バレンタイン以降、俺達はある程度判明した組織の実情と本体を探るべく、あの後も情報収集を続けていた。
それと同時に、徐々に奴らの組織の末端を潰しつつ、連中への包囲網も狭まってきている事を実感していた。
俺は更なる追撃を行うべく、氷室君や瞬坊らと共に、シャドウの本部や非村の居場所を探っていた。
それは、あの事件が起こる少し前の事だった。
「すいません、少し遅れました。龍也さん、話はいつもの所でいいですかね?」
そう言って、瞬坊は俺にレゾンへと来て欲しいと俺に言う。
俺は瞬坊に頷きで返しつつ
「ああ。今回は氷室君も一緒なんだったな?少しは成果が出た、と見て良いという事だな?」
そう尋ねると、瞬坊も頷いて
「はい。どうやら本体へと切り込むきっかけとなるかもしれません。氷室と共にこの事を龍也さんにも伝えて今後の対策を練ろうと思っています。」
俺はその言葉に頷いて
「よし、それじゃ話を聞かせてもらうか、行くぞ?瞬坊。」
俺の言葉に瞬坊も頷いて、俺達は氷室君の待つレゾンを目指した。
そして、店につき、店内へと入ると、そこには俺達を待っていた氷室君達が、俺達に気付いて手を振っているのが見えた。
俺達はそれを確認すると、氷室君達のいる席へと向かった。
「やあ、龍也さん、瞬一君。わざわざすいません。」
「お久しぶりです、龍也さん。それと、そっちの奴は会うのは今回初めてだったな。」
そう言って挨拶してきたもう一人は、以前の組織の末端のまとめ役であり、組織との連絡係でもある秋吉を捕まえる時に協力してもらった坂上君だった。
「2人とも久しぶりだな。氷室君に坂上君。今回は俺の方も、この一件に協力してくれている牧村の人間を連れて来た。氷室君は知ってると思うから、坂上君に紹介する。彼は牧村道場の元継承者である牧村瞬一君だ。よろしく頼む。」
俺がそう言うと、瞬坊も坂上君に
「初めまして、だな。今回の事で協力させてもらってる牧村瞬一だ。坂上君、君の事は氷室から聞いてるよ。彼の信頼厚い男だそうだな。これからの事をやるにつけ、君とも上手くやっていきたいと思っている。1つよろしく。」
そう言って握手の為に手を出す瞬坊に、坂上もじっと瞬坊を見ていたが、やがて、同じように手を出して握手すると
「成る程、氷室から聞いていたが、元武術家というのは本当みたいだな。どうやら足を悪くしてしまってるらしいが、それでもその面影は感じ取れる。こちらこそよろしく頼む。あんたの情報収集能力はうちでも買ってる所だからな。」
そう言って握手を交わす2人を見届けて、俺も席へとついた。
席につくと、早速俺達は今回の件に関する情報交換を開始した。
「さて、今回龍也さんにわざわざ来てもらったのは、僕達の方でも組織の事について動いていた結果に関して報告しておく事があったからです。」
その氷室君の言葉に俺は頷いて
「ふむ、と、いう事は何らかの進展があった、という事なのか?」
その言葉に今度は坂上君が
「ああ。徐々に何だが、現組織の幹部連中が捕まり始めてる。それによって奴らの勢力が弱まり始めている、そういう事さ。」
そして、その坂上君の言葉の後に氷室君が
「最近になって、何人かの幹部クラスが捕まるようになってきました。最初は末端の連中だけでしたが、徐々に小さい所は消滅の一途を辿っているようです。現にあれ以降、末端の奴らをほとんど確認できなくなってきています。今はそれよりも上の連中が係わる所と変わってきている、そんな感じです。それでも、まだ奴らの力をそぎきれているわけではないので、そこから更に深い部分を見据える必要があります。」
氷室君の説明に頷いて俺は
「成る程な。いよいよ中堅どころが引っかかるようになってきた、と言う所か。」
そう言うと、その言葉に瞬坊は頷いて
「そうなりますね。そして、中堅連中を締め上げるうちに、組織の全容も徐々にですが、明らかになってきています。どうやら、捕まえた幹部の1人が口を割った時に聞いた話ですが、組織は3部構成に分かれているらしいとの事です。まず、俺達の捕まえてきた末端連中。奴らをブロンズシャドウと呼んでいるらしいですね。そして現在捕まり始めている中堅どころがシルバーシャドウ。そして、俺達の目指す組織の本体、それがゴールドシャドウという連中らしいです。ブロンズやシルバーと違い、ゴールドはわずか数人の少数精鋭で本体を名乗っているとの事、そこには荒事にはめっぽう強い連中が控えているという事らしいです。」
