運命を変えるたった一つの-勇気-   作:黑羽焔

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ちなみにオリ主のイメージCVは内山昂輝です。


第2話 さいかい

side:紺野勇

三ノ輪家をあとにした勇は大型ショッピングモール『イネス』へ目指し歩いていた。

 

「道は…うん、ほどんど一緒か」

 

6年前とはいえ鮮明に覚えておりスマホの地図アプリも併用し道に迷う事はなく順調に進んでいた。イネスは大橋市では最大の娯楽施設と銘打っているのか人が集まりやすく周囲の建物と比べると目立つのもあったかもしれない。

 

「でも、さすがにここの景観は変わったか」

 

勇がいた頃の大橋市は山と海に恵まれた自然で溢れていた。悪く言えば少し田舎っぽく見えていたが、久しぶりに見た故郷は開発こそされているものの人の営みと自然が見事に調和された景観となっている。

 

見惚れつつ、時には感慨の声をぽつりと呟きながらもイネスへとたどり着いた。

 

「あ、婆ちゃん。大丈夫か?」

 

「…ん、あれは?」

 

何処からか聞こえてきた声に歩みを止める。辺りを見渡すと、地面に横たわるお婆さんがおり、そこに灰色の髪の女の子が我先に歩み寄っている場面があった。女の子はお婆さんを担いで近くにあったベンチに座らせるとその周囲に散乱してしまったお婆さんの荷物を片付け始めた。

 

「…放っておけないよな。助けよう」

 

勇も困っている場面に遭遇すると助けようとするお人好しな分類である。

 

「手伝うよ」

「ん、ありがと」

 

勇も加わった事で散乱した荷物はあっという間に片付いた。女の子は自らが拾った荷物をお婆さんの手提げ袋に纏めると勇が拾った物を仕舞おうとしたときに初めてお互いの顔を見た。

 

「―――ッ! 勇!?」

 

「(!?)銀? 銀なのか!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:三ノ輪銀

イネスの近くに着いた銀の目の前に飛び込んできた光景は、道を歩いていたお婆さんが転んでしまった姿であった。転んだ拍子に手持ちの手提げ袋に入っていた荷物まで散乱してしまった。

 

(あちゃー……トラブル発生っと)

 

昔から巻き込まれやすいというよりは、周りにトラブルが起きやすいのである。今回もそのひとつであった。

 

「手伝うよ」

「ん、ありがと」

 

違いといえば近くにいた人が手助けしてくれたおかげで早くに片付いた。そして、助けてくれた人の拾った物を仕舞おうとしたときに初めてその顔を見た。

 

「―――ッ! 勇?」

 

「(!?)銀? 銀なのか!」

 

身長が銀よりも一回り大きく、少し大人びいたような雰囲気から似ているだけで違うような感じがしていた。だが、勇は黒髪で引き込まれるような琥珀色の瞳という特徴が目の前の少年にしっかりと当てはまっていた。

 

半信半疑で聞いたつもりだったが目の前にいる少年も銀の名を呼んだ事で本人だと分かった。

 

「ありがとうね。えっと、知り合いですかな?」

 

お婆さんが微笑みお礼の言葉を送る。それによりお互いに見惚れていた2人だったが少し照れながらお礼と受ける。

 

「え…あ。は、はい」

「それよりもお婆さん、大丈夫ですか?」

 

「えぇ、蹴躓いて転びましたが大丈夫です。……私も歳をとり過ぎましてなぁ」

 

「婆さん、よければ送っていこうか?」

 

「いえ、甥っ子が車を取りに行ってからみんなの迎えに行っているもので」

 

銀は足をくじいたお婆さんに配慮した提案をするが、近くに自動車が停まり。中からお婆さんの甥っ子夫婦と思わしき大人が降りてきた。銀と勇はこうなった経緯を説明すると甥っ子たちからぺこりを頭を下げられお礼を言われるとお婆さんを連れて帰っていった。

 

「「……」」

 

残された銀と勇は互いに見つめ合う。

 

「ひ、久しぶりと言うべきかな」

 

「……帰ってきてたんだ」

 

勇がやっと話題を切り出す。ほそりと銀が呟いてきた事に勇は首を傾げる。

 

「僕が帰ってくるの。おじさんが銀のお父さんとお母さんに伝えたはずなんだけど聞いてない?」

 

