らき☆すた〜変わる日常、高校生編〜   作:ガイアード

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思い出作りの旋律~箱根温泉旅行2日目前編~

2年生最後の春休みも始まり、俺達は、当初の計画通りに温泉旅行2泊3日の旅へと出発する事となった。

 

出発日前日に、集合場所に遅れたくないという理由で俺の家に押しかけてきたこなたを受け入れて、夜中までどたばたしつつも、当日はこなたも遅れずに来る事が出来た。

 

そして、予定通りに集合を果たした俺達は電車へと乗り込み、一路、龍兄の叔父さんの経営する草薙亭を目指す。

 

電車内での軽い席取り争奪戦等もありつつも無事に目的地へと辿り着く俺達。

 

そこでは俺にとってもゆたかからの嬉しい報告もあった。

 

その後は温泉に浸かり、のんびり食事も済ませて自由時間を満喫し、次の日の予定に思いを馳せつつ眠りに着く俺達だった。

 

そして、次の日の朝・・・・・・

 

「うおおおっ!な、なんじゃこりゃー!!」

 

と叫ぶ龍兄の声に驚いて飛び起き、俺は龍兄に

 

「ど、どうした、龍兄。何かあった・・・」

 

そこまで言いかけて俺は絶句する。

 

何故なら、龍兄の布団にいつのまにかまつりさんといのりさんが潜り込んで一緒に寝ていたからだった。

 

俺は半ば頭を混乱させつつ龍兄に

 

「た、龍兄・・・これは・・・一体どういう事なんだ?」

 

そう訪ねると、龍兄は訳が分からないという風で

 

「お、俺にもさっぱりだ・・・気付いたら2人が俺の布団の中にいたんだよ・・・。」

 

その龍兄の返答に俺も困惑顔で龍兄以外の2人を見ていたが、俺達2人の話声で2人が目を覚まして

 

「・・・ふ、ふあ~あ・・・んー・・・おはよう、龍也さん、森村君。朝から騒がしいけどどうしたのー?」

「ん・・・んん・・・うーん・・・ふああ・・・おはよう、龍也さん、森村君。もう朝ー?」

 

そんな2人に俺と龍兄は呆れつつ

 

「おはようございます、は、いいですが、まつりさん、いのりさん、2人して何やってるんですか・・・。」

「ま、まったくだ・・・突然2人がいたから驚いたよ・・・。でも、どうやって部屋に入ったんだ?各部屋に入るには鍵が必要なはずだよな?」

 

その言葉にまつりさんといのりさんはぺろりと舌を出しながら

 

「えへへ。実は、龍也さんの叔父さんにご挨拶した時に龍也をよろしく、と言われてこっそり龍也さんの部屋の鍵を貸してくれたんですよね。」

「それを知った私はまつりが抜け駆けして変な事をしないように、って、まつりを監視する為に一緒にこの部屋に来てそれで・・・」

 

龍兄は呆れたように重いため息をついて

 

「俺の布団に潜り込んで寝た、と?」

 

その言葉に頷く2人を見て龍兄は困ったような顔をして、俺は俺で苦笑していた。

 

そんな2人に龍兄は

 

「・・・まったく・・・自重して下さいよ?2人とも。俺を慕ってくれている事は嬉しいですが、見境なくこんな事をやられては困ってしまいますよ。2人とも物事の分別はつく年頃なのですから、自分の行動には責任を持ってですね・・・・・・。」

 

そんな風に2人に説教する龍兄を見て軽いため息をつきつつ、俺はとりあえず顔を洗って来ようと思い、部屋の外へ出たのだった。

 

部屋にも洗面所はあるのだけど、あの状況のままでのん気に部屋で顔を洗ってはいられないなあ、と思ったので、俺は外のお手洗いに近い場所に設置してある洗面所へと向かう。

 

そして、俺はそこで4人に声をかけられる事となったのだった。

 

