運命を変えるたった一つの-勇気-   作:黑羽焔

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樹海よりの帰還とオリ主が神樹館に転入してくるオリジナル話も加えてます。


第6話 帰還と転入

『鎮花の儀』を見届けた4人は突如として樹海が揺れ始め、吹き荒れ舞い散る花弁によって視界が阻害されてしまった。再び目を開けた先に見えたのは神樹を奉る祠。4人は辺りを見渡す。

 

「そっか、学校に戻る訳じゃないんだ」

「やっべ! 上履きだ!」

「銀たちはマシだよ、僕は家にいたからね」

 

どうやら樹海化が解除されて現実世界へと帰還したようだ。大橋近くの『大橋記念公園』へと転送されたようで、気が付けば勇者服も解除され元に戻っていた。銀たちは学校の制服で上履きを履いていたようだったが、家にいた勇は部屋着姿で裸足姿である。

 

「勇は明日から通う予定だったからな。仕方ないよ。……へへっ、樹海撮ったんだった」

 

銀は自分のスマホを取り出すと、カメラ機能で撮った画像を読み込む。そこに映っていたのは、

 

「……大橋の写真じゃないか」

 

「ミノさん、樹海に来た時に撮ってたの。樹海じゃなくなってるね~」

 

「……銀、ドンマイ」

 

樹海の写真のつもりだったが、元の大橋の風景に戻っていた。弟にでも見せるつもりだったのかわからないが、銀はがーんと落ち込んだ。そんな銀に気休めにしかならないが励ましの言葉をかける。

 

そんな勇たちをよそに、園子がお役目を果たしたはずなのにどこか浮かない須美に声をかけていた。勇は須美にも声をかける。

 

「えっと、鷲尾さん、大丈夫?」

 

「え、えぇ」

 

須美はどこかぎこちない態度で返事をした。それは強大な敵を倒して、みんなが住む四国を守った。そういう喜びが薄いように感じられた。

 

「……直に迎えも来るだろうから、待とうか」

 

一同は勇の意見に賛同し、大赦の人に連絡を入れると祠からそう離れていない公園のベンチに座って待つことにした。辺りには誰もいないため大赦の人が来ればすぐに気が付いてくれるだろう。その間に勇についての話をすることになった。

 

「じゃあ、勇はお役目のために帰って来たんだね」

 

「それも目的のひとつかな。元々、ここには戻ってくるつもりだったからね」

 

「ねぇ、『い~さ~』。樹海では自分の事、『勇者』じゃないって言ってたけどどういうことなの」

 

園子が尤もな質問をぶつけてきた。銀もだが須美も気になっているようでじっと勇を見つめてきた。

 

「僕のお役目は、神樹様に選ばれた『勇者』を守り助ける。神影のおじさんはそのお役目を行う人のことを『守人』って言ってた」

 

「『守人』…」

「神樹様の『勇者』とはどう違うの」

 

「『勇者』は神樹様の力を身に纏って戦うけど、僕の場合は神樹様の力より少し弱いけどバーテックスに対抗できる力があるらしい。今日、それを目の当たりにして体験したけどね」

 

勇も神影家などから言われていたが、実際その時になるまでわからないそうだ。

 

「えっと、最後に…神樹様の勇者じゃないってことが分かったけど、どうして樹海の世界に来れたのかな?」

 

「それは ―――」

 

「その昔、神樹様に選ばれた勇者が戦う中、それを影ながら助けていた一族がいた」

 

勇の変わりに誰かが園子たちの質問に答えた。4人の目の前に大赦の装束を纏った白銀色の長い髪の女性が立っていた。

 

「神を影ながら支える。そのお役目を担っていた一族は死のウィルスから人類を守ったとされる神樹様の力にもなろうとしていた。それを認められたことでお役目の介入が赦された。それが神影家に伝えられしお役目。そして、その一族とそれに近しい者の中には神に近しい素養をもっていることもある。勇はその力に祝福された子なのさ。力をを行使するための強固な心をもち、神樹様に認められたことで樹海で勇者とお役目を行うことができるんだ」

 

「祝織さん!」

 

突如、現れた女性が勇の知る人物とわかり3人は驚いた表情になる。『神影(みかげ)祝織(いおり)』と呼ばれる神影家に仕えている従者が語り終えると4人の前に屈み静かに微笑む。

 

「勇、はじめてにしてはよくやったな。勇者たちも幼いながらよく頑張った」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

祝織は労いの言葉をかける。褒められて4人はそれぞれの反応を見せる。須美に関しては戸惑っているようだがその言葉を甘んじて受けた。

 

「さぁ、しかるべき所で検査を受けよう。幸いにも近かったから迎えに来たんだ」

 

「祝織さん、僕は後ででもいいですから、銀たちの方を」

 

銀たちの方は戦闘が早く苦戦していた分少し傷が目立っていた。勇はそれを伝えたが祝織は困ったように反論する。

 

「勇も勇者のひとりを受け止めて、思いっきりぶつかったのだろう。それで後遺症が出たとしたら私が輝実や始に怒られる。だから、きちんと受けろ!」

 