「聞いてないよ。それに勇がイネスにいるなんて思ってもなかったよ」

 

「お使いでうどん出汁を買いに来たんだ」

 

「へ? あたしも母ちゃんに言われてイネスにうどん出汁を買ってくるように頼まれていたんだ」

 

「え? 引っ越した後に錫さんが御馳走してくれるって言って、そうしたらうどん出汁がなくて……」

 

再び流れる無言の時、勇と銀は少し考えた末に、

 

「もしかして、うちの母ちゃん、狙ってやったのかな……」

 

「かも。多分、おじさんも一枚かんでいる」

 

偶然に装って2人を出会わせたかったのでこのような真似をしたのであろう。銀と勇はそう理解した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:紺野勇

2人はお使いを早々にすませるとイネス1階のフードコートでおやつを買い。三ノ輪家への帰り道を行く。

 

「1つでいいの?」

 

「帰ったら錫さんがうどん作るし、あまり腹膨れるとあとが辛いと思って。そういう銀こそ」

 

「おやつは別腹ってね」

 

そう言いつつ勇は袋から餡子入りのおやきを取り出し一口かじり頬張る。

 

「銀はやっぱり『醤油豆』味なんだ」

 

「アタシといったらこれだからな~。う~ん、美味い!」

 

銀の手にもジェラードが握られており同じように一口頬張った。大好物に思わず綻んでしまっている。

 

「なぁ…その」

 

「ん?」

 

すると、もじもじと歯切れの悪い様子を見せた銀。勇はそれに気づきつい銀方へと顔を向ける。

 

「6年前…アタシと勇が出会った事覚えてる?」

 

「うん」

 

「今日、勇と出会った公園でその事思い出したんだ。それで、勇がどうしてるんだろうって…思ってた」

 

「思ってくれたのは嬉しいんだけど、今日思い出したんだ」

 

「む、しっかり覚えてたのにさ」

 

はにかんで語る銀に勇はくすりと笑うといたずらっぽく語る。少しむっとなった銀を余所に勇は言葉を続ける。

 

「僕も銀に会ったらさ言いたいことがあったんだ」

 

「ん、何々?」

 

「父さんと母さんの事たしかに哀しかったけどさ、銀と出会って、おじさんたちとも話せた。後ろめたさもなくなって前向きに生きることが出来た」

 

「そ、そっか。アタシって凄いことしちゃっていたんだな」

 

褒める勇の言葉を受け照れる銀。

 

「また会えると信じてね。だから……『ただいま』」

 

「……『おかえり』、勇」

 

勇と銀はお互いに笑い合い、再び出会った事を喜んだ。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

あれから色々とお話ししながら歩いているといつの間にか三ノ輪家へと着いた。

 

「たっだいま~」

「ただいま戻りました~」

 

玄関の扉を開け大きな声で言うと、家の奥から小さな男の子がぱたぱたと飛び出してくる。

 

「姉ちゃん、おかえり」

 

「おう。帰ったぞ。マイブラザ」

 

「銀の弟?」

 

「ん、鉄男(てつお)って言うんだ。もう1人生まれたばかりの弟もいるよ」

 

銀が男の子が弟の1人である鉄男であると紹介する。姉を出迎えに来た鉄男だったが、勇の姿を見るや否やじーっとその顔を見てきた。

 

「……姉ちゃん、こいつ誰?」

 

「こら、失礼だろ。この人はな」

 

「鉄男、さっき言ってた近所に越してきた紺野さんの1人息子である勇君だよ」

 

銀が鉄男を宥めようとしたがさらに奥から男性が歩み寄ってきた。

 

「父ちゃん、ただいま」

 

「銀、おかえり。勇君も大きくなったね」

 

銅河(どうが)さん、お久しぶりです」

 

勇は銀の父である銅河にぺこりと頭を下げると不思議そうな表情で見つめている鉄男に向かい合うと屈み視線を合わせる。

 

「初めましてだね。僕は紺野勇。今日君の家の隣に越してきたんだ。よろしくね」

 

「……三ノ輪鉄男と言います。……よろしく」

 

ぎこちない感じで鉄男が返事をする。するとなぜかじーっと勇と銀を交互に見てきた。

 

「ん、どした、鉄男?」

 

「姉ちゃん、こい…勇さんとどういう関係なの?」

 

「へ?」

「はい?」

 