「おはよう、慶一くん。今朝も早いわね。今から顔洗う所?」

「おはようございます、慶一さん。今朝もお早いですね。私達も顔を洗いに来たところなんですよ。」

「おはよう、慶ちゃん。昨日はよく眠れたわ。私達だけ先に起きたから柊ちゃんと高良ちゃんと3人でここに来たんだけどその途中でやまとちゃんにも会ったのよ。」

「おはよう、先輩。いつもながら感心するわね。今峰岸先輩が言った通りで途中で行き会って一緒に来たのよ。」

 

と声をかけてくれる4人に俺も挨拶を返す。

 

「おはよう、かがみ、みゆき、あやの、やまと。そういう事だったのか。俺も顔を洗いに来た所なんだよ。」

 

そう返すと、やまとが何かを思い出したみたいで俺に

 

「そうだったの。あ、そうだ、先輩。まつりさんといのりさんを見なかったかしら。朝起きた時に部屋にいなかったからどうしたんだろう、って思ってて・・・。」

 

やまとのその言葉にかがみが反応して

 

「え?姉さん達が?それって昨日から?永森さん。」

 

その言葉にやまとも頷いて

 

「それが・・・寝るときまでは一緒にいたんだけど、それから2人が部屋を出て行ったような気配を感じた後、何気にお手洗いに起きた時に2人の姿がなかったことに気付いたのよ。」

 

その言葉にかがみは少し心配そうに

 

「うーん・・・どこいったのかしらね・・・ともかく、顔洗ったら姉さん達を探してみるわ。」

 

そう言うかがみにみゆきとあやのも

 

「そんな事が起きていたんですね?心配ですね・・・。」

「2人とも、それなりに大人だし、行動はわきまえているとは思うけど・・・柊ちゃん、私も手伝うわよ?」

 

と言う2人にかがみも頷いて

 

「ごめん、2人とも。私の身内の事で迷惑かけちゃって・・・ねえ、慶一くん。慶一くんも手伝ってくれないかな?」

 

俺に向き直り、そう言うかがみに俺は、バツの悪そうな顔をしながら

 

「・・・あー、かがみ。その事なんだが、俺は2人の居場所を知ってるんだ。」

 

そう切り出した俺の言葉に驚いたかがみは、俺に詰め寄って

 

「え?どういう事なの?慶一くん。姉さん達の居場所を知ってるって・・・。」

 

そんなかがみの剣幕に3人も心配そうにこっちを見ていたが、俺はかがみに言いにくそうに

 

「うん。まあ、聞いたら呆れると思うけど、実はな・・・・・・という事なんだ。」

 

俺の言葉を聞いたかがみはしばし呆然としていたが、やがて

 

「・・・まったく、姉さん達はー・・・身内の恥晒して何やってんのよ!まったく!!慶一くん。悪いけど、私先に姉さん達の所へ行くわね?それじゃ後でね、慶一くん。」

 

そう言って走り出すかがみに俺は

 

「かがみー!出来れば穏便になー!」

 

そう声をかけたが、かがみはそんな俺の声が届いてないかのような勢いで俺達の部屋へと走っていった。

 

それを見送った俺達は苦笑しながら

 

「うーん、かがみの家の人達はパワフルだなあ・・・。」

「すごい行動力ですね・・・でも、大事にならなくて良かったです。」

「あの2人の行動力は時にすごいわよね・・・龍也さんも災難ね・・・。」

「かがみ先輩もあれだけの行動力を出せるって事なのかしら・・・でも、ひとまずは安心かしらね・・・それにしても、先輩も苦労するわね。龍也さんもだけど・・・。」

 

やまとの言葉に俺は苦笑しながら

 

「うーん、龍兄は特に、かもしれないな・・・あの2人との争奪戦は激しそうだよ・・・。」

 

そう呟くと、3人ともうんうんと頷いていたのだった。

 

それと同時に、みゆきとやまとに意味深な視線を向けられていたのだが、俺がそれに気付かずにいると、あやのはそんな俺を見ながら軽いため息をついていたのだった。

 

そうして、洗顔を終えた俺達が軽く雑談をしている所にゆたかとみなみ、そして、2人の姉に説教を終えてきたらしいかがみが俺達と合流する。

 