俺はその瞬坊の説明に頷きつつ
「成る程な。最後のゴールドを潰す事ができれば、この戦いは終わらせられる、って事か。」
俺の言葉に3人が頷いて
「そうなりますね。そして、もはやブロンズレベルは壊滅状態ですので、それほど心配はしなくてもいいでしょう。問題はシルバー、ゴールドの連中ですね。奴らに関してはまだ全てが判明していませんので居場所も未だに手探り状態と言えます。」
「だが、俺達の睨んだ所では、シルバーもそれ程人数はいないかもしれない、という事と、そのシルバーの中にちょいと聞き覚えのある奴がいるらしい、という事実が判明したのさ。」
「そう。彼の言う通りです。俺も最初はその情報に辿り着いた時には目を疑いましたがね、そこにいた奴というのが”成神章”でした。」
俺は瞬坊の言葉に驚いて
「なんだと?ここでその名前が出てくるなんて・・・あいつは君らの見立てでも小物だという事だったはずだな?そんな奴が上に行けたとは驚きだ。」
俺の言葉に瞬坊は苦笑しながら
「確かに人間的には小物です。しかし、奴はその狡猾さでシルバーに登ったという噂を聞きました。人に取り入る、自分の為に様々な策を弄する所はあの時代からも非凡な所がありました。それを活かしたのだと思います。」
俺はその言葉に考え込みつつ
「成る程な・・・。どうやらこれは、まだまだ時間がかかりそうな問題のようだ。なら、これからは更にそこの所に関する情報を中心に探っていく方向で行こう。3人とも、更なる調査をよろしく頼む。」
俺の言葉に3人は頷いて
「任せて下さい。きっと突き止めて奴らを叩き潰して見せますよ。」
「ま、俺らに逆らった連中には痛い目を見せてやらなきゃな。」
「俺は直接戦う事は出来ないが、情報収集に関しては任せてくれ。きっと役に立ってみせる。」
そう言う3人に俺は一応、老婆心で
「くれぐれも気をつけろよ?最近の奴らの動きは少し不穏さがましてきているように感じる。油断をしてれば俺達も寝首を掻かれる、という事になりかねないからな。それに、そろそろ連中も死に物狂いになってくるだろう。自分らの身辺には細心の注意を払うようにな。」
そう伝えると、3人共俺に
「大丈夫です。油断はしませんよ。それじゃ僕達はこれで。行くぞ?坂上。」
「あんたの忠告はよく心にとどめておくぜ?それじゃ行くか、氷室。」
「俺も油断はしませんよ。それじゃ俺も更なる情報収集にまわります。」
そう言うと、それぞれがそれぞれにすべき事をする為に店を出て行く。
俺もまた、自らの足で動くべく、店を後にしたのだった。
非村side
奴らとの戦いにおいて、戦力は十分に整えておきたかったが、ここの所は奴らに先手を打たれる事が多くなり、組織も大分当初よりも力を弱めている。
それもこれも、龍神の連中の所に力強い助っ人が加わり、我らの行方を探り出したからに他ならない。
そして、忌々しいがその結果は確実に現れて来ていた。
私は、組織のゴールドシャドウの面々を集め、緊急の対策会議を行う事にした。
「さて、今日集まってもらったのは他でもない。最近の奴らの動きと、我々の組織力の弱体化が進み始めている件についてだ。そこで、今後の対策をどう取るか、それを話し合いたいと思う。まずは現状の報告を聞こう。柳沢、よろしく頼む。」
私は、ゴールドシャドウの中でも指折りの情報担当者である柳沢聡(やなぎさわさとる)に現状の報告を頼む。
その声に答えるように柳沢は、報告書を手に立ち上がって現状の報告を開始した。
「は!それでは、現状の報告をしたいと思います。ブロンズ連中の取りまとめたる秋吉が捕まり、そこからブロンズ全体、そして、ここ最近ではシルバーの領域にも連中の手が入る有様となってきました。その所為もあり、我らの戦力は相当の痛手を受けているとの事、そして、奴らの中にもかなりの情報収集の能力を持つ者がいるようで、そいつを中心に我々の事が調べられているという事です。下手をすればそう遠くないうちに我々に辿り着かれる恐れも出てきています。奴らと渡り合う為にはこれ以上の戦力ダウンは避けたい所、今回はこの件を如何にするべきかを話し合いたいと思います。」