その後、勇たちは迎えに来た大赦の祝織という人により、神樹館小学校の保健室。勇者たちのための専用の術式を施された専用の施設と化した場所でしかるべき検査を受けた。

 

検査の待ち時間中に須美と園子は、勇と銀が昔幼馴染であることを知り大変驚いた。そして、次の日に勇が神樹館小学校へと転入することも伝えられ、園子が思いっきり喜びを現していた。

 

検査を終えると解散となり、また学校で会おうとその日は別れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:三ノ輪銀

「ギンちゃんおはよー! 今日は早いんだね~」

「はざっす♪」

 

お役目を終えた次の日、銀はやって来た級友たちと挨拶を交わす。いつもギリギリになるか遅刻が多い銀だったがこの日は早い時間から教室に入っていた。

 

「珍し~それに機嫌が良いね~」

 

「え~わかる~?」

 

「誰が見てもわかるよ。何かあったの?」

 

さらに銀は上機嫌な様子である。当然、級友たちも何々と興味本位で訊ねてくる。銀はその理由を今か今かと言いたそうだったがその時がくるまで秘密にすることにした。

 

「そういうときもあるんさ~」

 

ふと少し離れた席の須美もそわそわとした様子で席についているのも見える。……園子についてはいつものように寝息をたてて健やかに眠っているようだ。

 

「皆さん、席に着いてください」

 

朝のSHRの時間となるよりも僅かに早く安芸先生がやって来た。6年2組の生徒たちは席に着く。出席をとると安芸先生が生徒たちに告げた。

 

「以前にも連絡いたしましたが、今日は新しく私たちのクラスの仲間となる転入生を紹介します。入ってきてください」

 

教室中がどっとどよめく。安芸先生の言葉に元気よく答える声とともに1人の少年が教室に入ってきた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― その数刻前

 

side:紺野勇

「広いな」

 

勇は今日から通うことになる神樹館小学校の校門前にいた。学校の造りは普通の学校と変わらないが警備が厳重で、衛生管理も隅々まで行き届いており清潔感で溢れていた。

 

「勇の気持ちもわかるよ…アタシも同じような事言った」

 

始が車で送ってくれたので銀と一緒に登校する形となった。そんな銀からも同情の言葉をかけられる。

 

「勇、そんなに畏まらなくてもいいよ。神聖なお役目に担わっているが、それを除けば『普通』の学校だよ。それに勇は銀ちゃんと同じようなお役目を担うことになるからね。だからその資格は十分にあるよ」

 

このような格式の高い学校に通ってもいいのかと思っていたが、始からはそういうのを除けば普通の学校だと断定した。その言葉に勇の不安も少しは拭えた。

 

「それじゃあ仕事に向かうとするよ。銀ちゃん、勇のことは任せたよ」

 

「わっかりました~」

「おじさん、いってらっしゃい」

 

勇と銀は送ってくれた始を見送ると神樹館の門をくぐり校舎へと歩みだす。まずは勇のクラスを担当する先生に挨拶しなかればならない。

 

「勇もアタシと同じクラスなんだ」

 

「ん、そうみたい。『お役目』のために一緒にしたのかな」

 

「勇、『お役目』の話はしちゃだめだぞ」

 

「おっと、つい」

 

勇は銀と同じ6年2組に転入すると聞いてある。多分、昨日一緒に『お役目』をした須美と園子もそのクラスにいるだろうなと思った。銀の案内のもと、何気ない話をし、これからこの学校でどんな生活を送るのだろうなと考えてると職員室近くまで着いた。

 

「勇。またあとでな」

「うん、ありがと」

 

そう言って銀といったん別れた。職員室まではそう距離もなく曲がり角をひとつ曲がるだけである。

 

「失礼します」

 

そう告げて職員室のドアを開けようとしたが、目の前のドアが開かれる。短髪で前髪の一部が片目にかかった少女が出てきた。

 

「何?」

 

少しの沈黙の後、首を傾げぽつりと聞いてきた。銀とは真逆のおとなしそうな感じである。

見慣れない生徒だったのか警戒している少女に勇は正直に告げた。

 

「いや、転入してきたので先生に挨拶しようと来たんだ」

 

「……そう。邪魔をした」

 

勇は道を譲ると少女はそのまま去ってしまった。勇はこんな子もいるんだなと思い、気を取り直して担任の教師を探す。すると、眼鏡をかけた女教師が彼のもとにやって来た。

 

「『紺野勇』君、時間通りね」

 

「はい。安芸先生、昨日はお世話になりました。よろしくお願いします」

 

「よろしくね」

 

勇を担当することになる教師『安芸』に頭を下げて挨拶をすると、職員室隣の一室へと向かう。そこで転入とお役目に関する説明を受けることになった。

 

「神託よりも早く来た襲来に対してよくやってくれたわ。改めてお礼を言わせて…ありがとう」

 

「いえ、無我夢中でした」

 

頭を下げる安芸先生、勇もつられて丁寧に頭を下げる。

 