「おはようございます、先輩。海の時もそうでしたけど、朝早いんですねー。」

「・・・おはようございます。私も早い方ではありますけど、先輩にはかないませんね・・・。」

 

という2人に俺達も挨拶を返す。

 

そして俺は6人に

 

「丁度良いや。6人とも、俺に付いてきてくれ。今の時間なら綺麗に見えるだろうからな、俺達だけの特別な場所に連れて行ってやるよ。」

 

俺の言葉に6人とも首を傾げつつ

 

「特別な場所?それって?」

 

かがみが代表で俺に聞いてくると、俺は頷いて

 

「うん。俺と龍兄だけが叔父さんに許可されてるとっておきの場所があるんだ。そこに今から皆を連れて行くよ。」

 

その言葉にかがみたちは期待の眼差しを俺に向けつつ、移動を始めた俺の後についてきた。

 

そして向かった先は、関係者以外立ち入り禁止の旅館の屋上だった。

 

「さあ着いたぞ、ここだここだ。」

 

そう言いながら俺は屋上のドアの鍵を開ける。

 

そして、みんなを伴い屋上へと出ると、そこには富士山を目の前にした大パノラマが広がっていた。

 

「うわー・・・きれーい・・・。」

「素晴らしい眺めですね・・・これは美しいです・・・。」

「まさに絶景ポイントってやつね。そうだ、携帯のカメラで写真取っておきましょう。」

「いい眺め・・・先輩、素晴らしいわ。」

「綺麗だねー、みなみちゃん。」

「・・・そうだね、ゆたか・・・こんな眺めはめったに見れないね・・・。」

 

皆それぞれに感想を漏らしていたの聞いて俺は、ここに連れて来たことは正解だったなと思い、景色に見とれる皆を見つつ、俺もこの景色を楽しんでいた。

 

「お前らやっぱり運がいいよ。この時期なんかも結構霧もかかりやすいから、こんな風にはっきりと景色が見える事もそうそうないからな。」

 

そんな俺の言葉に皆も景色を凝視しつつ頷いていた。

 

そして、しばらく景色を楽しんだ後、俺は皆に

 

「みんな。ここに来てみたくなったら俺に言ってくれればいいよ。いつでもここの鍵は開けてやるからさ。」

 

その言葉に皆も嬉しそうな顔で頷いたのだった。

 

景色を楽しんで俺達は朝御飯を食べに部屋へと戻ると、丁度よく朝御飯が部屋へ運ばれてきた所だった。

 

そして、俺も部屋に帰ってた時には、すでにまつりさんといのりさんも自分達の部屋へと帰っていたようだった。

 

俺は龍兄に

 

「龍兄、さっきかがみがまつりさん達に説教しにこなかったか?」

 

そう訪ねると、龍兄は苦笑しながら俺に

 

「ああ、すごい剣幕でかがみちゃんが飛び込んできてな。それはもう凄かったぞ?その後でかがみちゃんが俺に散々謝り倒していったが、あのかがみちゃんの姿を見てると不憫になったから俺は特に気にはしてないと言ってあげたけどな。それに、まつりさん達も大分落ち込んでいたようだしなあ・・・。」

 

そう説明してくれたのだが、俺はそのシーンを想像した時、ただただ複雑な笑みを浮かべる事しかできなかった。

 

そして、朝食を済ませた俺達は、今日の予定の話し合いも兼ねてロビーに来ていた。

 

俺の姿を見つけたこなたが俺の所にやってきて

 

「ねえねえ、慶一君。さっきかがみから聞いたんだけどさ。特別な場所ってのがあるって話じゃん?慶一君に頼めばそこに連れてってくれるの?」

 

そう聞いてきたので俺は頷いて

 

「ああ。行きたいんなら俺に声かけてくれれば何時でも案内してやるよ。」

 

その言葉にこなたは笑顔になって

 

「ほんとー?なら今日の自由時間から戻ってきたらお願いしようかな?いいよね?慶一君。」

 

俺はそんなこなたの頭をぽんと叩いて

 