その報告に私は頷き、柳沢に「ご苦労、座ってくれ。」そう促すと、柳沢も頷いて自分の席へとつく。
そして、全員を見回しながら私はこの場にいる12人に声をかける。
「さて、現状はこういう事になっている。ここにいる皆に今後の対策について意見を出してもらいたい。」
そう言うと、まず12人のうちの2人目である山城仁(やましろじん)が立ち上がり声をあげる。
「現状、シルバーのこれ以上の減少は防がねばならんだろう。それゆえに今後はシルバーの居場所をこれまでよりも分かりにくくして極力奴らを守り、戦力ダウンを食い止めねばならん。」
そして、次に立ち上がったのは12人のうちの3人目、シルバーの取りまとめと連絡を唯一取り合う男、真崎修(まさきおさむ)だった。
「すでにそちらの方は対策はしてある。今後はそう簡単には尻尾はつかまれないはずだ。だが、これだけでもまだ心配はある。こちらの方は任せてもらいたい。」
そして、そんな真崎の言葉の後に立ち上がる4人目は神崎流(かんざきながれ)の一人息子で龍神流にかなりの恨みを持つ神崎隆人(りゅうと)だった。
「その対策も重要だが、後もう1つやらねばならない対策もあるだろう?そっちはどうするんだ?」
その言葉に私は神崎に
「やらねばならない対策?それは何だ?」
私の言葉に神崎は”ふん”と鼻を鳴らして
「今の現状、情報を集められている不利の打開策ですよ。非村さん。俺はそこを押さえるべきだと考えるが?」
その言葉に私は成る程と頷いて
「確かにそれも重要だ。その事に関してここにいるメンバーに何か妙案はないか?」
そう問い掛けると、5人目の黄瀬孝(おうせたかし)が
「それならば1つ良い方法があるぞ?」
その言葉に私は黄瀬に
「その方法とはなんだ?言って見ろ。」
そう言うと、黄瀬はニヤリと笑って
「その情報収集のエキスパートとやらを消す、という事ですよ。非村さん。」
その言葉に私は眉をひそめて
「消す?つまり、暗殺か。確かにそれが出来れば我々を探る力も大分落とせる事にはなるが、その分リスクもあるだろう?下手な真似をすれば、自らの首を締めかねん結果になるだろう。」
その私の言葉に黄瀬は
「確かに、やり方を間違えればこちらにとってもマイナスとなります。だが、方法はあります。その為にシルバーの1つを潰す事になりますが、試してみますか?非村さん。」
黄瀬の言葉に私は少し考え込んでいたが、とりあえずはその方法を聞こうと思い、黄瀬に
「とりあえず話してみろ。どうするかはその後だ。」
そう言うと、黄瀬は頷いてその方法について語り始めた。
「シルバーの中に、シノギも大分落ち込んでいるグループの1つがあります。そのグループの纏め役の男に奴を暗殺させるのです。最近のシノギが落ち込んでいる事で奴は大分焦っているとの事、この件が成功すれば落ち込んでいるシノギの分は不問にすると言えば、奴はその為に必死でやる事でしょう。よしんば奴がしくじって捕まったとしても元々切り捨てる予定の連中です。こちらの腹は痛みません。そして、成功しても、すぐに奴を始末すればいい話です。その為に奴にはニセの連絡先を設け、そこでやり取りをさせます。それも、奴と同じ組の連中を連絡係に立てて、ですね。そして、いつでもそちらも切り捨てるようにしておけばいいでしょう。」
その言葉に私は二ヤリとしつつ
「ふむ。成る程、いい方法だ。それで?そのヒットマンの役をやらせる男の名前はなんというのだ?」
私の言葉に黄瀬は手帳を取り出して名前を確認して私に告げた。
「その男の名前は成神章です。」
その名前を聞いて私は頷くと、全員に
「よし!この策を持って情報収集の要を潰し、我らの勢力を取り戻す!そして、必ずや龍神とその連合を潰すのだ!これより作戦を開始する!!」
そう号令をかけると、全員頷いてその場を去る。
私はそれを見届けて、次の一手を摸索するのだった。
成神side
