ベットの上で寝息を立てている先輩を見つけたので、私は先輩の所へと移動した。
そっと顔を覗き込んで見ると、先輩は泣いていたのか、目元に涙の後が見て取れた。
それを見たとき私は、思わずあの時の悲しい先輩の顔を思い出して涙が出そうになったけど、それでも当初の目的を果たさないと、と思ったので私は、もらい泣きしそうになっている自分に活を入れて、先輩を起こしてみる事にした。
「先輩、慶一先輩、起きてください。こなたおねーちゃんと一緒に来ましたよ?おねーちゃんも食事の支度始めていますよ?先輩の為に私達、頑張ろうと思って来たんですから。だから、起きてくださいよー、先輩ー。」
少し先輩の体を揺すりつつそう声をかけてみたが、先輩は何事か唸るばかりで中々起きてくれない。
困った私は、もう一回揺すってみようと先輩に近づいた次の瞬間、私は寝ぼけた先輩に思い切り抱きしめられていた。
「え?ちょっ!せ、先輩!あ、あのっ!」
あたふたしながら先輩にそう言うと、先輩はその私の声に目を覚ましたみたいで
「・・・ん・・・ふあー・・・・・・ん?」
先輩はそう言いながら、ふいに抱きしめている私の事に気付いたみたいで、大慌てで私から離れて
「うわ!!ど、どうしてゆたかが・・・って、何で俺ゆたかを抱きしめてたんだ?」
そんな風に慌てる先輩に私は、顔を赤くしつつ苦笑しながら
「・・・えっとですね・・・こなたおねーちゃんと先輩の家に来たんですけど、先輩眠っていて私達が呼び鈴を押した事に気付いてないみたいだったので、こなたおねーちゃんに食事の支度の下ごしらえを任せて私はおねーちゃんに言われて先輩の様子を見に来たんです。先輩寝ているみたいだったから、私先輩を起こそうと思って先輩に声をかけつつ先輩の体を揺すったんですが、ふいに寝ぼけた先輩に抱きしめられて、って事です。」
そう説明すると、先輩は途端に顔を赤くして落ち込みつつ
「そういう事か・・・ごめん、ゆたか。寝ぼけてたとはいえ、俺はなんて事を・・・。」
そう言う先輩に私も顔を赤くしつつ慌てながら
「い、いえ、気にしないで下さい。私も別に嫌じゃなかったですし、怒っている訳でもないですから。」
先輩にそう言ってあげてその気持を伝えたが、先輩はまだ自分の私にした事に対してまだ落ち込んでいるみたいだった。
とりあえずこのまま問答していてもしょうがない、と思った私は、先輩に
「と、とにかく。おねーちゃんと一緒に夕食の支度してますから、先輩もキッチンに顔出してくださいね?」
そう言うと、先輩ははっと顔をあげて
「あ、そ、そう言えばそういう事だったっけな・・・。えっと・・・ゆたか、その・・・来てくれてありがとうな?」
何だか済まなそうにそう言う先輩に私は満面の笑顔で
「いいんですよ。私達、先輩の為に何かしてあげたい、ってそう思ったんですから。それに、いつも先輩には助けてもらっていますから、私、そんな先輩に何かお返しが出来たら、って思ってたんです。」
私のその言葉に先輩は、何だか嬉しそうなそんな表情を見せてくれた。
先輩のそんな顔に少しだけ安心した私は
「先輩にも色々準備もあるでしょうから、それが済んだらキッチンへ来てくださいね?それじゃ私はおねーちゃんのお手伝いに行きますから。」
先輩にそう告げると、部屋をでておねーちゃんの頑張っているキッチンへと向かうのだった。
慶一side
あれから、悲しみと寂しさを思い出しながら何時の間にか眠ってしまった俺だったが、それからしばらくして俺を揺する誰かの気配を感じ、そして寝ぼけながら俺は何かを抱きしめていたようだった。
そして、戸惑いと驚きの声に気付いて目を覚ましてみると、俺は何故か何時の間にかやってきたらしいゆたかを抱きしめていたのだった。
顔を赤らめつつ大慌てでゆたかを離し、ゆたかに詫びる俺だったが、俺はそんなゆたかから事の経緯を聞き、更に自己嫌悪に陥っていたが、ゆたかはそんな俺に気にしていないといってくれた事が救いだった。
そして、ゆたかは俺に色々準備してからキッチンへ来て欲しいという事を告げると、俺に笑顔を向けながらも部屋を出て行くのだった。
それを見送った後、俺はとりあえず着替えを済ませつつ先ほどの事を思い返していた。