「いいけど、その時には俺に声かけてくれよな。ところでこなたは今日はどうする予定なんだ?」

 

こなたに今日の予定に関して聞いてみると、こなたは

 

「今日はちょっとかがみ達と色々歩いて回ってみよう、って思ってね。慶一君はどうするの?」

 

こなたがそう訪ねてきたので俺は

 

「俺は叔父さんの手伝いも兼ねて今日は温泉街の散策と買い物だな。その後で時間あったら皆と散歩してもいいかな?って思ってるが。」

 

俺の答えにこなたは少し考える仕草をしていたが、やがて

 

「そっかー。それなら私達が帰ってきたら一緒に行こうよ。」

 

こなたの言葉に俺も頷きつつ

 

「ああ、いいぞ。こなた達もじっくりとこの辺りの自然も満喫してくれ。」

 

俺の言葉にこなたも頷いて

 

「うん。わかったー。それじゃ後でね?慶一君。」

 

そう言ってこなたはかがみたちのいる所へと戻っていった。

 

その後、俺と共にゆたか達が俺と一緒に、そしてこうとやまと、みさおあやのの4人がグループで町の散策をする事となった。

 

龍兄は当然、まつりさんといのりさんと共にデートとなったが。

 

だが俺はこの時はまだ気付いていなかった。

 

この後に起きる、ちょっとした騒ぎの事を。

 

今はまだそれを知らず、俺達はそれぞれの予定に向かって動き出した。

 

慶一side

 

ロビーにて今日の皆の予定を聞き、俺とゆたか達はそろって叔父からの用事のついでで温泉街の散策に行く事となった。

 

「先輩。これからどこへ向かうんですか?」

 

そう聞いてくるゆたかに俺は

 

「叔父さんから頼まれた食材の注文とかをする為に叔父さんがお得意様としてる所へ行くのさ。その後は色々と見て回ろう。」

 

そう言うと、ゆたかも笑いながら

 

「分かりました。それじゃ、行こうよ。みなみちゃん、田村さん、パティちゃん。」

 

ゆたかがそう声をかけると3人とも頷いて

 

「・・・そうだね、ゆたか・・・先輩、付いて行きますから・・・。」

「この辺りの風景も漫画の背景にも最適っスね。色々楽しみっス。」

「このアタリのフウケイも、二ポンというカンジがあっていいですネ。ワタシもタノシミです。」

 

そんな4人に俺も頷いて

 

「うっし、それじゃ行くか。」

 

そう声をかけると、4人とも俺についてきてくれたのだった。

 

町の名所などを案内しつつ、俺はお得意様の店を目指す。

 

道中に、ゆたかが気に入った土産物屋を見つけたようなので、帰りにそこに寄る事となった。

 

そのうちにお得意様の店に辿り着くと、俺はゆたか達に外で待っているようにと伝えて、店の中へ入っていく。

 

そして、お店のご主人と会って、叔父さんからの発注依頼をこなすのだった。

 

ゆたかside

 

私達は、慶一先輩と共に先輩の叔父さんからのお使いとその後に温泉街を見て回ろうという事になり、みなみちゃん達と一緒に先輩について先輩の叔父さんのお得意様のお店へとやってきた。

 

そして、先輩が用事を済ませに行ってる間、私達は雑談をしながら先輩の帰りを待っていた。

 

「ねえねえ、さっきのお土産物屋さん、面白そうだったよね?私今から楽しみだよー。」

 

そう皆に持ちかけると、みんなも頷きながら

 

「・・・あの辺りでは大分目立って見えたね・・・品揃えも豊富そうだし、少し楽しみかな・・・。」

「家の親にもお土産買っていってあげなきゃねー。」

「メズラしいものがホシイですネ。」

 

と口々に言っているのを見て、私もにっこりと笑いながら頷いていたのだった。

 

そうして話していると、突然私達の後ろから声をかけられて私はびっくりした。

 