俺は、中学を一足遅くに卒業し、色々な場所を巡ってきた。
そして、色々見て回っていくうちに俺はある組織と出会った。
それが、俺が現在所属するシャドウだった。
巧妙に頭を使い、口八丁手八丁でシルバーまで登りつめたのはいいが、そこからまたしても牧村達に邪魔される事となった。
奴とは中学時代からの因縁もあり、更にはこの組織はもう1人俺の憎む相手、森村慶一とも係わりがあるらしいと知った。
俺は、それを知り、憎しみを持ちつづけながらもシノギを続けてきたが、最近はそれも落ち込んでしまい、この組織に居る事もかなり危険な状況になってきたようだった。
この状況を如何にすべきか悩んでいた時、俺の携帯にゴールドからの連絡が飛び込んで来た。
俺は慌てて電話を取り、ゴールドと話す。
「もしもし。成神です。今日はどういったご用件で?」
と、おそるおそる尋ねてみると、電話の向こうから
「君が成神か。君に頼みたい事がある。君の同級生である牧村瞬一の事は知っているな?非村さんからの指令だ。奴を消せ。それが出来たなら、最近のシノギの落ち込みの件は不問にしてやろう。それだけじゃない、君をゴールドに取り立ててやる用意もある。悪い話ではないと思うが?」
その言葉と出てきた名前に驚愕する俺だったが、それ以上の、最近のシノギの落ち込みが不問になる事と、ゴールドへの取り立てという言葉が俺を激しく揺さぶった。
「その話、本当でしょうね?本当に俺をゴールドに?」
俺の言葉にゴールドの男は
「ああ。それは間違いない。それを実行するという事はそれだけの重要な価値があるという事だ。お前は確か、車は乗れたな?」
そう聞いて来た男に俺は
「はい。みようみまねで練習して、乗り回して、最近はすっかり運転もできるようになってます。」
そう言うと、ゴールドの男は
「うむ。それならいい。暗殺には車を使おうと思っていたところだからな。その車はこちらで用意する。準備が整い次第実行に移せ。それとくれぐれも言っておく。失敗したらお前の命も保証はしない。しかし、成功すれば、わかるな?」
俺はゴールドの男の言葉に薄ら寒いものを感じつつも
「わ、わかりました。その代わり成功した時には、先ほどの話、忘れないでくださいよ?」
そう言うと、ゴールドの男は電話口で笑うと
「分かっている。お前は失敗さえしなければいいのだ。それと、連絡はこっちから行うからそっちからは取れん。どうしてもという場合はお前の所に立てている連絡係を頼れ。そいつに頼めば取次ぎも可能だ。」
その言葉に俺は
「わ、わかりました。それでは次の指令が来る時を待っています。」
そう俺が言うと、ゴールドの男は
「わかった。おそらく次に電話を入れた時が実行の時となるだろう。それまでは奴の身辺を洗って、行動パターンを押さえておけばいいだろう。では、今回はこれで切る。最後に1つ。決して逃げよう等とは考えるな?もしもそんな真似をすれば、お前の明日は保証しない。」
その言葉に俺は、背筋に冷たいものが走る感覚を覚えつつ
「わ、わかっています・・・それでは・・・これで。」
そう言って電話を切ってからしばらくして俺は、事の重大さを改めて感じる事となった。
しかし、逃げる事も、しくじる事もかなわない俺は、次第にその心が追い詰められていく感じを味わう事となったのだった。
そして、それから1ヶ月近くの間、俺は迫り来る実行の日を待ちながら怯える日々を過ごしていた。
その緊張が限界に近くなった時、俺の携帯に計画の実行を促す電話がかかってきたのだった。
俺は張り詰めすぎた状態のままで促されるままに車に乗り込み、この一ヶ月で調べてきた奴の行動パターンを確認し、覆面を被って奴の通る場所付近で車を待機させてその時を待った。
俺は車の中で(ついにこの時が来たか・・・こええ・・・けど、成功すれば俺は・・・だけど、失敗したら俺には明日はない・・・やるしか、やるしかないんだ・・・お前らが悪い・・・お前らさえ奴らの事を探り、焦らせなければ俺はこんな真似しなくても済んだんだ・・・だから、恨むなら、自分達の行動を恨め・・・俺は悪くない・・・俺は悪くない・・・俺の為に・・・死んでくれ!!)