「・・・はあ・・・。寝ぼけていたとはいえ、何てことをしちゃったんだろうな、俺は・・・。いくら寂しいからって・・・無意識にあんな事しちゃうんだから、呆れるよな・・・。でも・・・来てくれたんだな、こなた、ゆたか・・・。」
俺は1人そう呟きつつ、とりあえず着替えを済ませてキッチンへと向かうのだった。
こなたside
ゆーちゃんを慶一君の様子を見てもらいに行かせた後、私は今晩の食事の下ごしらえを始めていた。
しばらくして、ゆーちゃんが戻って来たのだが、少しだけ顔を赤くしているゆーちゃんに気付いて
「おかえり、ゆーちゃん。少し顔赤いね?何かあったの?」
そう声をかけると、ゆーちゃんはその呼びかけに驚きつつ苦笑しながら私に
「え!?あ、えっと、さっき慶一先輩の部屋に行ったときに先輩が寝ていたから、起こそうと思って揺すってみたら寝ぼけた先輩に抱きつかれちゃって、それで、ちょっとまだ照れてたから、まだ顔赤かったのかも。」
そう答えるゆーちゃんに私は内心複雑な気分になりつつも
「そっかー。慶一君眠ってたんだね?とはいえ、寝ぼけてたとはいえゆーちゃんにそんな真似をするとはねえ・・・。」
私自身は普通にそう言っていたつもりだったんだけど、何故か怯える表情を見せたゆーちゃんが、おそるおそる私に
「え、えっと・・・こなたおねーちゃん?何だかその・・・怖いんだけど・・・どうしたのかなーって・・・。」
その言葉に私は”はっ”となり、そして少し慌てながら
「あ、あははー・・・。大丈夫だよ、ゆーちゃん。別になんでもないからさー。と、とにかく、チキンカレーの仕込みをやるから、ゆーちゃんも手伝ってね?」
心を静めつつそう言うと、ゆーちゃんもほっとしたような表情になり、頷くと
「うん。私もがんばる!おねーちゃん、何をすればいいのか指示してね?」
ゆーちゃんの言葉に頷いた私は
「よーし!それじゃがんばろっか。ゆーちゃん、そこのにんじんとジャガイモの皮むきをお願い、後ねえ・・・・・。」
そう言いながら、私は慶一君が来るまでの間、ゆーちゃんにも作業の指示を出しつつカレーの仕込みをするのだった。
慶一side
とりあえず、ゆたかに言われたとおり部屋で着替え等の準備を済ますと、俺はキッチンへと顔を出しに行く。
そして、キッチンに着いて中を覗いてみると、こなたとゆたかが忙しそうに夕食の仕込みをしているのが目に入った。
俺はそんな2人にありがたい気持ちになりつつキッチンへと入ると
「こなた、ゆたか。わざわざ来てくれてありがとな。夕食の支度、任せちゃってすまん。」
そう言うと、こなたとゆたかは俺の声に気付いてこちらに振り向いて
「いいって事だよー。私がそうしたい、って思ったんだから。私にはこのくらいの事しか出来ないけど、君が少しでも元気になってくれるなら、って思ったから。」
「私もです。あんな悲しい事になってしまいましたけど、少しでも先輩の役に立てたら、って思いましたから。」
そう言う2人に俺はとても暖かい気持ちになりつつ
「ありがとう、2人とも。なあ、俺にも何か手伝える事、ないかな?」
俺の言葉にこなたは首をふって
「いいよ。君はそこでどっしりと座って料理が出来上がるのを待っててよ。今の慶一君には少し休養も必要だと思うから。こういう事は私達に任せてさ。」
そう言うこなたに俺は
「こなたとゆたかの気持はありがたい。けど、じっとしてると悪い事ばかり考えてしまうから、何かやって気を紛らわせる方がいいんだ。だから、俺のためを思ってくれるなら、俺のやりたいようにさせてくれないか?」
そう言うと、こなたは俺の顔をじっと見つめてしばらく考え込んでいるようだったが、やがて、軽いため息を1つつくと
「・・・はあ・・・しょうがないね。慶一君がそうしたい、って言うなら手伝ってもらうかな?料理の仕込みは私達でやるから、慶一君は食器などの準備をしておいてよ。」
そう言うこなたに俺は頷いて
「わかった。それじゃ用意するよ。」
そう言うと、俺は食器の準備を始めるのだった。
俺の出している食器の数を見て、こなたは
「あれ?食器の数、少なくない?パティの分は出さなくていいの?」
そう聞いて来たので、俺は苦笑しながら