「ねえ、君達。どこから来たの?暇してるのなら俺達と一緒に遊ばないー?」

「皆可愛い子じゃん?俺達も暇してるからサー、一緒に行こうぜー?」

「退屈はさせないからさ、ねえ、行こうよ。」

「・・・お前らの好きだな、まあ、こちらも4人いることだし、問題ないか。」

 

そうやって声をかけてきた人は、地元の人みたいで、私は男の人にあまり免疫もないので、おどおどしながら

 

「あ、あの。私達、今人を待っていますから。ごめんなさい。」

「・・・私達はここに・・・いなければなりませんので・・・申し訳ないのですが・・・。」

「すいません、フリーではないっスから、他を当たってくださいませんか?」

「アナタ達にツイテいったら、ケイイチがシンパイしますデス。」

 

そう言ってみんなで断ろうとしたんだけど、それを聞いても男の人達は諦めてくれなくて

 

「えー?いいじゃん、君達を待たすような奴なんてほっとこうよ。」

「そうそう。女の子を待たすのは最低の男のする事だよ。」

「俺達だったら退屈はさせないよー?」

「もし心配なら後でその人に連絡いれておけばいいだろう?」

 

そう言って来る男の人達に怯えながらも私達は

 

「わ、私たちの事はほおっておいてください。私達はここを離れるわけにはいかないですから。」

「・・・約束だから、この場所は動けません・・・お引取り下さい・・・。」

「そう言う訳でして、申し訳ないんですが・・・」

「そうデース。あまりしつこいとキラワレますヨ?」

 

最後に言ったパティちゃんの言葉に男の人達はどうも怒ったみたいで

 

「ちっ・・・優しく言ってるうちについてきたほうがいいぞ?」

「そうそう、そうしないと痛い目見せちゃうよー?」

「できれば優しくしてあげたかったけどそういう態度とるんじゃあ、仕方ないよなあ・・・」

「まあ、そういう事だ、これ以上俺達を怒らせる前に大人しくしたがっておけ。」

 

そう言いながら男の人達は私達の手を引いてこの場から私達を連れ出そうとしてきた。

 

私は怖くなって

 

「や、止めてください、離して・・・。」

 

そう懇願すると、それを見たみなみちゃんが鋭い目を向けて

 

「・・・ゆたかに手を出さないで・・・ゆたかに手出ししたら許さない・・・。」

 

そう言って私をかばおうとしてくれて、さらに他の皆にも手出しをしようとしている人達に田村さん達も

 

「ちょ、ちょっと、やめてください!暴力反対っスー!」

「そのケガラワしいテをはなすデス!」

 

そう言いながら抵抗していた。

 

「いいから大人しくしろ・・・っ!!」

 

男の人の1人が私の手を引っ張ろうとした時、ふいにその腕をを握りしめて怖い顔で男の人達を睨みつける先輩がそこにいた。

 

慶一side

 

お得意様との発注交渉をして一通りの用事を済ませた俺は、ゆたか達を待たせていたので手早く明細等を受け取り、店の外へでたのだが、その時にゆたか達の怯えるような声が聞こえたので、俺は慌てて声の聞こえた方へと向かった。

 

すると、嫌がるゆたか達を無理やり連れて行こうとする連中がいて、ゆたかの腕を乱暴に引っ張る男を見た俺は即座にその男の側に近寄り、その腕を握り締めた。

 

「おい!お前らこの子らに何してる。この子らを傷つけるつもりならただじゃすまさないぞ?」

 

ゆたかの腕を引っ張っていた男の腕を取りながら俺は、その他の連中にも睨みを効かせる。

 

「先輩!来てくれたんですね?」

 

涙目の顔を俺に向けてそう言ってくるゆたか。

 

「・・・先輩、ナイスタイミングでした・・・。」

 

俺が来た事に安堵の表情を見せるみなみ。

 

「こ、怖かったっス、先輩・・・」

 

顔に恐怖を滲ませながら俺にそう訴えかけて来るひより。

 

「ケイイチ、タスカリましたデス。」

 

俺の登場にほっとした顔のパティ。

 

そして、俺に腕を握り締められている男が俺に

 