「(聡明で礼儀正しいと聞いていたけど、そのとおりね)。今日はあなたの事を紹介する他に、あなたもお役目をすることをクラスのみんなに伝える事になったの。昨日一緒に戦った鷲尾さん、乃木さん、三ノ輪さんと一緒にね」

 

「? お役目を伝えるのはいけないことでは?」

 

大赦はお役目に対して秘密にすることを厳守している。勇はそれに疑問をもち、安芸先生に尋ねる。

 

「そうね。だけど、昨日3人は授業中にお役目が起きて突如消えてしまったの。クラスのみんなが不安になるということで詳しい内容を除いて教えることにしたの」

 

下手に情報を公開してしまうと無関係な者達にまで危険や被害が及ぶかもしれないが、かえって隠せば不安をあおるような結果になる。安芸先生から教えられた状況に勇は納得した。

 

「わかりました」

 

「ありがとう。転入のための説明は以上よ。では、あなたが過ごすことになる6年2組へ行くとしましょうか」

 

説明を終え、2人は『6年2組』のプレートが下げられた教室の前へと向かう。

 

「ここがあなたの所属するクラスになります。呼ばれたら入ってきてくださいね」

「分かりました。先生」

 

そう言って、安芸先生が入っていった。するとどっとした声が聞こえる。

 

「こほん、今日はお祈り前に転入生を紹介します。入ってきてください」

「はい!」

 

元気よく答えると教室に入る。クラスメイトとなる生徒たちの視線を受けながら教卓近くに立っている安芸先生のもとへと向かい、打ち合わせ通りに黒板に自分の名前を書く。クラスメイトたちの方を見ると、見知った顔を3人見つけた。銀と昨日一緒にお役目を行った少女である須美と園子だ。

 

「紺野君、自己紹介を」

「はい。今日神樹館に転入した『紺野勇』です。色々あって一昨日、6年前に過ごしていた『大橋市』へと引っ越してきました。分からない事もあるかもしれませんが、宜しくお願いします」

 

自己紹介をしぺこりと頭を下げる。それを祝福するかのようにみんなからの拍手で迎えられた。

 

「紹介も終えた事ですし、鷲尾さん、乃木さん、三ノ輪さん。こちらへ来てくれないかしら」

 

安芸先生が3人を呼び出す。勇の隣に3人が並び立つのを見ると安芸先生が昨日起きた出来事についての説明をする。

 

「昨日お話しした通り、この4人には、神樹様から大切なお役目があります。紺野君はそのためにこの街へと引っ越してきました。昨日のように、突然教室からいなくなったりする事もありますが、慌てたり騒いだりせず、落ち着いて、4人を心の中で応援してあげてください」

 

それを聞いた生徒たちはどよめいたものの、安芸先生の事前の説明と真剣な表情からそれを事実として認め始めた。

 

徐々に生徒の動揺がおさまり落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、安芸先生は3人を席へと戻した。

 

「紺野君の席は……、後ろの窓側になるわね」

 

最後に残った勇の席を告げる。元々24人だった6年2組。勇が転入してきたため後ろの窓側に席が用意されていた。勇は席へと向かう。

 

「よっ。よろしくな」

「よろしくね。紺野君」

 

「あぁ、よろしく」

 

勇の前の席にいる黒髪の男子と栗毛の女子が振り向き言葉を交わす。少し遅れたものの日直が号令をかける。

 

 

 

「起立、礼」

 

生徒達は号令に従い、立ち上がり、頭を下げる。

 

「神樹様に、拝」

 

「神樹様のおかげで今日の私達があります」

 

礼をしたまま手を合わせ、日頃の恵みをもたらす神樹様に感謝と信仰を捧げ、

 

「着席」

 

生徒達は着席。勇にとって新たな学校での生活が始まる。




リメイク版の勇の席は夏凜ちゃんと同じ方式で。

以下、解説
●オリ主に関してのわかりやすい解説
・主人公勇は神の力をある程度もっている(この段階ではわすゆ勇者よりも弱め)
・神影家の努力によりお役目の参加が神樹様より認められている
・その役目を担う人を『守人』という呼称に設定

●神影祝織
第2話で出演していた『白銀色の美しい髪色が特徴の女性』本人です。実は樹海内の女性も彼女だったりする。その正体は後々の話にて明らかにします。
イメージCV:小林沙苗
イメージキャラは同CVの他作品キャラ。

●ゲストキャラ
・職員室ですれ違った少女
『勇者である』新シリーズである『楠芽吹は勇者である』より『山伏しずく』。設定では神樹館出身ということでのちょい役出演。

・勇の前の席にいる男子と女子
男子の方はリメイク前に出演していた他作品原作キャラ。女子はその作品のヒロインだったり。

2017/12/10追記:今作ではそれを元にしてオリキャラとなりました^^;



以下、雑談
昨日はゆゆゆ3周年。ここまで長いコンテンツとなった以上は、ファンとしてもうれしい限りです。

そして本日が『花結いのきらめき』DMMブラウザ版が解禁です。それで10連引ける分の無料恵みが配布ですのでもしも興味があればリセマラして参加してみるのも手です。

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