「あー・・・。実はな、あいつ、突然に一週間程ひよりの家に泊まりに行きたいって言い出してな。それで、お前らが来る少し前に家を出ていってしまったんだよ。だから、今日は、いや、これから一週間は俺は実質1人きりだ、って言う訳さ。」
そう説明すると、こなたはまた何事か考え事をしていたみたいだったが、何かに納得したらしく
「・・・そっか。そういう事なら仕方ないね。一応パティの分も想定して材料買い込んで来ちゃったし、カレー少し余っちゃうかもしれないけど、残った分は後で食べてよ。」
そう言うこなたに俺も頷いて
「わかった。そっか、今日はカレーなんだな?お前が作るの、というと例のあれだな?」
そう言うと、こなたは少し顔を赤くして照れながら
「あはは。お見通しだね?でも、いいでしょ?前も美味しいって言ってくれたんだし。」
その言葉に頷いて
「まあね。むしろ、歓迎だな。お前のカレーは好きだからな。」
その言葉に更に顔を赤くするこなた。
そして、こなたは照れつつ
「・・・はあ・・・。まったく慶一君は嬉しい事言ってくれるよね。よーし、それじゃ、そんな慶一君の為に私も張り切らせてもらうよ?だから、楽しみにしててね?」
俺はそんなこなたの言葉に笑顔で頷いたのだった。
そんな俺達の会話を聞きながらゆーちゃんも笑顔でこちらを見ていたが、俺はそんなゆたかの視線に気付くと、頬を掻いて照れていたのだった。
やがて、カレーも出来上がり、皆で食卓へと着く。
そして、夕食が始まったのだった。
俺はこなたとゆたかの合作のカレーを口に運ぶ。
2人はそんな俺の挙動を、緊張の面持ちで見守っていたが、俺が「うん。美味い。」と口にすると、2人とも何だかほっとして喜びの表情を見せていた。
それからは、お互いに気遣いあったのか、あまり会話のない食事が続いた。
それでも俺は、今のこの家にこの2人が居てくれる事がとてもありがたく、そして嬉しかった。
やがて、食事も済ませ、後片付けを手伝って、俺達はリビングに移動して、のんびりくつろいでいた。
その間もあまり会話のない状況ではあったが、俺はそれでも誰かが側に居てくれる事がとても安心できた。
そのうちに、そろそろ2人が帰る時間になったようで、俺の顔を見たこなたは
「・・・そろそろ、私達、行くね?慶一君、つらいかもしれないけど、頑張って?そして、もう一度元気な姿を私達に見せてよ。私はそれを、待ってるからさ。」
俺に笑顔を向けてそう言ってくれるこなた。
そしてゆたかも俺に
「先輩。私には先輩にしてあげられる事はあまりないかもしれません。でも、先輩を心配な気持、そして、元気になって欲しいって思う気持はありますから。だから、時間がかかっても・・・元気になってくださいね?」
そう言って笑うゆたか。
俺はそんな2人の姿を見ていたら、とてもたまらない気持になって、思わず俺は2人を抱きしめていた。
そして、そんな2人の耳元で俺は
「・・・行かないでくれ・・・今晩だけでもいい・・・2人とも、俺の側にいてくれ・・・。お願いだ・・・このまま1人でいるのは寂しいから、頼む・・・こなた、ゆたか。」
最後の方は涙声で2人にそう言う俺だった。
そんな俺の言葉を聞いて、2人とも抱きつかれた事も含めて驚いたような顔をしていたが、やがて、2人とも俺に
「・・・わかったよ。慶一君。君の寂しい気持に免じて、今日は一緒に居てあげる。でも、明日は私も学校あるんだから、今日だけだよー?」
「・・・そういう事で先輩のお役に立てるのなら私も一緒に居させてもらいますよ?だから、安心してくださいね?先輩。」
その言葉に俺は、嬉しさとありがたさで更に涙を流しながら何度もありがとう、と2人に言っていた。
2人はそんな俺を見て、優しい笑顔を見せてくれたのだった。
こなたside
少しでも慶一君の気を紛らわせて元気付けてあげられればいいと思って、今回の事、実行したけど、慶一君の家に来てパティも居ない事を知り、そして、帰り際には慶一君の本音も聞く事になった。
私は、そんな慶一君の願いを無下にできなかったから、今日は慶一君の側にずっと居てあげよう、そう思ったのだった。
そして、私は今日、ゆーちゃんと慶一君の家に泊まる為に家に連絡を入れた。