「な、なんだてめえ!いきなり横からしゃしゃりでて来やがって、どういうつもりだ、つっ!それはともかく、この手を離せよ!!」

 

俺の腕を引き剥がせずにうろたえながらそう言ってくる男の腕をいきなり離すと、その男はたたらをふんで仲間たちの方へと倒れ込んでいった。

 

仲間に無様に助けられる男をねめつける俺に他の男達が

 

「てめえ、何者だ。いきなり横から俺達の邪魔しやがって・・・」

「色男もたいがいにしねえと、怪我するぞ!?」

 

もう1人の男もいたが、そいつは俺をじっと睨みつけて言葉を発さずに俺を観察しているようだったが、俺は他の3人の質問に答えてやった。

 

「その子等は俺の連れだよ。だから助けた。お前らみたいな下衆に触れさせるわけにはいかないんでな。」

 

その言葉に気色ばむ男達。

 

「下衆だと、てめえっ!!」

「女の前だからってかっこつけてんじゃねえぞ!!」

「今からてめえをボコってやるから覚悟しろや!」

 

そう言って今にも飛び掛って来そうな男達に俺も身構えると、それまで言葉を発しなかった男が

 

「・・・お前ら待て。お前らじゃこいつには歯がたたない。ここは俺がやろう。」

 

男たちを制しながらそう言うと、男たちは

 

「なっ!、村木さんそれは本当っすか!?」

「あいつ、そんなに強そうに見えないけど?」

「村木さんがそう言うなら、任せますよ、とっととぶちのめしてあの子らを連れていきましょう。」

 

その男たちの言葉に、”村木”と呼ばれた男が頷いて

 

「任せろ、俺も一応は”その道”の人間だからな。相手の力量はある程度読めるつもりだ。おい、おまえ、俺は、村木信也だ。お前の名前を聞いておこうか。」

 

村木信也と名乗る男を見て俺も、奴が只者ではないという事をその身にひしひしと感じられた。

 

だが、同時に、久々の強敵に出会えたことに少しだけ格闘家としてわくわくしてる自分も自覚した。

 

そして俺は

 

「俺は、森村慶一。あんたも中々使えるみたいだな。俺も一応はあんたの言う”その道”の人間さ。あんたみたいな奴と戦りあえるのは楽しみだ。」

 

そう名乗り、そして、静かに構えを取る。

 

俺のそんな構えを見て村木は

 

「・・・成る程な。中々どうして、たいしたもんだ。あんたほどの男なら遠慮はいらなそうだ。」

 

そう言って村木も構えを取る。

 

村木を見据えながら俺は

 

「おい、村木。1つだけ約束しろ。この勝負に俺が勝ったらこの子達には手出しをしないとな。」

 

俺の言葉に不敵な笑みを浮かべつつ村木も

 

「・・・いいだろう。だが、俺が勝ったら好きにさせてもらおう。お互いに条件は対等でないとな。」

 

その言葉に俺もまた不敵に笑って

 

「いいだろう。だが、そうたやすくはいかないぜ?」

 

そう言う俺に、村木もまたにやりと笑いながら俺を見据える。

 

そんな俺の事を心配したゆたかたちが

 

「せ、先輩。お願いです、無理しないで。」

「・・・先輩、どうか無事で・・・。」

「負けないっスよね?先輩・・・。」

「カってくだサイ。ケイイチ・・・。」

 

そんなゆたか達の言葉を背に受けて俺は、ゆたか達に背を向けたまま

 

「・・・大丈夫だ。絶対に勝つから、俺を信じていてくれ。」

 

そう告げて俺は改めて村木と向き合う。

 

じりじりと村木が間合いを詰めてくる。

 

その動きに合わせながら、こちらもじりじりと間合いを詰めていく。

 

そして、一定の距離になった瞬間、村木が仕掛けてきた。

 

一瞬の踏み込みで俺の間合いへ飛び込みながら、村木は俺に死角からの拳を放ってくる。

 

俺はそれをかろうじて避けて少し大ぶりになった拳の間に踏み込んで

 

「螺旋しょ・・・!?」

 