そして、俺は奴の姿を見つけて、ほぼ半狂乱な状態で車をスタートさせて奴の所に突っ込んだ。
そして、俺の車に気付いた奴は目を見開いて驚きながらドカッ!!という音とともに跳ね飛ばされた。
奴の荷物がぶちまけられる。
俺は即座に荷物の所へと行くと、奴の持っていた端末を破壊してすぐさまその場を車で走り去った。
瞬一side
あれから1ヶ月以上の月日が経ち、俺はある所からシルバー連中が捕まりにくくなった現状に焦りを感じ、必死で情報収集を続けていた。
だが、今回捕えたシルバーから運良くゴールドに関する情報が手に入った。
それは、ヒントみたいなものではあったが、確実に奴らに近づく手掛かりになるものだった。
俺はそれを自らのパソコンに保存をして持ち歩いていたが、俺は気付いていなかった。
もう、この先俺が情報収集にあたる事はできなくなる事を、そして、2度と慶一や皆と会えなくなる事を。
そして、それは、世間でもゴールデンウィークが始まる一週間前、午前3時頃に俺がコンビニに夜食を買いに行った時の帰りに起きた。
突如背後から、無灯火の車が俺の所に突っ込んできた。
俺はこの足のせいもあり、車を避けることができなかったので、そのまま車に跳ね飛ばされ、持っていた荷物をその場にぶちまけられた。
そして、出血の影響で朦朧とした意識の中で、俺は車から降りてきた覆面男の姿と、俺の端末を踏み壊すそいつの姿が目にはいり、更にそいつが俺の側で
「・・・が悪いんだ、お前さえいなかったら・・・お前さえいなかったらっ!!」
そう言うと、踵を返して車に乗り込んでその場を逃走した。
それを見送ってから俺は、その体で自分の荷物の所へはいずっていって鞄の中にあるメモリースティックを取り出して確認すると、それが壊れていない事にほっとしてそのまま意識を失った。
そして、それから少しして誰かが通報してくれて、俺は救急車に乗せられて病院へと運び込まれた。
俺の事を聞きつけて龍也さん達が病院へと駆けつける。
龍也さん達は俺の姿を見ると慌てて側に寄ってきて
「瞬坊!しっかりしろ!大丈夫か!?一体何があった?」
「牧村君!大丈夫か!?」
「ちっ!何が起きたってんだ!!誰がこいつをこんな目に!!」
そんな3人に俺は途切れ途切れに
「・・・龍也・・・さん・・・氷室・・・坂上・・・や・・・奴ら・・・だ・・・俺を・・・消す為に・・・俺を狙って・・・や、奴は・・・俺の端末を必死に壊していた・・・おそらく・・・これ以上探られる事は・・・奴らにとって・・・も・・・まずい事・・・だったんだと思う・・・お・・・俺は・・・もう駄目です・・・た・・・龍也さん・・・こいつを・・・奴らの嫌がるデータは・・・万が一を考えてこれに・・・移してあります・・・ごほっ!げほっ!!はあ・・・はあ・・・どうか・・・これを使って・・・奴らを・・・どうか・・・そして、俺の仇を・・・。」
そこまで言うと、龍也さんは俺からメモリースティックを受け取ると
「・・・すまん・・・お前の足の事、もっと考えるべきだった・・・今回の事は完全に俺のミスだ・・・すまん瞬坊・・・任せろ、こいつはきっと役立てる。お前の仇もきっと取ってやるからだから、もうしゃべるな。」
俺にそう言ってくれ、氷室達もまた悔しそうな表情で
「牧村君、済まない、僕ももっと君に気を使うべきだった。この事は僕達のミスでもある、本当に済まない・・・君の仇は僕達も取ってやる・・・それが僕のしなければならない事だ。」
「この一ヶ月あんたにはずいぶん助けられたぜ。安心しな、きっと俺達があんたの仇を取ってやるよ。」
そう言ってくれた。
俺は最後の力を振り絞って
「・・・龍也さん・・・氷室・・・坂上・・・頼みがある・・・慶一の・・・親友の事だ。あいつには俺の為に復讐者という業を背負って欲しくない・・・だから・・・あいつには本当の事は・・・言わないでおいてくれ・・・そして、慶一に・・・すまないと・・・言っていたと・・・伝えておいて下さい・・・それと・・・龍也さん・・・こなたちゃんにだけは真実を話して・・・事が片付くまでは警戒して欲しいと・・・伝えて下さい・・・さ・・・最後に・・・龍也さん・・・氷室・・・坂上・・・短い間だったが・・・お前らとつるめてよかったよ・・・た・・・たの・・・む・・・きっと・・・奴らを・・・叩き潰して・・・くれ・・・それと・・・親父達にも・・・済まないと・・・伝えておいてください・・・お願い・・・します・・・。」