鉄男の突然の発言に素っ頓狂な声が出る銀と勇。

 

「やだなぁ~。勇とは6年前に会った『友達』だよ。色々あって短い間だったけど近所付き合いはそれなりにあったんだ。…ところで、どこでそんな事知ったんだよ」

 

「へぇ~未だに『友達』の関係なんだ」

 

奥の方からひょっこりと顔を出している元凶がそこにいた。錫さんがあらあらと口を抑えこちらを見ていた。

 

「6年前はあんなに仲良しだったのにねえ。わざわざ出会わせたのに進展はないのね」

 

「母ちゃん!!!」

 

「ねえ、それ以上の関係って?」

 

「あ~もう、鉄男そんな事言うなぁーーー!! 違う、違うから! アタシと勇はそんな関係じゃないから!」

 

鉄男の純粋な質問と錫の茶化しに銀は混乱し顔を真っ赤にして抗議する。一方で、蚊帳の外になっていた男性陣がそのやり取りにぽかんとした様子となっていた。

 

「……すみません、家族も増えましたし、こんな賑やかすぎる家庭で」

 

「いえ、むしろ賑やかで楽しくて良いですよ。勇はどう思うんだ」

 

「そうですね。……帰って来たんだなって……思えます」

 

銀のあたふたとした様子を見ながら勇は呟いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:3人称

銀の落ち着きを取り戻した三ノ輪家ではその後賑やかな笑い声が絶えなかった。

 

勇も6年ぶりに地元香川で食べる地方食(ソウルフード)であるうどんに舌鼓をうち、久しぶりに幼馴染の関係に近かった銀と過ごした話を鉄男に話したりし、その事で鉄男が彼に懐いたのか彼の遊び相手になったり、

 

「ーーー♪ーーー♪」

 

「お~、懐いてる懐いてる」

「……金太郎があっという間に泣き止んだ」

 

銀の手ほどきを受けながらもう1人の弟である『金太郎(きんたろう)』の世話をしたりと少し長いようで充実した1日だった。

 

 

 

その一方、大人たちは三ノ輪家の居間にて深夜の来客に対応していた。銅河・錫の正面には大赦と呼ばれる組織の装束を纏った男性と白銀色の美しい髪色が特徴の女性がそこにいた。

 

「こんな時間の来客で申し訳ない」

 

「いえ、神影様」

 

神影様と言われた大赦の一族に深々を頭を下げる三ノ輪夫妻。正面に座っている男性は大赦の中でも一際大きい権力をもっており、その格式もあっての礼節である。

 

この男性は『神影(みかげ)輝実(てるみ)』と呼ばれる大赦の重鎮であり、勇の後見人の1人でもある。その隣にいる女性は神影へと仕えている従者であった。

 

「乃木家と鷲尾家にも出向いていたからこんな時間となってしまった。今回こちらに赴いたのは……『御役目』に加わるもう1人についての事だ」

 

輝実はそう伝えると今度は始へと視線を送る。彼の意図に気づいたのか始は頷きそれを見届けた。

 

「最後の1人は既に大橋市へと入っている。その子は―――」

 

輝実から『御役目』に加わる最後の1人についての詳細が伝えられ、三ノ輪夫妻はそれに驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀298年春、大きな運命のうねりは間近へと迫っていた。




次回から『鷲尾須美の章』の第1章『ともだち』の本編へと入ります。

以下、解説
●三ノ輪銅河(どうが)(すず)
三ノ輪家の両親に名前をつけたオリキャラ的な存在。今作ではオリ主たちと家族的な付き合いという設定ということで登場。あまり出番はないかも。

●三ノ輪鉄男(てつお)金太郎(きんたろう)
原作キャラである三ノ輪銀の実弟たち。先行劇場版設定準拠。たまに登場する程度。

●紺野(はじめ)
イメージCV:速水奨
今作のオリキャラその1。オリ主勇の育ての親の1人。対大赦キャラの1人でもある。

神影(みかげ)輝実(てるみ)
イメージCV:諏訪部順一
今作のオリキャラその2。オリ主勇の育ての親の1人。対大赦キャラの1人でもあり、今作のオリジナル一族神影家の長である。

●白銀色の美しい髪色が特徴の女性
イメージCV:小林沙苗
今作のオリキャラその3。神影家に仕えているがその正体は……。

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