螺旋掌を放とうとしたが、その隙こそが奴の狙いだったらしく、螺旋掌を寸前でかわし、カウンターで3発拳を放ってきた。

 

「くっ!!」

 

俺はとっさにガードするが一発だけ拳を貰い、よろけた。

 

そこにさらに踏み込んできた奴は、よろけた方の側から鋭い上段蹴りを叩き込んできた。

 

「うおっ!!」

 

それも間一髪ガードするも、その威力に俺の体が飛ばされた。

 

だが、衝撃を逃がす為に自ら飛んだが為に、少々派出に吹っ飛ぶような感じにはなったが、ダメージは最小限で抑えた。

 

体の埃を払いつつ、ゆっくりと立ち上がる俺。

 

そして、村木を見据えながら

 

「・・・なかなかやるな。今のはかなりやばかったぜ・・・。」

 

そんな風に言う俺に村木は呆れたような顔で

 

「ふん・・・よく言うぜ・・・さっきのカウンターと蹴りで仕留められたと思ったんだがな、どうやらこっちもお前の実力を見間違えていたらしい。だが・・・」

 

そう言った瞬間、一瞬で間合いに飛び込んできた村木に俺は、迎撃でカウンターを放つが、それも読まれていたようで、カウンターを放った先に奴の姿はなく、低い位置で俺の死角に入り込んだ村木は俺のかわせない位置から掌抵を叩き込んできた。

 

「しまっ!?ぐあっ!!」

 

この一撃は避けきれず、まともに貰って吹き飛ぶ俺

 

そして、思わず地面に片膝をついてしまう。

 

打たれた場所を押さえつつ、俺は村木を見た。

 

村木は俺を見て

 

「ふっ。今のは効いたみたいだな。それにしても・・・お前はもうちょい使える奴かと思ったが、それもどうやら俺の見込み違いだったようだな。」

 

俺を見下すようにそう言い放つ村木に俺は

 

「・・・いや、お前の見立てに間違いはないぜ?それと同時に、すまなかったな。どうやら俺はお前の事を少し舐めていたらしい。その甘さがこんな風に無様にお前の打撃をもらう事になっちまったようだ。お前も実力を見せてくれたみたいだし、俺もそれに応えなきゃ悪いよな?」

 

そう言いながらゆっくりと立ち上がると、俺は目を閉じて気を集中し始める。

 

気を集中しながら俺は村木に

 

「村木、次は俺も本気でいく。」

 

そう宣言しながら再び構えを取り、そして、静かに目を開く。

 

俺の顔を見た村木が驚きながら俺に

 

「おい、そりゃなんだ?何でお前の目が金色に変わっている?」

 

突然、俺の両目が変化した事に驚いた村木がそう言って来ると俺は

 

「これが、俺の本気の一端だからさ。この目を龍眼(りゅうがん)と言う。誇っていいぜ?お前は俺にこの目を出させた数少ない男だ。」

 

俺の言葉に困惑しつつも不敵に笑い

 

「龍眼、ね。それがお前の本気か。けどなっ!!」

 

そう言いながら、さっきとは比べ物にならない速さで間合いに飛び込んで拳を放って来たが、俺は緩やかに体を流してその攻撃をいなす。

 

村木はその俺の動きと回避行動に驚いていた。

 

「なんだと!?なんだ今の動きは!」

 

俺はその一瞬の隙を見逃さず、間合いを詰める。

 

村木はそんな俺に迎撃をかけようとするが、その攻撃すらまるで読んでいたかのようにあっさりと回避しつつ死角を取ると、そこに螺旋弾を打ち込む。

 

村木はそれを回避しようとしたのだが、俺の放った螺旋弾は村木が回避しようと動いた方向へと打ち込まれた。

 

傍目にはまるで、村木が俺の放った攻撃に吸い込まれるかのように、自分から当たりに行くような感じになった。

 

そして、その一撃で村木の動きを止めて俺は勝負を一気に決めに行く。

 

「螺旋掌・通し!」

 

村木の胴に掌抵を沿えて、体内で練り込んだ気を打ち込んで内部を通した。

 