おとーさんは大分渋っていたけど、慶一君の事情を考慮してくれたみたいで、何とか許可をもらう事が出来たのだった。
実の所、慶一君のこの行動は何となくだけど予想できていたので、泊まる準備はあらかじめしてあった。
そして、蓋を開けてみればやはり、予想通りの結果になったので、私は自分の予想の正しさに満足すると同時に、慶一君の為に今日は一緒にいてあげないと、と思うのだった。
今回は事が事だったので、いつものお約束は自重しつつ、慶一君の部屋で3人で話をしたり、漫画を読んだり等をしながら一晩を過ごした。
まだ慶一君の心は癒されてはいないけれど、少しだけその為に役に立てた事を嬉しく思った私だった。
(かがみ達に反対はされたけれど、今回は自分の気持ちに正直に行動を起こしてよかったな。まさかパティが慶一君に気を使ってしばらく家を出るとは思わなかったから、夕食の準備の時には少し戸惑ったよ。でも、そのおかげで慶一君の本音も聞けたし、結果的に一晩、慶一君の側に居てあげられたからよかったかな?ゆーちゃんもこんな形でも慶一君の役に立てた事を喜んでいたみたいだし、よかったよね。慶一君の心の傷はまだ癒えないけど、少しでもその手伝いが出来たし、満足かな?慶一君、私、待ってるよ?君が立ち直って私達にまた元気な姿を見せてくれる事を・・・それまで、つらいだろうけど、何かの折には私は君の力になってあげるから・・・だから、頑張ってね?)
慶一君やゆーちゃんと話しながら私はそんな事を考えつつ、夜を明かしたのだった。
ゆたかside
先輩を元気付ける為にこなたおねーちゃんと一緒に行動を起こし、そして、最後には先輩は私達に側に居てくれと言ってくれた。
すがるような先輩の気持が悲しくもあったけど、私は、こなたおねーちゃんと共に先輩の側に居てあげる事にしたのだった。
そして、先輩の部屋で3人で話しながら私は心の中で
(さっきはびっくりしちゃったな。まさか先輩にそんな風に言われるなんて・・・でも、先輩、自分の気持ちに素直にそう言ってくれたよね?だから、私はそんな先輩の思いに応えてあげたいな、って思った。私はこなたおねーちゃんより付き合いは浅いけど、先輩の事は大切に思うから、だから、今日はおねーちゃんと一緒にいてあげます。先輩、こんな事しか出来ない私ですけど、元気になってくださいね?)
そう心の中で考えながら私は、出来るだけ先輩を元気にしてあげたいと思うのだった。
慶一side
こなた達と食事を終え、俺はいよいよこなた達が帰ると知った時、思わず、寂しさのあまりに2人に抱きついて帰らないでくれ、今日は一緒にいてくれと我侭を言ってしまった。
でも、2人はそんな俺の願いを聞き入れてくれ、その日の晩は一緒にいてくれた。
瞬の事で心が傷ついていた俺には、そんな2人が側に居てくれる事はとてもありがたかったから、俺の無茶な願いを聞いてくれた2人には本当に感謝していた。
そして、その日は俺達は存分に語りあい、夜をあかした。
次の日、学校に行くこなた達を見送りながら、俺は
「・・・こなた、ゆたか、ありがとう。俺の我侭を聞いてくれて、一晩一緒に居てくれた事、とても嬉しかった。俺、頑張るよ。きっと立ち直って、またみんなの前に行ってみせる、だから、待っててくれよな。」
そう言うと、2人とも笑顔を俺に向けながら
「私達が君の役に立ててよかったよ。大丈夫、私達は君の事待ってるから。だから、ゆっくりと元気になってね?何かあったら、また呼んでよ。出来る限り駆けつけてあげるからさ。」
「私も先輩のお役に立てて嬉しいです。いつも先輩には助けてもらってばっかりでしたから。私も先輩の事待っていますから、だから、きっと元気になって下さいね?」
そう言うと、俺に手を振って学校へと出て行くのだった。
俺は心の中で2人に
(ありがとう・・・。少しでも俺の力になってくれようとしてくれた2人の気持、俺は忘れない。きっと立ち直るよ。だから、もう少しだけ、俺に時間をくれ。2人の思いはきっと無駄にはしないから・・・。)
そう言うと、再び俺は瞬との思い出に向き合いつつ、1日を過ごすのだった。
この後も次々と俺の家へとやってくる来客の事を知らないまま・・・・・・