それが、俺がこの世で最後に言った言葉となった。
龍也side
突然の瞬坊の事故の報を聞いた俺達は、大急ぎで瞬坊の担ぎこまれた病院へと向かった。
そこで目にしたのは、全身に酷い怪我を負い、もはや命の灯火もつきかけている瞬坊の姿があった。
瞬坊は俺に最後の力を振り絞り、瞬坊の持っていたデータのバックアップが入ったメモリースティックを手渡してくれた。
そして、慶一の事、やつらの事、みんなの事を俺達に託して瞬坊は息を引き取った。
それを見た瞬間俺は力任せに床を殴りつけていた。
「・・・そったれ!ちくしょう!!何で俺は気付けなかった!何で俺は瞬坊の体の事を考慮してなかったんだ!!ちくしょう!!」
そうやって何度も床を叩いている時、俺の側で血が滴るのが見え、俺はまだ冷めやらぬ頭でその方向に視線を移すと、鬼のような形相で拳を血が出る程に握り締めた氷室君と、相当に不機嫌そうな坂上君の顔が見えた。
そして、2人は俺に
「龍也さん。慶一君に連絡を取ってやってください。これから俺達はすぐさま動きます。牧村君を轢き逃げした犯人を探し出します。」
「何かわかったら連絡する。あんたは牧村の側に居てやってくれ。いくぞ?氷室!」
「ああ!絶対に許さない・・・奴らを・・・潰す!!」
そう言って出て行く2人に俺は
「済まない、2人とも。俺も体制が整い次第、君らと共に奴らを探す。それまでは頼らせてもらう。」
そう言うと、2人とも手を振って応えてくれた。
俺はそんな2人を見送ってから、自分を冷静にする為に少し時間をおいた後、慶一の所へと連絡しようとした矢先、慶一の方からこちらに連絡が入った。
慶一はどうやらニュースでその事を知ったらしいとの事、俺は慶一に真実を<隠すべき所は隠して>伝えると、慶一はすぐにこちらへと来るとの事だった。
俺は慶一がどんな顔をするだろうかと憂鬱になりながらも、慶一の到着を待った。
しかし、その頃に、更に恐るべき事が実行に移されている事を、この時の俺達は知らなかった。
成神side
任務を成功させて俺は、車を廃棄する場所へとやって来ていた。
その場所へとやってくると、そこには見慣れない男が立っていて、俺を手招きして
「成神、こっちだ。よくやったな。車は今処分する。さあ、疲れただろう、ご苦労だった。これを飲んで落ち着くといい。」
そう言ってその男は俺に、ホットコーヒーを渡してくれたので、俺はそれに口をつけた。
「ふう。美味いです。わざわざありがとうございます。」
俺はとりあえずその男に礼を言うと、その男は二ヤリと笑って
「なあに、大仕事をしてもらったんだ。この程度は何てことはない。さあ、車の処分は終わったぞ。さて次はお前の番だな。」
その男が何を言っているのか一瞬理解できなかった俺だったが、すぐに物凄い眠気が俺を襲ってきて俺はその場に倒れた。
そして、それが俺の最後となった。
黄瀬side
首尾よく任務を果たした成神を、車の処分工場へと誘導し、車を処分させた。
だが、我々にはもう1つやるべき事があったのでそれの実行の為に成神に大量の睡眠薬入りのコーヒーを飲ませる。
そして、意識を失った成神を、あらかじめ奴に書かせたダミーの遺書と共に奴の隠れ住むアパートへと連れて行き、布団を敷き、そこに成神を寝かせ、遺書を枕もとに置くと、全ての証拠を隠滅して本部へと戻った。
「ふふ。これでいい。牧村瞬一は事故死、そしてその犯人もまた、恨んでいたとはいえ牧村を殺した事を悔やんで自殺。これで我らにとっての邪魔者も始末ができた。まさに一石二鳥だ。情報源を失った奴らの慌てる顔が目に浮かぶようだな。よし、後は非村さんへの報告だ。」
俺はそう呟いて本部へと帰還した。
決着はかなり近い所まで迫っている。
来たるべき戦いの予感を、双方共に感じ取っていたのだった。