「ぐは!?」

 

その衝撃で倒れる村木。

 

かろうじて意識のあった村木は俺に

 

「な、なんださっきのは・・・どうして俺の踏み込みや迎撃の方向、それに俺が攻撃を避ける動き方までも読めたんだ・・・一体どうして・・・。」

 

その村木の言葉に俺は

 

「それはな、この龍眼は相手の動きや攻撃を見切る目だからだ。その読みは先の先までも見通せる。だからこそ、お前の迎撃の動き、回避の動きまでもが読めたのさ。俺はただ、その流れに合わせて最善の回避と攻撃をすればいい。そういう事だ。」

 

その言葉に村木は

 

「くくく・・・つくづくとんでもないやつだぜ・・・それに、その技・・・草薙の技だな?」

 

その言葉に俺は驚きながら

 

「っ!村木、何故お前がその名前を知っているんだ?」

 

俺がそれを尋ねると、村木は

 

「俺も一応は草薙の道場とは交流のある道場の1人息子なんでな。その技を一度見たことがあったんだ。だからだ、知っていたのは。お前は・・・草薙の者なのか?」

 

そう聞いてくる村木に俺は首を振って

 

「いや、違う。むしろ草薙はうちの、龍神の分家筋だ。この技の本家は龍神にある。だが、同じ流派に近い技を草薙は使う事ができるからな。」

 

俺の言葉に村木は驚きつつ

 

「そ、そういう事だったか・・・なるほど、な・・・。」

 

そう言って村木はついに意識を失った。

 

それを見届けた俺は、いまだ龍眼のままの目を他の男たちに向けながら

 

「勝負はついた。これで大人しく引き上げてくれるか?」

 

そう言うと、男たちは村木を助けて

 

「約束は、約束だからな。これで引こう。」

 

3人のうちの1人がそう言うと、他の2人も頷き合って村木に両肩を貸しながら、その場を離れていった。

 

それを見届けて俺はゆたかたちに向き直ると

 

「・・・もう大丈夫だっ!?」

 

そう言い終わらないうちに俺に向かって飛び込んでくるゆたか達4人。

 

俺は思わずその体当たりにむせ返りながら4人を見たが、4人は泣きながら

 

「先輩!怪我は、怪我は平気ですか?ごめんなさい!私のせいで・・・。」

「・・・とても怖かった・・・先輩が倒れた時はとても・・・先輩、あまり心配させないで下さい・・・。」

「よかったっス・・・本当に、心配したっスよ・・・。」

「グレートネ!ケイイチ!でもシンパイしたですヨ・・・。」

 

そう言って俺の胸の中で泣きじゃくる4人の頭を優しくなでながら

 

「心配かけてすまない。けど、どうしてもお前らを守りたかったからさ。もう大丈夫だから、な?」

 

そう言ってなだめる俺だった。

 

その後、しばらくして落ち着いた俺達は、例の土産物屋で買い物などを済ませてから旅館へと戻った。

 

そして、その道すがら

 

「それにしても、先輩のあの目、不思議だったなー。」

「・・・そうだね・・・でも綺麗な色だった・・・。」

「これはいいネタになりそうっスよ。先輩。漫画の参考にしたいですから後でもう一回見せてもらえないっスかね?」

「ワタシもゼヒミたいデス。」

 

そんな4人に俺は苦笑しつつも

 

「わかったわかった。後でまた見せてやるよ。でも、程ほどにしてくれな。これ、発動するの結構疲れるんだ。」

 

そう言いながら、俺は旅館に着いた後ももう一度あの目を見せるのだった。

 

その後は龍兄にさっきの勝負で受けたダメージの治療をしてもらい、旅館でのんびりする事にした。

 

ふいにゆたかたちに降りかかった災難だったが、その災難を何とか払ってやる事が出来た。

 

けれど、この災難はまだまだ序の口だったのだと後々知らされることになる、俺はまだそれに気付いていなかった。

 

まだ戻らないほかのメンバー達の動向がどうなっているのか、それは次で語ろうと思う。

 


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