2018/5/15 地の分一部修正
side:勇
「「「「失礼します!」」」」
2回目の襲来を乗り越えた翌日の放課後、4人は安芸先生に呼び出された。お役目関連の話であるため、以前勇が転入の説明を受けた人気のない空き教室である。
「来たようね」
「え……?」
「あなたは~?」
「最初のお役目の時に迎えに来た大赦の人だよな」
「祝織さん?」
中には安芸先生と最初のお役目の時に4人を迎えに来た大赦職員の祝織がいた。
「彼女も今日あなた達を呼んだ案件のひとつよ。…座って」
騒ぐ勇者たちであったが安芸に促される。勇も祝織の大赦や神影家での立場を知る身であるが困惑しながらもそれぞれの席へと着く。
「まずは神影家から派遣された『神影祝織』様の紹介をするわね。神影家に仕えていた彼女だけど、今回のお役目のために守人側のサポートとしての派遣という形となりました」
「前々から輝実や始に頼まれたのもあったが、大赦の方で勇者たちや守人のバックアップ体制も整ったタイミングに合わせての配属となった。よろしく頼む」
「そうでしたか。祝織さんよろしくお願いします」
安芸から祝織が神影家から命じられ正式な派遣となったことを紹介し、祝織は深々と頭を下げる。勇が代表して言葉を返し、勇者たち共々畏まった様子で頭を下げる。
「お姉さんって感じがするね~」
「安芸先生と同い年くらいかな」
「ちょっと、大事なお話し中よ!」
年相応に騒いだ園子と銀を須美が宥める。その光景に祝織は微笑ましいなと思い、安芸はやれやれとした感じで次の話題をあげる。
「はいはい、質問などは終わってからにしなさい。次の内容に入る前にあなた達に見てもらいたいものがあるんだけど……」
そう言うと安芸は所持していたタブレットを操作しみんなに見せた。タブレットの画面には大赦の特殊な方法で記録された昨日の戦闘記録が流されている。
「まずは昨日の映像を見直してみましょうか」
微笑ましい光景から一転、安芸の目が笑ってなかった。ぞくりと背中が冷えるような感覚がした。
「……ゴリ押しにもほどがあるでしょう!!」
やがて戦闘記録を流しながら安芸先生の解説…もといお説教が始まった。
「「「はい……」」」
(こええええ……)
安芸は普段から厳しくて生徒に恐れられている……。というのを勇はその身を以って今実感した。
「これじゃあ、命がいくつあっても足りないわ……」
(……あの方法しか思い浮かばなかったのもあるけど、先生たちから見れば危うく見えたんだろうな)
「そう落ち込むな。現実の被害もほぼ皆無だ。それだけ君たちの頑張ってくれているのは私も安芸もわかってはいる」
「……そうね。そこはよくやってくれてるわ」
「「「「あ、ありがとうございます」」」」
祝織が4人の頑張りを評価する言葉をかけ、4人も事の重大さに気づいている様子だったので、安芸も説教を止め同じような評価を口にする。
安芸が厳しいのは生徒のためであり、その部分は生徒たちもわかっている。要は生徒思いであるが故の心配なのだ。厳しいところだけではなく頑張った部分を評価してくれたということで4人は思わず綻んだ。
「私も安芸も君たちの身が心配だから敢えて厳しく言うんだ。そこは分かってほしい」
「……ともかく、今度のことについて話しましょう」
昨日の戦闘の反省を終え、安芸から今後の方針を語ることとなった。
「あなた達の弱点は、連携の演習不足ね。それを解消するために指揮をとる隊長を決めましょう」
(隊長…か)
勇は隣にいる勇者3人の中で誰が隊長にふさわしいのか考えてみた。
(僕の場合は…隊長というより、縁の下の補佐の方が向いてるのかな。そうなると)
自分が隊長であった場合の事も考えた。が、目立つことは苦手だしそのくらいなら誰かのフォローに回るという副官的な思考で早々に選択肢から外してしまう。どうも指揮する姿がイメージできなかった。
(あ、銀の場合はみんなをハラハラさせちゃうからムードメーカーみたいな立場の方が合ってるか)
銀はどんな時でもみんなを引っ張れるほど精神面では頼りがいのある。が、反面熱くなりやすくと仲間のためなら自分でやるといった猪突猛進な性格で深く考えることが苦手な直観型である。指示を出す隊長ではなく部隊のムードメーカー的な立場が合っているものだと思えた。
そうなると、候補としては須美か園子のどちらかが適任だ。
須美の場合、真面目な性格でしっかり者でありバックスという立場から状況をよく見れる位置にいることでまとめ役としての役割を果たせる。
園子はこれまでの戦闘でバーテックスの特徴を見抜きそれに合わせた的確な指示をみんなに出していた。さらに柔軟な発想や閃き、どんな時も自分のペースと乱さないという意外な強みを持っていることで不意の事態に対応がしやすい。
「……乃木さん、頼めるかしら?」
「え…わ、私…ですか~」
安芸が選んだのは園子であった。本人も自分が選ばれるとは思っておらず、あたふたと落ち着きがない様子を見せる。
「あたしはそういうの柄じゃないし…あたしじゃなければどっちでも」
「僕も賛成です」
「えぇ~…」
銀もリーダーという立場は性に合ってない事をみんなに伝え、勇も決定に賛成の意を示す。
「私も乃木さんが隊長で賛成です」
須美は隊長が園子に選ばれた瞬間は納得してないような表情を見せていたが、自分の中で園子が隊長に選ばれた理由の整理がついたようだ。
「決定だな」
祝織が勇者と守人の意思を確認し、安芸はこれからの計画の説明へと入る。
「神託によれば次の襲来までは時間があるみたいだから、いい機会だし連携を深めていくために合宿を行おうと思います」
「合宿…ですか?」
「今度の三連休、大赦が運営する旅館で行うつもりよ」
「効率的に鍛えられますね、助かります」
「合宿……うわぁ、お泊まり会だ~やった!」
「そりゃあ楽しみだ。くぅ~ワクワクしてきた!」
年相応にはしゃいだりする園子と銀、真面目に受け取る須美と勇。それぞれの反応をみせていたが、これから始まる合宿に対してのやる気は十分のようだ。
――――――――――
side:祝織
合宿の説明を終え解散となり、教室には安芸と祝織の2人が残された。
「……うむ」
「祝織様、どうなされたのですか?」
「あの子たちも行ったし、いつものでいい」
「そう? 仕事先でプライベートの話し方はどうかと思うけど、あなたがそう言うなら」
安芸と祝織、この2人は大赦に所属している付き合いなのか。実はプライベートでも親交するほどの仲である。
「辛いお役目をその身をもって行った筈なのに、あの子たちの表情は絶望ではなく、前へと進む希望の可能性を感じられた。チームでの温度差はあるようだが……いいチームだと思う」
祝織が下した評価は安芸が感じていた通りである。真面目すぎればお役目の重さに潰される。お役目に対し真面目に取り組むのと、年相応の受け取り方をする。この温度差は安芸も内心頼もしく思っていたりする。
「だけど、あれは手厳しかったかな。4人が震えていたぞ」
「神樹様に選ばれたとはいえ、命掛けたお役目に向かい合ってるのよ……どうしても厳しくはなるわ」
正直に気持ちを打ち明ける。神世紀の四国を守護をし恵みをもたらす神樹に選ばれること
はとても名誉なことであると受けいられていても、それに対するところは人それぞれだ。
「小学6年生…いや、幼いあの子たちがこなすには荷が重すぎるお役目だから、どうしても生き延びてほしいって思うと…ね」
壁の外からやってくる
「そうか……あなたは大赦の古き者たちとは違うな。あの子たちの事を本当に思っているのだな」
「……え、何を言って?」
「気にするな。大赦の狸どもへの愚痴が出てしまっただけだ」
祝織の言葉に安芸はきょとんとしてしまう。祝織は話題を変えることにした。
「隊長は乃木の子だが、選ばれたと聞いたとき鷲尾の子は納得してなかったようだな」
「そうね……鷲尾さんは真面目が取りえなのが良いところだけど、そのあたりで苦労しそうなのよね」
隊長として園子を選んだが、その際の須美のリアクションが気になった事を告げると、安芸も同じ考えだったようだ。
「今回の合宿でそこを気づいてくれるといいのだけど……乃木さんも隊長としての素質はあるけど、それに気づくかなのが課題ね。三ノ輪さんは無茶なところをなおさなきゃだし」
「前途多難だな」
「かえって紺野君が手がかからなくて楽っていうのか。勇者システム級の性能ではないのによく戦えてるっていうのが」
「劣ってるからこそ、私の手で鍛え上げたからな」
「……あなたの仕業だったのね」
「自慢の弟子だ」
誇らしげに語る祝織に唖然とした表情を浮かべる安芸。
「今回の合宿で1+1+1+1を4にではなく、10にしなければ……きっと」
「あぁ……私もそれには協力しよう。勇者や守人がお役目を乗り越えるために」
近くにある3連休の合宿に決意を新たにする安芸と祝織なのであった。
『勇者である』は子供たちの勇気ある物語。そのために大人たちの視点は語られることが少ない。
例外としては、わすゆやくすゆで最も子供たちを接する機会の多かった『安芸先生』にスポットを当てたくて試験的にやってみた大人視点をいう形となりました。
この世界でも安芸先生は大赦の歯車…という形にはさせません。